〈自由研究〉
兵庫県立A特別支援学校改善プラン
児童生徒の自立と社会参加を目指す学校づくり
-12 年間の学びをカリキュラム・マネジメントでデザインする-
合 内 瑠 美
はじめに 内閣府は政策の柱の一つとして共生社会を明示し、各省庁では共生社会の実現に向けた 施策が行われている。学習指導要領が改訂され、兵庫県は「兵庫県特別支援教育第三次推進 計画」(2019)で、共生社会の実現に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別 支援教育の更なる充実を図ることを目的にした連携の構築に取り組むことを示している。 近年はこれらの他にも重度身体障害者の国政参加等、障害者に関する状況が変化している。 今後、益々変わっていく社会の中で、児童生徒が卒業後どの様に生きていくのか、そのため に必要な力は何か、学校はどの様に教育活動を充実させていくべきかを今まで以上に考え ていかなければならない。そこで、児童生徒の卒業後の生活を見据え、自立と社会参加の実 現に向けた学校改善プランをカリキュラム・マネジメントの視点から提案する。 1 本校の概要 (1)本校の沿革 本校は 1979 年に兵庫県立B養護学校の分校として開校し、肢体不自由部門の小学部及び 中学部を設置した。その後、寄宿舎の設置、独立を経て高等部が開設され、2007 年に現在 の校名に変更した。2010 年に知的障害部門が開設され、現在の肢体不自由部門と知的障害 部門の 2 部門、小学部から高等部の 3 学部を有する学校になった。 (2)これまでの学校改善の変遷 ① 知的障害部門併置に関する変遷 本校の沿革の中で最も大きな転機は 2010 年度の知的障害部門開設である。知的障害部門 と肢体不自由部門の併置に向けて、当時の校長が前年度にプロジェクトチームを立ち上げ、 教室環境や教材・教具の整備、教育課程の新設や学級編成等にあたらせた。知的障害部門設 置初年度は、肢体不自由児童生徒の安心・安全のため部門で校舎を分けたが、その後、検討 と運用を繰り返し、2013 年度に現在の 2 部門の児童生徒が日常的に共に学ぶ学級編成の形 になった。また、翌年度に高等部肢体不自由部門の高等学校に準ずる教育課程の入学を希望 する生徒がいたことから、教科指導ができるように体制等を検討及び整備した。 ② 組織マネジメントによる学校改善 2015 年度に着任した校長は「組織を動かす」「連携」「協働と参画」を自身の理念を表す キーワードとして学校経営を行った。改善に取り組むにあたり、教職員が自分たちで学校を 動かす意識を持たせることに重点を置き、1 年目にビジョンの策定、2 年目はビジョンの展 開を行った。まず、2015 年度の教職員研修で SWOT 分析を行い、教職員自らが学校の使命 や、やるべきことを考えるようにした。また、各学部のめざす児童生徒像について KJ 法を用いて明らかにし、翌年度の児童生徒像を決めた。これらを通して明らかにした学校の重点 課題は 「適切な指導体制の推進」、「学校組織の活性化」、「地域に根ざした教育活動」、「セ ンター的機能の充実」、「専門性の向上と活用」の 5 点であった。そして、これらをグランド デザインとして策定し、校務分掌部毎に次年度に取り組む課題を決め、その取り組む内容を 学校評価シートの評価項目として明記した。この 2 年間の組織マネジメントによる学校改 善は、現在の本校組織運営の基となっている。2017 年度に着任した校長は、校務分掌の再 編、30~40 代教員の学部長及び学年主任への配置、教員の大幅な学部間異動、若手研修会 の定期開催、iPad を使用した病弱児家庭への授業配信等を行った。そして、前校長の在職中 からの課題であったマンツーマン体制の脱却への対応と、校内支援の強化及び進路指導の 充実のため、担任数を減らし、その余剰人数を支援研修部の専任の特別支援コーディネータ ーと進路指導部の専任教員として充足した。2019 年度に着任した校長は、管理職、保護者、 教員による懇話会を実施したり、市と連携・協働した福祉避難所開設訓練等を行ったりした。 業務改善に関しては、職員会議議題の精選及び短縮化、会議回数の削減、教職員への配布物 のペーパーレス化等が定着し、教員の退勤時刻が平均 18 時となった。 3 本校の課題整理 (1)本校の現状及び分析 ① 授業研究の変遷及び分析 2015 年度はキャリア教育推進委員会を中心に本校用の「キャリア教育発達段階表」の作 成を始めると共に、キャリア教育の先進校を同委員会の教員が視察した。2016 年度は夏季 研修会に藤原氏(創価大学)を講師として招聘し「児童生徒が見通しを持ち、わかって活動 する授業づくり~キャリア教育の視点を踏まえて~」をテーマとした講演会を実施した。そ の講演会において、藤原氏は授業づくりの見直し手順として、「環境的支援の見直し」、「個 のニーズに応じた支援の見直し」、「人的支援の見直し」の 3 点を示した。更に、教員が児童 生徒に常につき、困らないように支援したり配慮したりした結果、児童生徒が教員を頼るこ とを当たり前としてしまい、教員がいないと行動したり考えたりできなくなる悪循環を「手 厚い支援」と表現し、児童生徒の成長の阻害要因である旨を示した。この藤原氏が示した見 直し手順はその後の授業研究の柱にもなっている。キャリア教育に視点を置いた授業研究 をすることで、教員に児童生徒の卒業後の生活を意識する習慣はついてきたと考える。研究 授業では卒業後の生活を見据えた単元設定がされていたり、教員の指導体制を工夫したり しているが、研究授業のグループによって取組状況に差があることは否めない。研究授業を ツールとして日々の授業や指導・支援を見直したり、教員の指導力向上を図ったりし、学校 全体の授業の質を向上させることも必要ではないかと考える。 ② 教員の特性と分析 筆者が行った教員対象アンケート(回答率 98%)によると、「教師としてのミッション」 を「児童生徒への指導」としている教員が最も多く、次が「専門性の向上」である。「教師 になって良かったと感じる時」は、「子どもの成長が感じられたとき」が最も多く、次が「子 どもの目が輝く授業ができたとき」である。「悩んでいること」で最も多いのは「授業や指 導の進め方」が約半数を占めている。そして相談相手は「先輩教員」が最も多く、次いで「同 僚」がほぼ同じ割合である。アンケートの結果は次の通りである。
ご自身の教師としてのミッション(使命)は何だとお考えですか。(複数回答 3 つまで可) 児 童 生 徒 への指導 学 校 目 標 の達成 若 手 教 員 の育成 自 身 の 専 門 性 の 向 上 校 務 分 掌 の達成 地域貢献 保 護 者 ニ ー ズ に 応 える 未記入 2019 年度 96% 12% 2% 61% 4% 6% 33% 2% 「教師になってよかった」と感じるのはどのような時ですか。(複数回答 3 つまで可) 子どもの希 望する進路 が達成でき たとき 保護者や地 域の方から 感謝された とき 子どもの成 長が感じら れたとき 同僚から賞 賛を受けた とき 管理職から 感謝された とき 子どもの目 が輝く授業 ができたと き 未記入 2019 年度 22% 37% 94% 8% 2% 61% 0% あなたが今悩んでいることは何ですか。(複数回答 3 つまで可) 児 童 生 徒 との関係 保 護 者 と の関係 職 場 の 人 間関係 授 業 や 指 導 の 進 め 方 校 務 分 掌 に 関 す る こと 自 身 の 健 康 家庭問題 未記入 2019 年度 14% 4% 31% 53% 24% 14% 16% 12% 仕事で悩んだとき、誰に相談しますか。(複数回答 3 つまで可) 同僚 先輩教員 管理職 友人 家族 未記入 2019 年度 63% 69% 27% 22% 27% 2% 昨今、学校と地域が手を携え子どもたちを育てるという「開かれた学校」「社会に開かれた教育 課程」の理念が浸透し、地域協働学習が活発に行われるようになってきています。この学習に取 り組む際の課題は何だと思いますか。(複数回答 3 つまで可) 人材探し などの負 担が増え る 情報漏洩 のおそれ 保護者が 参加を希 望するか の確認 学習中の 事故が心 配 個別の教 育目標の 達成に適 さない 地域から の支援が 期待でき ない 地域の人 がいると 授業がや りにくい 未記入 その他 2019 年度 59% 37% 18% 6% 16% 10% 6% 14% これらを分析すると、教員は児童生徒への思いが強く、授業への熱意があり、授業等につ いて相談しやすい環境にあるといえるのではないかと考える。指導や授業への熱意が高い 一方で、地域協働学習への意識が低い上、意義が理解できていないのではないかと感じる。 教員の指導・支援の様子については、授業以外の場面では児童生徒から支援依頼があるまで 見守っている様子や、児童生徒同士がコミュニケーションをとれるよう助言する様子等が 見られた。しかし、授業中は児童生徒につきっきりで細かく指導・支援をしている様子や先 回りした指導、教師主導の授業等があった。これらより、授業以外は生活の場であるため、 卒業後の生活への思いから見守る姿勢や促す支援が行われている反面、授業中は「指導する」 という使命感や「成長してほしい」等の強い思いがかえって手厚すぎる指導・支援等になっ ているのではないかと考える。 ③ 児童生徒の実態と分析 本校の児童生徒は、授業以外の場面では障害種や程度に関係なく共に過ごし、笑い合って
いる姿が頻繁に見られる。そして、学部や学年等で仲間意識を持ち、心優しく穏やかな児童 生徒が多い。授業中は、障害に起因する想定内の立ち歩き等の行動を除き、教員の指示や助 言に従った行動をとっていることがほとんどである。しかし、見方を変えると、教員の指示 待ちであったり、自分で考えようとしない姿であったりすると言える。更に、経験不足に起 因していると推測される様子もある。授業中と授業以外の場面での児童生徒の様子に違い があることは一見矛盾しているが、これは教員の指導・支援の結果だと推測する。授業以外 の場面では、教員は児童同士や生徒同士が直接関わるように声掛けをしたり、遊びを工夫し たりして教員は離れるようにしているが、授業になるとマンツーマン体制になりがちで、教 員による手厚い指導・支援や先回りした指導・支援が行われやすい傾向があるためである。 これが児童生徒の矛盾した姿につながっていると考える。 ④ 授業の現状と分析 学習活動は、ほぼ学部単位で行われている。学部長が教育課程を編成し、学習指導要領も 学部ごとに示してあるため、何をするにも「学部」の動きが中心となるのは致し方ない所で ある。しかし、教員から聞かれる「私は〇学部だから△学部のことはわからない」という言 葉が当たり前になっているのは問題ではないかと考える。実は、これは学部間のみのことで はなく、学年間や担任間でも起こっている問題である。この根本には教員の熱心さによる弊 害があると考える。教員は目の前の児童生徒の指導・支援に熱心なあまり、学部や学年間の 連続性に対する意識が薄く、学びの連続性よりも目の前の児童生徒の実態に必要な単元や 学習活動の設定が最優先になっているからではないかと考えたからである。その結果、担任 が変わると取組の重点が変わってしまったり、下学部での学びが活かされず同じ学習目標 で授業をしていたりする。これらのように、児童生徒の学びが学部等で途切れてしまい、12 年間の学びの連続性が担保できていない。 授業全体の傾向として、「生活単元学習」や高等部の「職業科」と「家庭科」は卒業後の 生活を見据えた単元設定が行われていることが多いが、「国語科」「算数科」「数学科」「作業 学習」は卒業後の生活に向けて般化しきれていない傾向がある。特に各教科の指導について は、新学習指導要領で、日常生活で活用できる力にすることを重視していることからも、卒 業後の生活を見据えた系統立てた指導に加え、般化が必要であると考える。そして、本校で は「放課後仕事体験」として知的障害部門の高等部生徒の希望者 2 名が、スーパーマーケッ トでの品出しと市役所での清掃活動を行っているが、授業ではない。以前行われていた、地 域人材を活用した出前授業や、地域施設での清掃活動や販売学習も行っていない。校外学習 についても、学部や学年毎に年に数回程度である。この様に児童生徒の学びの場がほぼ校内 のみであれば、実際に生活等で使える力にはなりきれないと考える。卒業後を見据えた指 導・支援を行うには、地域での学びは必要であると考える。 (2)本校の課題の整理 本校の課題を整理すると、次の 3 点である。第一に、どの教員も児童生徒の卒業後の生活 を見据えて指導・支援を行っているものの、教員によって最適と考えている指導・支援の方 向性が異なるため一貫していないこと。第二に、児童生徒の学びが学部毎で途切れているた め 12 年間の連続性が担保できていないこと。そして第三に、児童生徒の学びの場がほぼ校 内のみということ、である。
4 学校改善プランの方向性 田中は著書『カリキュラム評価入門』で、「カリキュラム・マネジメントは、教育課程経 営として固定概念化してきた従来の枠組みを組織戦略に転換させるものである。すなわち、 教育課程からカリキュラムへの転換は、まず教師たちが教育課程の実質を教科書・教材から 子どもの学習経験に移すことから始まる。」と記している。これに本校の状況を当てはめて 検証すると、本校に必要なカリキュラム・マネジメントは、「児童生徒の実態に応じて柔軟 に対応しすぎているため、学部や学年毎に途切れているカリキュラムを学校としての組織 的なものにすること」であり、「児童生徒の学習活動とそこでの学びを根幹にした必要以上 のカリキュラム主義的志向から、卒業後の生活を視野に置いた教育課程に基づき、各教科等 の児童生徒の学びを横断的・系統的に組織することへの転換」ではないかと考える。それに は、全学部共通の指標となるものが必要ではないかとも考える。更に、田中は同著書で「カ リキュラムの考えは学習者の経験内容に注目する。『PDCA から CAPD へ』の転換が必要な 理由も、カリキュラムの実質に目を向けるためである。」とも記している。本校は、「学習者 の経験内容」に焦点を当てると、教員や場面によって指導・支援の方向性が異なるため、児 童生徒の経験からの学びがアンバランスである。このアンバランスさをなくすためにも組 織戦略的な転換が必要であると考える。学習指導要領では教育課程の編成について「教科等 横断的な視点」を重視し、指導計画の作成等にあたっては「主体的・対話的で深い学びの実 現に向けた授業改善」、「各教科等及び各学年相互間の連携を図った系統的、発展的な指導」、 「指導方法や指導体制の工夫改善」がキーワードとなっている。それに加え、学部段階及び 学校段階等間の接続を図ることも示されている。これらより、児童生徒の自立と社会参加を 目指すには、「教育課程」「授業改善」「組織的な動き」の 3 つが柱になると考えた。12 年間 の系統性及び連続性を担保する教育課程を編成し、主体的・対話的で深い学びの視点による 授業改善を行うために、組織的に取り組む体制や場を構築するのである。 12 年間の系統性及び連続性の重要性を上岡(2017)は著書の中で「特別支援学校は通常 の学校と違って、小、中、高の一貫教育が柱です。12 年間教育の積み重ねがあってこそ、自 立、社会参加が実現できるという考えです。」と記している。この 12 年間の児童生徒の学び を貫き、教員個人の力量等に左右されない指導を行うには、共通の物差しとなる指標が必要 であると考える。その指標は児童生徒の生活年齢を基準にする各教科等を合わせた指導の もの、発達段階を基準にする各教科のものの 2 種類を作成及び活用する。そして、各授業間 の学びの連続性を保持することに加え、地域人材や地域資源等を活用した学習活動を教育 課程に位置付け、年間を通して計画的に地域での学習活動を行う。教育課程に位置付けるこ とで、地域人材や地域資源等を活用した学習活動の在り方が担当者によって左右されるこ となく、継続した活動になるのではないかと考える。主体的・対話的で深い学びの視点によ る授業改善をするためには、児童生徒の卒業後の姿を見据え、方向性を統一した指導・支援 が必要であると考える。それに加え、在籍児童生徒の生活年齢が幅広い利点を生かし、学部 共同学習を実施する。学部共同学習を行うことで、それぞれの学部での児童生徒の学びが深 まる上、教員が他学部の学習活動を知り、単元等を設定する際に学びの連続性を意識しやす くなるのではないかと考える。組織立てた動きとしては、一つの組織だけで対応するのでは なく、組織が連携・協働して行うことが重要であると考える。ただし、教員の負担感をでき る限り少なくし、尚且つ、現在の組織の活性化を図るために、新しい組織を立ち上げるので
はなく、現在ある組織を有効活用し、連携・協働して推進するように考えた。以上の方向性 をまとめたものが図 1 である。 5 学校改善プランの具体策 (1)12 年間の系統性及び連続性の担保 ① 指標の作成及び活用による系統性及び連続性の担保 (ア)各教科 各教科の指標は児童生徒一人一人の発達段階に応じた連続性の担保を意図している。各 教科で学びの連続性を担保するために、共通の物差しを作成し、活用することで教員個人の 専門性等によって、児童生徒の学習課題が左右されることが減り、教科内の領域を網羅する と共に、発達段階に即した 12 年間の系統性及び連続性を担保した指導ができるのではない かと考える。そこで、各教科の中でも、小学部 1 年生から高等部 3 年生まで共通して開設さ れる国語科及び算数・数学科で学習指導要領に即した具体的な指導内容を「学習段階表」と して作成する。しかし、学習指導要領の内容よりも発達段階がもっと低い児童生徒もいる。 それらの児童生徒の「学習段階表」には乳幼児期の発達段階を踏まえ、それを各教科の領域 に落とし込んでいかなければいけない。これには、非常に高度な発達に関する知識・理解が 必要であり、妥当性の検証についても研究者との密な連携・協働が必要なレベルになってし まうため、研究者等が作成した既存のものを活用する。指標の活用に加え、ほぼ個別指導が 行われている国語科及び算数・数学科の授業を一斉指導も併用することで、個別指導での基 礎・基本の学びを一斉指導で応用や般化できたり、児童生徒同士が協同して学習課題に取り 組むような対話的で深い学びもできたりするのではないかと考える。 (イ)各教科等を合わせた指導 各教科等を合わせた指導では、学部や学年ごとに児童生徒の学びが途切れている。その上、 学習内容が児童生徒の生活年齢に応じていなかったり、時には、学部間で逆転現象が起きて 図 1 具体的方策の関連性 自立と社会参加 12年間の系統性及び 連続性の担保 組織間の 連携・協働 指 標 の 作 成 及 び 活 用 に よ る 系 統 性 及 び 連 続性の担保 各教科 各教科等を合わせ た指導 授 業 間 の 連 続 性の保持 指導・支援の「方 向性」の統一 主体的・対話的で深い学 びの視点による授業改善 地 域 人 材 や 地 域 資 源 等 を 活 用 し た 学 習 活 動 の 教 育 課 程 への位置づけ 学 部 共 同 授 業 の実施
いたりすることもあ る。そこで、生活年齢 に対応した連続性を 意図し、小学部から 高等部の学習活動を 系統立てた指標を作 成する。ここで参考 に す る の が 、 上 岡 (2015) が 示 し た 図 で ある(図 2)。 本校での表作成に あたって、まずは、実 際に各学部や学年の 取組を整理し、生活 年齢と生活年齢に応 じた社会の広がりを 踏まえた上で見直し と再編を行う。そし て、卒業後の姿を示 し、何のためにこの 学 習 を 行 っ て い る のかを明確にする。作成した表は、それを一つの基準にすることで系統性を保つことができ る上、卒業後の姿を見据えて更にどのような学習活動が必要か考える手がかりにもなると 考える。さらに系統性が似通ったものでまとめると、自ずとこれまで実施されていない内容 も明確になると考える。明確になった未実施の内容については、卒業後の目指す姿を示し、 それを学部末での姿、学年末での姿、学期末での姿、単元末での姿と段階的に落とし込んで いく。 ② 授業間の連続性の保持 武富(2017)は、知的障害のある児童生徒の実態の多様化とその状況に対応した学習構成 の視点として、「般化(学びの広がり)」「高次化(学びの高まり)」「輻輳化(学びの重なり)」 を示している。「般化」を学んだことをどのように生活に結びつけていくのかを考える軸、 「高次化」を在籍する児童生徒の実態が 多様化している中で、必ずしも抽象的な 思考が極端に難しかったり、概念化や法 則性等への気づきが極端に困難であった りという児童生徒ばかりとは限らない状 態にあることを反映した軸、「輻輳化」は 各教科等の学びを関連付け、一層深めて いく軸とし、この 3 つの軸を三次元のモ デルとして組み立てている(図 3)。そ 生きる力 (ライフキャリア) 家庭生活への適応 (家庭・学校での課題・役割) (小学部) 職業生活に適応 (職場での課題・役割) (高等部) 生活の質の向上 (思考を伴う主体性) 地域生活に適応 (地域生活での課題・役割) (中学部) 生活に適応 学校生活への適応 (学校生活での課題・役割) (小学部) 子どもにとってふさわしい生活の 中で課題、役割を主体的に遂行 生活意欲 図 2 「生活単元学習」とキャリア教育 「高次化」(学びの高まり) 「輻輳化」 (学びの重なり) 「般化」 (学びの広がり) 図 3 知的障害のある児童生徒の学習構成の視点
こで、各教科の学びを、各教科等を合わせた指導の中で活用し、明らかになった児童生徒の 課題に各教科の指導で改めて取り組む。この授業間の学びの連続性を踏まえて年間指導計 画を作成することで、児童生徒の各教科の学びが生活で使える力になっていくと考える。 ③ 地域人材や地域資源等を活用した学習活動の教育課程への位置づけ 上岡(2015)は、自立と社会参加は当面の目標であり本来の目標は人生の質を高めること、 社会参加は単に社会に参加するのではなく社会に適応すること、人生の質を高めるために は少なくとも学校教育の中で家庭や学校や地域で存在価値を示すことができた児童生徒を 育て、職場や社会に送り出していくことと述べている。卒業後の自立と社会参加を見据える と、地域人材や地域資源を活用した学習活動は、児童生徒にとって「本物の学び」ができる 重要な学びになる。この学びのもう一つの目標は、障害を有する児童生徒が地域で活動する ことで地域に共生の種を植え、芽を出させることができることと考える。本物の学びを定着 させ社会に開かれた教育課程の実現を図るために、まず、地域と連携・協働した学びの意義 について全教員参加の研修会を行い、共通理解を図る。その上で、児童生徒の学びの場の一 つとして教育課程に位置づけることで、計画的かつ持続的な教育活動として展開できると 考える。かつて、地域の公共施設や物産販売等施設で学習活動を行っていたが、新たに福祉 事業所との連携も考える。 (2)主体的・対話的で深い学びの視点による授業改善 松見(2017)は必要な指導・支援等について、「主体的な学び」では児童生徒が主体的に 学ぶ内容や仕掛けの工夫と児童生徒のリフレクション能力の向上、「対話的な学び」では、 他者との協働や外界との相互作用がうまく働くように配慮し、一人一人が能力を発揮しな がら対話による学びを広げ思考を深めていけるようにすること、「深い学び」でのキャリア 発達支援では、どのような内容に取り組むのか、なぜ学ぶのか、何のために学び、その結果 どんな力が付くのかといった児童生徒にとっての学びの意味をつかんでいけるようにする こととしている。これらを筆者なりに児童生徒視点でイメージ化したものが図 4 である。そ して、書籍等で記載されている特別支援学校の実践報告も合わせて教員視点でイメージ化 したものが図 5 である。 図 4 児童生徒視点の主体的・対話的で深い学び 図 5 教員視点の主体的・対話的で深い学び
① 指導・支援の「方向性」の統一 まずは全体研修会等で「自立と社会参加」の概念について、意見を出し合い、その意見を 集約し、共通理解を図る。次に今までの授業を「主体的・対話的で深い学び」の視点で捉え 直す。その上で、自立と社会参加に必要な何の力をつけるために、どのように学ばせるか、 その力をつけるにはどのような指導・支援が最適か等を検討し、指導・支援方法の「方向性」 の統一を図る。その際、学校生活全般を対象とすることで、教員個人や場面による指導・支 援の方向性の違いがなくなっていくのではないかと考える。 ② 学部共同学習の実施 現在の学部や学年で行われている学習活動の中に、他学部との共同学習を加える。下学年 の児童生徒にとっては実際に活動している上級生の姿が身近な将来像となり、上級生にと っては、相手や状況に応じて柔軟に判断し、応用する実践的な学びの場の一つになる上、相 手に喜んでもらうことで自己有用感や自己肯定感が高まり、更に主体的な学びや深い学び につながると考える。これは既に実践している学校の成果として書籍などでも示されてい る。本校での実施にあたっては、各学部が行っている学習活動に他学部の児童生徒が参加す ることから始める。「共同学習」としたのは、合同学習と異なり、その単元や授業時間中常 に一緒に活動するのではないため、教員の負担が少なく、取り組みやすいのではないかと考 えたからである。例えば、中学部生徒が高等部作業学習木工班に木製品の作成依頼をすると いう内容である。共同学習が定着すれば、次は合同学習を取り入れたい。これは中学部と高 等部の合同作業学習や、縦割りグループによる清掃活動等である。 (3)組織間の連携・協働 児童生徒の 12 年間を見通した様々な取組をするためには、校務分掌専門部や校内委員会 が相互に関わり、連携・協働して推進していく必要がある。この組織的な動きは、学習指導 要領等でも述べられている。そこで、各具体策を最適な校務分掌専門部及び校内委員会が主 管し、校務運営委員会がこれらを統括することを考えた。具体的には、方策の 1 つ目の柱 「12 年間の学びの連続性及び系統性の担保」は教育課程検討委員会が主管し、進路指導部 が補助をする。教育課程検討委員会を主管にしたのは、本校で各学部の教育課程を編成して いるのは学部長であり、それを統括するのが教務部だからである。その上、高等部では、運 用にあたり学年主任が果たす役割が大きい。また、補助を進路指導部としたのは、地域との 連携・協働に関して企業等を最もよく知っている上、かつて行っていた地域での清掃活動と 販売学習を主管していたからである。方策の 2 つ目の柱「主体的・対話的で深い学びの視点 による授業改善」は支援研修部が主管し、キャリア教育推進委員会が補佐に当たる。主管の 支援研修部の職務は校内支援、地域支援、研修推進、職員研修である。各研究グループの教 員の力量差による授業研究の質の差の軽減と、若手教員の専門性及び授業力向上を図るた めに、新たに支援研修部の職務である校内支援を活用した支援を実施する。具体的には、専 任の部員がそれぞれ各学部のアドバイザーとして授業づくりに関わっていくのである。い わゆる、校内で行われる学部や学年等にとっての外の風の役割である。この 2 つの具体策を 統括する組織として校務運営委員会を考えている。この関連を示したのが図 6 である。既存 の校務分掌専門部や校内委員会を活用することは、児童生徒数が減少している本校にとっ て既存の組織に位置づけることで持続可能性が高まるのではないか、更に組織間の協同・連 携体制を強化する一つのきっかけにもなるのではないかと考えたからである。
おわりに 本校が児童生徒にできることは、卒業後の人生が豊かなものになるように、児童生徒それ ぞれに必要な力を身に付けるよう指導・支援することとであると考える。そして、本校の教 育活動の本当の成果は、卒業した生徒が「学校で色々なことを学んだから、しんどいことも 乗り越えていける。」と言うことであると考える。今後の予測困難な社会で、障害を有する 児童生徒がそれぞれの力を生かし、個性豊かに生きていく力を育む学校であり続けたい。 〈図出典〉 ・図 2 上岡一世 編著 『生活の質・人生の質がアップする! キャリア教育を取り入れた特 別支援教育の授業づくり』実践編、明治図書、p.125、2015 年 ・図 3 武富博文・松見和樹 編著 『知的障害教育におけるアクティブ・ラーニング』、東洋 館出版社、p.21、2017 年 〈主要引用・参考文献〉 ・上岡一世 編著 『生活の質・人生の質がアップする! キャリア教育を取り入れた特別支援 教育の授業づくり』実践編、明治図書、p.21・125、2015 年 ・上岡一世 編著 『人生の質を高める!キャリア教育 よりよく「生きる・働く」ための授業 づくり』、明治図書、p.70-72、2017 年 ・武富博文・松見和樹 編著 『知的障害教育におけるアクティブ・ラーニング』、東洋館出版 社、p.20-22・31-32、2017 年 ・田中統治・根津朋実 編著 『カリキュラム評価入門』、頸草書房、p.4-5、2009 年 ・文部科学省 『特別支援学校教育要領・学習指導要領解説 総則編(幼稚部・小学部・中学部)』、 2018 年 ・文部科学省 『特別支援学校幼稚部教育要領 小学部・中学部学習指導要領』、2018 年 ・文部科学省 『特別支援学校高等部学習指導要領』、2019 年 12 年間の学びの系統性及び 連続性の担保 主:教育課程検討委員会 (教頭、教務部長、支援研修部長、 学部長、学年主任) 副:進路指導部 (部長、副部長、小学部長、中学部教 員、高等部各学年教員) 校務運営委員会 (校長、教頭、全校務分掌部長) 主体的・対話的で深い学びの視点による 授業改善 主:支援研修部 (部長、副部長、専任コーディネーター、小学部 教員、中学部教員、高等部各学年教員) 副:キャリア教育推進委員会 (教頭、教務部副部長、進路指導部長、学部長、 舎務部長、学年主任、高等部肢体不自由Ⅰ類型 教員代表) 図 6 組織的な推進体制