• 検索結果がありません。

フィリピンにおける中央・地方関係についての一考察 : 社会開発政策の実施とその運営制度

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "フィリピンにおける中央・地方関係についての一考察 : 社会開発政策の実施とその運営制度"

Copied!
23
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)フィリピンにおける中央・地方関係についての一考察 一社会開発政策の実施とその運営制度-. 佐々. 木. はじめに. 地方分権化に取り組んでいる開発途上国の中. 雅. 子. 政策の事業連営制度の観察を通して中央・地方 関係の変化を分析することを目的としている. まず中央政府から地方自治体への垂直的行政管. 央・地方関係を考えるなかで,中央政府の政策. 理に注目し,中央政府の政策がどのように地方. を事業として全国的に実施する場合に,運営は. 展開されていっているのかを見ていく.そのな. どのようになされているのか,また地方行政機. かで現れたのが水平的協働関係であるが,この. 関は中央政府の事業とどのように関わっている. 縦と横の線は網の目のようにめぐらされている.. のかということに関心が及んだ1).. 省庁の望むと望まぎるとにかかわらず,これま. 国家の行政活動は,各省庁の提案を受けて中. での縦割り行政はそのような体制作りの制度化. 央政府が策定した政策・基本方針の下に,各省. によって改善されようとしている.また中央集. 庁が具体的なプログラムを作り,予算を整え,. 権体制がこの構造改革をもって,具体的な行政. さらに事業として個別の行政サービスの内容に. 活動を伴った地方分権へと変化することが促さ. わけて実施し,モニタリングを行い,その評価. れているように考えられる.それらの点に注目. によって次の政策やプログラムを策定するとい. することで中央政府と地方行政機関との関係の. うような一連のサイクルのなかでの活動である.. 変化を分析し,今後どのような方向に進んでい. その事業の計画・実施・評価は,中央政府が地 方出先機関を通じて行っていたり,地方自治体. くのかを検討したい.. に委任していたり,あるいは地方自治体が中央. Ⅰ.フィリピンにおける社会開発の考え方と 主管官庁. 政府の政策に基づいた自らの政策・計画の策 定・実施を行っていたりなど,その国の中央・. 1.社会開発の考え方. 地方関係によりさまざまである.. フィリピンにおける近年の社会開発政策は社 会福祉と貧困緩和を中心とし,水・食糧・家. しかし,途上国では特に社会開発分野におい て,全国的に均一で公平なサービスの提供や,. 屋・衣類の最低限の生活水準の保障から,保健・. 地方の行政ニーズに中央政府が標準化して対応. 医療・衛生,保育・教育,雇用・労働・生計向. することが求められており,その対応の仕組み. 上,農林水産業開発,地場産業の育成,公営住宅. が機能的であるかどうかは,その国の地方行政. 供給,環境対策,自然災害対策,先住民の文化遺. 制度のあり方に大きく左右されると考えられる.. 産保護など幅広い分野にわたるものである.. 本稿は,フィリピン共和国における社会開発.

(2) 94. (406). 横浜国際社会科学研究. 2.主管官庁 現在,中央省庁のなかで国家経済社会開発計. 第10巻第3. I. 4号(2005年12月). に第Ⅰ期を3つの局面に分けてその特徴を示して いる(Bautista,. 1997,. pp.4-9).. 画(中期5カ年計画)の策定や実施における指 導・監督・支援を行い,各分野別省庁の分野別開 発計画を取りまとめ,実施中の事業に関する情 報収集・提供を行っているのは国家経済開発庁 (National Economic. and Development. Authority:. NEDA)である.また,地方における地域開発 計画の策定は地域開発評議会(Regional Development. 1.第1フェーズ 第1フェーズは統一の欠如(IJaCk. of Unity) を特徴とする, 1972年までの戦後期である3).. フィリピンは第2次世界大戦後の独立時より経 済開発政策を重視しており,経済発展すること によって社会も発展するものと考えられていた. Council:. RDC)が行っている. 狭義の社会開発分野の事業に直接関わる中央. ため,当初は社会開発にかける予算は限られて. 省庁・政府機関は,次のような基本的社会サー. いた.しかし1950年代半ばには国家経済委員会 (National Economic Council)は社会開発を. ビス及び社会福祉に関わるものであると考える.. 「経済発展を達成するためにそれを補うもの」と. ・保健省(Department. of. Health). 考え,基本的社会サービスと社会福祉の分野に. ・教育省(Department. of. Education). 取り組み始めている.基本的社会サービスは教. ・労働雇用省(Departmentof I.abor and Employment). ・社会福祉開発省(Department and. of Social Welfare. Development). 育と保健・医療の2分野を指していた4). 教育は特に人材の活用という観点から職業訓 練に重きが置かれ,社会人教育も経済発展に機. of lnterior and. ・内務自治省(Department Government). I』cal. 能的に貢献すると考えられて取り入れられてい る.. ・住宅都市開発調整評議会(Housing Development Coordinating Council). Urban. Population: POPCOM). ・人口委員会(Commission on. 保健・医療についてはマラリア対策や結核対 策で治療の側面に重点が置かれ,また水道や衛 生施設の建設を含めて,特に地方へのサービス. ・しかし前述の,幅広い分野にわたる社会開発 事業の実施という観点からは次のような省庁も. 供給の拡大に関心が払われるようになった.. 関係している.. や自然災害の被災者,自分自身で世話ができな. ・農業省(Department. ofAgriculture). ・環境天然資源省(Department and Na山ral Resources). of Environment. ・貿易産業省(Depa血1ent. OfTrade. and. ・財務省(Department. Finance). of. いあるいは親戚友達などの世話になれない人々 を対象に,所得創出や住宅供給,少年収容施設 などの子供の福祉サービス,障害者の訓練など. lndustⅣ). を計画したプログラムが行われていた. この時期はまだ事業運営における統一したフ. of Public Works. ・公共事業道路省(Department and Highways). レームワークを欠いていた.国家経済委員創享 国家経済社会開発計画策定の支援機能を有して. Ⅰ.社会開発の歴史的経緯 バウティスタ(ⅥctoriaA.. 社会福祉分野でのサービスの提供は,貧困者. 第Ⅰ期. Bautista)2)ば戦後. フィリピンにおける社会開発マネジメントの特 徴を2つの大きな時期に分けて分析している.第 Ⅰ期は1946年から1991年までで,この時期の特 徴を中央集権的/セクター的であるとし,さら. いたが,その策定と実施において大統領を補佐 する役割に留まっており,議員や民間セクター からの政治的な影響を受けやすく,また実施機 関との連携もなかったため,分野別の省庁はそ れぞれの枠組みで地方の社会開発のための計画 策定や仕組みづくりを独自に行っていた. しかしそれが問題視されて,国家経済委員会.

(3) フィリピンにおける中央・地方関係についての一考察(佐々木). (407). と省庁の実施機関や民間セクターとの間に位置. て行われており,この点からも包括的再組織化. する国家実施機構(Philippine. 計画は重要な意味を持つ.そして各行政管区で. lmplementation. Agency)5)が1962年に設置された.国家実施機構 は①運営計画の準備, ②特定プロジェクトにお. は,異なる分野の地域事務所間で連絡調整を促. ける実施前のフィージビリティ調査(可能性,. 心に構え,また地域事務所内の部局編成の均一. 妥当性,投資効果に関する調査)の実施,. ③緊. 95. 進するために,各省が事務所を一様に地域の中. 急を要するプロジェクトや活動への投資の優先,. モデルが形成されて,計画,財務管理,総務, 技術サービスの4部署に統一され,その下にそれ. ④プロジェクト実施においてボトルネックとさ. ぞれに必要な事業評価や事業開発などの局が置. れた点の解決に向けた方法の提供,を行い,中 央行政における計画(planning)部門は革新的. かれるという大革新が行われ,組織構成上,地 方における分野別行政機関間の水平的連携関係. な変化を遂げた.. が形成された. 包括的再組織化計画はこのように中央省庁の 権限の分散化,行政組織構造の変更,異なる分. 2.第2フェーズ. 第2フェーズはマルコス政権後半の1972年から 1985年までで,この時期の特徴は一連の政策の 包括化である. 1972年の包括的再組織化計画(Integrated Plan)により,国家開発計画を. 野間の連携の促進,また民間セクターの計画策 定への参加が認められるなど,地方開発計画に 係る行政体制の大改革であったが,地方自治体 への分権化はこの時点ではまだ導入されていな. 主管する中央行政機関の再編が行われた.また. い.地方自治体の計画策定への参加はまだごく わずかで,自治体は主にごみ収集や公設市場の. これに関連して,地域(region)制6)が導入され. 管理,衛生管理や区画整理などの行政サービス. て行政管区が分けられ,各省庁のそれぞれの地 域事務所にさまぎまな権限を委譲するという行. の提供を行うのみであった.. Reorganization. 政機能の地方分権化が行われている. 包括的再組織化計画では計画策定に関する中 央行政機関の設置が主眼とされていたが,これ. フィリピンは1980年より83年まで世界銀行 (world Bank)の構造調整を受け入れているが, そのなかで国際通貨基金(IMF)より融資を受. により現在の国家経済開発庁が創設され,既存. け,この時期のいわゆる開発行政では包括的地 域開発(integrated aria development)アプローチ. の国家経済委員会と国家実施機構の後身であっ. を採用した開発計画が実施されている8).州の境. た大統領府経済スタッフ(Presidential. Economic. 界を越えた行政管区ごとの地域事務所が中心と. sta牙)の機能は国家経済開発庁において融合さ. なった,複数の州を包含した地域における経済. れた.開発計画策定および事業化を正式に一元. 的社会的活動の複数分野の開発活動を総合的に. 的に扱う同庁の設置に伴い,分野別省庁のさま. 運営するというアプローチで,濯潤事業などの. ぎまな機関にそれぞれの計画策定部局が設置さ. プロジェクトが実施された9).また開発計画の策. れた.また地域毎に開発計画を行う地域開発評. 定や,事業のマネジメントサイクルのさまぎま. 議会が各地域に設立され,地域で包括的な開発. な局面での市民参加を可能にするボトムアップ. 行政が行われることとなった7).これによって中. アプローチなど,革新的な事業運営アプローチ も採用されている.. 央における分野間の水平的連携と中央と地方と の垂直的関係が形成された. さらに,中央省庁が分野別に有していた機能 や権限をそれぞれのしかるべき地域事務所へ委 譲したことによって,本質的な非集中化が初め. このほかマルコス政権下では医療,教育,社 会福祉,公共住宅建設のほか,人口増加や栄養 摂取の問題,プライマリー・ヘルス・ケア (pⅢc),貧困対策などのプログラムが実施され,.

(4) 96. (408). 横浜国際社会科学研究. 第10巻第3. ・. 4号(2005年12月). 各分野の政策策定機関や事業実施の調整・監督. ムが計画されていった.この時期の特徴として. 機関などさまぎまな委員会がそれぞれ設置されて. は,社会サービス提供の戦略としてコミュニティ. いた10).それらにより運営手法を探るような多く. 基盤アプローチ(Communit㌢based. の取り組みが行われたが,後に提言されるよう なコミュニティ基盤ではなく中央省庁のコミュ. を採用したことと,. の制度化が挙げられる.. ニティ志向というものであった.しかも貧困対 策事業においては必ずしもサービス供給の対象. 1987年11月の大統領執行命令第308号 (Executive Order No.308)によってNGOはそ. 者が公平に選定されてはおらず,貧困状況の調. のメンバーが地域開発評議会のメンバーに加わ り,ポストの4分の1を占めることとなった.ま. 査や認定は行われていない.. 人口増加抑制計画やPHC,栄養補給計画な どのプログラムでは,コミュニティにおけるボ ランティアワーカー11)が活用されるコミュニテ. ィ開発アプローチを採用し,地域社会の人々を 開発事業に動員することに成功している.しか. Approach). NGOの地方自治への参画. た1990年には国家経済開発庁により民間セクタ ー代表14)の選定に関する一連のガイドラインが 作成され,メンバーの選考に当たっては,細か な資格・要件が示されている.. しこの時点ではまだ決定権限は地域社会には与. アキノ政権は1987-92中期国家開発計画で貧 困,収入の不平等,高失業・不完全雇用,地域. えられておらず,地域で計画策定が可能となっ. 間及び地方・都市間格差などの問題解決を目標. てはいたが,政府の出先機関(地域事務所)が. とし,雇用志向・地域基盤(rural-based)開発. 決定するため,すべての事業は「上から(from. 戦略を採用している.. above)」与えられたものでしかなかった,. 13). また政府の民主的構造への組織再編が実施さ れるとともに,地方においても制度改革がおこ. 3.第3フェーズ 第3フェーズはNGOの計画策定過程への参. の政治勢力の拡大により地域社会主導型行政と. 加が正式に認められた時期である.これはコラ. なっていった.社会開発における民主化の影響. ソン・アキノ女史の大統領就任】2)に伴った変化. は,まず地域における政策策定・決定の場に,. であった.. 第2フェーズで見られたような関係する民間セク. なわれ,中央政府主導型の地方行政が市民社会. バウティスタによる3つのフェーズ分類では,. ターの代表の参加のみならず,市民や非営利団. 重要な分岐点となっている年を見逃すことにな. 体などが参加することが可能となったことに表. る.ピープルズパワーによる民主化で1986年に誕. れている.このことによって「上から」の社会. 生したアキノ政権は1987年に多くの新制度・新事. 開発事業という認識が変化していくこととなり,. 業を開始している.そのためしばしばその年の前. 地域社会の人々が中央からの指導のもと地域開. 後で制度の変化とその成果の分析が行われてお. 発評議会が決定した計画の実施を担うだけでな. り, 1987年は分岐点として重要な年である.. く,地域におけるマネジメントサイクルのさま ざまな局面に関わっていく道筋を開くきっかけ. アキノ政権における社会開発の取り組みは, 1987-92中期国家開発計画(Medium-Term Philippine. Development. となったとみることができる.. Plan)の上位目標を 「公正で公平な社会における,貧困撲滅と,すべ. 実施されている.. てのフィリピン人個々人のためのよりよい生活. (1)アキノ政権下の主要な社会開発プログラム. の達成」としていることに表されているが,質 困,所得格差,高失業・未就職,都市と地方の. ○教育分野:分権化教育開発プログラム. 格差といった問題に対処する社会開発プログラ. この時期,次のような社会開発プログラムが. (Program. f♭rDecentralized Educational. Development) と中等教育開発プログラム(Secondary.

(5) (409). フィリピンにおける中央・地方関係についての一考察(佐々木). 97. Program)がある.分 権化教育開発プログラムはマルコス政権期に概. ○労働雇用分野:. 念化されていた教育の質の向上が具体化された. 用に関してもこの時期大きな変化が起きている.. Education. Development. もので,読み書き計算(Reading,. Writing. 1987年憲法において労働者の 団結権や交渉権などの権利が保障され,労働雇 &. また1987-92中期国家開発計画で雇用志向と地域 開発を打ち出していることから,農閑期の雇用. Arithmetic)を3Rとして強調し,質の高い教育 を目指した新カリキュラムが採用され,教材開. 機会を生み出す短期戦略として,地域雇用の促. 発や,教員・事務員・監督官の再教育,学校建. 進を図るコミュニティ雇用開発プログラム. 設/改築が行われた.中等教育開発プログラム. ( CommunityEmployment. では低収入家庭の子どもたちが中等教育を受け. Program)を採用している.これは労働集約的. る機会を拡大する目的で1988年に公立の中等教. な手法で,政府のインフラ整備事業に地方労働. 育の無料化を行っている.また,さまぎまな公. 者の雇用を当てるというものであった.. 立中等学校の質を標準化するために,すべての. 0住宅供給分野:住宅供給は貧困対策に取って. 公立高校が国立化された.そしてそれらのプロ. 代わっていたが,国家住宅庁(National. グラムを補うために,より良質の教育を望む貧. Authority)によってスラム地域の水道・電気・ 歩道などの住宅環境の改善が行われた.また移. Educational. しい学生を支援する. SeⅣice. Development. and. Housing. Contracti□gや,専門教育や職業教育の学生に 融資を行うStudy Now, Pay I.ater Planなどのサブ. 転先となる土地のインフラ整備や土地開発など. プログラムも実施されている.. ためのCommunityMortgate. 0保健・医療・栄養分野:前政権から引き継い. HomeLending. だ免疫に関する拡大プログラム(Expanded. 画・実施され,. Program. のサブプログラムが実施された.. for. Immunization)のほか,ヘルスケ. も行われている.貧困層が住宅を得やすくする ProgramやUni丘ed. Programなどのプログラムが計 National. Shelter. Programなど. アのコスト削減計画15)や医薬品の取り扱いにつ. 0貧困対策分野:フィリピンで初めてアキノ政. いての法整備が行われた16).保健・医療分野の 事業実施にあたり,特に革新的な運営アプロー. 権において1987年に公式貧困ラインが発表され. チは採られていないが,. NGOを活用したコミ. ュニティ健康開発のためのパートナーシップ (Partnershipfor Community Ⅲeal也Development). た.貧困ラインの設定やデータの推計を行った のは貧困測定に関する省庁間タスクフォース Task Force on PovertyDetermination) (Inter-agency であるが,国家統計調整局(National. Statistical. が採用されている.これによりNGOと地方自 治体とが共同した多分野の計画策定が促進され. Coordination. た.また栄養分野においてはコミュニティ基盤. and. アプローチを採用したプログラム(フィリピノ. 88年には貧困測定の指標が多少改定されている. 語でI,alakas. ang. Katawan. sa. Sapat. na. Sustanslya:. IJAEASS,ラカス)が実施されている.同プログ. Board)がその調整を担当した. lncome. このときのデータは家計調査(Family Expend血res. SuⅣey)に基づいている.翌. が,生活水準の測定が基本であった. 第Ⅰ期の社会開発政策の概要は以上であるが,. ラムは36州を対象に収入や栄養状態,飲料水供. 次に,アキノ政権の社会開発事業のうちもっと. 給の状況などに基づいて貧困状況にある125町を. も重要で,第Ⅰ期の事業運営戦略に大きな影響. 選び,そのうちの266村で各20人の栄養失調児を. を与えたプログラムについてまとめておく.. 選定して,その家庭を優先的対象とし,家庭菜. (2)地域基盤子どもの生存開発プログラム. 園や栄養改善,飲料水道設備の設置や補修など. 地域基盤子どもの生存開発プログラム(Area-. に関するさまざまなプロジェクトを導入するも. based. のであった.. ABCSDP)はアキノ政権下の1987年に始まり,. Child. SuⅣival. Development. Program:.

(6) 98. (410). 第10巻第3. 横浜国際社会科学研究. ・. 4号(2005年12月). ラモス政権下の1992年まで最貧困7州において実. 袷,妊婦の健康など),食糧生産と栄養補給(衣. 施されたフィリピン政府(国家経済開発庁主管). 庭菜園や植木鉢による高栄養食糧の栽培を通し. とUNICEFとの共同事業であるが,社会サー. た栄養食供給),水供給・衛生改善,乳児センタ. ビスに係るその他の省庁やNGOとも連携し. ー・デイケアセンターの設置・運営(それぞれ 0-3歳児, 4-6歳児を対象に幼少期の発達促進) 自給自足を高める所得獲得プロジェクト.. た,プロジェクトパッケージ型のプログラムで. ある.その運営アプローチは第Ⅱ期に引き継が れており,ラモス政権以降の社会開発事業の運. 同プログラムに採用された4つの戦略のうち最. 営アプローチに大きな影響を与えている.. も重要なのは「コンバージェンス」である.そ. このプログラムで採用された戦略は次の4つで. れまで中央省庁はセクショナリズムによって. ある.. 各々に事業の計画・実施を行っていたが,省庁. ①コンバージェンス(convergence:収赦). :地. だけでなく. 域基盤子どもの生存開発プログラムで初めて採. NGOや住民組織が共同して対象地 域社会が抱える問題に集中して取り組み,プロ. 用されたチームアプローチ.ここでの概念は,. ジェクトサイクルのさまぎまな局面でそれぞれ. 母と子供を対象とした公共サービスを提供する. の活動の経験を生かしながら一緒に問題解決を 行うことが可能となり,事業の効率や効果を高. プロジェクトの,マネジメントサイクル(計 画・実施・評価)の異なる段階における,中央 政府機関担当部局と地方自治体,. めることとなった.また1991年地方自治法が施 行される以前に権限委譲を試行するという画期. NCO,住民組. 棉(people's organization)との間の共同的な努. 的なものであったが,特にコンバージェンス戦. 力を意味している.. 略の導入により地方行政官が地方開発活動を統. ②ターゲットの絞り込み(focusedtargeting). :. 合させることが可能となった.つまり地方分権 ′ノ/. さまぎまな分野の異なる政府機関間で,同一の. 化以前は中央省庁の縦割り行政によって地方開. 対象に努力を集中させるというアプローチであ. 発プロジェクトは個々に行われており,それぞ. る.. れの事業では成功と報告されながら,特に施設. ③地方分権化(decentralization) は1991年地方自治法(Local. :この時点で. Government. Code. 建設の完了後,地元自治体に運営が任された時 点において住民の視点で見ると,さまぎまな非. 1991)施行以前の試験的取り組みであるが,同. 効率,非効果的という結果を生んでいた.その. プログラムにおいてプロジェクトをパッケージ. ため地方行政官が主体となって地元の開発活動. 化する運営管理のために,パイロット地域に選. を統合し,集中させることが可能となったこと. 定された地方自治体に財政的自立的な権限を付. で地方開発がより効率的になった.コンバージ. 与した.. ェンスは地方分権化以後の地方社会開発の大き な戦略となっている.この概念はのちに,後述. ④社会的動員(social. mobilization) :同プログ. ラムに関わる各省庁の地方出先機関の担当者の 間で,関心や参加を引き出すために能力形成を 行うことを指している.. する社会改革アジェンダのフラッグシップ・プ ログラムのひとつである社会サービスの包括的 統合的供給プログラムにもコア戦略として採用. 同プログラムの目標は,子どもとその母親の. されており,その戦略の効果が認められている.. 健康と普遍的な幸福を満たすためのさまぎまな. またターゲットの絞り込みによって対象とさ. 分野の公共サービスの提供であったが,プロジ. れたのは,貧困・窮乏状態にあり十分な待遇を. ェクトは同一対象に複合的に実施されている.. 受けていないと認められた家庭であるが,最初. 実施されたプロジェクトは次のものである.. に乳幼児死亡率や栄養失調率,就学率,収入な. 母子保健(成長記録,ワクチン接種,食料補. どの指標を用いて格付けし,最も悪い状況であ. ,.

(7) (411). フィリピンにおける中央.地方関係についての一考察(佐々木). 99. るところが慎重に選考され,実施対象の7州が選. のはこの地方開発マネジメントのための包括的. ばれている17).その7州内の下位の自治体に関し. アプローチであった.. ては,同プログラムの実施を担当するコアグル ープによって基準が設けられ,ランク付けされ た上で,事業の対象とする町村が絞り込まれて いる.. Ⅱ.第Ⅰ期の社会開発事業戦略と 運営アプローチ バウティスタが示した第Ⅲ期は1991年以降現. MBNは地方自治体がさ まざまな決定を行う際の根拠となりえるもので ある.. MBN指標を用いた地方開発マネジメントの ための包括的アプローチは,フィリピン子ども のための行動計画19)の具体的な実施のために考 案されたのであるが,地方自治体による社会開 発の努力を促すために,. 1994年に内務自治省地 of lnternal. 方自治体アカデミー(Department. 在までであるが18),権限委譲がその特徴とされ. and. ており,それはラモス政権における主要戦略で. Academy)によってその戦略ペーパーが作成さ. ある地域基盤(弧ea-based)アプローチが基礎と. れ,それをもとに4つのNGOの活動を通して. なっている.. 10地域にわたる11州, 10市で試験的にMBN調 査が実施され,その調査結果に基づいて対象者. ここではエストラ-ダ政権,さらにはアロヨ 政権にも引き継がれることとなった,アキノ政 権の終わりからラモス政権にかけての社会開発. I,ocal. Government-I.ocal. Government. に必要な支援活動が実施された. それらの戦略は,もともと地方自治体レベル. 事業の各戦略と運営アプローチについて取りま. の社会開発マネジメント向上に取り組んでいた. とめる.. NGOの経験から引き出されたものだったが, 戦略ペーパーは地方自治体が開発車業を行って. 1.地方開発マネジメントのための包括的アプローチ 地方開発マネジメントのための包括的アプロ. いく際に,どのような活動が必要であるのかを 示した事業運営ガイドライシで,事業の計画,. ーチ(. Integrated Approach. for I,ocal Development. 実施,モニタリング・評価というプロジェクト. Management:. サイクルの,さまぎまな局面での活動を想定し. に取り組まれたアプローチである.. て,必要とされる活動を示したものである. 地方開発マネジメントのための包括的アプロ. IALDM)は,地方自治体レベルの 社会開発マネジメントを向上させることを目的. oflife)'の獲得 を目標として,地方開発のなかで最優先して考. ①MBN, ーチのコア戦略に挙げられたものは, ②多角的・多分野的, ③ターゲットの絞り込み,. えられるべき問題を項目化し,核となる必要条 件を示してそれを指標とした.その指標を社会. ④コミュニティ基盤,. 開発事業における現状分析(situation. 情報システム,. ・実施 analysis) ・事業の計画(planning) (implementation) ・モニタリング. Management)であった.. 人々の`良質な生活(quality. ⑤社会的動員,. 成(Capability Building). ,. ⑥能力形. ⑦コミュニティ基盤. ⑧財政管理(Financial. .MBNは,後述するが,貧困と戦う大統領委 to Fight Poverty: 員会(presidential Commission. (monitoring) ・評価(Evaluation)の5つの段階 (略してSAPIME)で活用することをミニマム・. PCFP)との連携により手法が確立され,. ベーシック・ニーズ(最低限の基礎的ニーズ;. 紹介する社会サービスの包括的統合的供給プロ. Minimum. グラムで採用されている.また,同プログラム. Basic. Needs:. MBN)と名づけ,ひと. Ⅳ章で. ローチとして公式に確立されることとなるが,. の支援対象自治体に選ばれなかった多くの地方 自治体では,引き続き地方開発マネジメントの. MBNの概念を政府の事業で最初にとりいれた. ための包括的アプローチのコア戦略として内務. つの手法とした.この手法はのちにMBNアプ.

(8) 横浜国際社会科学研究. (412). 100. 第10巻第3. ・. 4号(2005年12月). 自治省主管でMBNアプローチが実施されてい. イ)の実績を表示して住民に公開している.. る.. このほか,マウンテン州内のみで実施された, 住民組織とNGOの共同によるコミュニティ診. その他いくつかの戦略は後に,政府の重要プロ グラムである社会改革アジェンダが正式に採用さ. 断(Community. れた際に,一連の戦略に取り入れられている.. に大いに役立つものだったという評価を受けて. また,能力形成については,のちに内務自治 省地方自治体アカデミーの包括的能力形成プロ. いる.. グラム(Integrated CapabilityBuilding Program). テムをすべての地方自治体に浸透させるべく, 自治体職員研修などでも取り上げてきている20).. に取り入れられている.. Diagnosis)が同州の計画策定. 内務自治省はこのコミュニティ基盤情報シス. そして地方自治体が収集したデータを全国デー 2.コミュニティ基盤情報システム 国内の統計はマクロデータが不十分であるこ と,また統計機関による推計があまり信頼でき. タとして取りまとめることができるようになっ ている.また地方自治体が実施するMBNアプ. ないものであることが以前から指摘されており,. ローチで得られたデータもこのコミュニティ基 盤情報システムにより管理されている.. アキノ政権においてこの改善を行うべく,地域 住民にデータを集める責任を負わせ,データベ. 3.ミニマム・ベーシック・ニーズ・アプローチ MBNアプローチは1994年に実施された第4次. ースの強化を図る試みが行われていた.このア プローチをコミュニティ基盤情報システム. 子どものための国家計画(Country. ( Community-based. Children)21)のために,フィリピン大学行政ガバ. Information. System)とい. う.. 政府機関やNGO,住民組織などによりさま. ナンス学部(. universityof. National. of Public. College. Program. the. Philippines-. Administration. ざまな試験的取り組みが行われたが,そのなか. Govemance:. で特に高い評価を得たのは,国家統計調整局が. まとめられたもので,同年12月に貧困と戦う大. 行ったコミュニティ基盤子供のモニタリングシ. 統領委員会(presidential. ステム(. Community-Based. Child. Monitoring. for. and. UP-NCPAG)の技術援助によって Commission. to Fight. Poverty)によってその運営枠組みとして正式に. System)であった.これは地域の母親たちから. 採用された.. ボランティアを募り,担当家族の健康状態をモ ニターさせるものだった.これは地域にコミュ. MBNアプローチは二つの戦略ペーパーを融 合したものであった.まずひとつは,前述の地. ニティ活動の機会を与え,自分たちの健康状態. 方開発マネジメントのための包括的アプローチ. について自ら意思決定を行うことをもたらした.. 戦略ペーパーである.もうひとつはそれと同時. また南ミンダナオの5州で実施された包括的地 域開発によるコミュニティヘルス(Community. 期に作成された貧困緩和戦略ペーパー(Strategy. Health. throughIntegrated. IJOCal. Development). は4つの政府機関(保健省,国家経済開発庁,人 口委員会,. Development. Academy. of也e. Paper. PovertyAneviation)である.これは貧 困と戦う大統領委員会および国連開発計画 on. (UNDP)の委託を受けて,フィリピン開発研究 所. (. Philippine. lnstitute. f♭r Development. Philippines)と2つの民間ボランティア組織が共 同して行い,地域開発評議会がそれらの機関間. Studies)によって作成されたものである.. を調整していた.同プロジェクトの実施自治体 はコミュニティ・データ・ボードを設け,選定. の5つの戦略が具体化されているという (Bautista,2002).. された指標に関する各家庭および村(バランガ. ①地域開発活動の運営のさまぎまな局面におけ. バウティスタによればMBNアプローチは次.

(9) フィリピンにおける中央・地方関係についての一考察(佐々木). 表1. 基礎的喜7..≡ズ. 101. ミニマム・ベーシック・ニーズ指標. l-.馨董薫≡喜喜必要条件 1 2. A.食糧と栄養. (413). 3 4 5. 新生児の体重が最低2.5キロある. 5歳以下の子どもの体重が極端に軽くない. 鉄剤.ヨード剤を受給している妊娠中.授乳中の女性.. 乳児が最低4カ月間授乳される. 訓練された人の補助で出産した.. 6. 0-1歳児が完全に予防接種を受けている. 妊婦が最低2回破傷風の薬を得ている. 8 5歳以下の子どもで2度以上下痢をしていない. 7. B.保健. 9. 12. 一年以内に,予防できる要因によつて家族の誰かが死んでいない. 家族計画にアクセスのある夫婦. 過去6カ月の間に家族計画を実践している夫婦. 片溺で保健サービスを受けている.. 13. 飲料水ヘのアクセス(家から250メートル以内に水道栓か深い井戸)がある.. 14. 衛生的なトイレヘのアクセス. 10 ll. C.水と衛生. 堅壁塁星が茎壁的窒衣月匡皇壁つJ′≦._.皇__.≡._曇__≦窒窒_≦皇墓室塵堕_.坐空室. ■禦' E.住居. 16. 持ち家,貸家,共同の家が嘉る.. 17. 最低5年の耐久性がある.. 18. 人に対する犯罪の犠牲になつた世帯員がいない(例:レイプ,殺人,傷害等). 物ヘの犯罪の犠牲になつた世帯員がいない(例:泥棒,強盗等) 20 自然災害によつて被害を受けた世帯員がいない. 21 内戦によつて被害を受けた世帯員がいない. 22 世帯主が雇用されている. 23 15歳以上の他の世帯員が雇用されている. 24 所得が貧困ライン以上. 19. F.平和と秩序 /公共の安全. G.所得と雇用. -iう.㌔.,-■′;窒〒.-:-,■′-,77:I-:I-. 25 26. H.基礎的教育と 識字率. 27. I.参加. 10歳以上の世帯員で,読み書きと単純な計算ができる.. 29. 世帯員のうち,最低一人は団体,委員会,コミュニティ開発に携わつている. 世帯員が選挙で投票できる. 18歳以下の子どもで危険な職にういていない.. 31. 出典: Bautisb. 6-12歳で小学校に過つている. 13-16歳で中学校に過つている.. 28 30. ∫.ファミリー.ケア/ 心理的ニーズ. 喜=6歳児で デイケラか幼稚園bre;ch岩o1)に過つ〒いる.. 32. ドメスティック.バイオレンスがない.. 33. 7歳以下の子どもを放置していない.. (1999,P.6) ,国際協力銀行(2001). る人々の参画によって,彼らをエンパワーメン トする.. MBNアプローチはMBN指標を用いた調査に よって地方自治体で最貧困家庭を対象者として. ②中央あるいは地方における開発技術機関の機. 選定し,さらにニーズが満たされていない公共. 能と活動に民間セクターを巻き込み,開発活動. サービスを明確にする,というものである. ①健康,食糧・栄養,水・衛 MBN指標は,. への参加を可能にする. ③貧困地域および貧困家庭の選定により合理的. 生,衣類といった生存に関わる基本的要求と,. なスキームをもたらす.. ②収入・雇用・生計向上,住宅,平和と秩序・. ④人々の基礎的ニーズに合う資源を投入する.. 治安といった安全に関わる基本的要求,. 特に最底辺の人々が必要とするものに合致した. 育・識字,ファミリー・ケア/心理社会的要求,. 資源の提供を確実にする. ⑤貧困対策において国と地方自治体の活発な協. コミュニティでの仕事への参加などの授権的要 求という3つの大分類と10の中分類に分けて33の. 同を促進する.. 必要条件が設定されている(表1参照).前述の. ③教.

(10) 102. (414). とおり,. 横浜国際社会科学研究. MBNアプローチは2つの戦略ペーパー. から考え出されたものであり,そのためMBN指 標の構成を検討したのは2つの戦略ペーパーの作 成に関係していた貧困と戦う大統領委員会,フ. 第10巻第3. ・. 4号(2005年12月). もあるが,制度上,. MBNアプローチは収集し たデータを地域内の政策決定に役立てるところ までしか想定されていないためである.. しかし内務自治省は地方自治体の自助努力を. ィリピン開発研究所,社会福祉開発省,内務自 治省地方自治体アカデミー,フィリピン大学行. 促すために,. 政ガバナンス学部,. 者やさまぎまな関係者を対象に各種の研修を行. UNDP,. UNICEFといった. 機関であるが,それらが率先して数度の地域会. MBNアプローチを全国の地方自 治体に浸透させるよう,町長をはじめ実施担当. 議を行い,上記の基礎的ニーズを満たす33の必. い,地方自治体がMBNを実施する際に役立つ ガイドブックや実施マニュアルも対象者ごとに. 要条件をMBN指標としてまとめた.. 数種作成している22).しかし,得られたデータ. 1995年の行政命令第194. (AdministrativeOrder. をどのように活用するかは地方自治体の予算と. No.194)によりMBNアプローチは社会改革ア ジェンダのコンバージェンス戦略として採用さ. 能力にかかっている23).. れている.. 4.社会改革アジェンダ. MBNアプローチを主管していた政. 府機関は内務自治省と貧困と戦う大統領委員会. 社会改革アジェンダ(Social. Reform. Agenda:. であるが,実施にあたっていたのは主に内務自 治省で,貧困と戦う大統領委員会は関連省庁と. SRA)が最初に発表されたのは,. の調整の役割を担っていた. 社会改革アジェンダの開始後,社会サービス. トに関する幹部会であったが, 1997年12月8日の Act 8425)の上院 共和国法第8425号(Republic. の包括的統合的供給プログラムの支援対象に選 ばれなかった地方自治体では,引き続き内務自. 通過をもって制度化された.特に窮乏し,貧困. 治省主管による地方開発マネジメントのための. の人々の生活の質の向上や持続性・エンパワー. 包括的アプローチの事業として継続されている.. メントに取り組む,ラモス政権における重要プ. その活動によるデータは地域における政策決. 定に役立つだけでなく,社会サービスの包括的. 1994年6月17日. に大統領官邸で開かれた人民のエンパワーメン. にあえぎ,十分な待遇を受けていないセクター. ログラムである.. 社会改革アジェンダは次の4つの課題に取り組ん. 統合的供給プログラムの対象自治体と非対象自. でいる.. 治体との比較データとしても利用され,同プロ. A.社会的公平(social. グラムを主管する社会福祉開発省もそのデータ. equity) :貧困層のなか でも最貧困層に生存のための基礎的サービスヘ. を活用してプログラムの効果を計ることにも役. のアクセスをもたらす.. 立てられている.. ラムの下に行なう場合と,そうでない場合の違. B.経済的繁栄(economicprosperity) :国家の成 長に貢献できるよう,ベーシックセクターの. いは,収集したデータがどのように活かされて. 人々(農民,漁民,都市貧困層,先住民族,フ. いるかということに現れる.前者は収集したデ. ォーマル・インフォーマルセクターの労働者, 不利な状況にある女性,青少年,老人,障害者,. MBNアプローチを同プログ. ータを基に,必要条件を滴たしていない問題の 解決のためのプロジェクトが自治体内あるいは. 災害被災者)が生産的な資産を人手することを. コミュニティ内で形成され実施されるが,同プ. 確実にする.. MBN ログラムの非対象地域では,多くの場合, 指標のデータ収集が行われるのみで具体的な問. C.環境保障(ecological security) :天然資源の 管理と活用において持続可能な開発のパラメー. 題解決のプロジェクトには結びついていない.. ターを具体化する.. これは地方自治体における予算や人材の問題で. D.すぐに応答し責任あるガバナンス.

(11) フィリピンにおける中央・地方関係についての一考察(佐々木) 表2. (415). 103. 社会改革アジェンダ(SRA)の9つのフラッグシップ・プログラム L窒素,;_苧…妄葵._,1≧……プロ三三.ム名 l.憂整,_,〉要撃≡…藍蓋. No.. -I......軽重1,主管官庁. sRAの目玉プ自グラム.貧困削減を最大の目的とした社 会開発事業全般にわたるため,主管の社会福祉開発省を 支援する機関として保健省,教育省,労働雇用省,内務 自治省及び地方自治体が同プログラムに関わつている.. 社会サービスの包括的統合的供給 1. 社会福祉開発省. ComprebensiVeandⅠntegratedDeliVeryof SocialSerVices:CⅠDSS. SRAに先立ち1992年に都市住宅開発法(Urbanand 2. 住宅都市開発調整評議会. HousingDeVelopmentAct)が施行され,政府は1993年 から1998年までに124万戸の低所得者向け住宅を供給 する「国家住宅計画」を策定した.それに基づいて国 家住宅庁がマニラ首都圏の都市貧困層を対象とする公 共住宅の建設.供給を行つた.. 貧困層ヘの公共住宅供給 SocializedHousingDeliveryforthePoor. ケラミン.バンク.アプローチによるインフォーマルセ 3. 労働者の福祉と保護. 労働雇用省. クタ一に対する融資("CreditforthePoor"program) や,コーポラティブやNGOのプログラムを通じた融資カ 主な目的.. Workers'WelfareandProtection 墓1く葺.7■-7.■≡.-.y#-1:.1i.≒′1≦7,,. 4. 農業開発. 農業省. 農地改革コミュニティにおける農民及び小作農を対象と した農業開発,経済的エコロジカル開発.. ・Agricu1山raldeVelopment. 漁業及び水産資源保護管理開発 5. 農業省. 優先すべき湾及び湖における沿岸コミュニティの漁民を 対象.. FisheriesandAquaticResources ConseⅣationManagemeⅠ1tandDeVelopment. 先住民族文化遺産の尊重.保護.管理 6. 7. 8. 環境天然資源省. 先住民族の保護地域に認定された地域に住む先住民族を 対象とした,先祖伝来の文化遺産の尊重.保護.管理.. Respect,ProtectionandManagementof AncestralDomains. コンバージェンス地域でのインフォーマルセクター従事 著さ羊提供されるクレジツ卜を拡大する分野横断的プログ. 財務省. 融資の拡大. フィリピンランドバンク. EXpansion.of. 貿易産業省 労働雇用省. 生計向上. インフォーマルセクター従事者を対象とした分野横断的. Livelihood. プログラム.. Credit. ラム.. 主:,ll-≦墓室㌔∫≠毒:;. ガバナンスにおける組織形成と効果的参加 9. 地方自治体対象の研修事業や他のプログラムと連携した 分野横断的プログラム,. ⅠnstitutionBuildingandE丘ectiVe. 内務自治省. ParticipationinGovernance. 筆者作成. (responsive. governance) :政 策策定と決定において重要な関係者の意味ある. 域:. 参加を可能にする民主的な構造とプロセス.. 重要な役割は,地方自治体や市民社会に委ねら. and. responsible. これらの目標を達成するための9つのフラッグ シップ・プログラムが計画され実施された.そ の9つのフラッグシップ・プログラムの主管省庁 と主な内容は表2に示すとおりである.. convergence. areas)に位置するベーシック セクターの人々へのコミットメントに取り組む. れていた.. 中央省庁は主管省庁としての責任を担ってお り,その出先機関を通じてプログラムを実施す るのではなく,実施における権限は地方自治体 に与えられていた.. これらの主管省庁の役割は地方自治体と市民 社会を動員することである.政府は構造改革の. 1991年地方自治法以降,組 織再編による権限・人材・資機材の移管による. 途上にあり,社会改革アジェンダを通じて中央. 地方分権化が進んでいたが,全国的な事業の実. 主導の事業実施体制を変えようとしていた.そ. 施によって,地方自治体が移管された権限・人. のためこれらすべてのプログラムの実施におけ. 材・資機材を具体的に行使し活用する機会を得. る主要な責務は地方自治体に課されており,各 プログラムの対象地域(コンバージェンス地. たことは,一歩進んで,事業実施の側面での地 方分権化を促進したということができる..

(12) 104. 横浜国際社会科学研究. (416). 第10巻第3. 先に紹介したMBNアプローチは1995年3月. 4号(2005年12月). 込みの手法を通じてサービス供給の戦略をテス. (Proclamation No.548)によっ. に声明書No.548. ・. トする. ②MBNアプローチを通じて貧困家庭の生活の質. て社会改革アジェンダのコア戦略であることが 宣言されていたが24),そのフラッグシップ・プ. の向上における取り組みをモニターし評価する. ③コミュニティレベルの基礎的サービスの供給. ログラムのひとつである社会サービスの包括的 統合的供給プログラムは,社会改革アジェンダ. において民間セクターと公共セクターの間にパ. のすべての対象分野に関連するMBN指標調査 を実施することから,他のフラッグシップ・プ. ートナーシップを構築する. ④持続可能性のために地方自治体におけるプロ. ログラムと深く関係するものであり,特に重要. ジェクトの計画化や実施,モニタリング評価の. な基盤プログラムである.. 活動においてCIDSS戦略を制度化する. これらの目的のためになされるべきと考えら. Ⅳ.社会福祉開発省cIDSSの事例 社会サー (. ビスの包括的統合的供給. Comprehensive. Social. SeⅣices. れた取り組みは, A.各家庭やコミュニティの社. and : CIDSS. Integrated. 会活動への参加を準備すること,. Delivery. of. B.能力形成,. C.必要とされる社会福祉サービスの供給, MBN指標を使った人々の生活向上促進のモニ. ;呼称シッズ)はヲモ. ス政権下に始まった5カ年計画(1994-1998)の. タリング評価,の4点である.また特に,窮乏. プログラムである.. し,恵まれず,十分な供給を受けていない. MBNアプローチを実施す. ることから,前述の社会改革アジェンダの9つの. (depressed,. フラッグシップ・プログラムの中で最も総合的 なプログラムであると評価されている.プログ. (poorest of. deprived,. underseⅣed)最貧国層. the. poor)の人々を最優先の対象者 とすることが明確にされている.. ラムの終了時には同プログラムの戦略が地方自. 事前の変更として,既存のプログラムの統合. 治体内において制度化されることが期待されて. 化が行われた.主管の社会福祉開発省は5つのプ. いた.. ログラム27)を実施現場のレベルで統合した.ま た他の社会サービス供給に関連する省庁も整理. 現在,アロヨ政権下でKAIJAHI-CIDSS. (呼. 称:カラヒーシッズ)と名称を変え,特にバラン. されて,就学前クラスや学校建設,コミュニテ. ガイを対象にした貧困対策プロジェクトとして. ィ・ヘルス・サービス(母と子の健康,家族計 画,環境衛生,ワクチン接種,他)などの供給. 継続している25). ここではCIDSSの概要をまとめることを通し. は統合された.そのほか,自営者支援やフ.-ド. て,地方行政構造の変化,特に事業戦略や運営体. セキュリティ,親が果たす効果的な役割や責任. 刺,運営アプローチの変化について考察する.. に関する支援,災害被災者個人への支援,就学 前教育支援などの,セイフティネット制度の実. 1.概. 要. CIDSSはラモス政権下の1994年に計画され開 始された社会福祉開発省主管のプログラムであ. 施を強化することが必要とされた.このほかに もCIDSSによるはじめての取り組みについて 具体的な検討がなされた.. り,またそれ自体が4つの手法を含むひとつの戦 略でもある. 実施ガイドライン26)に示されているプログラ. 2.実施体制 CIDSSを主管するのは社会福祉開発省である. ムとしての目的は次の4つである. ①トータル・ファミリー・アプローチやサービ. が,前述のとおり,保健省,教育省,労働雇用 省,内務自治省及び事業実施対象となった地方. スの統合,コミュニティの組織化,対象者の蔽. 自治体が関係している.. D..

(13) (417). フィリピンにおける中央・地方関係についての一考察(佐々木). DSWD. 105. -CⅠDSS. NATⅠON. ALPrqiect. Managem. entTeam li. [. ーcⅠDSS. fsecretariat. National. Ⅰnteragenc. Commi仕ee. l. (N. WSWD-CⅠDSS TechnicalWorking DSWD. CⅠDSS. eag10na1. nCyOmle. Reag10n. Managem. Interagenc*Committee (PⅠAC) CⅠDSSMunicipa1. entTeam. 厩ヨT). (RⅠAC). CIDSSProvincia1. _cIDSSGroupCrWG) alProject lcⅠDSSRegiona1. lsecretariat. DSWD eau. CⅠDSSⅠm. ⅠnteragencyComm出ee. sl. (MⅠAC) CⅠDSSBarangay ⅠnteragencyCommi仕ee. (BIAC). 出典:. Bautista,. 1999,. 図1. p.32. CIDSS運営組織図(1996年省指令第41による組織図). 1994年当初の計画ではCIDSSの対象は33州. 同省の地域事務所には地域マネジメント・チー. 内の75町, 150バランガイであったが,最初に実 施されたのは,まず社会改革アジェンダで実施. ム(Regional ManagementTeam: RMT)が置か れ,地域監督官(Area SupeⅣisor)とその下に. されている他のフラッグシップ・プログラムと. 各地方自治体に配置されるCIDSS実施担当者. の連携が考慮され,フィリピン人間開発指標 (HDI)28)のいくつかの指標から貧困州として社. (CIDSS Worker)が属している.地域事務所に はCIDSS事務局(RegionalSecretariat)も設置さ. 会改革アジェンダの実施州に選ばれていた19州. れている.. 内の自治体であった29). 1995年には49州内の第 625バランガイが加えら. この社会福祉開発省と上記の関係実施機関と. 5,第6クラスの200町, れ,対象は毎年増加していった.また1998年か. の連携を担当するのが組織間委員会 (Interagency Commi仕ee: IAC)であるが,これ. らは最初に対象とされたバランガイが自治体独. は中央政府レベル(NIAC) ,地域レベル(RIAC) 州レベル(PIAC),町レベル(MIAC),村レベ. 自にCIDSSプログラムを行うよう準備が進め られた. 2000年時点では809バランガイ,. 2004年. では1584バランガイがターゲットとされた.. 実施体制は(図1参照),主管である社会福祉 開発省には国家プロジェクト・マネジメント・ チーム(National. Project Management. Team). が置かれ,それを補佐するCIDSS事務局 (Secretariat)が設置されている. また省内にはプロジェクトの技術的側面を担. ル(BIAC)にそれぞれ設置され,各レベルにお ける省庁間・担当部局間の連携に当たっている. またNIACの上には政策決定や評価を行う機関で あるCIDSS国家監督委員会(National. Oversight. Committee)が設置されている.これらの機関 は社会改革アジェンダの他のフラッグシップ・ プログラムとの関係を調整する社会改革委員会 (SocialReformCouncil)のテクニカル・ワーキン. 当するテクニカル・ワーキング・グループ. グ・グループ(Technical. (Technical. も関係している.これは中央政府レベル,地域. Working. Group)が置かれている.. ,. Working. Group)と.

(14) 106. (418). 横浜国際社会科学研究 表3. 第10巻第3. ・. 4号(2005年12月). CIDSSの組織構成とその機能. 国家レベルの機関.社会福祉開発省長官が委員長を務め,メンバーは保健省,教育省,内務. 自治省の関係機関長のほか,青少年,学生,障害者,女性,老人,災害被災者を代表する分 ・野別代表者で,職権上のメンバーとして社会福祉開発省のCⅠDSS国家プロジェクトマネー CⅠDSS国家監督委員会. (Nationa10Versigbt Commi仕ee). ジャーとプロジェクトディレクターがその任にあたる.同機関の職務は主に,社会改革ア ジェンダと調和したCⅠDSSに関する政策形成と,他のフラッグシップ.プロジェクトとCⅠDSS の対象地城でのコンパージュントポリシーの実施′運営における調整,政府機関間,分野間で. 必要な活動の究明,CⅠDSSのコンバージェンス地域,統合分野でのすべての関係組織間の資金 の合併整理である.また, 社会改革アジェンダのマスタープランの運用に関連して,CⅠDSSの 実施状況のモニタリング評価も行う.. 組織間委員会は社会福祉関東省とその各地域事務所,また州,-町,村にもそれぞれ設置され, 各レベルで社会改革アジェンダの技術活動局(SRATechnicalActionOfBcer:TAO)と関連し ている.. 国家組織間委員会(Nationa1ⅠnteragencyCom皿i仕ee)は社会福祉開発省の社会改革アジエ CⅠDSS組織間委員会 (InteragendyCommittee:. 技術活動局が出席する.そのほか公共事業道路省や国家統合開発計画委員会(NationalProgram. ⅠAC). forUni五cationandDeVelopmentCounci1:NPUDC)などの技術活動局からも出席が認められて. ンダ技術活動局が議長となり,委員にはパートナー機関である保健省,教育省,内務自治省の. いる.国家組織間委員会の職務はCⅠDSSの運営に必要な,組織間′分野間の年間計画や予算配 分,組織間/分野間活動に求められる政策提言,完了報告書といつた技術的な要件を準備する ことである.社会改革アジェンダの実施や統一性を確実にするために他のフラッグシップ. プログラムや地域や分野におけるカウンターバー卜との調整を行う.CⅠDSSの実施状況を再考 するためのモニタリングを行う. プロジェクトマネジメントチームは社会福祉開発省と その各地域事務所に設置されている.. 国家マネジメン\トチーム(NationalManagementTeam)は社会福祉開発省CⅠDSSプロジェクト CⅠDSSプロジェクト.マネジ メント.チーム. (ProjectManagementTeam). 管理局に属し,同省長官が議長となつて,副長官のサポートを受け,省内の関連する4つの局 の副長官や局長がチームメンバーとなつている.チームの職務は,対象者やコンバージェンス. 地域ヘ提供されるプログラムのコミットメント(実施者ヘの委任)を確実にすることによる, CⅠDSSの全体的な運営管理である.そのほか,チームはコミットメントの効果的で効率的な実 施のために必要な補助的な協定やガイドラインを決定し,コミットメントの実施における間. 題解決や,モニタリング評価も行い,すべての社会改革アジェンダとの実施/運用を調整す る.. CⅠDSSテクニカル.ワ-キン グ.グループ. (TechnicalWorking Group). 社会福祉開発省内に設置されているCⅠDSSテクニカル.ワーキング.グループは,CⅠDSSの技 術的な活動を直接担当している.社会福祉省のユニットや政府機関,NGOとともに技術的に必. 要なすべてのことを調整し,ベーシックセクターをファシリテ-卜して,社会改革アジエン ダの効果的な実施を確実にすることが,その職務である.実施状況のモニターや地域からの 報告をレビューし,政策やプログラムに関する提言も行う.CⅠDSS運用マスタープランの方向. 性を提案し,地域マネジメントチームの支援も行つている. 事務局は社会福祉開発省の本省と地域事務所に置かれている. 本省の事務局はプロジェクトディレクターを局長に,■ナショナルコーディネーターや3地域の コーディネーター,複数のアナリストなどを事務局メンバーに抱えている.事務局の業務 は,社会福祉開発省内に置かれている国家プ白ジュクトマネジメントチームやテクニカル. ワーキング.グループを支える技術スタッフや総務スタッフを提供することである.そのほ か,年間事業.予算計画やその他の業績報告書,技術報告書の作成と提出を行い,pCIDSSの情 報センターとしても機能している.地域事務所に置かれたCⅠDSS事務局は地域マネジメントチ. CⅠDSS事務局. (Secretariat). -ムをサポートしている. 地域監督官. (AreaSupeⅣisor). 実施担当者はCIDSSワーカ-(CⅠDSSWorkers)とよばれ,地方自治体やコミュニティに直接. CⅠDSS実施担当者. (CIDSSImplementators) 出典: Bautista. 地域監督官はCⅠDSSワーカーを監督している.. 関わる存在である.. (1997, 2002)より筆者作成. レベル,州レベル,町レベルまで設置されてい. 分散化を図り,各省が連携し調整して事業を行. る.. うこととなった.また対象者にもっとも近いと. この実施体制は行政事務を複雑化させるよう にもみえるが,. CIDSSプログラムの主管官庁が 検討された際に,社会福祉開発省がそれを引き 受けることに難色を示したため,権限や責任の. ころの地方自治体やNGO,住民組織が大きな役 割を担うことで事業の効果・効率を高めること が図られた.. CIDSSに採用された戦略によって 地域が持続可能なように地方自治体の行政能力.

(15) フィリピンにおける中央・地方関係についての一考察(佐々木). (419). 107. を高め,活性化させるというこのプログラムの. い比較的安全な地域が選ばれたり,あるいは人. 目的を考えると,フィリピンにおいてこれまで. 口が過密に集中した地域が選ばれたり,極力交 通の便が悪い地域が選ばれるなど,地域の事業. にないこの組織構成は,. CIDSSによる地方行政. 体制改革の挑戦である.. 実施中核メンバーの監督の下,さまざまなバイ. 3.プログラムの戦略. アスがかかっていた.そのためターゲットの蔽 込みは全国共通の基準を採用したとはいえず,. CIDSSの主要戦略には,コンバージェンス,. それが同プログラムにおける欠点であったと考. ターゲットの絞り込み,コミュニティ基盤アプ. えられている.その反省に基づいて,. ローチ,トータル・ファミリー・アプローチの. はMBN指標を用いた共通の基準によって確実. 4つが挙げられている.前者3つの主要戦略は. に,窓意的でないターゲットの絞り込みが行わ. MBNアプローチで用いられた方法論である. ①コンバージェンス. れた.. コンバージェンスとはここでは,底辺にいる. CIDSSで. ③コミュニティ基盤アプローチ. 貧困層家族や地域社会の最低限の基礎的ニーズ. コミュニティ基盤アプローチは,地域社会が 中央政府の意思決定過程や,地域社会における. に取り組むなかで政府やNGO,住民組織の資源. より効果的な対象者の認定及び社会サービスの. を共同管理することをいう.それは社会開発プ. 供給においてより大きな影響力を持つために,. ログラムやその実施機関によって,それぞれの 資金や人材,サービス,介入に同時性を持たせ. 組織化されたグループとして機能するように地. るものである.機関間の関係を作り出し,ある. る.すでに実施された分野別のプログラム,例. いは強化し,協働しともに問題に取り組む場を 提供するものである.. えばpHC事業などによってコミュニティ基盤. この概念は前述した地域基盤子どもの生存開 発計画で展開されたコンバージェンス・アプロ. 域社会を動員することを必要とする方法論であ. の努力が引き出されており,その成果より示唆 を与えられ社会改革アジェンダにおいても同ア プローチが採用されている.社会改革アジェン. ーチに由来している.同計画はUNICEFによ. ダにおいてコミュニティの組織化を採用したこ. って資金提供され,省庁の最前線の技術職員が 地方自治体行政官やNGO,住民組織と一緒に. とは,コミュニティレベルでのさまぎまな実施. 機関の協働の促進につながっている.. なって子どもの福祉の促進に努力したプログラ. ④トータル・ファミリー・アプローチ. ムであった.. ②ターゲットの絞り込み ターゲットの絞り込みは,各関係機関が集ま ったコンパージュントチームがMBN指標を用 いて公共サービスの優先的受益者とされる個人, 家族もしくは地域を認定するというアプローチ. トータル・ファミリー・アプローチ(Total familyApproach)は,最底辺にいるコミュニテ ィの人々の要求や必要,まず家族レベルの要求 に焦点を当てている. これらのほかMBNアプローチはもちろん,. である.前述の地域基盤子どもの生存開発計画. ローカル・インフォメーション・システム,社 会的動員,能力形成,財政管理などの手法もそ. でも戦略に採用されており,その時のターゲッ. れぞれCIDSSに取り入れられることが想定さ. トの絞り込みは乳幼児死亡率や栄養失調率,戟 学率,収入などの指標を用いた合理的な基準を 設けて行われることになっていたが,しかし実. 際には,例えば対面調査を行う担当者に配慮し てテロが頻発するミンダナオでは身の危険がな. れていた..

(16) 横浜国際社会科学研究. (420). 108. 表4 期. 第1 フエ. -ズ. 第2 フエ. -ズ. 時期. 1950年代半ば -1972年. 1972年 -.1985年. フエ. -ズ. 1986年 -1990年. ・. 4号(2005年12月). フィリピンにおける社会開発政策の変遷 主要な取り組み/ 事業名(実施年). 社会開発政策の特徴 社会開発は経済発展を達成する ためにそれを補うものとして, 基本的社会サービス(教育と保 健.医療)と社会福祉事業に取 り組む.. 開発政策全般において,中央政 府から地域レベルまで開発活動 が総合的に運営される,中央省 庁のコミュニティ志向,. Ⅰ. 第3. 第10巻第3. 「公正で公平な社会における貧 困撲滅と,それぞれの,そして すべてのフィリピン人のための よりよい生活の達成」を目的と し,貧困,所得格差,高失業. 未就職,都市と地方の格差と いつた問題に対処する社会開発 プログラムを計画. 地方自治におけるNGOの参画を 制度化.. 事業戦略.アプローチ/ サブ.プログラム. 職業訓練,マラリア対策,結核 対策,水道.衛生施設の建設, 所得創出,住宅供給,子供の福 祉サービス,障害者の訓練サー ビスなど. 包括的地域開発プログラム,医■ 痩,教育,社会福祉,公共住宅 建設,人口増加抑制計画,栄養 補給計画,プライマリー.ヘル ス.ケア,貧困対策. コミュニティ開発アプローチ(地 域ボランティアワーカーの活用) ボトムアップアプローチ. 3R(読み書き計算能力)の向上/ 分権化教育開発プログラム 中等教育の無料化など/ 中等教育開発プログラム 免疫に関する拡大プログラム スラム地域の住宅環境改善 コミュニティ健康開発. 栄養失調児の選定とその家族を 対象とした支援プログラム フィリピン貧困ラインの設定. コミュニティ基盤アプローチ 貧困州の選定 地方分権化. 地域基盤子供の生存開発プログ ラム(1987年-1992年). コンバージェンス. 社会的動員 ターゲットの絞り込み. 子どものための国家計画(1992 午-1998年) 地方自治体レベルでの社会開発 マネジメントの能力(社会開発 事業における現状分析.事業の 計画.実施.モニタリング.評 価:SAPⅠME)の向上を目的と したプログラムの計画.実施.. ミニマム.ベーシック.ニーズ. (MEN) コンバージェンス. ターゲットの絞り込み 地方開発寸ネジメントのための 包括的アプローチ(ⅠAⅠノDM). コミュニティ基盤アプローチ 地域情報システムの整備 社会的動員 能力形成 財政管理. 上位目標は人々の`良質な生活 (qualityoflife)'の獲得.. コミュニティ基盤子どものモチタ コミュニティ基盤情報システム. ティヘルス. 1991年以降 Ⅱ. エストラ-ダ. ミニマム.ベーシック.ニーズ. 政権まで. (MBN)アプローチ 社会サービスの包括的統合的供 袷(CⅠDSS)(1994年-現在) 貧困層ヘの公共住宅供給 労働者の福祉と保護. 社会改革アジェンダの制度化 (1994年)により,社会的公 辛,経済的繁栄,環境保障,氏 主的なガバナンスに取り組む.. 農業開発.経済的でエコロジカ ルな開発 沿岸コミュニティ向け漁業開 発t水産資源保護管理開発 先住民族遺産の尊重.保護.管 哩. 融資の拡大 インフォーマルセクター従事者 の生計向上 ガバナンスにおける組織形成と 効果的参加 筆者作成. リングシステム. 包括的地域開発によるコミュニ. 1ALDM戦略と貧困緩和戦略の融合. 社会改革アジェンダの実施におい てプログラムの統合,実施機関の 連携,運営能力形成を図る すべてのプログラ■ムでミニマム. ベーシック.ニーズ(MBN)アプ ローチを基本とする CⅠDSSではコンバージェンス(資源 等の集中化).ターゲットの寂り込 み.コミュニティ基盤アブロー チ.トータル.ファミリー.アプ. ローチを採用.

(17) フィリピンにおける中央・地方関係についての一考察(佐々木). Ⅴ.社会開発政策の実施体制の変化と 中央・地方関係への影響 1.メッシュ構造のマネジメント体制. (421). 109. 組織などの間に結ばれ,例えば州政府や地域事 務所といった上位の地方自治体や行政機関に対 し横の関係を築いていった.また地方分権化が 進められ,地方自治体間の連携が促進されるよ うになり,地方自治体のグループ化による共同. 一重直的行政管理と水平的協働関係 フィリピンの地方行政は,戦前の植民地統治 から独裁政権までに根付いた中央集権的/縦割. 事業も実施されるようになった.このような横. り行政から,. ぶこととする.. 1986年代の民主化運動を経て,. の線で示される協働関係を水平的協働関係と呼. 1991年地方自治法施行によって権限・財源・人. さらに現在は,垂直的行政管理と水平的協働. 材の分権化が制度上行われ,新しい中央・地方. 関係が重なり合ったメッシュ状の中央・地方関. 関係が構築されたところである.筆者はこの地. 係を見ることができる.. 方行政の体制を垂直的行政管理および水平的協. ラモス政権期に始まった社会改革アジェンダ. 働関係という言葉で表すこととし,さらに最近. は,. の取り組みに見られるネットワークの構造がメ. り,多くの主管官庁と地方自治体が事業運営に. ッシュ状の特徴を持つと考えている. 戦前の植民地統治期から戦後の共和国独立期,. 携わっている.その関係を抽象化したものが図. マルコス政権による独裁政権期までは中央集権 がとられており,中央と地方との関係は縦の線. 9つのフラッグシップ・プログラムから成. 2である.ひとつのプログラムを見ると最上位に プログラム実施を主管する中央省庁があり,そ の下層に地域事務所レベルから村役場レベルま. で描かれる上から下へという関係でしかなかっ た.フィリピンに特徴的といえる政治権力の集. で担当部局や担当者が存在する.その縦ライン. 中は行政活動への政治的干渉を招き,そのため,. する.またフラッグシップ・プログラム間の連. 中央行政機関は十分な能力を発揮し得ないでき. 携を促進する調整機関や評価を行う監督機関の. ていたように思われる.しかし独裁政権下では. 縦のラインも平行している.そして,そのよう. 地方自治が限られていたことから,地方に対し. に何本も並んだ縦のラインを横につなぐ関係が. てはやはり中央行政機関が財政的権力や許認可. それぞれのレベルで存在する.それは調整機関. の権限を握り,官僚の汚職や行政事務の遅滞と. を中心とするものや,プログラムAとプログラム. いった事態を招いていた.中央政府の地方開発 事業は省庁毎に実施される縦割り行政が行われ,. Bとの実施機関間の連携など,さまざまな横の関. トップダウン式の事業運営が行われていた.こ. ンを合わせると碁盤状の関係が見られる.ただ. に平行して別のプログラムの縦のラインが存在. 係が考えられる.それら垂直ラインと水平ライ. のことから,官僚制の弊害が指摘されていたこ. しその関係は碁盤のように固まったものではな. の時期の中央・地方関係を垂直的行政管理とい. く,それぞれに配置された組織のさまざまな連. うことばで示すこととする.これはマルコス政. 携が可能であることから,その構造の性質はメ. 権に取って代わったアキノ政権によって民主化. ッシュ状と考えることが適当である. CIDSSプログラムは,社会福祉開発省が主管. が行われるまで続いた. 次に注目されることは,民主化により民間セ クターなどさまぎまなアクターが政治の場に登 場し,発言権や決定権限さえ得ることが可能と. していながら,保健省,教育省,内務自治省が 事業運営に加わる複合的なプログラムである. それを例にとっても図2のような事業運営体制が. なったことで,水平の協力関係が生まれてきた. 観察され,そのためフィリピン政府は意図的に. ことである.協力関係は地方自治体とNGOや. このメッシュ構造の中央・地方関係を作り出し. コーポラティブといった職種別共同組合,住民. ていると考える..

参照

関連したドキュメント

計画断面 計画対象期間 策定期限 計画策定箇所 年間計画 第1~第2年度 毎年 10 月末日 系統運用部 月間計画 翌月,翌々月 毎月 1 日. 中央給電指令所 週間計画

計画断面 計画対象期間 策定期限 計画策定箇所 年間計画 第1~第2年度 毎年 10 月末日 系統運用部 月間計画 翌月,翌々月 毎月 1 日. 中央給電指令所

今年度第3期最終年である合志市地域福祉計画・活動計画の方針に基づき、地域共生社会の実現、及び

平成 28(2016)年 5 ⽉には「地球温暖化対策計画」が閣議決定され、中期⽬標として「2030 年度に おいて、2013

2013

(6) 管理者研修:夏に、 「中長期計画策定」の演習/年度末の 3 月は、 「管理者の役割につ

これらの状況を踏まえて平成 30 年度に策定した「経営計画」 ・

○緑化計画書制度 ※ ・開発許可制度 ※ の強化 自然保護条例に基づく緑化計画書制度や開発