• 検索結果がありません。

苧阪良二先生のご逝去を悼む

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "苧阪良二先生のご逝去を悼む"

Copied!
2
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

DOI: http://doi.org/10.14947/psychono.37.21 122 基礎心理学研究 第37巻 第1号 訃報: 本学会の名誉会員でいらっしゃいました苧阪良二先生が,平成30年8月12日にご逝去されました。謹んで ご冥福をお祈り申し上げます。

苧阪良二先生のご逝去を悼む

古 賀 一 男

苧阪良二先生は本学会誌を発行する日本基礎心理学会の創設に深く 関与された先生方のおひとりです。基礎心理学研究第1巻,第1号には 「視覚行動論の基礎 上丘を中心として」を執筆されています。これま でにない生物進化論から視覚を議論された論文からは学会創設への 並々ならぬ意気込みを感じることができます。2018年8月12日に先生 が天寿を全うされご逝去されたことは本学会を初めとして他のいくつ かの関連学会のみならず我が国のサイエンスにとって誠に大きな損失 であります。先生の御経歴と研究業績,社会的ご功績を中心に足跡を 振り返ってみたいと思います。 先生は1918年6月28日,京都市左京区吉田でお生まれになられまし た。1943年9月には東京帝国大学・文学部心理学科を御卒業になられま した。卒業後直ちに海軍予備学生として応召され海軍兵学校舞鶴分校教 官として電測術及び心理学を担当されました。1945年9月,終戦により 復員され同年11月から1949年までの4年間を京都帝国大学・文学部哲学 科大学院で研鑽を積まれました。1949年からは同志社大学教養部助教 授,翌年4月からは京都大学文学部助手となられました。同年7月からは 京都大学教育学部創設にあたり教育学部助教授として着任されました。 以後,新設された教育心理学講座の充実発展に尽力され1967年には同学 部教授に就任されました。1956年には文部省在外研究員としてイギリス・レディン大学へ渡航されました。1972年には 視聴覚教育講座が教育学部に開設されるとともに初代講座主任教授を務められました。1975年には名古屋大学環境医学 研究所・第6部門(航空心理学講座)の初代主任教授として招請され7年間の在籍の後1982年停年の定めにより退官さ れました。名古屋大学退官後も特に請われて同年4月より愛知学院大学文学部教授に就任され停年まで勤務されました。 大学運営における功績 1968年から1970年までは京都大学評議員の任にあたられ大学の運営に参画し,学部の整備,機構の改善等重要な諸 問題に取組まれました。この時期は大学紛争による大きな混乱の時期であり,先生は様々な困難に対処しなければな りませんでした。封鎖された本部キャンパスでは講義をはじめとして研究もできない状態でしたから先生はもとより スタッフは想像を超えるストレスフルな環境のもとで仕事をしておられたものと思われます。 名古屋大学に転じられてからは,1976年より3年間名古屋大学附属図書館商議員を,1979年から2年間は環境医学 研究所長,及び大学評議員の要職を歴任されました。研究所のみならず大学運営の枢機に参画するとともに,研究所 の整備・機構の改善等,重要な諸問題に取組み,大学の運営業務に多くの時間を割かれました。名古屋大学を退官さ れた後に愛知学院大学に転じてからも1983年より3年間図書館商議委員として大学運営に参画されました。以上の功 績により先生は京都大学名誉教授,名古屋大学名誉教授の称号を授与されました。 学会などの社会的役割 1977年から1979年まで文部省大学設置審議会専門委員(大学設置分科会)を務め,我が国の大学設置に関して広い 視野から多大の貢献をされました。また研究に関係する学会の活動にも多くの時間を割かれました。日本心理学会で は1965年から1989年までの長期に亘り評議員を,1972年から1981年には同学会の機関誌「心理学研究」の編集委員

The Japanese Journal of Psychonomic Science

2018, Vol. 37, No. 1, 122–123

(2)

123 古賀: 苧阪良二先生のご逝去を悼む を兼務され煩雑な作業に多くの貢献をされました。 名古屋大学に移られてからは日本宇宙航空環境医学心理学会の評議員および学会理事を務められました。当時は心理 学研究者も比較的多く会員として活躍されていましたが,学会がアンブレラ学会としての日本医学会に所属することを会 員の多くが希望したため学会の名称から「心理学」の呼称を取り外す決定がなされました。現状を見るたびに当時の先生 の心痛を推し量ることができます。1981年に日本基礎心理学会が創設されたことを初めに述べましたが創設後は学会運営 委員として大きな貢献を続けてこられました。1983年には日本生理心理学会の設立委員として参画され,翌年1984年から は同学会の名誉会員として今日に至っておられます。日本基礎心理学会では設立委員の一人として運営委員の任にあたら れましたが,これを含めて多くの基礎研究の学会において要職を歴任され学会の円滑な運営と充実に力を尽くされまし た。永年にわたる教育ならびに学術研究上の功績により,先生は1991年,勲三等旭日中綬章の栄誉に浴されました。 研究業績 先生の研究領域は①視空間構造の成立に関わる心理学的研究,②眼球運動計測に関する研究,③ヒトの高次認識活動に 関する研究に大別することができます。視空間構造の成立に関わる心理学的研究は東京帝国大学在学以来の中心的研究で した。この研究は視空間構造論,特に視覚的錯視現象である「月の錯視」が中心で1961年10月には「天体錯視の研究」に より東京大学より文学博士を授与されました。眼球運動の精密な測定装置の開発にあっては数々のプロトタイプを開発され ました。最新の計測装置では,コンピューターと自動光点追跡装置を用いた第1プルキニエ光像追跡方式によって当時では 時間・空間ともに最高レベルの分解能を持つ測定装置を開発されました。ヒトの高次認識活動に関する研究における研究対 象はヒトの中枢の機能と末梢の運動機能の動的関連性を育む外的環境を考慮しながら理解するという意味で,末梢の運動 機能から中枢の機能に至るまでヒトの行動の多くの側面に及んでいます。先生が人生の全てを注ぎ込まれた研究への姿勢が 具体的なかたちで示される著書や研究論文で明らかになります。先生は30冊に近い書籍を世に送り出されており,100編を 大きく超える学術論文を執筆されておられます。著書,学術論文のうち主要なものを記載しておきたいと思います。 著書 1. 知覚の心理―環境の認知― 金子書房 1952 2. 心理学初歩 創元社 1956 矢田部達郎(監修) 3. 社会的知覚(心理学研究法)岩波書店 1958 高木貞二(編) 4. 講座心理学(生理学的心理学)東京大学出版会 1970 今村護郎(編) 5. 講座心理学; 知覚(眼球運動と形態知覚) 東京大学出版会 1970 大山 正(編) 6. 心理学研究法; 3(角膜反射光法による眼球運動の測定法) 東京大学出版会 1973 苧阪良二(編) 7. 心理学研究法; 10(科学における観察の意義) 東京大学出版会 1974 続有恒,苧阪良二(編)

8. Psychology in Japan, “Japan Handbuch” Franz Steiner Verlag, 1981 Hammitzsch, H. (Ed.)

9. 講座 現代の心理学4; 知能と創造性(知能と進化) 小学館 1981 梅本尭夫(編) 10. 現代基礎心理学: 3(空の認知) 東京大学出版会 1982 八木冕,鳥居修晃(編) 11. 地平の月はなぜ大きいか―心理学的空間論―(ブルーバックス) 講談社 1985 12. 眼球運動の実験心理学 名古屋大学出版会 1993 苧阪良二(編) 学術論文 1. 視空間の異方性―月の錯視について― 心理,1巻,1945 2. 場の理論 (1)―物理学における場の理論の成立 心理,5巻,1949 3. 教育と集団力学 心理,5巻,1949 4. イギリスの心理学会―B.P.S.とE.P.G.― 心理学評論,1巻,1957 5. 西欧の心理学関係研究室寸描 心理学評論,3巻,1959

6. Celestial illusion. ̶An overview of the history and theories̶, Psychologia, Vol. 5, 1962

7. 天体錯視の研究とその動向 心理学評論,10巻,1966 8. 大学における心理学教育の問題 心理学評論,11巻,1968 9. Psycho-instrumentationの展望 心理学評論,13巻,1970 10. 視覚行動論の基礎―上丘を中心として― 基礎心理学研究,1巻,1982 11. 我が国初期の心理学実験室 心理学評論,30巻,1988 (前・名古屋大学 教授)

参照

関連したドキュメント

老: 牧師もしていた。日曜日には牧師の仕事をした(bon ma ve) 。 私: その先生は毎日野良仕事をしていたのですか?. 老:

問題集については P28 をご参照ください。 (P28 以外は発行されておりませんので、ご了承く ださい。)

   がんを体験した人が、京都で共に息し、意 気を持ち、粋(庶民の生活から生まれた美

が多いところがございますが、これが昭和45年から49年のお生まれの方の第二

・カメラには、日付 / 時刻などの設定を保持するためのリチ ウム充電池が内蔵されています。カメラにバッテリーを入

子どもは大人と比べて屋外で多くの時間を過ごし、植物や土に触れた手をな

改良機を⾃⾛で移動 し事前に作成した墨 とロッドの中⼼を合 わせ,ロッドを垂直 にセットする。. 改良機のロッド先端

これに対して,被災事業者は,阪神・淡路大震災をはじめとする過去の地震復旧時に培われた復