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金融機関とパンデミック・リスクについて

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Academic year: 2021

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■ 第80 回大会予稿集【自由論題】

金融機関とパンデミック・リスクについて

About "pandemic risks" in Financial Institutions

日本経済大学 市川 千尋 JAPAN UNIVERSITY OF ECONOMICS Chihiro Ichikawa

1、はじめに

小職は前職で金融機関に 20 年近く在籍した経 験もあり、平成 22 年以降、金融機関の実態に即し た問題をテーマとした研究活動を行っている。

平成 22 年 4 月 1 日より平成 25 年 3 月末まで、 金融情報システムセンター(FISC:The Center for Financial Industry Information Systems 以下 FISC と称する)へ出向し、3 年間監査安全部主任研 究員として研究活動に従事した。FISC では消費者 金融等も含む各金融機関や IT ベンダー、金融関連 業界団体より出向者が参集し、金融関連業界の質 的向上に向け日夜さまざまな研究活動を行ってい る公益財団である。FISC はその組織の性質上、金 融機関との情報交換も頻繁に行っており、わが国 における金融機関の情報最前線であった。 特筆すべきは、この FISC が策定した「基準」、 「指針」、「手引書」等が、金融業界における金融 情報インフラのデファクトスタンダードとして機 能し、現在も頻繁に使用されている点である。こ の是非についてさまざまな切り口より研究報告を 実施してきた。 折しも、令和 2 年初頭より、全世界では中国を 発生源とする新型コロナウイルス蔓延の脅威に晒 されている。今回の研究発表では特に金融分野の 情報システムに焦点を定め、その現況の問題点等 について述べてみたい。 2、 先行調査研究 金融機関のパンデミックリスク対応については、 FISC が平成 21 年に発表した「金融機関等におけ るコンティンジェンシープラン策定のための手引 書(第 3 版追補)」(感染症によるパンデミックリ スクとコンティンジェンシープランー新型インフ ルエンザ流行時の考慮ポイントー)が参考となる。 本発表ではこの手引書を紹介の上、現況との相違 点について考えてみたい。 3、旧来の感染症の特徴 当時想定されている感染症については以下の通 りである。 インフルエンザ:毎年冬を中心に流行、普通の風 邪と同様にのどの痛み、鼻汁、咳などの症状も見 られるが、38°C 以上の発熱、頭痛、関節痛、筋 肉痛などの全身の症状が突然現れる。 新型インフルエンザ:従来は人に感染することの なかった鳥インフルエンザウイルス等の性質が変 異することによって人に感染し、人の体内で増え ることができるように変化し、人から人へと効率 よく感染できるようになったウイルスによる疾病。 インフルエンザには、いろいろな種類があり、 抗原性の違いから種類が大別される。インフルエ ンザには、毎年冬を中心に流行している「インフ ルエンザ」(ヒトにしか感染しないインフルエンザ として B 型、C 型がある)、また、カモ、アヒルな どの水鳥を中心とした鳥類に感染、他の鳥類に感 染して症状が出た場合の「鳥インフルエンザ」 153

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それから、2009 年春に世界的な流行を起こした 「新型インフルエンザ」の3種類が存在する。新 型インフルエンザは、従来は人に感染することが なかったインフルエンザウイルスのことを言うの で、今後も新たなウイルスが発見されれば、「新型 インフルエンザ」となる。なお、2009 年春に大流 行した「新型インフルエンザ」は、ブタ由来のウ イルスである「新型インフルエンザ A/H1N1」であ る。なお、病原性が高いか、低いか、(あるいは中 程度か)はあらかじめ予測することはできない。 ここが今回の新型インフルエンザの経験を通し実 感された、対応の難しさといえた。 4、パンデミックリスク 感染症におけるパンデミックリスクについては、 地震災害等の自然災害とは異なる被災想定(ひさ いそうてい)を考慮する必要がある。また、人命 への影響や従業員への感染等により一時的に高い 欠勤率をもたらす可能性があり、人口が密集する 地域での発生は、その影響は更に深刻になること も予想される。業務を継続することに伴い従業員 等が感染する危険性と、社会のために自らの企業 が継続しなければならない社会的必要性、経営維 持・存続のために収入を確保する必要性などを勘 案して、優先度の高い業務の選定を行い、業務縮 小や中断の場合も想定して継続すべき業務水準を 決めなければならない状況となる。 つまり、感染症のパンデミック発生時における コンティンジェンシープランについては、業務継 続のみならず、感染拡大防止や要員確保のための 業務縮小や中断といった視点も必要になってくる。 続いて、地震と新型インフルエンザの人的被害と 時間経過を比較すると、まず、地震の場合、災害 発生時に被害が多く発生し、時間が経過するにつ れて、減少していく特徴がある。かたや、新型イ ンフルエンザについては、災害が発生後、被害が 増加し、一定期間を過ぎると減少し、それが、波 状的に発生する可能性がある。すなわち、地震は、 被害が短期間に集中し、新型インフルエンザパン デミックは、被害が長期間繰り返す可能性がある と言える。過去のスペインインフルエンザ等を例 にとれば、1 回の流行が、数ヶ月続くことも予想 される。 5、「金融機関等におけるコンティンジェンシープ ラン策定のための手引書(第 3 版追補)」について 平成 21 に策定されたこの手引書は、副題が「感 染症によるパンデミックリスクとコンティンジェ ンシープランー新型インフルエンザ流行時の考慮 ポイントー」となっており、平成 20 年初頭に発生 した新型インフルエンザ(A/H1N1)に対応する手 引書である。 この手引書のポイントとしては2点ある (1) コンテプラン発動基準 コンテプラン発動基準を決定する上で、関係省 庁対策会議において分類された発生段階の移行に あわせて、金融機関において決定・実施事項を事 前に設定しておく(表1) 表1 発生段階ごとの決定・実施事項の事前設定 (出所) FISC(2009) (2)優先度に応じた業務分類 その後、発生段階ごとに優先度に応じた業務を 分類していく(表2)。この表では、コンティンジ ェンシープランの発動基準を決定する上で、関係 省庁対策会議において分類された発生段階の移行 にあわせて、業務の重要度に応じた発動基準を整 理する方法の例示として提示がなされており、横 軸はパンデミックの発生段階を示し、縦軸は業務 の優先度を高い順に示したものである。なお、こ の分類は「電子情報技術産業協会(JEITA)」のガ 154

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イドラインにヒントを得ている。 表2 業務継続・縮小の基本パターン (出所) FISC(2009) このコンティンジェンシープランの特徴として は、業務継続・縮小は「業務の優先度に応じて、 想定ケースごとに、各金融機関様の判断で決定す る」としている点である。現在においてはリスク による業務分類(リスクベースアプローチ)は地 域金融機関を含めて一般的な考え方となってきて いるが、2009 年時において、いわゆる「業務の標 準化」作業の難しさが金融機関間で多く議論され、 上記の表現もその着地点として残された経緯があ る。 6、コロナウイルスの特徴 以上の点を踏まえて、今回世界で蔓延している コロナウイルスについて、現在公表されて内容を 見てみたい。 これまでに、人に感染する「コロナウイルス」 は、7種類見つかっており、その中の一つが、昨 年 12 月以降に問題となっている、いわゆる「新型 コロナウイルス(SARS-CoV2)」である。 このうち、 4種類のウイルスは、一般の風邪の原因の 10~ 15%(流行期は 35%)を占め、多くは軽症である。 残りの2種類のウイルスは、2002 年に発生した 「重症急性呼吸器症候群(SARS)」や 2012 年以降 発生している「中東呼吸器症候群(MERS)」である。 コロナウイルスはあらゆる動物に感染するが、種 類の違う他の動物に感染することは稀である。ま た、アルコール消毒(70%)などで感染力を失う ことが知られている1 このようなウイルスの特性を元に、厚生労働省 では新型コロナウイルス感染症に関し次のような 対応を行っている(図1)。はじめに、国内侵入を 防止する、あるいは遅らせることを主眼とした水 際対策を始め、対策を講じた(①)。3 月に入り、 国内の複数地域で、感染経路が明らかではない患 者が散発的に発生しており、一部地域には小規模 患者クラスター2が把握されていることから、集団 発生を防ぎ、感染の拡大を抑制すべき時期に入っ ている(②)。なお、社会・経済へのインパクトを 最小限にとどめるためには、「患者の増加スピード を抑えること(③)」と「流行の規模を下げ、患者 数のピークを下げること(③)」が必須となり、あ わせて、「重症となった方にも対応できるよう医療 提供体制等の必要な体制を整える(④)」ことが必 要であると考えられている。 図1 新型コロナウイルス対策の目的 (出所) 厚生労働省 HP(2020) 7、新型コロナウイルス蔓延時に発生したこと、 しつつあること 次に、新型インフルエンザ流行時では想定しえ なかった事象について思うまま箇条書きしてみた い ① マスク、消毒液等に代表される品不足の発 生 ② SNS 等でのデマ・不正情報の流布 ③ 医療崩壊 ④ 世界的な経済の停滞 155

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⑤ 交通網の遮断、地域の孤立化 ⑥ 流通網の遮断 ⑦ 格差の発生(国、地域間、人種等) ⑧ 社会インフラの崩壊 ⑨ 人的コミュニケーションの遮断 まだまだ多く考えられそうだが、これらの事象 が本年 2 月以降、本稿を作成している 3 月中旬ま で、1 か月にも満たない間に全世界で同時多発的 に発生している点は特筆すべきである。これまで の新型インフルエンザパンデミックの際に想定し ていなかった事象として、特にマスク・消毒液な どの品不足の発生があげられよう。その影響は不 足している物だけにととまらず、SNS 等を通じて 不正確な情報やデマが拡散されることにより、社 会不安が発生し多く在庫がある商品までもが瞬時 に買い占められ商店から姿を消した。また、コロ ナウイルス規制等により交通網や流通網が十分に 機能せず、国際貿易や経済活動が行えない状況と なり、株の暴落や信用不安等でリーマンショック に匹敵する停滞が多く発生した。これらの事象も 忘れてはならない。 8、「金融機関等におけるコンティンジェンシープ ラン策定のための手引書」次回改訂に望まれるこ と コロナウイルスパンデミックの影響については、 様々な分野から今後検討がなされることであろう が、金融情報システムの維持という観点から、「金 融機関等におけるコンティンジェンシープラン策 定のための手引書」に盛り込む必要がある事項に ついて申し述べたい。 当該手引書 第 6 篇 7.感染症によるパンデミッ クリスクとコンティンジェンシープラン (2)コン ティンジェンシープラン策定の考慮事項 d.感染 防止策等3 では、図表を使用し感染防止策に有効 な個人防護具と衛生用品を例示4しているが、この 想定はあくまでも防護具や用品が継続的に安定供 給されている場合が前提となっている。そのため に多量な備蓄も必要だと考えられるが、今回の事 象により金融機関側で多くの備蓄行ったとしても、 金融機関のコンティンジェンシープラン想定に資 する分を安定的に使用できると考えるのは早計で ある。なぜなら、例えば病院や学校など、より緊 急度が高い社会インフラが優先的にその備蓄を使 用する事も考えられるからである。さらに金融機 関の感染防止策(顧客を含める)を継続・維持す る期間についても、地震等の被害が短期間に集中 する自然災害に比べ、コロナウイルスのような事 象は被害が長期間繰り返す可能性が十分考えられ るのである。以上のことから、手引書の中でも BCM5 の考え方を取り入れ、BIA6による対応が必要にな ってくるものと思われる。BIA では、重要業務の 洗い出しや優先順位付け、目標復旧時間及び目標 復旧レベル、資源および代替案の策定を精緻に行 うこととなっている。これまで策定した金融機関 のコンティンジェンシープランを再度見直し、そ の金融機関の地域特性やリスクに応じた BCM を策 定する必要があるのではないだろうか。 9、おわりに コロナウイルスにより被害に遭われた方々につ いて心よりお見舞い申し上げると共に、今後この ような被害が出ないよう、研究分野の中で有意義 な提言を行っていく所存です。 (引用・参考文献) FISC(2009)「金融機関等におけるコンティンジェ ンシープラン策定のための手引書(第 3 版追補)」 市川(2015)「東日本大震災を契機とした金融機関 の業務継続~地域金融機関の情報システムを中心 として~」 1 厚生労働省 HP(2020)< https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/ke nkou_iryou/dengue_fever_qa_00001.html#Q1> 2 感染経路が追えている数人から数十人規模の患者の 集団のこと 3 「金融機関等におけるコンティンジェンシープラン 策定のための手引書」22 ページ 4 「金融機関等におけるコンティンジェンシープラン 策定のための手引書」49~50 ページ

5 Business Continuity Management 6 Business Impact Analysis

参照

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