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リンゴ ‘ふじ’ におけるNAC水和剤の摘果効果の年次間差の推定

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リンゴ‘ふじ’における

NAC 水和剤の摘果効果の年次間差の推定

岩波 宏

*・守谷友紀・花田俊男・阪本大輔・馬場隆士

農業・食品産業技術総合研究機構果樹茶業研究部門リンゴ研究拠点 020-0123 岩手県盛岡市下厨川

Estimation of Annual Variation in the Thinning Efficacy of NAC in ‘Fuji’ Apple

Hiroshi Iwanami*, Yuki Moriya, Toshio Hanada, Daisuke Sakamoto and Takashi Baba

Apple Research Station, Institute of Fruit Tree and Tea Science, NARO, Shimo-kuriyagawa, Morioka, Iwate 020-0123

Abstract

NAC (1-naphthyl N-methylcarbamate) has been used as a fruit thinner in apple orchards of Japan. It has long confused apple growers that the thinning efficacy of NAC varies widely from year to year. So, we searched for factors that could influence the thinning efficacy in weather data and data that describe conditions of trees, and tried to estimate the annual variation of the efficacy by developing a regression model using the factors. Whenever trees were treated with NAC, the time at which fruitlets of the trees stopped growing was the same as the time as when the untreated fruitlets destined to drop physiologically stopped growing. The thinning efficacy could be largely estimated by four factors: the number of fruitlets within a cluster when treated with NAC, the number of leaves on a cluster, the maximum temperature for three days after treatment, and the solar radiation for one week after three weeks of treatment. The regression model using the four factors as independent variables indicated that fruitlets on a cluster with many fruitlets and few leaves easily fall, especially under the conditions of a high maximum tempera-ture and low solar radiation. The difference in the thinner efficacy by years was mainly due to the annual fluctuation of solar radiation for one week after three weeks of treatment.

Key Words:June drop, regression model, shading, thinner response キーワード:ジューンドロップ,回帰モデル,遮光,摘果効果

緒  言

NAC(1-naphthyl N-methylcarbamate, 一般名 カーバリル) 水和剤は,現在日本のリンゴ生産で利用可能な唯一の摘果 剤である(農林水産消費安全技術センター, 2020).1966 年に農薬登録され(福田, 1991),摘果効果や処理適期を 明らかにするための試験が古くから行われてきた(川村 ら, 1965; 鈴木・丹野, 1973).摘果の効果が試験によって 異なることから,どのような気象条件でどのような樹体に 処理をすると効果があるかについてもまとめられ(森田, 2007),最近でも,品種ごとに処理の有効性が検討される とともに(工藤ら, 2010; 長野県果樹試験場, 2018),品種 ごとの最適な処理時期も提案されている(青森県りんご生 産指導要項編集委員会, 2018; 今井ら, 1995).それでも, NAC 水和剤の 2017 年度の使用は,日本のリンゴ生産量の 5 割強を占める青森県でも 2 割程度の園地に限られている (青森県りんご生産指導要項編集委員会, 2018).普及して いない理由としては,大きく2 つの要因が考えられる.1 つは摘果剤処理による過剰落果の心配があり,経営面積の 狭い日本のリンゴ園では危険を冒してまで摘果剤を使用す るほど労働力不足が切迫した状況ではないこと(福田, 1991).もう 1 つは,年によって効果が異なることおよび 残った果実が適当な位置に着果するとは限らないため,良 品生産を目標とした栽培では必ず人手による摘果が必要で あること (今井ら, 1995)が挙げられ,どちらかというと 後者が大きな要因と考えられる. 海外でも,NAC 水和剤は安定して摘果効果を示すこと から(Greene, 2002),ワシントン州(アメリカ合衆国の リンゴ生産の7 割を占める,中央果実協会, 2019)では, 2010 年くらいまでは 6 割の園地で NAC 水和剤が使われて いた(Schmidt, 2019).摘果効果自体は穏やかで,北米で は,他の摘果剤と混用して使用する方法が一般的である (Dennis, 2000).一方で,摘果効果はあるものの,処理時 期や処理濃度に対する反応が一定でないこともよく知られ ており(Wertheim, 2000),天候と生育ステージから判断し て最適と思われる日に摘果剤を処理しても,年によって反 応が異なり,その効果を予測できないことが問題となって いる(Robinson・Lakso, 2004).海外の摘果基準は,最終 的な1 樹当たりの着果数を基準としているため(Robinson ら, 2013),目標とする着果数まで摘果剤で落果させるこ とができれば,人手による摘果は必要なくなる.そのた 2020 年 4 月 9 日 受付.2020 年 6 月 12 日 受理 * Corresponding author. E-mail: [email protected]

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め,摘果剤の効果を正確に予測するとともに,摘果効果を 調節する技術はかなり重要となっている.そこで,天候や 樹体の状態から摘果剤の処理適期や効果の程度を推定する モデルが作られ,年ごとに,また処理日ごとに,効果の異 なる摘果剤の組み合わせや濃度を変えて,摘果効果を調節 する方法が実践されている(Robinson ら, 2013). 日本における一般的なリンゴの摘果方法は,1 果そうに 1 つの果実をならせる粗摘果とよばれる作業の後,仕上げ 摘果に入る.‘ふじ’では,4 頂芽に 1 果が標準的な着果基 準である(青森県りんご生産指導要項編集委員会, 2018). 従って,各果そうに1 つの果実がなった状態であれば,頂 芽の花芽率が50%であっても,2 つの果実からよいものを 1 つ選ぶことができる.また,粗摘果を満開 28 日後まで に終わらせれば,仕上げ摘果は満開60 日後までにすれば よいとする報告もある(Koike ら, 2003).すなわち,摘果 剤で粗摘果と同程度に落果させることができれば,粗摘果 にかかる労力が削減されるとともに,仕上げ摘果を終わら せる期日も延ばせるため,摘果作業の負担を減らすことが できる.受粉状況がよい条件では,1 果そうに 5~6 個着 果する.1 果そうに 1 個だけ残すには,果そう当たりの落 果率を80%程度とする必要がある.年次によらず安定し て80%の落果率となる処理方法が確立すれば,NAC 水和 剤の普及も進むと考えられる. そこで,本試験ではまず,NAC 水和剤の摘果効果の年 次変動の原因を明らかにするため,落果程度に影響し得る 気象や樹体の栄養状態と関連する要因から落果程度を予測 するモデルを作る.次にそのモデルを用いて,年次による 変動の大きさを推定するとともに,安定して80%程度の 落果率となる処理条件および処理方法を提案することを目 的とした.

材料および方法

1.供試材料と栽培条件 農研機構果樹茶業研究部門リンゴ研究拠点の圃場に植栽 されている3 品種を用いた.NAC 水和剤処理は,2017~ 2019 年の 3 年間行った.2017 年は,JM1 台の 13 年生‘ふ じ’ を 9 樹(樹間 4 m,列間 5 m),JM7 台の 16 年生‘秋映’ を7 樹(樹間 3 m,列間 5 m),JM7 台の 17 年生 ‘きたろう’ を6 樹(樹 間 3 m, 列 間 5 m),2018 年 は,JM1 台 と M.26 台の14 年生‘ふじ’ を合わせて 15 樹(樹間 3 m, 列間 5 m) と,上記の‘秋映’ と ‘きたろう’をそれぞれ 9 樹と 8 樹, 2019 年は,JM1 台と JM7 台の 9 年生‘ふじ’ を合わせて 15 樹(樹間 1~1.5 m,列間 4 m)を試験に用いた.リンゴ 樹の管理は慣行の方法に従った.近接する植列には交雑 和合性の品種が配置され,自然条件で毎年結実は良好で ある. 2.NAC 水和剤の処理方法と処理効果の調査 NAC 水和剤(ミクロデナポン水和剤 85, 日本農薬(株)) は,1,200 倍に希釈し展着剤(クミアイニーズ,クミアイ 化学工業(株))を加えたものを,満開後5 日から 1 か月の 間 に, ‘ふじ’ については 2017 年は 8 回,2018 年と 2019 年は12 回,‘秋映’については 2017 年は 6 回,2018 年は 8 回,‘きたろう’については,2017 年は 5 回,2018 年は 7 回,1 樹単位で時期をずらして(1~7 日間隔)処理した. 各樹に対して処理は1回である.処理は動力噴霧機を用い, 葉から薬液がしたたる程度の散布とした.処理に先立ち, それぞれのリンゴ樹の中から無作為に15 果そうを選び, 果そう内の中心果および全側果にラベルを付けた. 満開10 日後から 2~3 日おきに満開 40 日後まで,ラベ ルをつけた全幼果の横径をデジタルノギスで測定した.満 開40 日後に,調査果そうが着生している果枝および調査 果そうの果台と果台枝の葉数を記録し,これを果そう葉数 とした. 3.NAC 水和剤の効果を推定するモデルの作成 NAC 水和剤による摘果効果(落果程度)には,処理 した果そうの栄養状態と処理前後の気象条件が影響する と考えられることから,これら要因から落果率を推定する 重回帰モデルを構築した.落果率は,調査した3 品種の 2017~2019 年の 3 か年のデータ (‘秋映’ と ‘きたろう’ に ついては2 か年のデータ)を用いた.果そうの栄養状態の 指標としては,NAC 水和剤処理時の果そう内の果実数と 果そうの葉数を用いた.果そうの葉数は,果枝,果台およ び 果 台 枝 の 葉 を 合 わ せ た 枚 数 に1~6 の指数を与えた (8 枚以下を指数「1」,12,16,20,24 枚以下をそれぞれ 指数「2」,「3」,「4」,「5」とし,24 枚より多いものを指数 「6」とした).気象要因としては,処理 3 日前から処理 3 日後までの最高気温と最低気温を1 日単位で説明変数とし て検討した.その他に,処理前後1 週間の平均日射量,平 均日照時間,平均気温を,また,満開2~4 週間後の平均 日射量,平均日照時間,平均気温もモデルの変数として検 討した.これら気象データは,処理圃場からおよそ1.5 km 離れた農研機構東北農業研究センター内の気象観測装置 で記録したものを用いた. 落果率を推定するモデルは,ロジスティック回帰分析に より構築した.果そうの栄養状態に関する要因と落果率と 相関のありそうな気象要因をすべて説明変数の候補と し,最適な変数の数および組み合わせをAIC(赤池の情 報量規準)により判定した.落果率は1 樹ごとに算出し, 果そう内果実数と葉数(指数)は,調査樹の果そうの平均 値を用いた.解析は,SAS の一般化線型モデル(genmod procedure)を用いて行った. 4.モデルから推定した NAC 水和剤の効果の年次変動 ‘ふじ’にNAC 水和剤を処理した場合に,平均的な果そ うである葉数指数「3」(果そう葉が13~16 枚) の果そう の果実(1 果そうに 5 個着果)が処理でどの程度落果する かを,過去の気象条件をモデルに当てはめて推定した. NAC 水和剤は農薬登録上,満開後 1~4 週の間で処理する ことが決められていることから,それぞれの年について,

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その期間の処理日ごとの落果率の推定値とその期間の最大 値を求めた.気象データは,盛岡地方気象台のアメダス データを用いた.年次変動の気候変動の影響を確認するた め,過去約50 年間のデータを用いた.また,‘ふじ’の発 芽日,満開日は,リンゴ研究拠点で調査した1967 年から 2019 年までのデータを用いた. 5.落果率が 80%となるための処理方法の検討 果そう内果実数が少ないリンゴ樹にNAC 水和剤を処理 した場合と,日射量を人為的に調節した環境下で処理した 場合の摘果効果をモデルから推定した.果そう内果実数が 少ない状態は,NAC 水和剤処理前に摘花剤であらかじめ 着果数を減らしておく方法を想定し,日射量の調節は,樹 全体を遮光率の異なる寒冷紗で被覆する方法を想定した. NAC 水和剤の効果は 50%の落果率とし,リンゴ研究拠点 の成績で満開後1~4 週の最高気温が 25°C,満開後 3~4 週の平均日射量が22 MJ・m–2の気象条件下での処理とし た.摘花剤処理と遮光とNAC 水和剤処理を組み合わせる ことで,最終的な落果率80%を達成できるかモデルから 推定した.

結  果

1.‘ふじ’における NAC 水和剤の摘果効果に及ぼす処理 時期と気象要因の影響 NAC 水和剤処理の有無にかかわらず,落下する果実 は, 落下する前にまず肥大が止まった.第 1 図に, NAC 水 和剤処理をした果そうを例に,果実の肥大停止時期と落下 時期との関係を示した.短いものでは果実の肥大停止が確 認されてから3 日後に落下が認められたのに対し,長いも のは落下までに2 週間以上を要した.果そうの中で生育の 悪い果実から肥大停止が起こる傾向にあった(第1 図 A). 通常,中心果は果そうの中で最も開花が早く肥大も旺盛 となるが,果そうによっては必ずしも中心果の肥大がよい とは限らず,その場合は中心果も落下した(第1 図 B). NAC 水和剤の効果の現れる日は,果実の落下した日より は肥大停止した日の方が正確であるといえた.また,中心 果も肥大が悪ければ落下することから,NAC 水和剤の効 果に中心果と側果を区別する必要はないといえた. NAC 水和剤を早くに処理しても遅くに処理しても,果 実の肥大が停止する時期は,無処理樹で生理落果する果実 が肥大停止する時期と同じであった(5/25~6/5,第 2 図). 生理落果する果実の肥大停止時期を過ぎて処理した場合に は,その後の落果は認められなかった(第2 図 G). NAC 水和剤を処理する時期が早いほど落果率(肥大停 止果数率)が大きくなる,というような明確な関係は認め られなかった(第2 図).落果率と関係のありそうな気象 要因を探索したところ,処理後3 日間の最高気温の平均が 高いほど落果率は高くなる傾向にあった(第3 図).また, 満開3 週間後から 1 週間の平均日射量が低いほど,落果率 は高くなった(第4 図).この時期は,生理落果する果実 の肥大停止時期と重なっていた.この他に,処理1 週間前 の平均気温と処理後3 日間の平均気温も,年次や品種に よっては落果率との相関が認められた(データ省略). 第1 図 NAC 水和剤処理により落下する果実の肥大停止時期 と落下時期との関係(‘ふじ’,2018 年) A: 中心果と側果で肥大差の大きい果そうの例(5/28  NAC 水和剤処理) B: 中心果と側果で肥大差の小さい果そうの例(5/20  NAC 水和剤処理) 第2 図 NAC 水和剤の処理時期と果実の肥大停止時期との関 係(‘ふじ’,2018 年) 図中の矢印はNAC 水和剤の処理日 A:無処理樹の肥大停止果数率の推移 B~G:処理樹の肥大停止果数率の推移

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2.NAC 水和剤の摘果効果の推定 落果率と相関の認められた気象要因と果そうの栄養状態 を表す要因を説明変数,NAC 水和剤処理後の落果率を目 的変数とした回帰モデルを構築し,変数の最適な組み合わ せをAIC により判定した結果,以下の式に示されている 変数を用いたモデルで最もあてはまりがよくなった. 落果数/結実数(落果率)(ロジット変換後の値) = 品種特性値 + 0.34・摘果剤処理時果そう内平均着果数 − 0.24・平均果そう葉数(指数:1~6) + 0.03・処理後 3 日間の平均最高気温 − 0.16・満開 3 週間後から 1 週間の平均日射量 (品種特性値 ‘ふじ’:2.03, ‘秋映’:1.47, ‘きたろう’:2.14). このモデルから推定した調査樹の落果率と実際の落果率 とは,年次によらず,概ね同じ値となった(第5 図).従っ て,このモデルを用いることで,処理後の気象条件から, NAC 水和剤処理による落果率を推定できるといえた.ま た,どの程度落果するかは,処理後の気象条件の他にも, 処理時の着果数や果そう葉数といった果そうの栄養状態の 影響も受けることが示された(第6 図). 3.NAC 水和剤の摘果効果の推定値の年次変動 上記モデルを用い過去の気象データから,‘ふじ’につ いて,処理の効果が処理時期や年次でどの程度異なるか推 定した結果,満開後1~4 週の間で最高気温は大きく変動 していたが,その変動の影響を受ける落果率は,着果数や 葉数が同程度であれば,処理時期が異なっていても5% 程度しか効果に違いはなかった(第7 図).一方,満開後 3~4 週の日射量が年次により大きく異なっていたため (第8 図 B),処理年次による効果の違いは大きかった. 効果の年次間差が大きいと予想されたため,過去約50 年間の満開日と気象データを用い,その変動の大きさおよ び近年の傾向を推定した.1970~1990 年の満開後 3~4 第3 図 NAC 水和剤の処理時期が異なる供試樹ごとの落果率 と 処 理 後3 日間の平均最高気温との関係(‘ふじ’, 2018 年) 第4 図 NAC 水和剤の処理時期が異なる供試樹ごとの落果率 と 満 開 後3~4 週 の 平 均 日 射 量 と の 関 係(‘ふ じ’, 2017~2019 年) 第5 図 リンゴ 3 品種における,NAC 水和剤の処理時期が異 なる供試樹ごとの落果率の実測値とモデルから推定し た値との関係 実測値と推定値の相関係数(r),バイアス(Bias),平 均平方二乗誤差(RSME)は,3 品種合わせたものを図 中に記載 モデルは本文中に記載(2017~2019 年) 第6 図 NAC 水和剤の処理時期が異なる供試樹ごとの落果率 と,NAC 水和剤処理時の果そう内着果数(A)および 果そう葉数指数(B)との関係 A:果そう葉数指数 2.5~3.5 のリンゴ樹について B:果そう内着果数 3.5~4.5 のリンゴ樹について (‘ふじ’,2017~2019 年)

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週の平均日射量は,満開日の早晩にかかわらず変動が大 きく (第 8 図 A, B),‘ふじ’ の落果率も 50%程度か 80% 以上かという極端な年が続いたと予想された(第8 図 C). 一方,2010 年以降は,満開後 3~4 週の平均日射量の高い 年が多く,2017 年を除いて落果率は 70%以下と,摘果効 果としては不十分な年が続いたと予想された. 4.NAC 水和剤の効果的な利用方法 近年の天候では,NAC 水和剤単独処理では落果率 80% を達成するのは困難と予想された.そこで,摘花剤であら かじめ着果数を減らしたうえでNAC 水和剤を処理する場 合を想定すると,モデル上で最終的な落果率を80%とす るには,遮光しない場合は摘花剤で70%程度落花させて 着果数を制限しておく必要があった(第9 図).遮光をす る場合は,満開後3~4 週の期間に樹体を遮光率 20%の寒 冷紗で覆えば,摘花剤で50%程度落花させた後に NAC 水 和剤を処理することで最終的な落果率80%を達成できる と推定された.摘花剤を使わず遮光処理だけであれば, NAC 水和剤処理後に 35%遮光する必要があった.

考  察

日本におけるNAC 水和剤の処理日は,幼果の直径を基 に決められることが多く,およそ10 mm 程度になった時 点での処理が推奨されている(青森県りんご生産指導要項 編集委員会,2018).過剰摘果が心配な場合は,その基準 より遅めに処理するようにと指導されることもある(今井 ら, 1995; 川村ら, 1965).しかし,本試験の結果から,処 理時期が遅い方で落果率が低くなるわけではなく(第2 図),落果率は,処理後の気温と関係していた(第3 図). Byers(2003)も,20 年間の調査で,NAC 水和剤の摘果効 果と相関があるのは処理時の幼果のサイズや満開後日数で はなく,処理後の気温であるとしている.日本の古い試験 成績でも,処理濃度を変えても(600~2,000 倍),また, 処理時期を変えても (満開後 1~4 週間)効果に大きな違 いはないことが報告されている(川村ら, 1965; 鈴木・丹 野, 1973).従って,NAC 水和剤は,幼果の直径ではなく, 満開後1~4 週の気象条件を参考に処理する日を決める方 が適当であるといえる. 処理の効果の発現時期は,処理日によらず(処理後日数 ではなく),生理落果(する果実の肥大停止)の時期と一 致していた(第2 図).Marini(2003)も,NAC 水和剤処 理樹と無処理樹で落下する果実の肥大停止時期は同じで あったことを観察している.日本のリンゴ栽培の指導書で 第7 図 気象条件の異なる 4 か年の,モデルから推定した‘ふ じ’のNAC 水和剤満開 1~4 週間後処理における落果 率の推移 平均果そう葉数は13~16 枚で,1 果そう当たり平均 5 個着果している場合について推定 モデルは本文中に記載 第8 図 リンゴ研究拠点における過去 50 年間の‘ふじ’の満 開日(A),満開後 3~4 週の平均日射量(B)およびモ デルから推定したNAC 水和剤処理による‘ふじ’の最 大落果率(C) 第9 図 NAC 水和剤の摘果効果が 50%の気象条件下(満開後 3~4 週の平均日射量 22 MJ・m–2,処理後3 日間の平均 最高気温25°C)での,摘花剤と遮光処理を組み合わせ た場合の‘ふじ’の推定落果率

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は,処理の効果が現れるのは処理1 週間後もしくは 10 日 後以降となっている(青森県りんご生産指導要項編集委員 会, 2018; 岩手県, 2017).処理時期が満開 2~3 週間後で あれば,その1 週間後もしくは 10 日後から落果が見られ るとの記述は間違いではないが,早くに処理をすればそれ だけ早く効果が現れると誤解される可能性があり,注意が 必要である. 落果率は,処理時の果そう内の平均着果数,平均果そう 葉数,処理後3 日間の平均最高気温,満開後 3~4 週の平 均日射量の4つの要因で概ね推定できた(第3, 4, 5, 6図). Robinson ら(2017)も,処理時期に応じた摘果剤の種類の 選択や処理濃度の参考とするため,気象条件から落果程度 を推定するモデルを作成している.そのモデルでは,摘果 剤処理により落果しやすい処理時期は樹体の炭素供給量が 不足しているときであるとし,処理日から処理3 日後まで の4 日間の気温と日射量を推定して樹体の炭素供給量を計 算している.樹体の炭素供給量が多く落果しにくい状態で あれば摘果剤を混合するか濃度を上げ,供給量が不足して 落果しやすい状態であれば,濃度を下げるよう指導してい る.本試験のモデルでも,処理後3 日間の気温が高いと落 果が促進され,処理時の果そう内の着果数が多く,果そう 葉数が少ない(炭素の需要量が多く,供給量が少ない状 態)ほど落果しやすくなった.本試験のモデルでは,樹体 の栄養状態を表す指標として,調査果そうの着果数と葉数 をモデルの変数に入れているが,果そう数自体も樹体に よって異なっていることから,果そう数を表す花芽率や樹 体の全葉数を変数に加えると,より推定精度の高いモデル となるかもしれない. NAC 水和剤処理による落果時期は生理落果の時期と重 なることから(第2 図),NAC 水和剤は,生理落果を助長 しているといえる.近藤(1990)は,生理落果程度に影響 を及ぼす気象要因を探索する中で,満開後4~5 週の最低 気温,日射量,降水量が最も影響が大きいことを見い出し たが,時期を変えて遮光および夜間温度(最低気温)を上 げる処理をしたところ,遮光処理では満開後20 日から 4 日間の処理で激しく落果が促進されたことを報告してい る.Byers(2002)も,満開 21 日後に 2.5 日間遮光すると 生理落果が激しく助長されることを観察している.また, McArtney ら(2004)も,開花後 20~25 日の遮光で早期落 果が促進されると報告している.従って,満開後3~4 週 の日射量は生理落果程度を決める重要な要因で,NAC 水 和剤の効果に大きく影響するのであろう. モデルから,過去50 年間の NAC 水和剤による年ごとの 落果率を推定した(第8 図).この落果率の推定値と,過 去の報告にある実際のNAC 水和剤処理による落果率とを 比較できれば,モデルの精度を検証することができる.し かし,今回推定した値は,1 樹の平均果そう葉が 13~16 枚で,処理時の平均着果数が1 果そう当たり 5 個の時の最 大落果率なのに対し,過去に行われたNAC 水和剤処理の 試験結果は,最も条件のよい時に処理したとは限らず,ま た,どのような樹体(果そう葉数と着果数)に処理したか の記述もないため,単純な比較は意味がない.そこで,摘 果効果の年次変動の傾向のみを見た.すると,近年は効果 の不十分な年が多くなっているといえた(第8 図 C).そ れでも,品種によっては過剰摘果の心配があるため注意す る必要がある.ただ,例えば,本試験で使用した‘秋映’ については,NAC 水和剤の取扱説明書の中では,過剰摘 果となることがあるので使用をさし控えるようにとの注意 書きがある.しかし,本試験の2 か年の成績では,過剰摘 果は認められなかった(落果率実測値で20~70%,第 5 図).NAC 水和剤の効果は年によって大きく異なるため, NAC 水和剤の登録のための試験で ‘秋映’ を使った年が, たまたま満開後3~4 週の日射量の少ない年であったのか もしれない.今後,NAC 水和剤の摘果効果を品種間で比 較する場合は,試験は複数年で行うとともに,日射量にも 注意を払う必要があろう. 近年の気象条件では,NAC 水和剤単独処理で摘果作業 の大きな省力効果が期待できる落果率80%の達成は難し いことが予測された(第7 図,第 9 図).海外では,前述 したように,効果の異なる複数の摘果剤が使えるため,組 み合わせを変えることで摘果効果を調節できる(Robinson ら,2017).一方,日本では NAC 水和剤以外に登録のある 摘果剤がないため,気象条件からNAC 水和剤の効果が低 そうだと判断されても,他に代わる摘果剤はない.NAC 水和剤は2 回処理でも 1 回処理でも効果に大きな違いはな い(Dennis, 2000).そこで,摘花剤と遮光資材の利用を検 討した.まず摘花剤である程度着果数を減らし,満開後 3 週にその週の日射量を予測し,NAC 水和剤処理で過剰摘 果の危険がないと判定された場合は処理する.このとき, NAC 水和剤処理を追加しただけでは目標とする落果率に 届きそうにない場合は,さらに適当な遮光率の資材で樹体 を被覆すれば,理論的には落果率80%は達成できる.近 年の気候変動による降雹や日焼け果発生の増加リスクを考 えると,樹列全体を被覆する栽培が普及する可能性もあ る.被覆を容易に行える栽培環境となれば,日射量の調節 を組み合わせた摘果も,着果管理方法の一つとして検討す る価値はあると思われる.

摘  要

NAC 水和剤による摘果効果は年次間差が大きい.そこ で,樹体の状態と気象条件から効果に影響を及ぼす要因を 抽出し,その要因を用いて,摘果効果(落果率)を予測す るモデルを作成するとともに,そのモデルから,年次変動 の原因およびその程度を推定した.NAC 水和剤処理によ る‘ふじ’の落下する果実の肥大停止時期は,NAC 水和 剤を早くに処理しても遅くに処理しても,無処理樹で生理 落果する果実が肥大停止する時期と同じ時期であった. NAC 水和剤処理による落果率は,処理時の果そう内平均

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着果数,平均果そう葉数,処理後3 日間の平均最高気温, 満開後3~4 週の平均日射量の 4 つの要因で概ね推定でき た.果そう内着果数と果そう葉数は果そうの栄養状態を表 し,果そう内の着果数が多く,果そう葉数が少ないリンゴ 樹の果実は落下しやすかった.気象要因である処理後の気 温と日射量については,日射量の方が落果率に及ぼす影響 は大きく,年次による落果率の違いは,満開後3~4 週の 平均日射量の年次による違いが主な原因であった.近年は この時期の日射量が高いため,NAC 水和剤の摘果効果が 不十分な年が多く,NAC 水和剤単独処理では省力化の期 待できる落果率80%を安定して達成するのは困難である と推定された.

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