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言語的規則の習得における事例の誤入力と学習ペースの交互作用

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(1)99. 言語的規則の習得における事例の誤入力と 学習ペースの交互作用 ・U告1:f. (平成元年9月30日受理) ミニチュア人工言語(Miniature Artificial Language : MAL)を用いた言語習得研究 は,規則的構造を持つ体系に対する人間の情報処理能力や情報処理過程の実験的研究とし て位置づけられる(守, 1982b)cその基本的手続きは,規則体系が生成する文の1部が 言語入力として与えられ,これから規則体系としての言語を習得するというものである。 また,その習得過程は言語入力から種々の仮説を設定するとともに,言語入力によってこ れらの仮説を検証し,その結果を基に規則体系を構成する一連の過程で,一般的には仮説 検証過程としてとらえられる。従来より,自然言語習得研究を始めとして,心理言語学あ るいは言語学で得られた知見や示唆(たとえば, Chomsky, 1959, 1965 : Greenberg, 1966 : McNeill, 1971 :Snow, 1972, 1977:Newport, 1977)を基にして,習得に及ぼす指示 物,統語標識,言語入力に含まれる誤り(誤入力)などの要因の効果が様々な観点から検 討されてきた。 これに対して,黒岩(1989)はその習得過程や習得メカニズムを検討する上で,習得の 個人差が重要な手がかりとなる可能性を指摘し,個人差の生起に関連すると考えられる要 因の1つとして学習ペースの効果を検討した。そこでは学習ペースは習得事態の自由度と してとらえられ,言語入力としての事例の呈示回数及び呈示時間の学習者ペース化の効莱 が検討された。すなわち,呈示回数のみを学習者ペースとした習得事態(自由度中)と, 呈示回数及び呈示時間を学習者ペースとした事態(自由度高)が設定され,両事態の学習 のパフォーマンスが両者とも実験者ペース(自由度低)のそれと比較されたoその結果, 習得事態の自由度と習得に要した事例は1次関数的に対応しており,自由度が高くなるほ ど少数の経験事例で習得が可能になり,特に呈示時間の学習者ペース化が事例数の減少に 寄与することが明らかにされた。一方,事態の自由度と習得に要した累積呈示時間の問に は逆U字型に近い関係が兄い出され,経験事例数の減少にともなう累積呈示時間の増加と いった,両測度間におけるトレードオフの関係が1部に認められた。これより,呈示時間 の学習者ペース化のみでは累積呈示時間は減少しないのに対し,呈示時間と呈示回数の学 習者ペース化が複合された場合には,経験事例数も累積呈示時間も減少することが明らか にされた。さらに,呈示時間が学習者ペースである自由度中及び高事態間の1事例当たり の平均呈示時間に有意差はなく,呈示回数の学習者ペース化の効果は認められなかった. 以上のように,いずれの学習者ペース化もその効果の方向性は必ずしも明確ではなかった。 そこで,本研究では呈示回数の学習者ペース化に焦点を当て,その効果を再検討すること を目的の1つとした。 ところで,太田(1976)は系列学者における学習者ペースと実験者ペースの効果を比較 し,学習完成までの試行数は前者で少なく,特に項目間に規則性が存在するリストでその 効果が最大になることを兄い出している。学習課題の違いはあるが,上述の経験事例数に 関する結果はこれと一致しており,課題の規則性と学習ペースの関連性についても検討. '兵庫教育大学第1部(教育方法講座).

(2) 100. の余地が残されているMAL習得研究においては,課題の規則性は習得過程における事 例の規則性として位置づけることが可能であろう。すなわち,習得課題それ自体は規則体 系であり,その複雑性に違いはあっても,規則性には差はないと考えられるが,事例の誤 入力は習得過程における不削り性としてとらえられるoなぜなら,習得される規則体系は結 果的に同じであっても,習得過程における不規則事例の存在は,習得過程の初期には規則 体系自体の不規則性によるものとして学習者に認知されるであろうし,習得が進んだ後期 の段階においては不規則事例が規則体系の例外として処理されたとしても,規則体系自体 は不確定性を持っものとして認知されていると推測されるからである0 事例の誤入力の効果を検討した研究においては,いずれもある程度の誤りが言語入力に 含まれていても,習得は可能であることが明らかにされている(守, 1980:Mori, 1981, 1982a :黒岩, 1981, 1987 : Kuroiwa, 1986 : Nagata, 1983)c同様の結果は指示物を持 たない言語習得課題でも得られている(Braine, 1971 : Smith, 1973)。 Mori (1981)は 学習者ペースで事例の観察が可能な手続きを用いて,誤入力の効果を検討したが,誤入力 の有無による事例の観察時間に差は見られなかった。しかし,学習者が言語入力の誤り (不規則性)の存在に気づいた場合,不規則事例の観察時間が規則事例のそれより長くな ることが明らかにされた。この研究では,不規則事例の習得に及ぼす効果を検討するため の方法として学習ペースが位置づけられているが,種々の条件下での習得に影響を及ぼす 要因として学習ペースをとらえる必要もあると考えられる。また, Mori (1982a)は誤入 力が引き起こす習得上の障害に2つのタイプを仮定し,それらが克服される過程の説明を 試みているが,これらの過程や習得のメカニズムを明らかにする上でも学習ペースの検討 は必要であろう。 従って,本研究では事例の誤入力と学習ペースの関連を検討することを目的とした。す なわち,上述のように誤入力を習得過程における不規則性としてとらえ,そこに機能する 習得事態の自由度としての学習ペースの効果を検討することにする。効果の方向性の一般 的予測は難しいが,太田(1976)の結果がMAL習得課題にも当てはまるとすれば,習 得に要する経験事例数に及ぼす学習ペースの効果は,誤入力がない条件下でより大きくな ると予測される。学習ペースとしては,先に述べたように呈示回数の学習者ペース化を取 り上げ,誤入力のレベルとしては,従来の研究を基に20%を設定した。誤入力の効果を検 討した従来の研究で用いられたMALは,統語構造のみならず指示場面の具体性などの 点でもかなり異なっており,単純に比較することは困難であるが,およそ20-30%の値の 誤入力が言語習得にとってcriticalであると考えられる。従って,本研究では20%の誤入 力レベルとした。. 方法 装置パーソナルコンピュータ(NECPC-9801VX)によって,学習材料の呈示,呈 示回数と呈示時間の実験制御,反応の計測及び記録を行った。 学習材料Kuroiwa (1986)が用いたMALの語嚢と統語規則の1部を改変し,この 習得を課題としたMALの語嚢として11個のCVC無意味綴り(Archer (1960)の連想 価41-58)を選択し,これを使用単語とした。このうち7語は発音を容易にするため,綴 りの後に1文字付加したものであった。各単語はそれに対応する指示物を持っており,こ れらの組み合せによって指示場面を表現した。各単語は5つのクラスのいずれかに分類さ.

(3) 言語的規則の習得における事例の誤入力と学習ペースの交互作用. 101. れ, MALの文は各クラスからの1語,計5語から構成された。ただし,図形Cの枠のク ラスの単語はPEZOのみなので,指示場面中にこれに対応する指示物が含まれない場合, 文は計4語から構成された。 Tablelに単語と対応する指示物及びそのクラスを示した。 指示場面中には上記の単語だけでは指示されない2タイプの意味関係が表現された。第 1のタイプは図形Bと図形Aの位置関係で,図形Bの上に(on)図形Aがある場合と, 図形Bの下に{under)図形Aがある場合の2種類であった。第2のタイプは図形Aの移 動の仕方で,図形Aが図形Cの上を越えて移動する{jump-over)場合と,図形Aが図形 Cに向かって水平に移動する(shift-to)場合の2種類であった。両タイプの意味関係が 組み合わされて指示場面に表現された。これらの指示場面の例をFig. 1に示した。 指示場面の意味関係は2種類の統語標識によって文中に示された。その1つは語順で, 意味関係のonとunderは文中の最後から3つの単語の順序によって表現された。すなわ ち, onは図形B,図形A,図形Aの色の各クラスの語がこの順序で配置されることで, underは図形A,図形Aの色,図形Bの語順配置で表された。一方,意味関係のjumpoverとshift-toは,文中に図形Cの枠のクラスの単語がある場合,第1, 2番目の語順 によって表現された。すなわちjump-overは図形Cの枠,図形Cの語順で, shift-toは Table l人工言語の単語と指示物の対応及びそのクラス. クラス単語(指示物). 図形VAX(三角NALL(四角RYBAC円) 図形Aの色TUSSC青WECKC赤MYN(黄) 図形ZON(中塗り菱形) TIGGC中抜け菱形) 図形LUF(十字DYSSC星) 図形Cの枠PEZO(枠). Fig. 1指示場面と文の例 (指示場面中の色名語と文中の下線は呈示されない).

(4) 102. Table2意味関係と語順. 意味関係語順 JUMPrOV,ER UNDER. 図形Cの枠+図形C+ 図形A+図形Aの色十図形8. SHIFT-TO UNDER. 図形C十図形Cの枠十 図形A+図形Aの色+固形B. JUMP-OVER ON. 図形Cの枠+図形C+ 固形B+図形A+図形Aの色. SHIFT-TO ON. 図形C十図形Cの枠+ 固形B+図形A+図形Aの色. 図形C,図形Cの枠の語順で示された。文中に図形Cの枠のクラスの単語がない場合,こ れらの意味関係は語順では表現されなかったTable2に以上の語順と対応する意味関係 を示した。 もう1つの統語標識の接尾辞によっても,上述の意味関係が文中に示された。意味関係 のonは図形Bクラスの語の末尾に"I"を, underは"0"を付けて表現されたo同様に, jump-overは図形Cクラスの末尾に"AU"を, shift-toは"E"を付けて表現された.こ れらの文の例をFig. 1に示した。 要因計画と手続き学習は習得試行とテスト試行から構成したセッションを繰り返すこ とによって行われた。習得試行では事例(指示場面とそれを記述した文)がマイクロコン ピューターのディスプレイに呈示され,これらの言語入力としての事例から,言語体系を 学習することが被験者に求められた。続いて行うテストでは習得のレベルを測定するため に,呈示事例における文と指示場面の対応の正誤判断が求められた。 事例の誤入力と呈示回数の学習者ペース化の効果を検討するために, 2 × 2の要因計画 を用いた。第1の要因は習得試行における事例の誤入力のレベルで,以下の2条件を設定 した。 ①呈示事例にまったく誤りのない条件,すなわち文と指示場面の対応が正しい事例 のみ呈示する条件(Correct Inputs : CD, ②呈示事例の20%に誤りがある条件,すなわ ち文が指示場面を正しく表現していない事例が20%の割合で含まれる条件(Mistaken Inputs:MI)を設定した。第2の要因は習得試行における学習ペースで,以下の2条件を 設定した。 ①各セッションでの事例の呈示回数が実験者ペース(20回に国定)の条件 (Experimenter-Paced : EP), ②回数が学習者ペース(1 -100の任意の回数)の条件 (Learner-Paced : LP)を設定した。なお,両条件とも1事例当たりの呈示時間は学習者 ペースとしたが, 120秒を制限値とした。 2要因とも被験者間変数で, CI-EP, CLLP, M I-EP, MI-LPの計4条件で事例が呈示された。 習得試行における呈示事例としては100事例を用いた。これらの事例は2タイプの意味 関係の組み合わせ及び各クラス内で文に含まれる語がなるべく等しくなるように,生成可 能な288事例のうちから選択したCI-EP及びMI-EP条件では20回の事例呈示が終了す るとテストに移った。 CI-LP及びMI-LP条件ではキ-押下による任意時点でのテストへ の移行が可能であった。呈示事例は100事例の内からランダムに1事例ずつ取り出し被験 者に示したが,その呈示順序はすべての被験者で同一であった。被験者のキー押下によっ て次の事例を呈示し,事例の呈示からキー押下までの時間を各事例の呈示時間として測定.

(5) 言語的規則の習得における事例の誤入力と学習ペースの交互作用. 103. した。ただし,呈示時間が120秒になった場合,自動的に次の事例を呈示した。さらに, CI-LP及びMLLP条件では各セッションごとの呈示回数も測定した。また, MI-EP及び MI-LP条件では呈示事例の20%を誤入力とするため, 100事例のうち20事例は文と指示場 面が対応しないように,統語標識や単語を変化させた。 テストでは習得試行での使用事例を除いた残りの188事例から,先述と同様の手続きに より10事例3組を選択した。これらの計30事例の指示場面は被験者にとっていずれも novelなものであった。各組のテスト事例の半数の文には,指示場面と対応しない統語標 識や単語を割り当てた。被験者にはテスト事例の指示場面と文の対応の正誤判断,すなわ ち文が指示場面を正しく表現しているかどうかの判断を求めた。判断は被験者ペースで行っ た。セッションごとにランダムにいずれか1組のテスト事例を用いたが,呈示順序はすべ ての被験者で同一であった。テストと習得試行は連続して行ったが,セッション問の間隔 は被験者ペースとした。 被験者には学習課題の内容と上記の各条件に基づいた実験手続きを説明した上で, MALのシステムを学習するように求め,テストの成績がある一定の基準に達すれば,実 験は終了することを教示した。特に, CI-LP及びMI-LP条件では任意の時点でテストを 行うことが可能なことを確実に理解させた。習得基準(後述)を超えるか,あるいは制限 時間(90分)を超過したセッションで実験は終了した。 被験者48名の大学生を各条件につき12名ずつランダムに割り当て,個別に実験を行っ m. 結果 習得者数テストで有意に高い正答数は10事例中9以上(5%レベル)である。連続す る2セッションでこれを満たすことを習得の基準とした時,制限時間内にこの基準に達し なかった被験者は, CI-EP条件2名, CI-LP条件3名, MI-EP条件1名, MI-LP条件3 名であった。習得者数の比に関して,各変換法による2要因分散分析を行ったところ,い ずれの主効果及び交互作用効果も認められず,条件による習得者数に差はなかった。 セッション数以下の分析では上記の未習得者9名のデータは除外し,習得者のデータ を対象にした。各条件ごとの習得基準到達に要したセッション数の平均をFig. 2に示し た。セッション数に関して2要因の分散分析を行った.その結果,学習ペースの主効果が 有意で(F-6.Q9, df-l/35, p<.05),学習者ペースの方が実験者ペースよりも少ない セッション数で習得が可能であった。事例の誤入力と学習ペース問の有意な交互作用効果 も得られたので(F-4.60, df-l/35, p<.05).単純効果の検定を行った。その結果, 誤入力のある条件で学習ペースの単純主効果が有意で(F-10.64, df-l/35, p<.01), 誤入力のない場合の学習ペースの効果が認められなかったのに対し,誤入力がある場合に は学習者ペースの方が少数のセッションで習得がなされていた.また,学習者ペースの条 件で誤入力の単純主効果に傾向が認められ(F-3.32, df-l/35,.05<p<.10),誤入力 のある条件の方が少数のセッションで習得がなされていた。 累積呈示回数習得に要した事例の呈示回数の合計,すなわち累積呈示回数の各条件別 の平均をFig. 3に示した。累積呈示回数に関して2要因の分散分析を行ったところ,い ずれの主効果及び交互作用効果も認められなかった。.

(6) 104. rトL. O 0. 平 均 累 積 呈 示 回 数. ). 平 均 セ ッ シ ョ ン 敷. 0 c o i n C O c M. 誤入力なし誤入力あり Fig. 2条件別の平均セッション数. 1000. Lj=r %&」&&国. 事例当たり平均`呈示時間(秒). 0. 0. 0. 2. .1ン. 0. 0. 5. 2. 平均累積呈示時間(秒). 1500. 藍朝mE腰覗Uffi, Fig. 3条件別の平均累積呈示回数. 011-0学習者ベース. 誤入力なし邑入力あり Fig. 4条件別の平均累穣呈示時間. 誤入力なし誤入力あり Fig. 5条件別の事例当たり平均呈示時間.

(7) 言語的規則の習得における事例の誤入力と学習ペースの交互作用. 105. 累穣呈示時間習得に要した事例の呈示時間の合計,すなわち累積呈示時間の各条件別 の平均をFig. 4に示した。なお,制限値の120秒に達した場合の呈示時間はそのまま 120秒として分析した。累積呈示時間について2要因の分散分析を行った。その結果,誤 入力の主効果が有意で(F-15.84, df-l/35, p<.01),誤入力のない場合の方が習得に 要する呈示時間は短かった。学習ペースの主効果も有意で(F-13.30, df-l/35, p< .01),学習者ペースの方が実験者ペースよりも短い呈示時間で習得が可能であった.両要 因間の交互作用効果にも傾向が認められたので(F-2.82, df-l/35,.05<p<.10),単 純効果の検定を行った。その結果,誤入力がある条件における学習ペースの単純主効果が 有意でCF-14.19, df-l/35, p<.OD,学習者ペースの方が短い呈示時間で習得がなさ れていた.また,実験者ペースの条件における誤入力の単純主効果も有意で(F-16.02, df-l/35, p<.05),誤入力のない条件の方が短い呈示時間で習得が行われていた。 事例当たり呈示時間各被験者の累積呈示時間を累積呈示回数で除して, 1事例当りの 呈示時間を算出した。これらの各条件ごとの平均をFig. 5に示した。 1事例当たりの呈 示時間について2要因の分散分析を行った結果,学習ペースの主効果に傾向が認められた (F-3.99, df-l/35,.05<p<.10)。すなわち,学習者ペースの方が実験者ペースより も1事例当たりの呈示時間は短くなる傾向があった。. 考察 累積呈示回数に関しては,いずれの要因の効果も見られなかった。太田(1976)の結果 が,本研究の学習課題にも当てはまるとすれば,誤入力がない場合に学習ペースの効果が より強く現れると予測されたFig.3に示したように,誤入力のある条件に比べて,誤 入力のない条件で呈示回数の学習者ペース化の効果が大きく現れているが,統計的に有意 な差ではなかった。従って,習得に必要な経験事例数は誤入力や学習ペースの影響は受け ず,事例当たりの学習向上の程度は条件間で異ならないといえよう。黒岩(1989)におい ても,呈示国数の学習者ペース化の効果は認められていない。ただし,これは呈示時間の 学習者ペース化と呈示回数の学習者ペース化が加算的に機能することを前提としており, 後者の効果が相対的に小さいために有意差として検出されなかった可能性もある。両者の 効果の加算性については別に検討が必要であるが,本研究ではすべての条件で呈示時間は 学習者ペースとしたので,この点に問題はなく,呈示回数の学習者ペース化は経験事例数 に影響を与えないといえよう。 これに対し,習得に要した累積呈示時間では,誤入力及び学習ペースの効果が認められ た。一般に,誤入力がある場合の学習者の仮説生成・検証活動においては,特にその初期 には,誤事例も仮説の生成・検証に用いられる可能性が高いため,誤入力のない場合に比 較して,その過程はより変化に富み,複雑かっ多様であると推測される。さらに,本研究 では呈示時間はすべて学習者ペースとされたが,これは事例ごとに仮説の生成・検証活動 を十分に行わせる機能を持つと推測される。もしそうなら,習得に要する時間は誤入力の ある条件で長くなると予想される。得られた結果はこの通りで,これらの推測の妥当性を 示すものであろう。一方,呈示回数の学習者ペース化は,個々の仮説の検証結果を規則体 系として統合的に体制化する機能を持っと考えられる。この機能はある程度は事例内でも 作用しょうが,主に事例間にわたるより高次の体制化の段階で発揮されると推測される。 従って,事例呈示回数を学習者自身が統制できる学習者ペースでは規則体系の体制化が促.

(8) 106. 進され,累積呈示時間の減少としてその効果が現れたと解釈できよう。 さらに,累積呈示時間に関しては,学習ペースの効果が誤入力のある場合に認められた。 すなわち,誤入力のない条件下では学習ペースの違いによる差はなかったが,誤入力のあ る条件下では学習者ペースの方がその習得は速かった。一般に仮説の生成・検証過程が複 雑で多様であるほど,上述の学習ペースの機能が働く余地は大きいと推測される。もしそ うなら,誤入力のある習得過程で学習ペースの効果は相対的に大きく認められることにな り,このような交互作用が生じたものと解釈できよう。一方,誤入力の効果に関しても, 学習者ペースの条件では認められず,実験者ペ-スで誤入力のない方がその習得は速くな るという交互作用が見られた。これも実験者ペースの条件下では規則体系の体制化の機能 が弱かったため,誤入力の効果が相対的に大きく現れた結果と考えられよう。以上より, 事例の呈示時間が学習者ペ-スであっても,誤入力を含みかつ呈示回数が固定された習得 事態では,仮説の生成・検証過程の複雑・多様性及び規則の体制化の困難性が相乗的に機 能するため,他の事態に比べて習得は遅延されるが,誤入力及び呈示回数の固定化はそれ ぞれ単独では習得の遅延には寄与しないといえよう。 経験事例数と習得時間を考慮した測度である1事例当たりの呈示時間は,学習者ペース の方が実験者ペースよりも短くなる傾向があった。従って,全体として見れば,呈示回数 の学習者ペース化は習得過程において効果的な時間配分を行う役割を担っていたことが示 唆されよう。しかし,太田(1976)や黒岩(1989)で示されたように,呈示時間を学習者 ペースとした場合,その全体的変動パターンにはある程度の共通性はあるものの,個人内 変動パターンにも類型が見られる.学習ペースの習得過程における時間配分の機能を明ら かにする上では,これらに対応した習得過程の特徴も考慮すべき必要があると考えられる。 この点に関してはさらに検討が必要であろう。 習得に要したセッション数はテストを受けた回数である。従って,任意の時点でテスト を受けることが可能な学習者ペースの事態では,先述のように規則の体制化の程度を学習 者自身で統制できる利点があると考えられる。これに対し,実験者ペースの事態では体制 化の程度にかかわらず一定の間隔でテストが入るため,テストが習得に妨害的に機能する 場合もあると推測される。要したセッション数が学習者ペースで少なくなっていた結果は, これに対応するものであろう。さらに,誤入力のある場合は学習者ペースの方が,学習者 ペースでは誤入力のある方が要したセッション数は少なかった。すなわち,誤入力のある 学習者ペースの事態のみで,少ないセッションにより習得が可能であった。これは上記の 効果が誤入力がある場合に選択的に機能したためと解釈できるが,その機序については明 らかではない。課題の複雑性や誤入力のレベルを操作することによって,さらに検討する 必要があろう。 最後に,条件問の習得者数に有意差は認められなかったことより,習得の困難度に条件 問でcriticalな相違はないと見なせよう。しかし,本研究で用いられた習得の諸測度が習 得過程のどのような機序及び側面を反映するのかについては,さらに詳細な検討が必要で あろう。また,黒岩(1989)でも指摘されたように,非常に困難な条件下でも習得可能な 被験者が存在する一方で,容易な条件下でも習得が不可能な被験者も存在する。結果的に 未習得に終わる被験者の心理的あるいは情報処理的過程に共通するものとしては,動機づ けの低下,情報処理様式としての認知スタイルの影響,不適切な方略の適用,仮説の棄却 あるいは採択水準の厳しさなどが内省報告からも推測される。また,未習得者の習得過程 のパターンは,大別すると2つに類型化できるようであるo一つは習得基準に近いレベル.

(9) 言語的規則の習得における事例の誤入力と学習ペ-スの交互作用. 107. まで行くものの,その後チャンスレベルに落ちてしまうタイプで,もう一つは終始チャン スレベルに留まるタイプである。これらを規定する要因についても検討が必要であろう。 引用文献 Archer, E. J. 1960 A re-evaluation of the meaningfulness of all possible CVC trigrams. Psychological Monographs, 74 (Whole Na 497), 1 -23. Braine, M. D. S. 1971 0n two types of models of the internalization of grammars. In D. I. Slobin (Ed.), The ontogenesis of grammar : A theoretical symposium. New York : Academic Press, pp.153-186. Chomsky, N. 1959 Verbal behavior, by B. F. Skinner. Language, 35, 26-58. Chomsky, N. 1965 Aspects of the theory of syntax. Cambridge, Massachusetts : MIT Press. Greenberg, J. H. 1966 Some universals of grammar with particular reference to the order of meaningful elements. In J. H. Greenberg (Ed.), Universals of language 2nd ed. Cambridge, Massachusetts : MIT Press, pp. 73-113. 黒岩督1981人工言語の獲得に及ぼす規則逸脱の効果広島大学大学院教育学研究科博士課程論 文集, 7, 64-70. Kuroiwa, M. 1986 The acquisition of miniature artificial linguistic system with double syntactic markers of word order and suffixes in mistaken input situations. Hiroshima Forum for Psychology, ll, 21-33. 黒岩督1987 2重統語標識を持つ人工言語の習得-50%の誤入力事態での標識の相対的有効性 の検討一広島大学教育学部紀要第1部, 36, 141-151. 黒岩督1989言語的規則の習得に及ぼす学習ペースの効果兵庫教育大学研究紀要第1分冊, 9, 125-136.. McNeill, D. 1971 The capacity for the ontogenesis of grammar. In D. I. Slobin (Ed.), The olbiogenesis of grammar : A theoretical symposium. New York : Academic Press, pp. 17-40.. 守一雄1980言語入力に含まれる誤りの人工言語習得に及ぼす効果心理学研究, 51, 179-187. Mori, K. 1981 The effect of mistakes in the input on the acquisition of a miniature artificial language ( n) : Using a subject-paced procedure. Japanese Psychological Research, 23, 113-117. Mori, K. 1982a The acquisition processes of a miniature artificial language : Effects of mistaken inputs. Japanese Psychological Research, 24, 10-20. 守一雄1982bミニチュア人工言語研究心理学研究, 53, 114-122. Nagata, H. 1983 Effectiveness of word order and grammatical markers as syntactic indicators of semantic relations in opaque input conditions. Journal of Psychohnguistic Research, 12, 157-169. Newport, E. L. 1977 Motherese : The speech of mothers to young children. In N. J. Castellan, Jr., D. B. Pisoni, & G. R. Potts (Eds.), Cognitive theory Vol. 2. Hillsdale, New Jersey : Lawrence Erlbaum Associates, pp. 177-217. 太田信夫1976被験者ペースによる学習と実験者ペースによる学習との比較鳥敢大学教育学部.

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(11) 言語的規則の習得における事例の誤入力と学習ペースの交互作用. 109. ABSTRACTS. The Interactional Aspects between Mistaken Inputs of Exemplars and Subjects Learning Pace in Acquisition of a Miniature Artificial Linguistic System. Masaru Kuroiwa. The purpose of this study was to reveal the interactional aspects between mistaken inputs of exemplars and subjects'learning pace in acquisition of some linguistic rules, using a miniature artificial linguisitc system. The first factor concerned mistaken inputs : the presented exemplars were correct inputs (CI) or. 20% mistaken inputs contained (MI). The second factor concerned learning pace : the number of presented exemplars in each session was fixed (experimenter-paced : EP) or free (learner-paced : LP). Four groups of acquisition condition were set up. The number of exemplars required to reach learning criterion was not differed.. MI-EP group spent longer cumulative time than the other groups. The number of sessions in MI-LP group was diminished. Implications of these findings were discussed from the viewpoints of variety and complexity of hypothesis generationtest processes, difficulty of linguistic system organization, and interactional aspects between the two..

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