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乳幼児のためのコンサートによる音楽教育の可能性 (5) 「0歳からのコンサート音のおもちゃばこ」5年間を振り返って

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1.はじめに  本稿は,2015年度から2019年度にかけ開催され た『0歳からのコンサート 音のおもちゃばこ』 全5回の振り返りと来場者アンケートの結果から, 乳幼児を対象とするコンサートが受容される過程 を分析し,5年間で得られた成果を総括すること を目的としている。  第1回コンサートを企画した2015年当時の北海道・ 十勝地域では,乳幼児が入場できるコンサートは, ほとんど開催実績が無い状態だった。筆者は,音 楽に対する関心の拡大を目指し,乳幼児連れの保 護者が気軽に本格的なコンサートに足を運べるよ う,コンセプトを「0歳からのはじめてコンサート」 とし,タイトルにも『0歳からのコンサート』と 明記することとした。  第1回コンサートの開催以来,毎年来場者にア ンケート調査を実施し,プログラム内容の精査を 続けてきた。それと同時に,筆者が勤務する保育 者養成校における教育効果向上も目指し,学生も 積極的にコンサートに参加できる仕組みの構築を 図った。  これまでの一連のコンサートを通して得られた 研究成果としては,まず第1回では,来場者の実 態と音楽に対する意識を明らかにした(長﨑: 2016)。第2回では,来場者は能動的に参加できる プログラムを高く評価する傾向が強いことや,保 育者を目指す学生のコンサート参加が教育的にも 有効であること等が確認できた(長﨑:2017)。 第3回では,学生はコンサートへの出演経験を通 して「表現活動に関する知識・技能」「表現活動 に関する感性」の向上を感じ,「子どもや保護者」 といった客観的な視点で,自らを振り返る力が付 いたことが分かった(長﨑:2018)。第4回コンサー トでは,「木育」の視点を取り入れ,地域に自生 するシラカバを使って学生が打楽器を製作し,観 客と共に演奏する取組みを実施することで,「地 域に根差したコンサート」としての意義が高まっ た(長﨑,山本:2019)。  2019年度で本コンサートが5回目の節目を迎え ISSN 2188−9791 2020年9月16日受稿,2020年10月16日受理 帯広大谷短期大学社会福祉科 〒080-0335 北海道河東郡音更町希望が丘3番地3 帯広大谷短期大学地域連携推進センター紀要(第7号) 2020年10月

乳幼児のためのコンサートによる音楽教育の可能性(5)

-「0歳からのコンサート 音のおもちゃばこ」5年間を振り返って-

Possibility of Music Education by the Concert for Infants (5) :

A Consideration of Continuous Concerts in the Past Five Years

長﨑 結美

Yumi Nagasaki 要  約:本稿は2015年度から2019年度にかけ,保育者養成校と行政の連携により開催された乳幼児の ためのコンサート(全5公演)の実践の振り返りと来場者アンケートの結果から,本コンサ ートが来場者に受容された過程を明らかにし,5年間で得られた成果を総括するものである。      テーマや対象者の明確化と,来場者の意見を基にプログラムの検証を重ねた結果,①地域に 密着したコンサートとしての定着,②視覚効果を取り入れた〈鑑賞型〉と,観客が能動的に 演奏に参加する〈参加型〉を融合させたプログラム構成の完成,が主な成果として確認できた。      保育者養成校が主体となって実施する乳幼児のためのコンサートは,社会的意義と教育的意 義の両面があると同時に,保護者からも継続が望まれていることから,「地域の乳幼児のた めの音楽教育の第一歩の場」として,今後も発展の可能性があると考えられる。 キーワード:コンサート,乳幼児,音楽教育,地域

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るに当たり,シリーズの集大成として,過去4回 の実践で得られたデータと経験を総合させたプロ グラムを実践することとした。 2.研究の背景  本研究以外にも近年,保育者養成校における, 親子を対象としたコンサートの研究や実践報告が 増えてきている。  例えば臼井らは,幼児にカスタネット等の数種 類の楽器を配布し,親子が全面的に参加できるコ ンサートを大学内施設で開催した。コンセプトの 明確化や時間配分,環境構成,周到な準備の必要 性を強調した上で,コンサートが幼い鑑賞者にとっ て主体的な活動となり得ることを示している(臼 井・大西・坂本:2019)。  また,みやざきらは,地域の公民館でピアノ連 弾によるコンサートを開催し,乳幼児の表現の発 達において「非日常的といえる生のコンサート体 験が有効である」ことを,参加者アンケートの考 察から示している(みやざき・高橋:2019)。  こうした研究のほとんどが,数十人規模の参加 者を対象とした1∼2度の実践に基づくものである が,保育者養成校で継続的に実施されたコンサー トの数少ない実践報告例として,声楽を中心とし た『0歳からのコンサート∼歌の遊園地∼』(葛西: 2018,2019)がある。2015年度から2017年度にか け計3回開催され,毎回100人程度の来場者を迎え ているコンサートについて葛西は,音楽の楽しさ を親子で共有できる場としての意義や,学生の参 加による教育的意義について述べている(葛西: 2019)。  このように,保育者養成校が主体となって実施 する乳幼児のためのコンサートは,社会的意義が あると同時に教育的な意義も多分に内包している と言えるだろう。  乳幼児を対象とするコンサートの成否はプログ ラム構成が大きく関わってくるため,綿密な下準 備が不可欠である。そのためには来場者の声を丁 寧に検証する必要がある。次に,筆者が継続的に 行ったコンサート実践の概要と,プログラム構成 の改善の過程について,順を追って述べる。 3.コンサートの実際  公演は全て音更町生涯学習推進本部と本学の共 催で実施され,会場は音更町文化センター大ホー ル(1,022名収容)を使用した。当ホールは「優 良ホール100選」にも認定された実績のある,音 響の優れたコンサートホールである(注1)。  入場は無料とし,保護者の負担軽減のため,事 前の予約も不要とした。  プログラムには,ステージ上での鑑賞や,手遊 びやダンス等も取り入れ,多様な角度から子ども が楽しくコンサートに参加できる試みを行った。  出演者は,ピアノ(筆者)とソプラノ(本学非 常勤講師)は毎回出演し,ゲストとしてプロの楽 器奏者やオペラ歌手らを迎えてプログラムの中核 を担った。  演奏は全て生演奏で行い,楽器編成の都合上, 市販された譜面が手に入らない場合には,適宜筆 者が楽譜作成ソフト Finale2014を用いて編曲を行っ た。  学生出演者は,筆者が担当する音楽ゼミの学生 や,本学サークルに所属する学生が,プログラム の一部を受け持つ形で出演した。当日の受付案内 も,学生出演者らが担当し,プログラムやプレゼ ントの配布,会場案内等を行い,直接来場者と触 れ合う時間とした。  毎回実施した来場者アンケートを基にコンサー トの構成や演出,運営方法についての振り返りを 行い,課題点を翌年に反映させる形で,都度プロ グラムの改善を図った。  表1∼5は各コンサートの概要である。各概要に 続いて,プログラム作成にあたり留意した点と, コンサートの様子を記す。

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3-1.第1回コンサート(2015年度) 表1.第1回コンサート概要 3-2.第2回コンサート(2016年度) 表2.第2回コンサート概要  第1回が開催された当時の十勝地域はまだ,未 就学児が入場できるコンサートがほぼ無い状態で あった。前述の通り,事前予約受付を行わなかっ たため,実際にどのような来場者が訪れるのかが 未知数の中での開催となった。  当日は予想を超える約700名の来場があり,ア ンケートからは,手遊びや,子どもを舞台に上げ る演出が観客に新鮮に映った様子が窺えた。また, 学生が活躍したプログラム(④,⑧,⑨)に対す る好意的な感想も多く見られた。  筆者は当初,来場する子どもの年齢を3∼4歳程 度と想定してプログラムを作成していたが,実際 は子どもの来場者の6割が3歳未満児だった。また, 手遊び歌や,舞台上で体を動かすといった〈参加 型〉のプログラムの充実が求められていることも 分かり,対象年齢の再設定と共に次年度の課題と なった。  また,子どもを舞台に上げるプログラム(⑧, ⑨)で進行に時間がかかり,終演時刻が予定より 遅くなってしまった(実際の終演時間は11:45) ため,ゆとりを持った時間配分が必要であること も反省点であった。  第2回コンサート以降は上演時間を拡大し,75 ∼80分(含休憩10分)で構成した。  3歳未満児を主な対象とし,低年齢の子どもで も参加しやすい手遊びや,親しみやすい絵本を前 半に取り入れながら,集中力を保ちやすいプログ ラムを構成した。  学生出演部分に関してはゼミの講義(1年次後期・ 15回)の中で立案,準備,本番,振り返りを行い, カリキュラムと関連付けて実施することとした。  コンサート当日は,学生が手作りをしたカード を子どもに配布し,動物をテーマとした手遊び曲 (プログラム②)で使用した。この演出により, 序盤から舞台と客席との一体感を生むことに成功 した。  この他にも本公演では,華やかでリズミカルな 楽曲を多く取り入れた結果,客席から自然と手拍 子が沸き起こる等,前年よりも観客が積極的にコ ンサートに参加し,楽しもうとする姿勢が顕著に 見られた。  アンケートの分析から,「来場者は能動的に参 加できるプログラムを高く評価する傾向が強い」 ことが明らかになったが,前回好評だった子ども を舞台に上げる演出を多用し過ぎた(プログラム ②,⑥,⑦,⑧)ため,進行が滞ったり,客席が 日時:2016年1月11日(月・祝)10:30∼11:30 出演:ピアノ(筆者),ソプラノ,クラリネット,三 味線(有志学生1名),よさこい(学生サークル13名). 【プログラム】 〈第1部〉①威風堂々(エルガー),②幸せなら手をたた こう(アメリカ民謡),③みんなでうたおう『ゆき∼どこ かで春が∼アイアイ∼クラリネットをこわしちゃった』. 〈第2部〉④よさこい演舞,⑤クラリネットポルカ(ポー ランド民謡),⑥わたしのお父さん(プッチーニ),⑦ トッカータ(プーランク),⑧トルコ行進曲(モーツァ ルト),⑨さんぽ(久石譲),⑩ディズニーメドレー(メ ンケン他). 日時:2017年1月9日(月・祝)10:30∼11:50 出演者:ピアノ(筆者),ソプラノ,トランペット, 朗読(学生),手遊び(音楽ゼミ1年生5名),人形ボー ドヴィル(学生サークル13名). プレゼント:動物カード 【プログラム】 〈第1部〉①カルメンメドレー(ビゼー),②手遊び『バ スに乗って∼ぞうさん∼こぶたぬきつねこ∼わにのか ぞく∼ウルトラマン』,③オルゴール(サンカン),④ 音楽絵本『3びきのこぶた』. 〈第2部〉⑤私が街を歩くと(プッチーニ),⑥チャル ダッシュ(モンティ),⑦手遊び『かみなりどんがやっ てきた』,⑧南の島のハメハメハ大王(森田公一),⑨ アニメソングメドレー『ようかいウォッチ他』.

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落ち着かない状態になる反省点も見つかった。 による,客席での〈鑑賞型〉プログラム,の2部 構成スタイルは,第4回以降も引き継ぐこととした。  第3回コンサートでは,参加型プログラムの配 置方法を再考し,プログラムを構成した。  第1部は〈参加型〉の内容をメインとし,学生 主導による手遊び(プログラム②)と,子どもを 舞台に上げ,一緒に踊る演出(プログラム③,④) を配置した。  舞台に上がった子どもは,休憩中にゆっくりと 客席に戻るよう誘導し,第2部は落ち着いた雰囲 気の中で開始できる配慮をした。  第2部は客席で鑑賞するスタイルを中心としたが, 舞台を隅々まで使った演技やパペット人形を用い て,視覚効果も盛り込みながらオペラのアリア(プ ログラム⑤,⑥)を上演した。  また,客席での参加型プログラムとして,学生 手作りの「木の笛」を用いて出演者と一緒に演奏 する楽器遊び(プログラム⑧)等を取り入れ,最 後まで集中力を切らせない工夫を施した。  この年のアンケートでは,演出や進行に対する 批判的な意見はほぼ無くなり,プログラムの構成 バランスが適切であったことが推察できた。  前半は体を動かしたり,舞台上に上がる〈参加 型〉プログラム,後半は視覚効果を多用する演出  第4回以降は,コンサートのテーマを分かりや すく伝えるため,2部構成のそれぞれにタイトル を付け,チラシやプログラム等でも周知を図った。 第1部が『音楽であそぼう!』,第2部が『アート にふれよう!』である。  第1部は楽器遊びや手遊びによる参加型プログ ラム(②,③)が中心,第2部は鑑賞型が中心だが, クラシックバレエの上演や,ヴァイオリン奏者が 演奏しながら客席を練り歩く演出を施し,視覚的 にも楽しめる内容とした。  更に,「地域のコンサート」としての意義を深 めるため,学生が手作りし無料配布した十勝産「シ ラカバのウッドブロック」(オリジナル楽器)は, 来場者に好評を博すと同時に,楽器開発や木材提 供の面で,十勝の木工家や林業関係者等,多方面 から協力を得られたコンサートとなった。 3-3.第3回コンサート(2017年度) 表3.第3回コンサート概要 日時:2018年1月14日(日)10:30∼11:45 出演:ピアノ(筆者),ソプラノ,バリトン,手遊び(音 楽及び造形ゼミ1年生20名),人形ボードヴィル(学生 サークル12名). プレゼント:木の笛 【プログラム】 〈第1部〉①ドレミの歌(リチャード&ロジャース), ②手遊び『パンパンサンド∼おべんとうばこのうた∼ カレーライスのうた∼やきいもグーチーパー』,③エ ビカニクス(増田裕子),④さんぽ(久石譲). 〈第2部〉⑤おれは鳥刺し(モーツァルト),⑥パパパ の2重唱(モーツァルト),⑦山の音楽家(ドイツ民謡), ⑧楽器遊び『かっこうワルツ』(ヨナーソン),⑨手遊 び『1と1をあわせると』( ドッド ),⑩ディズニープリ ンセスメドレー(メンケン他). 3-4.第4回コンサート(2018年度) 表4.第4回コンサート概要 日時:2019年1月14日(月・祝)10:30∼11:45 出演:ピアノ(筆者),ソプラノ,ヴァイオリン,バ レエ,手遊び(音楽ゼミ1年生9名),人形ボードヴィ ル(学生サークル11名). プレゼント:シラカバのウッドブロック 【プログラム】 〈第1部:音楽であそぼう!〉①春の声(J. シュトラ ウス),②楽器遊び『手をたたきましょう∼だいくの きつつきさん∼となりのトトロ』,③手遊び『アンパ ンマン』,④勇気りんりん(三木たかし). 〈第2部:アートにふれよう!〉⑤バレエ『パキータ』 よりヴァリエーション(ミンクス),⑥熊蜂の飛行(リ ムスキー=コルサコフ),⑦情熱大陸(葉加瀬太郎), ⑧ Another Day of Sun(ハーウィッツ),⑨小さな世 界(シャーマン).

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 第5回は,これまでのコンサートの集大成と位 置付けてプログラムを構成した。地域への愛着が 強い十勝において,親しみやすい「地域のコンサー ト」を印象付けるため,出演者はゲストも含め, 全員十勝在住者の中から人選を行った。  プログラムの第1部『スカーフであそぼう!』 には,幼少期に人気が高い習い事である「リトミッ ク」(ヤマハ音楽研究所:2013)を中心に据えた。 リトミックスカーフを無料配布し,学生主導のも と,歌に合わせて振ったり,花やおばけ等の見立 て遊びに用いた(プログラム②)。  第2部『色んな音を楽しもう!』は,ピアノ伴 奏を主軸にしながら,歌とクラリネット(プログ ラム④),ヴァイオリン(プログラム⑤),子ども との掛け合いがある絵本の読み聞かせ(プログラ ム⑥),クラリネットとヴァイオリン(プログラ ム⑦)と,曲毎に異なる編成とジャンルから選曲 し,変化を持たせた。最後は会場が一体となって, ダンスをしながらコンサートを締めくくった。  最終回を謳った第5回では,予想を上回る来場 者数があり,用意したプレゼントが足りなくなっ てしまったことが最大の反省点であった。 4-2.子どもの年齢と来場回数  子どもの来場者の中で,各年齢が占める割合を 示したものが図2である。図3は,第2回コンサー ト以降,何度目の来場であるかを表している。 4.結果  各回の開場時に,プログラム用紙と共に大人の 来場者へアンケート用紙(無記名)を配布し,終 演後に回収した。第1回∼第4回のアンケートの詳 しい内容及び結果は既出である(長﨑:2016∼ 2019)ため,ここでは5年間の結果を総括したも のを中心に述べる。 4-1.来場者数と居住地  各回のアンケートの回収状況は表6の通りである。 来場者数(親子合わせた人数)はプログラム配布 数と子どもへ配布したプレゼントの個数の合計か ら概算したものである。毎年安定して600∼700名 の来場があった。  来場者の居住地は図1が示すように,毎年開催 地の音更町が4割程度,隣接する帯広市からの来 場も3∼4割程度であった。 3-5.第5回コンサート(2019年度) 表5.第5回コンサート概要 日時:2020年1月13日(月・祝)10:30∼11:45 出演:ピアノ(筆者),ソプラノ,ヴァイオリン,ク ラリネット,朗読・司会,手遊び(音楽ゼミ1年生8名), 人形ボードヴィル(学生サークル8名),ダンス(有志 学生5名). プレゼント:リトミックスカーフ 【プログラム】 〈第1部:スカーフであそぼう!〉①花のワルツ(チャ イコフスキー),②スカーフ遊び『おはながわらった ∼スカーフで変身(童謡メドレー)∼どんな色がすき』, ③はらぺこあおむし(新沢としひこ). 〈第2部:色んな音を楽しもう!〉④踊り明かそう(ロ ウ),⑤ハンガリー舞曲第5番(ブラームス),⑥絵本『ね このピート だいすきなしろいくつ』(大友剛),⑦ディ ズニーメドレー(ドッド他),⑧パプリカ(米津玄師). 表6.アンケート回収状況 図1.来場者の居住地 回 年度 来場者数 アンケート配 布 数 アンケート回 収 数 アンケート回 収 率 1 2015 700 320 194 60.62% 2 2016 600 239 174 72.80% 3 2017 600 218 157 72.01% 4 2018 700 262 175 66.79% 5 2019 750 305 210 68.85% 44 36 38 38 46 37 44 44 46 32 19 20 18 16 22 第5回 第4回 第3回 第2回 第1回 音更町 帯広市 その他 0% 20% 40% 60% 80% 100%

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 図2からは,子どもの年齢は5回の公演全てにお いて,1歳児が占める割合が最も高かったことが 分かる。また,プログラム作成上で主な対象年齢 とした「3歳未満児」は,全ての回を通して半数(5 割)を超えていた。  来場した回数は年により幅があるが,およそ6 ∼8割が「はじめて」の来場者であった。リピーター 層は第3回コンサートでは43%いたが,翌年から 33%(第4回),26%(第5回)と減少が続いた。 来場者の総数は増えていることから,「はじめて」 の来場者が相対的に増えたことが推察できる。 4-3.良かったプログラム  毎年検証を重ねながら,〈参加型〉のプログラ ムの理想的な在り方を探究したことは既に述べた。 最終的には,視覚効果を積極的に取り入れた〈鑑 賞型〉と,手や体,楽器や小道具を使いながら観 客が能動的に演奏に参加する〈参加型〉のプログ ラムを大きな柱としてコンサートを構成した。  表7は,全ての曲目を上記の〈鑑賞型〉或いは〈参 加型〉に分類したものと,「良かったプログラム」 として挙げられた人数を示すものである。斜体で 示しているものは,「良かったプログラム」とし て選択された,各回上位3位までの演目である。  「来場者は能動的に参加できるプログラムを高 く評価する傾向が強い」ことが第2回のアンケー ト結果で分かったことは既に述べたが,第3回以 降もその傾向が強く出ており,手遊びやリトミッ ク,ダンス等を「良かったプログラム」とする回 答が目立った。  〈鑑賞型〉プログラムに関しては,よさこいや 人形劇,絵本のスライド上映等,視覚に強く訴え かける演目や,ステージ上で鑑賞する演目に人気 が集まる結果となった。 4-4.自由記述による感想  アンケートでは毎回,コンサートに対する感想 や意見,要望を記入する自由記述欄を設け,5年 間で延べ475件の回答を得ることができた。  自由記述データは,予め表記のゆらぎを統一(例 えば,「子供」「子ども」「子ども達」を「子ども」 に統一,「聴く」は「聞く」に統一)した後に, テキストマイニングにより分類をした。解析ソフ トは KHCoder3を使用した。  文章の単純計算を行った結果,878の文と474の 段落が確認された。その後「抽出語リスト」コマ ンドにより抽出された単語について,品詞別に出 現頻度の高い順にまとめたものが表8である。  名詞では,「子ども」の出現頻度が突出して高く, 次いで「コンサート」「ステージ」「機会」「音楽」 が高かった。「手遊び」「スカーフ」等の参加型プ ログラムに関する語も比較的高かった。  「ピアノ」「ヴァイオリン」「クラリネット」「楽 器」等,具体的に楽器を表す語も多く見られた。 また,第4回コンサートで一度のみの上演であっ た「バレエ」も21件あり,強い印象を与えたこと が窺える。  動詞では「思う」「楽しめる」「来る」「楽しむ」 「聞く」「見る」が高かった。形容詞では「楽しい」 「良い」「嬉しい」が多かった。動詞,形容詞ともに ポジティブな感想を表す語の出現頻度が高かった。  図4は,文章中の出現パターンが似たものを線 で結んだ共起ネットワークを表している(注2)。 出現頻度が高い語に注目すると,以下の傾向が見 19 16 15 15 17 20 20 23 23 26 16 14 17 19 17 15 11 11 12 7 11 17 12 10 8 11 8 10 10 7 2 9 3 5 7 6 5 9 6 11 0% 20% 40% 60% 80% 100% 第5回 第4回 第3回 第2回 第1回 0歳 1歳 2歳 3歳 4歳 5歳 6歳 その他 図2.子どもの年齢 74 67 57 79 9 21 31 21 11 9 12 3 3 3 0% 20% 40% 60% 80% 100% 第5回 第4回 第3回 第2回 はじめて 2度目 3度目 4度目 5度目 図3.来場回数(第2回以降)

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られた。  「子ども」は「コンサート」「思う」「楽しめる」 「楽しむ」「良い」との共起が強かった。具体的 な記述例として,「子ども向けのコンサートに初め て参加しましたがとても楽しめるものでした」「子 どもがいても本格的なコンサートを聴かせてあげ ることができて良かったです」等が挙げられる。  「ステージ」は「上がる」「上がれる」「楽しい」 と共起性が強く,「ステージに上がったり,自由 に見られる環境がとても良かったです」「ステー ジに子どもが上がれて,とても楽しかったです」 「ステージで一緒に楽しむプログラムが本当に楽 しそうでした」等の記述が見られた。  「機会」は「音楽」「触れる」「本物」と共起性 が強く,「子どもが本物の音楽を聴く機会があり, とてもよかったです」「本物の音楽に触れる機会 が無料なのはありがたいです」等が代表的な記述 例である。  また,「バレエ」は「見る」「見れる」,「ヴァイ オリン」は「聞ける」,「ピアノ」も「聞く」と共 起性が高く,それぞれの演目が五感と関連のある 語と共に多く記されていた。 *斜体で示した演目は,「良かったプログラム」として選択された上位3位までのもの。 **「◆」の演目は,ステージ上で鑑賞するプログラムを表している。 表7.良かったプログラム 回 ■鑑賞型 人数 ■参加型(上演形態) 人数 1 ①威風堂々 ④よさこい演舞 ⑤クラリネットポルカ ⑥わたしのお父さん ⑦トッカータ ⑩ディズニーメドレー 43 77 42 34 32 77 ②幸せなら手をたたこう(手遊び) ③みんなでうたおう(歌) ⑧トルコ行進曲◆(踊る) ⑨さんぽ◆(行進) 45 65 53 71 2 ①カルメンメドレー ③オルゴール ④音楽絵本『3びきのこぶた』 ⑤私が街を歩くと ⑥チャルダッシュ◆ ⑧南の島のハメハメハ大王◆(人形劇) ⑨アニメソングメドレー(ダンス) 47 27 66 22 26 60 55 ②バスに乗って他◆ 計4曲(手遊び) ⑦かみなりどんがやってきた◆(手遊び) 104 43 3 ①ドレミの歌 ⑤おれは鳥刺し ⑥パパパの二重唱 ⑦山の音楽家 ⑩ディズニープリンセスメドレー 58 30 25 46 73 ②たべもの手遊び 計4曲(手遊び) ③エビカニクス◆(ダンス) ④さんぽ(手話)◆ ⑧かっこうワルツ(楽器あそび) ⑨1と1をあわせると(手遊び) 71 78 68 35 32 4 ①春の声 ④勇気りんりん◆(人形劇) ⑤パキータ(バレエ) ⑥熊蜂の飛行 ⑦情熱大陸

⑧ Another Day of Sun(バレエ)

67 66 74 60 79 70 ②楽器あそび 計3曲(楽器あそび) ③アンパンマン◆(手遊び) ⑨小さな世界(ダンス) 89 83 83 5 ①花のワルツ ③はらぺこあおむし◆(人形劇) ④踊り明かそう ⑤ハンガリー舞曲第5番 ⑦ディズニーメドレー 44 109 26 36 75 ②スカーフであそぼう!計3曲(リトミック) ⑥ ねこのピートだいすきなしろいくつ(読み聞 かせと歌) ⑧パプリカ(ダンス) 103 89 122

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表8.自由記述における頻出語 ■名詞 出現頻度 ■動詞 出現頻度 ■形容詞 出現頻度 子ども 183 思う 94 楽しい 110 コンサート 73 楽しめる 76 良い 77 ステージ 55 来る 49 嬉しい 33 機会 44 楽しむ 48 小さい 20 音楽 41 聞く 38 素晴らしい 14 手遊び 28 見る 35 多い 14 ピアノ 25 喜ぶ 20 少ない 8 バレエ 21 触れる 20 難しい 7 最後 18 続ける 18 長い 5 スカーフ 16 上がる 17 若い 3 楽しみ 16 知る 13 大きい 3 ヴァイオリン 16 聞ける 13 優しい 3 学生 15 歌う 11 高い 2 親子 14 見れる 11 暑い 2 大人 14 感じる 9 心地よい 2 本物 14 行く 9 美しい 2 内容 12 飽きる 9 無い 2 クラリネット 11 終わる 8 面白い 2 楽器 10 上がれる 8 有り難い 2 お姉さん 10 頑張る 6 幼い 2 短大 10 行ける 6 力強い 2 無料 10 連れる 6 *2015∼2019年度アンケート各回の自由記述による475件の回答が対象

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表10.希望する内容(複数回答可) 表11.希望する会場(複数回答可) 4-5.今後希望する催し  第5回のコンサートでは,本『0歳のコンサート』 が最終回であることを伝え,「今後希望する子ど も向けの催し」についての希望調査も行った。  表9は希望する開催時期を示すものであり,従 来のコンサートと同時期の「冬」が最も希望が多 かった。  表10は希望する内容を示すものである。これま でと同じ「コンサート」の希望が一番多く,次い でリトミックや手遊び等の「ワークショップ」が 多く挙げられた。  表11は,希望する開催場所を問うたものである。 コンサートと同じ「文化センター(大ホール)」 が突出して多く,大きな変化は望んでいないと思 われる結果となった。この他にも,自由記述欄に は本コンサートの継続や,復活を望む意見が50件 あった。 5.考察 5-1.地域に根差したコンサートとしての定着  本公演は『0歳からのコンサート』のタイトル のもと,毎年誕生する幼い観客を呼び込むことに 成功したと言えるだろう。  全公演において,来場者の約8割が開催地の音 更町または隣接する帯広市の居住者であったがこ とから,文字通り「地域に根差したコンサート」 として機能したと言える。また,プログラムも3 歳未満児を主対象とし,選曲や演出の改善を続け たことで,来場者のニーズにより適合するものと なったと考えられる。  実際,人口45,000人規模の音更町(注3)で開 催されたコンサートに,毎年安定して600∼700人 の来場者があったことは,入場無料の公演であっ たことを鑑みても快挙と言えるだろう。この数字 は,乳幼児のためのコンサートに求められるもの と,本コンサートが提供する内容が合致していた ことを示しているのではないだろうか。  本コンサートシリーズは当初,「地方都市にお ける幼児音楽教育の充実と音楽に対する関心拡大」 (長﨑:2016)を目指し,その後も「地域に根差 したコンサート」(長﨑:2019)としての定着を図っ てきた。  年に一度の継続的な開催や,地元の新聞への記 事掲載等を通して,本公演に対する認知は徐々に 高まり,次第に十勝管内の他の町村や教育委員会 等からも同種のコンサート開催の依頼が舞い込む ようになった。  行政と教育機関が連携しながら,地域の乳幼児 が音楽に親しむ場を作る流れができた点は,最も 大きな成果であったと考えられる。 項  目 人 数 % ①コンサート 121 38% ②音楽系の講座 (わかりやすいクラシック解説等) 26 8% ③ワークショップ (リトミック・手あそび等) 99 31% ④ピアノの講座 (はじめて触れるピアノ等) 30 9% ⑤木育の講座 (楽器作り体験等) 42 13% ⑤その他 4 1%  合計 322 100% 項  目 人 数 % ①文化センター(大ホール) 162 73% ②帯広大谷短期大学内 17 8% ③コミュニティーセンター 30 14% ④保育所・幼稚園 12 5% ⑤その他 1 1%未満  合計 222 100% 表9.希望する開催時期(複数回答可) 項  目 人  数 % ①春 48 22% ②夏 31 14% ③秋 58 26% ④冬 66 30% ⑤その他 17 8%  合計 220 100% その他(人数): いつでも(12),雪のない時期・引き継いで 欲しい・年に何回も(1) その他(全て1人ずつの意見): ・0才時∼の音楽会の他,3才児∼小学低学年向け ・子ども向けのオペレッタ等 ・今までのようなもの ・屋外で楽しめる音楽系の講座 その他(人数):どこでも(1)

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5-2.鑑賞型と参加型を融合したプログラムへの評価  前述の通り,本公演では毎回,来場者の感想や 要望を翌年に反映させる形で,プログラムの向上 を図ってきた。その結果,最終的には,視覚効果 を取り入れた〈鑑賞型〉と,観客が能動的に演奏 に参加する〈参加型〉を綿密な配置で融合させる プログラムとして,構成が完成した。  来場者アンケートでは「良かったプログラム」 として,〈参加型〉の曲目や,ステージ上で鑑賞 する曲目が多く選択される傾向が強く表れた。  自由記述アンケートの分析からは,参加型プロ グラムに加え,様々な楽器の生演奏やバレエ等, 〈鑑賞型〉の演目も,好意的に受容されたことが 読み取れた。本格的な芸術に,親子で気軽に触れ られるコンサートを目指した筆者の意図が伝わっ たと考えられる。  また,今後希望する子ども向けの催しの上演形 態については,大きな変更は望まれておらず,現在 の形を踏襲したものが期待されていることが明ら かになった。これも,来場者のニーズに合ったプロ グラム作りができていた証であると言えるだろう。 5-3.今後の課題  『0歳からのコンサート』は,今後更なる展開 の可能性が見込める一方で,第4回コンサート以 降ではリピーターが減少を続けたことから,対象 年齢を限定し過ぎたプログラムとなった可能性も 否定できない。  生の音楽体験を一過性のものに留めず,継続的 にコンサートに足を運んでもらうためには,次の 成長段階を視野に入れた,新たな企画が必要であ ることが示唆された。 6.おわりに  2015年に初めて本コンサートの企画をした際に は,5年間継続して開催できるとは予想していなかっ た。毎年多くの保護者からご意見を頂戴しながら, 試行錯誤を重ねたことで,十勝地域ならではの『0 歳からのコンサート』を作り上げることができた と実感している。  本コンサートが,乳幼児のための音楽教育の第 一歩となったと共に,保育者養成校で学ぶ学生の 実践的な教育の場としての意義も大きい取組みで あった。そして,そこで教育に携わる筆者にとっ ても力が試される場となった。  新型コロナウイルス感染拡大による社会情勢の 変化に伴い,今後は全く同じ形態でのコンサート 開催は難しいと考えられる。しかしながら,「乳 幼児のためのコンサート」のニーズは確実に存在 するため,今後も最適な形を検討しながら,音楽 活動の発展を目指していきたい。 謝辞  本研究は,2019年度帯広大谷短期大学教育研究 活性化経費の助成を受けて実施しました。  長年にわたりコンサート開催にご協力いただい た音更町,アンケートにご協力いただいたご来場の 皆様,並びに本学関係者に心より御礼申し上げます。 注 1) 音更町文化センターは,2018年に,日本音響 家協会と日本劇場技術者連盟が認定する「優 良ホール100選」に選ばれている。 2)分析にあたり,出現数による語の取捨選択を 最小6,最大183に設定し,描画する共起関係 の選択を上位50に設定した。 3)2020年8月現在の音更町の人口は44,182人。 引用文献 1)樋口耕一(2020):社会調査のための計量テ キスト分析−内容分析の継承と発展を目指し て−第2版.ナカニシヤ出版. 2)北海道十勝音更町(2020):現在の音更町の 人 口.https://www.town.otofuke.hokkaido. jp/town/outline/machi-gaiyou/jinkou.html (2020年9月10日閲覧) 3)北海道十勝音更町(2020):音更町文化センター. https://www.town.otofuke.hokkaido.jp/ town/sisetu/sisetu-syoukai/bunkasenta-syoukai.html(2020年9月10日閲覧)

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4)葛西健治(2018):公開講座「0歳からのコン サート∼歌の遊園地∼」−2年間の取り組み−. こども教育宝仙大学紀要,第9巻,第2号, pp.95-102. 5)葛西健治(2019):2017年度公開講座「0歳か らのコンサート∼歌の遊園地∼」−来場者ア ンケートの分析と学生参加の取り組み−.こ ども教育宝仙大学紀要,第10巻,pp.55-62. 6)みやざき美栄・高橋恵理(2019):乳幼児期 の音楽体験から考察する表現の発達−親子向 けコンサートの反応とアンケート結果から−. 鈴鹿大学・鈴鹿大学短期大学部紀要,人文科 学・社会科学編,第2号,pp.391-404. 7)長﨑結美(2016):乳幼児のためのコンサー トによる音楽教育の可能性−保護者を対象と したアンケート結果から−.帯広大谷短期大 学地域連携推進センター紀要,第3号,pp.5-13. 8)長﨑結美(2017):乳幼児のためのコンサー トによる音楽教育の可能性(2)−保護者と 学生を対象としたアンケート結果から−.帯 広大谷短期大学紀要,第54号,pp.33-42. 9)長﨑結美(2018):乳幼児のためのコンサー トによる音楽教育の可能性(3)−保育者養 成の視点から−.帯広大谷短期大学紀要,第 55号,pp.35-43. 10)長﨑結美・山本健太(2019):乳幼児のため のコンサートによる音楽教育の可能性(4) −「木育」による表現活動を中心に−.帯広 大谷短期大学紀要,第56号,pp.29-38. 11)臼井奈緒・大西隆弘・坂本千鶴子(2019): 大学における子育て支援活動としての参加型 コンサート実践報告 : 親子の主体性と学生の 学びに着目して.湊川短期大学紀要,第55集, pp.87-94. 12)ヤマハ音楽研究所(2013):現代における子 どもと音楽のかかわり−4,5歳児の保護者へ のアンケート調査結果から−.   https://www.yamaha-mf.or.jp/onken/wp-content/themes/onken/shared/pdf/report/ rpt004_parents2013.pdf(2020年9月10日閲覧)

参照

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