小 松 原
恵
子
〔は じめ に〕
電 解 質 問 の沈 殿 反 応 に よ って 周 期 的 に沈 殿
を生 じ,縞 を作 る リー ゼ ガ ソ グ現 象 に つ い て
ク ロ ム酸 カ リウ ム と硝 酸 銀 の 系 は よ く知 られ
た例 で あ る.(文
献1,2)伊
藤 らが この 系
の環 形 成 を観 察 した と ころ,通 常 の リー ゼ ガ
ソ グ環 の 間 に 細 か い 縞 の あ る こ と を 見 い だ し
た.(文
献10)
そ こ で,こ の 縞 の 成 長 状 況 に注 目 し,顕 微
鏡 下 で 観 察 しな が ら ビデ オ 入 力 し,さ ら に パ
ソ コ ソ に映 像 取 り込 み を行 い 検 討 した.そ
の
結 果,こ
の 系 に お い て は,ク
ロム酸 銀 の 環 の
み を 生 成 す るの で は な い こ とが 解 った.ま ず
硝 酸 銀 溶 液 が拡 散 して ゼ ラチ ソ を凝 析 し,タ
ソパ ク質 の沈 殿 生 成 に よ る黄 白色 の環 を 作 る.
この 縞 は 次 第 に黒 化 して い く こ とか ら,銀 イ
オ ソ は沈 殿 部 分 に多 く存 在 し,銀 へ の還 元 が
起 こ っ て い る こ とが 解 る.次
に,形 成 速 度 の
遅 い ク ロム 酸 銀 の 環 が や や 遅 れ て成 長 しな が
ら,す で に 沈 殿 して い る 銀 イ オ ソ と反 応 し,
縞 を太 く して い く,即 ち2つ の形成 過 程 で リー
ゼ ガ ソ グ環 が 完 成 す る こ とが 解 った.
〔
実 験 方 法 〕
[1]機 械 器 具 オ リ ソ パ ス 生 物 顕 微 鏡(GK型) ビ デ オ カ メ ラ(SONYDXC-1800K/L/H) パ ソ コ ソ(EPSONPC-486GF) [II]試 薬 ニ ク ロ ム 酸 カ リ ウ ム(和 光 純 薬1級) 硝 酸 銀(和 光 純 薬 特 級) ゼ ラ チ ソ(和 光 純 薬) [III]試 料 の 調 整 と 実 験 方 法 (1)ゼ リー の 調 整 は,予 備 実 験 でA∼1の ゼ リ ー を 作 成 し,環 の 成 長 を 比 較 し た. (表1) Gが 最 も よ い 環 形 成 が み ら れ た の で, 今 回 の 実 験 は こ れ を 用 い た.即 ち,ゼ ラ チ ソ3gを 脱 イ オ ソ 水16.5酩 に 加 え,10 %ニ ク ロ ム 酸 カ リ ウ ム0.5認 と と も に 湯 煎 に て 溶 か し,UltrasonicCleanerに か け て 均 一 な コ ロ イ ド溶 液 に し た.こ れ を シ ャ ー レ に 厚 さ1mmに な る よ う に 入 れ, ふ た を し て 冷 蔵 庫 内 に 一 夜 放 置 した. (2)ゼ リ ー の み の 場 合 は,ゼ ラ チ ソ3gに 脱 イ オ ソ水17祕 を 加 え,(1)と 同 様 に し た. (3)注 射 器 で1滴 の25%硝 酸 銀 溶 液 を ゼ リ ー 上 に ス ポ ッ ト した. (4)観 察 は 顕 微 鏡 下 で 行 い,ビ デ オ に 収 録 し た.こ の 時 室 温(約26℃)で は,試 料 の ゼ リ ー が と け る の で 氷 で 冷 や し な が ら観 察 し た. (5)写 真 は,ビ デ オ に 収 録 し た 映 像 をPower Movie(映 像 処 理 ソ フ ト)を 使 用 し て パ ソ コ ソ 上 で 選 択 し た 静 止 映 像 を 撮 影 し た も の で あ る.〔
結 果 と考 察 〕
[1]ニ
ク ロム 酸 力 リウ ム を 含 ま な い ゼ ラ チ
ン層 に25%硝
酸 銀 溶 液 を滴 下 した 場 合
ニ ク ロ ム酸 カ リ ウム を含 む ゼ リー に,
クロム酸銀によるリーゼガング環の成長機構
表
1ゼリーの調整
ゼラチン
(
g
)
クロム酸カリウム
(
m
g
)
脱イオン水
(
m
g
)
A
0.5
0.5
B
0.5
1.0
C
0.5
2.0
D
1.0
0.5
E
1.0
1
.0
F
1
.0
2.0
G
3.0
0.5
H
3.0
1
.0
I
3.0
2.0
25%
硝酸銀を滴下して生ずる縞を観察
すると最外環は,必ず白い環になる.
また,硝酸銀溶液の滴下量が少ない
時は,白い環のみができる.この白い
環に注目し,ニクロム酸カリウムを含
まないゼリーと 25%硝酸銀溶液との系
を調べた.
写真
1
は,試験管にゼリーを作り,
上部に25%硝酸銀溶液を滴下したもの
である.ゼリーは,白濁し上部に液が
たまっている.また, シャーレのゼリー
上に25%硝酸銀溶液を滴下すると写真
2のような規則正しい白い環の形成が
見られた.ゼラチンの成分は, タンパ
ク質でありタ
γ
パク質のコロイド溶液
に電解質を加えると凝析し,白い沈殿
を生ずることは知られている.従って,
[
1
]の系における白い環は,ゼラチ
ンゲ、ルが硝酸銀により凝析して生じる
19.0
18.5
17.5
18.5
18.0
17.0
16.5
16 .
0
15.0
- 4
7
ー環の有無 環の成長
戸吊!!,.温
×冷 蔵 庫
× × 戸市崎温
×冷 蔵 庫
× ×常
温
×冷 蔵 庫
× ×常
温
×冷 蔵 庫
O
O
β吊'-'.温
×冷 蔵 庫
O
O
常
温
×冷 蔵 庫
× × f吊!!,.温
×冷 蔵 庫
O
O
常
温
×冷 蔵 庫
O
O
常
温
×冷 蔵 庫
× ×タンパク質の沈殿と考えられる.
写真
3
のシャーレは,最初冷蔵庫内
(
約 6
0C)に置き,途中から室温(約26
O
C
)
に置いた.縞の間隔は,一定であ
り,約 6
0C
では 12.5μm,約26
0C
では
15.6μmで、あった.縞の間隔が狭い方
が冷蔵庫内で成長したもので,温度の
低い方が拡散速度が遅いことから,こ
の縞は,
AgN0
3の拡散により生じた
と考えられる.
白い環は光の当たる状態で放置する
と紫色を経て黒色環へと変化すること
から,タンパク質沈殿の内部に
Ag+
を包み込んでいることが解る.このゼ
ラチン層を乾燥させると縞の部分が厚
くなっていることから,縞周辺のゼラ
チンが縞の中へ移動していることが解
る.このような間隔の小さい等間隔の
リーゼガング環の存在はシリカゲルに
お け る ク ロ ム酸 銅 環 の場 合 に報 告 され
て い る.(文 献7)
[II]ニ
ク ロム 酸 力 リウ ム を 含 む ゼ ラ チ ン層
に 硝 酸 銀 溶 液 を滴 下 した 場 合 の ク ロム
酸 銀 の1丿一 ゼ ガ ング環
(1)最適 条 件 の 検 討
表1に
示 す よ うに ゼ ラ チ ソの 量 と ニ ク
ロム酸 カ リ ウム の量 の 組 合 せ を 変 え て ゼ
ラ チ ソ溶 液 を作 り,そ れ ぞ れ を シ ャー レ
に厚 さ1mmに
な る よ うに 入 れ ふ た を して
冷蔵 庫 内 で一 夜 放 置 した.25%硝
酸 銀 溶
液 を 注 射 器 で1滴 滴 下 し室 温 及 び 冷 蔵 庫
内 に 放 置 し観 察 した.実 験 の 時 期 が 室 温
30℃ ∼37℃ とな る と ゼ ラチ ソ溶 液 が 溶 け
室 温 で の観 察 は で き な い.表2は,ゼ
ラ
チ ソの 濃 度 と融 解 及 び 凝 固 温 度 で あ る.
(文 献9)
表2ゼ
ラチ ンの濃 度 と凝 固及び 融解 温 度
ゼ ラ チ ソ濃 度凝固 温度(℃) 融 解温 度(℃)
5%
17.8 26.110%
21.0 29.615%
25.5 29.4 (Freundlich) A,B,Cの よ う に,ゼ ラ チ ソ の 濃 度 が 低 い と 冷 蔵 庫 内 で も固 ま ら な か っ た. F,1の よ う に,ニ ク ロ ム 酸 カ リ ウ ム が 濃 い と 滴 が 赤 褐 色 の ま ま で 環 が で き な か っ た.こ れ は,ゼ ラ チ ソ 中 のCro42一 ・ がAg+と 反 応 し,Ag+が 消 費 さ れ て 拡 散 に し く い た め に 環 に な ら な い. シ ャ ー レ に 入 れ る ゼ ラ チ ソ 溶 液 の 厚 さ は,1mmく ら い が 環 の 成 長 が よ か っ た. 厚 い とAgNO、 の 滴 が,下 に 沈 ん で し ま うの で きれ い な環 が で きな い.ま た,シ ャ ー レ に ふ た を しな い と 乾 燥 して 環 が で き な い. 滴 下 す る25%硝 酸 銀 溶 液 は,少 な い と 白 い 環 の み で,ク ロ ム 酸 銀 の 環 を 形 成 し な い. (2)環 の 形 成 の 機 構一 般 的 にAg+の 拡 散 とAg 、CrO、 の 過 飽 和 状 態 の 組 合 せ で 起 こ る と 考 え ら れ て い る.ク ロ ム 酸 が 均 一 に 分 散 し て い る ゼ リー 上 に 硝 酸 銀 を 滴 下 す る と 滴 の 内 部 で 次 の 反 応 が 起 る. 反 応 式 ①Cr,0,2一+H,0→2CrO、2一+2H+ ②2Ag++CrO、2一 →Ag,CrO、 (赤 褐 色 の 沈 殿) 反 応 が す す む とAg,CrO、 は,過 飽 和 と な り 沈 殿 す る.こ の 沈 殿 は 周 り のCrO、2『 を 吸 収 し て 育 つ た め,沈 殿 の 外 側 の CrO、2一 濃 度 が 低 下 す る.そ こ でAg十 沈 殿 を 生 じ る こ と な く先 へ 進 み,再 び 充 分 CrO、2一 の あ る と こ ろ で 新 た な 沈 殿 を つ く る の で 周 期 的 な 環 が で き る と 考 え ら れ て い る. こ の 機 構 の 場 合 は,縞 の 間 隔(dn)が 等 比 数 列 に な る こ と が 理 論 的 に 示 さ れ て い る. 表3は,ク ロ ム 酸 銀 の リ ー ゼ ガ ソ グ環 の 中 心 か ら の 距 離 と縞 の 間 隔 を 示 し て い る. 図1は,横 軸 に 縞 の 番 号,縦 軸 に 縞 の 間 隔 の 対 数 を と っ た も の で あ る.測 定 値 は,理 論 通 り 直 線 関 係 を 示 し,傾 き は, 1.13±0.01で あ っ た.こ の 縞 は,典 型 的 な リー ゼ ガ ソ グ環 で あ る こ と が わ か る. [m]ニ ク ロ ム 酸 力 リ ウ ム お け る と ク ロ ム 酸 銀 環 と 白 環 の 関 係 ニ ク ロ ム 酸 カ リ ウ ム を 含 む ゼ リー 上 に 滴 下 し た 硝 酸 銀 溶 液 の 滴 は,直 ち に 赤 褐 色 に な:り し ば ら くす る と 写 真4が 示 す よ う に 中 央 部 の 色 が 周 辺 部 に く ら べ て う す く な っ て い く.こ れ は,ゼ ラ チ ソ層 か ら 滴 へ の 水 の 浸 出 に よ る と 考 え ら れ る.(文 献10,11) ゼ ラ チ ソ 層 の 下 部 の 硝 酸 銀 に よ る ゼ
クロム酸銀によるリーゼガング環の成長機構
表
3
クロム酸銀環の縞の間隔
縞番号
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
-
0
.
8
縞の間隔
の対数
・1
.
0
・-
1
.
2
-
1
.
4
-
1
.
6
圃1
.
8
-
2
中 心 か ら の 距 離
6.45
6.65
6.90
7.15
7.45
7.78
8.10
8.51
8.90
9.43
10.10
10.65
11 .49
12.45
13.71
O
2
4
縞 の 間 隔
間 隔 の 対 数
0.2
-0.69897
0.25
-0.60206
0.25
- 0.60206
0.30
-0.52288
0.33
-0.48149
0.32
-0.49485
0.41
-0.38722
0.39
-0.40894
0.53
-0.27572
0.67
-0.17393
0.55
-0.25964
0.84
-0.07572
0.96
-0.01773
1.26
-0.10037
OLOGdS
ベ
6
8
1
0
1
2
1
4
1
6
1
8
縞番号
-
49-ラ チ ソの 白色 沈 殿 の形 成 と上 部 の ク ロ
ム 酸 銀 の沈 殿 形 成 が 同 時 に進 行 して い
る.
AgNO、 の滴 下 量 少 な い と き は,Ag,
CrO、 沈 殿 の 形 成 は,見
ら れ ず ゼ ラ チ
ソ の凝 析 に よ る 白環 の み が み られ た.
こ の こ と は,Ag+を
包 み 込 み つ つ 起
こ るゼ ラ チ ソ の 凝 析 がAg,CrO、 沈 殿 形
成 よ り速 い こ と を 示 して い る.そ の た
め こ の 系 で は,Ag+の
拡 散 に 伴 い ゼ
ラチ ソの 凝 析 に よ る細 か い 白環 形 成 が
先 行 し,そ の後 か ら(2)で述 べ た よ うな
反 応 を しな が ら ク ロム酸 銀 の 沈 殿 に よ
る太 い赤 褐 色 の 環 が成 長 す る.
2種 類 の リー ゼ ガ ソ グ環 が互 い に 独
立 に形 成 され る例 は,シ
リカ ゲ ル と ク
ロ ム酸 銅 の 系 に お い て も報 告 され て い
る,(文 献7)
滴 の 中 心 部 に 近 い 所 で は,Ag+濃
噛
度 が 高 く,Ag,CrO、
沈 殿 形 成 が 速 い た
め細 か い 縞 は,太
い 縞 に重 な り見 え な
くな る.外 側 に な る と ク ロム酸 銀 環 の
間 隔 が 大 き くな り,色 も薄 くな る た め
細 い縞 と太 い縞 が 共 に み え る よ うに な
る と考 え られ る.ま た写 真5,6は
環
の 外 側 部 分 に 当 た る が,細 い 縞 が太 い
縞 に 融 合 して い る途 中 の よ うな場 所 も
見 られ た.こ
れ は,先
に で きた ゼ ラ チ
ソ層 中 のAg+がAg,CrO、
へ 変 化 して
い く過 程 が 同 時 に起 こ った と考 え られ
る.こ の よ うな 現 象 は,い
ま ま で 報 告
され て い な い.
硝 酸 銀 の か わ りに硝 酸 銅 で 同様 の 実 験
を した.こ
の 場 合 白 色 沈 殿 は,Ag+
に よ る ゼ ラチ ソ の 凝 析 で 起 こ る こ と が
解 っ た.
〔ま と め 〕
ク ロム酸 銀 を含 む ゼ リー と硝 酸 銀 との 系 に
お け る リー ゼ ガ ソ グ環 の成 長 は,ク
ロ ム酸 銀
沈 殿 の 形 成 とAg+に
よ る ゼ ラチ ソの 凝 析 の
反 応 の2つ
が か さな っ た 二 重 構 造 で あ っ た こ
とが 明 ら か に な った.
今 回 の作 業 の 中 で 顕 微 鏡 下 で の観 察 や 進 行
す る反 応 の よ うナ を ビ デ オ取 り込 み し,写 真
撮 影 を行 え た の は,パ
ソ コ ソの 映 像 処 理 ソ フ
トや計 算 ソ フ トに負 うと ころ が 多 い.研
究 の
補 助 と して 利 用 価 値 は 極 め て 大 で あ る.
文
献
(1)近 藤 保,鈴 木 四 朗(1985)や さ し い コ ロ イ ドと 界 面 の 科 学 共 立 出 版 (2)科 学 の 実 験 編 集 部 編(1979)先 生 と 生 徒 の た め の 化 学 実 験 共 立 出 版 (3)山 本 大 二 郎,須 賀 恭 一(1979)新 化 学 実 験 図 鑑 講 談 社 (4)化 学 と教 育 .42巻11号(1994) (5)化 学 と 教 育43巻6号(1995) (6)久 保 亮 五,長 倉 三 郎,井 口 洋 夫,江 沢 洋 (1992)理 化 学 辞 典 第4版 岩 波p307 (7)AmandusH.SharbaughIII,Amandus H.SharbaughJr.JounalofChemical Education1989VOL66NO7P589-594 (8)赤 堀 四 郎,木 村 健 二 郎(1981)化 学 実 験 辞 典 講 談 社 (9)永 沢 信 食 品 コ ロ イ ド学 共 立 出 版 ⑩ 伊 藤 奨 文 教 大 学 教 育 学 部 大 橋 研 究 室 1995年 度 卒 業 論 文 リ ー ゼ ガ ソ グ 環 の 形 成 の 仕 組 み G1)化 学 大 辞 典 編 集 委 員 会 編 集(1980)化 学 大 辞 典2共 立 出 版p.839ク ロム酸 銀 に よ る リーゼ カ ン グ環 の成 長 機 構