ありがとうの気持ちを循環させる「能美のあんやと券」
Community Currency Circulating People’s Gratitude
A case of Nomi-no-Anyato Ken
奈良井 伸子
1小林 重人
2Nobuko Narai
1and Shigeto Kobayashi
2 1能美のあんやと券の会
1Association of Nomi-no-Anyato Ken
2
北陸先端科学技術大学院大学
2
Japan Advanced Institute of Science and Technology
Abstract: Community currencies can be used in only certain areas. We have issued a community currency that circulates feelings of gratitude in Nomi, Ishikawa Prefecture Since 2015. The introduction of the currency promoted not only people's help but also new connections and collaboration. We try to do new approach using SNS to increase the use of currency among individuals.
はじまり
「お金」とは何だろう。元々は物を交換するための媒 介物であったはずなのに、今ではそれ自体を手に入れる ことが生きる「目的」になってしまっているかのようで ある。お金を介さなくても助け合う関係性を、生きてい く手段を、自分たちの住む地域の中で作ることができな いだろうか。そのような想いを抱く能美市民が出会った のが、「能美のあんやと券1」と呼ばれる地域通貨の始ま りであった。能美のあんやと券
これまでの経緯
「能美のあんやと券」は石川県能美市を中心とした地域 で使用することのできる地域通貨である。地域通貨とは 「コミュニティの手によって作られる、特定の地域でしか 流通しない、利子のつかないお金」である。法定通貨と異 なり地域通貨は地域外に流出することがないことから、地 域通貨を使用する人々の間で、相互に支え合う信頼と協同 の関係を築くことができると言われている[1]。石川県能 美市で毎年開催されている「能美のSACHI まつり」の関 係者が集まる場において地域通貨の活用について言及が あったことを契機に地域通貨に興味を持つ人たちが集ま り、2015 年 1 月に「地域通貨研究会」が発足した。 研究会では、法定通貨と地域通貨の流通を体験するゲー 1 「あんやと」とは石川の言葉で「ありがとう」という 意味である。 ムの開催や地域通貨の法的根拠と流通事情の勉強などを 経て、2015 年 5 月に「能美の SACHI まつり」での地域通 貨の流通に向けた検討が始まった。 研究会では「日本円という従来の貨幣価値に置き換える ことのできないものにしたい」という声が多く、流通単位 を「1 あんやと」とし、あえて法定通貨との互換性を持た ないように取り決めた。これは既存の経済システムとは異 なる価値観を表現するための手段として能美市に地域通 貨を導入しようと考えたためである。この方針は流通開始 から3 年が経過した現在でも守られているルールであり、 あんやと券の重要な価値規範となっている。 2015 年の実験的試行の後、2016 年には能美の SACHI ま つり以外でも使えるようになった。2017 年には流通範囲 を能美市外の周辺地域に拡大し、2018 年からは Facebook グループを用いた個人間での利用を促進する工夫が始ま ろうとしている。発行目的と概要
地域通貨の流通設計を検討する中で、市内の地域団体が 主催する能美の SACHI まつりのスタッフが足りずに運営 に苦労しているという問題があることを知る。そこで、同 まつりのボランティアスタッフを集めるためのツールと して導入されたのが当初のあんやと券の目的である。現在 では当該まつりに限定せず、能美市近隣におけるあらゆる イベントや個人間の助け合いに使用することが可能とな っている。あんやと券は能美市内で開催される特定のイベントで お手伝いをすると、そのお礼として1 枚もらうことができ る。受け取ったあんやと券は、「あんやとの品」と呼ばれ る様々な非売品と交換するか、別のお手伝いのお礼として 他の人に手渡すこともできる。あんやとの品は、イベント を開催する地域団体から提供され、地元作家のアート作品、 名産品の柚子といった地元ならでは品から、動物園や九谷 焼資料館の無料入場券といったサービスも受けることが できる。イベントでお手伝いを募集する地域団体はあんや との品を提供するかわりに、あんやと券を受け取ることが でき、受け取ったあんやと券は当該団体が開催するイベン トを手伝ってくれた人へ渡ることとなる2。 図1 あんやと券の表面(上段)と裏面(下段)