Title
高橋誠一著『日本と琉球の歴史景観と地理思想』
Author(s)
山本, 正昭
Citation
沖縄史料編集紀要 = BULLETIN OF THE
HISTORIOGRAPHICAL INSTITUTE(37): 99-101
Issue Date
2014-03-20
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12001/17462
99 -沖縄史料編集紀要 第 37 号(2014) 〈書評〉
高橋誠一著『日本と琉球の歴史景観と地理思想』
山本 正昭 著者の高橋誠一先生は去る 2014 年 2 月 11 日にご逝去された(享年 68 歳)。本書評は 生前に先生から書評を直接依頼されたものの、筆者が筆無精であることからこの時期での 掲載になってしまった。生前に本書評はぜひご一読していただきたかったが、叶うことな く天国に旅立たれてしまった。追悼の意味も込めて、本書評を先生へ捧げるものである。 高橋誠一氏は京都大学文学部史学科(人文地理学専攻)を卒業後同大学院を経て、関西 大学教授をつとめ、同大学の名誉教授に至っている。沖縄との関わりは、今帰仁村今帰仁 城跡発掘整備委員会委員のほか、『沖縄県史各論編 古琉球』(2010 年2月刊行)「第三部 第二章 王都首里の成立」の執筆者として豊富なフィールド経験に裏打ちされた実証的な アプローチで首里の成り立ちについて貴重な研究を残された。 本書は、2012 年 10 月に関西大学出版部より刊行された 358 頁に及ぶ著作である。そ の目次を掲げると以下のようになる。 高橋誠一著『日本と琉球の歴史景観と地理思想』(関西大学東西学術研究所研究叢刊 42) 目 次 総論 日本と琉球の歴史景観と地理思想 第1章 東アジア世界としての古代飛鳥と広域的都市計画 第2章 風水都市としての紫香楽宮と方格地割 第3章 長崎唐人屋敷の景観と構造─中国風囲郭街区への改造─ 第4章 琉球における石敢當─那覇市首里地区を事例として─ 第5章 那覇市壺屋地区の曲線道路と石敢當 第6章 石敢當の伝播と拡散にみる琉球と日本─奄美諸島を中心として─ 第7章 今帰仁城近接地からの集落移動と格子状集落今泊の形成 ─土地所有からみた分析─ 第8章 琉球の歴史的集落今泊の景観と保全YAMAMOTO Masaaki: Book Review: TAKAHASHI Seiichi Historic Scenery and Geographic Ideas of Japan and
100 -沖縄史料編集紀要 第 37 号(2014) 第9章 奄美大島龍郷町の集落と石敢當 第 10 章 神の島・古宇利島の集落と伝統的地理思想─琉球としての再認識と強調─ 第 11 章 日本における天妃信仰の展開とその歴史地理学的側面 集落遺跡の発掘調査では、居住域の全面を掘ると言うことはかなり稀である。日本本土 では 1960 年代以降に大規模開発事業が増加したことにより、集落遺跡の全面に近い発掘 調査事例が増えてきたが、それでも調査事例はかなり限られている。沖縄県内でも 1990 年代以降に、僅かではあるが数千、数万㎡にも及ぶ広範囲を発掘調査する事例が増えてき ている。そして、沖縄県内における米軍基地返還に伴う都市開発整備工事により、近い将 来には集落遺跡の全面発掘事例が出てくる可能性がある。その反面、過去における集落遺 跡の発掘調査事例の大半が 1000㎡未満の小面積を対象としたものであり、遺跡全体から すると点的な範囲でしかない。とりわけ、グスク時代以降の集落遺跡においては、それま での貝塚時代後期の集落遺跡と比べて、遺構の種類が増加し、その密集度が高くなる。そ のため、グスク時代そして近世期の集落遺跡における小面積の発掘調査では全体の中でど のように調査成果を位置付けるのか、いつも大きな課題が横たわっている。 このように小面積の発掘調査区で得られた情報のみでは、集落像(とくにグスク時代以 降の集落像)を描き出すことは自ずと限界が生じてくる。そこで、発掘調査区周辺のフィー ルドワークによる調査が必要となってくる。 本書はフィールド調査による集落研究を主軸に据え、そこから導き出される集落の特性 を抽出していくといった調査方法で集落像を描き出しており、集落の点でしかない小面積 の調査区であっても全体的な位置付けに視点を置いた解釈へと敷衍していくのに有効な内 容となっている。更に本書は集落の物質的な現象面に止まらず、そこに内在される思想に まで踏み込んでいる。石敢當やフクギ、拝所などの個別検討から風水思想にまで及んでい ることは、本書の、集落のみではなくそこに関わる人々の意図まで読み解こうとする意欲 的な試みが読み進めていくうちに垣間見えてくる。 実はこのような沖縄の集落に対する視点は前著の『琉球の都市と村落』(関西大学東西 学術研究所研究叢刊 23、2003 年刊行)で余すところ無く披露されているが、前著には見 られなかった本書の新たな視点として加えられているのは沖縄の近世集落や畿内の古代都 市、長崎の近世唐人屋敷の分析を視座に据えながら、時間と空間を越えた集落・都市空間 論を提示しようとしている点である。自己だけではなく他者を見ることによって、新たな 自己が見えてくるように、地域と時代を別にする集落・都市空間を見ることによって、全 く別の側面での特徴が洗い出されてくる。とくに本書はその点において明快に描き出して
101 -沖縄史料編集紀要 第 37 号(2014) いることから、極めて理解し易い内容となっている。また、聞き取りや地理情報、文献史料、 考古資料まで多用して、かなり詳細に検証しており、加えて自身によるフィールド調査の 成果も盛り込んだ、重層的な分析を行っている。そして、細やかな視点と先の広い視点と の両者が破綻することなく、しなやかな論理立ての上に総括されている。それは著者が従 来研究のフィールドにしていた畿内の古代都市の研究と、その後に研究のフィールドに加 えた、全く別の空間と時間で展開していた沖縄の集落とをしなやかに融合させて、一つに 纏め上げていることと相通じており、本書はまさに著者が積み重ねてきた研究の賜物とい える。 最後に、本書の「あとがき」においては日本本土と沖縄の間にある違和感が綴られており、 そこには学問では割り切れない思いが忌憚無く披瀝されていることについても触れておき たい。この中においては、著者はこれまでの研究を通して、日本・ヤマトとは何か、琉球・ 沖縄とは何か、そして引いては、対置することによってみえてくる、自身は何者なのか、 他者とは何者なのか、を読者に向けて問題提起しているようにも思える。本書の内容につ いては今後、詳細に再検証していかねばならない部分もいくつか見られるが、それにまし て著者の歴史地理学に傾けた情熱が静かにそして沸々と湧き上がるように感じ取ることが できる。このあとがきに表された情熱は、歴史地理学に止まらず、他領域のこれからの研 究者にも是非感じ取ってもらい、さらにはその思いを引き継いでいくべきものであること は言を待たない。