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「共感的理解志向の社会科」授業の誕生(その3)

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(1)Title. 「共感的理解志向の社会科」授業の誕生(その3). Author(s). 吉田, 正生. Citation. 北海道教育大学紀要. 教育科学編, 53(2): 47-61. Issue Date. 2003-02. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/292. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) . 3巻 第2号 北海道教育大学紀要 (教育科学編) 第5. 平成 15 年. l ;mdo Uni iケ of Edu lof Hokk (泊don (Educanon) Vo ver s }ouma ‐53 ‐2 , No. Febma i : y , 2003. 2 月. 「共感的理解志向の社会科」 授業の誕生 (その3). 吉. 田. 正. 生. 北海道教育大学旭川校社会科教育研究室. 目. 次. 問題の所在 論文の目的と方法, 研究の意義など. 第1部 誕生編 1章. 東京都大田区立大森第六小学校における 「共感的理解志向の社会科」 授業の誕生. ( 1 ) 中野重人からの聞き取り調査を軸にして (以上, 前々号掲載). ( 2 ) 大田区立大森第六小学校の元研究同人からの聞き取りを軸にして (①~②-2迄, 前号掲載; ②-3~今号掲載) { ) 小括 3 n章. 長野県上田市立束小学校における 「共感的理解志向の社会科」 授業の誕生. ( 1 ) 中野重人からの聞き取り調査を軸にして. { 2 ) 上田市立束小学校の元研究同人からの聞き取りを軸にして ( ) 小括 3. m章 岐阜県岐阜市立長良束小学校における 「共感的理解志向の社会科」 授業の誕生 ( 1 ) 中野重人からの聞き取り調査を軸にして. ( ) 岐阜市立長良束小学校の元研究同人からの聞き取りを軸にして 2 ( 3 ) 小括. W章 小学校社会科教科書における 「共感的理解志向の社会科」 記述の誕生 ( ) 中野重人からの聞き取り調査を軸にして 1 ( 2 ) 教科書編集者からの聞き取りを軸にして. ( ) 小括 3 第2部 浸透編 V章. 北海道旭川市及びその周辺地域における浸透について. { 1 ) 北海道教育大学教育学部附属旭川小学校の場合 { 2 ) 旭川市教育研究会社会科部会の場合 ( 3 ) 上川教育研修センター研修講座 (小学校社会科) の場合. ( 4 ) 小括 成果と課題. 47.

(3) . 吉. 田 正. 生. 1章 大森第六小学校における 「共感的理解志向の社会科」 の誕生 { 2 ) 大田区立大森第六小学校の元研究同人からの聞き取りを軸にして. 前回に引き続いて, 田中かよ子先生の話から入ろう ②-3. 大森第六小学校の 「関心・態度の評価」 研究. 「総合」 の研究は, 文部省指定とか都の指定とかいうことでやっていたのじゃ なくて, いわ ば自主公開と いうことでやっ ていました. それでもずいぶん遠くから, たくさんの人たちが見にきてくれました. 田上校 長が, 昭和53年で退職されて, その後, 田中敏子校長がお見えになりました. この校長先生の下で, 「関心・ 態度」 の評価に焦点を当てた大六の研究が始まりました. これまでのテーマとは変わりましたが, 校長先生 や教育委員会から, こうした研究テーマを押し付けられたという意識はありません. 校長先生が 「どう ?」 っ て出されて, 職員がやりましょうっ ていう感じで始まりました. 【インタ ビュアー註】 田上昇校長から田中敏子校長へ 先に書いたように, 田上校長 は昭和5 3年3月3 1日をもって, 定年退職となった. その後を襲ったのが, 田 2年度 (昭和5 3年3月31日) の研究と実践をまとめた 中敏子校長であった. したがって大六の昭和50年度~5 『子どもが前面に出る教育』 は田中敏子校長時代に出されたことになる. 「はじめに」 の文章も田中敏子校長 が書いている. 重松鷹泰は, 大六の研究が継続発展されることを願っ てであろう, 先に引用した文章に続け て, 次 の よう に書い てい る① .. 新しく, 婦人校長田中敏子先生を迎え, 学校はいよいよ充実しようとしている. 荒御魂が前面に出ていたところか ら, 和御魂がめだっ段階にうつりはじめたのかもしれないが, 新しいものを生み, そだてることに変わり はないはず で ある‐. 再び田中先生に語ってもらおう. 文部省が 「関心・態度」 に力を入れているのは知っていましたが, 文部省の先導的な研究をやろうという 意識はありませんでした. 研究推進委員には, 前の研究のときからやっていた人たちがほとんど残っていま したし, 「子 ども中心」 「みんなで協力して」 という研究姿勢はくずしていませんでしたから, 子どものやる 気とか意欲をどうやって引き出そうかという方向にさらに研究を進めていくんだという意識の方が強かった ように思います. 当時は, 教育委員会とかを敬遠する風潮も一般にはあったんですが, 私 たちにはそういうものはありませ んでした. 「指導室を大いに活用 しよう, 教えてもらおう」 ということで, 区の教育委員会の指導主事の先 生方にも助言者として来ていただいて, 一緒に授業づくりなんかをやりました. 授業づくりの基本には 「ころがす授業」 の考 え方がありました. 子どもたちの興味・関心 を大事にして, 子 どもたち自身が探究活動をはじめて, 自分なりに考えをまとめていく, 教師はそういう子どもたちの背中 を押してあげるというような……. 中野先生が私たちの学校に来てくださったのは, やっ ぱり大六が 「関心・態度」 というところの評価をど うするかというところで研究を進めていましたから, 文部省の主張する新しい教育のあり方の裏づ けを見た. 48.

(4) . 「共感的理解志向の社会科」 授業の誕生 か っ た と い う こ と で じ ゃ ない で し ょ う か.. 【インタ ビュアー註】 文部省が進めた 「関心・態度」 の評価について 5年に指導要録の改訂を行い, 従来の 「知 文部省は, 昭和52年版の学習指導要領の徹底を図る べく, 昭和5 識・理解」 「技能」 などの評価項目に, 「関心・態度」 という評価項目を新たに付け加えた. また, 学習指導 のゴールに評価があるという発想ではなく, 学習指導のはじめと中途にも評価が必要である ということを強 調 した.. これに関連して, 当時文部省教科調査官であっ た中野重人は, 次のように書いている② .. 従来の評価は, ペーパーテストによっ て, 知識・理解の定着度を見ることに主力が注がれ, 評価を指導の改善に役 立てるという発想に乏しかった. ペーパーテストの点数によっ て, 成績を出すことが評価であると考えられてきたの である. …… (中 略) … …‐. 近年の新しい評価観は, このような従前の評価のあり方を反省し, 指導のための評価を重視する. … … (中略) … …‐. また, 従前の評価では, ペーパーテス トによっ て, 知識・理解や技能な どの認知的な事柄を評価の対象としたもの が圧倒的であっ た. そこでは, 興味や関心・態度な ど, 情意的な側面の評価は, ほとんど問題とされなかったといっ てよい. とりわけ, 教育の現代化 (科学化) が叫ばれ, その影響 を受けたころにあっ ては, そうであっ た‐ しかし, 学校教育に人間性豊かな児童生徒の育成が求められるようになると, 等閑視されていた情意的側面が注目されること となっ た‐ このように, 興味や関心・態度などの評価と指導を重視することも, 新しい評価観の特色の一つとしてあ げられるのである‐ 新指導要録には, 上述したような新しい評価観に立脚して, 「観点別学習状況」 欄が新設されたこと, また, 各教 科の評価の観点の一つに, 「関心・態度」 が設けられたことは, 新指導要録の特色として, よく知られるところであ る. しかし, このような新指導要録の趣旨を実践に生かすことは容易ではない. 評価と指導の一体化も, 関心・態度 の評価と指導も, 言うは易く, 行うは難しである‐ これまでほとんど積み上げのなされていない領域だけにその取り 組みには, 解決すべき多くの課題が横たわっているのである‐. 文部省は, 「関心・態度」 の評価をどうしたらよいかを明らかにするために, 研究協力校を指定した. 書 籍等を通じて全国的に知られた学校として, たとえ ば束京都千代田区立佐久間小学校, 長野県上田市立束小 学校, 広島大学附属東雲小学校などがある③ . よく知られたことであるが, 昭和52年版の学習指導要領の基本的方向を決定づ けたのは, アメリカにおけ る 「教育の現代化」 から 「教育の人間化」 への方向転換, 国内における 「知識詰め込み教育」 や 「落ちこぼ し」 教育に対する批判であっ た. こうした批判に答えるかたちで, 「ゆとりと充実」 をスローガンとして掲 げた学習指導要領が作成された. 教えるべき事項を精選して削減し, しかも基礎基本として残されたものを わかりやすく教えることがめざされたのである. また, 教育とは単に知識を教 えればよいというものではないという立場がいよいよ明確に打ち出された. 社会科でも, こうした動きに符合して 「公民的資質の育成」 が強調され, 「関心・態度」 の育成に力点をお いた授業構成や単元構成が模索された. その先頭に立ったのが, 当時, 文部省の教科調査官であった中野重 人であり高野尚好であっ た. 文部省が, 「関心・態度」 の評価を昭和52年版学習指導要領の中核として打ち出したことに対する批判は, 教育学者からも教育実践家からもあっ た④ . こうした批判に応えて, 中野は 「頭デッカチのひよわな人間を. 49.

(5) . 吉. 田. 正. 生. 育てるのではなく, 知・情・意・体の調和的な発達を図り, 人間性豊かな児童生徒の育成が とりわけ 今 , , 日の学校教育に求められている」 という基本認識に立って, 「関心・態度」 育成の教育を進めていくことの 大切さを説いた. また, 従来の 「関心・態度」 をめ ぐる学力論争を整理し, その弱点は 「 (関心・態度を , 学力に含めるべきであるとする論, 含めるべきでないとする論) いずれの学力論においても 共通していえ , ることは, 抽象的, 一般的な次元の学力論に終わり, 具体的に授業の次元で学力が論じられていないという ことである」 と指摘している. このような認識をもつ中野にとって, 大森第六小学校の研究は 魅力的なも , の で あ っ た ろ う.. (他 校 の研 究 と の 関わ り につ いて, 田 中 か よ子 は次 の よう に語 っ てい る ) .. 私 たちの研究の方が佐久間小学校の研究より早いですね. 佐久間小学校の研究発表を見 に行ったことがあ ります. その時に分科会で, 都立教育研究所の指導主事になっていた新見先生が 「関心・態度の評価研究に いち早く取り組んで成果をあげている大森第六小学校の先生が来ていますから……」 ということで紹介され たりもしました. (大森第六小学校の研究紀要における社会科を見ると, 「態度」 が 「学習態度」 と 「社会的態度」 の一つ に分 けら れて いる が, こ れ は 誰 の アイ デ ア か, とい うイ ンタ ビ ュ アー の 質 問 に対 して). 態度をこのように分 けるという考え方は, 特に誰かに教わったとか何か他校の研究物を見てということで 生まれたものではありません. 社会科における態度をどう考えるかということで, 自分で考えて行き着いた 結論です. 私は, あまり本を読んで勉強するタイプじゃなくて, 授業なんかでも先輩の先生や同僚の先生の すごい実践を見て, それで勉強するっていうタイプなんです. 授業 のな かで 「態度」 っ て 言 っ た らふ つ う は学 習 態度 にな っ て しま う で し ょ う で も そ れ だ けじゃ な い , . .. やっ ぱり生き方に関わるもっと広い意味での態度がありますよね. 社会科の場合には, それを 「社会的態度」 って呼んだんです. 「社会的態度」 っていう呼び方も私が社会科部会に提案 しました. 学習態度よりも広い意味での態度を育てようとした のは, 社会科部会ばかりではありません. 国語でも算数 でも … …. 【インタ ビュアー註】 大森第六小学校の 「態度」 育成の教育について 当時の大六の実践が, 社会科部会に限らず他の教科部会でも, 学習態度よりも広い意味での態度を育てよ うとしていたということを田中は, 上で書いた以上には語ってくれなかった. 語っても実際に授業を見てい ないインタビュアーには理解してもらえないと思っ たか, あるいはそれにふさわしい実践記録をすぐに示す こと が でき ず, イ ンタ ビ ュ ア ー に申 し訳 な い と思 っ た ので あ ろ う.. 昭和56年1 2月 の公開研究会の時に配付された 「研究紀要」 にある国語等, 他教科の 「関心.態度」 の 「各 学年の達成目標」 を見ても, それらの教科で学習態度以上の何も のかを育てようとしていたとは思えない . 国語の場合には, 「表現」 と並記されているのは 「読書」 であり, いずれも昭和52年版の学習指導要領に示 された 「態度」 でしかない⑤ . 算数と理科の場合も同様であり, 算数の場合, 育成する 「関心・態度」 とし て示されたものは 「数量・図形に対する関心・態度」 と限定され, たとえば1年生については次の三つがあ げられ て いる⑥ .. ◎. … (略) …加法及び減法の計算に関心をもつ. 直接比較, 間接比較を通して測定の基礎となる経験をもとうとする‐. ●. 図形を考察する時に用いる操作にも漸次着目し関心をもつ.. .. 50.

(6) . 「共感的理解志向の社会科」 授業の誕生. 理科においては, 「各学年の達成目標」 として示された 「関心・態度」 は, 学習指導要領にある文の文末 など一部が変 えられてつくられたものである‐ 1例として1年生のものを示す‐ 先に示したものが学習指導 要領の文章であり, 後が大六のものである‐ ◎ 身近に見られる生物を探したり世話さ せたりさせて, 生物の著しい特徴に気付かせるようにする と とも に生 物 に親 しむ 楽 しさ を味わ わ せる.. 身近に見られる生物を探したり, 世話をしたりして, 生物に親しむ楽しさを味わう. 社会科の場合も, 学習指導要領にある文章や語句が組み合わされて, 各学年で育成すべき 「関心・態度」 ◎. が記述されていて, 学習指導要領に沿おうとする姿勢が窺われる. しかし, 学習指導要領にはない 「学習態 度」 / 「社会的態度」 の分割表示が行われており⑦ , この点で他教科とは異なっている. しかし, 田中が他教科でも 「学習態度」 より広いところで態度を育てるような実践が行われていたと言う のは, 「ころがす授業」 の基本的考えが, 授業実践に生きていたからだと思われる. 「子どもがころがす授業」 は, 一言で言うなら, 子どもの人格形成までを視野においた授業であっ た. それは 『子 どもが前面に出る教 育』 にある 「4 子どもがころがす授業の事例」 にある諸実践を見ると伝わってくる. まず, 事例1として挙げられた国語⑧を見てみよう. 佐藤さとるの 「龍宮の水がめ」 を題材とした5年生 の 授 業 で ある. 授 業 記 録, 授 業 分 析 とつ づ い た あ と, 「4. 本 時 を め ぐ っ て」 とい う 項 目 が 出 てく る. そ こ. ( 1 には 「 ) K 子 の 変 容」 と いう 小 項 目と 「学 級 の動 き」 とい う二 つ の小 項 目 が ある.. 「 1 ) K 子の変容」 には, 「気が弱く内気」 であまり発言のできなかっ た K 子が, この題材の学習をして ( いく な かで, どの よ う に成 長 して い っ た か, 変 容 して い っ た の か とい う こ と が書 かれ てい る. つま り, 教科. 指導を行うなかで, 教師の目は教材をどのように教えたらよいかということだけを見ているのではなく, 子 どもの人格の変容 (高まり) をも見据えているのである. この実践記録を書いた教師は, 次のような K 子 の学習感想文を引用している⑨ . グループ研究をやってから, だんだんと自分の力が出て, 今までよりも思っていることを, 主張できるようになっ てきた‐ 私は, 今までは, 引っ こみじあんだから, 自分で思っ ていることをいえなかった‐ でも, この前, みんなの 前で発表してから, 自分でも思っていることをいえるようになってきた‐. そしてさらに, この題材の学習の最終段階における K 子の様子を次のように記している⑩ . K 子はその後, がんばり表子どもの時間, 国語の室で創作童話に取り組んだ‐ そして, 「海のご殿」 の童話を書い た. がんばり表の空欄には, ・龍宮の水がめの感想文が書ける. ・創作童話が書ける‐ と記入された‐. 大六の実践は, 「初志の会」 の実践と同一の系譜にある. すなわち, 教科の授業のなかでも目標を単に, その教材を知的に理解させたり何らかの学習技能を習得させることだけにおわらせず, その教材がはらむ子 どもの人格変容性に着目し, その部分と子どもが触れ合うことで, 子どもの人格になにがしかの変容が生ま れることを願って授業を構成するという授業実践の系譜である. こうした授業を組みにくいと思われる算数でも次の実践記録 (事例3 〈5年算数〉 :整数の分け方) ⑪に 見られるように, それが意識されて授業の振り返りが行われている‐ この授業で発言内容は素朴であるが, 発言回数の最も多い意欲的な田端が, 集団思考への動機づけになっ ているこ とは見のがせない. この驚くほどの変容の要因の1つに, 平常, 疑問やまちがっ ていることでも平気で提案できる友. 51.

(7) . 吉. 田 正. 生. だち, 金子の欠席がきっ かけになっ て発表し, 自分の考えを友達の意見を聞いて訂正していく (授業中, うん, うん, と何回もうなずいている‐) 謙虚な態度が, うかがえたこともあげられる‐ … (中略) …. 特に6年1学期現在では, 本授業では質問だけでめだたなかった佐々木 (男) が, 展望を開く発 言を頻繁にするようになり, 集団を高めてくれる一人に育ってきている.. 上の引用文は, 授業に積極的に加われるようになるという学習態度だけが問題にされているとも読めるが, この実践の背後に 「友達を認め合い励ましあう学級の雰囲気⑭ 」 づくりをめざすという教育姿勢があること を考慮するなら, 一人一人の子どもの人格の変容そのものが問題とされていると見ざるを得ないのである. すなわち, 人格の変容が授業等における学習態度の変化として現象するという考えが根底にある, というこ と で ある.. 理科の実践記録には, 算数以上に学習態度の変化は子どもの人格の変容を反映したものであるという考え のあることが見て取れるものがある (事例4:理科2. 変容のきっ かけをつくっ たころがす授業) . 長くな る が, 引用 する⑫ .. (K男は) 図工が大好きで, 図工の授業がある日は喜んで学校にくるが, 図工の時間がつぶれた日は, 1日中不機 嫌になる. そんな子である. … (中略) …. しかし, 机の前にすわっ てじっ と本を読んだり, 字を書いたり, 計算をしたりすることをとても嫌 うのである‐ とにかく, 手を動かして何かをつくっ たりすること以外は, すべて敬遠しているのである‐ そんなある日, この風ぐるまの授業をたくさんの先生方が参観にみえた時に, K男のつくった風 ぐるまがみんなの 目にとまり, みんなの前で軸に糸をまきつ けて, 重いおもりのはいったプリンのカ ッ プを動かす見本を見せることに な っ た.. … (中略) …. 以来, その授業を転機として, K男の学習に対する姿勢が少しずつ変わりはじめた‐ いつもは半分 程度しかできなかっ た理科のテス トが, この 「風 ぐるま」 の授業から, 8~9割程度の点をとりだしたのである‐ こ れには本人も, いささかびっくりしたようである‐ また, 以前は何の興味も示さなかっ た算数で, 式の立て方や計算の仕方がわからないと, はっ きり 「今のところの 説明がよくわかんない?もう一度説明して!」 などと, いうようになってきたのである‐ そんな時, 「K男はさいきんなかなかがんばるな!」 などと, ほめてやるようにしてやっ たが, そのことがますま すK男のやる気をおこしていたように思う‐ 係活動では, 飼育栽培の係長になり, 生物 の世話も毎日きちんとやり, クラスで飼う生物を寄付して欲しいなどと, みんなに訴 えたり, 積極性が見られるようになった‐. 下線部に見られるように, 教師のまなざしは, 授業中の子どもの様子や意欲だけに注がれているのではな く, 学校生活全体における子どものありようにまで及んでいるのである. また, 次の文章は, 教材が知的な学習のためだけにあるものではないという考 え方があったことを如実に 示 すも ので あ る⑭ .. ‐ ‐‐ ‐ 「風 ぐるま」 のころがす授業は, K男の内に秘められていた意欲を引き出すのに適切な教材であっ たことと, 子 どもの中から発見されるのを待っ たのがよかっ たのではないかと思う‐. 社会科の実践をまとめた く事例2〉 には, 大六の 「ころがす授業」 の基本姿勢が明確に書かれている⑮ .. 52.

(8) . 「共感的理解志向の社会科」 授業の誕生. 「子どもがころがす授業」 は問題解決という学習を通して, 考える力, 正しい認識を育てるのみでなく, 人間性を 形成する上にも役立っ ている. 重松鷹泰先生は, 問題解決学習は, 「主体の個性的な統一を成立させ, それを検討さ せ, 発展させるのに不可欠である‐」 と述べられている‐ … (中略) …. 「子 どもがころがす授業」 での教材, 仲間や教師との心のふれ合いは, ひとりひとりの生き方を深めていっている ようである. 教育という営みがそこまでの深さのあることを教えられたのが 「子どもがころがす授業」 である.. こうした考え方を初対面でどの程度の知識 を持っているかわ からない人間に話すことはためらわれたので あろう. それが, 田中の言い淀みであっ たと思われる. 大六の 「ころがす授業」 は, 上に見てきたように, どの教科も子どもの人格的変容までを射程においたも 5一56年度の 「関心・態度」 の研究時においても 「ころがす授業」 を実践してきた職員が のであった. 昭和5 まだ大勢残っており, 研究文書に残された以上に子どもの人格変容を意識した授業が展開されていたのであ ろ う.. 社会科の場合, この実質的な継続を 「社会的態度」 という言葉で表すことができた. しかし, 他教科の場 合にはそうした言葉を見つけることができず, 学習指導要領に示された言葉に拠っ たのであろう. したがっ て, 「社会的態度」 という言葉を見つけ, 「ころがす授業」 を受け継いで, 子どもの人格変容をめざす社会科 授業のあり方を言葉として表現した 田中の功績は大きいと言わなくてはいけない. しかし, ここに一つの疑問がある. それは, 「社会科における関心・態度は, 学習意欲・学習態度の側面 」 という文章を田中が残しているこ と社会的態度・社会的行動の側面との二側面をもっと言われている が⑩ とである. 下線部は, 「関心・態度」 を学習関心・態度と社会的関心・態度とに分けるアイデアを田中がど こかから得たことを示している. それは, 中野重人→白石裕一という線なのか, それともまったく別の線な のか, インタ ビューの中では他から教わっ たものではないと言っていたことと矛盾する がそれをどう解釈し た らよ い の か, とい う こ とで あ る.. まず, 「関心・態度」 を二つに分けるアイデアが, 中野→白石 という線で田中に入っ てきたという可能性 は大いにある. それは, 中野重人が次のような文章を残しているからである⑰ . 「社会的事象に対する関心・態度」 について, 指導要録は, 「社会的事象に関心をもち, それを意欲的に調べ よう とするとともに, 社会の一員としての自覚をもっ て責任を果たそうとする‐」 とその趣旨を述べている‐ この説明か ら察せられるように, 関心・態度には二つの側面が含まれている‐ その一つは, 学習対象である社会的事象に興味・関心をもち, それを意欲的に調べようとすること, すなわち, 社 会科学習に対する関心・態度という学習態度に関わる側面である. この関心をもっ て, 意欲的に学習に取り組むとい うことは, 社会科に限らず全教科に共通していえることである‐ 他の一つは, 個人の感情や価値観, また帰属している集団のもつ雰囲気や価値基準などに左右されやすい社会的態 度, 行動的態度の側面である. 社会科は社会的事象を客観的に理解するだけにとどま らず, 児童の主体的な考え方や 立場を大切にしながら, 国家・社会の一員としての公民的資質の基礎を育成する教科であるから, この社会的・行動 的態度は, この観点の重要な側面である といえる‐. ここには明らかに, 「関心・態度」 を学習関心・態度と社会的関心・態度 とに分けるアイ デアが見られる のである. したがって, 中野がこれより早く書いた同趣旨の文章を田中がどこかで読んでいた可能性, ある いは白石指導主事との話のなかでそのような考 え方があるということを聞かされていた可能性は否定できな. 53.

(9) . 吉. 田 正. 生. し、 .. しかし, これらの文章が書かれてから二十数年経った時, 田中が 「関心・態度」 を二つに分けるという考 え方は自分のものであり, それを社会科部会に提案したと述べた のは, このアイデアが単なる受 け売りでな く, 田中自身の中に芽生えていたものであっ たことを示すのではないだろうか. この点について 筆者は後 , 日, 田中に手紙で確かめたが, もう記憶が定かではないという返事しかもらえなかっ た. いずれにせよ, 似たようなアイデアがほぼ同時期に生まれるということは, 他にも例がある. 「関心・態度」 の二分法が大六の場合 すでに昭和55年に田中の手によって成し遂げられていたという事 , 実, そ の こと だ けは動 か しが た い. さて, 聞 き取り 調 査 でも う 一 つ, ぜ ひとも 聞 いて お か なく て はい けな い こと が あ っ た そ れ は 「働 く 人 へ .. の共感→子どもたち に自分なりにできることを考えさせる」 という 「共感的理解志向の社会科」 授業の指導 過程が, 誰のアイデアなのかあるいはどのようにして生まれたのかということである 項を改めて その点 . , についての田中先生の語りを記述していく. ④. 大森第六小学校にお ける 「共感的理解志向の社会科」 授業の誕生. 「ぜ ひお聞きしたいのは, 『ごみの学習』 で 働く人に共感させて それをばねにして 子どもたちに自 ( , , , 分なりにできることは何かと考えさせている, あの指導過程がどうやって出来上がっ たのか 中野先生とか . , あるいは指導主事の先生から何らかの助言をいただいて出来上がっ たのか. そういうことではなくて, 先生 の アイ デアなの か, そ れとも市 原先生 の アイ デ アな のか, という ことなんで すが ……」 というイ ンタ ビ ュ アー. の質問に答えて) 現場の研究ですからね, 誰のアイ デアかといわれても……. でも, 原案は私が部会に提案しました こん . な の考 えて み た け ど, ど う っ て … ….. 大体, 私は人に授業を見られるっていうのは好きじゃないんです. でも, 指導案を考えたり, アイデアを まとめたりっていうことは好きでした. 学生時代, 私は教育方法学の研究室に属していました. 同期は, 私も含めて4人で, 吉田昇先生について いました. お茶大っ ていうのは, あまり大きな学校ではなくて, 学生数もそれほど多くないんです. 演習な んかも教官と一対一なんていうことがありました. 宮田丈夫先生に附属中学校の教官室で一対一で教わった なんていうこともありました. 学生時代, 東井義雄の 『村を育てる学力』 なんかも読みました…… 教育方法学でしたから, 国語の同じ題材について, 一つは三読法で, もう一つ は一読総合法で指導案をつ くっ て, 実際にやっ てみるというようなことを学生時代はやりました. 私の母校は大森二中なんですが, ま だ教えてくださった先生なんかがいて, お願いして授業をやらせてもらっ たりもしました どちらがいいの . かを実験するための授業ですね. ただ, 心の中では (一読総合法の方がいいな) なんて思って授業してまし たから, それがなんとなく子どもたちにも伝わって, 成功とはいえませんでした けど…‐ ‐. 社会科でも, こんなふうにして2種類の指導案をつくって, 分けてやったような気がします . 私 は授業を実際にやるよりも, 指導案を考えている間の方がずうっ と楽しいっていうタイプでした. 教師 になっ てからもそうで, 他の人の指導案でも自分で根本から考えるなんていうこともありました. 「中間報 告書」⑭にある 「寒くて雪の多い土地の気候と冬のくらし」 も, 原案は私がつくりました. 授業者の平井一男 先生はまだ大六に来られたばかりで基本的な考え方がよくわからないというので, それじゃ あということで 原案をつくって社会科部会に出して, みんなで話し合いました.. 54.

(10) . 「共感的理解志向の社会科」 授業の誕生. 「ごみの学習」 の指導過程も誰かに教わったとかいうことじゃなくて, 自分で考 えました. 指導案も, 以 前大六にいた二井家先生がおやりになっ た 「ごみの学習」 の授業を思い出 しながら, 私がつくりました. で も, 授業者は市原先生ですから, 市原先生が自分なりにお考えを入れて, それで最終的なものが出来上がっ たということになります. 現場の研究ですからね. みんなで考えを出し合いますし, やはり授業者の意志と いうのは無視できませんから. でも, あの指導過程や, ゴミ収集車を子 どもたちに追いかけさせるというのは, 二井家先生がおやりになっ ていた授業をヒントにして私の方で考えました. そして部会に提案しました. 大体, 私は勉強しないもので, 授業は本から学 ばずに, 同じ学校にいた先生方のすばらしい実践から学び ました. 二井家先生の 「ごみの授業」 とか……. 「郵便集配の授業」 も参考になりました‐ ポストの横に書 いてある時刻を集める と郵便集配車の経路がわかるんですよ. 子どもたちが夢中になって調べていました. 算数では, 伊地知先生のものが印象に残っています. 大六の校庭は狭いっ て子どもたちは言うんです. 確 かに母体校の第二小学校の校庭と比べたら, 面積では向こうのほうが広いでしょうね. でも, 本当に向こう のほうが広いって言えるのかっていう投げかけを割り算の学習の導入 に使っ たんですね. それで, 一人当た ‐の数がずっ と少ないですから, 一人あたりでは大六のほ りの校庭の面積 を出させたら, 大六のほうが子ども うが広いんです. 算数の勉強っていうのも, 子どもたちの生活の中に生きるもの, 生活と結びついたものじゃ なくちゃ いけないというのが, 伊地知先生の考え方でしたね. この授業も, 本当に勉強になりました. 【インタ ビュアー註】 伊地知順子と二井家美智子の実践について 上の田中の話を聞いて, 「ごみの学習」 において, 田中たちが子どもの興味を引き出そうと丁寧な工夫を 行っている背景, そして知的な興味ばかりでなく子どもたちの生活と結 びついた興味を引き出そうとしてい る授業づくりになっている理由がさらに具体的なレベルで明らかになった. そうした授業を実際に行っ てい た先輩・同僚が周囲にいたのである. そしてそうした人々から学んでいたのである. 田中が名前を挙げた二人の実践を見てみる. 伊地知の場合には, 導入において学習事項を子どもたちの生 活と結 びつけようという工夫が顕著に見られる. 一例を紹介する. 小学校五年生の 「整数のわけかた」 と言 「 う 題材 で ある⑫ . 目標 は, 整 理 券 による 3 つ の窓 口 で の 並 び方 は, 3 で割 っ た とき の余り に着 目す れ ばよい こと を理解 さ せる」⑰で ある.. 今 日 は, 楽 しい 勉 強 を しま し ょ う ね. 何 の 絵 で し ょ う.. IT. 蜘$車軸. (駅で切符を買うためむ こ必要な整理券をもらうために並んでいる人々の絵を提示) IP. 整 理 券 をも ら う た め に並 んで いる‐. 2P. 駅 の 窓 口 か? ‐. 3p. 切 符 を買 う の か な? .. 講. ~‘ ◎. さ 塾労; 洋 きき . う. いや整理券をもらうためだよ‐. ◎. ◎. , 浄. 2T. ああそう‐ どうして整理券をもらうの?. 4青木. わたしがいいます‐ もし整理券がなかっ たら小さい人が, 大きい人より早く来て並んでいるのに, おとなに じゃまされたり, 先に買ってしまうので整理券をもらうんだと思います‐. 3T. そうね‐ ほかには? が鹿児島なのね. (うーん). (沈黙). あのね‐ 汽車の切符買ったことない? (ある一) 先生はね, いなか. 鹿児島まで帰るときに一週間前から切符を売っ てくれるんだけど, 一週間前に. 行ってももう売り切れているのよ‐ だから8日前の朝4時頃から並んで夕方の六時頃整理券をもらうのよ‐ 東 京駅に泊まるのたいへんでしょう. だから整理券くれるのね‐. (ふーん). そして翌日の9時頃もう1回整. 55.

(11) . 吉. 田. 正. 生. 理券通りに並んで, いよいよ切符を買うのよ‐ では, 今日は, 3つの窓口で切符を買うことにします. さあ, どんな並び方があると思いますか‐. 子どもにアッ ピールするよう, 具体的な上のような絵を最初に提示した. 整理券という文字, 西鹿児島行きの表示, 先頭に並んでいる子どもの絵等に目ざとくキャッチ し教師の意図する方向に動いてくれるかに見えた‐ しかし絵から だけの把握で体験していないためそれ以上の要求には, 反応がなかった. そこで3T で教師の体験談を詳細に話し, 子どもに場面の把握, すなわち整理券の必要性を確実にした. よって興 味と関心を起こさせることができたようである⑩ ‐. このように, 導入の工夫, そして教材に配慮していても, 伊地知は決してこれに満足していない. この実 践記録は, 次のような反省で結 ばれている. 日常事象の中から子どもたちが, はっ きりとした目的意識をもっ て分類整理できるような学習素材の選択を長期間 考え続けた. 整理券による, 乗車券の購入の素材も教師の体験と, ブルートレイ ンの流行により生きてきたが, 一般 的な素材とはいえないだろう‐ 他に飼育当番の割り当て, スケート場や後楽園の入場券購入, 就学児健康診断の検査 室へ行く方法等があげられるが, いずれの素材も教師と子ども, 子どもと教材, 子どもと子どもの心のふれあいによっ て成立するものと考える‐. このように子どもにあった教材とは何かを徹底的に考え抜く同僚を田中は持っていたのである. 今一人の二井家美智子とはどのような実践家なのであろうか. 二井家の代表的な実践は, 抽出児の人格の成長を長期間にわたって見守り, 働きかけを行った社会科授業 である. 田中の口から, 「二井家美智子」 という名前を聞いても初めは, 何も思い浮かばなかった. しかし, 田中から 「こういう風に書くんです」 と字を示された時に, どこかで見たことのある名前だと思った. 大六 の実践の質から, もしかすると 「初志の会」 の会員ではないかと思い, 田中に 「二井家先生は社会科の初志 の会に入っていませんでしたか」 と尋ねると, そうだという返事が返ってきた. 北海道に戻ってきてから, 研究室にある本を探してみた. 昭和56年に刊行された 『社会科の初志をつらぬ く会の授業記録選 第四集』 に二井家の 「寒くて雪の多い土地の気候と冬のくらし-大曲の子どもとの文通 を通 して -」 が あ っ た. 昭 和57年 2月 に読 んだ こ と にな っ て い る か ら19年 ぶ り の 対 面 で あ っ た. 上 で, 「二. 井家先生の代表的な実践」 としたのは, これである. 4年生の1 2月下旬に始まったこの実践は, 5年生の農 業学習へと続いていく. 昭和56年に出されたこの本にある二井家の所属は, 「東京都大田区小池小学校」 となっ ている. したがっ て, 昭和56年には既に, 大六から小池小学校に移っていたということになる. 「寒くて雪の多い土地の気候と冬のくらし」 では, 二人の子どもが 「注目したい子ども」 として取り上げ られている. いずれの子どもに対しても人格の育ちが期待されているが, ここではそのうちの一人, 早川貴 志に対して二井家が何を願い長期にわたってどのような働きかけを行ったか, ごくかいつまんで紹介する⑰. <指導案のはじめ (4年生段階) にかかれたもの> 早川貴志について いじっ ぱりで批判を受けると教室に入らない頑固さがある. それだけに, 自分の問題は深く追求していく‐ 人の考 えにも耳を傾け, 友だちと助け合える子どもに育っ てほしい. 知恵をはたらかせ, 協力し合わなくては, 雪におしつ. 56.

(12) . 「共感的理解志向の社会科」 授業の誕生 ぷされてしまう雪国のく らしから, 自分の生き方は見直せないものだろうか‐ 〈4年生の1月 ごろから2月 ごろの早川に対して〉 「水害」 の学習に熱中 していた早川が, 「雪国」 の学習に関心 を寄せたのは, 雪国のお友だちに手紙 を書いた時か らである. 早川は, 「雪の中のくらしで困 らないように, どんな準備をするのだろう」 ということを問題にして, 食 べ物のことに目を向けていた‐ しかし, 二回目の手紙に返事が来なかっ たという理由でやる気をなく してしまってい た‐ 大曲の駅前商店街で買って帰っ た 「いよかん」 を渡したことから, ふたたび 「食糧の輸送」 の追求に力をいれ, 国道や仙岩トンネルの除雪を調べていっ た. 一方, 雪国のくらしから, 自分の生き方 を見直させたいという願いをもって, 教室に掲示してある大曲市の広報や 新聞を読んで, 自分の考えをノートに書くよう促していっ た. 〈5年生になった早川に対して〉 四月 十日のノートは, 春休みになっ て市役所のおじさんから届いた手紙を読んだ後に書いたものである‐ おじさん の手紙は, 早川にまっ 先に読ま せたい内容であっ た‐ 早川は, 平素は親しくしている 隣家同士が, 冬になると雪のし まっをめ ぐって険悪な空気が流れるほど大量の積雪に苦しんでいる事実を知り, また作文が生き生きとしていないと 母親に批評されて, さらに, 除雪作業の苦労を伝える市役所のおじさんの手紙にふれて, 初めて謙虚に自分を見つめ ている‐ しかし, まだその考えと行動の結びつ きは見られない. 〈5年生の農業学習を進めるなかで〉 5年の農業学習は, 「早川貴志の都市計画図 (秋田)」 をもとにした, 「米作りの盛んな秋田に工場 は必要なのか」 の問題から始まった‐ 早川の考えは (出かせぎをやめて誘致工場 に冬だけ働きに行っ たのでは, 工場の経営が成り立 たない) (それなら日雇いの方 がいい) (今, 米は余っ ている) (農業をやめて工場に勤めた方がもうけが多い‐ 田ん ぼをつぶして工場にしたほうがいい. -反論を受ける) (米を作るところは他にもある‐ 秋田の田んぼをつぶしても, ぼくたちの生活は別に困らない) (秋田は新産業都市になっている‐ 地図で見ると公害印がある‐ 華織さんが, 秋田は緑がきれいで空気がおいしい といっ ているのは, 口からでまかせではないか) (今の農家は, もっ とお金が入ることを考 えなければいけない) と 進んでいる. … <中 略〉 ….. 早川は, 考えが一人ぎめになりやすい‐ 教材とのかかわりを深めながら, 客観的なものの見方を育てていきたい. 〈5年生の冬に早川が書いたノートに対して〉 早川は, 「ヘリコ プターで上空からの災害のかけ足視察では, 雪国の苦労はわからない‐」 と批判的な立場に立った り, 「早川貴志の都市計画図 (秋田)」 をつくっ て, 自分の考えをおし通したりするところが強かっ た‐ ここでは, 「でも, 人はそれぞれかわっているのでぼくには分からない‐」 と表現を和らげている‐ 〈早川を見守り続けてきたこの2年間のしめくくりとして〉 早川は, 自己主張の強い子 どもである‐ それぞれの子どもの主張には, その子らしい個性の表れとともに, 事実の 裏付けや, みんなを納得させるだけの根拠を求めてきた‐ しかし, 「事実は, 事実として, ずばり言っています.」 と いう早川の言葉の中 に, まだ気負いを感じる‐ 子どもを長い目で見守ろう と思いながらも, 早川の変化を性急に求め ようとする気持ちが, 「いい子」 に追い込んでいるのではないだろうか‐ しかし, 一方では, 早川の 「事実は, 事実 としてずばりと言っ ています‐」 という言葉を大切にしたいという気持ちも生まれてくる. 早川と心を通わせ, しっ かりとみつ め, とらえ直しをしたい‐ もっ と知らなくては, 早川を伸 ばすことはできない ように思えてくるのである‐. 田中がこのような二井家の教育姿勢から何を学んだかは, 明らかではない. しかし, 中野重人をして, 「(田. 57.

(13) . 吉. 田 正. 生. 中先生は) 子どもの事実から出発して, 子どもたちの人間的な成長を追求していくという傾向の強い先生だっ た」 「子どもに目を向けている先生」 だっ たと言わしめるような教育姿勢の形成, 維持に二井家の教育実践 が何ほどかの影響を与えたであろうと思われる. また, 社会科では, 知的に何かを知ったとかわかったということでは不十分であるとする以下の語りに見 られるような社会科観も二井家と同質のもの, さらに言うなら 「初志の会」 の系譜にあるものといえよう . どうして 「自分なりにできることを考えよう」 ということを入れたかっていうことですか‐ ‐…. 社会科で 本当にわかっ たというなら, それを自分の暮らしの中で実践できなくてはと思うんです 知識を詰め込めば . それでおしまいっていうもんじゃないですよね. 算数でもふだんの生活に生かせなくちゃ おもしろくない . 社 会 科 だ っ た ら, よ けい そ う で し ょ う.. 働く人への 「共感」 をどうしてとりあげたかですか. 私は学生時代に, 子どもの労働観がどう育っていく かと いう こ と に興 味 が あ っ て, そ んな こ と をテ ーマ に して 卒 論 をま と めま した 恥 ず か しく っ て 今 じゃ , , .. 自分でも読みたいとは思いませんし, 人に読んでもらおうなんて思いません けど. ( 3 ) 聞き取りをおえて 田中先生 は, いろ いろな資料 を用 意 してく れていた. イ ンタ ビ ュ ア ー が問う と, 時 にはそう した資料 をひっ. くり返し, 該当箇所を示しながら答えてくれた. また, 田中先生がいろいろなところに書いた原稿も見せて もらった. 『初等教育資料』( 5 7年5月号;4 4頁) に載っている公園を掃除している人の絵も, 田中先生の原 稿のなかに原画があった. 田中先生は, 絵も好きだったようだ. そうした絵や図, そしてもちろん文字もファッ クス原紙に書かれている. 昭和50年代の半ばから次第に謄写版原紙を押しのけていっ たものだ. 鉛筆やペン で書いてもきれいに印刷できるようになり, 教師たちの事務効率がずっ とよくなった. そのフ ァックス原紙 も 今 は, ワ ー プロや パ ソ コ ン によ っ て 隅 に追 い や ら れて しま っ た.. 聞き取りは1時間半ほど行った. 田中先生に疲労の色が見えてきたし, ほとんど聞き取るべきことを聞い たと思ったので, お礼を述べ, 辞去することを告げた. 昨日とはうって変わっ て, よく晴れた日だった. 田中先生が美原通りに出るまで, ふたたび同行してくれ た. その帰り道でも, 田中先生は, すれ違う人に挨拶をしていた. 別れ際, 「今度は, お仕事でなくいらっ しゃ れるといいですね. 懐かしいところでしょう」 と笑顔で言わ れた. そういえば昔, もう少し先の銭湯に来たことがあることを思い出した.. <註及び参照文献> ① 大森第六小学校,1 9 7 8:1頁. 「 ② 中野重人,1 9 3 8 , 新しい評価観と関心・態度の研究」 , 東京都千代田区立佐久間小学校 『「関心・態度」 を育てる社会科の指導と評価』 , 2‐ 3頁;但し, 括弧内は引用者による‐ ③ 東京都千代田区立佐久間小学校は, 昭和5 6年度・5 7年度にわたって, 文部省及び千代田区の研究協力校の指定を受けて, 「関心‐態度の評 価方法の開発」 に取り組んだ. その研究成果は, 『「関心・態度」 を育てる社会科の指導と評価』 という本にまとめられ, 昭和5 8年に明治 図書から刊行された‐ また, 上田束小学校と東雲小学校の2校も昭和5 6・5 7年度に文部省の調査研究協力校の委嘱を受け, 社会科における 関心・態度の指導と評価の研究に取り組んだ‐ その成果の一端は, 『初等教育資料』(昭和5 7年5月号) に載っている‐ なお, 田中先生の実 践 「1年単元 ちかくのこうえん」 も 「指導と評価の一体化」 というタイトルで同号に掲載されている. ④ たとえば, 藤岡信勝 「 『態度主義』 論争再考」 0 3 2年2月号, 明治図書, 4 3 9 8 3 ‐ 4 8頁. o ,『現代教育科学』N . ,1 ⑤ たとえば小学校1年生の目標として掲げられた下の二つは, まさに 「表現」 と 「読書」 に関わる態度なのである‐ ① 経験したこと, 身近な事柄などについて, 簡単な文章を書いたり, 話をしたりすることができるようにするとともに, 進んで表現しよう. 58.

(14) . 「共感的理解志向の社会科」 授業の誕生 とする態度を育てる‐ ② 書かれている事柄の大体を理解しながら文章を読んだり, 粗筋をつかみながら話を聞いたりすることができるようにするとともに, やさ しい読み物を楽しんで読もうとする‐ 8頁. 5年・5 6年度大田区教育委員会研究奨励校研究報告 一人一人の学ぶ力を高める指導の工夫』 1 『昭和5 ⑥ 大森第六小学校 1 98 ,4 ⑦ 巻末資料② 「大森第六小学校の態度目標」 参照‐ ‐ 7 97 8:6 8 9頁‐ ⑧ 大森第六小学校, 1 97 8:7 7頁. ⑨ 大森第六小学校,1 8頁. ⑱ 大森第六小学校,1 8:7 97 ‐ 97 8:9 3 1 0 3頁‐ ⑪ 大森第六小学校,1 ⑫ 同上:1 2頁. 0 ⑬ 同上:1 1 6 ‐ 1 1 8頁;但し, 括弧内は引用者‐ ⑭ 同上:1 1 7頁. ⑮ 同上:8 8頁‐ 7年5月号) 2頁;ただし, ⑯ 田中かよ子 1 9 8 2 ,4 , 『初等教育資料』(昭和5 , 「指導と評価の一体化--1年単元 『ちかくのこうえん』 --」 下線は引用者による. 7年5月号) 8頁- ⑰ 中野重人 1 9 8 2 ,3 , 『初等教育資料』(昭和5 , 「社会科における関心‐態度の指導と評価」 「 一人一人の学ぶ力を高める指導の工夫 1 ⑩ 大森第六小学校, 1 9 8 , 大田区教育委員会研究奨励校中間報告. ▲国一人一人の学ぶ力を高め. る指導の工夫-特に関心・態度の評価を通して-」 ⑩ 大森第六小学校, 1 9 7 8 3 02頁‐ ⑳ 同上:9 3頁. 2頁‐ 9 7 8:1 0 ⑫ 大森第六小学校, 1 ⑩ 二井家美智子 1 1 98 , 『社会科の初志をつらぬく会の授業 , 「寒くて雪の多い土地の気候と冬のくらし-大曲の子どもとの文通を通して-」 ‐ 1 2 2 9頁‐ 記録選 第四集』 明治図書, 8. 59.

(15) . 吉. 正 生. 田. 巻末資料 福井県福井市立足羽小学校の社会科学習指導案 (指導案作成者:高橋道雄教諭) 単元 「ごみのしまっ」 展開計画 ( 1 3時間取り扱い) 主 題 と ね ら い. 過程. 1. 時数. 学. 習. 内. 容. 習. 活. 動. 資 料 ・ 留意 点. ○ 児童の実態 を知る ための ○ ごみ を どう しまつ してい ・記入用紙. ごみはどうするの. る の か に つ い て, 自 分 の ・ ス ライ ド. 問題 ・ ごみ は ど う しま つ さ れ. 自 分 た ち の 出 す ご み は,. て いる か. ・昔は, どう しまっ した. どのように始末されて. ・なぜ市 が集める か 1. 知 っ て い る こ と を 書く ○ 調 べ た い こ と, 知 り た い. ことを列記 し, 自分の学. (ゴ ミ の 山) (学 校 の ゴ ミ. 置場). 習 課題 をきめる. か. いる かの 実態 調 査 と調 べた い こ と をま と め る. 学. ○ 学 習 の 進 め 方 を話 し合 う. . 調 べ た い こ と はな に か 0 調 べ 方 とま と め 方 ・ 学 習 計 画 を立 て る ・ 調 べ 方 - - 教 科 書,. . . . り. ゴ ミ の 行く え. 2. 0 ご み の 行 く え を 概 略 する ・家 の ごみ→ 袋 → 集積 場. 題. → 収集車→処 理場. ご み は, ス テ ー シ ョ ン. (焼 却 → 埋 立 て). 表 しな が ら順 を 追っ て 知 る ・ ごみ の 行く え を 図 で ま. に 集 積 さ れ, 収 集 車 で. と める. 処 理 場 へ 行 き, 焼 却,. 把. ○ ご み は ど う し ま つ さ れ て ・ ス ライ ド い る か, 前 時 の 予 想 を 発 (ゴ ミ ステ ー シ ョ ン) (収 集 車) (処 理 場 の様 子) ・市 地 図. 埋立てされる という流. ○自分の調 べ たい課題 の確 ○前時の学習課題を吟味し, 認と意欲づ け. れ を知る 握. (処. 理場の位置). さ らに具体的な調べる 課. 東 山セ ンタ ー. 題 を考 え, 決 定 す る. 南江 守セ ン ター. 1. 笹 岡セ ンタ ー. 0共通課題を立てる. 共通課題を作成する. ①10年 前 と く ら べ て ど れ だ け ふ え た か, な ぜ ふ えたのだろう ② 清 掃セ ンタ ー で は どん. ○ みんなで追究する 課題を 話 し合 う ・ グ ル ー プ で 話 し 合 い, い く つ か の 問 題 にす る ・ グルー プの 問 題 を出 し. な 機 械 が あ っ て, ど ん. 合 い, 全 体 の 問 題 と す. な は た ら き か, な ぜ そ. る. んな 機 械 が い る の か ③ な ぜ 市 役 所 が ごみ を 集 めるのか 3. ごみ収集車を追って ・ 0声繋 霜言豊狭護 。宣言書集車 を追い, 分布 表す. 4. 新 聞づ く り. 2. 0 新 聞づ く り 自 分 の 書 き た い こ と を1. 関 自分で調 べた こ とやわ かっ た こ と を新 聞 にま. 枚 の 紙 に ま と め, 文 や 絵, 小 見 出 し をつ かっ て ま と める. (市 の ご み 処 理状況の資 料 を教卓 に. (家 の ご み, 町 内 の ご み ス. 展 示 する). テ ー シ ョ ン な ど) を 新 聞. (町 内の ご み. にま と める. ステ ー ショ ン 分 布 図). とめることができる. 係. 5. 追究課題{ 1 ). ○なぜ, みんなが出す1人あ ○ごみ量は年々増大している ・ 年 度 別 ご み たり の ごみの量 が増 えたか. 60. する. ○ 教 科 書, 副 読 本, 家 の 人 の 話, 自 分 の 調 べ た こ と. ‐校区地図. ことから学習課題を確認する. 排出量.

(16) . . 「共感的理解志向の社会科」 授業の誕生 主 題 と ね ら い. 過程. 時数. 1人当たりのごみ排出 量がふ えているのは, 考. 消費生活水準の急伸と 包装・広告紙等の増大,. I. 自家処理の変化による. 学 習. 内. 容. 学 習. 活 動. 資料・留意点. ・予想・調 べ たことから ・ ス ラ イ ド ・消費生活の向上, 広告・ (ス テ ー シ ョ 答を見い出す 包装紙の増加, 自家処 ン) ・資料をもとに考える 理の変化 ○ ごみの増大 と処理施設の 0 ご み量の増 大 に対する対 ・自 分 の 家 の ごみの記録 策が どうな っ ている かを 拡大と充実 ・昔 の ご み 処 話し合う ・収集日と回数, 焼却施 理の絵 設 ・所得の向上. 察 /. 0清掃セ ンタ ーでは, なぜ ○清掃センターの施設や設 大きな施設が必要で夜お 備をスライ ドや図で見て, 学習課題を確認する そくまでしているのか ・予想を立てる ・ ごみ量増大 --1人当 ・みんなで考え, 追究す たり排 出量, 人口増,. 2 追究課題( ). 6. 処理施設は, ごみの量 事. の増大と質の変 化に対. 応する収集作業と処理. I. をするため大型化, 近 代化に努めている. ・市の広 がり. 地図 ・ごみの実物 ・ 人 口 グラ フ. 実. ・ 自分の家の ごみの記録 る 区域の増 ・質の変化-- ビニル, ○ 町内の ごみステ ー シ ョ ン ・ ス ライ ド の様 子 や収集 日の様子 と プラスチ ッ ク 類, かん 課題を関連して考える 類 ○集め方のちがい. ○なぜ市役所がごみ収集を ○ ごみ収集 車 には市のマー ・市地図. 3 ) 7 追究課題( 調. ク があり, 収集の パ ンフ ・ ス ライ ド するのか ごみ収集日程表 毎日 レッ トも市役所からだ ・住民のねがい きて ほしい, すてる 所 0学習課題を確認する が なし、 ・予想 をたてる。 追究す る 捨て られ ・公害問題 ている ご み, 不衛生, ○立地 を考え, 広域化 して 生ごみ 共同体制 をとる 理由 を考 える ○他の市町村との共同 ・東山セ ンタ ー, 笹岡セ. 住民の願いや公害から 住民を守る ため, 市が 査. 計画的にごみ収集を行っ ており, 他の市町村と も連携している. ンタ ー. これからの計画と問題. 1. 8 発 展 ・ 追. 見学調査とまとめ ・処理場見学. 2. 究. ・まとめと発表. 2. 9. ○増 える ごみ量 とその有効 ○ ごみの有効な利用 法には, ・ パ ンフ レッ ト どんなものがあるか ・見学のしおり な利用 法, 今後の対策 を (見学調査は 考える. 実 際 は新 聞 ○東山センター見学. ○見学と学習のまとめ. ○自分の問題, みん なの問 題 を確 かめるため に見学 する ○ノ ー トにま とめる, 発表 する. づくりの前 にできる と よい). 1‐1 5 3頁. なお, 原資料が入手できなかっ たため 5 『社会科評価の理論と方法』 明治図書, 15 (出典:中野重人 198 に, 中野の著書からの引用となった). ※本来, 本資料は連載第1回目の原稿に付すべきものであったが, 紙数の関係でこの号に回した‐ そこでまた, 大森第六小学校の 「態度目標 一覧」 という資料を次号に回さざるを得なくなった‐. 61.

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