商業教育の課題解決
著者
塚本 稔
雑誌名
埼玉学園大学紀要. 経済経営学部篇
巻
20
ページ
179-186
発行年
2020-12-01
URL
http://id.nii.ac.jp/1354/00001316/
特にバブル経済崩壊後はそれぞれの商業高校 では、商業人として『その時代に追いつくた めの』方策は変遷を得ながら進んできたが、 どのような時代の変化にも柔軟に対応しなが ら主体的に社会貢献できる商業人育成には課 題を残してきた。 大学に進学する生徒についてもその経過と しての商業教育ではなく、高校卒業時にその 時点としての商業人としての完成教育でなけ ればならない。商業高校卒業後には多用な進 路があるが、もしも、個人で独立して商業活 動をすることになった時にその仕事が円滑か つ主体的にできる能力が発揮させることがで きなければならない。 高等学校では2023年度から新学習指導要領 Ⅰ.現代の商業高等学校における教育諸 課題 現代の日本経済社会はグローバル化の更な る進展や目覚ましい技術革新などが展開され ている。商業教育そのものがそれらの変化に 十分対応しているかというと、そうとは言え ないのが実情である。商業高校自体の存在に ついても特に都市部ではその存在感が危うい 状況が続いている。また、従前の資格取得を 謳った教育やただ単に進学有利のための英語 増単位カリキュラムなどの方策により眼目の 目標は達成できていても商業人として、激動 の社会で十分貢献できる資質を育成できてい るかと言えば疑問が残る。それはこの数十年、
The Problem Solution of Commercial Education
塚 本 稔
TSUKAMOTO, Minoru 商業高等学校における教育課題とその課題解決を今般の教育改革の視点から論述した。 『Ⅰ.現代の商業高等学校における教育諸課題』では商業高等学校卒業時に現代の日本 経済社会での活躍が期待できるかについて、時代の先取りや追随に終始しがちな商業教 育では激動した社会で時代の波に確固たる自主・自律性を発揮する商業人への育成へは 限界があるとの課題を中心に論じた。 『Ⅱ.課題解決』では『Ⅰ』の課題解決を図る上で、教科との連携による商業教育の推 進と商業科目の仕上げとしての総合科目である『総合実践』について論じた。教科との 連携は国語科と英語科を挙げ、それらの教科の今日的に求められる内容を前段で考察し、 それを活かした教育論を具体例中心として展開した。『総合実践』では第3学年までに学 ぶ其々の商業の科目の基礎・基本を徹底した上での考察であることを付記しておく。 キーワード : 商業教育、商業高校、課題、教育改革、他教育との連携Key words : commercial education, commercial high school, problem, educational reform, cooperaton with the other subject
いて一定の成果は得ておりそれが商業教育の 特色となっている。では、『深い学び』につい てはどうであろうか。元々今回の教育改革に おけるこれらの視点は大学における高等教育 への対応であった。商業教育においては基礎・ 基本を重視することから、ここ数十年『深い 学び』への視点は希薄であったとも言える。 私は今回の教育改革での『深い学び』の視点 は旧来から唱えられている『生きる力』の育 成にも関連する重視すべき事項であると考え る。では商業教育で『深い学び』をどのよう に考えたら良いのか。多く教師は資格取得で の上級に合格させること、などと短絡的に捉 えていまいか。上記答申の趣旨からはその捉 え方では不十分でないかと考える。 『深い学び』を達成するには従前の教科中 心の教育ではなく、教科間の連携により学校 全体として取り組む必要性は現状を踏まえ大 変必要である。よってその方策例について後 述することとする。 つぎに『学力の3要素』について、文科省 における高大接続改革についての答申からそ の重要性についてわかり易く述べられている ので以下に示す。 グローバル化の進展やAIなどの技術革新な どに伴い、社会構造も急速に、かつ大きく変 革しており予見の困難な時代の中で新たな価 値を創造していく力を育てることが必要であ る。そのためには「学力の3要素」(1.知識・ 技能、2.思考力・判断力・表現力、3.主体 性を持って様々な人々と協働して学ぶ態度) を育成・評価することが重要であり、義務教 育段階から一貫した理念の下、「学力の3要 素」を高校教育で確実に育成し、大学教育で 更なる伸長を図るため、それをつなぐ大学入 学選抜においても多角的・総合的に評価する が施行される。また、その中の『主体的対話 そして深い学び』及び今回の教育改革で重視 されている『学力の3要素』はとりわけ商業 教育でも重要であると認識している。今般の 教育改革の趣旨を踏まえ、従属的でなく主体 的に社会に貢献できる商業人の育成として商 業教育で出来ることは何かを模索し、論を展 開したい。 まずは新学習指導要領に謳われている『主 体的対話そして深い学び』についてその内容 についての答申を示す。 ・主体的とは、学ぶことに興味関心を持ち、 自己のキャリア形成の方向性と関連付けな がら、見通しを持って粘り強く取り組み、 自己の学習活動を振り返って次につなげる 「主体的学び」が実現できているか。 ・対話的とは、子供同士の協働、教職員や地 域の人との対話、先哲の考え方を手掛かり に考えること等を通じ、自己の考えを広げ 深める「対話的な学び」が実現できている か。 ・深い学びとは、習得・活用・探求という学 びの過程で、各教科等の特質に応じた「見 方・考え方」を働かせながら、知識を相互 に関連付けてより深く理解したり、情報を 精査して考えを形成したり、問題を見いだ して解決策を考えたり、思いや考えを基に 創造したりすることに向かう「深い学び」 が実現できているか。(「幼稚園、小学校、 中学校、高等学校及び特別支援学校の学習 指導要領の改善及び必要な方策等について (「答申」補足資料13頁)」) 高等学校における商業教育のカリキュラム の性格上もあり、上述の趣旨のなかの『主体 的』『対話的』な教育実践は様々な方法によ りこれまで取り組まれていた。またそれにつ
Ⅱ.課題解決 1.国語科での文書作成能力を補完する商業 科での論理的文書作成教育 ① 現代の国語教育の在り方 新学習指導要領の高等学校国語科編では小 説による国語が元来の国語科教育から切り離 されるなど物議を醸している。その議論はさ ておき、新学習指導要領解説に目を通し、ま た高校学校現場の国語科教師の声に耳を傾け、 今後の国語科教育の課題を見出してみた。 まず気付くことは親しみやすさを企画して、 すべてにわたり異質な素材を融合させる教育 は、古典に限らず底の浅いものに退行する、 ということである。そのことは論理的な文書 作成能力低下も示唆していると考える。 次に「どのように学ぶか」を踏まえた問題 の場面設定の必要性を考察してみた。高等学 校における「主体的・対話的で深い学び」の 実現に向けた授業改善のメッセージ性を考慮 し、授業において生徒が学習する場面や、社 会生活や日常生活の中から課題を発見し解決 方法を構想する場面、資料やデータ等を基に 考察する場面など、学習の過程を意識した問 題の場面設定を重視することは大きな課題で ある。 また、「資質・能力」重視、つまり<どのよ うな力を身につけさせるのか明確にすべし> という方針とこれは連動している。生徒を「主 体的な学び」に向かわせるためにも「授業の 目標」を明確にすべし、というのと共通の発 想である。同時に言語を手掛かりとしながら、 文章から得られた情報を多面的・多角的な視 点から解釈したり、目的や場面に応じて文章 を書いたりする力などが求められる。 さらに、言うまでもなく、複数の資料や文 という一体的な改革を進めていく必要があり ます。』(文科省『高大接続改革に関する質問 に対しての回答』) 高校卒業までに『学力の3要素』を確実に 育成することが重要課題であることがこの答 申からも良くわかる。ただし、観点別育成・ 評価のうちの「関心・意欲・態度」について は除外されている。都市部など商業高校で募 集人員にも満たない現実を注視すると、この 3要素育成・評価の提唱は進学校を想定して いる可能性が多大である。逆に思考すると、 商業高校生での大学進学は「関心・意欲・態 度」の育成・評価は十分でなければならない、 とも解せる。十分な「関心・意欲・態度」の 育成・評価に立って、商業のあらゆる科目と 普通教科において、この「3要素」の育成・ 評価を重視するべきである。幸い商業教育を 通して、3要素の「3.主体性を持って様々 な人々と協働して学ぶ」は普通科高校より商 業科目の特性から育成が良好に図られている。 ただし、上記答申にも述べられているような 昨今の状況を踏まえると、例えば商業高校を 卒業すると商業科目に関連した資格の取得が できる、ということだけに偏向した商業教育 論は改め、普通教科との共同作業として、困 難な時代に逞しく実社会で活躍できる人間育 成が必要である。 以上の論述を総合し、その一例として、国 語科・英語科と連携した商業教育と時代の流 行りを脱し、商業人としての力量を高く育成 可能な商業科目『総合実践』の在り方を以下 に述べる。
それでは浅すぎ同時に生徒の「主体的で深い 学び」とは乖離してしまう。法は「解釈」に 基づき、その「判断」により合理的に運用さ れることが求められることから、「経済活動と 法」は極めて「論理的な」科目である。その 科目性格を活かし、「疑似判例」を示しその内 容がどの法のどの条文から正しいか正しくな いかを導きだす論述をさせることは科目とし ての教育的効果と同時に「論理的国語力」育 成にも大きな役割を果たせることが期待でき る。 多くの商業高校の「経済活動と法」では判 例学習が疎かになっている。それは論述させ るための疑似判例の問題作成及び生徒の論述 を添削する作業に多くの時間が割かれること ではないか。現在、商業科教員は生徒の資格 取得指導もあり、多忙である。その指導も重 要であるが、生徒の資質能力を育成するため にある時はこのように他教科の特質も視野も 範囲に入れた商業教育を推進すべきである。 2.英語科と連携した学校設定科目『英文商 業通信文』 ① 英語教育の動向 2003年3月、文科省は小泉純一郎内閣によ る前年の閣議決定「経済財政運営と構造改革 に関する基本方針」に基づいて、「「英語が使 える日本人」の育成のための行動計画」を発 表した。 文科省は2013年度より高校に導入した「英 語の授業は英語で行う」という原則を、2020 年からは中学校にも適用する。これらは(外 国語を話す能力は話すことで培われるのでは ない。話す能力は主に聞いた情報、読んだ情 報がわかるというインプットを理解する過程 で習得されるという)インプットの重要性を 章の比較・対照はあらゆる思考・分析のため の基本の手続きの必要性である。物事の性格 は、それ以外のものとの差異によってしか知 ることはできない。視点の相対化も重要であ る。ただ、それは基礎の上に積み上げられる 高度の段階で、熟考のための時間も必要にな る。その論理展開の方法や内容に関する基本 的読解力を問うということも重要な視点であ る。 最後に当然ながら「他者の視点に立つ能力」 「指差した人間の視点に立つ」「主体」性や「他 者」と「共感」する力の育成は国語教育とし て必要不可欠であるべきである。総合して他 教科においての論理的考察による文書作成が 必要である。 ② 商業科目「経済活動と法」における論理 的文章能力の育成 先述した通り、日本人の文書的コミュニ ケーションで最も必要である国語力はその教 育において岐路に立たされていると言っても 過言ではない。特に論理的思考に基づいた読 解力と記述力育成は今後の大きな課題である と考える。そのような状況下で「国語教育は 国語科に任せる」という短絡的な指針はもは や有り得ないのではないか。各教科で可能な 限り論理的な文書読解及び記述表現が必要で ある。では、商業科ではどのような取り組み が可能であるかを商業科目「経済活動と法」 の一例を挙げて考察する。 「商業活動と法」は言うまでもなく民法・ 商法の学習を基本とした極めて論理的である 「法」の概念についての学習である。学習指 導要領商業科編解説には「記述すること」の 必要性は強調されていない。では本当に法の 概念を教授する内容だけで良いのかというと
「英語の学習は英語で行う」「実践的英語運用 能力」「英語が使える日本人」「コミュニケー ション能力の育成」「四技能」」「モチベーショ ン」「必要性」の重要要件を視野に入れなが ら商業教育での活用面で総合的に論じたい。 商業科での生徒の卒業までの必要単位数の うち英語など外国語で5単位を代替できるの はかなり以前から続いている。これは外国と の経済取引において外国語はもはや商業科目 の一つとして認知されている証左ではないだ ろうか。それは明治時代の開国において貿易 の急速な進展により商業教育に外国語を重視 した教育が進んでいた経緯がある。 ところが、高度経済成長期以降、大学進学 率の大きな伸長により、大学卒業生と商業高 校生との求人条件では企業は商業高校卒業生 より大学卒業生への英語力への期待に大きく シフトされ、商業高校生に英語力までは期待 されてないのが現状ではないか。確かに、英 語力は総じて大学生の方が優れているのは当 然かもしれない。しかしながら、商業教育で の「国際化に対応する」との理念は随分前か ら謳われているにも関わらず、英語科と商業 科が連携し商業人としての基礎的英語力を向 上させようという取り組みのある商業高校・ 総合高校は皆無である。 その実態に鑑み、商業教育を施す高校の学 校経営方針に基礎・基本的な英語力の着実な 定着を明示し学校全体として英語教育の充実 に取組む必要があるのではないか。中でも「英 語に対するモチベーション向上」と「英語嫌 いの皆無」を進めることは重要である。 さて、商業教育の視点からの英語について の「モチベーション向上」「必要性の実感」 から商業科目においても商業英語を取り入れ た学校設定科目の設定は絶対的に必要である。 認識した判断である。 高等学校指導要領解説には、その目的が「生 徒が英語に触れる機会を充実するとともに、 授業を実際のコミュニケーションの場面とす るため」と明記されている。 その裏付けとして国は「実践的英語運用能 力」「英語が使える日本人」「コミュニケーショ ン能力の育成」「四技能」(読む・書く・話す・ 聞く)の重要性を提言している 。英語学習で、 「四技能」という概念は古くからあった。英 語を習う際には、読む、書く、話す、聞くと いう区分を意識するだろう。しかし、これは あくまでも便宜上の区分である。現実の英語 の運用では、四つの技能は密接にからみあっ ている、と謳っている。 この20年ほどの文科省の英語政策は完全に オーラル英語重視の方向に傾いている。これ が生徒の読解力不足につながっているのが明 白である。 英語教育の課題の一つとしてはその必要性 の問題ではないか。言語の習得には時間とエ ネルギーが必要であり、中でもモチベーショ ンがないと円滑にできない。日本語話者の英 語習得を阻害する数ある要因のうち、もっと も多くの人が「必要性を感じていない」とい うことでないだろうか。「必要がない」とい うことではない。必要かどうかは個人の問題 である。そうではなくて、「必要だ」という切 迫感がない。だから本気になれない。動機付 けの不在は、どちらかというと次元の低い要 因として切り捨てられる傾向があるが、日本 における英語習得の現実を見据えるためには 見落とせない。 ② 英語教育を踏まえた商業高校での英語学習 上記①で昨今の英語教育の動向において、
この英文通信文はその和訳も生徒に明示すべ きである。簡単な単語が多く含まれた、しか も和訳の通信文を作成することにより生徒は 模擬実務を通し、その「必要性」と「モチベー ション向上」を実感することが期待できる。 なお、英文商業通信文及びその和訳について 英語科教員と連携し、正確かつ充実した文書 内容であることが必要である。 模擬取引相手の生徒への通信方法は郵送に よるもの、電子メールによるものの二種を体 験させる。この学習を通し、英文商業通信文 の基本的文書スタイル(ブロックスタイル、 インデントスタイルなど)の使い分け、英文 による封書の書き方及び注文書などの諸票の 作成にも習熟できるよう配慮する。また、模 擬取引相手との学習により英語による「コ ミュニケーション」の観点からもその成果が 期待できる。 商業英語通信文の授業であるので英語によ る会話でのコミュニケーションはないが、生 徒の英語力の高い高校では、英語科教員と商 業科教員との複数教員指導体制で簡単な商業 英語会話も学ぶことができる学校設定科目 「商業英語」として発展させることも可能で ある。「英文商業通信文」では英語の「四技能」 のうち二つの技能しか習得できないが「商業 英語」では「四技能」全てを習得できること から「商業英語」は商業科としての英語教育 を伴う商業科目として理想的と言える。 3.生徒の主体性を発揮し、経済社会が立体 的に実感できる総合実践の考察 現在の商業科の総合科目である「総合実践」 は「商業実践」を時代の推移により発展させ た科目である。「商業実践」の科目が設定さ れ全国の高等学校で学習指導要領に基づいて 昭和30年代までの商業科教育課程では「商業 英語」「英文タイプライティング」の科目が 設置されていた。生徒も意欲的に商業科目と しての英語に積極的に取り組み、商業科担当 教師にも教授できるだけの英語力があった時 代である。先述したが高度経済成長の進展と ともにその実態は大きく後退してしまった。 また、現代では確かに商業科新任教師の英語 力は期待されないで採用されているのは当然 のことである。 それであれば英語科と連携を図った商業科 目の設定は十分可能ではないであろうか。例 えば、平成の当初の学習指導要領に位置づけ されていた「文書処理」の内容の中の英文文 書処理を英語科との連携により整理・発展・ 充実化して「英文商業通信文」として学校設 定科目として設置することは可能ではある。 従前の英文文書処理教育ではタイピング速 度指導に重点を置かれていた。元来昭和30年 代の「英文タイプライティング」の教育内容 が引き継がれていた。現在は小学校生からパ ソコンを利用していることもあり、生徒のタ イピングの力量は優れており和文ワープロ検 定試験を目指すタイピングの習得は必要なが ら、平行して英文の速度を目指した教育の必 要性は希薄である。タイピング速度を重視し たものではなく、基礎的な英文商業通信文に ついての理解と活用を目指すことが重要であ る。 そこで、この授業内容の一例として、以下 に述べる。英文での極めて簡易な生徒間の模 擬商業取引を前提にする。まず、英文商業通 信文は慣用頻度が高く、また、難解な単語は 商業英語で常時用いられる語句以外には用い ないよう配慮する。それは生徒が「難しさ」 から「英語嫌い」に発展させないためである。
ある。 新学習指導要領で謳われている「主体的対 話そして深い学び」を確実にすべく商業科目 の総合科目としての「総合実践」の具体的内 容は今大きな見直しの必要性を私は訴える。 では今後の総合実践の学習形態はどのよう であれば新学習指導要領の趣旨や従前からの 「生きる力」の育成、基礎・基本の定着を図 ることができるかを一例として以下に論述す る。 まず、現在多くの商業高校で実施されてい る「会社組織形態」を廃止し「個人商店」に 戻すべきである。会社組織形態での利点は同 組織内における「協働」「コミュニケーション」 育成などが本来的には期待でき、また、現実 の企業活動にほんの少しだけ近づくことはで きる。しかし、生徒同士の馴れ合いから会社 組織内での規律に欠け、「協働」「コミュニケー ション」の能力を育成することは不可能と 言っても過言ではない。 生徒一人ひとりが会社の代表者としての 「個人商店形態」を取ることは、生徒に大き な責任を負わせ「主体的」な学習の一層の効 果、並びに判断力・思考力の育成にも大きな 期待が持てることは過去の「商業実践」での 経験からも立証できる。模擬取引において利 益を計上した時は喜びを体験でき、また損失 を計上した時は次期への反省とすることが 「体験的」にできる。個人商店であることか ら多くの起業を希望する生徒には実践的であ る。 帳票の作成・処理については、殆どは従前 通りパソコンによる作成であるが、簿記会計 に関するものは簿記検定3級の力量が生かせ るよう帳簿については電子処理ではなく原始 的ではあるものの財務諸表作成まで全て手書 実施された。当初は「個人商店」(卸売商) が生産者から商品を買い入れ、その商品を遠 隔地区の他商人(卸売商)に販売するという のが基本形態であった。 その形態は昭和50年代まで見られた。昭和 50年代後半には、それまでの「個人商店」か ら会社組織の形態に推移した。さらに、平成 に入るとパソコンでの事務処理も当然学習す るようになった。 現在では商業高校を卒業して就職先に個人 商店は少ないであろう。逆に企業組織形態の 企業に就職する生徒は大変多い。また、その 企業形態も極めて多様である。同時に、企業 ではなく起業を希望する生徒も多くなりつつ あるのが現状である。 現時点での各商業高校では時代の推移に (何歩も遅れて)合わせていくことが精一杯 であり、学んだ生徒が果たして実践的能力を 身に付けることが出来ているかと言えば、そ れは大きな疑問である。実際の企業での活動 はより複雑であり、その内容の基礎にもなら ない内容が多いのではとの思いがある。 戦後に「商業実践」としてスタートした時 期はまさにこの科目を学ぶことが、就職先の 会社勤務の基礎となった歴史からその趣旨さ え乖離した現状に憂いを実感する。 学習した内容が商業人としての基礎を築く ものでもない中途半端な事務・販売学習は商 業教育の「基礎・基本」の観点からも教育効 果の薄いものであると言って過言ではない。 総合科目としての科目ということから、商 業教育の基礎を発展したと謳うことに反省の 時期が到来しているのではないか、と私は考 える。 科目としての総合性ではなく、商業人とし ての「基礎・基本」の「総合」となるべきで
はあるが、「対話的な学習」としてビジネスマ ナーの指導徹底は言うまでもないことであり、 今後更に重視される内容である。 以上、課題解決策を具体例を示し論じたが、 何れにせよ其々の商業科目について基礎・基 本のさらなる指導徹底の上に立ってこそ他教 科との連携及び総合実践の充実は可能である。 基礎・基本の徹底を図りながら教育改革の趣 旨に沿った指導展開により高校卒業時であっ ても商業人として自主・自律的に意欲を持っ て社会に貢献できる人材を育成する環境が商 業教育を施す高等学校であることを期待する。 【参考文献】 ・文科省『学習指導要領』 ・文科省『学習指導要領商業科編』 ・文科省『学習指導要領国語科編解説』 ・文科省『学習指導要領英語科編解説』 ・文科省『幼稚園、小学校、中学校、高等学校及 び特別支援学校の学習指導要領の改善及び必要 な方策等について(「答申」補足資料)』 ・文科省『高大接続改革に関する質問に対しての 回答』 きによるべきである。また、会計処理におい ては管理会計の初歩的分野である商品回転率、 損益分岐点を明示できる利益計画表の作成を 生徒に課すことにより、簿記会計について管 理会計を含めた生きた体系的学習が可能であ る。 取引相手への意思伝達方法は電話以外につ いては電子メールやワープロ作成による商業 通信文とし、その学習成果を果たせる、まさ に文書処理教育の実務的体験ができるよう配 慮する。 金融機関の部門については同一市場に同名 金融機関を2店舗設置しまた管理部門内に日 銀も設置したい。会計処理については個人商 店同様に手書きによることが望ましい。すで にかなり昔から現実の金融機関での会計処理 はオンライン化されており、それに伴い簿記 会計の学習分野においても銀行簿記が無く なって久しい。その現実の中で簡素化してと はいえ銀行簿記による処理を体験させること は時代錯誤ではないかと思われがちであるが、 簡易化した銀行簿記により銀行の会計上の仕 組みを体験させたい。(例えば個人商店との 取引は貸借が逆になることや本支店との会計 処理、日銀への預け金という金融組織の基本 的構造の学習)金融については基礎科目であ る「ビジネス基礎」においてすでに生徒は学 習している。しかしながら、社会においての 金融機関の構造的な理解までは及ばない。将 来、金融機関に就職を希望する生徒には是非 「総合実践」における銀行のポジションの会 計処理を通して基礎理解をすることが望まし い。 最後に総合実践での生徒のポジション(商 人や金融など)に関わらずこのことは従前か ら「総合実践」の学習では学んでいることで