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市民とインターネットと民主的選挙 -- インドネシア (特集 選挙の風景)

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Academic year: 2021

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全文

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市民とインターネットと民主的選挙 -- インドネシ

ア (特集 選挙の風景)

著者

川村 晃一

権利

Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア

経済研究所 / Institute of Developing

Economies, Japan External Trade Organization

(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp

雑誌名

アジ研ワールド・トレンド

251

ページ

8-9

発行年

2016-08

出版者

日本貿易振興機構アジア経済研究所

URL

http://hdl.handle.net/2344/00002886

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アジ研ワールド・トレンド No.251(2016. 9)

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  インドネシアで民主的な選挙が 継続して実施されるようになった のは、一九九八年のスハルト体制 崩壊後のことである。一九九九年 以 降 は、 議 会 選 挙 が 五 年 ご と に、 大統領直接選挙も二〇〇四年から 議会選と同じ年に、実施されてい る。また、地方首長の直接選挙も 二〇〇五年から実施されるように な っ た。 そ の ほ と ん ど の 選 挙 で、 投開票は平穏に行われている。民 主的な選挙はすっかり定着した。   しかし、選挙が定着したことは、 選挙の実施に問題がないことと同 義ではない。選挙のたびにさまざ まな問題が発生し、それを解決す るため、市民が奮闘している。イ ンターネットの普及は、市民が選 挙に関わることをさらに後押しし ている。民主的選挙を支えている のは、一般の市民なのである。

  かつては選挙戦が始まると、各 政党のシンボルカラーで染められ た幟 のぼり やポスターが街中を埋め尽く し、揃いのシャツを着た若者がバ イクや自動車で長い隊列を組んで 示威行為をするといった光景がみ られた。広場で開催される政党の 集会では、党幹部や候補者の演説 の時間はわずかしかなく、大衆音 楽の歌手が登場したり、ビンゴ大 会が行われて景品が参加者に配ら れたりと、動員力と存在感を示す ことが選挙戦の主眼であった。参 加者も、候補者を応援するためと いうよりも、配布されるTシャツ や昼食、さらには日当などが目当 ての者が多かった。   しかし、以前は娯楽のひとつと して選挙運動に参加していた人々 も、選挙が「普通の風景」になっ た最近はすっかり興味を失い、参 加 者 数 も め っ き り 少 な く な っ た。 主催する政党や候補者も、このよ うな示威的な選挙運動が票の動員 にはほとんど効果がないというこ とに気がつき、街中での大々的な 運動の数は減る傾向にある。   それにかわって増えているのが、 メディアを使った選挙運動である。 そのきっかけとなったのが大統領 直接選挙の導入だった。大統領選 挙では、候補者の個人的な魅力を 売り込むイメージ戦略が重要であ る。そこで各候補者は、有権者に 自 ら の イ メ ー ジ を 売 り 込 む た め、 テレビや新聞などで大量の広告を 打 つ よ う に な っ た。 選 挙 広 告 は、 専門業者である選挙コンサルタン トによって作成され、市民はあく までその受け手にすぎなかった。

  ところが、二〇一四年の大統領 選挙では、ソーシャルネットワー キングサービス(SNS)を使っ た選挙運動が広がり、市民が選挙 運動に直接関わる道が開けた。こ の新しいメディアを効果的に使っ たのが、ジョコ・ウィドド現大統 領である。彼は企業家出身の非政 党人ゆえ、所属政党内に支持基盤 を持っていなかった。そこで、エ リート政治家による談合政治の排 除を目指していた市民ボランティ アは、組織に頼らない選挙運動の 手段としてSNSを積極的に利用 したのである。SNSは、無党派 層の支持獲得に大きな役割を果た し、ジョコ当選の原動力となった。   一方でSNSは、出自や宗教な どに関する根拠のない誹謗中傷で 相手候補の評判をおとしめるネガ ティブ・キャンペーンの手段とし ても使われた。新聞・テレビとい ったマスメディアも、大企業経営 者で政党幹部を兼ねる人物が社主 であるところは、露骨な偏向報道 で 世 論 を 操 作 し よ う と す る な ど、 メディアと選挙の関係が問われる ような事態が生じつつある。   ただし、選挙戦では、このよう なメディアを使った新しい運動だ けが展開されているわけではない。 候補者は、地元有力者からの支持

特集

選挙の風景

市民

民主的選挙

03_特集.indd 8 16/08/02 10:38

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9

アジ研ワールド・トレンド No.251(2016. 9) の調達や、集会への顔出し、有権 者への戸別訪問といった活動も行 っている。しかし、このようなど ぶ板選挙にはカネが絡みがちであ る。 「 寄 付 」 と い う 名 目 で 地 元 に 物品が提供されたり、戸別訪問で 直接現金が授受されたりすること も多い。   当局による規制や監視が有効に 作用しないなか、候補者間の競争 が激しくなるほど金権選挙が蔓延 する。カネをばらまいて当選した 政治家は、次の選挙までの間にせ っせと汚職に励んでその資金を回 収しようとする。こうして、民主 的な選挙が定着していった一方で、 汚職が一握りの権力者から多数の 政治家へ、中央から地方政界へと 広がっていったのである。

  日々汚職のニュースを聞かされ ている国民の間には政治不信が広 がりつつあるが、選挙に対する有 権者の関心はいまだに高い。民主 化直後の一九九九年総選挙で記録 した九四%に達することはさすが に な い が、 国 政 選 挙 の 投 票 率 が 七〇%を下回ったことはない。   全国約五五万カ所に設置される 投票所では、午前七時から投票が 開始される。民主化直後の選挙で は、朝から長蛇の列ができ、投票 所周辺には一日中人だかりができ ていたが、いまは投票が終われば、 皆すぐに帰宅してしまう。   議会選挙では比例代表制が採用 されており、投票用紙には政党の ロ ゴ が カ ラ ー で 印 刷 さ れ て い る。 同時に、比例名簿に掲載されてい る候補者個人を選ぶこともできる よう、ロゴの下には候補者名も記 載されている。選挙に参加する政 党の数も常に一〇政党以上と多い ため、投票用紙は新聞紙見開きの 大きさになってしまう。有権者は、 折りたたまれたこの投票用紙を開 き、意中の政党や候補者に釘で穴 を空けて投票を行う。   投 票 は 午 後 一 時 に 締 め 切 ら れ、 その後すぐに投票所ごとに開票作 業が始められる。周辺住民がその 様子を自由にみることができて不 正の防止になるし、投票箱が途中 でなくなったり、奪われたりする のを防ぐこともできるからである。   しかし、投票所を運営している 担当者にとっては、この開票作業 が最も大変な仕事である。投票所 あ た り の 有 権 者 数 は 三 〇 〇 〜 四〇〇人だが、議会選挙では、国 政レベルの二議院(国民議会と地 方代表議会)と地方レベルの二議 会(州議会と県/市議会)の選挙 が同時に行われるため、投票用紙 も膨大な数になる。しかも、選挙 制度が複雑で投票ミスもしばしば 発生するため、投票が有効かどう かを確認する作業に時間がかかる。   結局、開票作業は深夜に及ぶこ と に な る。 各 投 票 所 の 担 当 者 は、 町内会の役員などをやっている一 般の市民である。彼らは高くはな い報酬にもかかわらず、地道な作 業を長時間にわたって黙々とこな している。インドネシアの民主主 義は彼らのような一般の人々によ って草の根で支えられている。

  さらに、二〇一四年大統領選挙 の開票では、インターネット技術 を使った市民監視の手法が開発さ れた。この選挙は、ジョコと対立 候補による一対一の大激戦となっ た。そのため、両者の票差も僅か となることが予想され、少しの集 計ミスでも混乱のもとになる可能 性があった。また、集計作業への 介入や数値の操作などが行われる 可能性もあり、選挙の正統性が失 われることも懸念されていた。   そこで、選管にあたる総選挙委 員会は、投票所で記入された集計 用紙をスキャンして公式ウェブサ イトで公開することにした。それ をうけて、市民のなかからその数 値を独自に集計するボランティア 運動が自然発生し、SNSを通じ て集まった七〇〇人の市民がイン ターネットを利用して独自に開票 結果をはじき出したのである。   彼らの発表した集計結果は、公 式の投票結果とほぼ同じであった。 ジョコの対立候補も、この結果に 文句を付けることはできなかった。 市 民 に よ る ボ ラ ン テ ィ ア 運 動 が、 インターネットという新しい技術 を通じて結びつき、民主主義の公 正さを支えたのである。 ( か わ む ら   こ う い ち / ア ジ ア 経 済研究所   東南アジアⅠ研究グル ープ) 2014 年総選挙におけるジョグジャカルタ特別州グヌンキ ドゥル県での開票風景(筆者撮影) 03_特集.indd 9 16/08/02 10:38

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