GATTウ ル グ ア イ ・ ラ ウ ン ド に お け る AV「 文 化 特 例 」 を め ぐ る 攻 防 三 浦 信 孝 は じ め に 7年 を越 え る長 丁 場 に及 ん だGATTウ ル グ ア イ ・ラ ウ ン ドは,1993年12月 に 決着 した。 こ こ まで 交 渉 を遅 延 させ た最 大 の難 問 は農 産 物市 場 の 自由化 問 題 だ った が,ラ ウ ン ドの最 終 局 面 で急 浮 上 し最 後 まで 米 欧 対 立 の 焦 点 とな った の は,映 画 ・オ ー デ ィ オ ビ ジ ュ ア ル(以 下AV)の 「文 化 特 例 」 を め ぐ る 攻 防 だ っ た 。 既 に ヨ ー ロ ッ パ の 映 画 市 場 の7割 以 上 を 支 配 し て い る ア メ リ カ は, ECに よ る テ レ ビの 域 内 番 組 放 映 割 当 て や 映 画 産 業 へ の 資 金 援 助 策 を保 護 主義 と して そ の撤 廃 を求 め たの に対 し,ヨ ー ロ ッパ 側 は映 画 ・テ レ ビ番 組 ・ビデ オ な どAV製 品 は一 国 の 文化 的 ア イ デ ンテ ィテ ィの 重 要 な 支 え で あ り,こ れ を 普 通 の 商 品 と同 列 に 扱 うわ け に は い か ない,し た が っ てAV製 品 をサ ー ビ ス 貿 易 自由化 の交 渉 リス トか ら除外 すべ きだ と主 張 した 。 この 「文 化 特 例」 の 主 張 の急 先鋒 に 立 った の は,EC加 盟 国 の 中 で 辛 う じて 映 画 産 業 を維 持 し,ECの 映 画 制 作 投 資 の 半 分 を 占め そ い る フ ラ ンス で あ る。 もち ろ ん フ ラ ン ス は一 国 単 位 で 交 渉 にの ぞ ん だの で はな く,ECの パ ー トナ ー 国 を説 得 し,AVに 関 す る 「文 化 特 例 」 をEC委 員 会 の交 渉 方 針 と して 採 択 さ せ,そ の 主 張 の前 に ア メ リカ は 一応 引 き下 が った わ け で あ る。 永 井 陽之 助 に よれ ば,「 文化 特 例」 の 攻 防 を通 して あ らわ に な っ た の は 「文
GATTウ ルグアイ ・ラウ ンドにおけるAV「 文化特例」 をめ ぐる攻 防(三 浦) 明 」 と 「文 化 」 の 対 立,す な わ ち,ア メ リ カ が 代 表 す る 市 場 原 理 と 自 由 貿 易 と い う 「普 遍 的 ビ ジ ネ ス 文 明 」 の 論 理 と,商 品 原 理 に は 還 元 さ れ な い 文 化 的 差 異 に こだ わ る 「個 別 的文 化 」 の論 理 との対 決 で あ る。 見 方 を変 え れ ば,フ ラ ンス 革 命 以 来,西 欧 近代 文 明 の普 遍 的価 値 の体 現 者 を もって 任 じて きた フ ラ ンス が, 初 め て 少 数 派 の個 別 文 化 の立 場 か ら文 化 の複 数 性 を擁 護 す る側 に 回 っ た とい う 意 味 で,こ の 事件 は 文 明 史 上 ひ とつ の転 換 点 を示 す もの と言 え る。 か つ て は イ ギ リス に次 ぐ植 民 地 帝 国 を築 き上 げ た フ ラ ンス は,第2次 大 戦 後 次,々に植 民 地 を失 い,国 際 的 影 響 力 を維 持 し発 展 す るひ とつ の 手段 と してEC建 設 を推 進 し て きたが,フ ラ ンス 自身 が 文化 的 に植 民 地 化 さ れ る危 険 に直 面 して,ア メ リカ のヘ ゲ モ ニ ー に よ る世 界 の 文化 的 画 一化 に抵 抗 す る声 を あ げ た ので あ る。 フ ラ ンス 文学 出 身 で 現代 フ ラ ンス論 を研 究 す る筆 者 がGATTウ ル グ ア イ ・ ラ ウ ン ドに お け るAV交 渉 に強 い 関心 を もっ た の は,「 文 化 特 例 」 の 闘 い が 「文 化 」 と 「経 済」 の結 節 点 に位 置 す る範 列 的 ケ ー ス で あ り,し か も交 渉 主 体 で あ るECの 意 思 決 定 メ カ ニ ズ ム と,一 方 の主 役 を演 じた フ ラ ン スの ア イデ ン テ ィテ ィ危 機 な い しナ シ ョナ リズ ム とい う二つ の レヴ ェ ルで,優 れて 「政 治 」 的 な現 象 と して これ を分 析 で きる と考 え た か らに他 な らない 。 本 稿 は,日 本EC学 会 第16回 研 究 大 会(1995年11,月4,5日,於 関西大学)に お け る報 告 をベ ー ス に して い るが,紙 幅 が 限 られ て い る た め,口 頭 発 表 の 第1 部 の み を発 展 させ,ウ ル グ ア イ ・ラ ウ ン ドにお け るAV分 野 を め ぐる米 欧 間 の攻 防 を客観 的 に跡 づ け,交 渉 の結 果 を法律 面 か ら評 価 し,そ の 後 の 欧 州委 員 会 のAV政 策 の展 開 を素 描 す る こ と を 目的 とす る。 そ こで は,な ぜ ラ ウ ン ド の最 終 局 面 に な っ てAV分 野 が急 浮上 した の か,EC内 部(委 員会 と加盟 国政府 間)に どの よ う な対 立 が あ り,ど の よ う な形 で 交渉 方 針 の調 整 が行 わ れ た の か, 「合 意 な き合 意 」 に終 ったAV交 渉 は ヨー ロ ッパ,な か んず くフ ラ ンス の勝 利 だ っ た と言 え るの か,と い っ た問 い が 分 析 の 焦点 とな る。 47
1 ラ ウ ン ドの 交 渉 経 過:プ ン タ ・デ ル ・エ ス テ か ら マ ラ ケ シ ュ ま で 1986年9月,ウ ル グ ア イ の プ ン タ ・デ ル ・エ ス テ に お け るGATT閣 僚 会 議 で 始 ま っ た ウ ル グ ア イ ・ラ ウ ン ドは,1993年12月14日,7年 越 し の 多 国 間 貿 易 交 渉 の 果 て に よ う や く妥 結 し,翌94年4月15日,モ ロ ッ コ の マ ラ ケ シ ュ で 最 終 文 書 の 調 印 が 行 わ れ た 。 こ れ に よ りGATTは 大 幅 に権 限 を 拡 大 し,紛 争 処 理 メ カ ニ ズ ム を 強 化 し た 世 界 貿 易 機 関(WTO)と して 改 組 さ れ,95年1月1日 に新 しい 出発 を とげ た 。 1947年10月 に調 印 され た 「貿 易 関税 一 般 協 定 」 に も とづ き翌48年1月 に発 足 したGATTは,関 税 そ の他 の貿 易 障壁 を漸 次 除去 す る こ と に よ っ て,自 由 貿 易 を 旨 とす る 国 際通 商 の ル ー ルづ く りに努 め て きた 。 過 去7つ の ラ ウ ン ド(多 国間貿易交渉)が,主 に 工 業 製 品 の相 互 的 関 税 引 下 げ を 目標 に して きた の に対 し,1986年9月 に開 始 され た ウル グ ア イ ・ラ ウ ン ドは,工 業 製 品以 外 に,従 来 聖 域 化 さ れて きた農 産 物 と,金 融 ・運 輸 ・テ レコ ム な どサ ー ビス貿 易 や知 的所 有 権 な ど新 分 野 を取 り上 げ た 点 が 画 期 的 と さ れ る 。 本 論 で 主 題 的 に扱 うAV 分野 は,サ ー ビ ス貿 易 自由化 の枠 の 中 で交 渉 項 目 と され た わ け で あ る 。 どの 時 点 でAVが サ ー ビス 貿 易 の交 渉 項 目に入 っ たか は明 ら か で は な い が, 少 な く と も1988年12月 モ ン トリ オー ル で 開 か れ た 中 間 レ ビ ュー 閣僚 会 議 で, 「サ ー ビス の全 分 野 を カバ ー し,い か な る分 野 も除 外 せ ず 」 の原 則 が確 認 され て い る。1989年10月 に は,ECの 閣僚 理事 会 で 後 述 す る 「国境 な きテ レ ビ」 指 令 が 採 択 さ れ て お り,翌90年8月 に はEC委 員 会 の提 案 で,サ ー ビス 交 渉 グ ル ー プ(GNS)の 中 にAVサ ー ビス 作 業 グル ープ が設 置 され た 。4年 間の 予 定 で 始 ま った ラ ウ ン ドだ った が,1990年12月 の ブ リ ュ ッセ ル 閣僚 会 議 で 農 業 補助 金 をめ ぐる交 渉 が不 調 に終 わ り,ラ ウ ン ド全 体 が延 長 され る。 この と き初 め て, Av分 野 に関 す る 「文化 の例 外 」 な い し 「文 化 の特 殊性 」 がEC側 か ら主 張 さ れ た 。 48
GATTウ ルグアイ ・ラウン ドにお けるAV「 文化特例」 をめ ぐる攻防(三 浦) 1991年12月20日 に は,「 例 外 な き 関 税 化 」 を 柱 と す る ダ ン ケ ルGATT事 務 局 長 の 最 終 合 意 案(ダ ン ケル ・ペ ーパ ー)が 提 示 さ れ,翌92年1月 に は,交 渉 体 制 が そ れ ま で の7つ の 交 渉 グ ル ー プ か ら4つ の トラ ッ ク(サ ー ビス は 第2ト ラ ッ ク)に 整 理 さ れ る 。92年11月20日 に 農 業 補 助 金 削 減 交 渉 で 米 国 とECの 問 に 「ブ レ ア ハ ウ ス 合 意 」 が 成 立 す る が,フ ラ ン ス は そ の 正 当 性 を 認 め ず,92年 内 の 決 着 は ま た も 見 送 ら れ る 。93年 に 入 る と ア メ リ カ の 政 権 が 交 代,議 会 に 「フ ァ ス ト ・ ト ラ ッ ク」 更 新 を 要 請 し,交 渉 妥 結 の 最 終 期 限 が12月15日 に 設 定 さ れ る 。7月 の 東 京 サ ミ ッ ト と,そ の 際 行 わ れ た4極 貿 易 大 臣 会 合 に よ り膠 着 状 態 が 打 開 さ れ,サ ザ ー ラ ン ドGATT新 事 務 局 長 の 調 整 の も と で9月 か ら 交 渉 が 本 格 化,93年12月15日 の 期 限 直 前 に 辛 う じ て 交 渉 が 決 着,翌94年4月15日, マ ラ ケ シ ュ 閣 僚 会 議 でWTO設 立 協 定 を は じ め と す る 最 終 文 書 に121力 国 の 代 表 が 署 名 した 。 サ ー ビス貿 易 に 関 す る 合 意 は 「サ ー ビス 貿 易 一 般 協 定(GATS)」 と して ま とめ られ た が,そ の 中 にAV分 野 に 関 す る特 別 の言 及 は な い 。AVはGATS の適 用 範 囲 か ら除外 され た わ けで は ない の で あ る 。 2 問 題 の 背 景 米 欧 間 のAV貿 易 の 圧 倒 的 不 均 衡 そ れ で は,な ぜAV分 野 が ウ ル グ ア イ ・ラ ウ ン ドで これ ほ ど問 題 とな った の か?問 題 は,金 融 や運 輸 な どサ ー ビス貿 易 自 由化 の一 環 と して,映 画 ・テ レ ビ番 組 ・ビ デ オ な どAV分 野 を交 渉 項 目 に加 え る こ と を ア メ リ カが 要 求 し た こ とか ら始 ま った 。 1991年 の統 計 だ が,米 欧 問 のAV貿 易 収 支 は37億8000万 ドル対2億5000万 ドル で,ア メ リ カ がECの15倍 も 輸 出 し て い る 。 ヨ ー ロ ッパ で ア メ リ カ 映 画 が 過 半 数 の シ ェ ア を 占 め た の は1970年 代 と さ れ る が,1990年 代 に 入 りア メ リ カ 映 画 は 最 低 の フ ラ ン ス で も59%,最 大 の イ ギ リ ス で93%と 国 に よ りば らつ き は あ る が,ヨ ー ロ ッパ 市 場 全 体 で74%の シ ェ ア を も つ(興 行 収 入 ベ ー ス)。 そ れ に対 49
し,ヨ ー ロ ッパ 映 画 の ア メ リカ にお け る シ ェ ア は,ア メ リカ 人が 字 幕 や 吹 き替 え の外 国映 画 を好 まず,リ メ イ ク しか 受 けつ け ない とい う事 情 もあ って,2% に も満 た な い 。 ま た,1980年 代 後 半 に進 行 した 欧 州 諸 国 の テ レ ビ の 民 営 化 と チ ャ ンネ ル の増 加 に よ り,ア メ リカの 映 画 や テ レ ビ ドラマ,日 本 の アニ メ の 買 い付 け が急 増 した。 本 国 の市 場 で 既 に元 を取 った アメ リカ の 映画 や テ レ ビ ドラ マ は,ヨ ー ロ ッパ の テ レビ局 が 自分 で 番 組 を制 作 す る よ りは る か に安 価 で輸 出 に 回 され る か らで あ る。 言 語 の違 い に よる市 場 の細 分 化 と企 業 規模 の 小 さ さ,資 金力 の不 足 に よ り, EC産 の 映 画AV作 品の うち国 境 を越 え るの は20%以 下 と言 われ る。 ます ます 強 ま るア メ リ カ映 画 の 支 配 的地 位 に危 機 感 を抱 い たECは,1992年 末 を 目指 し た 単 一 市 場 完 成 の気 運 の 中で 域 内AV市 場 の統 合 を は か り,同 時 に域 外 か ら の 競 争 に対 し域 内AV産 業 を保 護 す る 目的 か ら,1989年10月3日 「国境 な き テ レ ビ」 指 令 を理 事 会 で採 択 す る(発 効 は2年 後 の91年10月3日)。 指 令 は そ の第 4条 で,加 盟 国 の テ レ ビ局 に放 映 時 間 の 過 半 数 を域 内産 の作 品 に当 て る こ と, 第5条 で10%を 独 立 プ ロ の作 品 に当 て る こ と を義務 づ け た。 域 内 産 番 組 の 放 映 割 当 て 制 で あ る。但 し,こ の 「国境 な きテ レ ビ」 指 令 は そ の策 定 段 階 で,60% の 割 当 て を 主 張 した フ ラ ンス の要 求 を 「過 半 数 」 の 線 まで抑 え,「 そ れ が実 現 可 能 な限 りで」 とい う一句 を加 え る こ とで 法 的拘 束 力 を骨 抜 き にす るな ど,既 にEC内 の リベ ラ ル派 勢 力 に譲 歩 した規 定 に な っ て い た。 しか し,ア メ リカ は この 指 令 が 採 択 され る や,放 映 割 当 て 制 を市場 ア クセ ス を制 限 す る保 護 主義 と して非 難 し,1991年,92年 に はス ー パ ー301条 に よ る報復 の優 先 リス トに あ げ て,そ の撤 廃 を求 め た 。 放 映 割 当 て に よ って域 内作 品 を保 護 す るだ け で は十 分 で はな い 。域 内 の映 画 AV産 業 を振 興 す る た め,ECは2年 間 の 試 行 期 間 の の ち,1990年12月21日 MEDIA計 画 を理事 会 決 定 した 。 この計 画 は,シ ナ リオ作 成 や字 幕 ・吹 き替 え, 映 画 人 の養 成 訓 練,新 映像 技 術 開発 な ど,映 画 制 作 の上 流 と下流 に財 政 援 助 を 与 え,特 に小 規 模 独 立 プ ロ と域 内の 共 同 制作 を支 援 す る もの で あ る。 但 し,5 50
GATTウ ルグアイ ・ラウ ンドにお けるAV「 文化特例」 をめ ぐる攻 防(三 浦) 年 間 で2億 エ キ ュ のMEDIA計 画 は,金 額 的 に は 加 盟 国 のAV支 援 予 算 合 計 の10分 の1に す ぎず,あ く ま で 補 完 的 な 呼 び 水 の 役 割 を 果 た す べ き もの だ っ た 。 他 方,加 盟 国 レ ヴ ェ ル で 見 る と,フ ラ ン ス の よ う な 映 画 の 老 舗 で は,「 国 境 な き テ レ ビ 」 指 令 以 前 か ら,国 内 の テ レ ビ 放 映 割 当 て をEC域 内 産60%(う ち フ ラ ンス 語 の 番 組40%)と 定 め,ま た 文 化 省 の 下 に 置 か れ た 国 立 映 画 セ ン タ ー (CNC)が 映 画 産 業 の た め の 「支 援 金 庫 」 を 管 理 運 営 し て き た 。 但 し,支 援 金 庫 は 国 家 に よ る補 助 金 で 賄 わ れ る の で は な く,映 画 館 の 入 場 料 の11.5%,テ レ ビ 局 の 総 売 上 げ の5.5%,ビ デ オ の 売 上 げ の2%を 徴 収 し て プ ー ル し,こ れ を 制 作 費 前 貸 し 制 度 に よ り映 画 産 業 支 援 の た め 再 分 配 す る も の で あ る(こ の制 作 費 前 貸 し制 度 は,ECのMEDIA計 画 に も活 か され て い る)。 と こ ろ が,フ ラ ン ス で も映 画 館 の 興 行 収 入 の6割,テ レ ビ で の 映 画 放 映 の4割 は ア メ リ カ 映 画 で あ る に も か か わ ら ず,つ ま り,フ ラ ン ス 映 画 の 支 援 金 庫 に ア メ リ カ は 間 接 的 に 貢 献 し て い る に もか か わ ら ず,財 政 支 援 の 恩 恵 に 与 れ る の は フ ラ ン ス 映 画 な い し フ ラ ン ス が か ら む 共 同 制 作 の 映 画 だ け で あ り,ア メ リ カ に 言 わ せ れ ば,こ れ は GATTの 重 要 原 則 「内 国 民 待 遇 」 に 違 反 す る差 別 で あ る 。 し か も,ECの 「国 境 な き テ レ ビ」 指 令 に よ る 放 映 割 当 て は,域 外 産 の 映 画 AVソ フ トの 輸 入 を制 限 す る 数 量 規 制 に つ な が り,MEDIA計 画 に よ る 映 画 産 業 支 援 策 は競 争 原 理 を 歪 め る 公 的 補 助 金 の 性 格 を もつ 。 自 由 貿 易 を 旨 と す る GATTの 貿 易 交 渉 で,AV分 野 を 取 り上 げ る こ と に ア メ リ カ が 執 着 し た の は 当 然 だ ろ う。 映 画AVは 航 空 機 に 次 ぐ ア メ リ カ 第2の 輸 出 産 業 で あ り,ア メ リ カ のAV輸 出 の60%はEC向 け で あ る。 ア メ リ カ の 強 力 な 映 画 産 業 の ロ ビ ー で あ る ア メ リ カ 映 画 協 会(Motion Pictures Association of America)は,ヨ ー ロ ッパ で の シ ェ ア を 更 に 伸 ば し,ヨ ー ロ ッパ の 保 護 主 義 に 世 界 の 他 の 地 域 が 追 随 し な い よ う,ウ ル グ ア イ ・ラ ウ ン ドでECの 保 護 主 義 的 措 置 を 叩 く よ う ホ ワ イ トハ ウ ス に 働 き か け た 。 特 にMPAA会 長 の ジ ャ ッ ク ・ヴ ァ レ ン テ ィ は, rAVがGATTに 入 ら な い 限 り ク リ ン ト ン は 協 定 に 署 名 し な い だ ろ う」 と 脅
名 しない 」 と応 じた の で あ る。 3 「文 化 の 例 外 」 か 「文 化 の 特 殊 性 」 か?:EC内 部 の 対 立 そ れで は,ア メ リカ側 の攻 勢 に対 しECは ど う対 応 した の だ ろ うか?映 画 やAVを ビ ジ ネ ス の視 点 か ら 「商 品」 と して と ら え,GATTの 自由 貿 易 ル ー ル に乗 せ よ う とす る ア メ リカ に対 し,ヨ ー ロ ッパ は これ を一 国 の ア イ デ ンテ ィ テ ィに か か わ る 「文 化 」 と して の 側 面 を強 調 し,域 内 で 行 わ れ て い るAVの 保 護 支 援 措 置 を 自由貿 易 ル ー ル の適 用 か ら外 そ う と した 。 な か で もEC加 盟 国 中 最 大 の 映 画 産 業 を維 持 す る フ ラ ンス は,「 文 化 の 例 外」 の 論 理 に よ ってAV をGATTの 交 渉 そ の もの か ら除外 す る こ とを主 張 した。 しか し,通 商 政 策 はEC委 員 会 が ほ ぼ専 権 的 にマ ンデ ー トを与 え られ て い る 分 野 で あ り,GATTの 多 国 間 交 渉 でECは 「一 つ の声 で」 発 言 す る の が 慣 例 とな って い る。 ラ ウ ン ドの最 終 文 書 に署 名 す る の は そ れ ぞ れ のGATT加 盟 国 (締約国)だ が,交 渉 にEC12ヵ 国(当 時)を 代 表 して 参 加 す る の はEC委 員 会 で あ る。 従 っ て フ ラ ンス は,ま ずEC委 員 会 と他 の 加 盟 国政 府 を説 得 し,「 文 化 の例 外 」 の 主 張 をEC全 体 の対 処 方針 と して認 め させ る必 要 が あ った 。 加 盟 国 の 中 に は ア メ リカ の 自由 貿 易 主 義 に与 す る潮 流 も強 く,「文 化 特 例 」 の 闘 い は,フ ラ ンス とア メ リカ の闘 い で あ る前 に 「まず フ ラ ンス とブ リュ ッセ ル の 委 員 会 お よび リベ ラル派 の 国 々 との 闘 い だ った」 と言 われ る所 以 で あ る。 EC委 員 会 を代 表 して交 渉 に あ た っ た 「一 つ の声 」 とは,サ ッチ ャー首 相 の 主 要 閣 僚 だ った レオ ン ・ブ リタ ン副 委 員 長 で あ る。 ブ リュ ッセ ル の委 員 会 内 で リベ ラル 派 の代 表 と 目 され る ブ リタ ン卿 の立 場 は 「文 化 の 特殊 性 」 で あ っ た だ け に,彼 がAV交 渉 で フ ラ ン ス が 要 求 す る 「文 化 の例 外」 を忠 実 に 主 張 した か ど うか は 明 らか で は な い。EC委 員 会 の委 員 は理 事 会 に 出席 す る加 盟 各 国 の 閣僚 と異 な り,個 々 の加 盟 国 の利 益 を代 弁 す る わ けで はな い 。 しか し,各 委 員 は 多 くの 場 合,自 分 の 出身 国 の ブ レ ー ン を官 房 に 集 め,直 属 のDGの 官 僚 機
GATTウ ルグアイ ・ラウ ン ドにおけるAV「 文化特例」 をめ ぐる攻 防(三 浦)
構 を 動 か す 立 場 に あ る だ け に,委 員 の 出 身 国 の 利 害 や 主 張 が 委 員 の 管 轄 領 域 の 政 策 に 反 映 さ れ な い と考 え る の は 不 自 然 で あ る 。
で は,「 文 化 の 例 外(cultural exception)」 と 「文 化 の 特 殊 性(cultural specificity)」 の 二 つ の オ プ シ ョ ン の 違 い は ど こ に あ る の か?rGATTと オ ー デ ィ オ ビ ジ ュ ア ル 」 に つ い て 最 も包 括 的 な 研 究 を ま と め た ジ ャ ン マ リ ・ワ レ ー ニ ュ に 従 っ て ポ イ ン トを 整 理 す れ ば,お よ そ 以 下 の 通 り で あ る 。
EC委 員 会 の 方 針 で あ る 「文 化 の 特 殊 性(cultural specificity)」 と は,AVを GATTの ル ー ル に 乗 せ た ほ う が ア メ リ カ の 一 方 的 報 復 措 置 を 防 げ る,ECで 既 に 行 わ れ て い る 国 境 な き テ レ ビ 指 令 やMEDIA計 画 な どAV産 業 の 保 護 育 成 策 は 「文 化 の 特 殊 性 」 の 論 理 に よ り一 つ 一 つGATTル ー ル の 適 用 を制 限 す る こ とで 守 れ る,と す る 立 場 で あ る 。 新 し く策 定 さ れ る 「サ ー ビ ス 貿 易 一 般 協 定(GATS)」 の 最 恵 国 待 遇,補 助 金 に 関 す る 規 律 策 定,漸 進 的 自 由 化 義 務 の 各 条 項 にAVに 関 す る 特 別 の 扱 い を 明 記 し つ つ,AVをGATTル ー ル の 中 に 組 み 入 れ る の が 「文 化 の 特 殊 性 」 で あ り,こ の 委 員 会 の 方 針 を 支 持 し た の は, イ ギ リ ス,ド イ ツ,オ ラ ン ダ な ど の 自 由 貿 易 主 義 の 国 々 で あ る 。 そ れ に 対 し,フ ラ ン ス が 主 張 し た 「文 化 の 例 外(cultural exception)」 は, AVを い っ た んGATTの ル ー ル に 乗 せ た ら次 々 に 自 由 化 へ の 譲 歩 を 強 い ら れ る 。 ま た 「文 化 の 特 殊 性 」 を 理 由 に ル ー ル 適 用 か ら の 免 除 リ ス ト を網 羅 的 に つ くる の は,技 術 革 新 の 激 しい 今 日実 質 的 に 不 可 能 で あ り,ECが フ リ ー ハ ン ド を保 つ た め に はAVを 「文 化 の 例 外 」 に よ りGATTの 枠 組 み か ら 除 外 す べ き だ と い う 主 張 で あ る 。 こ の 立 場 か ら フ ラ ン ス は,サ ー ビ ス 貿 易 一般 協 定 (GATS)の 第14条 「一 般 的 例 外 」,第14乙 条 「安 全 保 障 に 関 す る例 外 」 に 続 く 第14丙 条 と し てAVに 関 す る 「文 化 の 例 外 」 を 明 記 す る こ と を 主 張 し,ス ペ イ ン,ア イ ル ラ ン ド,ベ ル ギ ー,ギ リ シ ャが こ れ を 支 持 し た 。 し か しEC委 員 会 の 対 処 方 針 に も 紆 余 曲 折 が あ り,1990年10月4日, GATTのAVサ ー ビ ス 作 業 グ ル ー プ にAVに 関 す る 分 野 別 ア ネ ッ ク ス(付 属 書)案 を 提 出 し た と き,EC委 員 会 は 明 ら か に 「文 化 の 例 外 」 の 論 理 に 立 っ て 53
い た。 こ の付 属 書 案 は,文 化 的 理 由 に よ り,AV分 野 を最 恵 国 待 遇 か ら も内 国 民 待 遇 か ら も市 場 ア クセ ス か ら も除外 して い るの で あ る 。 しか し この 案 は ア メ リ カ な どの 反 対 に あ って 採 用 され ず,翌91年12月 の ダ ンケ ル ・ペ ー パ ー に は AVに 関す る分 野 別付 属 書 は な い。 そ こでEC委 員 会 は,92年12月 に,今 度 は GATS第14条 「一 般 的例 外 」 に 「文 化 の 例 外 」 を追 加 す る修 正 案 を提 案 して い る 。 しか し,ア メ リカ を は じめ 大 方 の 同意 が得 られ な か っ た た め これ を引 っ 込 め,93年 春 に な って 「文化 の特 殊 性 」 に路 線 変 更 した経 緯 が あ る。 同93年7 月 の 東 京 サ ミ ッ トで ア メ リカ の 圧 力 に屈 した の か,EC委 員 会 はGATSの 幾 つ か の条 文 に 「文 化 の 特 殊 性 」 に 関 す る 「ブ ラ ケ ッ ト(カ ッコによる但書 き)」 を挿 入 す る線 に後 退 したの で あ る。 欧 州議 会 もウ ル グ ア イ ・ラ ウ ン ドの行 方 に無 関心 で あ る はず は な く,交 渉 担 当 副 委員 長 の ブ リ タ ン卿 を招 い て行 わ れ た1993年7月 の審 議 で は 「文 化 の 特 殊 性 」 の 原則 を採 択 したが,9月30日 に今 度 は 「文 化 の例 外 」 を決議 す る な ど, 議 員 の情 報 不 足,技 術 的知 識 の不 足 もあ って オ プ シ ョ ンが 揺 れ 動 い た。 実 際 は 「文 化 の特 殊 性 」 とい い 「文化 の例 外 」 とい い,そ れ ぞ れ の 主 張 が 法 律 的 レベ ル で 明確 化 され る まで は曖 昧 な概 念 に と どま って い た 。 そ もそ も1947 年 のGATT協 定 は 多 くの例 外 規 定 を含 ん で お り,そ の 第20条 は 「一 般 的例 外」 と して,締 約 国が 自国 の 公 共 道徳,国 民 の健 康,国 宝 や 有 限 天 然 資 源 の保 護,原 料 の確 保 の た め,ま た 第21条 は 自国 の安 全 保 障 の た め 必 要 な措 置 を とる 場 合 な ど,GATTの ル ー ル適 用 へ の 例 外 を規 定 して い る。AVに 関 す る 「文 化 の例 外 」 は,法 律 的 に はGATT第20条 の 例外 規 定 の 延 長 と して考 え る こ と が で きる だ ろ う。 しか し第20条 には,「 これ らの例 外 措 置 を恣 意 的 で 不 当 な差 別 待 遇 の 手段 と して,ま た は国 際貿 易 の偽 装 され た 制 限 とな る よ うな方 法 で 適 用 しない こ と を条 件 とす る」 とい う限定 が あ り,上 に列挙 した よ うな一 般 的 で 曖 昧 な規 定 で は,現 実 の適 用 の 際,多 くの解 釈 問 題 を引 き起 こす こ とが 予 想 さ れ る。 従 っ て,コ ミュ ニ ケ ー シ ョ ン法 の 専 門 家 セ ル ジ ュ ・ル グ ー ル に よ れ ば,
GATTウ ルグアイ ・ラウン ドにおけるAV「 文化特例」 をめ ぐる攻 防(三 浦) GATTル ー ル の 適 用 か らAV分 野 を 守 る に は 「文 化 の 例 外 」 も 「文 化 の 特 殊 性 」 と同 様 不 十 分 で あ り,「 文 化 の 除 外(cultural exclusion)」 を 明 確 に し な い 限 り,GATTの 権 限 範 囲 か ら 文 化 の 領 域 を 除 外 す る こ と は で き な い 。 事 実,こ の 文 化 の 「除 外 」 は,カ ナ ダ が ア メ リ カ と の 問 で 結 ん だ 米 加 自 由 貿 易 協 定 第 2005条 で 明 確 に 規 定 し て い る と こ ろ で あ る 。 問 題 は,ア メ リ カ が カ ナ ダ に 譲 歩 し た と こ ろ を ヨ ー ロ ッパ は ア メ リ カ か ら獲 得 す る こ とが で き る の か,と い う 一 点 にか か って い た 。 も と も と1947年 のGATT協 定 が,映 画 に 関 す る適 用 除 外 規 定 を含 ん で い た こ とは想 起 され て よい 。 同 第4条 は,映 画 フ ィル ム の分 野 を国 際 的 通 商 ル ール に乗 せ る よ りは各 国 の 文 化 政 策 に属 す もの と見 な し,総 映 写 時 間 の うち 一 定 割 合 以 上 を 国 内原 産 フ ィル ム の 上 映 にあ て,外 国映 画 に対 し数 量 規 制 を し くこ と を認 め て い た(当 時テ レビは まだなか った)。 そ の背 後 に は,ヨ ー ロ ッパ側 に,映 画 を物 質 的 財 と見 る にせ よ無 形 の サ ー ビス と見 る にせ よ,「 商 品 」 と捉 え る の で は な く,精 神 的 創 造 に よ る 「作 品」 と見 る哲 学 が あ った か らで あ ろ う。 しか し,ア メ リカ に とって 映 画 はあ くまで娯 楽 産 業 の一 環 で あ り,映 画 を貫 い て い るの は文 化 の論 理 で は な くビジ ネス の論 理 で あ る。 この対 立 す る コ ンセ プ トの 背 景 に は,作 家(監 督)中 心 の フ ラ ンス式 映 画 づ く り と制 作 会 社(プ ロデュー サー)中 心 の ハ リ ウ ッ ド式 映 画 づ く りの 違 い が あ り,そ れ は更 に著 作 権 の点 で も,第 三者 に よる作 品 の利 用 か ら著作 者 を保 護 す る フ ラ ンス 法 に伝 統 的 な 「人 格 権」 が ア メ リカ の コ ピ ー ラ イ ト法 に は存 在 せ ず,ア メ リカ で は著 作 権 を特 許 権 と同 一視 す る傾 向が あ る こ と に見 合 っ て い る。 しか し,欧 州司 法 裁 判 所 の判 例 で は,1947年 以 来,映 画 が は っ き り 「サ ー ビ ス」 と定 義 され て お り,映 画 を 「文 化 」 と考 え る よ り 「商 品」 と考 え る流 れ が,EC内 部 で も徐 々 に 強 ま った と考 え ら れ る 。
4 モ ン ス の6項 目 合 意 とEC委 員 会 の 対 応
EC加 盟 国 を代 表 してGATT交 渉 に あ た るEC委 員 会 は,加 盟 国 政 府 か ら のマ ンデ ー トな しに は動 けな い 。加 盟 国政 府 の主 張 を調 整 し委 員 会 に与 え るマ ンデ ー トを決 定 す るの は閣 僚 理事 会 で あ り,そ の下 に正 代 表 レ ヴ ェル と副 代 表 レ ヴ ェ ル の2つ の 常 駐 代 表 委 員 会(COREPER)が 置 か れ,理 事 会 の い わ ば シ ェ ルパ の機 能 を果 して い る。 さ ら に専 門 的 な事 務 レヴ ェ ル で は,EC委 員 会 が共 通 通 商 政 策 を実 施 す る上 で域 外 諸 国 や 国際 組 織 と の協 定 が 交 渉 を必 要 とす る場 合 に召 集 さ れ る 「113条委 員 会 」 が あ る。AV交 渉 に 関 して は,こ の113条 委 員 会 を舞 台 に,EC委 員 会 の 「文 化 の特 殊 性 」 と フ ラ ンス が 主 張 す る 「文化 の例 外 」 の 問で 対 処 方 針 をめ ぐる応 酬 が あ っ た と考 え ちれ る。 前 節 で述 べ た よ う に,EC委 員 会 は1993年 春 に 「文 化 の例 外 」 か ら 「文 化 の 特 殊 性 」 に戦 略 転 換 し,GATS案 の3つ の条 項 にAVに 関す る追 加 修 正 を つ け る案 を提 案 した。 第2条 の 最 恵 国待 遇,第15条 の補 助 金 に関 す る規 律 策 定, 第19条 の 漸 進 的 自 由 化 の 各 条 項 にAVに 関 す る 適 用 制 限 を 設 け つ つ,オ フ ァーすべ き譲 許 表 を準 備 した の で あ る 。 閣 僚 理事 会 レ ヴェ ル で のAV交 渉 に関 す る重 要 な決 定 は,1993年10月4,5 日の 両 日,理 事 会 議 長 国ベ ルギ ーがEC12力 国 の 文化 コ ミ ュニ ケ ー シ ョ ン相 に 呼 び か けて モ ンス で 開 い た セ ミナ ー の結 論 「モ ン ス の6項 目合 意 」 で あ る。 AV分 野 でECの フ リーハ ン ドを確 保 す る た め に は 「文 化 の例 外 」 を最 適 の 方 法 と し,① 最 恵 国待 遇 の適 用 除外,② 公 的援 助 と補 助 金 の維 持,③ 新 放 送 技術 に 関す る法 規 制 定 の 自由,④ 新 しいAV支 援 策 策 定 の 自由,⑤ 漸 進 的 自由化 原 則 の適 用 除外,⑥ 国境 な きテ レ ビ指令 な ど 「アキ ・コ ミュ ノテ ール(過 去 の EC法 の蓄積)」 の 維 持,の6点 を最 低 目標 と して挙 げ て い る。 議 長 総 括 と して ま とめ られ た この合 意 に,イ ギ リス,ド イ ツ,オ ラ ン ダ,デ ンマ ー ク は同 意 し な か っ た。 56
GATTウ ルグアイ ・ラウン ドにおけるAV「 文化特例」 をめ ぐる攻 防(三 浦) こ れ に 対 しEC委 員 会 は,「 ウ ル グ ア イ ・ラ ウ ン ド交 渉AV分 野 の ア プ ロ ー チ 」 と題 す る1993年10月7日 付 の リ フ レ ク シ ョ ン ・ペ ー パ ー で,9月17日 の ブ リ ー フ ィ ン グ ・ノ ー トの 立 場 を確 認 し,委 員 会 はAVをGATTの 適 用 範 囲 か ら 除 外 す る 解 決 は と らず,米 加 自 由 貿 易 協 定 第2005条 タ イ プ の 「文 化 の 例 外 」 規 定 を 盛 り込 む こ と に 再 度 反 対 し た 。 そ の 理 由 は,ECの 貿 易 全 体 の60%を 超 え る サ ー ビ ス 貿 易 の 重 要 性 を 考 え る な ら,AVの 除 外 を 要 求 す る こ と に よ っ て ECは 他 の サ ー ビ ス 分 野 の 自 由 化 に よ っ て 得 ら れ る べ き利 益 を 失 う こ と で あ る 。 委 員 会 に よ れ ば 「文 化 の 例 外 」 に は 二 つ の 欠 陥 が あ り,一 つ は 交 渉 を 暗 礁 に乗 り上 げ させ,域 外 諸 国 か ら の 譲 許(オ フ ァ ー)を 引 き 出 せ な い こ と,も う一 つ は,GATS第14条 の 「一 般 的 例 外 」 条 項 に はGATT第20条 を 模 し た 「恣 意 的 で 不 当 な 差 別 の 手 段 な い しサ ー ビ ス 貿 易 の 偽 装 さ れ た 制 限 と な ら な い 条 件 で 」 と い う 限 定 が あ る た め,AVを 第14条 の 例 外 に 含 め て も,紛 争 の 裁 定 が GATTの パ ネ ル(紛 争 処 理 小 委 員 会)に 委 ね ら れ た と き恣 意 的 差 別 手 段 と 解 釈 さ れ る 危 険 が 大 き い こ と で あ る 。 結 局 こ の リ フ レ ク シ ョ ン ・ペ ー パ ー は,直 前 の 「モ ン ス6項 目合 意 」 を ほ と ん ど そ の ま ま委 員 会 の 方 針 と し な が ら も,AV に つ い て も譲 許 を オ フ ァ ー し,か つ 「ア キ ・コ ミ ュ ノ テ ー ル 」 を 維 持 す る た め の 制 限 リス ト を提 出 す る 路 線 を 崩 し て い な い 。 委 員 会 の 「文 化 の 特 殊 性 」 の 対 処 方 針 に 変 更 は な か っ た 。 事 実,委 員 会 は93年10月18日 に,2日 後 に ジ ュ ネ ー ヴ で 開 か れ る113条 委 員 会 の 審 議 用 にECと し て 初 め て の サ ー ビ ス 分 野 の 譲 許 表 案 を加 盟 国 に 送 付 して い る 。11月27日 の113条 委 員 会 で フ ラ ン ス は,EC委 員 会 の 提 案 が 「モ ン ス の 6項 目合 意 」 を 満 足 さ せ る も の で は な い と し,モ ン ス ・セ ミナ ー の 議長 総 括 と 同 じ く,あ くまでGATS第14丙 条 に よ る 「文 化 の 例 外」 を主 張 した 。 フ ラ ン ス は,サ ー ビス 貿 易 交 渉 に関 す るEC委 員 会 の専 権 的 マ ンデ ー トに最 後 まで異 を 唱 え て い た の で あ る 。 57
5 AV分 野 は な ぜ 急 浮 上 し,な ぜ 米 は 矛 を収 め た の か? そ れ に して も,AV分 野 が ウル グ ア イ ・ラ ウ ン ドの最 終 局 面 の1993年 に な っ て急 浮上 した の は なぜ か?し か も,フ ラ ンス を始 め 欧 州諸 国 で メ デ ィア を通 してAV交 渉 が 国 民 の 関心 を集 め る よ うに な った の は,秋 口 に な っ て か らで あ る。 日本 で は コ メ市場 の 開放 問題 の影 に 隠れ,AV問 題 は ほ とん ど報 道 され なか った 。 日本 に と って は重 要 な イ シ ュ ーで は な か った の か,始 め こ そ 「文 化 の 例 外 」 に 関 心 を示 した が,日 本 はAV分 野 を め ぐる米 欧対 立 の 中 で 基 本 的 に ア メ リ カ側 に つ い た よ うで あ る。 AV分 野 が ラ ウ ン ドの 最 終 局 面 に な っ て急 浮上 した の は なぜ か?こ れ に は 幾 つ か の要 因 が あ る。 第 一 に,GATT貿 易 交 渉 の非 公 開 性 と不 透 明性 が あ げ られ る。 ウル グ ア イ ・ラ ウ ン ドで は多 くの 新 分 野 が取 り上 げ られ た た め交 渉 項 目が か つ て な く多 岐 にわ た り,交 渉 メ カニ ズ ム が細 分 化 され て複 雑 に な り,交 渉 内容 は きわ め て技 術 的 で専 門家 に しか 分 か らず,し か も交 渉 経 過 そ の もの が ご く限 られ た 形 で しか公 表 され なか った 。 マ ル チ ラテ ラ ル の多 国 問交 渉 と はい う もの の,実 際 は米 欧 な ど主 要 ア ク タ ー間 の バ イ ラテ ラ ル交 渉 も多 く,そ れ も 極 秘 裡 に行 われ る。 各種 ロ ビー や プ レス に情報 が 十分 伝 わ らな い の は当 然 で, 多 くの映 画 人 が 事 の 重 大性 に気 が つ い た の は1993年 も半 ば に な って か ら と言 っ て い い。 フ ラ ンス の 有 名 映画 監 督 や 映 画 ス ター が 大挙 して欧 州 議 会 に押 しか け た の は,よ うや く9月15日 の こ とだ った 。 映 画 人 は定 義 に よ りメデ ィア 的才 能 を もっ て い る。93年9月 か ら12月 にか けて フ ラ ンス の メ デ ィ ア報 道 は 「文 化 特 例 」 フ ィーバ ー を生 み 出 した。 第二 に は,一 般 に むず か しい分 野 の 交 渉 ほ ど後 回 しに され が ち な こ とで あ る。 特 にAV分 野 は,全 面 的 な 自 由化 を迫 る ア メ リカ側 の 交 渉 意 図 が始 め か ら 明 瞭 だ った だ け に,EC委 員会 は 問題 の重 要 性 を知 って い た。 交 渉 の困 難 が 予 測 され る だ け に,理 事 会 を頂 点 とす る政 治 的 レヴ ェ ル で の対 処 方 針 が 明確 に な ら 58
GATTウ ルグアイ ・ラウンドにおけるAV「 文化特例」をめぐる攻防(三 浦) な い 限 り委 員 会 の担 当部 局 は技 術 的詰 めが で きず,政 治 家 は事 務 方 の技 術 的検 討 が 上 が って こな い 限 り対 処 方 針 を打 ち 出せ ず,両 す くみで どち ら も積 極 的 に 手 が 出せ な い状 態 が 長 く続 い た の で は ない か 。EC加 盟 国 の 問 に は文 化 の 問題 に 関 し 「50年経 って も100年 経 って も埋 ま らな い ほ どの 深 い哲 学 の 違 い」 が 潜 在 して い るだ け に,委 員会 に と って加 盟 国 間 の利 害 調 整 は 困難 を きわ め た。 哲 学 の違 い と は,ア ング ロ サ ク ソ ン か ら見 れ ば ア ダ ム ・ス ミス(自 由主義)と コ ルベ ー ル(国 家の経済へ の介入)の 対 立 で あ り,フ ラ ンス か ら見 れ ば 「商 品」 の 論 理 と 「文 化 」 の 論 理 の対 立 で あ る 。 第 三 に,後 回 しに な って い たAV分 野 が93年 も半 ば 近 くな っ て 舞 台 の 前 面 に躍 り出 た の は,93年1月 に アメ リカ で 「米 国 の再 生 」 を掲 げ る ク リ ン トン政 権 が 発 足 した こ とが 大 きい 。財 政赤 字 の解 消 と並 んで 貿 易 赤 字 の 削 減 を課 題 と す る新 政 権 は,ミ ッキ ー ・カ ン タ ー を米 通 商 代 表(USTR)に 任 命,数 値 目標 な ど結 果 重 視 の貿 易 交 渉 方 針 を打 ち 出 した 。 しか も,ウ エ ス ト ・コ ース トで 大 統 領 選 を勝 ち抜 くた め,ク リン トンは 映画 産 業 に対 し意 欲 的 な公 約 を して アメ リカ 映 画 協 会(MPAA)の 支 持 を取 りつ け,ハ リウ ッ ドの メ ジ ャー は ク リ ン ト ン候 補 の重 要 な資 金 源 とな った 。 当選 して 映画 産 業 に借 りを返 す 立 場 にな った ク リ ン トン新 政権 に対 し,映 画 産 業 ロ ビー の圧 力 が 強 ま った の は当 然 で あ る 。 ク リ ン トン政 権 誕 生 に よ る新 しい 要 因 と して,ゴ ア 副 大 統 領 に よ る 「情報 ス ーパ ー ・ハ イ ウ ェー」 構 想 がAV交 渉 を先 鋭 化 させ た こ と も見 逃 せ な い 。 コ ン ピ ュ ー タの端 末 を利 用 した 双 方 向 の高 度 情 報 ネ ッ トワ ー ク を全 米 に 築 き上 げ,情 報 検 索 か ら映画 鑑 賞,テ レ シ ョ ッピ ング まで を可 能 にす る構想 で,情 報 通 信 産 業 の み な らず,ケ ー ブル ・テ レ ビ会 社,映 像 ソ フ ト制作 会 社 を糾 合 した 新 しい 経 済 成 長 の 中核 づ く りで あ る。特 に衛 星 放 送,デ ィ ジ タル ・テ レ ビ,映 像 圧 縮 技術 が 発 達 した マ ルチ メデ ィ ア時代 の放 送 は,チ ャ ンネ ル の増 大 とビ デ オ ・オ ン ・デ ィマ ン ド,ペ イ ・パ ー ・ビ ュー の新 サ ー ビス に よ り,視 聴 者 の個 人 的 選 択 肢 は飛 躍 的 に拡 が り,真 の 「国境 な きテ レビ」 が 実現 され る。 新 事 業 に乗 り出す ア メ リカ企 業 に と って,巨 大 な投 資 リス ク を 回 避 す る た め に は,
ヨー ロ ッパ 市 場 を あ らか じめ収 益 計 算 に入 れ て お か ね ば な らな い 。 そ の た め に も アメ リカ は,ECのAV産 業保 護 の砦 を突 き崩 して お く必 要 が あ った 。 第 四 に,GATTの 交 渉 力 学 その もの に よ ってAV分 野 が ラ ウ ン ドの 最 終 局 面 で 前 面 に押 し出 され た事 情 が あ る。 多 国 間 の 多 角 的 貿 易 交渉 で は,そ れ ぞ れ の 交 渉 参 加 国 に 強 い分 野 と弱 い分 野 が あ る。 自分 が 強 い 分 野 で は他 国 に市 場 開 放 を要 求 し,弱 い 分 野 で は 国 内市 場 を国 際 競 争 か ら守 ろ う とす る。GATTの ラ ウ ン ドで は,モ ノの 関税 引 下 げで あれ サ ー ビス 分 野 で あ れ,市 場 ア クセ ス の 垣 根 を低 くす る オ フ ァー を 出 しあ って 自 由化 交 渉 を進 め るわ け だ か ら,攻 撃 と 防 御 の組 合 せ は複 雑 な交 渉 力 学 の 支 配 す る と こ ろ と な る。 しか も,GATTの ラ ウ ン ド交 渉 の特 徴 は,分 野 毎 に協 定 が 結 ばれ るの で はな く,貿 易 交渉 委 員 会 (TNC)で 包 括 的合 意 に達 しない 限 り分 野 別 合 意 は成 立 しない こ と だ。 そ の上, 新 協 定 の採 択 は投 票 に よ って で は な く,す べ て の 交 渉 参加 国 の コ ンセ ンサ ス に よっ て行 われ る。従 って,当 然 予 想 され る よ う に,個 々 の分 野 が よ り重 要 な他 の分 野 との兼 ね 合 い で取 引 材 料 に使 われ る局 面 が 出 て くる。 一 方 で,AVを 農 業 交 渉 との トレー ドオ フ とす る見 方 が あ る。 ドゴ ー ル の イ ニ シ ア チ ヴで つ くられ たECの 共 通 農 業 政 策(CAP)は,関 税 同 盟 とセ ッ トで, ドイ ツ の工 業 と フ ラ ンス の農 業 の結 婚 の産 物 と言 わ れ,フ ラ ンス は そ の最 大 の 受 益 国 で あ る。 しか し,輸 入農 産 物 へ の課 徴 金 と輸 出農 産 物 へ の補 助 金 を柱 と す るCAPはECの 予 算 全 体 の7割 近 くを 占 め,CAPの 改 革 は ウ ル グ ア イ ・ ラウ ン ドを成 功 させ る た め に も焦 眉 の急 とな って い た 。 そ のCAP改 革 は,マ クシ ャー リー農 業 担 当 委員 の も とで進 め られ,よ うや く1992年5月 閣僚 理 事 会 で 承 認 さ れた 。CAP改 革 が あ っ て始 め て92年11月,米 欧 間 に ブ レアハ ウス 合 意 が成 立 した ので あ る。 フ ラ ンス で は1993年3月 の総 選 挙 で 社 会 党 が 大敗 し,保 守 系 のバ ラデ ュー ル 連 立 内 閣 が誕 生 した。 バ ラデ ュー ル は首 相 就 任 後 さ っそ くコ ー ル独 首 相 の 支持 を取 りつ け,5月 に は農 業補 助 金 削 減 に関 す るブ レアハ ウス 合 意 を92年5月 に 決 定 され たCAP改 革 の 範 囲 を超 え る譲 歩 だ と して,そ の再 交 渉 を要 求 した 。 60
GATTウ ルグアイ ・ラウン ドにお けるAV「 文化特例」 をめ ぐる攻 防(三 浦) 93年9月20,21日 の 両 日 ブ リ ュ ッ セ ル で 開 か れ たEC外 相 ・農 相 合 同 理 事 会 は, 「再 交 渉 」 と い う 言 葉 は 避 け た も の の ブ レ ア ハ ウ ス 合 意 の 見 直 し を 決 定 し た 。 93年 後 半 フ ラ ン ス がAV問 題 で 強 硬 姿 勢 を 取 っ た の は,ブ レ ア ハ ウ ス 合 意 を 引 っ く り返 し農 業 補 助 金 削 減 交 渉 を 有 利 に 進 め る た め,フ ラ ン ス が 交 渉 戦 術 と して 活用 した カ ー ドだ った とい う面 は否 定 しが た い 。 他 方,AVを サ ー ビス 交 渉 内 部 で の 海 運 との トレ ー ドオ フ とす る見 方 もあ る。 サ ー ビス 貿易 自由化 の交 渉 は93年9月 に な って も,航 空,海 運,金 融 サ ー ビ ス, AVの 分 野 で はか ばか しい進 展 が見 られ て い な か っ た 。結 局,AVを 除 き これ らの サ ー ビス 分 野 は,GATS第2条 へ の 分 野 別 付 属 書 に よっ て,と りあ えず 最 恵 国待 遇 原 則 の適 用 外 とさ れ た 。GATT事 務 局 の デ ヴ ィ ッ ド ・ハ ー ト リ ッ ジ ・サ ー ビス 部 長 に よれ ば,AVは サ ー ビス 交 渉 の 中 で 海 運 と並 ぶ 最 もホ ッ ト な分 野 で あ り,米 国 とECの 問,す な わ ち ブ リ タ ンEC副 委員 長 とカ ン タ ー米 通 商 代 表 の問 で 攻 撃 と防 御 の 駆 け引 きが最 後 まで 続 け られ た 。 しか し12月12日 か ら13日 の 夜,交 渉 は 決 裂,双 方 が 相 手 の オ フ ァー に満 足 せ ず,自 分 の オ フ ァー を撤 回 して痛 み分 け に な っ た とい う。AVと 海 運 は それ ぞ れECと 米 国 に とっ て譲 れ な いセ ン シテ ィ ヴな 分野 だ った ので あ る。 そ れ で は,な ぜ ア メ リ カ は 土 壇 場 でAVに 関 す る あ れ ほ ど 強 硬 な要 求 を 引 っ込 め た の か?ア メ リカ は一 時,ECがAV市 場 の 開放 と自 由化 の 実 質 的 オ フ ァー を す る とい う条 件 で,GATS第2,第15,第19の 各 条 に 関 す るEC 側 の 「文 化 の特 殊 性 」 要 求 を受 け入 れ る構 え を見 せ た とい う。 ア メ リカ の要 求 は 具体 的 に は,① 国境 な きテ レ ビ指令 の適 用 を地 上 波 に限 定,ケ ー ブ ル,衛 星 な ど新 技 術 は完 全 自 由,② ア メ リ カが 内 国民 待 遇 を受 け な い 限 りECはAV 産 業 へ の補 助 金 を全 廃,③AV作 品 の著 作 権 支 払 い に 関 す る内 国民 待 遇,④ AV分 野 にお け る法 規 の18ヵ 月凍 結(新 法 規の禁止),⑤ ゴー ル デ ン ア ワ ー は 国 境 な きテ レビ指 令 の適 用 外,の6点 で あ る。 ア メ リカ の要 求 は強 硬 で,EC側 の 最 終 的対 処 方 針 を決 め る12月11日 の欧 州 理 事 会 の 席 上,ク リ ン トン大 統 領 か ら主 だ っ たEC首 脳 の 一 人 一 人 に電 話 攻 勢 が あ った と伝 え られ る。 しか し,
EC側 の オ フ ァー は以 上 の要 求 か ら見 て あ ま りに不 十 分 で あ り,結 局 ア メ リカ は何 も合 意 しな い こ と を選 ん だ 。 こ の点 につ い て,先 に引 い たGATT事 務 局 サ ー ビ ス部 長 は,ECはAV分 野 の オ フ ァ ー を土壇 場 で撤 回 した が,ア メ リカ は一 旦 撤 回 した オ フ ァー を 翌 日 の12月14日 にMPAAの 求 め に よ り復 活 した こ とを重 視 し,ア メ リ カ側 の 良識 を評 価 す る発 言 を して い る。 この 逆 転 は,一 つ に は,AV分 野 が サ ー ビ ス貿 易 一 般 協 定 か ら除 外 され て い な い こ とを示 す 意 図 もあ るだ ろ う。 しか し もっ と重 要 なの は,ア メ リカ映 画 に と ってECは 最 大 の顧 客 で あ り,こ れ 以 上 交 渉 を こ じ らせ る こ とで ヨ ー ロ ッパ に反 米 感 情 が 拡 が る こ と は得 策 で は な く,ウ ル グ ア イ ・ラ ウ ン ドでAV分 野 を交 渉 の テ ー ブ ル に 乗 せ た こ とで ア メ リ カ は一 応 満 足 し,市 場 ア クセ ス の 改 善 は今 後 の協 議 に待 つ こ と に した とい うの で あ る。 米 議 会 が 行 政 府 に与 えた フ ァス ト ・トラ ックの 期 限 は12月15日 で あ り,ア メ リカ は ラ ウ ン ド妥 結 の大 きな利益 を考 え,AV交 渉 で ひ と まず 矛 を収 め て も最 終 決 着 を急 ぐこ と を選 ん だ と考 え られ る。
6AV交 渉 の 評 価 とGATSに よ るEUのAV政 策 へ の 影 響
AV交 渉 が 決 裂 した 直後 の12月14日,MPAAの ジ ャ ック ・ヴ ァ レ ンテ ィ会 長 は 「実 に遺 憾 な こ とにEECは 未 来 に背 を 向 け た」 と評 し,翌94年1月 半 ば の記 者 会 見 で カ ンタ ー米 通 商代 表 はECの 国境 な きテ レビ指令 に対 す る敵 意 を 剥 き出 しに し,AV分 野 は 「GATT協 定 で カ バ ー され な い」 以 上 ア メ リカ は い つ で も一 方 的 制 裁 措 置 が と れ る と 言 明 し た 。 同 通 商 代 表 は3月 初 め に も, rAV分 野 の 不 合 意 は ア メ リ カ に と っ て ラ ウ ン ド最 大 の フ ラ ス ト レ ー シ ョ ン だ 」 と息 巻 い た。 しか し これ らは 国 内向 けの 発言 で あ り,現 実 に は米 欧 は 「合 意 し な い こ とで 合 意 」 した の で あ る。 他 方 フ ラ ンス で は,農 業 交 渉 で ブ レ アハ ウ ス 合 意 を見 直 させ,AV交 渉 で 「文 化 特 例 」 を認 め させ,ウ ル グ ア イ ・ラ ウ ン ドを勝 利 に 導 い た バ ラ デ ュ ール
GATTウ ルグアイ ・ラウンドにおけるAV「 文化特例」をめ ぐる攻防(三 浦) 首 相 の株 が 急 上 昇 し,95年5月 の大 統 領 選 の 最 有 力 候 補 と 目 され る にい た っ た。 しか し,「 文 化 特 例 」 キ ャ ンペ ー ンの 先 頭 に立 っ た トゥ ー ボ ン仏 文 化 相 は, 「我 々 は 闘 い に は 勝 っ たが 戦 争 に勝 った わ け で は な い」 と述 べ,AVを め ぐる 攻 防 は一 時 的 に休 戦 した だ け だ との 認 識 を示 した 。 フ ラ ンス の メ デ ィア の 勝 利 報 道 と は裏 腹 に,AVはGATSか ら除外 され た わ けで は な く,今 後WTOを 舞 台 に法 律 レヴ ェ ルで,ま た技 術 開 発 と企 業 の 資 金 力 の優 位 をテ コに,ア メ リ カが再 び攻 勢 に転 ず る こ とが 当 然 予 想 され た か らで あ る 。
で は,GATSに よっ てAV分 野 に 関 し何 が 決 ま った の か? GATSは,第 2条 の最 恵 国待 遇,第17条 の内 国 民待 遇 に よる無 差 別 待 遇,第16条 の市 場 ア ク セ ス の 自由化 を骨 格 とす るが,最 恵 国待 遇 に つ い て は 国毎 に適 用 免 除 リス トを 出 す こ とが認 め られ,市 場 ア クセ ス と内 国民 待 遇 に つ い て は 国毎 に譲 許 表 を オ フ ァ ーす る。 忘 れ て な ら な い の は,GATSは 枠 組 み 協 定 と国 別 譲 許 表 が セ ッ トに な って 初 め て 現 実 的 効 力 を もつ こ とだ。ECは 最 恵 国待 遇 へ の 免 除 リ ス ト を提 出 し,逆 に個 別 譲 許 表 でAVに つ い て は何 もオ フ ァー し な か った 。 こ の 「譲 許 の不 在 」 はEC側 が と った 最 後 の戦 術 で あ り,法 律 的 に重 要 な 意 味 を もって い る。 第 一 に,ECはGATS第2条2項 に よる 最 恵 国待 遇 へ の 免 除 リス トを提 出 した 。 そ の結 果ECは,中 東 欧諸 国 や途 上 国 な ど二 国 間 ない し多 国 間 で 共 同 制 作 協 定 を結 ん で い る 国 々 に与 えて い る特 恵 を そ れ以 外 の国 に及 ぼす 必 要 はな く な った 。 フ ラ ンス の よ うに,放 映 割 当 て や資 金 支 援 策 の対 象 を フ ラ ンス 国籍 で は な くフ ラ ンス 語 の映 画 や 番 組 と規 定 して い る場 合 も同様 で あ る。 総 じてEC は,国 境 な きテ レ ビ指 令 やMEDIA計 画,先 端 テ レ ビ計 画 な ど のAV政 策 を 従 来 通 り維持 で きる。 第 二 に,内 国民 待 遇 で も市 場 ア ク セ ス で もECはAV分 野 の 譲 許 を 一 切 オ フ ァー を しなか っ た。 「譲 許 の不 在 」 に よ り,ECはGATSに よ って 手 を縛 ら れ ず,域 内AV市 場 を 自 由化 す る義 務 を負 わ な い 。AV産 業 に対 す る既 存 の 保 護 育 成 策 を維 持 で きる だ けで な く,技 術 の革 新 に対 応 した新 法 規 策 定 の 自由 63
も確 保 した 。 しか し重 要 な点 は,そ れ に もか か わ らずAVがGATSか ら除 外 され た わ けで は ない こ とだ。 事 実,ア メ リ カ,日 本,イ ン ド,メ キ シコ な ど13 力 国 がAV分 野 で 市 場 ア ク セ ス と内 国民 待 遇 で オ フ ァー を して お り,そ の オ フ ァー は無 差 別 待 遇 原 則 に よ りECを 含 むす べ て の締 約 国 に及 ぼ され る 。幾 つ か の 国 が特 定 分 野 を協 定 か ら除 外 した と して も,そ の分 野 そ の もの が協 定 か ら 除外 され た こ とに は な らな い ので あ る。 第 三 に,「 文 化 の 例 外 」 は い か な る 形 で もGATSの 条 項 に メ ンシ ョ ン さ れ て い な い 。第1条 の 適用 範 囲 に も第14条 の例 外 条 項 に も文 化 に 関す る特 別 の言 及 はな い 。 「文 化 の 例 外」 はGATSに 一 切 そ の 痕 跡 を留 め て い な い の で あ る 。 第 四 に,EC委 員 会 の主 張 だ っ た 「文 化 の特 殊 性 」 は第2条 最 恵 国待 遇 へ の 免 除 リス トの形 で 実 現 さ れ た だ け で,GATSの 条 項 の 上 で はAVに 関 す る特 別 の 言 及 は一 切 な い。 従 っ て,ECに は以 下 の三 つ の義 務 が 生 じる。 ① 第3条 「透 明 性 」 に よ り,今 後AV関 係 の 新 措 置,新 法 規 新 国 際 協 定 を 公 表 す る義 務 。 この義 務 は特 に個 別 譲 許 表 で約 束 した分 野 につ いて発 生 す る。 ② 第15条 「補 助 金」 で定 め る通 商 を歪 曲 す る補 助 金 に 関す る多 国 間 規律 策 定 の 交 渉 に参 加 す る義 務 。1996年3月 末 にWTOで 補 助 金 コ ー ド策 定 の た め の 最 初 の 会 合 が もた れ た。 今 後 ア メ リ カの攻 勢 が 予 想 さ れ る。 ③ 第19条 「漸 進 的 自由化 」 に よ り,WTO協 定 発 効 後5年 以 内 に 自由化 レヴ ェ ル 向 上 の た め の交 渉 を開始 す る義 務 。新 協 定 は1995年1月1日 に発 効 した の で,1999年 末 まで に漸 進 的 自 由化 の 交 渉 が始 ま る。96年12月 シ ンガ ポ ー ル で 開 か れ るWTO閣 僚 会 議 で,そ の ス ケ ジ ュー ル が提 案 され る だ ろ う。 これ 以 外 に,AV分 野 は 新 し く創 設 され る 「サ ー ビス 貿易 理 事 会」(第24条) の管 轄 下 に置 か れ,第23条 「紛 争 処 理」 と付 属 書 「紛 争 処 理規 則 と手 続 きに関 す る協 定 覚 書 」 に よ り,紛 争 が あ っ た場 合 は新 し く定 め られ たWTOの 紛 争 処 理 メ カニ ズ ム に従 って処 理 され る。 ア メ リカ の通 商 法301条,ス ーパ ー301条 に よ る一 方 的 報 復措 置 は 困難 に な るわ け で,こ の点 はECに とっ て は む しろ プ ラ ス と考 え ら れ る 。 64
GATTウ ルグアイ ・ラウンドにおけるAV「 文化特例」をめ ぐる攻防(三 浦) 以 上 を要 す る に,GATTウ ル グ ア イ ・ラ ウ ン ドはECに とっ てAV政 策 の 現 状 維 持 を可 能 に したが,AVがGATSの 枠 に組 み入 れ られ た た め,今 後 の ラ ウ ン ドで ア メ リカ の 自由化 攻 勢 に道 を 開 くこ とに もな った 。 トゥー ボ ン仏 文 化 相 が 「闘 い に は勝 っ たが 戦 争 に勝 っ た わ けで は ない」 と言 った の は,そ う い う意 味 で あ る 。 7 ウ ル グ ア イ ・ラ ウ ン ド後 のEUの 対 応:規 制 よ り 競 争 力 を ウ ル グ ア イ ・ラ ウ ン ドにお け るAVを め ぐ る激 しい 攻 防 は,こ の 分 野 の 文 化 的 価 値 と産 業 上 の戦 略 的重 要 性 に対 す る認 識 を飛 躍 的 に 高 め た とい うメ リ ッ トを もつ 。 一旧寺の興 奮 が 醒 め て み れ ば,AV交 渉 の 攻 防 はECの 決 定 的勝 利 で は な く一 時 的休 戦 に入 った にす ぎな い との認 識 が 急 速 に広 ま った 。 そ の 中 で 支 配 的 に な って きた の は,情 報 通 信 新 技 術 の展 開 を前 に して,規 制 に よる保 護 よ り も産 業 競 争 力 の 強化 が重 要 だ とす る発 想 で あ る。 欧州 委 員 会 は既 に1993年12.月 に発 表 した 「成 長 ・競 争 力 ・雇 用 」 白書 で 欧 州 横 断 ネ ッ トワ ー ク構 想 を打 ち 出 して い たが,94年5月 に は有 力 企 業 の トップ を 集 め て 策 定 した 情 報 社 会 に関 す るバ ン ゲ マ ン報 告 を発 表,欧 州 イ ン フ ォメ ー シ ョ ン ・ハ イ ウ ェ ー建 設 の た め の情 報 基 盤 整 備 と情 報 産業 振 興 の マ ス タ ー ・プ ラ ンを描 きだ した。 続 い て7月 に はバ ンゲマ ン ・ペ ーパ ー に基 づ き 「情 報 社 会 へ の ヨ ー ロ ッパ の 道 」 と題 す る行 動 計 画 を 策 定 し て い る 。AV分 野 に 関 して は, 94年3月 にAV政 策 に 関 す る検 討 グ ル ー プ の 報 告 書,4月 に 「プ ロ グ ラ ム産 業 強化 の戦 略 的 オ プ シ ョン」 を定 め た グ リー ン ・ペ ーパ ー が矢 継 ぎ早 に発 表 さ れ,6月 末 か ら7月 初 め にブ リ ュ ッセ ルで グ リー ン ・ペ ーパ ー を た た き台 とす る ヨー ロ ッパAV会 議 が 開か れ て い る。 こ う した 欧州 委 員 会 の 産 業 政策 優 先 の積 極 姿 勢 は,95年2月25,26日 の 両 日, ドロー ル前EC委 員 長 を議 長 に ブ リ ュ ッセ ル で 開 か れ た情 報社 会 に 関す る先 進 7力 国 閣僚 会 議 に結 実 して い る。市 場 開放 と自由競 争 の促 進 を求 め る ゴア米 副
大 統 領 の基 調 演 説 で 始 ま っ た 「情報 通信 サ ミ ッ ト」 で は,情 報 通 信 産 業 の ト ッ プ を集 め た産 業 人 ラ ウ ン ド ・テ ー ブル も同 時 に 開 か れ た 。 閣僚 会 議 が採 択 した 8原 則 に は,フ ラ ン ス の ロ ッシ産 業 通 信 相 の 主張 に よ り 「言語 と文化 の 多様 性 尊 重 」 が 辛 う じて 盛 り込 ま れ た。 EC委 員 会 は域 内AV産 業 の 保 護 育 成 策 と して,1989年 と90年 に 国境 な きテ レ ビ指 令 とMEDIA計 画 を採 択 して い たが,放 映 割 当 て の 強化 な ど規 制 に よ る保 護 に は 限界 が あ り,産 業 政 策 に よ って プ ロ グ ラム 産業 の競 争 力 を強 化 す べ き とい う機 運 が 支 配 的 に な って きた 中 で,ど ち ら も見 直 しの時 期 に さ しか か っ た 。 まず,1991-95年 の5年 間 を対 象 に したMEDIA計 画 は,欧 州 委 員 会 が 95年 の4月 に1996-2000年 を対 象 に したMEDIAⅡ と して 更新 し,95年6月 に 閣 僚 理 事 会 の 決 定 を 見 た 。 予 算 規 模 を2億 エ キ ュ か ら3.1億 エ キ ュ に 増 額 し, し か も 第1次MEDIAの 予 算 ば ら ま き に よ る 非 効 率 を 反 省 し,グ リ ー ン ・ ペ ー パ ー の 提 言 に 沿 っ て 養 成 ・シ ナ リ オ ・配 給 の3分 野 に 的 を 絞 っ た プ ロ グ ラ ム 産 業 支 援 計 画 に な っ て い る 。 問 題 は 国 境 な き テ レ ビ指 令 で あ る 。 指 令 は 向 こ う5年 間 を 対 象 に1991年10月 に発 効 し た か ら,改 正 指 令 は96年10月 に 施 行 さ れ る は ず で あ り,そ の ド ラ フ ト は94年 の11月 と12月 に 担 当 部 局 のDG Xが 原 案 を 練 っ た 。1995年 上 半 期 の 議 長 国 の 立 場 を 利 用 し て フ ラ ン ス は95年2.月13,14日 の 両 日,ト ゥ ー ボ ン文 化 相 が ボ ル ドー にEU15力 国 の 文 化 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 相 を 招 き 非 公 式 会 合 を 開 い た が,AV政 策 に関 す る フ ラ ンス の孤 立 ば か りが 目立 つ 会 合 と な った 。95年 1月 に は,EC中 興 の祖 と言 わ れ た フ ラ ンス の ドロ ー ル委 員 長 か ら,リ ベ ラ ル 派 で 欧 州統 合推 進 派 で は な い とい う理 由 で イ ギ リスが 推 した ル クセ ンブ ル ク の サ ンテ ール新 委 員 長へ の交 代 が あ り,95年 春 の大 統 領 選 まで 身動 きが とれ な い 国 内 事 情 もあ って,フ ラ ンス の影 響 力 は明 らか に後 退 した 。 欧州 委 員 会 で は, 米 欧 の 自由貿 易 圏 を提 唱す る ブ リタ ン卿 と市 場 開放 と 自由競 争 の旗 振 り役 マ ル チ ン ・バ ンゲ マ ン(産 業 ・情報通信技術担 当)と い う英 独 二 人 の副 委 員 長 の リベ ラ ル派 路 線 が 主 流 に な り,勢 いAV政 策 の 重 点 は文 化 政 策 か ら産 業 政 策へ と 66
GATTウ ルグアイ ・ラウンドにおけるAV「 文化特例」をめ ぐる攻防(三 浦) シ フ トした。 1993年 の ウ ル グ ア イ ・ラ ウ ン ド当 時 と は情 勢 が 一 変 し,保 護 主 義 派 の フ ラ ン ス は孤 立 して,国 境 な きテ レビ指 令 の改 定 で は劣 勢 に立 た され た 。 指 令 の 改 正 案 は95年3,月22日 に欧 州 委 員 会 にか け られ た。 フ ラ ンス な ど規 制 強 化 を主 張 す るグ ル ー プ とイ ギ リス,ド イ ツ な ど それ に反 対 す る グル ー プ を共 に満 足 させ る よ う,放 映 時 間 の半 分 以 上 を 「そ れが 実 現 可 能 な限 りで」 欧 州 産 作 品 にあ て る とい う指 令 の あ い ま い な一 句 を削 除 して 放 映 割 当 て を義務 化 す る一 方,規 制 を 10年 後 には 撤 廃 す る とい う内容 の もの だ った 。18票 中13票 の 賛 成(2名 欠席) で 委 員 会 は 原案 を採 択 し,4月 初 め の 閣僚 理 事 会 の 審 議 にか け られ た が,意 見 が 対 立 して ま と ま らず委 員 会 に差 し戻 さ れ た。5月 末 に再 び委 員 会 最 終 案 が ま とめ られ,閣 僚 理事 会 と欧州 議 会 に送 付 さ れ た。 この 指令 改 正 は,欧 州 連 合 条 約 第189B条 に よる理 事 会 と議 会 の 共 同決 定 手 続 き に付 さ れ る か らで あ る。 そ の 後 の 経 過 は省 略 す る が,ま ず95年11月20日,ブ リ ュ ッセ ル の 文化 閣僚 理 事 会 でMEDIAHと 合 わ せ て 改 正 指 令 が採 択 さ れ,向 こ う5年 間 放 映 割 当 て が 維 持 され る こ と にな った 。劣 勢 だ っ た保 護 主 義 者 た ち が 「神 が か り的不 意 打 ち」 と呼 ぶ 予 想 外 の 逆転 は ス トラ ス ブ ー ルか らや って きた 。96年2月14日,欧 州 議 会 は 国境 な きテ レビ指 令 改 正 案 を第 一 読 会 で 審 議,「 そ れ が 実 現 可 能 な 限 りで 」 を 「適 切 か つ 法 的 に有 効 な手 段 で 」 と改 め,放 映割 当 て を10年 後 に撤 棄 す る代 わ りに改 定 延 長 す る とす る な ど大 幅 な修 正 を加 え て これ を採 択 した。 フ ラ ンスが 主 張 す る規 制 の 強化 と定 義 の厳 密 化 の方 向 で の修 正 案 が フ ラ ンス 出 身 の議 員 は も とよ り,社 会 党系,緑 の党 系 お よ び リベ ラル系 の一 部 の支 持 を得 て 大 差(292対195,棄 権25)で 可 決 され,委 員 会 は議 会 の修 正 案 を考 慮 せ ざ る を得 な くな っ た ので あ る。 これ に よっ て振 り子 は大 き く規 制 強 化 の方 に振 れ た わ け だが,共 同決 定 手 続 き は委員 会 と理 事 会 と議 会 の 三者 間 の新 しい決 定 メ カニ ズ ム の有 効 性 と民 主 化 度 を計 る試 金石 で あ り,国 境 な きテ レ ビ指 令 の改 正 はそ の 点 で も注 目す べ き ケ ー ス と な っ た 。 67
お わ り に ウル グ ア イ ・ラ ウ ン ドにお け るAV「 文化 特 例 」 の闘 い は,私 見 で は4つ の 角 度 か ら分 析 で き る よ う に思 う。 第 一 に,本 稿 で 素 描 した よ う に,GATTの AV交 渉 をECに お け る決 定 メ カ ニ ズ ム を分 析 す る恰 好 の事 例 と して 捉 え る視 点 で あ る。 これ は,フ ラ ンス の 政 治学 者 ク リス チ ャ ン ・ル ケ ー ヌが 『パ リ ーブ リュ ッセ ル-フ ラ ンス の 欧 州 政 策 は ど う形 成 さ れ る か』 で 試 み た,加 盟 国政 府 とEC諸 機 関 の 間 の複 雑 な意 思 決 定 プ ロ セ ス と作 用 ・反 作 用 の力 学 の分 析 に よっ て補 強 され なけ れ ばな らな い 。 第 二 に,経 済 や 政 治 を背 後 か ら動 か す広 い意 味 で の 「文 化 」 要 因 の相 違 とい う視 点 か らの ア プ ロー チ が あ りうる 。 これ に は,ミ シ ェ ル ・アル ベ ール が 『資 本 主 義 対 資 本 主 義 』 で モ デ ル 化 し た,英 米 型 の 「ネ オ ・ リベ ラ リ ズ ム 」 と ラ イ ン型 の 「社 会 的 資 本 主 義 」 の 理 念 型 が 一 つ の ヒ ン トに な る 。 ア ル ベ ー ル は こ の 対 立 が,米 欧 間 の み な らず 欧 州 内 部 に も あ る こ と を 指 摘 し,サ ッチ ャ ー 英 首 相 と ドロ ー ルEC委 員 長 の 二 つ の ブ リ ュ ー ジ ュ 講 演(1988年 と1989年)に そ れ ぞ れ の 典 型 を見 て い る 。 本 稿 の 始 め に 引 い た 永 井 陽 之 助 の ア メ リ カ の 「文 明 」 と フ ラ ン ス の 「文 化 」,「普 遍 的 ビ ジ ネ ス 文 明 」 と 「個 別 的 文 化 」 の 衝 突 と い う 図 式 も 有 効 で あ ろ う。 第 三 に,「 文 化 特 例 」 の 闘 い を1993年 の フ ラ ン ス の 政 治 社 会 状 況 に 置 き直 し て 見 れ ば,こ れ を 文 化 的 ア イ デ ン テ ィ テ ィ の 危 機 を 救 う 「想 像 の 共 同 体 」(B. ア ン ダ ー ソ ン)再 建 の 一 大 キ ャ ン ペ ー ン と し て 分 析 す る こ と も で き る 。 ポ ス ト 冷 戦 期 の フ ラ ン ス は,対 外 的 に は ア メ リ カ 的 市 場 普 遍 主 義 に よ る ヘ ゲ モ ニ ー 支 配,対 内 的 に は イ ス ラ ム 系 移 民 の 可 視 化 に よ っ て 挟 撃 さ れ,「 文 明 の 衝 突 」(S. ハ ンチ ン トン)状 況 に 置 か れ て い る 。 「文 化 特 例 」 の 闘 い は 失 わ れ た 聖 地 奪 回 を め ざ す 「文 化 の 十 字 軍 」 で あ り,フ ラ ン ス の ナ シ ョ ナ リズ ム現 象 と し て の 側 面 を もつ こ と は否 定 で き な い 。 ウ ル グ ア イ ・ラ ウ ン ド は フ ラ ン ス 人 に ア ンチ ・ア 68
GATTウ ルグァイ ・ラウンドにおけるAV「 文化特例」をめぐる攻防(三 浦) メ リカニ ズ ム をテ コに した ナ シ ョナ ル ・ア イ デ ンテ ィテ ィ再 建 の 絶 好 の機 会 を 提 供 した 。93年 秋 の メ デ ィア報 道 の レ トリ ック分 析 は フ ラ ンス人 の意 識 の 深層 を教 えて くれ る に違 い な い 。 第 四 に,前 項 と矛 盾 す る よ うだ が,「 文 化 特 例 」 の 主 張 の ポ ジ テ ィ ヴ な側 面 は,文 化 の一 元 的 ヘ ゲ モ ニ._支 配 に対 抗 して,フ ラ ンスが 初 めて 少 数 派 の立 場 か ら文 化 と言 語 の 複 数 性 を唱 え た こ とで あ ろ う。 こ れ はポ ス ト ・コ ロ ニ ア ル を 経 由 して新 しい 普 遍 主 義 を模 索 すべ きフ ラ ンス に とっ て極 め て 大 切 な契 機 で あ る 。 しか し こ こで は,フ ラ ンス 革 命 で 打 ち立 て られ た 「非 宗教 性(laicite)」に 基 づ く 「一 に して 不 可 分 の」 ジ ャ コバ ン共和 国 が,原 理 的 に多 言 語 主 義 と多 文 化 主 義 に背 反 す る レジ ー ムで あ る とい う大 きな矛 盾 に突 き当 た ら ざ る を得 な い。 そ の 先 に は,血 統 主 義(民 族共 同体)を 排 した 理 念 共 同体 で あ る ジ ャコ バ ン共 和 国 の普 遍 的統 合 原 理 が そ の ま ま多様 な民 族 の モザ イ クで あ る ヨ ー ロ ッパ の統 合 原 理 にな り うる か,と い う難 問 が待 ち構 え て い る。 EC学 会 で の 口頭 発 表 で は,第1部 で ウ ル グ ア イ ・ラ ウ ン ドのAV交 渉 を ECの 決 定 メ カ ニ ズ ム を 中心 に分 析 した あ と,第2部 「フ ラ ンス と文 化 特 例 の 闘 い」 で,フ ラ ンス の文 化 的 ア イデ ンテ ィテ ィの危 機 意 識 を 中心 に以 上 の よ う な問 題 を未 整 理 の ま ま提 起 した 。 現代 フ ラ ンス が置 か れた 普 遍性 と特 殊 性 の 両 義 的位 置 とい うパ ー ス ペ ク テ ィヴ の も とに これ らの 問題 を検 討 す る こ とが, 我 々 に と っ て 次 の 課 題 と な る は ず で あ る 。 1) 原 語 は フ ラ ン ス 語 で"exception culturelle",「文 化 特 例 」 とい う訳 語 は1993年12月15日 付 朝 日新 聞 の 清 水 弟 パ リ特 派 員 に よ る解 説 記 事 「映 画 は フ ラ ン スの 『コメ』 か一 『文化 特 例 』 譲 ら ず」 に な らっ た が,本 稿 で はAV交 渉 の メ デ ィ ア ・キ ャ ンペ ー ン的 側 面 を 強 調 す る 時 は 「文化 特 例 」 と訳 し,法 律 論 と して分 析 す る時 は 「文 化 の例 外 」 と訳 す 。 2)ウ ル グア イ ・ラウ ン ドが 大 詰 め に差 しか か った1993年11月1日 にマ ー ス トリ ヒ ト条約 が発 効 し,欧 州 共 同 体(EC)は 欧 州 連 合(EU)の 新 しい構 造 の 中 に組 み 入 れ られ た 。 本稿 で は,ラ ウ ン ドの 妥 結 まで は交 渉 主体 と して 「EC」 と 「EC委 員 会 」 を使 い,ラ ウ ン ド終 了 後 のAV 政 策 の展 開 につ い て 述べ る時 のみ 「EU」 な い し 「欧 州 委 員 会」 を使 う。
3) 永 井 陽 之 助 「新 世 界 秩 序 と そ の デ ィ レ ンマ」,『SEMINAR HOUSE NEWS』,大 学 セ ミ ナ ー ・ハ ウ ス,No.133-134,1994年8,月 。 同 「日本 外 交 の 座 標 軸 」,朝 日新 聞,1994年9月11
日。
4) ウ ル グ ア イ ・ラ ウ ン ド全 般 に つ い て は,溝 口 道 郎 ・松 尾 正 洋 『ウ ル グ ア イ ・ラ ウ ン ド』, NHKブ ック ス,1994年,を 参 照 した。
5) Ariane Joachimowicz et Alain Berenboom, "Le GATT et l'audiovisuel", in Journal des Tribunaux et du Droit europeen, le 16 juin 1994; Nouvelles de l'Urguay Round, NUR 069, GATT, le 14 octobre 1993, p. 5.
6) Ibid.
7) General Agreement on Trade in Services (GATS)
8) Jean-Marie Waregne, Le GATT et l'audiovisuel, Courrier hebdomadaire, No. 1449-1450, 1994, Centre de recherche et d'information socio-politiques, Bruxelles, p. 35.
9) Serge Regourd, La Television des Europeens, La Documentation Francaise, 1992, p. 179-183.
10) La politique audiovisuelle de la Communaute Europeenne, Le Dossier de l'Europe, Com-mission des Communautes, juin 1992, p. 6-8.
11) Serge Regourd, "L'audiovisuel et le GATT", in Revue de droit de la communication, No. 106, novembre 1993, p. 106.
12) 渡 辺 頼 純 「ウ ル グ ア イ ・ ラ ウ ン ド と 米 国 ・UR」,『 国 際 問 題 』No.410,1994年5月,p.29. 同 「欧 州 共 同 体(EC)のGATT政 策 」,『 貿 易 と 関 税 』,1990年5月,P.73-75.
13) Serge Regourd, "L'audiovisuel reduit a une simple marchandise" ,in Le Monde diplomati-que, janvier1995.
14)ウ ル グ ア イ ・ラ ウ ン ド交 渉 を担 当 した ブ リタ ン副 委 員 長 の官 房 に は,イ ギ リス 人 で フ ラ ンス のENA(国 立 行 政 学 院)を 出 た ロ バ ー ト ・マ ドラ ンの よ う な優 秀 な顧 問 が い て,交 渉 に あ た っ て大 きな力 を発 揮 した 。
15) Jean-Marie Waregne, op. cit.
16) "Communication des Communautes Europeennes: Projet d'annexe sectoriellere lative aux
services audiovisuels" ,MTS. GNS/AUD/W2,le4 octobre1990.
17) フ ラ ン ス 語で は"crochet culturel1".Cf.Jean-MarieWaregne,op.cit., P.37;Florence
Jean-blanc Risler, "Laposition frangaise", in. L'audiovisuel et le GATT, Actes du Juriscope 93, P.U.F, p.89.
18) Serge Regourd, "Pour l'exclusion culturelle" ,in Le Monde diplomatique, novembre1993; "L'audiovisuel et le GATT"
, op. cit.
19) Serge Regourd,"L'audiovisuel et le GATT",op.CZt.,p.109-110.し か し,同 協 定 第2005条 2項 は 「通 商 上 相 当 す る 効 果 を も つ 」 報 復 措 置 を 認、め て お り,こ の 方 法 で は 解 決 に な ら な い と い う意 見 も あ る 。
20) SergeRe gourd, "L'audiovisuel et le GATT",op. cit., p. 103-104.