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環境制御システム論に関する考察?

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(1)Title. 環境制御システム論に関する考察?. Author(s). 角, 一典. Citation. 北海道教育大学紀要. 人文科学・社会科学編, 68(1): 39-52. Issue Date. 2017-08. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/9567. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) 北海道教育大学紀要(人文科学・社会科学編)第68巻 第₁号 Journal of Hokkaido University of Education(Humanities and Social Sciences)Vol. 68, No.1. 平 成 29 年 ₈ 月 August, 2017. 環境制御システム論に関する考察⑴ 角 一 典 北海道教育大学教育学部旭川校社会学研究室. Consideration about the Theory of Environment Control System ⑴ KADO Kazunori Department of Sociology, Asahikawa Campus, Hokkaido University of Education. 概 要 本稿は,舩橋晴俊が環境社会学の基礎理論として構想した「環境制御システム論」について 考察を加えたものである。環境制御システム論は,より普遍的な社会制御システム論(および その骨格を担う協働連関の両義性論)や社会制御の三水準論を基盤としながら成立するととも に,環境問題の解決論として位置づけられ,システムの「高度化」にともなって望ましい解決 への可能性が拡大することを示すとともに,解決にあたって『被格差』『被排除』『被支配』と いった点に注目しながら弱者への配慮をともなうものとして構成されるべき規範理論としての 側面にも目配りされたものとして構想されていることが確認された。 1. はじめに. 本稿で取り上げる環境制御システム論は,舩橋 の中では,「協働連関の両義性」論を基礎にしな. 舩橋晴俊は,社会学,特に環境社会学の分野で. がら立論される環境社会学という領域における基. の理論構築を熱心に模索した研究者だった。真木. 礎理論として位置付けられている2。そして,環境. 悠介の『現代社会の存立構造』をベースにしなが ら,舩橋理論の原理論と位置づけられる「組織の. 1  「これは,基礎理論と言ってもいいようなところもあ. 存 立 構 造 論 」 が 編 ま れ( 船 橋,1977;舩 橋,. るのですが,ちょっと性格付けが難しいものです」 (舩. 2010) ,さらに基礎理論としての「協働連関の両 義性」 (船橋,1980;舩橋,2010)により,舩橋の. 橋,2016:24) 。 2  「私自身,実は『組織の存立構造と両義性論』という 本を,2010年に出しているのですが,その本の第2章. 理論的な基礎が構築された。さらには,それらと. に,私の基礎理論があります。それは組織論の領域で. 名古屋の新幹線公害や新潟水俣病等のフィールド. そうなのですね。それに対して,環境社会学領域の基. ワークを踏まえながら,中範囲理論としての「受 益権・受苦圏論」や「社会的ジレンマ論」1を構想 した。. 礎理論として,私は『環境制御システム論』というの が自分の基礎理論だと考えています。それは中範囲の 理論ではありません。その環境制御システム論が,私 からみると,環境社会学の基礎理論として有効ではな. 39.

(3) 角 一 典. 制御システム論の構想は,1993年に公表されてか. 示されていることが理解される。. ら,何度も改良が加えられてきた。本稿では,舩. また,舩橋は制御について,「行政組織による. 橋の環境制御システム論について,その基盤とな. 政策努力と,運動による問題解決努力とを共に含. る社会制御システム・経営システムと支配システ. む言葉」であり,「総体としての社会制御システ. ムに特徴づけられる両義性・社会制御の三水準に. ムは,多数の個別的・単位的な社会制御システム. 触れ(第1章) ,舩橋の文献から,舩橋が構想し. の集合体であり,個別的社会制御システムにおい. た環境制御システム論を再構成したうえで,その. ては,個々の行政組織(省庁あるいはその部局). 理論的空白を列挙し(第2章(以上本稿)),環境. が,(中略)『統率者』かつ『支配者』となってい. 制御システム論を分析理論として洗練化するた. る。社会制御システム論は,環境問題をはじめさ. め,あらためてシステムの構成要件およびシステ. まざまな社会問題の制御過程(政策過程と運動過. ムの動態の捉え方に関する整理を試みる(第3章. 程)を把握しようとするものであり,⑴社会制御. (次稿) ) 。. システムの両義性(経営システムと支配システ ム),⑵複数の社会制御システムの交錯性,⑶そ. 1 前提としての社会制御システム. れらの重層性(制御努力/制御システム/メタ制 御システム),⑷行政組織の自存化傾向,⑸複合. 1. 1 社会制御システム. 主体としての制御主体という5つの大きな論点を. まず押さえておかなければならないのは,舩橋. 持つ」(舩橋,1995:14)。. の環境制御システム論には,より広範に,社会制. 上記の記述からは,社会制御システム内では,. 御システムへの関心が基礎にあるということであ. 行政組織と社会運動を含む国民・住民はともに制. ろう。言い換えれば,社会制御システム論という. 御主体ではあるが,その力関係に差があることが. 普遍性のある一般理論の上に,環境分野における. 想定されているという認識がうかがえる。また,. 特殊理論としての環境制御システム論が存在する. システムは一つに収束するものではなく,複数の. という位置関係の中で把握すべきものであるとい. システムが垂直的にまたは水平的に共存し,ある. うことである。したがって,環境制御システム論. いは重なり合いながら存在している。そして,環. を論じるためには,まず社会制御システム論を論. 境制御システム論にも同様の性質が備わっている. じる必要がある。. のである。. では,社会制御システムとはどのようなもので あろうか。1995年の段階で舩橋は, 「行政組織と 社会運動の相互作用としての社会制御システム」. 1. 2 社会制御システムの両義性 ―経営シス テムと支配システム. (舩橋,1995:5)という表現を使い,「社会制御. 舩橋によれば,「社会制御システムには,支配. システムとは,行政組織を中心とする国家機構・. システムと経営システムという2つの契機が含ま. 自治体機構と国民(あるいは住民)との間に形成. れている」(舩橋,1993:56)。ここで確認してお. される相互作用の総体からなる」 (舩橋,1995:. かなければならないのは,経営システムと支配シ. 14)としていた。ここからは,社会制御システム. ステムがいかなるものであるかということだが,. のきわめて単純化された原型として,行政機構と. 舩橋は以下のように述べている。「経営システム. 社会運動を主とする国民・住民という布置連関が. とは,一群の経営課題群を有限の資源を使用しな がら継続的に達成しているという側面において,. いかと思っています。その上に,こんどは,中範囲の〔諸〕. 40. 社会制御システムを把握したものである。他方,. 理論がたくさん異なったものが載っています」(舩橋,. 支配システムとは財と意志決定権の配分の不平等. 2016:23-24)。. 構造という側面から,社会制御システムを把握し.

(4) 環境制御システム論に関する考察⑴. たものである。財の配分の構造は,閉鎖的受益圏. おいては,組織論上の経営システムおよび支配シ. の階層構造として,意志決定権の配分の構造は,. ステムと,社会制御システム上の,ひいては環境. 3. 政治システムとして把握できる 。すなわち,支配. 制御システム上の間に大きな相違はないと考えて. システムはこの二つの契機を持つ」(舩橋,1995:. いるものと思われる。この点について特段言及し. 14) 。. たものはないが,逆にそれが,舩橋の認識の中で. また,舩橋の理論的集大成である舩橋(2010). 矛盾なく理論化された証左と考えることもできよ. では,改めて以下のように言及されている「経営. う。. システムと支配システムの両義性は,社会関係に おける協働の契機と支配の契機とを一般化しつつ. 1. 3 社会制御の三水準. 捉えなおしたものである。組織を経営システムと. もう一つ触れておかなければならないのが,社. して把握するということは,組織が,自己の存続. 会制御の三水準である。舩橋によれば,「社会制. のために達成し続けることが必要な経営課題群. 御は,社会体制,基本制度,個別計画の三つの水. を,有限の資源を使って充足するにあたり,どの. 準で同時並行的に進行するが,上位のメタ制御シ. ような構成原理や作動原理にもとづいているのか. ステムが設定する枠組みの中で,下位水準の制御. という視点から,組織内の諸現象を捉えることで. システムが作動して」おり,「『上位水準のメタ制. ある。他方,組織を支配システムとして把握する. 御システムは下位水準の制御システムにおける制. ということは,組織が,政治システムおよび閉鎖. 御の成否を傾向的に条件づけている』『メタ制御. 的受益圏の階層構造に関して,どのような構成原. システムは下位の制御システムにおける制御努力. 理や作動原理を持っているのかという観点から,. を完全には決定しない』という二つの公準」が存. 組織内の諸現象を捉えることである」 (舩橋,. 在している(舩橋,1990:73)。. 2010:73-74) 。また,「経営システムと支配システ. それは,クロジェ学派の戦略分析理論に準拠す. ムとは,どのような組織を取り上げてみても,見. れば,大きな権力格差が存在する関係性において. いだすことのできる二つの契機」とされる(舩橋,. も,「構造化された場」の中で各主体には「自由. 2010:74) 。. な選択範囲」が存在し,他者にとっての「不確実. 注意しておきたいのは,舩橋の理論は,組織過 4. 性の領域」がゼロになることはないことに依って. 程を前提として構築されてきた側面があり ,組織. いる(舩橋,1990:76)。. 同士の連関が挿入される社会システムは,その射. そして,上記から,以下の命題群が導出される. 程には存在していたと思われるが,少なくとも「協. (舩橋,1990:77)。. 働連関の両義性」が展開されていた時期には,主 要な対象ではなかったことである。ただ,舩橋に. A:上位のメタ制御システムは,下位の制御シ ステムにおける制御の成否を,傾向的に条件 づけている。すなわち,. 3 舩橋(2001)では,以下のようにも記述されている。 「財の配分についての不平等な構造を『閉鎖的受益圏 の階層構造』とよび,意思決定権の配分についての不 平等な構造を『政治システム』ということにしよう」 (舩 橋,2001:36)。 4  「環境社会学という言葉に気づく以前,私は何をやっ ていたかというと,社会問題の社会学をやっていると いう自己認識でした。私の分析フレームワークは組織. A1:欠陥のあるメタ制御システムは,制御 システムにおいて「傾向的な失敗」を生む。 A2:優れたメタ制御システムは,制御シス テムにおいて「傾向的な成功」を生む。 B:しかし,上位のメタ制御システムの制御努 力は下位水準の制御システムの制御努力を完. 論 で す。 そ れ は 私 の 独 特 な 組 織 論 で す が 」( 舩 橋,. 全には決定しない。すなわち,. 2016:31)。. B1:優れたメタ制御システムの下でも,個 41.

(5) 角 一 典. 別の制御システムに関与する諸主体に欠陥. では,社会体制・基本制度・個別計画の三水準を. があれば,制御の失敗が生じる(運用の失. すべて社会制御システムの枠の中で捉えられてい. 敗や制度の空洞化)。. る。他方,舩橋(2006)では,「社会制御過程の. B2:欠陥のあるメタ制御システムの下でも,. 階層性」という表現が使われており,また,①個. 個別の制御システムに関与する諸主体が優. 別の事業システム・個別計画・個別問題,②社会. 5. れていれば, 制御の例外的成功が生じうる 。. 制御システム,③メタ制御システムの三水準が示 されている(舩橋,2006:33)。これと四水準を対. 社会制御の三水準を上梓した時期に,舩橋の注. 比してみると,三水準と四水準との違いは,新た. 目していたところは,B2のケースであったと思. に国際社会制御システムが付加されたものと理解. われる。東京ごみ戦争の結果として生まれた自区. すればよいだろう。上記のうち,社会制御システ. 内処理の原則や,山陽新幹線建設の際の北九州市. ムは「一定の行政領域において,その領域を担当. 楠橋地区における緩衝緑地帯設置など,重大な欠. する統率者(支配者)としての行政部局と,被統. 陥を有するメタ制御システムの下であっても,関. 率者(被支配者)としての社会内の他の諸主体と. 係主体の努力によって優れた解決を導き出した事. の間でなされる相互作用の総体からなるシステ. 例から,舩橋は三水準の構想にたどり着いたと考. ム」とされ,「個別の事業システム・個別計画に. えられる。その際の鍵は「下位水準の自律性」で. 対して,制度的枠組みを提供している」(舩橋,. ある。 「下位水準の自律性とは,現場の諸主体に. 2006:34)。また,メタ制御システムは,「メタ制. よる規則の弾力的運用あるいは拡大解釈とそれに. 御作用を発揮する主体とアリーナの連関の総体が. よる資源創出を意味して」おり, 「下位水準の自. 形成する社会システム」であり,メタ制御作用と. 律性の発揮と 『例外的な成功』をもたらした鍵は,. は, 「社会制御システムの形成や維持や廃止といっ. 『集団的主体性』と『価値合理性』 」にあるとす. た,社会制御システムのあり方自体を制御する作. る(舩橋,1990:85-86)。. 6 。 用」とされる(舩橋,2006:34). 舩橋は後に,社会制御の三水準の構想を,四水. 舩橋(2012b)では,社会制御システムと事業. 準へと発展させている。舩橋(2012b)には次の. システムとの関係における命題群が以下のように. ような記述がある。 「四つの水準の制御システム. まとめられている(舩橋,2012a:17) 。なお,FW. が重層的かつ同時並行的に制御作用を展開してい. はframework(枠組み条件),E・S・D・Fは. るというモデルを提示したい。その四水準とは事. それぞれexcellent(優れた)・success(成功)・. 業システム,社会制御システム,国家体制制御シ. defective( 欠 陥 の あ る )・failure( 失 敗 ) で あ. ステム,国際社会制御システムである」(舩橋,. る7。. 2012a:14) 。 改めて舩橋(1990)に戻ってみると,社会体制. 6  「行政組織が新しい法案を用意し,国会が新しい法律. については, 「資本主義と社会主義の間の体制選. を制定することは代表的なメタ制御機能である。また,. 択の問題や,明治維新や戦後改革」 ,基本制度に. 裁判所が新しい判例によって社会規範を変革し,マス. ついては「地方自治制度,教育制度,財政制度, 金融制度, 環境アセスメント制度,社会保障制度,. メディアが世論形成や政策争点形成を促進する過程も 重要なメタ制御作用である」 (舩橋,2006:35) 。なお, 支配システムと経営システムの文脈において,「メタ制. 労働関係の諸制度」といったことを例として挙げ. 御システムの機能の第一の契機が,支配システム(よ. ている (舩橋,1990:306-307)。また,舩橋(1990). り厳密に言えば,政治システム)における『変革課題 の設定』」であり,「第二の契機が,経営システムにお け る『 新 し い 制 度 の 設 計 』」 と さ れ る( 舩 橋,2006:. 5 これは「メタ制御システムが想定していないもの」で ある(舩橋,1990:85)。. 42. 54) 。 7 なお,舩橋(2012b:36)では,各記号の前にⅠが付加.

(6) 環境制御システム論に関する考察⑴. FW1:社会制御システムの設定している枠組. ような制御能力,すなわち,制御能力をより高度. み条件(制度と主体-アリーナ群布置)の優. 化させるために,制度構造や組織構造自体を変革. 劣は,事業システムにおける問題解決の成否. したり,制御過程に関与するより高度な制御能力. を傾向的に規定する。. を有する主体を形成するような能力のことであ. FW1-ES:優れた枠組み条件を有する社会制. る」(舩橋,2012b:51)。. 御システムのなかでは,個別の事業システ. ここから,舩橋が,個別の事業に対する制御に. ムにおける問題解決が傾向的に成功する。. とどまらず,事業の立案や遂行等に関わる,根拠. FW1-DF:欠陥のある枠組み条件を有する. となる法や制度などについても制御能力が及ばな. 社会制御システムの中では,個別の事業シ. ければならないと考えていたことがわかる。そし. ステムにおける問題解決が傾向的に失敗す. て,「民主主義の実質化は,民衆の意思をより敏. る。. 感に反映する形での,メタ制御機能の高度化に. FW2:しかし,社会制御システムの設定して. よって可能となる」のである(舩橋,2006:62)。. いる枠組み条件の優劣は,事業システムにお ける問題解決の成否を完全には規定しない。 FW2-EF:社会制御システムが優れた枠組. 2 環境制御システム論概観. み条件を設定したとしても,個別の事業シ. 2. 1 環境制御システム. ステムに関与する諸主体が無能であれば,. 舩橋によれば,環境制御システム論とは, 「さ. 問題解決の失敗が生ずる。. まざまな環境問題についてのこれまでの解決努力. FE2-DS:社会制御システムが欠陥のある枠. の歴史と,現在解決が求められている課題を位置. 組み条件を設定したとしても,個別の事業. づけ,さらに,今後の解決の方向を展望するよう. システムに関与する諸主体がきわめて有能. な環境社会学の理論的枠組み」である(舩橋,. であれば,問題解決の成功が可能となる。. 2004:59)。 環境制御システムの構想は,舩橋(1993)で初. 1. 4 システムの制御能力. めて示されたが,この時点では,環境制御システ. 舩橋によれば,社会制御システムには「直接的. ムは「環境政策のための社会制御システム」,経. 制御能力」と「メタ制御能力」の二つが存在して. 済システムは「経済分野の社会制御システム」と. いる。 「 『直接的制御能力』すなわち狭義の『制御. いう表現になっている(舩橋,1993:58)(図1参. 能力』とは,一定の制度構造や組織構造の存在を. 8 。環境制御システムという言葉が使われるよ 照). 前提した上で, さまざまな水準の制御システムが,. うになるのは舩橋(1995)においてである。なお,. 当面する経営問題や被格差・被排除・被支配問題. ここでも経済システムは「経済制御システム」と. を解決するために有する能力を意味する。 これに対して,『メタ制御能力』とは,一定の. 8 なお,舩橋(1993)は,社会制御システムおよび環境. 組織や社会が有する制御能力をより高度化させる. 制御システムについての理論的考察というよりも,具 体的事例への適合性を意識したものであるといえる。 これは,社会的ジレンマについてまとめた海野の論文. されている。舩橋によれば,「Ⅰという記号は,事業シ. (海野,1982)が意識されていたかもしれない。また,. ステムと社会制御システムとの関係にかかわる水準で. 主要なアクターは「経済成長に第一義的関心を持つ経. あることを示す。社会制御システムと国家制御システ. 済 官 庁( 通 産 省, 建 設 省, 運 輸 省 な ど ) 」 ( 舩 橋,. ムの関係にかかわる水準についてはⅡを,後者と国際. 1993:60)と表現された中央官庁であり,政府の方針に. 社会制御システムの関係にかかわる水準についてはⅢ. 対抗しようとする自治体や社会運動はティリー流にい. を 使 用 し て, 同 様 の 命 題 群 を 提 示 で き る 」 ( 舩 橋,. えば「政治体の外部」の存在であり,チャレンジする. 2012b:60)。. 存在である。. 43.

(7) 角 一 典. 図1 環境政策をめぐる主体関連(舩橋,1993:58). いう文言が使われており,経済システムになるの は舩橋(1998)においてで, 「経済システム=経. 図2 環境制御システムと経済システムとの間での 交錯性の深化(舩橋,1998:209;舩橋,2001:49). 済制御システム+市場」と表記されている(図2 参照) 。単に経済システムと表記されるのは舩橋. ここからは,先に検討したように,上位概念と. (2004)からである。. しての社会制御システムがあり,環境制御システ. 環境制御システムの最も一般的な定義は以下の. ムはその一つとして位置付けられていることが理. ようになる。 「 『環境制御システム』とは,環境問. 解される。そして,先に検討した社会制御システ. 題の解決を担当する行政諸部局と,環境問題の解. ムの理解を,おおむね環境制御システムに適用し. 決を第一義的に志向する環境運動とを制御主体と. ても問題がないことを示唆しているものと考えら. し,社会内の他の諸主体を制御の客体として,両. れる。したがって,環境制御システムにも,支配. 者の相互作用の総体からなる社会制御システムで. システムと経営システムの2つの契機が含まれて. ある。環境制御システムの役割は,社会の中に生. いるし,制御の三水準(あるいは四水準)が存在. 起した環境問題という形の構造的緊張を基盤とし. しているということになる。. て,それを問題解決を求める圧力に転換し,さら に実効的な問題解決努力を展開していくことであ 9. る」(舩橋,2003:230-231;舩橋,2004:59-60)。. 2. 2 環境制御システム論の守備範囲 舩橋は,環境問題の社会学的研究の基本的な問 題領域として,「公害・開発問題期」と「環境問. 9 また,舩橋(1998)では,「環境負荷の累積により現. 題の普遍化期」という二つの段階を区別し,それ. 在生じている,あるいは将来生じるであろう『構造的. ぞれに加害論・原因論,被害論,解決論が存在す. 緊張』を『解決圧力』に転換し,『実効的な解決努力』. ると考えた(舩橋,2001:29)。そして,「環境問. を生み出すような社会制御システムであり,環境問題 の解決に第一義的関心を払う環境運動ならびに環境行. 社会制御システム」とも述べている(舩橋,1998:203;. を受ける社会内の他の主体を被制御主体とするような. 舩橋,2006:31) 。. 44. 政部局をその制御主体とし,これらの主体の働きかけ.

(8) 環境制御システム論に関する考察⑴. 題の普遍化期において登場した新しい質の環境問. よる『最適化努力の相克』といった事態が生じる. 題を把握するために,どのような理論枠組みが必. からである」(舩橋,1995:16). 要となるであろうか。ここで必要になるのは,社. また,舩橋(1998:205-207)では,以下のよう. 会的ジレンマ論,環境負荷の外部転嫁論,環境制. に3段階を経営システムの文脈と支配システムの. 御システム論という理論枠組みである。このうち,. 文脈とに分けてより具体的に記述している。. はじめの2つは加害論・原因論と被害論に深く関 係するものであり,最後の環境制御システム論は,. 【経営システムの文脈】. 解決論を担うものである」と述べている(舩橋,. ①環境保全という観点からの制約条件が,経済シ. 2001:43) 。さらに, 「解決論は,事実認識につい. ステム内の諸主体(企業,消費者等)に課せら. ての解決過程論と,規範的要素を含んだ解決方法. れる段階(ex.デポジット制). 論とから成るが,その双方の解明のためには,環. ②環境保全という経営課題が,経済システム内の. 境制御システム論が有効性をもつであろう」とも. 諸主体によって副次的,周辺的な経営課題の1. 述べる(舩橋,2001:48)。. つとして設定される段階(ex.デュアルシス. 上記のような認識は,解決過程論の側面が,後. テム). にA段階からD段階への段階論へとつながり,解 決方法論が規範理論へと結びついている。. ③環境保全という経営課題が,経済システムとそ の中の諸主体にとって,主要なあるいは,中枢 的な経営課題の1つとして設定される段階. 2. 3 段階論について. (ex.ゼロエミッション). 2. 3. 1 プロトタイプとしての3段階論. 【支配システムの文脈】. 段階論の萌芽は舩橋(1995)にある。ここでは. ①環境制御システムの諸主体(環境運動,行政組. 以下のように記述されている。「両者(環境制御. 織の環境部門)が,経済システム内部の主体(企. システムと経済制御システム)の関係は,経済制. 業,行政組織の経済関連部門)に対して,発言. 御システムから見て,環境問題解決という要請を,. 権を持つという形で解決圧力を及ぼす段階. ⑴制約条件として受容する段階,⑵周辺的経営課. ②環境制御システムの制御主体が,経済システム. 題として内面化する段階,⑶中枢的経営課題とし. 内の諸主体に対して対抗力の発揮という形で解. て設定する段階,という3段階に区分することが. 決圧力を及ぼす段階. できる」 (舩橋,1995:16) 。この時点では,問題 解決の段階としての3段階が示されたわけである。. ③環境制御システムの制御主体が,経済システム 内の諸主体に対して,決定権を持つ段階. 舩橋によれば,「⑴→⑵→⑶という変化は,連 続的なものであるが,このような段階には質的な. 2. 3. 2 4段階論への発展. 相違がある。この交錯の過程は,環境制御システ. 舩橋(2004)では,3段階論を基礎にしながら,. ムが経済制御システムに対して介入し,それに再. 人間社会と環境の調和状態を示すO段階と,人間. 編成の圧力を及ぼしている過程であり,⑴→⑵→. の経済活動の高度化によって公害が発生し,それ. ⑶という変化に応じて,前者の介入の程度はより. が放置されているA段階が新たに組み込まれ. 深まり,当然のことながら,後者にとっては,必. た10。各段階はそれぞれ以下のように定義されて. 要な再編成の課題がより大規模で根本的なものと. いる(舩橋,2004:60)。. なる」 ,ただし,「この交錯と再編成には紛争が伴 う。というのは,複数の社会制御システムは一面 で相補的であるが,他面では対抗的であり,その 交錯する地点で,それぞれの社会制御システムに. 10 厳密には,A段階は舩橋(1998;2001)で示された 図の中に登場している(図2参照) 。. 45.

(9) 角 一 典. O:産業化以前の社会と環境との共存(共存). 問題普遍化期』に起こったことなのかという〕歴. A:産業化による経済システムの出現と環境制. 史的段階だとか問題の性質によって,有効な理論. 御システムの欠如による汚染の放置(放置). 枠組みを変えていく必要があるのです」 (舩橋,. B:環境制御システムの形成とそれによる経済 システムに対する制約条件の設定(制約条件 11. の設定). 2016:24)。 上記の発言は,4段階への腑分けが単なる類型 化の域を超えたものであることを示唆するもので. C:副次的経営課題としての,環境配慮の経済 システムへの内部化(副次的内部化) D:中枢的経営課題としての,環境配慮の経済 12. システムへの内部化(中枢的内部化). ある。すなわち,それぞれのフェーズにおいて, 問題の根本的な状況が異なっており,ゆえに適切 な解決のありようが異なるということを指摘して いるということができる。 舩橋(2004)は,ある意味で,環境制御システ. なお,それぞれの段階を図示したものが図3か. ム論の一つの到達点を意味していた。しかし,東. ら図7の各図である。. 日本大震災を受け,舩橋は環境制御システム論に. これに関わって,舩橋はインタビューで次のよ. 新たな課題を付加することを目指すようになる。. うに語っている。 「私が提唱している環境制御シ. 以下のインタビューでの発言はそれを物語ってい. ステム論では,環境制御システムが経済システム. る。「この図を描くのに,12年かかりました。一. に対する介入を4段階に分けてモデル化していま. 番シンプルな図から4段階かけて,だんだんと複. す。おおまかに言えば, 『開発公害問題期』と『環. 雑な図に積み重ねていったのです。だから,これ. 境問題普遍化期』とに,私は分けました。なぜか. は中範囲の理論ではない。基礎理論だと思います。. と言えば,加害論・原因論でも,どの時代のどう. 私にとっての環境社会学の基礎理論だと思いま. いうタイプの問題かによって切れ味の良い理論が. す。〔ながいこと,この基礎理論の構築に傾注し. 違ってくるからです。地球環境問題だとか,生活. てきましたが〕今回の福島を見ていて,〔私の理. 系廃棄物の問題,生活排水の問題なんかについて. 論構築は〕少し新しいフェーズに入りつつあるん. は, 社会的ジレンマ論が非常に有効だと思います。. ですね。それは〔何かと言えば〕,規範理論が必. 原因論・加害論として,という意味ですね。ただ. 要なのですよ,規範理論が」(舩橋,2016:27)。. し,水俣病のような問題は,社会的ジレンマ論は あまり有効ではない。つまり,原因論・加害論と 言っても,一つの理論があればいいという話では なくて, 〔 『開発公害問題期』のことなのか『環境. 2. 4 解決方法論=規範理論?としての環境制 御システム論 現実には萌芽的にしか存在していない「中枢的 内部化」段階が理論に組み込まれた時点で,すで. 11 なお,舩橋はB段階につい低下のようにも述べてい. に理論に規範的要素があったというべきであろう. る。 「 (B段階とは)環境制御システムが形成され,環. が,それが意識的に志向されるようになったのは,. 境行政部局と環境運動団体が,経済システム内の諸主. 先述のとおり東日本大震災以降である。. 体に要求を提出することによって,一定範囲の行為を 禁止するような制約条件を設定し,環境破壊的な経済. そもそも,舩橋の研究の出発点には,社会問題. 活 動 に 対 す る 抑 制 が は じ ま る こ と で あ る 」( 舩 橋,. の背景としての格差が原点に存在しているという. 2004:63)。. 認識であったように思われる。「支配システムと. 12 なお,舩橋は,「固有の汚染リスクを伴う原子力発電 を前提にして『環境配慮の中枢的内部化』(D段階)へ 移行することは,D段階の定義上,不可能である」(舩. いう視座,そしてその文脈での『被格差問題』『被 支配問題』という問題把握なくしては,的確に解 明できないような,一連の問題群がある」(舩橋,. 除される技術等があることを示唆している。. 1995:15)という記述は,システムに存在する不. 46. 橋,2004:70)とも述べており,段階の移行の過程で排.

(10) 環境制御システム論に関する考察⑴. 図3 産業化以前の社会における環境(舩橋,2004:61). 図4 経済システムの出現と環境制御システムの欠 如による汚染の放置(舩橋,2004:62). 図5 環境制御システムの形成と経済システムに対 する制約条件の設定(舩橋,2004:64). 図6 副次的経営課題としての,環境配慮の経済シ ステムに対する内部化(舩橋,2004:66). 図7 中枢的経営課題としての,環境配慮の経済シ ステムに対する内部化(舩橋,2004:69). 47.

(11) 角 一 典. 平等・不公正が,個別事業あるいは事業システム. を選択するということである。手段的合理性の選. における問題発生の原因であるという舩橋の認識. 択にあたっては,経験科学的知識が直接的に貢献. とつながっている。. しうる」(舩橋,2012a:28)。また,後者について. また,舩橋(1998)では, 「環境制御システム. は,「複数の人々から成る社会が適正に組織化さ. の課題は大きく言って2つある。第1は,『合理. れ,社会生活が適正に営まれるために必要な原理」. 性の背理』としての社会的ジレンマを克服するよ. とし,「概念解釈として,人権・衡平・公正・賢. うな,すなわち社会的な『賢明さ』を実現するよ. 明さの四つの価値理念を提出」している(舩橋,. うな社会的規範の設定である。第2に,環境負荷. 2012a:26)。これらをまとめたのが表1である。. の外部転嫁に伴う格差を是正し,平等を実現する. また,舩橋は,「社会制御過程についてのひと. ために,顕在的あるいは潜在的な受苦圏の諸主体. つの理念型としての『理性的制御モデル』」 (舩橋,. の発言権や対抗力を保証することである」 (舩橋,. 2012a:29)を提示し(表2参照),「社会制御過程. 1998:205)とし,さらに, 「公共圏の豊富化の内. における三つの規範的公準を実現するような問題. 実を,環境制御システムの2つの課題に即して表. 解決過程」(舩橋,2012a:33)を目指すべき到達. 現するならば,それは第1に,受苦圏の発生や社. 点として示している。 三つの規範的公準 (normative. 会的ジレンマを回避するような制度形成,社会規. postulate)とは,以下のとおりである(舩橋,. 範形成を推し進めるための政策研究の豊富化であ. 2012a:22-24)。. る。第2に,環境破壊に伴う現存のあるいは将来 の受苦圏の声を,経済システムに対して,解決圧. P1:二つの問題文脈での同時解決の公準. 力として表出することである。つまり,公共圏に. 社会問題の解決のためには経営システムの文. は, 『政策研究』と『利害調整』という二重の機. 脈での経営問題の解決と,支配システムの文. 能を果たすことが求められる」 ( 舩 橋,1998:. 脈での先鋭な被格差・被排除・被支配問題の. 211)と述べ,環境制御システムが効果的に機能. 解決とが,同時に達成されなければならない。. するために公共圏の豊富化の必要性が指摘される。. P2:支配システム優先の逐次的順序設定の公準. 他方,舩橋(2012a)から,舩橋は,「経営シス. 経 営問題解決努力と,先鋭な被格差・被排. テムにおいては『合理性(rationality)』が,支. 除・被支配問題解決についての許容化がまず. 配システムにおいては『道理性(reasonability)』. 達成される必要があり,それを前提的条件と. が必要とされる」と指摘するようになる(舩橋,. して,経営問題を解決すべきである。. 2012a:26) 。前者について,舩橋は以下のように. P3:公正な手続きの公準. 述べる。 「経営システムの文脈に即した概念解釈. 逆連動問題が現れたとき,受忍限度の適正な. を行なうならば,合理性は価値合理性と手段的合. 定義のためには,公正な社会的意志決定手続. 理性とに分節することができる。経営システムの. きが必要である。公正な社会的意志決定手続. 内部においては,各主体が経営課題群の達成を自. きを経て,受忍限度を定義すべきである。. 分の行為の目的としている。経営システムの洗練 のためには,目的としての経営課題群の具体的内. また,舩橋は,規範的公準が遵守されるために. 容を定義するにあたって,価値合理性が必要であ. は「公共圏の豊富化」が必要と考え,そのために. る。価値合理性とは,その内容が何であれ,一定. 「第一に,社会的な意志決定の手続きに関する制. の価値を志向のものとして設定し,その実現に一. 度設計,第二に,公共圏を担う主体形成,という. 貫して志向する態度である。これに対して,手段. 条件が必要である」とした。さらに,「これら二. 的合理性とは,目的達成(たとえば,経営課題群. つの条件の探求は,道理性と合理性を焦点にした. の達成)のために,もっとも効果的で適切な手段. 合意形成の道を探求しようとすることであるか. 48.

(12) 環境制御システム論に関する考察⑴. 表1 社会制御システムの両義性論の文脈で必要とされる代表的な価値理念 価値理念の定義の文脈. 支配システム. 分節された価値理念. 政治システム. 公正 (fairness). 閉鎖的受益権の 階層構造. 衡平 (equity). 総括的価値理念. 人権 (human rights). 道理性. 目的の設定. 価値合理性 (value rationality). 合理性. 手段の選択. 手段的合理性 (instrumental rationality). (rationality). 経営システム. 自由. (社会的な)賢明さ (reasonability) (wisdom). (freedom). 舩橋(2012a:25) 注1)自由と道理性と合理性の間の境界が二重の縦線であるのは,自由の概念解釈によって,道理性と合理性が得 られるわけではなく,この点でほかの諸概念間の相互関係とは異なることを示している。 注2)手段的合理性には,単一主体にとっての賢明さwisdomも含まれる。 表2 政治システムにおける勢力関係モデルの諸類型と理性的制御モデル 鍵になる要因の差異. 変化を表わす言葉. 暴力的な勢力関係 (植民地,強制収容所などの暴力的支配,等). 勢力関係 モデル. (非暴力的な)交換力にもとづく勢力関係 (スト,示威行進,座り込み,金銭の与奪,等) 多数派形成の原論闘争にもとづく勢力関係 (選挙,住民投票,等) 〔論争型公論形成アリーナ〕 理性的な論争にもとづく勢力関係 (法廷,公益調査制度,等)〔論争型公論形成アリーナ〕. 理性的制 御モデル. 理性的な対話の関係 (道理性と合理性に即しての協議)〔対話型公論形成アリーナ〕. ↓ 非暴力化. ↓ 言論論争化 ↓ 論争的理性化. ↓ 対話的理性化. 舩橋(2012a:34). ら,全体として『熟議民主主義』を促進する条件. Modernization論といういまのヨーロッパの環境. を探るというように,いうこともできる」と総括. 社会学で一番有力な理論が出てくる背景と,それ. している(舩橋,2012a:38)。. を全部,包括的にとらえるパースペクティブを環 境制御システム論は持っていると私は思っていま. 2. 5 小括 ―環境制御システム論の「空白」. す」(舩橋,2016:27)。これは,数度の国際学会. 舩橋は,インタビューにおいて環境制御システ. での報告に対するオーディエンスの反応などに裏. ム論を以下のように自己評価している。 「やや大. 打ちされたものであり,決して過大評価ではない. 風呂敷を広げた言い方をすれば, 〔私の環境制御. だろう。. システム論は,環境的正義論とエコロジカル近代. その一方で,環境制御システム論には,いくつ. 化論の〕両方を全部捉えているのです。Marxism. かの触れられていない点があることも事実であ. theoryに基盤を持ち,支配的システムに批判的で,. る。それらは,理論に内在する欠陥というような. 環境正義論を語る人たちの言説がどういう状況に. ものではなく,十分な議論がなされないまま,い. 現 れ て く る の か と い う こ と と,Ecological. わば「放置」されている論点とでもいうべきもの. 49.

(13) 角 一 典. である。これから列挙する論点の中には,あえて. ものであるのか否かという点である。そもそも,. 環境制御システム論では取り上げるべきようなも. ある事象がどの段階に位置づけられるかというこ. のでもない類のものも含まれる可能性はあるが,. とについては,具体的な指標が存在するわけでは. 今後の環境制御システム論のさらなる発展に寄与. なく,舩橋の諸稿で取り上げられている事例も,. する重要なポイントも含まれているとも考えられ. ある意味でステレオタイプ的なものといえる。当. る。以下,列挙してみよう。. 然,境界例のようなものもあり得るし,同一の段. 第一に,環境制御システム論の理論的性質は,. 階にあったとしても,より進んだものとそうでな. 分析的理論と規範的理論のどちらにあるかという. いものとの差もあるに違いない。さらには,同じ. ことである。これまでの検討も踏まえると,舩橋. 環境制御システムの中でも,公害対策のような相. においては,規範理論への志向性が初期の段階か. 対的に進んだものもあれば,ダム建設に象徴され. らかなり強かったように思われる。分析理論とし. る治水対策では,法的には環境配慮が謳われては. ての応用も,アドホックに個別事象を取り上げる. いるが,依然としてその評価に疑問符が付される. のみで,環境制御システム全体のありようや,あ. ような段階のものまでさまざまである。そういう. るいは個別の事業システムの詳細な分析は少な. 意味では,そもそもある事象をX段階であると同. い。舩橋における環境制御システム論の分析理論. 定することにはあまり意味がないようにも思え. 的側面を捉えようとするならば,舩橋(2006)に. る。段階のステップは,究極にはなにがしかのきっ. おける過程分析を除けば,4段階論をベースとし. かけをもって飛躍するようなものではありえず,. た個別事象の定点分析への応用にとどまってい. むしろグラデーションのような漸進的イメージで. る。もちろん,こうした点は理論の欠陥というべ. 捉えるべきものと考えられる。. きものではなく,むしろ,そういうものとして構. 第三に,4段階は基本的にA→Dの単線でイ. 想されている可能性もある。しかしながら,筆者. メージされているように見えるが,その認識でよ. は,環境制御システム論には,他の分析への応用. いのかという点である。具体的な例をあげれば,. 可能性も十分にあるものと考えている。特に,過. 公害の激化と世論の批判を受けてさまざまな規制. 程分析への応用可能性を考えた場合に,以下の諸. が進み,また公害裁判では被害者が大企業に勝利. 点が重要となってくる。. する。しかしながら,オイルショック以降の経済. 第二に,4段階論の意義をどのように把握すべ. の低迷により,規制の強化は滞り,また,公害被. きなのか,十分には論じられていない点である。. 害者の救済も停滞することとなる。こうした事例. 舩橋は,環境制御システムにかかる図を数度書き. は,単線的な環境制御システムの強化とは裏腹に,. 換えており,2004年に発表された5つの図が一応. 段階の後退という事態も起こり得ることを示すも. の「完成版」とみられる。しかし,舩橋は「本稿. のとも考えられる。これに関連して,さらに以下. で提示した諸図は,環境制御システムの経済シス. の諸点が空白として指摘できる。. テムに対する介入という複雑な事態を単純化して. 第四に,どのような要素が揃えばX段階と同定. いるという意味では理念型」(舩橋,2004:70)と. できるかという点について,「副次的内部化」「中. も述べており,かなり複雑に書かれた図ではある. 枢的内部化」といった言葉だけが示されている,. が,他方で,それは単純化されたものでもあると. あるいはアドホックに事例を当てはめる形での言. 認識していた。また,それぞれの段階に対応する. 及にとどまっている13。. 具体的事例がさまざまな形で列挙されているもの. 第五に,4段階のフェーズの変化が何によって. の,それ以上の域を出ているとは言い難い。ここ で論点となるのは,4段階論は,ある事象に対し てどの段階に適合するかということを示すだけの. 50. 13 例えば,環境運動における行為レパートリーの多様 化などは一つの指標になり得るかもしれない。.

(14) 環境制御システム論に関する考察⑴. 引き起こされるのかという点について,事例に即 した個別の言及はあるが,それを包括的に論じた ものはない。変化のモメンタムあるいはダイナミ ズムについて,舩橋は言及してこなかった。そも そもシステムは分析においてステイブルなものと して扱われるか,あるいはダイナミズムを含んだ ものとして扱われるかも,明確な形では示されて いないといえる。 第六に,環境制御システムの経済システムに対 する介入とは何を指すかということである。「環 境制御システムによる経済システムに対する介入 は,環境基準の設定や,開発行為の規制という形 をとる」 (舩橋,2003:236)という舩橋の言及は, 公害の社会学からはじまった環境社会学という,. 図8 社会制御システムの内部構成(舩橋,2012a:15). ある意味で日本特有の認識とも受け取ることがで. システムは単なる主体の集合ではなく,システム. きる。環境行政が基本的に規制行政であったこと. をシステムたらしめる要素が主体以外にも存在し. は事実ではあるが,半面,そうした認識は行政手. ていることを示唆する。. 段の多様性を見落としているとも言えなくもな (未完). い。例えば,再生可能エネルギーのFIT(固定価 格買取制度)は,規制というよりはむしろ誘導と いう方が適切である。. 参考文献. 第七に, 環境制御システムの構成要件について, まとまった形での言及がないことである。舩橋他. ・茅野恒秀,2014, 『環境政策と環境運動の社会学 自然. (1985:5)には,名古屋新幹線公害をめぐる主. 保護問題における解決過程および政策課題設定メカニ. 体連関図が示されているが,舩橋における調査か らの理論形成において,主体連関図と詳細年表の. ズムの中範囲理論』ハーベスト社. ・船橋晴俊,1977,「組織の存立構造論」 『思想』638:3763.. 作成は,その原点となる重要な作業として位置づ. ・船橋晴俊,1980, 「協慟連関の両義性 -経営システム. けられている。そして,主体連関図の発想が環境. と支配システム-」現代社会問題研究会編,『現代社会. 制御システム論をめぐるシステム連関図の中にも 受け継がれていると考えられる。しかしながら, 舩橋(2004)の5枚の図,特にC・D段階を示す 図6.7,さらには,舩橋(2012a)(図8参照) では,アリーナや制御中枢圏など,主体以外の要 素も書き込まれるようになる14。これはつまり,. の社会学』川島書店,pp.209-231. ・舩橋晴俊,1990, 「社会制御の三水準 新幹線公害の日 仏比較を事例として」 『社会学評論』41⑶:73-87. ・舩橋晴俊,1993,「社会制御としての環境政策」 ,飯島 伸子編, 『環境社会学』有斐閣,pp.55-79. ・舩橋晴俊,1995, 「環境問題への社会学的視座 『社会 的ジレンマ論』と『社会制御システム論』」『環境社会 学研究』1:5-20. ・舩橋晴俊,1998, 「環境問題の未来と社会変動 社会の. 14 制御中枢という概念については,原子力政策に関す る以下の言及がある。「支配システムにおける変革で決. きな影響力をふるってきたし,その影響力は,福島原. 定的なのは,国家体制制御システムの制御中枢圏にお. 発事故後においても,依然大きなものがある。そのこ. いてエネルギー戦略シフトの方向での政策転換の意志. とに規定されて,日本政府は,震災後1年を経過した. 決定をすることである。しかし,原子力複合体は,国. 時点で,エネルギー戦略シフトの方向での政策転換を. 家制御システムの制御中枢圏に対して,これまで,大. 明確に打ち出せないでいる」 (舩橋,2012b:56-57)。. 51.

(15) 角 一 典. 自己破壊性と自己組織性」,舩橋晴俊/飯島伸子編, 『講 座社会学12 環境』有斐閣,pp.191-224. ・舩橋晴俊,2001,「環境問題の社会学的探求」,飯島伸 子/鳥越晧之/長谷川公一/舩橋晴俊編,2001,『講座. 1984, 『政治変動論』芦書房) . ・Hilgartner, S. and Bosk, C.L., 1988, The Rise and Fall of Social Problems: A Public Arenas Model. American Journal of Sociology 94⑴:53-78.. 環境社会学1 環境社会学の視点』有斐閣,pp.29-62. ・舩橋晴俊,2003,「環境制御システム論」,舩橋晴俊/ 宮内泰介編, 『【新訂】環境社会学』放送大学教育振興会, pp.230-249. ・舩橋晴俊,2004, 「環境制御システム論の基本視点」 『環 境社会学研究』10:59-74. ・舩橋晴俊,2006,「行政組織の再編成と社会変動 環境 制御システム形成を事例として」,舩橋晴俊編, 『講座・ 社会変動4 官僚制化とネットワーク社会』ミネルヴァ 書房,pp.29-63. ・舩橋晴俊,2010,『組織の存立構造論と両義性論 社会 学理論の重層的探求』東信堂. ・舩橋晴俊,「社会制御システム論における規範理論の基 本問題」『社会志林』57⑷:119-142. ・舩橋晴俊,2012a,「社会制御過程における道理性と合 理性の探求」,舩橋晴俊/壽福眞美編,『規範理論の探 求と公共圏の可能性』法政大学出版局,pp.13-43. ・舩橋晴俊,2012b,「持続可能性をめぐる制御不能性と 制御可能性」,長谷部俊治/舩橋晴俊編,『持続可能性 の危機 地震・津波・原発事故災害に向き合って』御 茶の水書房,pp.33-61. ・ 舩 橋 晴 俊,2013,「 グ ロ ー バ リ ゼ ー シ ョ ン と エ ネ ル ギー・環境問題 システム準拠的制御の可能性」,宮島 喬/舩橋晴俊/友枝敏雄/遠藤薫編,『グローバリゼー ションと社会学 モダニティ・グローバリティ・社会 的公正』ミネルヴァ書房,pp.139-160. ・舩橋晴俊,2013b,「高レベル放射性廃棄物問題をめぐ る政策転換 合意形成のための科学的検討のあり方」, 舩橋晴俊/壽福眞美編,『公共圏と熟議民主主義 現代 社会の問題解決』法政大学出版局. ・舩橋晴俊,2013c,「原子力政策をめぐる社会制御の欠 陥とその変革」,舩橋晴俊/壽福眞美編,『持続可能な エネルギー社会へ ドイツの現在、日本の未来』法政 大学出版局. ・舩橋晴俊,2016,「日本環境社会学の理論的自覚とその 自立性」『社会志林』62⑷:21-33. ・舩橋晴俊/角一典/湯浅陽一/水澤弘光,2001,『「政 府の失敗」の社会学 整備新幹線建設と旧国鉄長期債 務問題』ハーベスト社. ・脇田健一,2009,「『環境ガバナンスの社会学』の可能 性 環境制御システム論と生活環境主義の狭間から考 える」『環境社会学研究』15:5-24. ・Tilly, C., 1978, From Mobilization to Revolution, Boston: Addison-Wesley Publishing.(=堀江湛監訳,. 52. (旭川校教授).

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