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痛みを生みだす脳機構

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Academic year: 2021

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(1)理学療法学 第 42 巻第 8 号 665 ~ 666 頁(2015 年) 痛みを生みだす脳機構. 665. 合同シンポジウム 4(日本生理学会). 痛みを生みだす脳機構* ─痛みの進化生理学試論─ 加 藤 総 夫 1)2). はじめに─ 2 つの痛み. ある。Charles Darwin は,ヒトを含む多くの動物種の観察に 基づいて,情動をヒトにも動物にも共通の機能であるとし「個. 臨床医学は,痛みが,患者にとって有害な,除去・緩和され. 体の環境に起きた事態に対して自動的に生じ,個体の生存に有. るべき「苦痛」であることを暗黙の前提としている。痛みを訴. 益にはたらく応答」と定義している。この定義は,食欲や性欲. える患者に,「その痛みは苦しいですか?」「痛みを取り除きた. なども含めて,すなわち,正の情動(快感の方向の情動)も負. いですか?」と確認する医療者はあまりいない。. の情動(苦痛の方向の情動)も含めているが,そのまま痛みの. 一方,「痛み」は,傷害・損傷・炎症などを検出して,脊髄. 説明としてもよい内容を含んでいる。情動の形成には,多くの. 反射や逃避行動などの最適な運動・行動を生じさせる,生存に. 神経核が関与するが,特にその中でも重要なものは皮質の内側. 必須の機能でもある。熱いものに触れれば逃避反射が生じて手. に位置し,古典的には辺縁系に分類される扁桃体である。. を引っこめる。関節に炎症があればあまり動かさないようにし. 扁桃体は,侵害受容によって誘発される情動学習「条件恐怖. て治癒を早める。「なにか有害な事象が生じている」ことを脳. (脅威)応答」の獲得における中核部位であり,有害状況学習. に伝え,実行中の行動プログラムに割りこみをかけてその実行. のための神経可塑性の座である。有害性をもたない聴覚や視覚. を止めることにより生体の「生存可能性」を増加する。このよ. などの感覚刺激(条件刺激)と,生得的に有害な侵害受容(無. うな痛みは,「取り除く」べきものではない。. 条件刺激)を連合させると,条件を刺激を与えただけで回避行. さらに,痛みは,このような即時的応答だけではなく,その. 動(すくみ行動・情動性発声など)・自律神経応答(頻脈・発. 状況を個体に記憶・学習させ,行動プログラムを長期的に書き. 汗など)・内分泌応答(HPA 軸活性化など)からなる「条件脅. 換えることによっても,生存可能性の増加に貢献する。どのよ. 威・恐怖反応」が表出される。生存を脅かす「脅威の記憶」が. うなものに触ったらやけどをするか,どのような天敵に攻撃さ. 形成された,と解釈される。このような機能は進化のかなり古. れたら怪我をするか,などの「有害な状況」の学習を促す。先. い時期に獲得されたもので,アメフラシやショウジョウバエで. 天性無痛無汗症の患者はこの学習の「教師信号」を欠いている. も侵害刺激を避けるべく行動パターンが可塑的に変化する 1)。. ため,熱傷や骨折を繰り返し,ときに致命的である。 なぜ,このように生存に必須の機能が,臨床医学では,解消. 侵害受容ニューロンの標的としての扁桃体. すべき邪魔者として扱われるのか? それを理解するために. このような恐怖・脅威学習が扁桃体をその中枢として成立す. は,「有害な,避けるべき状況」を個体に知らせる方法として,. るためには,扁桃体が侵害情報を直接的に受け取っている必要. 地球上の生物がどのような方式を採用したかを理解する必要が. がある。扁桃体はどのように今,自分の身体に傷害が起きてい. ある。その反対である「有益な,望ましい状況」を伝えるのに. ることを知るのか? この問題に関する知見が近年飛躍的に増. も用いられているその戦略は「情動」という内部状態の生成に. えてきた。. 他ならない。. ラット腰髄後角第 1 層の侵害受容特異的上行性投射ニューロ. 情動・痛み・扁桃体 情動も痛み同様,進化のかなり早い時期に獲得された機能で *. Brain Mechanisms of Pain 1) 東京慈恵会医科大学 神経科学研究部 (〒 105–8461 東京都港区西新橋 3–25–8) Fusao Kato, PhD, Professor: Department of Neuroscience, Jikei University School of Medicine 2) 東京慈恵会医科大学 痛み脳科学センター Center for Neuroscience of Pain, Jikei University School of Medicine キーワード:慢性痛,下行性制御系,扁桃体. ンの大部分が,古典的に信じられていた視床よりも,むしろ, 橋の腕傍核(nucleus parabrachialis)に多くの軸索を送る事実 が明らかにされた 2)。腕傍核は,味覚,内臓感覚,体温,など の生命維持に必須の基礎情報(これらを「原始感覚」と呼ぶ) を中継する統合核であり,その出力はおもに辺縁系の諸核群, 特に,扁桃体およびその周囲核を含む拡張扁桃体を構成する諸 神経核に投射する。これを「脊髄-腕傍核-扁桃体路」(三叉 神経脊髄路核からも同様の経路が上行する)と呼ぶ. 3). 。視床下. 部に投射するものも少なくない。視床に投射する第 1 層投射 ニューロンはわずか 4%以下だという。.

(2) 666. 理学療法学 第 42 巻第 8 号 表 1 脊髄―腕傍核―扁桃体路が,侵害情報を扁桃体に伝え,痛みの負情動の生成に関与すると考えられる実験的根拠 実験事実. 文献. 外側腕傍核の薬理学的抑制下,電気ショックと無害音刺激による脅威学習が抑制される.. 7). 外側腕傍核に発現させたチャネルロドプシンを扁桃体中心核での光刺激によって投射特異的に 活性化させると電気ショック非存在下でも脅威学習が成立する.. 7). 脊髄後角第 1 層上行性ニューロンの大部分が外側腕傍核に投射する.. 2). 外側腕傍核に投射する脊髄後角ニューロンの発火頻度が侵害刺激によって上昇し,神経障害性 疼痛モデルではさらに増加する.. 8). 扁桃体中心核に投射する腕傍核ニューロンが炎症性疼痛モデルで c-Fos を高発現する.. 9). 外側腕傍核ニューロンの軸索が扁桃体中心核外包部に投射する.. 10). 外側腕傍核ニューロンの軸索が扁桃体中心核外包部ニューロンと興奮性単シナプス結合する.. 11). 扁桃体中心核外包部ニューロンの 8 割が侵害刺激に対して興奮性応答を示す.. 12). 末梢の炎症性疼痛モデルで,数時間後に扁桃体中心核外包部特異的な ERK のリン酸化が認め られる.. 6). 腕傍核由来と考えられる神経線維と扁桃体中心核外包部ニューロンとの間の興奮性シナプス伝 達が,炎症痛,関節炎痛,内臓痛,筋痛,および,慢性神経障害性疼痛モデルにおいて著しく 亢進する.. 10)11)12) 13)14)15). この脊髄-腕傍核-扁桃体路が,侵害情報を扁桃体に送り, 恐怖脅威学習に関与する重要な系であると考えられる実験根拠 を表 1 にまとめた。これらの実験事実は,この経路が視床や皮 質などをバイパスして,直接的に「有害性警告」情報を脳に届 ける機構であることを示している。 では,扁桃体は,このように侵害情報を受け取って受動的に 「情動」をつくり上げるだけなのか? この問題に対し,近年, 驚くべき発見がなされてきた。慢性関節炎痛患者では,自発痛 時特異的に扁桃体が活性化する事実 4),初診時から 1 年以上経 過した治療抵抗性の難治性腰痛患者では,自発痛に伴い扁桃体 や内側前頭前野の安静時活動が亢進する事実 5),そして健常マ ウスでは扁桃体の薬理学的活性化が侵害受容閾値を低下させる 事実 6) が報告された。これらの知見は,侵害受容入力によっ て扁桃体で生成された「痛みの情動」が,おそらくは下行性疼 痛制御系に影響を及ぼして,侵害受容の感度を能動的に調整す る,という可能性を示している。すなわち, 「痛みの恐怖の記憶」 によって扁桃体が痛みを生みだす,と解釈される。侵害情報に 応じて形成される全身的な「警戒状態」 (=情動の原型)に応 じて,侵害情報の伝達感度を「水際」で能動的に制御すること こそが,下行性疼痛制御系の本来の役割である可能性がある。. おわりに 全人的痛み治療の最終的なゴールは,この情動という「有害 事象に対する優先的応答システム」であり,この機能系を構成 する分子細胞機構のすべてが,将来の疼痛治療の有力な標的と なりうるだろう。今後,このような新たな情動生成機構の理解 に基づいて本態性疼痛を捉えて治療にあたること,さらには, それを可能とする診療体制が形成されていくことが期待される。 謝辞:本試論の展開において,杉村弥恵氏(東京慈恵医科大 学・大学院;日本学術振興会特別研究員;理学療法士)およ び高橋由香里博士(東京慈恵医科大学・神経科学研究部・痛 み脳科学センター)との討論が非常に重要であった。ここに. 感謝したい。. 文 献 1) Nuwal N, Stock P, et al.: Avoidance of heat and attraction to optogenetically induced sugar sensation as operant behavior in adult Drosophila. J Neurogenet. 2012; 26: 298–305. 2) Todd AJ: Neuronal circuitry for pain processing in the dorsal horn. Nat Rev Neurosci. 2010; 11: 823–836. 3) Gauriau C, Bernard JF: Pain pathways and parabrachial circuits in the rat. Exp Physiol. 2002; 87: 251–258. 4) Kulkarni B, Bentley DE, et al.: Arthritic pain is processed in brain areas concerned with emotions and fear. Arthritis Rheum. 2007; 56: 1345–1354. 5) Hashmi, JA, Baliki MN, et al.: Shape shifting pain: chronification of back pain shifts brain representation from nociceptive to emotional circuits. Brain. 2013; 136: 2751–2768. 6) Carrasquillo Y, Gereau RW: Activation of the extracellular signalregulated kinase in the amygdala modulates pain perception. J Neurosci. 2007; 27: 1543–1551. 7) Sato M, Ito M, et al.: The lateral parabrachial nucleus is actively involved in the acquisition of fear memory in mice. Mol Brain. 2015; 8: 22. 8) Keller F, Beggs S, et al.: Transformation of the output of spinal lamina I neurons after nerve injury and microglia stimulation underlying neuropathic pain. Mol Pain. 2007; 3: 27. 9) Hermanson O, Blomqvist A: Subnuclear localization of FOSlike immunoreactivity in the rat parabrachial nucleus after nociceptive stimulation. J Comp Neurol. 1996; 368: 45–56. 10) Veinante P, Yalcin I, et al.: The amygdala between sensation and affect: a role in pain. J Mol Psychiatry. 2013; 1: 9. 11) Sugimura Y, Takahashi Y, et al.: Optogenetic demonstration of direct input from the lateral parabrachial nucleus to the nociceptive amygdala. J Physiol Sci. 2015; S38. 12) Neugebauer V, Li W, et al.: The amygdala and persistent pain. Neuroscientist. 2004; 10: 221–234. 13) Ikeda R, Takahashi Y, et al.: NMDA receptor-independent synaptic plasticity in the central amygdala in the rat model of neuropathic pain. Pain. 2007; 127: 161–172. 14) Cheng SJ, Chen CC, et al.: Role of extracellular signal-regulated kinase in synaptic transmission and plasticity of a nociceptive input on capsular central amygdaloid neurons in normal and acidinduced muscle pain mice. J Neurosci. 2011; 31: 2258–2270. 15) Yalcin I, Barthas F, et al.: Emotional consequences of neuropathic pain: Insight from preclinical studies. Neurosci Biobehav Rev. 2014; 47C: 154–164..

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参照

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