クロミタイト:クロム資源かつ深部過程指示者 5
総 説
クロミタイト:クロム資源にして地球深部過程指示者
荒 井 章 司
1,*
・阿 部 なつ江
2・松 本 一 郎
3・三 浦
真
4(2020年7月7日受付,2020年10月15日受理)
Chromitites as the Cr resource and as an indicator of
deep-seated processes
Shoji A
rai1,*
, Natsue A
be2, Ichiro M
atsumoto3and Makoto M
iura4 1 Kanazawa University, Kanazawa 920‒1192, Japan2 Mantle Drilling Promotion Office, Institute for Marine-Earth Exploration
and Engineering, Japan Agency for Mantle-Earth and Technology, 3173‒25 Showa-machi, Kanazawa-ku, Yokohama, Kanagawa 236‒0001, Japan
3 Graduate School of Education, Shimane University, 1060 Nishikawatsu,
Matsue, Shimane 690‒8504, Japan
4 GIA Tokyo Godo Kaisha, Yamaguchi Building 7, 11th Floor, 4‒19‒9 Taito,
Taito-ku, Tokyo 110‒0016, Japan
*
Corresponding author: [email protected]Chromitites
(
chromite ores)
are reviewed for their importance in magmatism, hydrother-malism, geodynamics and production of resources. The key process for chromitite production is possibly the formation of magmas oversaturated with chromite(
or chromian spinel)
.Produc-tion of relatively silica-rich magma during the forma.Produc-tion of dunite envelope is coupled with the production of the podiform chromitite. The origin of stratiform chromitites is challenged based on a new idea on the origin of chromite-hosted mineral inclusions, commonly found in all types of chromitites. The chromite-hosted melt inclusions, now characterized by the assemblage parg asite+aspidolite+orthopyroxene, are possibly formed during reaction melting of orthopyroxene within the mantle. Chromite grains in the crustal stratiform chromitites, at least in part, are produced in the mantle stage and transported upward to the magma chamber. Origin of ultra-high-pressure chromitites has been highly debated, but is still enigmatic. Chromitites of hydro-thermal origin have been found and may contribute to redistribution of Cr both in the mantle and in the crust. Production of chromitite ores in Japan is also reviewed. Chromitites serve as a good petrologic marker in both mantle and crustal rocks, and will greatly contribute to our understanding of deep-seated structure and mantle processes in the mantle drilling.Key words: Chromitite, Mantle, Crust, Resources, Ophiolite, Mantle drilling
1. は じ め に
クロムスピネル(chromian spinelまたはchrome spinel)はクロム(Cr)という比較的希少な元素を主 成分とする酸化物鉱物であり,(Mg, Fe2+)(Cr, Al, Fe3+) 2O4という一般的化学式を有する。ほかにもマ ンガン,コバルト,ニッケル,亜鉛,チタンなどの多 種の陽イオンを含み,重要な岩石学的指示者とされて い る(Irvine, 1965; Arai, 1992; Gahlan and Arai, 2007; Matsumoto et al., 2017)。クロムの含有量が高 い場合,あるいはクロムの存在を強調する場合,クロ ム鉄鉱(クロマイト;chromite)と呼ばれることも 多い。このクロムスピネルの濃集した岩石はクロミタ イト(クロム鉄鉱岩;chromitite)と呼ばれる。クロ ミタイトは,鉱物資源(鉱石)として重要であり,ク Chikyukagaku(Geochemistry)55,5‒30(2021) doi:10.14934/chikyukagaku.55.5 1 金沢大学名誉教授 〒920‒1192 石川県金沢市角間町 2 (国立研究開発法人)海洋研究開発機構 〒236‒0001 神奈川県横浜市金沢区昭和町3173‒25 3 島根大学大学院教育学研究科 〒690‒8504 島根県松江市西川津町1060 4 GIA Tokyo合同会社 〒110‒0016 東京都台東区台東4‒19‒9 山口ビル7ロムに富むものからは金属クロムを取り出し,クロム に比較的乏しいもの(アルミニウムに富むもの)はク ロマイトのまま耐火材として使われる。クロミタイト は白金族元素(Platinum-group elements;PGE)あ るいは白金族鉱物(Platinum-group minerals;PGM; PGEを主要元素として含む鉱物)のホストとしても 重要である。また,クロミタイトはその高い難溶性か ら生成には特別な条件が必要であり,マグマ的プロセ スのマーカーとして注目されてきた。最近では,ダイ ヤモンドなどの超高圧鉱物のホストとしてその成因お よび履歴が注目を集めた。さらに,古来の問題である クロミタイト生成時の水の役割については多くの議論 があるものの,今でも完全な決着がついていないよう に見える。クロミタイトは,マントルにおけるマグマ 過程(特にかんらん岩‒マグマ相互反応),地殻中マグ マ溜り内のマグマの振る舞い,マントル内物質循環, 熱水による元素移動・鉱床形成などの様々な地質過程 のマーカーとして重要である。 クロミタイトは鉱床として重要であるが,現在日本 では馴染みの薄い存在である。しかし,かつてはポ ディフォーム・クロミタイトを採掘するクロム鉱山が 沢山存在し,経済的にも社会に貢献したことを忘れて はならない。また,将来予定されているマントル掘削 において,深部岩石の生成過程のマーカーとしてのク ロミタイトの役割が期待されている。 クロミタイトの地球科学的性質の一部については今 までに総括的論文が公表されている(荒井,2003, 2010, 2012)。またクロムスピネルの基本的性質は荒 井(2018)で解説されている。本稿では,特に最近 のクロミタイト研究の進歩を反映させた新たなレ ビューを試みる。
2. クロミタイトの産状と分類
クロムという元素およびクロムスピネルという鉱物 の振る舞いの特徴から,クロミタイトの産出は極めて 限られており,かんらん石などのマフィック珪酸塩と 伴う。クロミタイトは通常2つのタイプに分けられ る。一つはかんらん岩中にレンズ状∼不規則形の岩塊 (ポッドと呼ばれる)として産するもので,「ポディ フォーム・クロミタイト」(podiform chromitite)と 呼ばれる(Fig. 1a)。他は,地殻中のいわゆる層状貫 入岩体中の連続性の良い層として産するもので,「層 状クロミタイト」(stratiform chromitite)と呼ばれ る(Schulte et al., 2012)(Fig. 1b)。ポディフォーム・クロミタイトはマントルの構成岩 の一つと考えられる(荒井,2010)。ポッドのサイズ は,カザフスタンのケンピルサイ・オフィオライトの も の が 最 大 で,1.5 km程 度 で あ る(Distler et al., 2008)。日本では後述(7.3)する鳥取県若松鉱山の 250 m×40 m程度のものが最大である(松本ほか, 2002)。クロミタイトのポッドはほぼ例外なくダナイ ト(ほぼかんらん石よりなる)に包まれており,多く はハルツバーガイト(直方輝石を含むかんらん岩)中 に存在する。さらにポッドの形状とハルツバーガイト の変形構造との調和性から調和性クロミタイト(con-cordant chromitite)と非調和性クロミタイト(dis-cordant chromitite)に分けられる(Cassard et al., 1981)(Fig. 2)。この分類はポディフォーム・クロミ タイトの形成時期を考える上で重要であり,きちんと 判別・記載されねばならない。ポディフォーム・クロ
Fig. 1. (Color online) Field photographs of two types of chromitite. (a) Podiform chromitite from Wadi Hilti, northern Oman ophiolite. A chromitite pod with a dunite envelope in the mantle harzbur-gite. (b) Stratiform chromitite banded with anorthosite at UG1 level of the Bushveld layered intrusion, South Africa.
ミタイトでは個々のポッドは多くの場合孤立してお り,層状クロミタイトと比べ探鉱や採鉱はより困難と なる。ポディフォーム・クロミタイトにはしばしばダ イヤモンド,コーサイトなどの超高圧鉱物が見出され ている。超高圧鉱物を含むクロミタイトはしばしば 「超高圧クロミタイト」と呼ばれる。超高圧クロミタ イトの代表的なものはチベット,ルオブサ・オフィオ ライト中のものである(Bai et al., 1993; Robinson et al., 2004; Yang et al., 2007; Yamamoto et al., 2009)。 一方,層状クロミタイトはマグマ溜り中でのクロム スピネルの集積により生じ,堆積岩のように薄くても 連続性が良いのが特徴である(Fig. 1b)。従って,探 鉱や採鉱はより容易となる。層状クロミタイトは様々 な結晶集積岩に伴う。すなわち,かんらん岩類(主と してダナイト,ハルツバーガイト)を初めとしてパイ ロクシナイト類,アノーソサイトである(Schulte et al., 2012)。 この2つのタイプのクロミタイトは研究者のコミュ ニティーも異なるほど性質が違うのであるが,以下の 様な中間的なものも存在する。マントルと地殻の間に はモホ遷移帯と呼ばれるダナイトに富む部分があり 様々な規模・産状のクロミタイトが見出される。モホ 遷移帯には典型的なポディフォーム・クロミタイトも 存在するが,薄層∼バンド状の層状クロミタイトと類 似したものが普遍的に見出される。クロミタイトの多 様性はダナイトという岩石の成因に多様性が起因す る。またアラスカ型(あるいはアラスカ・ウラル型) 貫 入 岩 体(Alaskan-typeま た はUralian-Alaskan-type intrusions)と呼ばれる同心円状に岩石種が分布 する岩体のダナイト(岩体の中心付近に分布する)に も,バンド状のクロミタイトが伴う。基本的性質は層 状クロミタイトに類似すると思われるが,このタイプ の岩体の成因自体に不明な点があり,クロミタイトに ついての情報もまだ乏しい。
3. クロミタイトの記載岩石学的特徴
クロミタイトの主要構成鉱物はクロムスピネルであ る。クロムスピネルの粒間の部分(しばしば珪酸塩マ トリックスと呼ぶ)は,ポディフォーム・クロミタイ トではかんらん石のみで構成されることが多いが,少 量の輝石類,斜長石も含まれることがある。一方,層 状クロミタイトでは,かんらん石のほかに輝石類,斜 長石などからなり,多様である。クロミタイトとダナ イトは鉱物量比の点で連続するが,クロムスピネル 10∼20体 積% 程 度 の も の は 比 較 的 少 な い(Arai, 1980; Arai and Miura, 2016a)。興味深いことに,あれほど産状が異なる両タイプの クロミタイトに共通な記載岩石学的特徴があるのであ る。それはクロムスピネル中の珪酸塩包有物である (Fig. 3)。これらは直径100ミクロン程度が典型的大 きさであり,球形のことが多い。典型的な構成鉱物は 雲母類(特にアスピドライト),パーガス閃石(パー ガサイト),直方輝石である。そのほか単斜輝石,斜 長石,ネフェリン,硫化物なども含まれる。球状の形 状から元々はメルト(または流体)包有物であったと
Fig. 2. (Color online) Idealized modes of occurrence of podiform chromitite mainly based on our obser-vations from the Oman ophiolite. Chromitite pods occur as irregular to banded forms in the upper mantle section to Moho transition zone (MTZ). They also occur even in the mid-crust
as-sociated with late-intrusive dunite to wehrlite (Arai et al., 2004). They are classified into two structural types; one is concordant, and the other is discordant to the foliation of the host harzbur-gite. The ultra-high pressure chromitite pods are probably of concordant type.
考えられている。化学組成的にはナトリウムに比較的 富み,水を含むことが特徴である。この包有物は多く のクロミタイトに存在するが,全く存在しないものも ある(Arai and Miura, 2016a)。調和性クロミタイト には存在しないとされている(Cassard et al., 1981) が,オマーン・オフィオライトでは量は少ないながら 調 和 性 ク ロ ミ タ イ ト に も 存 在 す る(Miura et al., 2012)。クロミタイトのほかにもダナイト,トロクト ライトなどの海洋底の深部岩(Tamura et al., 2008, 2014, 2016)および特殊なマントルかんらん岩にも見 出されている。さらに,アラスカ型貫入岩体のクロミ タイトのクロムスピネルにも同様の包有物が存在し (Khedr et al., 2020),この特徴の一般性は高い。 ポディフォーム・クロミタイトには重要な地質学的 特徴がある。周囲のマントルかんらん岩は多くの場合 中程度に枯渇したハルツバーガイトなのである。多く のポディフォーム・クロミタイトはダナイトに包まれ てハルツバーガイト中に存在すると言える(Arai and Abe, 1995; Arai, 1997)(Fig. 2)。レールゾライ
トや極端に枯渇したハルツバーガイト中にはクロミタ イトは存在しないか,存在しても小規模なことが多い (Arai, 1997)。従って,壁岩のかんらん岩の組成がク ロミタイトの存否・規模をある程度コントロールして いるように見える(Arai, 1997)。 超高圧クロミタイト中の超高圧鉱物の産状は実はよ くわかっていない。大量のクロミタイトから粉砕や他 鉱物の融解などにより超高圧鉱物のみを取り出すこと が多かったからである。おそらくダイヤモンドは,ク ロムスピネル中の自形結晶包有物として産することが 多いと思われる(Xu et al., 2009; Yang et al., 2015)。 Yang et al. (2007)は,微小なダイヤモンドがOs‒Ir 合金(これ自体が多分クロムスピネルの包有物)中に 包有されるのを報告した。Yamamoto et al. (2009) は,中国人研究者がダイヤモンドを発見していた (Bai et al., 1993; Robinson et al., 2004)ルオブサの クロミタイトのクロムスピネル中からコーサイトおよ びディオプサイド(単斜輝石)のラメラ,ロッド状結 晶を見出した。この事実は重要で,クロムスピネル
Fig. 3. (Color online) Petrographic characteristics of podiform chromitites. (a) Mineral inclusions con-centrically distributed in chromian spinel grains (arrowed). Plane-polarized light. Discordant chromitite from Wadi Hilt, northern Oman ophiolite. (b) BSE image of spinel-hosted inclu-sions, mainly composed of pargasite, aspidolite and orthopyroxene (Opx). Discordant chro-mitite from Wadi Hilti, northern Oman ophiolite. Note the common presence of aspidolite, which is absent in peridotite or peridotitic matrix of chromitite. (c) Fine exsolution lamellae (mainly clinopyroxene; white arrow) and clinopyroxene inclusion (yellow arrow) in chromian spinel. UHP chromitite from Luobusa, Tibet. Plane-polarized light. (d) Parallel open cracks of chromian spinel (=pull-apart texture) filled with fresh olivine in UHP chromitite from Luobu-sa, Tibet. Crossed-polarized light.
(あるいはその高圧相)からこれらの相が超高圧で離 溶したことを示唆し,クロムスピネル自身が超高圧を 経験したことを示している(Yamamoto et al., 2009; Arai, 2013)。クロムスピネル中のディオプサイドの ラメラは超高圧クロミタイトには顕著に見られるが, 通 常 の ク ロ ミ タ イ ト に も 存 在 す る(Miura et al., 2012, 2018)(Fig. 3c)。これらの事情により,超高 圧クロミタイトの認識自体が進んでいない。超高圧鉱 物の発見・認識の困難さがその成因解明を妨げて来た と言える。また,例えば炭素が十分に得られなければ 超高圧でもダイヤモンドは形成されないであろうか ら,超高圧鉱物の存在のみをもって超高圧クロミタイ トとするのは不合理である。そこで,Miura et al. (2018)は,かんらん岩の性質から超高圧を経験した とされる四国三波川帯の東赤石かんらん岩体のクロミ タイトを研究し,超高圧鉱物の存否に依存しない超高 圧クロミタイトの記載岩石学的特徴を明らかにしよう とした。それによると,クロムスピネル中にはディオ プサイドのラメラおよびパーガス閃石を含む微小な包 有物の存在を確認したが,特に特異性は見出されな かった。また,Arai (2013)およびArai and Miura (2016a)は,超高圧クロミタイトのクロムスピネル には,クラックをかんらん石に満たされたプル・ア パート組織が特徴的に見られるとした(Fig. 3d)。今 のところ,これのみが超高圧クロミタイトにのみしば しば認められる記載岩石学的特徴である。
4. 鉱物化学組成
主として,クロミタイトの主要鉱物であるクロムス ピネルの組成を述べる。クロムスピネルの化学的特徴 を表すのにしばしば使われるパラメータとしては, Mg/(Mg+Fe2+)原子比(=Mg#),Cr/(Cr+Al)原子比(=Cr#),Fe3+/(Cr+Al+Fe3+)(=Y
Fe)がある。
そのほかにチタン含有量もしばしば有用とされる (Arai, 1992; Kamenetsky et al., 2001)。
クロミタイトは粗粒な結晶よりなるいわゆる深成岩 であり,岩石形成後にゆっくり冷却した履歴を有す る。その間の鉱物の化学組成の変化に注意が必要であ る(Arai and Miura, 2016a参照)。クロムスピネル のMg#は,共存するMg‒Fe珪酸塩(特にかんらん石 が重要)との間のMg‒Fe交換反応で変化する(Ev-ans and Frost, 1975; Arai, 1980)。クロムスピネルの Mg#は,固結後にモード組成(かんらん石との量比)や 平衡温度により変化するために,初生的な性質を示さな
い。その良い例はクロミタイトとかんらん岩におけるク ロムスピネルのMg#の違いである。クロムスピネルの Mg#はクロミタイトの方がかんらん岩より高い(Arai, 1980;Arai and Miura, 2016a)(Fig. 4a)。岩体を形成 するクロミタイトやかんらん岩はゆっくり冷却してい るので,この関係は主としてかんらん石/クロムスピ ネル比の違いによる。また,かんらん岩であっても高 温のマントル捕獲岩として得られるもののクロムスピ ネルは高いMg#を示す(荒井・石丸,2018)。 もちろん,クロミタイト中の珪酸塩(特にかんらん 石)のMg#も同様にクロムスピネルとのMg‒Fe交換 に よ り 変 化 す る。 か ん ら ん 石 のMg#(Fo値= 100Mg#)は,とりわけクロムスピネル/かんらん石 比の違いに応じて変化する。Mg#は,かんらん岩で はたいてい0.89‒0.92(=Fo89‒92)であるが,クロム スピネルの含有量の高いクロミタイトでは0.97‒0.98 (=Fo97‒98)まで高くなる(Arai and Miura, 2016a)。
かんらん石のMg#が高い場合NiO含有量も高く,し ばしば1 wt% (かんらん岩中では∼0.4 wt%前後)を 超える(Arai and Miura, 2016a)。かんらん石の組成 の違いを単純に比較してかんらん岩∼クロミタイトの 火成岩的性質の違いを論ずるのは明瞭な誤りである。 ポディフォーム・クロミタイトのクロムスピネルは 特徴的な組成範囲を示すことが知られている。Cr#は 0.2から0.9程度まで変化に富むが,0.4から0.8程度 に収まるものが多い(Fig. 4b)。また,YFeが低く, 概ね0.1以下である(Fig. 4b)。しばしば,クロムス ピネルのCr#が0.6以上のクロミタイトは高クロム・ クロミタイト,0.6以下のものは高アルミニウム・ク ロミタイトと呼ばれる。前者は金属クロムの原料とな り,後者はクロムスピネルのまま耐火材の原料とな る。 層状クロミタイトのクロムスピネルのCr-Al-Fe3+比
の変化が比較的大きい(Fig. 4b)(Arai and Ahmed, 2018)。Cr#は0.5‒0.8, YFeは0.3以 下 で あ る(Fig.
4b)。Mg#は0.2から0.8まで変化が大きい。クロム スピネルの組成から見ると,グレート・ダイク貫入岩 体(Great Dyke intrusion ;ジンバブエ)のクロミタ イトが最も未分化なマグマから晶出したと思われる。 層状クロミタイトのクロムスピネル全体が示す組成変 化は,YFeがあまり高くならず,Cr#のみが変化する (低下する)(Fig. 4b)。このトレンドは,Henderson (1975)がラム貫入岩体(Rhum intrusion)で示した Al-trendと類似する(Fig. 4b)。
アラスカ型貫入岩体中のクロミタイトのクロムスピ
ネルは,YFeが全体的に高いのが特徴である(Fig.
4b)。YFeの低いものはポディフォームや層状のものと
同様に0.1以下であるが,そこからYFeに顕著に富むよ
うなトレンドを示す(Garuti et al., 2003; Krause et al., 2007)。Cr#は低YFeの場合,0.7‒0.8程度である。
クロムスピネルのこのようなCr#が余り変化せずYFe
のみ高くなるようなトレンドはHenderson (1975) のFe-trendに 類 似 す る。 た だ し,Khedr et al. (2020)によると原生代のDahanibアラスカ型岩体
(エジプト)のクロミタイトのクロムスピネルはさほ
ど高いYFeを示さない。
前述のクロムスピネル中の包有物を形成する鉱物で 目を引くのは何と言ってもアスピドライト(aspido-lite)である(Arai and Miura, 2016a)(Figs. 3b and 4c)。この雲母はフロゴパイトのNaアナログである が,フロゴパイトほどは広範に出現しない。ところ が,このクロムスピネル中の包有物の構成物としては パーガス閃石とともに最も普通なのである。アスピド ライトが普通のかんらん岩およびクロミタイトの珪酸
Fig. 4. (Color online) Mineral chemistry of chromian spinels and micas. (a) Relationship between Mg/ (Mg+Fe2+) and Cr/(Cr+Al) atomic ratios of chromian spinels. (b) Cr‒Al‒Fe3+relationship of
chromian spinels. Two chemical trends (Fe and Al trends) from Rhum, UK (Henderson, 1975), are shown for reference. Fields for chromitites are after Arai and Miura (2016a) and Arai and Ahmed (2018). Alaskan-type chromitite fields are after Garuti et al. (2003) and Krause et al. (2007). The Dahanib chromitite (Alaskan-type) data are after Khedr et al. (2020). (c)
Compo-sitional variations of micas (phlogopites and aspidolites) in chromitites. Fields for phlogopites in peridotites are shown for comparison (Arai and Miura, 2016a).
塩マトリックスに産する例は知られておらず,クロム スピネル内部という隔絶された環境でのみ安定である ことを示す。アスピドライトのさらにチェルマク置換 の進んだ雲母にプライスワーカイト(presiwerkite) があるが,これもクロミタイト中にのみ集合体として 産する例が知られる(Zaeimnia et al., 2017)。この 限られた産状は,Thompson (1981)の言うように, アスピドライトはディオプサイド(単斜輝石)成分が 過剰にあると反応してエデン閃石(エデナイト)的な 角閃石を作って消失するためであろう。多くのかんら ん岩には包有物の量に対して過剰なディオプサイド成 分が普通に存在する。これは,包有物中でアスピドラ イトと単斜輝石と共存する例が少ないことと整合的で ある。しかし,単斜輝石の存在しない岩石にもアスピ ドライトは存在しないので,単斜輝石との反応関係の みでアスピドライトの存否を説明できない。 クロミタイトの性質を示す最も重要なパラメータは クロムスピネルのCr#である。クロムスピネルのCr# は,初生的なマグマはかんらん岩の部分溶融および, 生じた後の結晶分化および他のかんらん岩などとの反 応の程度に支配されるであろう。従って,クロムスピ ネルのCr#はこれらの過程を推し量る重要な情報とな る(Arai and Miura, 2016a)。
5. クロミタイトと白金族元素(PGE)
PGE(オスミウム,イリジウム,ルテニウム,ロジ ウム,白金,パラジウム)は,しばしばI-グループ (オスミウム,イリジウム,ルテニウム;比較的融点 が高い)(=IPGE)とP-グループ(ロジウム,白金, パラジウム;比較的融点が低い)(=PPGE)に分け られる。PGEは地球形成時以降,マグマや熱水の活 動により分別・分化され,様々な地球構成岩に含まれ る(Barnes et al., 1985; Leblanc, 1991; 仙田,2005)。 IPGEはPPGEよりもコンパティブルであるとされ る。また,PPGEは熱水によっても移動すると言われ る(Barnes and Liu, 2012; Arai et al., 2020)。クロミタイトもしくはクロムスピネルに富むかんら ん岩などはPGEに富む岩石として有名である(Von Gruenewaldt et al., 1986; Economou-Eliopoulos, 1996)。PGEは経済的にも重要であるが,その供給は 地域的に限られることでも知られる(森下,2013)。 PGMの多くはPGEの硫化物(例えば,ローライト,
RuS2),合金(例えば,ルテノイリドスミン,(Ir,
Os, Ru) や鉄白金,(Pt, Fe))である(Cabri, 1981;
Naldrett, 1989; Bai et al., 2000; Ahmed and Arai, 2003)。岩石のPGE特性は,全岩のPGE濃度をコン ドライトのPGE濃度で規格化したもので議論される ことが多い (Naldrett, 1989)。PGEの各元素は存在 度が異なるので,上記の順序(融点の高いものから低 いもの)に並べ,規格化された濃度をプロットしたパ ターン(以下PGEパターン)のレベル(コンドライ トとの相対濃度)や傾きにより記載・議論するのが便 利である(荒井,2003)。 クロミタイトのPGEパターンの変化は興味深い。 多くのポディフォーム・クロミタイトではルテニウム 辺りにピークがある緩やかな上に凸のパターンを示 し,全体として緩やかな右下がりの傾向を示す(Arai et al., 1999a, 1999b; Ahmed and Arai, 2002)。そし て一般的に,クロムスピネルのCr#が高いものほど PGE濃度が高い。すなわち,日本でいうと,北海道 (神居古潭帯)のクロミタイト(クロムスピネルの Cr#が高い)の方が中国地方(若松鉱山)のもの(ク ロムスピネルのCr#が低い)よりPGEに富んでいる (Arai et al., 1999a, 1999b)(Fig. 8参照)。イギリス,
シェトランド・オフィオライトは例外的で,かんらん 岩,クロミタイトのPGE濃度が著しく高く,またパ ターンは急激な右上がりを示す(Prichard and Lord, 1993)。層状クロミタイトおよび関連した岩石は特に PPGEに富んでおり,概ね同様に右上がりのPGEパ ターンを示す(Barnes et al., 1985; Von Gruenewaldt et al., 1986)。南アフリカのブッシュフェルト岩体や モンタナのスティルウォーター岩体のような層状貫入 岩 体 に はPGE(特 にPPGE) に 特 に 富 む リ ー フ (reef)と呼ばれるクロミタイト層を中心とした層準 がある。前者のメレンスキー・リーフ(Merensky Reef)や後者のJ-Mリーフ(J-M Reef)は有名であ る(Todd et al., 1982; Barnes et al., 1985; Godel et al., 2006)。 これらのPGE含有量の変化はマグマの分化や熱水 の作用による二次的改変によるものであるが,クロミ タイトがPGEに富むのは主として高いPGM含有量 による。クロムスピネルと初生的PGMの共存の理由 は実はよくわかっていない。
6. 層状クロミタイトとその成因
層状クロミタイトが主として産する層状貫入岩体 (主としてプレカンブリア系)は地殻中のマグマ溜りを 満たしたマグマから集積した結晶の集合体である,いわゆる結晶集積岩よりなっている。ではクロムスピネル に富む岩石を作るにはどうすればよいのであろうか? クロムスピネルは,未分化な玄武岩質マグマなどか ら最初に晶出する鉱物の一つであるが,コテクティッ ク(cotectic)にかんらん石とともに晶出した場合, かんらん石よりずっとその量比は低く,かんらん石の 1∼ 数% 以 下 程 度 で あ る(例 え ば,Keith, 1954; Irvine, 1977)。この時両鉱物が集積すると通常のダ ナ イ ト が 形 成 さ れ る で あ ろ う。Irvine and Smith (1969)はコテクティックに晶出したかんらん石+ク ロムスピネルからクロムスピネルが沈降速度の違いに よりかんらん石から分別され濃集するとした。すなわ ち,比較的小型結晶をなすクロムスピネルは沈降速度 が遅く,比較的大型のかんらん石結晶の早期の沈降で できたダナイトの上に薄層を形成する(Fig. 5a)。た だこの過程は,条件によってはクロムスピネルの分離 がうまくいかないこともあり,クロミタイトを作るた めの効果的な方法ではないであろう。最近でも晶出し たクロムスピネルを効率的に濃集させるための色々な 過 程 が 提 唱 さ れ て い る(Eales and Costin, 2012; Maier et al., 2013; Yudovskaya et al., 2015)。
いかにクロムスピネルに過飽和なマグマを生成する かに多くの人々が興味を持っている。マグマからクロ ムスピネルのみが晶出すればより効果的にクロミタイ トを作ることができるからである。相図上で言うと, かんらん石‒クロムスピネルのコテクティック線上に あるマグマをいかにしてクロムスピネルの初相領域に 移すか,という問題である(Fig. 5)。Irvine (1975, 1977)は, か ん ら ん 石‒ク ロ ム ス ピ ネ ル の コ テ ク ティック境界にあるマグマが,よりシリカに富むマグ マと混合することによりクロムスピネル過飽和なマグ マができるとした(Fig. 5b)。このシリカに富むマグ マとしては,Irvine (1975)ではマグマ溜りの壁岩が 溶けた花崗岩質マグマとし,Irvine (1977)ではより 分化した同源のマグマとした。それに先立って,Ir-vine (1975)は上述のクロムスピネル中のフロゴパイ トなどよりなる包有物をトラップされた花崗岩質マグ マだとした。後に,Spandler et al. (2005)はStill-water岩体の層状クロミタイトにおける包有物を溶融 して均質化しその組成を測定し,マグマ混合のトレン ドを確認し,Irvine (1975)の解釈が正しいとした。 た だ し, 後 述 の よ う に こ の 論 文(Spandler et al., 2005)では玄武岩質マグマと花崗岩質マグマの混合 は示されておらず,この説には更なる検討が必要であ る。このほかに玄武岩質マグマをクロムスピネルに過 飽和にするための過程としては,マントルからの上昇 によるマグマの減圧(Latypov et al., 2018),発泡に よるマグマ溜り内での加圧(Lipin, 1993),酸素フガ シ テ ィ ー の 上 昇(Snethlage and Von Gruenwaldt, 1977; Campbell and Murck, 1993)などが提唱され ている。
また,岩体内において,しばしばクロミタイトが他の 岩石に比べて体積が大きく,岩体のクロムの収支が問 題 と な る(Eales, 2000; Mondal and Mathez, 2007)。 岩体がマグマの閉じた系として固結したものであると したら,クロムなどのクロミタイトの材料となる金属 元素が足りなくなる。そこでコマチアイトのような高 温のマグマが地殻中の鉄やチタンの酸化物に富む岩石 (鉄鉱層や鉄ガブロ)を同化したとする説も提唱され
た(Lesher, 2017; Lesher et al., 2019)。
アラスカ型貫入岩体中のクロミタイトの成因は層状 クロミタイトと同様だと思われるが,両者のクロムス ピネルが異なる組成トレンド(それぞれFe-trendと Al-trend)を示すかどうかは不明である。Henderson (1975)のように粒間メルトとの反応が主役を果たし ているとは考えにくく,両タイプの貫入岩体を形成し たマグマの分化トレンドが異なっていた可能性が高 い。この点を明らかにするには更なるデータの収集と その解析が必要である。
7. ポディフォーム・クロミタイト
7.1 成因 このタイプのクロミタイトの典型的な産状,すなわ ちハルツバーガイト中のダナイトに包まれたクロミタ イト(Figs. 1a and 2)をどのように説明できるであ ろうか?クロミタイトを包むダナイト(dunite enve-lope)は基本的に置換性ダナイト(replacive duntie) (Quick, 1981; Kelemen,1990)の性質を示す(Nol-ler and Carter, 1986; Arai and Yurimoto, 1994)。こ の種のダナイトはマントルかんらん岩中にはかなり普 通に見出され,深部から上昇したマグマ(かんらん石 成分に過飽和)がかんらん岩中にもたらされ,壁岩と 反応(直方輝石が分解し,かんらん石を晶出させる) し た 結 果 で あ る と さ れ る(Quick, 1981; Kelemen and Ghiorso, 1986; Kelemen, 1990)。従って,この ダナイト生成時には基本過程としてかんらん石の析出 +直方輝石の分解が起きているはずである。壁岩の直 方輝石を消費してかんらん石を晶出させるためにダナ
イトは境界付近でハルツバーガイトを置換したような 様相を呈する。この反応の結果生じるマグマは,かん らん石の晶出による分別結晶作用および直方輝石の分 解(非調和)溶融により,比較的シリカに富むように なる(すなわち,一次的マグマ+ハルツバーガイト→ 二次的マグマ+ダナイト)。この二次的マグマは比較
Fig. 5. (Color online) Models for chromitite formation. (a) A classical model for stratiform chromitite formation by sorting of crystals precipitated from magma (Irvine and Smith, 1969). Chromian spinel grains, which are smaller than olivine, are separated from the cotectic aggregates of oliv-ine and spoliv-inel (chromite) during sinking in terms of grain size and density. (b) A typical mod-ern model for stratiform chromitite formation within a crustal magma chamber (Irvine, 1975, 1977). Primitive olivine-spinel (chromite) saturated magma (A) can form a spinel (chromite)- oversaturated magma (C) when mixed with a silica-rich magma (such as B). The spinel (mite)-oversaturated magma solely precipitates spinel (chromite) and may easily form chro-mitites. The granitic partial melt from wall crustal rocks is one of candidates for the silica-rich magmas concerned (Irvine, 1975; Spandler et al., 2005). (c) A model for podiform chromitite formation in the mantle (Arai and Yurimoto, 1994; Arai and Miura, 2016a). Primitive magmas moving upward in the mantle harzburgite can produce dunite and relatively silica-rich mag-mas, which can form spinel (chromite)-oversaturated magmas when mixed with subsequently supplied primitive magmas. The spinel (chromite)-oversaturated magma subsequently can give rise to precipitation of chromities enclosed by the dunite.
的クロムにも富むことが期待される。なぜなら直方輝 石は通常のマグマよりもクロムに富んでおり,その分 解溶融によって生じるマグマもクロムに富むことが期 待されるからである(Arai and Abe, 1995; Arai and Miura, 2016a)。さらに,このような比較的シリカに 富むマグマが,後から来る未分化な(かんらん石‒ク ロムスピネルに飽和した)マグマと混合すると,Ir-vine (1975, 1977)が論じたようなクロムスピネルに 過飽和なマグマを生ずることができる(Arai and Yurimoto, 1994)(Fig. 5c)。オマーン・オフィオラ イトではいわゆる後期貫入岩体(主としてダナイト∼ ウェールライト)にもポッド状のクロミタイトが生じ ており。その生成にはマグマ混合が関与しているよう である(Arai et al., 2004)。 その後のポディフォーム・クロミタイトの成因に関 する研究は概ねステレオタイプである。結論は判で押 したように「ポディフォーム・クロミタイト(特にク ロムに富むもの)は前弧のセッティングでボニナイ ト・マグマと枯渇したかんらん岩の相互反応ででき た」である(例えば,Uysal et al., 2009; Avcı et al., 2017; Xiong, Q. et al., 2017)。前弧はそもそもマグマ 活動を欠くのが特徴なので,前弧域ではこのようなこ とは起き得ない。また,ボニナイト・マグマはポディ フォーム・クロミタイトと同様にマグマとかんらん岩 の反応の生成物であるので,きちんとした理解と記述 が望まれる。すなわち,クロミタイト生成を含む一連 のかんらん岩‒マグマ相互反応のアウトプットがボニ ナイトなどの島弧マグマなのである(Kelemen et al., 1990参照)。 7.2 超高圧クロミタイト 超高圧クロミタイトは謎の多い岩石である。チベッ トのルオブサ・オフィオライトの分布地周辺の河川の 砕屑物中のダイヤモンドの発見に端を発した超高圧ク ロミタイト問題(Bai et al., 1993)は,その後他のオ フィオライト(例えば,Xiong, F. et al., 2017, 2019) からも超高圧鉱物が発見されたものの,成因について は未解決の点が多い。ダイヤモンドなどの肝心な超高 圧鉱物が,極めて限られた研究者が特殊な方法で確認 できているに過ぎないからである。また,彼らは産状 の理解よりも超高圧鉱物の発見に目的を置いているよ うに見え,基本的な情報が共有できていない。我々の 理解では,超高圧クロミタイトは,ダイヤモンド, コーサイト,モワッサナイトなどの超高圧鉱物が見出 される(Bai et al., 1993; Robinson et al., 2004; Yang
et al., 2007, 2015; Yamamoto et al., 2009)ものの, 野外での産状は普通のクロミタイトと何ら変わりがな い。すなわち,同じようにダナイトに包まれハルツ バーガイト中に産する。超高圧クロミタイトについ て,調和性か非調和性かの記述もないことが多いが, おそらく前者であろう(Fig. 2)。また,Trumbull et al. (2009)は オ マ ー ン・ オ フ ィ オ ラ イ ト のWadi Rajmiのクロミタイトからモワッサナイト(moissan-ite; SiC)を発見し,オマーンにも超高圧クロミタイ トがあるとしたが,後に我々がWadi Rajmiのクロミ タイトを片端からチェックしても,超高圧クロミタイ トらしきものを見つけることはできなかった。 オマーンはともかく,超高圧鉱物を含むクロミタイ トはどうやら存在するらしい。では,それはどのよう な成因を持つのであろうか?超高圧でのマグマ的な生 成を含むモデルがいくつか提唱されている(Robin-son et al., 2004; Yang et al., 2015)が,観察事実を 合 理 的 に 説 明 で き な い も の が 多 い。Arai (2010, 2013)は,最上部マントルでできたクロミタイト (+周囲のかんらん岩)がマントル対流に乗ってリサ イクルするモデルを提唱した(Fig. 6)。超高圧で再 結晶し再び最上部マントルへ現れるというものであ る。超高圧鉱物はクロムスピネル中に包有されて保存 されるが,他は元の低圧相に戻る。これだと,低圧ク ロミタイトと見かけの変わらない超高圧クロミタイトが で き る(Arai, 2010, 2013)。Ishii et al. (2014, 2015) の高圧実験結果からは,リサイクルした場合の到達深 度はマントル遷移帯以浅となる(Fig. 6)。クロムス ピネル相は15 GPa程度を超えるとクロムスピネルの 超高圧相になる前に2相に分離してしまい,低圧クロ ミタイトに戻る際に,元の組織を保存しにくくなるか らである。 超高圧クロミタイトの成因に関しては現在も議論が 続いている。Ballhaus et al. (2017)は,超高圧鉱物 (一部は還元的鉱物)は地表で落雷を受けることによっ て生成するとした。これにはGriffin et al. (2018)お よびYang et al. (2018)から早速それぞれの立場か らの反論がなされた。上述のように超高圧クロミタイ トには特有の組織があり,落雷で形成されるはずがな いのは明白である。このような議論がなされるのも, 超高圧クロミタイトの地質学的・記載岩石学的性質が 全く理解されていないためである。
7.3 鳥取県若松鉱山のポディフォーム・クロミタ イト 日本は,変動帯という地質的背景から多種多様の地 質とそれに応じた多様な金属資源(鉱床)を産出する 事が特徴である。本論で議論しているクロミタイトは その成因がマントルや地殻の進化や構造を考える上で 重要であることは勿論であるが,鉱床学的にも極めて 重要である。なぜなら,人類の経済活動に伴い金属ク ロムや耐火煉瓦として数々の産業を支えてきたからで ある。日本にはかつて米国にもクロム鉱石を輸出して いたクロム鉱山が中国地方に存在し,日本の製鉄業を 支える基盤鉱業の一つとしても重要な役割を果たした (松本,2009)。クロミタイトは全てポディフォーム 型である。その中でも日本一のクロム鉱石の産出量を 誇ったのが多里‒三坂岩体の最北端(一部は稲積山岩 体)に位置した鉱山群(若松鉱山,広瀬鉱山,日野上 鉱山)であった。とりわけ,鳥取県日南町多里に存在 した若松鉱山は最後(1996年)まで稼行し,最大規 模を誇った。 Table 1には山根(2009)によりまとめられた若松 鉱山の最終的なクロム鉱石の産出量を加味して日本に おけるクロム鉱石(粗鉱)の積算総産出量をまとめ た。同表には平野(2009)により見積もられた日本 におけるクロム鉱石の総産出量である212万トンを用 いて,各鉱山,各地域におけるクロム鉱石の産出割合 を見積もった。これらに基づくと,日本のクロム鉱石 の総産出量は中国地方中部と北海道中軸帯の2地域で 日本全体の96.7%を占めることがわかる。また,中 国地方中部だけでも日本全体の約8割(79.7%)を占 め,その大部分は若松鉱山と広瀬鉱山の2鉱山の貢献 であることがわかる。特に若松鉱山は日本では最後ま で操業を続けたことにより,当時の通商産業省から委 託を受けて調査を担った金属鉱業事業団や筆者ら(荒 井,松本,山根)による日本のクロミタイト初の組織 的研究の主要ターゲットとなった。その研究におい て,ボーリング試料,坑内と地表の調査などから,構 成岩石種(ダナイト,ハルツバーガイトおよびクロミ タイト)に関する地質学的・記載岩石学的・地球化学 的な詳細が明らかにされ,ポディフォーム・クロミタ イトの成因や探査に関わる多くの成果をもたらした (例えば,Arai and Yurimoto, 1994; 松本ほか,1995a,
1995b, 2002; Matsumoto and Arai, 2001a, 2001b)。 なお,参考までに世界のクロム鉱石の産出量の変化を Fig. 7に示した。それによると,総じて南アフリカ, カザフスタン,インド,トルコが上位を占め,1994 年では世界での総産出量957万トンだったものが 2018年時点では4,310万トンとクロム鉱石の生産, つまり世界の需要は増え続けていることがわかる (USGS, 1994‒2020)。 以上のようにクロミタイトの本邦における産出は中 国地方中部と北海道の2地域でほぼ大部分を占める が,クロミタイト中のクロムスピネルのCr# (Cr/Cr +Al)からみると両者はその組成が大きく異なる (Fig. 8)。すなわち,中国地方の若松鉱山を含めた全 てのクロム鉱山のクロミタイト中のクロムスピネルの Cr#は ほ ぼ0.4‒0.6に 間 に 収 ま る(例 え ば,Arai, 1980;松本ほか,2002)のに対して,北海道中軸帯 のクロム鉱山(主要な鉱山として八田鉱山,日東鉱
Fig. 6. (Color online) A model for ultra-high pressure (UHP) chromitite via deep recycling. Modified after Arai (2013) and Arai and Miura (2016a). Low-pressure magmatic chromitite originally generated in the upper mantle has been transformed to the UHP chromitite via recycling down to the mantle transition zone. Note that the UHP chromitite is of metamorphic origin in this model. BAB, backarc basin. OP, oceanic plateau. HP, hot spot. MOR, mid-ocean ridge. See Arai (2013) for detailed discussion.
Table 1 Summary of chromite ore output from Japanese mines. Data are from Hirano (2009), Yamane (2009) and the Ministry of International Trade and Industry of Japan (1991).
Total production of chromite ore in Chugoku district
Mine (鉱山) Complex (岩体) (t) Wakamatsu (若松) Tari‒Misaka (多里‒三坂) 766,853 Hirose (広瀬) Tari‒Misaka (多里‒三坂) 618,000 Hinogami (日野上) Inazumiyama (稲積山) 100,000 Mochimaru (持丸) Mochimaru (持丸) 3,000 Onuka (小奴可) Mochimaru (持丸) 8,000 Wakasugi (若杉) Mochimaru (持丸) 3,000 Ganpi (岩比) Yagami (矢神) small/unknown Takase (高瀬) Takase (高瀬) 122,000 Yoshida (吉田) Takase (高瀬) 210 Kasamatsu (笠松) Kasamatsu (笠松) 1> Jumonji (十文字) Mimuro (三室) 2 Yosekura (寄庫) Ashidachi (足立) 4,090 Hiragatoge (平ヶ峠(神代)) Ashidachi (足立) 5,110 Nabekura (鍋倉(広瀬神代)) Ashidachi (足立) 2,500 Sasao (鍋倉鉱山(広瀬神代)) Ashidachi (足立) 2,500 Goto (後藤) Ashidachi (足立) 4,500 Kajiyama (鍛冶山) Yufune (湯舟) 1,000 Yufune (湯舟) Yufune (湯舟) small/unknown Chigami (千上) Yanomine (矢の峯) 40 Imohara (芋原) Yanomine (矢の峯) 6,950 Yanomine (矢の峯) Yanomine (矢の峯) 1,000 Sakamoto (坂本) Yanomine (矢の峯) small/unknown Kano (加納) Yanomine (矢の峯) 1,000 Hasebe (長谷部) Yanomine (矢の峯) 1,000 Niimi (新見) Niimi (新見) 10,200 Suisyoyama (水晶山) Suisyoyama (水晶山) 9,330 Syubi (首尾) Taguchi (田口) small/unknown Mizuta (水田) Ochiai‒Hokubo (落合‒北房) 20,000
Total 1,690,285
Total production of chromite ore in Hokkaido
Mine (鉱山) Complex (岩体) (t) Hatta (八田) Mukawa (鵡川) 150,000 Nitto (日東) Mukawa (鵡川) 76,270 Yamato (大和) Mukawa (鵡川) 2,300 Touto (東都) Mukawa (鵡川) 3,127 Niitaka (新高) Mukawa (鵡川) 4,600 Hattahorokami (八田幌上) Mukawa (鵡川) 100 Hobetsu (穂別) Mukawa (鵡川) 1,000 Bozu (坊主) Mukawa (鵡川) 60 Hattahachiman (八田八幡) Mukawa (鵡川) 32,000 Tomiuchi (富内) Mukawa (鵡川) 4,000 Shinnitto (新日東) Iwanai (岩内) 41,500 Naruhira (糠平) Nukabira (糠平) 15,800 Hattausyapu (八田右左府) Nukabira (糠平) 10,000 Takimi (滝見) Nukabira (糠平) 1,000 Hattadozanku (八田銅山区) Nukabira (糠平) 700 Ponzaka (ポン坂) Nukabira (糠平) 1,000 Hattaokasyunbe (八田岡春部) Nukabira (糠平) 4,000 Mitsuichiroro (三井チロロ) Nukabira (糠平) 11,000 Hattahorokanai (八田幌内) Nukabira (糠平) 1,500 Total 359,957
Total production of chromite ore from Chugoku district and Hokkaido 2,050,242(t) Total production of chromite ore in Japan except Chugoku district and Hokkaido 69,758(t) Total production of chromite ore in Japan 2,120,000(t)
山,新日東鉱山等)からのクロミタイト中のそれは Cr#でその大部分が0.6‒0.8の間を示す(通商産業省 資源エネルギー庁,1996)。すなわち,中国地方中部 のものが高アルミニウム・クロミタイト(Matsumo-to et al., 1997)であるのに対して,北海道中軸帯の ものは高クロム・クロミタイト(通商産業省資源エネ ルギー庁,1996)という特徴を示す(Fig. 8)。この ように,クロミタイトを構成するクロムスピネルの化 学的な違いから,中国地方のものは主として耐火煉瓦 用として,北海道のものは主として金属クロム用の原 料として利用されてきたのである。 さて,本邦最大のクロミタイトを産出した若松鉱山 (Fig. 9)を中心とした中国地方中部地域に分布する 超マフィック岩の調査・研究が行われたのは主に 1991年から数年であった(例えば,通商産業省資源 エネルギー庁,1992)。当時,その多くが蛇紋岩(超 マフィック岩)として一括されていた多くの岩体群に
Fig. 7. Annual changes of world chromitite (chrome ore) production (USGS, 1996‒2020). It shows a remarkable increase due to an intense of demand with time. The chromium resources are un-evenly distributed in the world, i.e. mainly in South Africa, Kazakhstan, Turkey and India. They have mined podiform chromitites in Kazakhstan and Turkey, and stratiform chromitites in South Africa and India.
Fig. 8. Compositional ranges of chromian spinels in chromitites from Japan. Chromitites are so dif-ferent in spinel chemistry (Cr#) between Hok-kaido (=Kamuikotan zone; Ministry of Interna-tional Trade and Indsutry, 1996) and Chugoku district (represented by Wakamatsu mine, Totto-ri Prefecture; Matsumoto et al., 2002).
Fig. 9. (Color online) A view of the Wakamatsu mine, Nichinan Town, Tottori Prefecture, Japan. Taken in September, 2007. It was the largest chromite mine in Japan, and had been working until 1996. See Matsumoto et al. (2002) and Yamane (2009) for more detail.
対し,ポディフォーム・クロミタイトの成因モデル (Arai and Yurimoto, 1994)に立脚してクロミタイト の存在と関係が深いダナイトの分布に注目して新たな 岩相分布図を完成させた(松本ほか,1995a)。その 結果,多里‒三坂岩体北部の若松鉱山と広瀬鉱山周辺 はダナイトの存在比率が,他岩体,他地域と比べて高 い事が明らかとなった。Fig. 10に,若松鉱山周辺の ダナイトとハルツバーガイトの岩相分布の状況とクロ ミタイト(各鉱体)の位置関係を示した(松本ほか, 2002)。この調査結果などからも,ポディフォーム・ クロミタイトが,ダナイトの存在比率が高い岩体の比 較的大規模なダナイト部中に存在していることが明ら かとなった。また,松本ほか(2002)は若松鉱山で 最大のポッド(鉱体)である7号鉱体(40 m(幅)× 250 m(長さ)×25 m(厚さ))とその他の比較的小 規模なポッドのクロムスピネルのCr#を比較して,7 号鉱体のものがCr#に富む(7号鉱体:0.52‒0.55, そ の他の多くの鉱体:0.41‒0.48)ことを見いだし,ク ロムスピネルの晶出過程の違いとポッドの規模の関係 を指摘した。なお,クロミタイトの規模にかかわら ず,クロミタイトを伴うダナイトとハルツバーガイト 中のクロムスピネルが,クロミタイトを伴わないもの と比べて高Cr#, 低V2O3含有量を示すことがわかった
(Matsumoto and Arai, 1997)。これは従来探査が難 しかったポディフォーム・クロミタイトの鉱床探査の 可能性を示唆するものとして注目される(Matsumo-to and Arai, 1997)。 7.4 形成場 ポディフォーム・クロミタイトについては,その形 成場(テクトニックな場)に関する議論がある。それ は既知のテクトニック・セッティングで形成されたポ ディフォーム・クロミタイトが余り手に入らないから である。その中で西南日本,高島(佐賀県唐津市)の アルカリ玄武岩中のクロミタイト捕獲岩は重要である (Arai and Abe, 1994; Miura and Arai, 2014)(Fig.
11a, b)。特に,ノジュラー組織を示すクロミタイト
Fig. 10. Distribution of chromitite pods projected on a horizontal plane and a north-south cross section in the Wakamatsu mine area, Japan. Modified after Matsumoto et al. (2002). Note that chro-mitite pods are always associated with dunite. The Nanago (7th) Ore body is the largest
chro-mitite pod in Japan. Lithological map of the Tari-Misaka complex (Matsumoto et al., 1995a) indicates that dunite is abundant in its northern part, where many chromite mines including the Wakamatsu mine had been working.
は,従来ポディフォーム・クロミタイトに限って普通 に見出されており注目される(Arai and Abe, 1994)。 高島のクロミタイト捕獲岩はオマーン・オフィオライ トのクロミタイトと類似していることも示された (Miura and Arai, 2014)。高島を含む北九州地域の下 には島弧性の上部マントルが分布していると考えられ ており,このノジュラー組織を有するクロミタイトも 島弧の上部マントルの一部であったと思われる(Arai and Abe, 1994; Miura and Arai, 2014)。従って,島 弧マントルにポディフォーム・クロミタイトが存在す るのは確実である。オフィオライトのポディフォー ム・クロミタイトのうちのクロムスピネルのCr#が高 い(0.7‒0.9)ものは島弧マグマとの成因的関係が予 想され,島弧的環境で形成されたものであろう(例え ば,Arai and Yurimoto, 1995)。
また,現在の海洋底からもポディフォーム・クロミ タイトが得られている(Arai and Matsukage, 1996, 1998; Matsukage and Arai, 1998; Abe, 2011)(Fig. 11c, d)。これらはいずれも小規模であるが,オフィ オライトやかんらん岩体中のポディフォーム・クロミ タイトと共通の性質を有する(Arai and Matsukage, 1998)。また,多くのポディフォーム・クロミタイト を含むオフィオライトは島弧性であることから,ポ ディフォーム・クロミタイトは基本的に海嶺では形成 されないという議論が多い(例えば,Rollinson and Adetunji, 2013)。しかし,海嶺下がクロミタイト形 成に不利であるという理由はなく,海底に大規模なク ロミタイトが見出されていないのは今まで調査された 領域が極めて限られているためであろう(Arai and Miura, 2015, 2016b)。現在に至るまで,海洋底の深 部岩石は低速拡大軸のセグメント境界からのものが圧 倒的に多く,データが偏在している。低速拡大軸のセ グメント中心付近や高速拡大軸の深部岩石は十分な調 査がなされていないが,そこにこそ大規模なクロミタ イ ト が 存 在 す る 可 能 性 が あ る(Arai and Miura, 2015)。Rollinson and Adetunji (2013)は海洋起源 のオフィオライトにはクロミタイトが見出されていな いことを強調,重要視しているが, 典型的な海嶺性の オフィオライト(Dilek and Furnes, 2011),例えば マクォーリー・オフィオライト(Macquarie ophiol-ite)のマントル部は極めて規模が小さく(Varne et al., 2000),そこにクロミタイトがないからといって 海嶺では形成されないという議論はとても成り立たな い(Arai and Miura, 2016b)。元来,マントルかんら ん岩中のクロミタイトの存在度はそれほど高くない し,偏在度も高いからである。ポディフォーム・クロ
Fig. 11. (Color online) Chromitites with unquestionable origin of tectonic setting: chromitites from subarc mantle (a, b) and abyssal chromitites (c, d). (a) Massive chromitite xenolith in alkali basalt from Takashima, Japan. Coin is 2.2 cm across. (b) Xenolith of banded dunite-chromitite in alkali basalt from Takashima, Japan. Coin is 2.2 cm across. See Arai and Abe (1994) and Miura and Arai (2014). (c) Disseminated chromitite in serpentinized dunite drilled from the Mid-Atlantic Ridge (Sample 209-1271A-4R-2, Peace 2, 38‒47 cm, ODP Leg 209; Abe, 1991; Kelemen et al., 2004). (d) Chromitite mini-pod in serpentinized dunite drilled from Hess Deep, East Pacific Rise (Arai and Matsukage, 1996, 1998; Matsukage and Arai, 1998). Sample No. 147-895E-6R-2-5E, ODP Leg 147.
ミタイトのうちクロムスピネルのCr#が比較的低い (<0.6)ものには海嶺で形成された可能性がある (Arai and Miura, 2015)(Fig. 12)。
多くのオフィオライトのマントル部はしばしば複数の テクトニック場を記憶している(例えば,Arai et al., 2006; Uysal et al., 2009)。すなわち,海嶺で形成され たリソスフェアが後の沈み込みにより島弧環境で改変 されることが起きる。これはオフィオライト形成(海洋 リソスフェアの上昇・定置)のために必須であると考え られる(Arai et al., 2006)。よく研究されているオマー ン・オフィオライトでは,海嶺過程で調和性クロミタイ トが形成され,島弧過程で非調和性クロミタイトが形 成されたと解釈されている(Ahmed and Arai, 2002; Miura et al., 2012, 2014; Miura and Arai, 2014)。
8. 新たな成因論の展開
クロミタイトの成因論の新たな展開のためには,ク ロミタイトに普遍的に見出せるのに未だに実体が不明 である上述のクロムスピネル中の包有物(Fig. 3a, b) の成因を明らかにする必要がある。この種の包有物は 1960年代より層状クロミタイト中に認識されていた (McDonald, 1965)が,これをトラップされた花崗岩 質メルトとしたのはIrvine (1975)である。花崗岩質 マグマが未分化(に近い)マントル由来の玄武岩質マ グマと混合すると,確かにクロムスピネル成分に過飽 和 な マ グ マ が 生 成 さ れ 得 る(Irvine, 1977)。 後 に Spandler et al. (2005)が包有物の均質化溶融実験で 玄武岩+花崗岩メルトの混合トレンドを確認したとし た。ただし,変化図で見る限り混合トレンドらしきも のは認められるものの,通常の花崗岩マグマが関与し たとは思えない(Fig. 13)。ポディフォーム・クロミ タイトでは,オマーン・オフィオライトのものが Borisova et al. (2012), Rollinson et al. (2018)およ びYao et al. (2020)により同様に均質化溶融実験が 行われ詳細に研究されている(Fig. 13)。それによる と包有物の組成はスティルウォーター貫入岩体のもの (Spandler et al., 2005)とかなり異なるが,やはり変 化が大きい。この溶融均質化された包有物はトラップ 時のメルト組成をそのまま表していないものの情報と して重要であるが,まだ実験例が少ない(Fig. 13)。 注目すべきは他の岩石のクロムスピネル中の類似し た包有物の成因である。この包有物は,現在の海洋底 から得られるトロクトライト,ダナイト,ガブロなど の深部由来岩にも認められることが知られている (Arai and Matsukage, 1996; Tamura et al., 2008,2014, 2016)。これらの岩石はマントル・ハルツバー ガイトが未分化MORBと反応してできたものと解釈 される(Arai and Matsukage, 1996)。この過程の重 要なポイントは直方輝石の分解,すなわち直方輝石+ マグマ1→かんらん石+マグマ2のような反応である (Arai and Matsukage, 1996)。直方輝石がマグマと 反応して分解する時,直方輝石の周囲の二次マグマは 極めて不均質になる(濃度勾配ができる)ことが知ら れ て い る(Shaw et al., 1998; Shaw, 1999)。 ま た, 直方輝石は通常のマグマに比べてCr/Al比が高く,こ の二次マグマはクロムに比較的富むことが期待され (Arai and Abe, 1995; Arai and Miura, 2016a),クロ ムスピネルに過飽和であることが予想される。このク ロムスピネルが不均質なマグマをトラップする可能性 がある。したがって,ポディフォーム・クロミタイト のクロムスピネル中の包有物は,マントルかんらん岩 (特にハルツバーガイト)‒マグマ反応の最前線で形成 されたのではないだろうか(Fig. 14)? また,この クロムスピネル過飽和マグマは直方輝石と反応関係に
Fig. 12. (Color online) A model for chromitite formation at and around mid-ocean ridges. Modified from Arai and Miura (2015). Chromitites possibly form especially along fast-spreading ridges as well as at the segment center of slow-spreading ridges. Our research has been biased to the seg-ment boundaries of slow-spreading ridges, where chromitites are expected to be sparse. Even UHP chromitites may emerge at the mid-ocean ridge if we accept the model of Fig. 6 above. See Arai and Miura (2015, 2016b) for more detail.
あり,さらに移動し直方輝石に接すると反応を続け る。これによりトラップされるマグマの組成の多様性 が増すであろう。 それでは前述の層状クロミタイトのクロムスピネル 中の同様の包有物の成因はどう考えたら良いのであろ うか?上述のように,包有物の化学組成(Spandler et al., 2005)は,この元となったマグマが花崗岩と玄 武岩質マグマの混合では説明できないことを示す (Fig. 13)。包有物の組成は,層状クロミタイトのも の(スティルウォーター貫入岩体;Spandler et al., 2005)とオマーン・オフィオライトのもの(Boriso-va et al., 2012; Rollinson et al., 2018; Yao et al., 2020)で異なるが,データが少なく層状クロミタイ トとポディフォーム・クロミタイトの間で系統的な差 があるかどうかは不明である(Fig. 13)。そこで,前 者のクロムスピネルおよび包有物(を作ったメルト) はマントル起源である可能性を指摘したい。層状貫入 岩体を作ったマグマはマントル起源であり,マントル を上昇中に壁岩のかんらん岩と反応し,マントル中に クロミタイト(=ポディフォーム・クロミタイト)を 生成した(Fig. 15)。上昇するマグマは外来結晶的に メルト包有物を含んだクロムスピネルを運び上げた。 こ の モ デ ル はEales (2000), Mondal and Mathez (2007)の,ブッシュフェルト貫入岩体を作ったマグ
マがクロムスピネルを既に含んでいたという解釈と整 合的である。
ただし,Fig. 4bのように,層状クロミタイトとポ ディフォーム・クロミタイトでは系統的にクロムスピ
Fig. 13. Bulk chemical compositions of spinel-hosted poly-mineralic inclusions in chromitites. They have been obtained by homogenized glass by fusion (Spandler et al., 2005; Borisova et al., 2012; Rollinson et al., 2018; Yao et al., 2020). Note that the inclusions in the stratiform chro-mitite of the Stillwater complex cannot be formed by mixing of granitic magmas and any possi-ble source magmas expected for the complex (McCallum, 1996) despite the argument of Spandler et al. (2005). See text for more discussion. Asp, aspidolite. Prg, pargasite. Opx, or-thopyroxene.
ネルの組成(3価の陽イオン比)が異なる。これには クロムスピネル粒子の運搬中∼マグマ溜り滞留中にお いて,分化しつつあるマグマから組成の改変を受けた のであろう。また,層状クロミタイトのすべてのクロ ムスピネル粒子がマントルでポディフォーム・クロミ タイトを形成しているわけではない。マグマ溜りで晶 出したin-situのクロムスピネル粒子も存在するであ ろう。さらに,現在地表に露出している層状クロミタ イトを含む層状貫入岩体は多くが始生代∼原生代と古 く,多くが顕生代である現在露出しているポディ フォーム・クロミタイトとは直接には繋がらないこと に注意が必要である。古い時代の層状クロミタイトを 形成したマグマがマントル中を上昇する時に,かんら ん岩と反応し,ポディフォーム・クロミタイトを作っ ていた可能性は高い(Arai and Ahmed, 2018)。ただ し,それらは現在地表には露出していない。
9. 熱水性クロミタイト:
クロミタイト形成における水の役割
熱水性クロミタイトおよびポディフォーム・クロミ タイト形成に対する水の役割については,最近の Arai et al. (2020)に詳しく論じられている。1930年 頃からクロミタイトの形成には水が重要な役割を果た すのではないかとする議論があった。それはクロミタ イト(特にポディフォームのもの)および周辺の岩石 のみが選択的に加水され変質しているからである。し かしこの解釈は誤りで,選択的な変質(特に蛇紋岩 化)は上述のかんらん石がサブソリダスで二次的にマ グネシウムに富むようになったためである。言い換え ると,選択的な変質はクロムスピネルの濃集の結果な のである(荒井,1978; Arai et al., 2020)。また,ク ロミタイト中のクロムスピネル中の包有部(メルト起 源)が水を含むことから,クロミタイト形成には水にFig. 14. (Color online) Possible formation processes for the spinel-hosted melt inclusions within the mantle. See also Fig. 5. The heterogeneity of the trapped melts (Fig. 13) is possibly due to a strong chemical gradient (heterogeneity) of melts formed on reaction decomposition of mantle orthopyroxenes (Shaw, 1999; Tamura et al., 2014, 2016). The spinel (chromite)-oversaturated melt (C) formed by mixing of melt A, which is primitive and olivine-spinel saturated, and melt B, formed by incongruent melting of orthopyroxene (Opx) is still reactive with mantle orthopy-roxene and promotes further reaction when moving upward. This will accelerate the complexi-ty of chemical compositions of melts trapped by chromian spinel. Note that the spinel is repre-sented by chromite here.
富むマグマあるいは流体の関与が必須であるとの主張 もある(Johan et al., 1983, 2017; Matveev and Ball-haus, 2002)が,上述のようにこれも根拠が薄い。
北部オマーン・オフィオライトのマントル最上部∼ 下部地殻部で,確実に高温流体より晶出したと考えら
れるクロムスピネルが見出された(Arai and Akiza-wa, 2014; Akizawa and Arai, 2014; Akizawa et al., 2016)(Fig. 16)。母岩はディオプシダイトと呼ばれ る(Python et al., 2007)熱水性のディプサイドに富 む岩石であるが,クロムスピネルはしばしば濃集体を 作る(Arai et al., 2020)。これはまさに熱水性クロミ タイト(hydrothermal chromitite)と呼ぶべきもの で,クロムスピネルの化学組成(Cr#=0.7‒0.8)は通 常のポディフォーム・クロミタイトのものと同様であ るものの,記載岩石学的性質は極めて特異である。す なわち,クロムスピネル結晶はしばしば骸晶状であ り,ウバロバイト(またはグロシュラー)などのCa‒ Al珪酸塩を伴う。 多くのポディフォーム・クロミタイトは熱水起源で はないものの,熱水によってクロムなどの元素は移動 し,しばしばクロミタイトとして濃集することは可能 である。マントル∼下部地殻を循環する水としては海 水またはスラブ流体が考えられる。両者とも地殻,マ ントルを通過し,クロム(塩素と錯体を作る)などの 元素を取り込み移動し,減圧,冷却などでクロムスピ ネルを晶出させる。従って,マントル・ウェッジ中で はクロムの再分配が行われる。そして,小規模ながら クロミタイトが形成されうる。ただし珪酸塩マトリッ クスは,かんらん石が卓越する通常のポディフォー ム・クロミタイトと異なり,Ca‒Al珪酸塩に富むであ ろう。もちろん,Nakamura and Kushiro (1974)や Mibe et al. (2002)などの実験結果を見ると,Ca‒Al 珪酸塩成分に乏しい流体がマントル・ウェッジ中を活 動し,通常のポディフォーム・クロミタイトと同様の 性質を持つ熱水クロミタイトが形成される可能性は否 定できない。
Fig. 16. (Color online) Hydrothermal chromitites found in Wadi Fizh, northern Oman ophiolite. See Arai et al. (2020) for detailed descriptions. (a) Hand specimen. Note the fine-grained chro-mitite filling the interstice of pale green coarse hydrothermal diopside (Python et al., 2007). (b) Photomicrograph. Chromian spinel is fine and irregular in shape (Arai and Akizawa,
2014; Akizawa and Arai, 2014). Plane-polarized light. Fig. 15. (Color online) Possible genetic linkage between
the podiform chromitites in the mantle and the stratiform chromitites in the crust. The magma that produced the stratiform chromitite possibly had precipitated another chromitite of podiform type during upward movement. The spinel-host-ed melt inclusions were possibly generatspinel-host-ed in the mantle stage via decomposition of orthopy-roxene.