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カリキュラム・マネジメントを柱とした学校改善の一考察

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Academic year: 2021

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(自由研究) カリキュラム・マネジメントを柱とした学校改善の一考察 守田 久美 はじめに 本研究の目的は、これまでの研究校1における教育実践の成果を検証し、その成果に基 づいたカリキュラム開発の方策とカリキュラムを運営するためのシステムについて、カリ キュラム・マネジメントを柱とした学校改善からの考察をすることである。 わが国では少子高齢化が加速し、生産年齢人口の減少、グローバル化の進展や絶え間な い技術革新等により社会構造や雇用環境が大きく変化している。また、Society5.0 の社会 を生き抜くための力を養う必要性が唱えられている。これまでの我が国の社会のスタンダ ードではなく、グローバルな視点を持った人材の育成が急務である。 そのような中、高等学校学習指導要領(平成 30 年告示)が示された。学校教育に求め られるのはこれまでの「知識重視」の教育ではなく、「主体的・対話的で深い学び」「社会 に開かれた教育課程」「カリキュラム・マネジメント」である。また学校教育において は、一人一人が持続可能な社会の担い手としてその多様性を原動力とし、個人と社会の成 長につながる新たな価値を生み出していくことが期待されている。 しかし、わが国の学校現場では、教職員の長時間勤務の実態などの改善が進まず、多く の教職員が多忙や疲弊に苛まれている。このような状況下において、今次の学習指導要領 の改訂で推進が求められている「主体的・対話的で深い学び」「社会に開かれた教育課 程」「カリキュラム・マネジメント」に立脚した学校改善に向かう動きをつくることは困 難である。研究校においてもその状況は同様である。したがって、これまでの研究校の実 践の成果に基づいたカリキュラム開発の方策とカリキュラムを運営するシステムの改善を 図るため、「カリキュラム・マネジメント」を柱とした学校改善について考察する意義は あるものと考える。 第 1 節 先行研究及び高等学校学習指導要領(平成 30 年告示)の検討 (1)先行研究の考察 平成 10(1998)年 9 月 21 日の中央教育審議会答申「今後の地方教育行政の在り方につ いて」において、「教育行政における国・都道府県及び市町村の役割分担の見直し」「学校 や地方公共団体の裁量権の拡大」「教育課程の基準の大綱化・弾力化」が勧告された。ま た、教育課程審議会答申(平成 10〈1998〉年 7 月)では、「各学校が創意工夫を生かし、特色 ある教育、特色ある学校づくりを進める必要がある」ことが指摘され、「学校や教育行政 が自らの判断で学校づくりに取り組むことができるようその制度と運用を見直す」ことが 提言された。中留(2005)2は、これらから、「教育課程基準の大綱化・弾力化」と「学校の 自主性・自立性」とが教育政策上においてワンセットとみなす動きが出てきたと仮説して いる(pp.1-2)。 また、中留(2015)3は次の点についても述べている。1998、1999(平成 10、11)年改訂学習 指導要領において総合的な学習の時間が教育課程に位置付けられた。総合的な学習の時間 においては各学校で創意工夫をした教育活動の展開が求められたことにより、各学校にお いてカリキュラム開発が必須とされた。

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これらから、今日の学校現場において、「自主性・自立性」の確立と「カリキュラム開 発」は避けて通れない重要な要素となったことがわかる。そして、特に高等学校の現状 は、教育の自由競争が激化し、国公私立問わず、志願者獲得のために学校の特色化を図る ことが求められるようになった。また少子化による 15 歳人口の減少や地方の過疎化など から、統廃合を余儀なくされている。学校の特色化を図り、志願者を獲得するためには、 戦略的な教育内容の再考は必須である。各学校においては、自校の活動を自主的・自立的 に実施しなければ、たちまち大量の業務が押し寄せ、学校が機能不全に陥ってしまう。業 務に振り回される受動的な学校の脱却を図るため「特色ある教育活動」「自主・自立的な 学校経営」が必要とされることを中留(2005)は指摘し、「カリキュラムマネジメント」4 提言し、「カリキュラム開発」と「組織開発」を考える今日の流れにつながった。 (2)高等学校学習指導要領(平成 30 年告示)を踏まえた方向性 「高等学校学習指導要領(平成 30 年告示)解説 総則編」では、今回の改定の基本方 針として、(1)これまでの学校教育の実践や蓄積を生かし、生徒に将来求められている資 質・能力とは何かを社会と共有し、連携する「社会に開かれた教育課程」の重視、(2)育成 を目指す資質・能力の明確化、(3)「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善 の推進、(4)各学校におけるカリキュラム・マネジメントの推進、(5)言語能力の育成、理数 教育の充実、伝統や文化に関する教育の充実、道徳教育の充実、外国語教育の充実、職業 教育の充実があげられている(pp.2-5)。 また、改定の基本方針(4)の中で、カリキュラム・マネジメントについて、「生徒や学 校、地域の実態を適切に把握し、教育の目的や目標の実現に必要な教育の内容等を教科横 断的な視点で組み立てていくこと、教育課程の実施状況を評価してその改善を図っていく こと、教育課程の実施に必要な人的又は物的な体制を確保するとともにその改善を図って いくことなどを通して、教育課程に基づき組織的かつ計画的に各学校の教育活動の質の向 上を図っていくこと(以下「カリキュラム・マネジメント」という)に努める(p.5)」と明 記されている。 研究校においては、改定の基本方針にある教育内容の実践の蓄積があることは評価でき る。しかし、教育目標が具体的に示し切れていないこと、本来ならば教育課程に位置付け られているべき資源が位置付けられていないこと、そしてその結果、組織運営がうまく回 らないという状況が常態化していることが問題である。 第2節 研究校のカリキュラムの検討 (1)研究校の概要 研究校は、道徳教育・社会人基礎力の育成を核とした教育を展開している。学校の特色化 を担う「教育コミュニケーション類型」では豊富な実習や体験活動がある。主な教育活動と しては、類型を含めた第 2 学年生徒全員で行う事業所でのインターンシップ、海外にある姉 妹校への長期留学・短期語学研修、姉妹校からの研修生の受け入れ、様々な地域貢献活動、 特別支援学校との交流及び共同学習などがある。非常に多くの取り組みを実践しているに も関わらず、その成果の検証はほとんどされておらず、残念ながら校内でも地域においても、 「何をやっているのかわからない学校」となってしまっている。 教員構成は 30 代男性教諭が多く、ベテラン層、女性教諭は少ない。教諭の異動のサイク ルも早く 3,4 年でほぼすべての人員が入れ替わる。結果、経験の浅い教諭が主力になるの

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で、多様な教育活動の運営の仕方が分からず、手探り状態になり、一人で仕事を抱え込み、 周りとのコミュニケーションをとる時間も取れず、多忙で疲弊する状態が長年続いている。 生徒構成は、全学年 5 クラス、定員 200 人の中規模校であり、定員の 15%は高校特色化 推進のため導入された特色類型の教育コミュニケーション類型の生徒である。平成 31 年 4 月現在の生徒数は、554 名(男子 236 名 女子 318 名)である。生徒の生活態度は落ち着 いているが、学習習慣が確立されておらず、学力が伸び悩んでいる。また、平成 30 年度 学年末に実施した授業アンケートでは、教員の丁寧な指導に依存した生徒の学習態度が散 見し、「主体的・対話的で深い学び」を促せていないことが確認できた。対話的な授業の 評価は高いが、「楽しかった」の基準でアンケートに回答している様子がうかがえる。以 下のアンケートからの生徒の記述を参照されたい。 平成 30 年度 授業アンケート生徒記述抜粋 ・「雑談が楽しかった」「歌を歌ってくれた」「集中が切れそうなタイミングで雑談が入 ると助かる」 ・グループ学習など、対話的な授業への評価が高い。(例:「板書だけじゃなくて、グル ープで話し合ったりしたのが良かった」「周りの人と話したりして考えるので、楽しく 授業を受けられました。」など) ・「図やプリントがあって助かった」「プリント授業にしてほしい」など、プリントな ど、作業数の少ない補助教材を求める生徒が多い。 (2)検討方法 中留(2005)はカリキュラム・マネジメントとは、「各学校が教育目標を実現していくため に教育課程行政の裁量の拡大8を前提にして、教育の目標・内容系列とそれを支える条件整 活動とに対応関係を持たせながら、それを学校文化の存在を媒介として、学校を変えていく ために、動態化していく営み」と定義している。加えて、「カリキュラム・マネジメントを 有効に機能させる要因として、創造的な文化の存在と学校組織のポジティブなあり方(雰囲 気、風土)が確かに検証された」(p.331)としている。 また田村(2011)5は、カリキュラム・マネジメントについて、「学校の教育目標を具現化 するために、評価から始まるカリキュラムのマネジメントサイクルに、組織文化を含めた学 校内外の諸条件のマネジメントを対応させ、これを組織的に動態化させる課題解決的な営 み」(p.16)と定義している。加えて、組織マネジメントとの違いについて、「『学校の教育目 標達成→そのための組織づくり』ではなく、『学校の教育目標達成→そのためのカリキュラ ム作り→そのための組織づくり』というように、『カリキュラム』を重要な手段として中核 に位置付けて考えるのが、カリキュラム・マネジメント論の特徴である」(p.16)としている。 したがって、中留(2005)が明らかにした「学校組織のポジティブなあり方(雰囲気・風 土)」を模索しながら、田村(2011)の手法に依拠し、研究校のカリキュラムを検討してい く。 (3)教育目標の検討 研究校の教育方針からカリキュラムを検討する。現在掲げられている方針は「地域の信頼 を支えに、生徒一人ひとりの生きる力を育成し、豊かな教育活動の場で夢を実現する学校を 目指す」であり、合わせて目指すべき学校の理想として「生徒自治の文化を創造する」こと を校長が示している。しかし、「どのような生徒が育ち、地域の信頼を勝ち取るために地域

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にどのように貢献していくのか」が曖昧である。また、「生徒自治」の到達レベルが明確で はない。現在の曖昧な表現を組織の構成員の考えに基づいた文言で整理し、教育活動そのも のを明確に学校が意味づけしていく必要があると考える。 次に、現行の方針にある「一人一人の生きる力を育成し、豊かな教育活動の場で夢を実現 する学校」について検討する。研究校は、進路多様校であるため、もともと「大学入試に特 化した教育課程」ではない。教員も一人一人の進路希望を丁寧に把握し、指導を行っている。 その点でいえば、教育方針を達成するための教育活動ということになる。また豊かな教育活 動が、様々な取組を展開していることは評価できる。しかし、肝心の生徒にどのような資質・ 能力を育てていくのか、が明らかではない。当然のことながら、共通理解を前提にした教育 の理念とはなっていない。したがって、現行の教育方針を教育理念、つまりスクールアイデ ンティティ6というレベルへ引き上げ、全教職員の共通理解を図るという段階から着手する ことが重要であると考える。 (4)学校組織の雰囲気・風土の検討 研究校の学校組織の雰囲気・風土について、ミドルリーダーへの聞き取り調査を行った。 以下はミドルリーダーたちが語った言葉のまとめである。 研究校のミドルリーダーへの聞き取り調査 • 校長の思いはよくわかる。自分たちが中心となって動かなければならない • 部長の経験がなく、日常の業務を遂行するので精一杯になっているのが現状 • 毎年職員の入れ替わりが激しく、引き継ぎもうまくいっていない • 業務や会議の報告は逐一しているつもりだが、管理職との共通理解がうまくいっ ていない • 管理職に「何をどこまで」報告するのが良いのか、判断に迷うが、相談できる人 がいない • 管理職の先生方が自分たちの現状を理解してくださっているのだろうか ミドルリーダーたちは校長が頻繁に発信をしているので、校長の思いをよく理解してい る。それに何とか答えなければならない、という使命感も感じている。しかし、自身の経験 が浅く、ミドルリーダーという立場での動き方が分からず、毎日押し寄せてくる業務を遂行 するだけでも時間と労力が必要とされ、結果余裕がない状況に陥っている。その結果、管理 職への報告・連絡・相談が必要なことは理解しているが、その内容、タイミング、詳細な事 項をどこまで、などの管理職が求めているレベルが図れず、コミュニケーション不足が起こ っていることが確認できた。 次に校長への聞き取り調査で、校長が語った言葉をまとめたものを提示する。 研究校の校長への聞き取り調査

毎回職員会議で発信しているが教員からの反応がない ・ 毎日教員たちが忙しくしているので、支援をしたいが情報が得られない ・ 業務が個人についている状態。チームとして動くことができればよいのだが ・ 今の状態が大変で、改善したいという人もいる。だが、気づいてはいても行動し ない ・ 教師は生徒の背中を押すように生徒を支援するべき。若い教師の生徒へのかかわ り方が教師主導になりすぎている

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・ 学校教育は生徒が動いてこそ値打ちがある。生徒が自治をする文化をつくるのが 究極の目標だと考えている 校長は、忙しくしているミドルリーダーたちのことも理解しており、相談をしながら一緒 に行動していきたい、と強く感じている。しかし、連絡や相談を持ってくるミドルリーダー は少なく、コミュニケーション不足を常に懸念している。また、同時に、若い職員が多いの で、若手のミドルリーダーの育成にも意欲を持っている。だが、教員たちからは、忙しいと いう声ばかりが聞こえてくることを危惧している。 以上から、忙しく疲弊している職場環境の中、業務改善や教育活動の改善の必要性を感じ つつも、コミュニケーションを図る余裕もないほど、疲弊している状態が組織の雰囲気・風 土として根付いている状況であることがいえる。「わかっているが動けない」という状況は、 仕事に対する疲れや不満が多く、忙しさのあまり「他のことを考える余裕がなくなっている」 状態であり、このような状況下では変化を生み出すことが難しい。中留の「学校組織のポジ ティブなあり方」とは程遠い雰囲気である。したがって、校長の思いとミドルリーダーたち の思いをつなぎ、ポジティブな組織風土をつくるためには、オープンに話し合える環境をつ くり、組織構成員が互いを認め合い足りない部分は補い合えるような関係をつくることが 重要であることが確認できた。 (5)研究校の教育実践の成果の検討 研究校では、非常に多様な教育活動を展開しており、その一つ一つを検討することは紙 面の都合上難しい。したがって、特に力を入れているキャリア教育の実践について卒業生 調査から検討していくこととする。調査概要を以下に示す。 調査名:「人として大切にしている価値・資質・能力について」卒業生調査7(N=32) 実施方法 卒業生調査(ウェブアンケート)を実施 対象:平成 25 年度卒業~平成 30 年度卒業(6 学年) 「キャリア教育」は将来に向けての教育であるので、体験直後の生徒が得た学びだけをもって成果とは しにくい。そこで、インターンシップ12を経験した卒業生が、どのような人材として生活しているのか、 という関心をもとに令和元年 10 月~11 月に「人として大切にしている価値・資質・能力調査」を実施し た。 回答数:32(女性 31 男性 1)(普通科 54% 特色類型 46%) 回答者の現況:社会人 24.2%、大学生 36.4%、短期大学生 18.2%、専門学校生 12.1%、フリーター6.1%、 その他 3% 回答者が就いている職種(フリーター含む): サービス職(資格不要)48.5%、専門職・技術職 33.3%、事務職 6.1%、営業職 3%、販売職 3%、保安的 職種 3%、サービス職(資格必要)3% 質問内容: 人として大切にしている価値・資質・能力とそれを実感した高校時代の教育活動は何かについて、それ ぞれ 4 段階評価で回答する。価値・資質・能力に挙げた項目は、「生きる力(文部科学省)」「21 世紀型学 力(文部科学省)」「基礎的・汎用的能力(文部科学省)」「人生 100 年時代の社会人基礎力(経済産業 省)」「人間力(内閣府)」「就職基礎力(厚生労働省)」「キー・コンピテンシー(OECD)」「IB の学習者像 (国際バカロレア機構)」「ESD で育みたい力(ユネスコスクール)」が育みたい価値・資質・能力として 挙げているものから共通している項目を抽出した。

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この調査結果より、次のことが表出した。 回答の集計結果で回答者全員(N=32)が「とても大切」若しくは「大切」と答えた項目 は、以下のようになった。「人として大切にしている価値」の質問に対して、「物事を達成す ること(達成)」「責任を持つこと(責任)」「他人に感謝すること(感謝)」「経済的な安定・安心 が得られること」「経済的・精神的に自立していること」の回答があった。「人として大切に している資質」の質問に対しては、「主体性」「自立心」「意欲的」の回答であった。「人とし て大切にしている能力」の質問に対しては「問題を解決する力」「問題を発見する力」「スト レスをコントロールする力」「人に働きかける力」「実行力」「コミュニケーション能力」「自 分自身の考えなどを伝える力(自己表現力)」「言葉や情報を活用する力」「自分自身を振り返 り考える力(省察力)」である。 次に、それらを大切だと考えたきっかけになった学校の教育活動についての回答につい ては以下のようになった。「人として大切にしている価値」を大切だと考えるきっかけとな った教育活動は「入試や就職試験(27 人)」「宿泊を伴う活動(26 人)」「部活動(25 人)」 「インターンシップ(23 人)」「ホームルームでの話合い(22 人)」「体育祭(20 人)」「大学・ 短期大学との連携授業(説明会含む)(20 人)」である。「人として大切にしている資質」を 大切だと考えるきっかけとなった教育活動は「部活動(24 人)」「ホームルームでの話し合 い(24 人)」「宿泊を伴う活動(修学旅行・合宿など)(24 人)」「インターンシップ(23 人)」 「入試や就職試験(23 人)」「大学・短期大学との連携授業(説明会含む)(22 人)」「体育祭 (20 人)」である。「人として大切にしている能力」を大切だと考えるきっかけとなった教 育活動は「部活動(25 人)」「宿泊を伴う活動(修学旅行・合宿など)(24 人)」「入試や就職 試験(24 人)」「インターンシップ(23 人)」「体育祭(20 人)」である。 この調査ではそれらが卒業生のキャリア形成にどのように影響を及ぼしたのかというこ とや、卒業生がそれらの価値を大切にして行動している、またはそれらの資質を備えている、 それらの能力が身についているかどうかまでは明らかにできなかった。しかし、少なくとも 高校時代に経験した教育活動がきっかけで、それらを大切にしようと考えている人材であ ることは考えられる。したがって研究校では、「物事を達成し、責任を持ち経済的に安定し、 経済的・精神的に自立する」という価値観を持った人材、そしてその価値観をもって生きて いくのに必要な資質として「主体性・自立心・意欲的」であることを求め、「自分自身を振 り返りながら問題を発見し解決していく力をつけ、ストレスコントロールを身に付け、コミ ュニケーションを大切にして人に働きかけていく実行力を有することが大切」という人材 が育っていると考えられる。 (6)学校評価と保護者聞き取り調査の結果の検討 平成 30 年度の学校評価アンケートの保護者回答から、保護者が研究校を評価している点、 求めている点について検討する。 学校評価の質問は「学校運営」「教育課程」「課題教育」の 3 つの領域についてそれぞれ 3 ~4 問の質問をしている。それぞれの質問に対して 4 段階の評価で回答する形式である。保 護者の回答で最も数値の高い項目は「⑨挨拶、校門指導などの日頃からの生徒指導や、頭髪・ 服装指導週間を通して生徒の身だしなみや規律向上が図られた(保護者平均 3.4)」であっ た。一方で最も数値の低い項目は「①ホームページや配布物など学校の情報を積極的に公開 された(保護者 2.6)」「⑧量や質のバランスなどに配慮した課題を課すことで、家庭学習の 習慣化が図られた(保護者 2.6)」の 2 項目であった。また、保護者の記述回答では、「情報

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量が乏しく答えづらい」「学校配布のプリント類はほとんど見たことがないし、あまり学校 生活が見えてこない」「学校での様子が分からないので答えられなかった」「ホームページの 更新が少なすぎて学校の様子が今まで以上によくわからない。学年通信は毎月いただいて いる」という回答が多数あった。また、「先生も進路のことをもっと勉強していただきたい。 相談しているのに分からないという返答はどうなのでしょうか?」という回答もあった。 次に保護者の聞き取り調査について検討する。平成 30 年度卒業式に出席した保護者に聞 き取り調査を行った。質問内容は「この学校に入学させて良かった点」と「この学校にもっ と頑張ってほしい点」の 2 点である。15 名の保護者から次のような回答を得られた。「入学 させて良かっこと」は「のびのび」「楽しく」「安全」「安心」「地域の中で子供がいろんなこ とに挑戦できた」「あんなことやってみたい、こんなことやってみたいという気持ちを引き 出してくれた」「親身になってくれた」「服装や生活指導がきちんとしている」という回答が 多数あった。「学校に頑張ってほしいこと」は「進路の相談に乗ってほしい」「進路決定後の アルバイトは前向きに考えてほしい」「若い先生の接遇」「体育祭にはもっとはじけてもいい (おとなしくなりすぎた)」「先生たちが『大人とはこういうもんだ!』という見本を示して ほしい」という回答が多かった。 以上から、保護者が評価している点は「安心安全な学校」「生活指導」「地域の中での活動」 「生徒のやる気を引き出す」だと考えられる。対して、保護者が改善を求めている点は、「進 路指導」「教員とのコミュニケーション」「情報発信」であることが確認できた。 第3節 研究校のカリキュラム・マネジメントを柱とした学校改善の提案 (1)研究校の学校改善の方向性 研究校において、解決しなければならない課題は、「わかりづらい教育方針」「生徒の学力 向上と主体性・自立性の育成」「教職員の多忙によるコミュニケーションが機能しない組織 文化」の 3 点に大きく分類される。これらから、研究校の学校改善の方向性を以下のように 提案する。1 点目は「わかりづらい教育方針(目標)」を「わかりやすい教育方針(目標)に なるように再設定する」。2 点目は「生徒が主体的に学びに向かう指導体制を構築する」。3 点目は「コミュニケーションを機能させ、協働による多忙を解消する組織風土を形成する」 である。したがってこの方向性を実践するカリキュラム・マネジメントモデルを提案する。 (2)研究校のカリキュラム・マネジメントモデルの提案 研究校の現在の教育方針「一人一人の生きる力を育成し、豊かな教育活動の場で夢を実現 する学校」と校長の目指す学校の姿「生徒自治の文化を創造する」では、具体的な学校の教 育活動の姿が見えてこないという点を第2節(3)において指摘した。また、この方針(目 標)にスクールアイデンティティを吹き込むことが必要であることも指摘した。「わかりや すい教育方針(目標)」にするには、単なる方針(目標)で終わることなく、その学校の「魂」 となる要素も明確にすべきである。したがって、より具体的な目標やより具体的な生徒の資 質・能力を表明する必要がある。そこで第2節(5)で検討した卒業生調査から得た教育の 成果を活用して、次のように教育理念をまとめ直した。 教育理念(校訓) 敬愛和行→コミュニケーション能力を開発し他人と協働する 究理継学→他人に依存することなく、自分の学びに向かう 創造雄飛→自分自身を振り返り、よりよい社会の発展を考える

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教育理念は大方の学校では校訓にあらわされていることが多い。しかし、難解な四字熟語 を並べたところで、生徒、保護者、地域、教員でその理念が共有されにくい。校訓に付した 行動指針は、社会の状況によって、その時その場に居合わせている組織の構成員で意味づけ することが大切であると考える。しかし、現状ではそれらを検証している余裕がないので、 卒業生調査の卒業生の言葉に依拠し、再構築することで、現在の組織の構成員が自校の教育 成果にたどりつくことができる。 次に教育方針(目標)については以下のような整理を考えた。現状では、教育方針と校長 が考える目標の2本立てとなっているが、まず、これらを統合し、具体的に共有する概念を 示すことが必要だと考える。 教育方針(目標)「生徒一人一人の生きる力を育成し、生徒自治の文化の中で、主体的に行動し、地域活 性化に貢献する学校」 生きる力の育成 ①「自己を確立する力」を養うこと 他人に依存せずに自分の力で物事に立ち向かい(自主・自立) 社会人としての自分の姿を明確に思い描き(目標設定) それに向かって日々振り返り努力すること(省察力) ②「豊かな人間性」を育むこと 「豊かな人間性」とは、相手に共感し、相手を受け入れることである。 他人と協働し(協働性)、より良い環境を新たに創り出す姿勢を育むこと 「生きる力」が登場して 20 年経つが、様々な場所で「生きる力」とは何か、という議論 が絶えない。しかし、この「生きる力」こそ、各学校の教育方針(目標)として、組織の構 成員で意味づけをする必要がある。研究校の場合は、「生徒の学力向上と主体性・自立性の 育成」が「生きる力」であると定義できる。それに加えて、「生徒自治の文化」を達成する ならば、お互いを認め合う民主的な環境が必要であり、その資質を生徒に求めるのは当然で あると考える。 最後に学校の理念、教育方針(目標)を達成するカリキュラムについて整理する。本稿の 検討から、研究校のカリキュラムは「環境は整えているが、肝心の育てたい生徒の資質・能 力が不明確であること」と「スクールアイデンティティのような学校の魂の欠如」が確認で きた。また教職員の状況においても、カリキュラム・マネジメントを推進する組織風土にな っていないことが判明した。この 3 点を含むカリキュラム計画を次のように提案する。 カリキュラム実践計画 ①「総合的な探究の時間」 教育理念に基づいて、現行の「総合的な学習の時間」の指導案の検討を行い、育むべき力に特化した 単元の整理を行う。同時に評価方法についても検討し、生徒の学習の成果、多角的な視点での評価方法 を開発する。 ②「授業・定期考査ルール・学習スタンダード」 授業、定期考査で取り扱う内容の周知徹底と自主的な学習への動機づけを図るため、生徒の実態に基 づいた授業・定期考査ルールを開発する。また、「自主・自立」「協働」「省察」「目標設定」を生徒が管 理できるよう「読む・書く・聞く・話す」力の到達目標を示す「学習スタンダード」を確立する。 ③「特別活動・ホームルーム活動」

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学校行事(式典除く)・部活動の運営への生徒の参画についての基本方針をまとめる。また、ホームル ーム活動では「合意形成」「意思決定」に至るまでのプロセスを生徒主体で行う機会となるよう、学級運 営についてのガイドラインをまとめ、周知徹底する。 それぞれの策定・開発に当たっては、教育理念、教育方針(目標)達成という教職員の共 通理解が必要である。次期学習指導要領施行のための移行期間暫定組織として、全職員をこ れら 3 つの分野に振り分けて、全員がカリキュラム開発に関わる組織体制を整えることを 提案する。 (3)カリキュラム・マネジメントを推進する組織文化づくりの提案 本稿において、「教職員の多忙によるコミュニケーションが機能しない組織文化」を組織 の課題として位置付けた。中留(2005)が明らかにした「学校組織のポジティブなあり方(雰 囲気・風土)」はカリキュラム・マネジメントの推進には欠かせないことから、研究校での ポジティブな組織文化づくりについて 3 点提案する。 1 点目は、カリキュラム・マネジメントへの抵抗勢力との調整である。田村(2011)の言 葉をまとめると、「反対意見によって、提案内容が深堀され、すべての教職員の理解・納得 を得られる良い機会である」(p.46)ととらえられる。したがって、抵抗勢力からの意見が表 出された場合には、エビデンスと共に丁寧に説明することや、管理職との意見交換の時間を 確保することが必要である。したがって、職員会議で意見について考える時間を確保するこ とを運営の方針に盛り込むことが効果的であると考える。 2 点目は、「コミュニケーションを取り戻す」ことである。多忙で日常のコミュニケーシ ョンが図れないのであれば、意図的に職員間のコミュニケーションを発生させる必要があ る。組織においてコミュニケーションが機能しないということは組織の危機でもある。よっ て、職員研修をコミュニケーションの場として設定することを提案する。コミュニケーショ ンを発生させる研修として、研究校では、令和元年 8 月に昭和女子大学の緩利誠氏を招へい し、「研究校の未来を考える研修」として、教員同士で成功体験や教育観を文字通りポジテ ィブに語り合う研修を実施した。「管理職と教員の学校に対する思いの共有」「普段語り合う 機会のない同僚とのコミュニケーション」を図るという成果があった。したがって、この手 法に依拠した職員研修を定期的に実施することがコミュニケーションの復活につながると 考える。 3 点目は、「校内の承認」である。研究校のミドルリーダーへの聞き取り調査から表出し た内容に「管理職の先生方に理解してもらえているのだろうか」というものがある。不安で あると同時に、「理解してもらえない」ことはすべての「働く人」の意欲低下につながる恐 れがある。また、教員の働き方において「きわめて内発的動機付けが高いが、外発的動機付 けが少なく意欲の低下、組織の一員としての意識の低下」を招いていることも指摘されてい る8。カリキュラム・マネジメントの観点からも、「学校の教育目標とカリキュラム編成の連 関性を考えるにあたり、内容上・方法上の『つながり』には、教科や領域、学年を超えた教 師間の『つながり』すなわち『協働性』が必須である」9 。したがって、主体的に行動して いる同僚への声掛けすなわち「承認」は「多忙・疲弊」「コミュニケーション不足」に働き かけられる要素として非常に有効であると考える。

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おわりに この研究の成果として、カリキュラム・マネジメントのサイクルに依拠し、学校課題を考 えることで、それぞれの学校改善の方策の分析を進めることが可能であることを見いだせ たと考えている。しかし、一方で、全職員を巻き込んでカリキュラム開発を考えた部分は少 なく、筆者の単独研究の範囲であることがこの研究の限界である。今後の課題は、研究校に この改善案を提案し、たたき台として、この手順を検討し、カリキュラム・マネジメントを 学校組織に根付かせることである。 脚注 1 兵庫県立 A 高等学校(全日制 普通科) 2 中留武昭(編著)『カリキュラムマネジメントの定着課程』(2005 pp.1-2) 3 中留武昭・曽我悦子(著)『カリキュラムマネジメントの新たな挑戦』(2015 pp.26-27) 4 中留、田村は「カリキュラムマネジメント」と表記している。文部科学省の表記は「カリキュラム・マネジメント」。 5 田村知子(編著)『実践・カリキュラムマネジメント』(2011 p.16) 6 スクールアイデンティティ 中留武昭・田村知子(著)『カリキュラムマネジメントが学校を変える』第 1 章(p.24) 7 令和元年 10 月 26 日~11 月 24 日 Google フォームを使用して筆者実施 8 社団法人国際労働研究所「教員の働きがいに関する意識調査」報告 http://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/giji/__icsFiles/afieldfile/2012/03/08/1317311_2.pdf pp.34-39 ( 最 終 閲 覧 2020.2.5) 9 中留武昭・曽我悦子(著)『カリキュラムマネジメントの新たな挑戦』(2015 pp.38-39) 引用・参考文献一覧 1 浅野良一『教職員のための学校組織マネジメント実践【三訂版】』兵庫教育大学(2019) 2 安藤福光、平田知之、田中統治「中高一貫校におけるリーダー育成のためのカリキュラム開発に関する研究」『つくば 教育学研究 第 6 号』pp.87-101(2008) 3NPO 法人日本標準教育研究所編集『先生は忙しいけれど。―「多忙」、その克服と課題』 NPO 日本標準(2014) 4 社団法人国際労働研究所「教員の働きがいに関する意識調査」報告 http://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/giji/__icsFiles/afieldfile/2012/03/08/1317311_2.pdf pp.34-39( 最 終 閲 覧 2020.2.5) 5 田中統治、根津朋実編著『カリキュラム評価入門』勁草書房(2009) 6 田村知子(編著)『実践・カリキュラムマネジメント』ぎょうせい(2011) 7 ドミニク・S・ライチェン、ローラ・H・サルガニク、立田慶裕(監訳)『キー・コンピテンシー 国際標準の学力をめざ して』明石書店(2015) 8 中留武昭(編著)『カリキュラムマネジメントの定着課程 教育課程行政の裁量とかかわって』教育開発研究所(2005) 9 中留武昭、曽我悦子(著)『カリキュラムマネジメントの新たな挑戦 総合的な学習における連関性と協働性に焦点を あてて』教育開発研究所(2015) 10 中留武明、田村知子(著)『カリキュラムマネジメントが学校を変える』学事出版(2004) 11 兵庫県立 A 高等学校『平成 31 年度 学校要覧』(2019) 12 緩利誠「カリキュラム開発におけるポジティブ・アプローチの展望と課題:ギャップアプローチとの対比を中心に」 『浜松学院大学教職センター紀要』pp.71-93(2014)

参照

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