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<書 評>
A.McKenzie,
The Monetary Theory of・lnternational Trade, Macmillan Studies in Economics,1974, pp.96.
片
山
貞
雄
1
本 書 は マ ク ミラン経 済 学 研 究 叢 書(Macmillan Studies in Economics)の1 冊 で あ る。 こ の叢 書 は,す で に40点 に もお よぶ 刊 行 を数 え,小 著 なが ら経 済 学 の各 分 野 にお け る最 近 の成 果 を 簡 潔 に しか も適 切 な批 判 を加 えつ つ サ ーベ イす る こ とを 目的 と して い る(原 著 編 集 老序 文)。 最 近 の 経 済 学 の 発 展 は め ざ ま しい もの が あ り,そ のす べ て の 分 野 に 通 暁 す る こ とは 不 可 能 とい って も良 い の で,木 叢 善 は学 生 のみ な らず 専 門 家 に も裨 益 す る と ころ が大 きい で あ ろ う。 本 書 は 国際 金融 の理 論 面,と くに 国 際 収 支 調 整 機 構 を主 た る考 察 対象 とす る くり が,上 述 の よ うな狙 い を達 成 して い るか を 念 頭 に 置 きつ つ論 評 した い。 な お,本 書 はサ ー ベ イ に 重点 が あ るの で,以 下 の論 評 と関 連 す る重 要 な 引用 文 献 と補 足 の必 要 が あ る と思 え る文 献 を 幾 つ か 示 した。 2
国 際 金 融 論(international monetary economics)に は 経 済 学 の 伝 統 的 な 分 野
(1)本 叢 書 に も う1冊,国 際 金融 関 係 の もの(Walsche〔18〕)が 刊 行 され て い る 。そ こ で は流 動 性,調 整,信 認 の 問題 か ら見 た 国 際 通 貨制 度 の コス ト ・ベ ネ フ ィ ッ ト分 析 が 主 題 をな して い る。 だ が この よ うな分 析 の 通 弊 で あ ろ うか,何 を コス トに 入 れ,何 を ベ ネフ ィッ トに 勘 定す るか に つ い て懇 意 的 な 点 や不 明確 な 点 が見 うけ られ る。
132 と異 な り,い まだ 一 般 的 な理 論 は 確 立 され て い な い とい う認 識 の も とに,著 者 は本 書 で外 国為 替 市 場 の作 用 に焦 点 を 置 きつ つ 国 際収 支 調 整 の理 論 を批 判 的 に 検 討 し よ う とす る(p,9)。 この ば あ い,100ペ ー ジ足 らず の小 著 で あ る ので, 論 究 対 象 の適 切 な取 捨 選 択 が 重 要 とな る。 そ の 判 断 の 材料 を供 す る ため に 目次 を示 して お こ う。 立早 立早 出早 立早 出早 血早 立早 立早 出早 立早 立早 0 1 1 2 3 4 5 6 7 8 9 1 1 序 文 基 本 的 な諸 仮定 と諸 関 係 国 際 貿 易 オ フ ァー曲 線 価 格調 整 と変 動 相 場 制 固定 相 場 制,金 本 位 制 と貨 幣 数 量 説 国 際 貿 易乗 数 在 庫 変 動,失 業 お よび裁 量 的 調 整 政 策 金 融 制 度 と外 国為 替 市場 投 機,掛 け つ な ぎ取 引 お よび 裁 定 取 引 資 本 移 動 と国 際 収支 調整 国 際通 貨 改 革 著 者 が 強 調 す る視 点 は 国 際 収 支 調 整 分 析 に お い て も政 策 当局 を含 む 経 済 主 体 の知 識 は不 完 全 な もの で あ り,現 実 は不 確実 性 の支 配 す る点 で あ る。 そ こで は 経 済 主 体 が なぜ 錯 誤 を 犯 し,そ れ を い か に是 正 し よ う とす るか が問 われ ね ば な らない(PP.9-10)。 しか し,現 在 これ を解 明 す る満 足す べ き方 法 はな い 。 著 者 に よれ ば モ デル を 単 に 複 雑 に す るだ け で は 意 味 が な い の で あ っ て,む し ろ現 実 の問 題 に対 して 有 用 で は あ るが 限 られ た洞 察 を与 え る よ うに経 済 主 体 の行 動
(2)著 者 はflexible exchange ratesと い う用 語 を 使 用 す る 。 これ とfreely fluctuating ratesな い しfloating ratesを 区 別 し て 使 用 す る ば あ い も あ る が,最 近 で は3老 同 様 な 意 味 で 使 用 さ れ る こ とが 多 い 。 こ こ で は 変 動(為 替)相 場(制)と い う邦 語 を あ て る。
A.McKenzie, The Monetar:y TheoryげInternational Trade 133 (価 格 と 数 量 に 関 す る)を 定 式 化 す る 一 方,予 測 可 能 な 統 計 モ デ ル を 作 成 す る こ と が 必 要 な の で あ る(p.11)。 彼 は こ の よ う に2つ の モ デ ル の 必 要 を 説 く が,本 書 で の 検 討 は 前 者 に 限 定 さ れ て い る。 つ い で 強 調 す る の は,文 献 に 展 開 さ れ て い る 種 々 の 接 近 法 を 比 較 す る た め に は,そ こ で 使 用 さ れ て い る モ デ ル が 短 期 か 長 期 か を 見 き わ め ね ば な らな い 点 で あ る(Ch。2, PP.13-14)。 短 期,長 期 の 区 分 は 分 析 の 枠 構 造(framework of analysis)を 単 純 化 す る た め の も の で あ り,ケ イ ソ ジ ア ン 分 析 に 代 表 さ れ る 短 期 分 析 は 政 策 上 き わ め て 大 き な 重 要 性 を も っ て き た が,現 実 に は ど の 変 数 を 一 定 と仮 定 す る か は 明 瞭 で な い 。 こ の 認 識 の 上 に 著 者 は 最 も 基 本 的 な 変 数 を 価 格 と数 量 の2つ に 換 元 し,前 者 の 変 化 を 通 ず る 調 整 を 価 格 調 整 機 構,後 者 の 変 化 を 通 ず る 調 整 を 在 庫 調 整 機 構 と し て 分 析 を 進 め る。 ち な み に 後 者 の 機 構 は 在 庫 の 増 減 の 形 態 を と る か,あ る い は 産 出 高 な い し雇 用 の 増 減 の 形 態 を と り,ケ イ ン ジ ア ン 分 析 が そ うで あ る。 注 意 す べ き は 在 庫 調 整 機 構 は 不 確 実 性 の 世 界 を 描 き,短 期 調 整 機 構 で あ る の に 反 し,価 格 調 整 機 構 は 確 実 性 の 世 界 を 仮 定 し 長 期 調 整 機 構 た る 点 で あ る(p.15)。 著 者 は こ の よ うな2つ の 視 点 に 立 脚 し,以 下 の 分 析 の た め に 幾 つ か の 単 純 化 仮 定 を 設 け る(PP.15-16)。 そ こ で は2国2財(輸 出 可 能 品 くexportable com-modity>,輸 入 可 能 品 〈importable commodity>)モ デ ル が 基 本 を な し,前 半 で
は 資 本 取 引 を 捨 象 す る が,後 半(Ch.8以 下)で は これ を 考 慮 に 入 れ る 。 さ て,外 国 為 替 の 需 給 は 輸 出 ・輸 入 可 能 品 の 需 給 に よ っ て 決 定 さ れ る の で, 著 者 は 調 整 過 程 の 分 析 を 後 者 の タ ー ム で 行 な い,貿 易 オ フ ァ ー 曲 線 に よ る分 析 を 重 視 す る(Ch.3)。 こ の 接 近 は 消 費 者 行 動 理 論 の 応 用 で あ り,ま ず そ れ を 使 っ て 以 下 の 分 析 の た め の 基 礎 原 理 を 解 説 す る 。 つ ま り,2国2財 モ デ ル で 自 国 民 の 極 大 満 足 が 得 られ る 消 費 点 に 触 れ た 後,支 出 転 換 効 果(expenditure swit-ching effects)(価 格 く為 替 相 場 な い し 相 対 価 格 〉 は 変 化 す るが,所 得 は 一 定)
は 貿 易 可 能 品 が 粗 代 替 財(gross substitutes)で あ る か,粗 補 完 財(gross
com-plements)で あ る か に よ っ て 異 な る こ と を ヒ ッ ク ス の 価 格 ・消 費 線(こ れ が オ フ ァ ー 曲 線)を 使 っ て 図 形 で 説 明 す る 。 つ い で 支 出 変 化 効 果(expenditure
changing effects)(価 格 は 一 定 で あ る が,所 得 が 変 化)も 同 様 に ピ ッ ク ス の 手 法 で 普 通 財 と下 級 財 の 所 得 ・消 費 線(所 得 拡 張 径 路)の 差 で も っ て 図 示 し,さ ら に 自 国 民 に よ る極 大 満 足 の 消 費 点(特 に 所 得 が 変 化 す る ば あ い の オ フ ァ ー 曲 線 の シ フ トに 注 意)を 同 様 に 図 形 で 説 明 す る 。 3 以 上 の基 礎 的 考 察 を ふ まえ て変 動 相 場 制 下 の価 格 調 整 機 構(Ch.4)と 固 定 相 場 制(金 本 位 制)下 の 価 格 調 整機 構(Ch.5)を 考 察 す る。 変 動 相 場 制 で は為 替 相 場 が,固 定 相 場 制 で は貨 幣 ス トックの変 化 に よ る物 価 の変 動 が調 整 を負 担 す るが,と もに輸 出 ・輸 入 可 能 品の 相 対 価 格 の 変 化 に よ って外 国為 替 市 場 の不 均 衡 が 除 去 され る。 こ の関 係 を 理 解 す るた め に ボ ックス ・ダイ ア グ ラム を使 って 貿 易 収 支 の 均衡 ・不 均 衡 の 条 件 を 吸 収 分析(absorption analysis)の タ ー ム で 説 明 す る。 つ い で均 衡 の安 定 性,不 安 定 性 を 為 替 相 場 の 変 化 と関連 させ て 図解 す るが,こ の ば あ い変 動 相 場 制 が 安 定 的 で あ るた め の 十 分 条 件 は 輸 出 ・輸 入可 能 品 が そ れ ぞれ 両 国 で粗 代 蓄 財 た る こ と(A.Marshall),必 要 十 分 条 件 は 両 国 の 輸 入 需 要 の価 格弾 力 性 の和 が1よ り大(絶 対 値 表 示)(マ ー シ ャル ・ラ ーナ ー条 件)こ とが一 般 に指 摘 され て い る。 著 者 の 論 評 に よれ ば,後 者 の条 件 は マ ー シ ャル と直接 関 係 が な く,し か もA.Lernerが これ を 問 題 と した の は 変 動 相 場 制 で な く固 定相 場 制 のば あ い で あ る,と(p.31)。 しか し,思 うに,こ の 条 件 は オ フ ァー 曲 線(正 確 に は そ の 弾 力 性)か ら導 出 され る(た とえ ば,Caves &Jones〔1, PP.40-43,53-54〕 を 見 よ)と い う意 味 で マ ー シ ャル と関 係 を もつ し また,た しか に ラー ナ ー は 固定 相 場 制 下 の切 下 げ を直 接 対 象 と した の で あ るが,需 要 の弾 力 性 の大 小(供 給 の弾 力性 も同 じ)が 一 定 の大 き さの 収 支 不 均 衡 を解 消す るた めに 必 要 な 為 替 相 場 の変 動 幅 を 決定 す る とい う意 味 で 弾 力 性 は 固 定相 場制,変 動 相 場 制 を 問 わ ず とも に 重 要 性 を もつ こ と には 変 わ りな い。 な お 上 述 の結 論 は静 態 モ デル に の み 妥 当 し,動 態 モ デ ル で は修 正 せ ね ぽ な らな い と したMundell〔12〕 を 引用 し,著 者 自身,経 済 主 体 の 予 測 が変 化 した ぼ あ い の 価 格調 整,在 庫 調 整 に つ いて 若 干 の 考 察 を 与 え て い るが,調 整 過 程 や
A.McKenzie, The Monetary Theory of International Trade 135 調 整 の負 担 に つ い て い っそ う詳 細 な分 析 が 必 要 で あ る と指 摘 す るにす ぎ な い。 一 方,固 定 相 場 制 下 の調 整 過 程(Ch.5)は ど うで あ ろ うか 。 著 者 は4章 の ボ ック ス ・ダイ アグ ラム を使 って 分 析 す るが,こ の ば あ い 調 整 機 構 が作 用 す る の は 為 替 市 場 に お い て で な く財 貨 市 場 に おい て で あ る。 こ こで 強 調 され る の は金 本 位 制 の 調整 機構 が実 際 は単 純 な も ので な く収 支 差 に 応 ず る金 の 流 出 入が 物 価 や 産 出高,さ らに は貿 易 に対 し て ど の よ うな 影 響 を 与 え るか は 関 連市 場 の調 整 ス ピ ー ドに 関 す る 確実 な情 報 が 入 手 で きな け れ ば 明 確 な こ とが い え な い とい う こ とで あ る。 だ が 金本 位 制 の調 整 機 構 に は 多 くの 学 ぶ べ き点 が あ り,こ れ に関 す るJohnsonの 分 析 〔4〕を 評 価 す る(pp.36-37)。 そ の第1は,対 外 収 支 の 赤 字 は 国 内 の現 金 残 高 を減 少 させ,そ れ に 対 す る相 殺措 置 を 講 じない か ぎ り究 極 に は金 本位 制 タ イ プ の調 整 過 程 を 通 じて 収 支 の均 衡 は 回復 す る とい う視 点 で あ り,第2は 収 支 の不 均 衡 を フ ロー のみ な らず ス トッ クの面 か ら把 握 す る視 点 で あ る。 フ ロー の不 均 衡 は 相 対 価 格 の 変 化 を通 じて 解 消す る が,ス トック の不 均 衡 は保 有 され て い る財 と証 券 の 組 合 せ の 変 化 を通 じて解 消す る。 著 者 は 言 及 して い な いが,こ の よ うな 方 向 で 貨 幣 理論 を再 構 築 し開 放 体 系 へ の拡 張 を 試 み た の がScitovsky〔15〕 であ る。 こ の ス トッ ク分 析 は政 策 問 題 と関 連 して10章 で も扱 わ れ る。 4 さ て,著 者 は 国 際 収 支 調 整 の所 得 理 論 の展 開 に2つ の章 を あて る。 まず 貿 易 乗 数 で あ る(Ch.6)。'こ の理 論 が 明 らか にす る の は第1に 所 得 の変 化 が 価 格 変 化 な しに 国際 収 支 の調 整 を 部 分 的 に 果 たす こ とで あ り,第2に 貿 易 が 景 気 循 環 を波 及 させ る強 力 な 手 段 た る こ とで あ る。 著 者 はJ.ChipmanやR. Goodwin な ど の手 法 で2国 モ デ ル の所 得 乗 数 と貿易 収 支 乗 数(彼 は これ を 多 数 国 モ デ ル と1乎ぶ が 実 質 的 に は2国 モ デ ル 分 析 で あ り,以 下 わ れ わ れ は これ を2国 モ デ ル と呼 ぶ 。 この モ デ ル で は 自国 は外 国 に影 響 を与 え る と共 に フ ィー ドバ ッ クを受 け る)と 小 国 モ デ ル の 乗 数(自 国 は 他 国 に 影 響 を 与 え な い し,フ ィー ドバ ッ ク も受 け な い)を 構 築 し,自 生 的支 出 の 変 化 が 両 モ デル の 乗 数 値 に 与 え る効
136 果 を比 較 す る こ とに よ って 分 析す る。 第1の 問 題 に つ い て は2国 モ デル の 乗 数 を 使 用 す るが,結 論 は 通 常 い わ れ て い るも の と変 わ らな い 。 第2の 問 題 景 気 波 及 効 果 に つ い て は 両 モ デル の2つ の 乗数 式 に含 まれ る 自生 的 支 出項 目の 係 数 の大 き さ を比 較 す る とい う手 法 を と る。 そ の ば あ い所 得 乗 数 の値 は2国 モ デル の方 が大 きいが,貿 易 収 支 乗 数 の 値 は 小 国 モ デ ル の 方 が 大 きい。 これ は フ ィー ドバ ッ クを考 慮 す れ ば 貿 易 が 景 気 波 及 拡 大 効 果 を もつ が,逆 に フ ィー ドバ ック が 収支 の変 化 を抑 制 す る効 果 を もつ(抑 制 効果 は不 完全 で あ るが)こ とを 意 味 す る。 な お,こ の6章 に は式 の ナ ンバ リン グに 若 干 の混 乱 が あ り,ま た(6・7) 式(p.41)の 右 辺 第1項 の符 号 は マ イ ナ ス の ミス ・ス リ ップな い し ミス ・プ リ ン トで あ る。 国 際 収 支 の所 得 分析 の第2部 と して 在 庫 の 変 動 を 通ず る収 支 調 整 分 析(2国 モデ ル,価 格 は 不 変)を 行 な う(Ch.7)。 こ こで まず 国 際 均 衡 と国 内 均衡 の ト レー ド ・オ フ関 係 を 既 述 の ボ ッ クス ・ダ イ ア グ ラ ムで 分 析 し,つ い で この トレ ー ド ・オ フは 為 替 相 場 の 変動 と国 内支 出 の調 整 政 策 に よ って 解 消 す る こ とを 周 知 のSwan〔17〕 の 図形 で説 明す る。た だ し著 者 は ス ワン とは 反 対 に為 替 相 場 を 受 取 勘 定 建 で 表 示 して い る(イ ギ リス 人 の通 常 のや り方)の で完 全 雇 用 均 衡 線 が 右 上 り,外 国 為 替 市 場 均 衡 線 は 右 下 りとな って い る こ とに 注 意 され た い 。 な お,著 者 は 固定 相 場 制 下 で 上 述 の2つ の 目標 を 金融 と財 政 の ポ リシ イ ・ ミック ス に よ って 同時 に 達 成 す る可 能 性 を 論 じた マ ンデ ル の 有 効 市 場 規 準(effective market criterion)に は 触 れ て い な い。 も っ とも巻 末 の 参 考 文献 に は マ ンデ ル の 周 知 の 関 係論 文 〔10〕が 挙 げ られ て い るの で,本 文 で の 引 用 を ミス ・ス リ ッ プ した の で あ ろ う。 国 際 収 支 の 弾 力 性 分 析 につ い て も若 干 の 言 及 が な され て い る。 つ ま り,従 来 多 くの論 者 に と って この 問題 が扱 わ れ て きた が,不 幸 に も実 際 的 な 意 味 を ほ と ん ども って い な い,と 。 た だ し,著 者 は弾 力 性 分 析 に 関 す るPearce〔13,14 esp. PP.60-5〕 の業 績 を評 価 す る。 とい うの は,ラ ー ナ ーを 始 め とす る従 来 の 分 析 は輸 入 品,輸 出品 を 対 象 に して い た が,ピ ア ス は一 部 が 国 内で 消 費 され る輸 入 可 能 品,輸 出可 能 品,さ らに は 純 国 内 品 を 分析 に導 入 した か らで あ る。 ち な み
A.McKenzie, The Monetary Theory of International Trade 137 に,こ の よ う な 分 析 視 角 は 最 近 ク ル ー ガ ー 〔6〕 な ど に も 見 ら れ る 。 5 以 上 の 章 で と って きた 金 融 制 度 上 の 単 純 化 仮 定 を現 実 の状 況 に近 ず け るた め の 考 察 に2章(Chs.8&9)を あ て る。 まず 外 国為 替 市 場 に おけ る重 要 な 構 成 メ ンバ ー で あ る為 替 銀 行 と中 央 銀 行 の 機 能 を 貸借 対 照 表 形 式 で 説 明 し,つ づ い て 国際 収 支 表 の 記 入方 法 お よび 収 支 の 黒 字 ・赤 字 の 判 定 規 準 を簡 単 に 解 説 す る。 判 定 基 準 に つ い て 著 者 は公 的 決 済(official settlements)概 念 を興 味 あ る 接 近 方 法 とす る。 外 国 為 替 市 場 の 不 確 実 性 の 問 題 は理 論 的 に も政 策 的 に も重 要 で あ り,望 ま し い 国 際 通 貨 制 度 の 構 築 に あ た り考 慮 す べ き不 可 欠 の こ とが らで あ る(Ch.9, p. 63)。 こ こで 重 要 な の は 先 物 為 替 市 場 で あ り,そ れ は 国 際 収 支 調 整 に対 して重 要 な 関 係 を もつ。 この 市場 に よって 可 能 とな る4つ の タイ プの取 引,(i)カ バ ー 取 引,㈹ 掛 け つ な ぎ取 引,㈹ 裁 定 取 引,㈹ 投 機 が 簡 単 に説 明 され る。 こ こで は (i)と6ii)に若干 触 れ て お こ う。(i)は輸 出 ・輸 入 業 者 な どが為 替 リス クを 避 け るた め に 行 な う取 引 で あ る が,そ の ば あ い 先 物 で カバ ー を とるか 直 物 で カバ ーを と るか は 周知 の よ うに簡 単 な 不 等 式 で 示 され る。 著 者 は言 及 して い ない が,(i)は ま た 貿 易裁 定 取 引(trade-arbitrage)と も呼 ば れ(た とえばLevin(7, PP.26 -8〕) ,㈹ の式 と同一 となる(以 下を参照 され たい)。 著 者 と異 な り為 替 相 場 を支 払 勘 定 建(1固 く日本〉 よ り見 て)(θ')で 表 示 し, (金 利)裁 定 取 引 と 対 照 で きる よ うな 形 式 で 結果 だ け を 示 す と 次 の よ うに な る。 ゆ 餐 鴇)・ 場合・ ・国 ・輸入業者・先物 ・… 一を… 4・ 悪 ㌢ ・鵬 ・国 ・輸入籍 ・直物 ・… 一を … た だ し,4:直 物 為 替 相 場,fI:1国(日 本)の 短 期 利 率 弓:先 物 為 替 相 場,f2:2国(ア メ リ カ)の 短 期 利 率
138 arbitrage)で あ って,こ のぼ:あい両 国通 貨 の直 物 相 場 と先 物 相 場 お よび 両 国 の 金 利 が リン クされ る。 こ の関 係 は(Dと 同 じ不 等式 で示 され,同 様 に 著 者 の式 を 若 干 変 更 して結 果 の み を記 し てお こ う。 (1+12亙 〉(1+∫1) 1国 よ り2国 へ の 短 期 資 金 の 移 動 68 (1+12)8ン く(1+の 2国 よ り1国 へ の短 期 資 金 の 移 動 88 , ρ い うまで もな い が,均 衡 に お け る直 先 の 開 きを 示 す プ ・ ・ア ・(P一 θデ` と表 示)は 次 ・ ・ うに な ・.・ 一 儲 ÷ ・凸 6 資 本 移 動 を考 慮 に 入れ ると,金 融 政 策 と財 政 政 策 は そ れ ぞれ 国 際収 支 の調 整 に 対 して い か な る効 果 を もつ で あ ろ うか 。 これ に 関 す る固定 相 場 制 と変 動 相 場 制 の 相 違 を 考 察 す る(Ch.10)。 著 者 は こ の問 題 をほ ぼ マ ンデ ル の マ ク ロ ・モ デ ル〔11〕に 従 って 図 解 す る。 実 体部 門 と金 融 部 門 の均 衡 をXIG-MST関 数表 とLM関 数 表 で示 し(縦 軸 に は 利 子 率,横 軸 に は 国民 所 得 を と り,X,1, G, M,S, Tは それ ぞれ 輸 出,投 資,政 府 支 出, 輸 入,貯 蓄,租 税 を 表 わ す。XIG-MST関 数 表 はIS関 数 表 に 相 当 す る),所 得 な い し雇 用 増 大 の た め に と られ た 金 融 政 策 と財政 政策 が両 関数 表 にい か な る 影 響(関 数 表 の シ フ トの方 向 で判 定)を 与 え るか に よ って両 政 策 の有 効,無 効 を 判 定 す る。 固 定相 場 制 の下 で は財 政 政 策 は 有 効 で あ るが,金 融 政策 は無 効, 変 動 相 場 制 下 で は そ の逆 とい うの が結 論 で あ る。 こ こで は 利 子 率 の変 化 に よ る 資 本 の移 動 が 政 策 効 果 に 対 して重 要 な影 響 を 与 えて い るo こ の よ うな 分 析 に つ い て著 者 は若 干 の批 判 を行 な う。(1)在 庫 の調 整過 程 に お い て企 業 は受 動 的 な 対 応 の み を と る と仮 定 され て い るが,実 際 は産 出高 や 雇 用 を変 化 させ る積 極 的 な対 応 を 行 な って い る。 ② この よ うな フ ロー分 析 を ス トック分 析,つ ま りポ ー トフ ォ リオ 調整 理 論 で 再 構 築 す る 必 要 が あ る。 著 者 は これ に 関 し不 十 分 な が ら若 干 の 試 みが あ る と してMcKinnonの2つ の文 献 〔8,9〕を 挙 げ るに と どめ る。 評 者 の知 るか ぎ りこ の方 向 に 沿 った 最 近 の 分 析 と
A.McKenzie, The Monetary Theoり7げ 」lnternational Trade 139 してKellel1の 試 み 〔5)が あ る 。 も っ と も,彼 の モ デ ル で は 種 々 の 単 純 化 仮 定 が 設 け ら れ,投 資 も 捨 象 され て い る し,結 論 自 体 も 従 来 の 分 析 と 大 き く異 な っ て い な い 。 ㈲ 為 替 相 場 の 変 動 が 資 本 移 動 に 影 響 し な い と 仮 定 さ れ て い る 。 だ が,(i)そ の 変 動 は 対 外 投 資 の 賛 本 価 値 を 変 化 さ せ,ポ ー ト フ ォ リオ の 構 成 の 変 化 を 引 き 起 こす で あ ろ う。 ま た,(ii為 替 相 場 の 将 来 変 化 の 期 待 が 金 利 等 に よ る 資 本 移 動 の 誘 因 を 相 殺 す る か も し れ な い 。 著 者 に よ る こ の 批 判 点 は 考 慮 に 値 し,こ れ ら に 留 意 しつ つ,い っ そ うの 展 開 を 試 み るべ き で あ ろ う。 7 最 後 に上 述 の分 析 を ふ ま えて 国際 通 貨 制 度 の改 革 問 題 を 若 干考 察す る(Ch. 11)。 著 者 は い わ ゆ る金 融 政 策 の 外部 的遅 れ(outside lag)に な ぞ ら えて不 確 実 性 に よ る錯 誤 が もた らす コス トを最 小 にす る よ うな国 際 通 貨 制 度 を 求 め る。 こ こ で 考 察 され る制 度 は4つ あ る。(P変 動 相 場 制,(11)調整 可 能 な 釘 付 相 場制,㈹ 共 通 通 貨 制,⑲ 前 二者 の折 衷 な い し中間 的制 度一 で あ る。 (i>につ い て著 者 は利 点 も認 め るが,潜 在 的 な 不 安 定性 を考 慮 して,為 替 相 場 の 変 動 の期 間 と限度 を決 め て相 場 を裁 量 的 に 変 動(た とえ ば1ヵ 月間 に付 き, 相 場 の 上下 そ れ ぞ れ0.25%)さ せ る方 式 を示 唆 す る。 しか し彼 は この案 が 後 述 の ワイ ダ ー ・バ ン ドや ク ロー リン グ ・ペ ッグな い しス ライ デ ィン グ ・パ リテ ィ とい か に異 な るか,ま た はい か な る関 係 を もつ か に つい ては 触 れ てい な い。 ㈹ のぼ あい,平 価 の変 更 は(i)に比べ て 国 内調 整 の 困難 を もた らす し,先 物 市場 も 不 安 定 性 の 圧 力 に 耐 え るほ ど十 分発 展 して い な い。 ワイ ダ ー ・バ ン ドに して も 相 場 が バ ン ドの 上 限,下 限 に 張 りつ く可 能 性 が あ る。qii)のも とで は 国際 収 支 問 題 は 発 生 しな い。 だ が この制 度 に も幾 つか の困 難 が あ り,特 に地 域 的 な失 業 や イ ン フ レ問 題 に 関 してす べ て の地 域 に 平 等 な 金 融 ・財 政 政 策 を とる こ とは で き ず,政 治的 要 因 の介 入 は 避 け が た い 。(ilりで は(i)と(ii)の中間 的 制 度 と して 最 適 通 貨 地 域 と ク ロー リン グ ・ペ ッグな い しス ライ デ ィング ・パ リテ ィを 挙 げ て 論 ず
る 。 た だ し,最 適 通 貨 地 域 に つ い て は マ ン デ ル や マ ッキ ノ ン の 定 義 を 述 べ る に と ど ま る 。 ク ロ ー リ ン グ ・ベ ッ グ に つ い て は 」.E. Meadeを 代 表 と し て 取 上 げ る 。 こ の 制 度 の 下 で も や は り投 機 圧 力 を 十 分 に 吸 収 す る こ と は で き な い 。 既 述 の よ うに,著 者 は 不 確 実 性 に よ る 錯 誤 の も た ら す コ ス トを 最 小 に す る こ と を 望 ま し い 国 際 通 貨 制 度 の メ ル ク マ ー ル と し た が,こ の 視 点 か ら ど の 制 度 が 望 ま し い か に つ い て は 明 言 し て い な い 。 思 うに,い ず れ の 制 度 も メ リ ッ ト,デ メ リ ッ トが あ り,中 間 的 制 度 も そ の 例 外 で は な い し,結 論 は 投 機 を 安 定 的 で あ る と 見 な す か ど うか に か か っ て く る 。 む し ろ 著 者 の よ う な メ ル ク マ ー ル を 使 う こ と 自 体 に 問 題 が あ る と い え な い で あ ろ うか 。 8 以 上,幾 つ か の コメ ン トや 補 足 を 加 え な が ら本書 の ア ウ トラ イ ンを 示 した 。 著 者 は不 確 実 性 の 存 在 を 前 提 と して,各 論 者 の見 解 のサ ーベ イや 検 討 を 通 じて 国際 収 支 調 整 機 構 を 解 明 し よ う と した。 そ の ば あ い確 実 性 を前 提 とす る古 典 派 の価 格 調 整 機 構 で な く,不 確 実 性 を前 提 とす る在 庫 ない し所 得 調 整 機 構 に 重 点 が 置 か れ,不 確 実 性 の 存 在 が 為替 市場 や 国 際通 貨制 度 に どの よ うな影 響 を 与 え るか が問 われ る こ とに な る。 著者 の この問 題 意 識 は評 価 で き るが,そ れ に対 す る 回答 は必 ず し も十 分 とは い え な い よ うで あ る。 も っ と も,そ れ は この よ うな 分 析 が 国 際 金 融 の 分 野 に お い て まだ十 分展 開 され て いな い こ とに よ る もの と思 わ れ る。 引用 され て い る関 連文 献 数 は80数 点 に上 る が,評 者 に は 重 要 と思 わ れ る も のが 若 干 欠 け て い る。 た とえ ば,変 動 相 場 制 に 関す る ゾー メ ンの 著 作 〔16〕 や ビ ェル ゲ ンス トック会 議(B面rgenst㏄k Conference)の 論 文 集 〔3〕,先物 為 替 に 関 す る グル ーベ ル の 著 作 〔2〕で あ る。 また 分 析 対 象 の内 容 に つ い て もあ ま り示 され て い な い 箇 所 が 若 干 あ り,そ れ につ い ては これ これ の 関 連 文 献 を 参 照 せ よ とい った サ ーベ イ の 仕 方 を と って い る。 特 に 目立 つ1例 は,平 価 切 下 げ の 弾 力 性 分 析 の 発 展 を 扱 った部 分(p.50)で あ る。 これ は 著 者 が 弾 力 性 分析 を あ ま り評 価 して い な い こ とに も よ る もの で あ ろ う。 も っ と も,好 意 的 に 解 釈 す れ ば こ の よ うな 方 法 は い っそ うの研 究 を読 者 自身 に ゆ だ ね て い る とい う こ と もで
A.McKenzie, The Monetary Theory of International Trade き る で あ ろ う。 既 述 の よ う に 著 者 は 調 整 過 程 の 分 析 を 主 と し て オ フ ァ ー 曲 線 に よ っ て 行 な い,そ れ を 為 替 の 需 給 曲 線 に 翻 訳 す る 方 法 を と っ て い な い 。 前 者 に よ る メ リ ッ トも 認 め られ る が,為 替 市 場 の 分 析 に 力 点 が 置 か れ て い る に も か か わ らず な ぜ 後 者 の 方 法 を と ら な い か の 根 拠 は 著 者 に よ っ て 与 え られ て い な い 。 以 上 指 摘 し た 問 題 点 は あ る が,本 書 は 最 初 に 述 べ た 本 叢 書 編 集 者 の 意 図 に 応 え て 国 際 収 支 調 整 機 構 に 関 す る 主 要 な 分 野 を カ バ ー し,最 近 の 分 析 や そ の 問 題 点 を 知 る 上 で 有 益 な 手 掛 りを 与 え る で あ ろ う。 引 用 文 献
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