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ありがとうの気持ちを循環させる「能美のあんやと券」

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Academic year: 2021

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ありがとうの気持ちを循環させる「能美のあんやと券」

Community Currency Circulating People’s Gratitude

A case of Nomi-no-Anyato Ken

奈良井 伸子

1

小林 重人

2

Nobuko Narai

1

and Shigeto Kobayashi

2 1

能美のあんやと券の会

1

Association of Nomi-no-Anyato Ken

2

北陸先端科学技術大学院大学

2

Japan Advanced Institute of Science and Technology

Abstract: Community currencies can be used in only certain areas. We have issued a community currency that circulates feelings of gratitude in Nomi, Ishikawa Prefecture Since 2015. The introduction of the currency promoted not only people's help but also new connections and collaboration. We try to do new approach using SNS to increase the use of currency among individuals.

はじまり

「お金」とは何だろう。元々は物を交換するための媒 介物であったはずなのに、今ではそれ自体を手に入れる ことが生きる「目的」になってしまっているかのようで ある。お金を介さなくても助け合う関係性を、生きてい く手段を、自分たちの住む地域の中で作ることができな いだろうか。そのような想いを抱く能美市民が出会った のが、「能美のあんやと券1」と呼ばれる地域通貨の始ま りであった。

能美のあんやと券

これまでの経緯

「能美のあんやと券」は石川県能美市を中心とした地域 で使用することのできる地域通貨である。地域通貨とは 「コミュニティの手によって作られる、特定の地域でしか 流通しない、利子のつかないお金」である。法定通貨と異 なり地域通貨は地域外に流出することがないことから、地 域通貨を使用する人々の間で、相互に支え合う信頼と協同 の関係を築くことができると言われている[1]。石川県能 美市で毎年開催されている「能美のSACHI まつり」の関 係者が集まる場において地域通貨の活用について言及が あったことを契機に地域通貨に興味を持つ人たちが集ま り、2015 年 1 月に「地域通貨研究会」が発足した。 研究会では、法定通貨と地域通貨の流通を体験するゲー 1 「あんやと」とは石川の言葉で「ありがとう」という 意味である。 ムの開催や地域通貨の法的根拠と流通事情の勉強などを 経て、2015 年 5 月に「能美の SACHI まつり」での地域通 貨の流通に向けた検討が始まった。 研究会では「日本円という従来の貨幣価値に置き換える ことのできないものにしたい」という声が多く、流通単位 を「1 あんやと」とし、あえて法定通貨との互換性を持た ないように取り決めた。これは既存の経済システムとは異 なる価値観を表現するための手段として能美市に地域通 貨を導入しようと考えたためである。この方針は流通開始 から3 年が経過した現在でも守られているルールであり、 あんやと券の重要な価値規範となっている。 2015 年の実験的試行の後、2016 年には能美の SACHI ま つり以外でも使えるようになった。2017 年には流通範囲 を能美市外の周辺地域に拡大し、2018 年からは Facebook グループを用いた個人間での利用を促進する工夫が始ま ろうとしている。

発行目的と概要

地域通貨の流通設計を検討する中で、市内の地域団体が 主催する能美の SACHI まつりのスタッフが足りずに運営 に苦労しているという問題があることを知る。そこで、同 まつりのボランティアスタッフを集めるためのツールと して導入されたのが当初のあんやと券の目的である。現在 では当該まつりに限定せず、能美市近隣におけるあらゆる イベントや個人間の助け合いに使用することが可能とな っている。

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あんやと券は能美市内で開催される特定のイベントで お手伝いをすると、そのお礼として1 枚もらうことができ る。受け取ったあんやと券は、「あんやとの品」と呼ばれ る様々な非売品と交換するか、別のお手伝いのお礼として 他の人に手渡すこともできる。あんやとの品は、イベント を開催する地域団体から提供され、地元作家のアート作品、 名産品の柚子といった地元ならでは品から、動物園や九谷 焼資料館の無料入場券といったサービスも受けることが できる。イベントでお手伝いを募集する地域団体はあんや との品を提供するかわりに、あんやと券を受け取ることが でき、受け取ったあんやと券は当該団体が開催するイベン トを手伝ってくれた人へ渡ることとなる21 あんやと券の表面(上段)と裏面(下段)

流通実績

2015 年から 2017 年までの発行枚数とあんやとの品への 交換枚数の推移を図2 に示した。2016 年に大幅に発行数 を減らしたのはこの年からあんやと券が「能美の SACHI あんやと券」の枠組みから外れたためである。そのため発 行枚数は大幅に低下したが、交換率は38.4%と 2015 年の 交換率よりも高くなっている。2017 年からは対象地域を 能美市近郊に広げたため、発行枚数は再び増加したが、交 換率はこれまでで最も低い26.8%となった。ただし、この 数字は2017 年からあんやと券の裏面にメッセージ欄を設 けたことが少なからず影響していると考えられる。それは お手伝いをお願いした人からお礼のメッセージが書かれ 2 あんやと券の流通の詳細な仕組みについては[2]が詳し い。 ることによって、そのメッセージが書かれたあんやと券を 手放したくないという心理が働いているためである。メッ セージ欄の設置によって、より「ありがとう」という気持 ちを伝えやすくなったが、流通の促進という意味において は多少の負の影響が出ていると考えられる。 図2 あんやと券の発行枚数と交換枚数 発行枚数の上下はあるものの、その成果としてお手伝い を依頼する地域団体にとっては、これまで何のお礼もでき なかったボランティア活動でも、あんやと券があることで お手伝いを頼みやすくなったという声が聞かれる。また、 あんやと券を介した出会いを通じて同じ想いを持つ仲間 と知り合えるようになった、他にも市内で活動する団体・ 個人のコラボレーション企画のつながりができてきたと いうお手伝い以外の効果も見られている。

おわりに

あんやと券を利用する人はまだ少なく、市内でも認知度 の低い活動ではあるが、確かなのは、今「身内」感覚でお つきあいのある個々人の出会いの場はこの「あんやと券」 を通じて起こったということである。小さな市民活動団 体・個人、個人経営のお店のほか、大学やいしかわ動物園、 九谷焼資料館などといった教育・公共機関の参加があるこ とも嬉しいことある。このような多様な参加も手づくりの 小さなコミュニティの中だから動きやすいと感じている。 今後も小さな「あんやと(ありがとう)」のつながりをこ の地で大事に育てていきたい。

参考文献

[1] 西部 忠:地域通貨を知ろう, 岩波書店, (2002) [2] 小林重人:持続的なボランティア活動と地域団体間 の連帯を促進するための地域通貨-同一地域で実践 された2 つの地域通貨の比較から-, 地域活性研究, Vol. 8, 9pp, (2017)

参照

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