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悪性腫瘍の骨病変に伴う骨痛とその発生機序

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悪性腫瘍の骨病変に伴う骨痛とその発生機序

日浅 雅博

キーワード:骨痛,酸,V-ATPase,ASIC3,TRPV1

Pathogenesis of Cancer-associated Bone Pain

Masahiro HIASA

Abstract:Bone pain is a most common and devastating complication associated with bone diseases such as osteoporosis, bone metastasis and rheumatoid arthritis. Thus, control of bone pain is a major goal in the management of these bone diseases. In bone destructive cancer, opioids are first-line therapy but palliative, unsatisfactory and inadequate. Inhibitors of osteoclasts including bisphosphonates and denosumab incompletely reduce bone pain, indicating that not only osteoclast-dependent but also osteoclast-inosteoclast-dependent mechanisms are operant. In this review, we introduce the recent study including ours, targeting the cancer cell and osteoclast created-acidic extracellular microenvironment for Cancer-associated Bone Pain (CABP).

徳島大学病院矯正歯科

Tokushima University Hospital, Department of Orthodontics

Review

は じ め に

 乳がんや肺がんといった固形がんや,形質細胞の悪性 腫瘍である多発性骨髄腫は,骨に高頻度で転移し骨病変 を形成する。これらのがんは骨微小環境の恒常性を崩壊 させ,病的骨折や高カルシウム血症,脊椎圧迫といった 骨関連事象を引き起こすが,もっとも多い骨関連事象が 骨の痛み“骨痛”である1)  がんの骨転移に伴う骨痛は,実に 80 %以上の患者が 訴え,腰椎や骨盤,大腿骨のような力学的負荷の強い部 位に好発する。しかし,がんの大きさや転移部位,骨病 変の程度と骨痛の重症度は必ずしも一致していない。ま た,がん組織の表現系が同じであっても,骨痛の発生頻 度は異なっており,骨痛の発生メカニズムがいかに複雑 であるかが窺い知れる2)  がん性骨痛は,1日に 12 時間以上続く持続痛と,一 過性の痛みの増悪である突出痛が混在する。持続痛は既 存の鎮痛薬や外部放射線治療で比較的良好にコントロー ルすることが可能であるが,突出痛に対してはその効果 は限定的で難治である2)。特に,モルヒネによる疼痛緩 和効果は,がん性疼痛モデルでは炎症性疼痛モデルの 10 倍以上の投与量を要するため3),重篤な副作用の観点 からも,骨痛発生のメカニズムに基づく治療法が望まれ る。  本稿では,がん性骨痛の病態を司る骨に分布する感覚 神経の特徴,破骨細胞や腫瘍組織によって形成される骨 微小環境の酸性化,また骨の感覚神経が酸性環境を受容 し,がん性骨痛を誘発するメカニズムについて筆者らが 得た知見を交えながら紹介する。

骨における神経分布

 局所の有害な熱刺激や機械刺激,化学物質などの侵 害刺激や組織損傷は感覚神経の侵害受容器(nociceptor) によって感知される。侵害受容器には機械受容器とポリ モーダル受容器が存在し,前者は侵害性機械刺激に応答

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するのに対し,後者は機械刺激,熱刺激,化学刺激のい ずれの侵害刺激に対しても応答する。侵害受容器は侵害 刺激の入力を電気信号に変換し,一次求心性線維に伝達 する。侵害受容神経の一次求心性線維は,直径や髄鞘の 有無,伝達速度によりAδ 線維と C 線維に大別される。 Aδ 線維は有髄で伝達速度が速く NF200+,TrkA-または NF200+,TrkA+,CGRP+であり,主に機械受容器からの 刺激を伝えるのに対して,C 線維は無髄で伝達速度が遅 くCGRP+,TrkA+であり,ポリモーダル受容器からの刺 激を伝達する4, 5)。これらの一次求心性線維は脊髄後根 神経節(DRG)から発生し,その感覚情報は脊髄後角 の二次求心性線維を経て脊髄を上行し大脳皮質感覚野に 投射され,痛みとして認識される。骨組織にもこれらの 侵害受容神経は外骨膜に分布しており,がん性骨痛はが ん細胞が骨髄で増大することや,骨溶解による外骨膜へ の物理的刺激で誘導されると考えられてきた。  しかし,がん細胞が骨髄内のみにとどまる患者であっ ても,がん性骨痛を訴えることがしばしばあり,骨の外 骨膜以外での侵害受容神経の存在が示唆される。これを 裏付けるように,近年のイメージング技術の進歩によっ て,侵害受容神経が石灰化骨や骨髄にも密に分布するこ とが確認されており,Mach らによって総神経線維数は 外骨膜よりも骨基質や骨髄に多いことが明らかになっ た6)。このことから骨痛は骨組織のいずれの部位からも 生じると考えられる。

骨痛のメカニズム

 骨痛の病態形成や発生に関与する因子について以下に 述べる(表1)。 1.がん細胞による物理的刺激  がんの骨転移は骨組織を脆弱化させ,海綿骨の微小骨 折を生じる。また,がん組織の増大は骨の膨張に伴い外 骨膜を伸展し,骨膜上の侵害受容神経を物理的に刺激す る。加えて,がん細胞は神経を直接損傷,破壊し神経障 害を引き起こす。これらのがん細胞による物理的刺激 は,骨痛を誘導する原因となる2) 2.がんによる神経組織の変化  骨に転移したがん細胞は神経を直接損傷,破壊するだ けでなく,骨に分布する感覚神経を再構成し,病的神 経発芽(sprouting)を誘導する(図1)。Sprouting に伴 い感覚神経上の侵害受容器の発現は増加を示す。その ため,がん細胞やその周囲組織から放出される発痛物 質に対し,がん組織中の感覚神経が過敏に反応する原 因と考えられている7)。特に,がん細胞や骨髄間質細胞 から産生される神経成長因子NGF は,その中和抗体が sprouting やがん性骨痛を減少させることから,sprouting の中心的因子と考えられている8) 3.腫瘍に産生されるサイトカインの刺激  腫瘍組織にはがん細胞の他に,がんの進行に伴う組織 損傷のためにマクロファージやT 細胞などの免疫細胞 の浸潤や血管新生に伴う血管内皮細胞がみられる。これ らの細胞が産生する炎症性サイトカインやケモカイン, サブスタンスP,CGRP,プロスタグランジン,アデノ シン三リン酸(ATP)などの発痛物質は末梢の感覚神経 を興奮させ,がん性骨痛を引き起こすと考えられてい る9, 10)。 表1 がん性骨痛を誘導する因子(文献 10 より改変) 図1 がん細胞移植に伴う骨の神経のsprouting CD138+ JJN3 骨髄腫細胞を脛骨骨髄内に移植し, 3週後に蛍光免疫染色にて骨内部のCGRP+感覚 神経(矢印)を観察した。コントロールに比較 し,JJN3担がんマウスでは CGRP+感覚神経は伸 長しsprouting と神経腫様の形態を示した。赤: CD138,緑:CGRP,青:DAPI(筆者提供)

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4.骨の酸性環境

 酸は発痛物質の一つであり,酸感受性受容体を介して 直接感覚神経を興奮させ痛みを誘導する。骨微小環境は 硬組織に囲まれるため,他の組織に比較し細胞密度が高 く低酸素状態である11)。低酸素状態は骨を構成する細胞

にhypoxia-inducible transcription factor-1 を誘導し,細胞 膜のプロトンや乳酸トランスポーターの発現や機能を亢 進する12)。そのため,骨微小環境は酸性化しやすい環境 と考えられる。  破骨細胞は,骨芽細胞や間質細胞の産生するM-CSF とRANKL により単球/マクロファージ系の細胞から分 化する骨吸収の中心を担う細胞である。がんの転移した 骨では,がん細胞自身の増殖スペースを確保するため に,破骨細胞数の増加と活性化ががん細胞の産生する因 子によって誘導される。骨吸収阻害薬ビスホスホネート やデノスマブは多発性骨髄腫や固形がん患者のがん性骨 痛を優位に緩和することが知られる13, 14)。また,Honore らはRANKL の囮受容体である OPG が,がん性骨痛を 緩和することを実験動物モデルで証明しており15),破骨 細胞による骨吸収ががん性骨痛の重要な因子であること が示唆される。  破骨細胞による骨吸収は,a3 V-H+-ATPase によって プロトンを骨吸収窩に放出し,骨吸収窩のpH を4.5ま で低下させることで生じる。非選択的V-ATPase 阻害薬 bafiromycin A1は破骨細胞からのプロトン放出を抑制し, 炎症性骨痛を緩和することが報告されている16)。このこ とは,骨吸収に伴い破骨細胞からa3 V-H+-ATPase を介 して放出されるプロトンが,酸感受性感覚神経を刺激す ることで骨痛に関与することを示唆する。  ところが骨吸収阻害薬での骨痛の緩和が見られない例 もあり,破骨細胞のみががん性骨痛の原因細胞ではな い可能性が示唆される。ほとんどのがん細胞はWarburg effect によって嫌気環境のみならず好気環境でも,解糖 系に偏ったグルコース代謝がみられる。そのため,多量 の乳酸やプロトンが産生されるが,がん細胞自身の生存 の為に乳酸やプロトンはトランスポーターを通じて細胞 外へと排出され,腫瘍の外部環境はpH6.7−7.0に酸性化 する10)。我々はCD138+多発性骨髄腫細胞が破骨細胞の みならずa3 V-H+-ATPase を強く発現していることを見 出し,骨髄腫脛骨移植マウスモデルにbafiromycin A1を 投与すると,骨髄腫移植骨の酸性環境の形成を阻害する ことを示すとともに,がん性骨痛が緩和することを明ら かとした(図2)17)。これらの結果,がんによる破骨細 胞やがん細胞によるa3 V-H+-ATPase を介した骨髄酸環 境の形成ががん性骨痛の一つの分子機序と示唆される。  一方,MCT1 と MCT4 は Warburg effect における乳酸 を細胞内外双方向に通過させる主要なプロトンと乳酸の 共輸送体であり,MCT の発現は乳がん,腎臓がん,頭 頸部がん,骨髄腫で亢進がみられる。最近,MCT4 に よる頭頸部がんの増大やがん性骨痛への関与が報告さ れ18),我々の報告とともにがん細胞による酸環境の形成 のがん性骨痛発症での重要性を示唆している。多数ある 乳酸やプロトンのトランスポーターのいずれが,がんの 種類や病態で最も効率の良いがん性骨痛の治療標的であ るかは今後の検討が待たれる。

骨痛に関与する酸感受性受容体

 破骨細胞やがん細胞からのプロトンや乳酸によって形 成された酸環境は感覚神経に発現する酸感受性侵害受 容器を活性化し,痛みを生じる。酸が活性化する代表 的な侵害受容器であるacid-sensing ion channel 3 (ASIC3) とtransient receptor potential channel-vanilloid subfamily member 1 (TRPV1)のがん性骨痛への関与について以下 に解説する。

図2 がん細胞移植による骨の酸性化とV-ATPase 阻害薬 bafilomycin A1の効果

JJN3骨髄腫細胞を脛骨に移植し,アクリジンオレンジ pH 蛍光プローブで酸性部を標 識した。コントロールに比較し(左),JJN3担がんマウスの脛骨でアクリジンオレン ジの強い集積を認めたが(中),bafilomycin A1を投与するとアクリジンオレンジの集 積は減弱した(右)。(筆者提供)

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1.TRPV1  TRPV1 は 838 アミノ酸からなる分子量 95kDa の非選 択的カチオンチャネルであり,主にC 線維に発現がみ られ,酸だけでなく温度刺激によっても活性化する19)  我々は,JJN3 骨髄腫移植モデルで CGRP+感覚神経 のTRPV1発現の上昇を見出しており,TRPV1アンタゴ ニストSB366791 や I-RTX の投与でがん性骨痛と感覚 神経の活性化が減弱することを確認した17)。若林らも

TRPV1 KO に Lewis lung cancer 細胞を移植したマウスで の疼痛行動の低下を報告しており,TRPV1の抑制が骨 痛緩和治療となりうることが示唆される20)。臨床応用に 向けて,TRPV1選択的アンタゴニストはがん性骨痛の 鎮痛薬として現在,開発が進められている21, 22)。 2.ASIC3  ASIC3 は 531 アミノ酸からなる分子量 59kDa の酸感 受性イオンチャネルファミリーの一つである。ASIC3 は感覚器を含む神経系に広く発現し,比較的軽い酸性 (pH6.7−7.3)で活性化し,酸による痛みを伝達する。  ASIC3のがん性骨痛への役割については,我々や Qiu らが感覚神経のASIC3発現ががん性骨痛モデルで上昇 することを報告している17, 23)。我々の検討では,DRG 由来感覚神経は,酸処理で興奮マーカーである細胞 内Ca2+流入やCREB,ERK1/2 のリン酸化を認めるが, ASIC3 選択的阻害薬 APETx2 はこれを阻害した。さら にJJN3 ヒト骨髄腫細胞脛骨移植マウスモデルの腫瘍 移植脛骨は酸性を示すが,抹消でのCGRP+感覚神経 はsprouting とともに ASIC3 発現上昇を認めた。また, JJN3脛骨移植マウスへの APETx2投与は,がん性骨痛と 神経興奮を抑制した。これらの結果は,骨転移がんは酸 環境を形成するとともに,感覚神経の再構築とASIC3 発現上昇を介して,酸に対し過敏な反応を示すことで, がん性骨痛を誘導することを示唆する(図3)。

お わ り に

 痛みのコントロールは,疾患治療の根幹をなすもので あるのは間違いない。しかし,痛みは患者の主観的体験 であり,分子メカニズムを明らかにする上での最適な客 観評価法は確立されていない。本稿では,がん性骨痛に 関し,がんの酸性環境を中心に可能な限り分子メカニズ ムに基づき,これまでの報告や筆者らの研究について述 べた。これらの知見をもとに,将来新たな痛みの客観的 指標や分子標的などが明らかとなれば,よりよい疼痛緩 和医療が提供できるものと考えている。

謝   辞

 本稿のがん酸性環境と骨痛の研究は,著者がインディ アナ大学留学中の成果であり,終始ご指導賜りましたイ ンディアナ大学医学部血液・腫瘍学分野G. D. Roodman 教授,米田俊之教授に厚く御礼申し上げます。

文   献

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参照

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