ミツバ チ科学 (1996)17(4):179-182
養蜂
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年 目の記
藤田 成美
ダーク トーンのシックな衣装を着込んだ,カ ーニオラン系の一群がわが家にお目見え したの は,3
年前(
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年)の早春であった. それまで,小生 は ミツバチを飼育 したことは なか ったが昆虫の生態 には興味があ り,
「ミツ バチ科学」誌 も7年 ほど前に購読 しており,そ の頃,20
年間の養蜂 につ いて書かれた田口通 太郎氏の一文 (本誌11巻 1号,1990)を読み, 「難 しいがお もしろい- 」 というひと言 に領 けるものがあり,
「難 しいのを承知の上で」神戸 か ら購入 した次第である.松戸市内にも養蜂家 は数名存在す るが,近親交配の悪影響を考慮 し て遠方の種を選んだ. 今 日までの結果 を結論 か ら先 にい うと,群 敬,採蜜量 ともに年々, ほぼ倍 々ゲームで増加 している (初年度2群で現在8群). カーニオラン種は温順で低温に強いが,暑 さ には若干弱いことが飼い始めてみてわか った. 拙宅の庭に終 日,陽が当たっていることも影響 したようだ.購入 した年 の5月,数個の王台が でき,人為的に分割 して新たに3群,新女王蜂 群 として分家 させることができた.やがて蜂の 数 が増 え,順調 に推移 しているよ うに見えた が,梅雨が明けて盛夏になるや,その新3群 と もに女王蜂が巣箱か ら這 い出 し,同時に働 き蜂 達が一斉に空中に飛び出 して巣箱が空になると いう,分蜂 とは全 く異なる異常な事態が繰 り返 し発生 した. この時,新女王蜂 は3匹 とも (受 精確認後,廼を切 っておいたために飛べず)栄 箱の周辺を這い回 り,指先 に軽 くつまんで巣箱 の中に戻 して も,す ぐまた這 い出す始末だ った (神戸か ら来た母女王蜂群 に異変 はなか った). 察するに新3群 とも,何かの病気 と暑 さに負け つつあるようだった.やがて新女王蜂は3匹 と もどこかに姿を消 して しまい,残 された働 き蜂 達 は生 きる目標を失 ったかのように 「遊軍」 と なって気ままに南の欄の上空を飛び回 っては再 び自分達の巣箱 に戻 って くるということを繰 り 返 していた.ある時,近所の農家の人が数名, 畑で作業中に頭上で蜂達が乱舞 したので全員が 驚いて頑を抱えなが ら家の方へ逃げ出す と,蜂 達 もゾロゾロ後を追 って農家の入口まで,集団 で押 し掛けるといった奇妙な行動をとった.そ の時蜂達 は人間を刺すようなことはまった くな かったというが,それに して も数万匹の蜂が黒 雲のごとく空中を追尾 して来 ることはまさしく 仰天 モノであったろう.推察するところ,蜂達 は人間に興味を抱 いて (あるいは衝動的に?) 人間の後を追 った らしい-. 自宅の庭で も何回 か私 は目撃 したが,その都度,蜂達の 「虚 ろな 心」を感 じた. この時の蜂達の心理状態は病気 に由来する死の予感が,やがて虚無感ないし寂 参感 となって圧迫する余 り,精神を崩壊 させつ つあったように思 う.カーニオラン達が恭順で 不平をいわず (態度 に出さず)善良で穏和な働 き者であっただけに, この変わ り様 は心を痛 ま しめるものであった. こうなった理由のひとつは,一群内だけの交 配の所為であると思い即刻 (その年の夏)ニュ ージーランド産のイタリアン種を一群 (神戸を 避 けて)名古屋か ら取 り寄せた (なお,脱出飛 行 を繰 り返 していた3群 の働 き蜂達 は徐 々に 数を減 らしていき,秋の草花が咲き出す頃にす べて滅び去 った), か くして初めての冬を迎えたが,カーニオラ ン (母女王群),イタ リア ンの両者 ともに無事そ の冬を乗 り切 った.再 び春を迎えると蜂達 は急 速に数を増 し,春の花が終了す る頃には3段群 に (両者 とも) な り王台 も双方合わせて10個 程できたため,人為的に分割 し,その後の新女 王蜂の出現か ら受精 は蜂 自身の 「自主管理」に 委ねた.その結果,両種か ら各一群ずつではあ るが新女王蜂群が得 られた.新女王蜂 の色調 は,イタ リアン種が母女王蜂 と同等の明るい単 一色であるのに対 し,カー二オランの方 は母女180 図 1 わが庭のミツパテ飼育状況 王蜂が純黒なのに娘女王蜂の方 は黒 と薄黄の縞 模様で,胴の先端部 に僅かなが ら純黒を残すに とどまった. この2年 目の春 に蜂達 は急増 したが,その理 由は購入 した初年度 に全 く採蜜 しなか ったため のように思 う.2年 目の夏 の始 め,乗 の花が終 了す る頃 (分離機で)初 めて採蜜 したが,一斗 缶でたちまち3個分 になった.この内の2缶 は 蜂 (4群) の越冬予備 として残 し,残 った 1缶 を昨夏,迷惑をかけた農家 に 「お詫 び」 として 持 って行 った.数 日後 その農家か ら「お返 しに
」
と,どっさり野菜が届 け られたが,その時,
「去 年 は栗の実が大豊作で-,多分お宅の蜂 さんの お陰のよ うです」 とニコニ コ顔である. こち ら はわが蜂が恨 まれているのでは, と思 っていた だ けに逆 に感謝 されてい ることが判 って安堵 し,
「蜂 の方 も栗 の花 か ら蜜 を もらって喜 んで ま した-」 と冗談を言 って共 に笑 い合 い,以後 その農家 の皆 さん とはす っか り仲良 しにな っ た. さらに近 くの観光梨園か ら大量 の梨が小生 の許へ届 け られたので理 由を聞 くと,
「弟 の方 か らお宅の素晴 らしい蜂蜜 を分 けて貰 いま して -」と言 ったので私 も 「ああ,ご兄弟で したね」 と想 い出 してか ら 「ところで梨の花 に も ミツパ テは行 っていますか?
」と尋ねると,
「はい来て ます,一杯来てます」と満足そ うに領いて,
「そ の授粉作業代です」 というように持参 した段 ボ ール箱 を置いて帰 って行 った. ミツバチが養蜂 生産物以外 に,野菜や果物 まで人間に もた らす とはまった く予想外であった. やがて梅雨が明け,再 び暑 さが厳 しくなると 同時に暑 さ対策 として巣箱上 に日除けの覆 いを 施 し (図 1),通風 を良 くす るために継箱を各群 に追加 した (2段群 を 3段 とし,3段群 は 4段 としていずれ もその最上段 に空巣を入れておい た).さらに巣箱の前後 の窓 を (夏 の間)少 しず つ開けた. また巣箱群のほぼ中央 に給水用の鉢 を置 き,常時水を張 っておいた.以上の他,湿 気を防止す るために巣箱を直接,地面 に置かず (何 らかの台上 に載せ る)高床式 とした (なお, 巣箱の前 の平板 は流蜜期の蜂同士の衝突緩和用 に置いてみたが,夏の涼み台や冬で も日向ぼ っ こに活用 しているため,年 中付 けてある). この2年 目の夏 は猛暑だ ったが,幸 いにカー ニオラン(2群)達 に異変 は生 じなか った.全 4 群が競い合 うかのように早朝か ら活動を続 け, 夏の終わ り頃,秋 の花が咲 き出す前 に再 び大量 の蜜が貯 まった. この時期,周辺 には春 の頃の よ うな花々はもう見当た らないが,当地 の場合 はさし当た って3か所,夏 の蜜源があることを 確認 している. ヤタイヤシとミツパテ まず第一 は当家の玄関に植えてあるヤタイヤ シ(
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Becc.)2本である. 日本で は 「ヤシ蜜」 とい う名称 も現物 も殆 ど 見聞す ることはないが, タイBgでは百年 も昔か らココヤシ林で養蜂を始めていた し, ニ ッパヤ シも蜜源植物 として報告 されている ( Wong-siri,1989,本誌 10巻4号). さ らにSudrajat andSulistianto(1993,本誌 14巻 3号 )にも, ココヤシ,サ トウヤシが養蜂植物 として紹介 さ れている. ヤタイヤシの場合 もかな り蜜が出るらしく, 開花 と同時に ミツバチが飛来す る (図2).この 時 は花外蜜腺 か らもすで に流蜜 して いる らし い. さらに花が満開になると蜂 の数が一気 に増 え,数十匹の団体が大 きな花序の内外で楽 しげ な羽音 とともに花蜜や花粉 を集 める姿が認 め ら れる.開花の時期 は南関東で例年,ニイニイゼ ミが鳴 き出す6月下旬で,夏の間,数回にわた って大 きな穂状花序 に数百 の星状の小花を持 っ た繊細で優美 な姿を見せて くれ る.花の期間が 数 日と短 いのが難点だが,夏の花蜜の少 ない時図2 ヤタイヤシの花に舞うミツバチ 期だけに訪花 して蜜を吸 っている嬉 しそ うな様 子や, うっとりした法悦 の境 に在 るかのような 姿態を花の咲いている期間中は連 日見 ることが できる.夏の陽光 の溢れ る中, リズ ミカルな廼 音 に乗 って花をお とな う ミツバチの全身 は生命 の輝 きを体現 しているかのようである. ユーカ リとミツバチ 夏の花の二番手 はユーカ リ (フ トモモ科)で ある. この樹 は今か らち ょうど四半世紀前 に松 戸市 の樹 に指定 され,市 内各所 に約2,800本 の 幼木 (約十種類)がオース トラ リアか ら運 ばれ 植樹 された もので,最 も多 い種 はEucaLiptus viminalisの約1,500本, 次 いで E.camal du-lensisの476本である.この両種 ともに花蜜を 出すために養蜂 に適 し,前者の花 は白,蜜 は琉 王白色で独特 の甘 さがあ り,後者 はク リーム色の 花 に黄金色 の蜜で風味が大変 よい とい う (「未 来 の植物資源ユーカ リ」西村弘行編). ユーカ リは樹高があるためか, その花を見 る 機会がなか ったが, ミツバチが当家に来たこと と,一度 この花 を見たいと思 っていた事 由で, 181 ユーカ リの多 い公園を中心 にかな り熱心 に探 し 回 った.6月下旬 のあ る晴 れた 日,や っと且 camaldulensisと思 しき花の咲いているのを発 見 した. 家か ら直線距離で2km北 (小金原団 地) にあった. 花 は直径が2cm前後 の半球状 で, よ く見 るとその花 のマ リは直径4-5mm の小 さな花の集合体である.柳 の枝状の細 くて しなやかな枝葉 の陰に薄黄色のエキゾチ ックな 小花が,甘 い芳香を放 ちなが ら夏至点を過 ぎた ばか りの太陽の強光の下,晴れた青空を背景 に 華麗な姿で無数 に群が り咲 いているさまは, こ の上 もな く垂惑的であった. しば し花を観察 しなが ら, ミツバチの姿を探 したが,結局蜂 は一匹 も姿を現 さなか った.そ の時刻 に花蜜を出さないためか と思 い,後 日も う一度時間を変えて現地 に行 ってみたが,やは り蜂 の姿 はなか った.その後 も何回かひまを作 っては見 に行 ったが,今 日に至 るまで ミツバチ の訪花 は (そのユーカ リに限 っては)確認で き ないままである. エ ンジュ (塊) とミツバチ ェ ンジュが夏季 における主要 な花蜜提供者で あることは,わが蜂達 に教え られた. 昨夏 (8月の末),蜂達が弾丸のような勢 いで 南方の空に飛 び去 って行 くのを眺めなが ら,射 程距離 はかな りあるな, と感 じたとたん,その 方向1000
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の五番駅前商店街のところにエ ン ジュの街路樹があり,夏 の間 は黄 白色 の蝶形花 が椅麓 に咲いているのを想 い出 し,標的 はどう や らそこにあるような気が し,直ちに行 って見 た. 花 はほとんど終わ ってお り,や っと一本だけ 白い落花の輪を舗道上 に散 り敷 きなが らなお, 咲 き残 っている樹 を見つ けた.その花 に日頃か ら見慣れた黒 っぽい ミツバチが十匹程来ている のを認 めた.ひとしきり花蜜を吸 ってか ら蜂達 は順次,一旦,上方 に飛 び上が り,それか ら北 方へ向か って飛 び去 って行 く- 巣箱のあるわ が家の方へ.付近 には小生以外 に養蜂家 はいな いのでわが蜂だ ったと思 う.同時にユーカ リに 彼女達 が行 かない理 由 も判 ったよ うな気 が し182 た.距離が (ユーカ リまでの)半分の近 さの上, 樹の数 も