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アジ研ワールド・トレンド No.200 (2012. 5)
ਸ਼ؙ
মؙৰ
●個人としての考え
ある研究会の場で﹁研究者は
自身の能力に応じて手法を選
ぶ﹂
と一人の参加者が発言した。
筆者は筆者に対する発言だと感
じ、手厳しくも率直なメッセー
ジとして心に残った。
筆者は人の本質が今も昔もそ
れほど変わっていないと考えて
いる。同様に、手法の新旧に関
わらず、考察の対象者、事象の
本質の一端でも捉えることがで
きるのであれば、手法として意
義があると考えている。
本拙稿では、フィールドワー
クについて筆者が思うところと
その経験の一端について、認め
ることにしたい。
●﹁交流﹂は双方向
フィ
ー
ル
ド
ワ
ー
ク
は
、
生
の
人
間によ
る
生
の
現
実
・
世
界に
対
す
る直
接
的
な
理
解
の
試
み
であ
る
。
そこに
は
常
に
﹁
異
文
化
﹂間
、
人
と人
と
の
間
の
﹁
交
流
﹂
と
い
う要
素
が
含ま
れ
る
か
ら
、
調
査者も
一
人
の
人
間
と
し
て
の
自
身
をさらけ
出
さざ
る
を
え
な
い
局
面
が
あ
る
。
そ
うした
意
味
で
、
そ
の土地
の
も
の
を食
べ
る
こ
と
、
そ
の土地
の
習
慣
に従
っ
て
排
泄
す
る
こ
と
も
、
広
い
意味
に
お
け
る
フ
ィ
ー
ル
ド
ワ
ー
ク
だと
考
え
る
。
高
度
な
教
養
を
誇る
研究者
で
あ
ろ
う
と
、
筆
者
の
よ
う
な未
熟
者
であ
ろ
う
と
、
残
酷
な
ま
でにそ
の
点に
つ
い
ては
変
わ
ら
な
いの
で
は
な
い
か
。
た
と
え
ば
フィ
ー
ルド
で
仕
事
中
の
ト
イ
レ
。
あ
る
村
で我
慢し
き
れ
ず
慌
て
て
初め
て大
便を
し
た
際、
処し方
が
分か
ら
ず
、
筆
者は側にあ
っ
た
新聞
紙
で
拭
い
た後
、
自
身
が
生
み
出し
た
モ
ノ
の
上に
置い
て
出
て
き
て
し
ま
っ
た
。
後
から
どう
す
べ
き
だ
っ
た
の
か
分
かっ
た
の
だ
が
、
今
も
恥
ず
か
し
さ
、
申し
訳
な
さ
が
心
に
残
る
。
また、調査する側は、調査対
象者を﹁見る﹂というだけでな
く、調査対象者によって﹁見ら
れる﹂側でもある。国籍、
性別、
職業、
身体的特徴、
性格、
能力、
家族構成⋮。調査者も自身と自
身の持つ条件を調査対象者に
よって
﹁測られる﹂
ことになる。
結果
的に
フ
ィ
ー
ル
ド
ワ
ークは、
調査
対象者
・
調査
事
項
に
対
し
て
調査
者が
理
解
を
深
め
る
機会
と
い
うだ
け
でなく
、
調
査対
象
者
と
調
査者
相
互
の
﹁
交
流
﹂
の
機
会
だ
と
い
える
。
ま
た
そ
れ
は
、調
査
者
に
と
っ
て
、
自身
と
自
身が
持
つ
諸条件
、
そ
れ
らが
当該地
に
お
い
て
持
つ
価
値と直接
向き合う機
会
と
な
る
。
●調査のタイプ
筆者のフィールドは、ベトナ
ムである。筆者の限られた経験
によれば、ベトナムに関する現
地調査には、大きく分けて以下
の三つのタイプがある。⑴各関
係機関の専門家に対してインタ
ビューをして回るタイプの調
査、⑵一定程度まとまった数の
対象・地域について、調査票な
ど各種の手法に基づいてデータ
を集めて理解に迫ろうとするタ
イプの調査、⑶前記二つを組み
合わせた調査、である。これら
のいずれもフィールドでのワー
クである
。しかし
、ここでは
、
⑵のタイプの調査における、筆
者の経験に基づいて、記すこと
にしたい。
●フィールドにて
筆者が初めてベトナムを訪れ
たのは一九九五年。初めて先の
⑵のタイプのフィールドワーク
を行うことができたのは、二〇
〇五年のことであり、一〇年余
りの月日を要した。筆者は入所
当初、動向分析部という部署に
所属しており、ベトナムの現状
について政治・経済・外交とい
う幅広い観点から理解し、説明
することを求められた。変化の
激しい近年のベトナムについて
こうした作業を行うだけでも実
際には容易でない
。この場合
、
ニーズに速やかに応えようとす
れば、先の⑴のタイプの調査が
主流となる。
そんな筆者が初めて⑵のタイ
プの調査を行うことができたの
は、ベトナム北部の紅河デルタ
に位置するある省︵中央の直接
下の行政級︶
においてであった。
ベトナムの研究機関と現地行政
機関︵各級人民委員会︶のご理
解とご協力を得て、同省の中心
部からほど近くにある行政村で
障害者の生計調査を行った︵社
会主義国であるベトナムでは
、
基本的に同国の組織、機関の協
力と理解を得ることができなけ
れば、一定程度まとまった調査
を実施することは困難である
。
インフォーマルなコネクション
を用いる、あるいは偶然お会い
した方に立ち話をしながら話を
うかがうことも考えられる。し
かし、前者はそうした条件をも
つ人に限られ
、後者はインタ
ビューの数、時間が限られる公
人々
から
学
ぶ
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アジ研ワールド・トレンド No.200 (2012. 5)
算が強い︶
。以降
、類似の調査
を重ねている。
使用してきた手法は、調査票
に基づく各家庭直接訪問調査で
ある。同手法を選択したおもな
理由は
、⑴共通の質問事項を
ベースにして、一定数の家庭の
状況について調査できること
。
それにより相互比較が可能とな
ること、⑵比較的安定したイン
タビュー結果が資料として確実
に残せること、⑶直接ご自宅を
訪問して話をうかがうことによ
り、調査対象者の生活環境と状
況を理解しやすくなること、で
ある。
質問票の作成に際しては、初
めから現地語で作成し、調査に
協力いただくベトナム機関に理
解と確認を得るプロセスを踏
む。現地で調査を行う際、現地
の責任者に調査票の提出をよく
求められる。そのため、筆者は
なるべく慎重に調査票の作成作
業を進めるようにしている。
調査
対象者
の
選定
に
つ
い
て
は、緩
や
か
な
条
件
を
提
案
す
る
に
留め
て
い
る
。
こ
こ
で
は
数あ
る
理
由の
な
か
か
ら
、
人
民
委
員
会
の
担
当者
は
現
地
事
情
に
精
通
し
て
い
る
こと
、
統
計
学
的
な
調
査
と
い
う
よ
りも質
的
な調
査を志
向
し
て
い
る
こと
を理
由
と
し
て
記
し
て
お
き
た
い。
訪問
家
庭
数に
つ
い
ては
、
以
下
の条
件に基
づ
い
て
基本
的に定め
ている
。
⑴
滞
在
可
能
期
間
、
⑵
調
査地
へ
の
所要移動時間
、
⑶
現地
を管理する各
級人民
委
員
会
と
の
調
整
に
要
する時間
、
⑷
一
日
の訪
問可
能
軒
数
︵
調
査
票の項目
数
、
地理
的
条
件
、
天
候
により
影
響
を
受け
る︶
、
で
あ
る
。
ここ
で
⑷
につい
て
は
、
も
し
調
査
地
で
調
査
の
目的
、
社会状況
、
地理
的
条
件
を
理
解
す
る
協
力
者
が
得
られれ
ば
、
調
査
家
庭
数
の
増量
は可
能
で
あ
る
。初
めての
フ
ィ
ー
ル
ド
ワ
ー
ク
の
際、筆
者
も
調
査
地
方在住
の
方
に
作業
を
お
願
い
し
た
こと
が
あ
っ
た
。
し
か
し
、
分
析
を
行う際
に
は
そ
の方
が書き
込
んだ
調査
票
の
使
用
を
避
け
る
こ
と
に
し
た
。
こ
の
判
断
の背景に
は
次
の
よ
うな
こ
と
が
あ
っ
た
。
そ
の方か
ら
受け
取
っ
た
調
査
票
の
束
を
見
直し
た
際
、
あ
る
質
問事
項欄
が
す
べ
て
空欄
に
な
っ
て
い
た
。
そ
の
た
め
、
再調
査を
お
願
い
し
た
。
翌朝
す
ぐ
にそ
の
方
は
空
欄
を
埋め
た調
査票
を持
っ
て
き
て
下
さ
っ
た
。
し
か
し
顔が
赤
く
、
ど
う
み
て
も
お
酒
を
飲
んでいる
。
万
が
一
、
机
上で
作
文
され
た
結
果で
あ
っ
たら
⋮
と
筆
者
はどき
っ
と
し
た
。
筆
者
が
間
違
っ
ている
か
も
し
れ
な
い
。
一
度
問い
を発
し
て
しまえ
ば
、
現
実
は
ど
う
あれ
相
手
の
メ
ン
ツ
は
つ
ぶれ
てし
まう
。
そ
の場
の判
断
と
し
て
、
筆
者は
調
査
票
を
﹁
あ
り
が
とう
﹂
と
受け
取
っ
た
。
し
か
し
分
析
の
際
に
は先
の判
断に従
っ
た
。
以
降
、
筆
者
は
、
筆
者自身が
直接訪
問
す
る
こと
が
で
きる
ご
家
庭のみ
を
調
査
対象
、
調
査
範
囲と
す
る
と
い
う方
針を
、
貫
い
て
い
る
。
こ
の
こ
と
は
、
筆
者
の
調
査
目
的か
らすれ
ば
、け
っ
して
マイ
ナスの
経
験
で
は
な
か
っ
たと考え
て
い
る。
●注意すべき事項
どの国における調査において
もそうだと思われるが、信頼で
きる現地パートナーは知人・友
人というだけでなく、調査者と
現地を結ぶ水先案内人であり
、
非常に大切な存在である。
調査期間については、筆者自
身はビザ取得手続の関係もあ
り、長期の調査よりもビザなし
で滞在可能な二週間程度の短期
の調査を積み重ねてきた︵ワン
ショットサーベイと揶揄される
ことも多い︶
。この場合
、最も
注意しなくてはならないこと
は、体調の管理である。現地で
一度病気になってしまうと、そ
の機会を得るために積み重ねて
きた準備と努力が無駄になって
しまいかねない。長期間の調査
では回復後に取り戻すことが可
能かもしれない。しかし短期の
調査では
、それは容易でない
。
そのため、体調の管理には万全
を期す必要がある。
また、調査対象者の方たちと
お会いできる時間を一期一会と
覚悟を決めて取り組む必要があ
る。一日に何軒も訪問している
と、どうしても疲れが出る。同
じコンディションを保ってお話
をうかがうことは、必ずしも容
易ではない。勇気を持って訪問
家庭数を減らすことも選択肢と
すべきだと思う。
●おわりに
フィ
ー
ル
ド
ワ
ー
ク
は
け
っ
し
て
楽な仕事
で
は
な
い
。
宿
所
に
帰
っ
ても
、
書
き
込
んだ
調
査
票
の
見
直
し
、
メ
モ
の整
理
、
日記
の執
筆
、
翌日
の調
査
の
準
備
と
作
業
が
続
く
。
その
う
え
、
衣
類
の
洗
濯
︵
調
査
地
と宿所
の
条
件
に
よ
り手
洗
い
とな
るこ
と
も
多
い
︶、
荷
物
の
整
理
も
加
わっ
て
、
夜
遅
く
ま
で
休
め
な
い
。
しかし
、
そ
れ
故
に
多
く
の
こ
と
を
自身
に
刻
み
付
け
る
こ
と
が
で
き
る
。
筆者の実感から言えば
、﹁土
地の人との交流を通して素朴に
学ぶこと﹂が、フィールドワー
クの核心として存在している。
てらもと みのる/アジア経済研究所 東南アジアⅡ研究グループ
専門は、ベトナム地域研究。主な著作に『現代ベトナムの国家と社会̶人々と国の関係性が生み出す〈ドイモイ〉の
ダイナミズム』(編著、明石書店、2011年)、「ベトナムの障害者の生計̶外部環境とのかかわりについての事例調査を
通した考察̶」(森壮也編『途上国障害者の貧困削減̶かれらはどう生計を営んでいるのか̶』岩波書店、2010年)「ベ、
トナムの枯葉剤被災者扶助制度と被災者の生活」(『アジア経済』第53巻第1号、2012年1月)など。