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人々から学ぶ (フィールドワーク心得帖 第25回)

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Academic year: 2021

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人々から学ぶ (フィールドワーク心得帖 第25回)

著者

寺本 実

権利

Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア

経済研究所 / Institute of Developing

Economies, Japan External Trade Organization

(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp

雑誌名

アジ研ワールド・トレンド

200

ページ

58-59

発行年

2012-05

出版者

日本貿易振興機構アジア経済研究所

URL

http://hdl.handle.net/2344/00003983

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アジ研ワールド・トレンド No.200 (2012. 5)

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●個人としての考え   ある研究会の場で﹁研究者は 自身の能力に応じて手法を選 ぶ﹂ と一人の参加者が発言した。 筆者は筆者に対する発言だと感 じ、手厳しくも率直なメッセー ジとして心に残った。   筆者は人の本質が今も昔もそ れほど変わっていないと考えて いる。同様に、手法の新旧に関 わらず、考察の対象者、事象の 本質の一端でも捉えることがで きるのであれば、手法として意 義があると考えている。   本拙稿では、フィールドワー クについて筆者が思うところと その経験の一端について、認め ることにしたい。 ●﹁交流﹂は双方向   フィ ー ル ド ワ ー ク は 、 生 の 人 間によ る 生 の 現 実 ・ 世 界に 対 す る直 接 的 な 理 解 の 試 み であ る 。 そこに は 常 に ﹁ 異 文 化 ﹂間 、 人 と人 と の 間 の ﹁ 交 流 ﹂ と い う要 素 が 含ま れ る か ら 、 調 査者も 一 人 の 人 間 と し て の 自 身 をさらけ 出 さざ る を え な い 局 面 が あ る 。 そ うした 意 味 で 、 そ の土地 の も の を食 べ る こ と 、 そ の土地 の 習 慣 に従 っ て 排 泄 す る こ と も 、 広 い 意味 に お け る フ ィ ー ル ド ワ ー ク だと 考 え る 。 高 度 な 教 養 を 誇る 研究者 で あ ろ う と 、 筆 者 の よ う な未 熟 者 であ ろ う と 、 残 酷 な ま でにそ の 点に つ い ては 変 わ ら な いの で は な い か 。 た と え ば フィ ー ルド で 仕 事 中 の ト イ レ 。 あ る 村 で我 慢し き れ ず 慌 て て 初め て大 便を し た 際、 処し方 が 分か ら ず 、 筆 者は側にあ っ た 新聞 紙 で 拭 い た後 、 自 身 が 生 み 出し た モ ノ の 上に 置い て 出 て き て し ま っ た 。 後 から どう す べ き だ っ た の か 分 かっ た の だ が 、 今 も 恥 ず か し さ 、 申し 訳 な さ が 心 に 残 る 。   また、調査する側は、調査対 象者を﹁見る﹂というだけでな く、調査対象者によって﹁見ら れる﹂側でもある。国籍、 性別、 職業、 身体的特徴、 性格、 能力、 家族構成⋮。調査者も自身と自 身の持つ条件を調査対象者に よって ﹁測られる﹂ ことになる。   結果 的に フ ィ ー ル ド ワ ークは、 調査 対象者 ・ 調査 事 項 に 対 し て 調査 者が 理 解 を 深 め る 機会 と い うだ け でなく 、 調 査対 象 者 と 調 査者 相 互 の ﹁ 交 流 ﹂ の 機 会 だ と い える 。 ま た そ れ は 、調 査 者 に と っ て 、 自身 と 自 身が 持 つ 諸条件 、 そ れ らが 当該地 に お い て 持 つ 価 値と直接 向き合う機 会 と な る 。 ●調査のタイプ   筆者のフィールドは、ベトナ ムである。筆者の限られた経験 によれば、ベトナムに関する現 地調査には、大きく分けて以下 の三つのタイプがある。⑴各関 係機関の専門家に対してインタ ビューをして回るタイプの調 査、⑵一定程度まとまった数の 対象・地域について、調査票な ど各種の手法に基づいてデータ を集めて理解に迫ろうとするタ イプの調査、⑶前記二つを組み 合わせた調査、である。これら のいずれもフィールドでのワー クである 。しかし 、ここでは 、 ⑵のタイプの調査における、筆 者の経験に基づいて、記すこと にしたい。 ●フィールドにて   筆者が初めてベトナムを訪れ たのは一九九五年。初めて先の ⑵のタイプのフィールドワーク を行うことができたのは、二〇 〇五年のことであり、一〇年余 りの月日を要した。筆者は入所 当初、動向分析部という部署に 所属しており、ベトナムの現状 について政治・経済・外交とい う幅広い観点から理解し、説明 することを求められた。変化の 激しい近年のベトナムについて こうした作業を行うだけでも実 際には容易でない 。この場合 、 ニーズに速やかに応えようとす れば、先の⑴のタイプの調査が 主流となる。   そんな筆者が初めて⑵のタイ プの調査を行うことができたの は、ベトナム北部の紅河デルタ に位置するある省︵中央の直接 下の行政級︶ においてであった。 ベトナムの研究機関と現地行政 機関︵各級人民委員会︶のご理 解とご協力を得て、同省の中心 部からほど近くにある行政村で 障害者の生計調査を行った︵社 会主義国であるベトナムでは 、 基本的に同国の組織、機関の協 力と理解を得ることができなけ れば、一定程度まとまった調査 を実施することは困難である 。 インフォーマルなコネクション を用いる、あるいは偶然お会い した方に立ち話をしながら話を うかがうことも考えられる。し かし、前者はそうした条件をも つ人に限られ 、後者はインタ ビューの数、時間が限られる公

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アジ研ワールド・トレンド No.200 (2012. 5) 算が強い︶ 。以降 、類似の調査 を重ねている。   使用してきた手法は、調査票 に基づく各家庭直接訪問調査で ある。同手法を選択したおもな 理由は 、⑴共通の質問事項を ベースにして、一定数の家庭の 状況について調査できること 。 それにより相互比較が可能とな ること、⑵比較的安定したイン タビュー結果が資料として確実 に残せること、⑶直接ご自宅を 訪問して話をうかがうことによ り、調査対象者の生活環境と状 況を理解しやすくなること、で ある。   質問票の作成に際しては、初 めから現地語で作成し、調査に 協力いただくベトナム機関に理 解と確認を得るプロセスを踏 む。現地で調査を行う際、現地 の責任者に調査票の提出をよく 求められる。そのため、筆者は なるべく慎重に調査票の作成作 業を進めるようにしている。   調査 対象者 の 選定 に つ い て は、緩 や か な 条 件 を 提 案 す る に 留め て い る 。 こ こ で は 数あ る 理 由の な か か ら 、 人 民 委 員 会 の 担 当者 は 現 地 事 情 に 精 通 し て い る こと 、 統 計 学 的 な 調 査 と い う よ りも質 的 な調 査を志 向 し て い る こと を理 由 と し て 記 し て お き た い。   訪問 家 庭 数に つ い ては 、 以 下 の条 件に基 づ い て 基本 的に定め ている 。 ⑴ 滞 在 可 能 期 間 、 ⑵ 調 査地 へ の 所要移動時間 、 ⑶ 現地 を管理する各 級人民 委 員 会 と の 調 整 に 要 する時間 、 ⑷ 一 日 の訪 問可 能 軒 数 ︵ 調 査 票の項目 数 、 地理 的 条 件 、 天 候 により 影 響 を 受け る︶ 、 で あ る 。   ここ で ⑷ につい て は 、 も し 調 査 地 で 調 査 の 目的 、 社会状況 、 地理 的 条 件 を 理 解 す る 協 力 者 が 得 られれ ば 、 調 査 家 庭 数 の 増量 は可 能 で あ る 。初 めての フ ィ ー ル ド ワ ー ク の 際、筆 者 も 調 査 地 方在住 の 方 に 作業 を お 願 い し た こと が あ っ た 。 し か し 、 分 析 を 行う際 に は そ の方 が書き 込 んだ 調査 票 の 使 用 を 避 け る こ と に し た 。 こ の 判 断 の背景に は 次 の よ うな こ と が あ っ た 。 そ の方か ら 受け 取 っ た 調 査 票 の 束 を 見 直し た 際 、 あ る 質 問事 項欄 が す べ て 空欄 に な っ て い た 。 そ の た め 、 再調 査を お 願 い し た 。 翌朝 す ぐ にそ の 方 は 空 欄 を 埋め た調 査票 を持 っ て き て 下 さ っ た 。 し か し 顔が 赤 く 、 ど う み て も お 酒 を 飲 んでいる 。 万 が 一 、 机 上で 作 文 され た 結 果で あ っ たら ⋮ と 筆 者 はどき っ と し た 。 筆 者 が 間 違 っ ている か も し れ な い 。 一 度 問い を発 し て しまえ ば 、 現 実 は ど う あれ 相 手 の メ ン ツ は つ ぶれ てし まう 。 そ の場 の判 断 と し て 、 筆 者は 調 査 票 を ﹁ あ り が とう ﹂ と 受け 取 っ た 。 し か し 分 析 の 際 に は先 の判 断に従 っ た 。 以 降 、 筆 者 は 、 筆 者自身が 直接訪 問 す る こと が で きる ご 家 庭のみ を 調 査 対象 、 調 査 範 囲と す る と い う方 針を 、 貫 い て い る 。 こ の こ と は 、 筆 者 の 調 査 目 的か らすれ ば 、け っ して マイ ナスの 経 験 で は な か っ たと考え て い る。 ●注意すべき事項   どの国における調査において もそうだと思われるが、信頼で きる現地パートナーは知人・友 人というだけでなく、調査者と 現地を結ぶ水先案内人であり 、 非常に大切な存在である。   調査期間については、筆者自 身はビザ取得手続の関係もあ り、長期の調査よりもビザなし で滞在可能な二週間程度の短期 の調査を積み重ねてきた︵ワン ショットサーベイと揶揄される ことも多い︶ 。この場合 、最も 注意しなくてはならないこと は、体調の管理である。現地で 一度病気になってしまうと、そ の機会を得るために積み重ねて きた準備と努力が無駄になって しまいかねない。長期間の調査 では回復後に取り戻すことが可 能かもしれない。しかし短期の 調査では 、それは容易でない 。 そのため、体調の管理には万全 を期す必要がある。   また、調査対象者の方たちと お会いできる時間を一期一会と 覚悟を決めて取り組む必要があ る。一日に何軒も訪問している と、どうしても疲れが出る。同 じコンディションを保ってお話 をうかがうことは、必ずしも容 易ではない。勇気を持って訪問 家庭数を減らすことも選択肢と すべきだと思う。 ●おわりに   フィ ー ル ド ワ ー ク は け っ し て 楽な仕事 で は な い 。 宿 所 に 帰 っ ても 、 書 き 込 んだ 調 査 票 の 見 直 し 、 メ モ の整 理 、 日記 の執 筆 、 翌日 の調 査 の 準 備 と 作 業 が 続 く 。 その う え 、 衣 類 の 洗 濯 ︵ 調 査 地 と宿所 の 条 件 に よ り手 洗 い とな るこ と も 多 い ︶、 荷 物 の 整 理 も 加 わっ て 、 夜 遅 く ま で 休 め な い 。 しかし 、 そ れ 故 に 多 く の こ と を 自身 に 刻 み 付 け る こ と が で き る 。   筆者の実感から言えば 、﹁土 地の人との交流を通して素朴に 学ぶこと﹂が、フィールドワー クの核心として存在している。 てらもと みのる/アジア経済研究所 東南アジアⅡ研究グループ 専門は、ベトナム地域研究。主な著作に『現代ベトナムの国家と社会̶人々と国の関係性が生み出す〈ドイモイ〉の ダイナミズム』(編著、明石書店、2011年)、「ベトナムの障害者の生計̶外部環境とのかかわりについての事例調査を 通した考察̶」(森壮也編『途上国障害者の貧困削減̶かれらはどう生計を営んでいるのか̶』岩波書店、2010年)「ベ、 トナムの枯葉剤被災者扶助制度と被災者の生活」(『アジア経済』第53巻第1号、2012年1月)など。

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