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近接場光学とナノメーター空間の光エレクトロニクス 利用統計を見る

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第50号記念特集

近接場光学とナノメーター空間の光エレクトロニクス

堀 裕 和

(平成11年10月19日受理)

Near-Field Optics and Optoelectronics in Nanometer Scales

HirokazuHORI        Abstract   Near−field optics has been developed extensively on the bases of modern technologies of micro−fabrication and control of matter and provides a novel technique for nanometer− resolution diagnosis and manipulation of matter. Near−field optics and related techniques are reviewed in this paper. Basic ideas of near−field optics are introduced in terms of light−matter interaction in nanometer scales. The resolution of near−field optical measurements and the locality of electromagnetic interaction in nanometer scale are described in terms of evanescent waves and angular spectrum representations. Several interesting characteristics of optical near−field phenomena are investigated.

1 はじめに

 光は,広範な科学技術分野において,電磁波,光子, 電磁相互作用の担い手など,さまざまな様相であらわれ る.近年,急速に発展しつつある微細加工などの技術を 基礎として,光領域の周波数で,しかも波長よりもはる かに微小なナノメーターサイズの物質間で生ずる電磁相 互作用の性質に注目した,新しい光技術が急速に発展し ている.これは近接場光学と呼ばれ,従来光学のほとん どを占めていた光の波の性質に着目した現象に常に応用 範囲の限界として課されていた光の回折限界をはるか に越える,ナノメーター領域の高分解能の計測や制御技 術を可能にする[1−3].物質近傍の波長より小さい空間 では,物質系と結合した光のさまざまな性質が明らかに なる.近接場光学はこれを利用して,広範な応用ととも に,これまで見逃していた光科学の多様な側面を再発見 する手段を提供している.  本稿では,近接場光学およびその応用分野を展望し, その原理を考察するとともに,光科学の含むさまざまな 問題の再発見や,ナノ電子デバイス等における電磁場の 役割などの基礎的事項について物理的考察を行う.特に  *電気電子システム工学科,Department of Electronics 筆者らの研究グループでは,光近接場の性質と電磁相互 作用のさまざまな局面に注目し,近接場光学顕微鏡の原 理的側面の考察,エバネッセント波と準静的描像に基づ く理論的取り扱い,原子分光を通じての局所的光相互作 用の基本的性質の解明,近接場の特徴を用いた単原子操 作の提唱,近接場光学の場の量子論への発展などをはじ め,ナノ電子系における光子過程やその特徴を応用した スピン偏極の可能性等の研究を,世界に先駆けて行って きた[1,4−7].これらの研究に基づいて,光近接場のもつ 物理的意味,それが含む新しい物理とその応用について 概観する.本稿に関連する参考文献は膨大な数になるた め,既に出版されているハンドブックなどの単行本を主 として挙げる. 2 近接場光学顕微鏡  光近接場技術を展望するために,まず近接場光学顕 微鏡(Near−field Optical Microscope:NOM)の仕組 を紹介する.NOMは,走査型トンネル顕微鏡(Scan− ning Tunneling Microscope:STM)や原子間力顕微鏡 (Atomic・F()rce Microscope:AFM)など,走査型プロー ブ顕微鏡のひとつである[8,9].

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Specimeri PhCto

:㌫よ

Theoretical   Study Disp|ay NOM lmage 図1:近接場光学顕微鏡(NOM)の典型的例  図1に典型的な例を示すように,清浄なガラスプリ ズムなどの誘電体基板上に,光波長よりもはるかに小さ いナノメーターサイズの試料を固定する.誘電体内部か ら全反射条件で光を入射し,表面から外部に向かって距 離とともに指数的に減衰する光のエバネッセント波を誘 起し,これを試料に照射する.このとき,試料の周りに は散乱電磁場が生ずるが,特に微小試料のサイズと同程 度の近傍には,遠方には伝播しない強度の極めて大きい 局所的電磁場が生ずる.典型的な光近接場プローブは, 光ファイバーを化学処理により鋭く尖らせ,先端曲率半 径をナノメーターサイズに加工したものに,先端を残し て金属等のコーティングを施し背景の伝搬光を遮断する もので,光ファイバープローブと呼ばれている.先端位 置をピエゾ素子により試料の大きさ程度の距離まで近づ け,局在した光近接場を散乱し,光ファイバー中を伝播 するモードの光に変換する.プローブ先端を,試料の表 面に沿って2次元的に走査し,ファイバーを通して観測 された散乱光強度と先端位置の関係を,コンピュー一・Lタで 画像処理して表示させる.これにより,試料と探針の距 離および探針先端曲率半径にほぼ等しい,ナノメーター 領域の分解能の近接場光学像が得られる.  現在既に,500μm程度の光波長での,バクテリアの 鞭毛やDNAなど生態試料を用いた観測で,分解能は 1nm程度にまで達している[3].後述のように,試料と 探針先端の近接場電磁相互作用を利用していることか ら,近接場光学像もSTMや超高分解能AFM等と同様, 相互作用強度の2次元地図を示し,試料形状の推定には 理論解析を必要とする.しかし,STMのように,固体 中の電子波長に近い領域で観測するため特定のエネル ギーの電子の局所状態密度の詳細な計算が必要とされる 場合と異なり,NOMは光波長よりもはるかに小さい領 域を対象とするため,近接場描像という簡単な近似が成 り立ち像の解釈は比較的容易である.ただし電磁場のベ クトル性,すなわち偏極が存在する点には注意が必要で ある.  NOMには,本質的には同等である仕組の相違や特許の 問題に関連し,SNOM(Scanning Near−field Optical Mi− croscope),これを並べ変えたNSOM, PSTM(Photon STM)をはじめ,さまざまな呼称が存在する.あまり学 術的で無いので,ここではNOMに統一した[1,8]. 3 近接場光学技術の応用展開  物理的考察の前に,興味ある近接場応用技術について 紹介しておく[1−3].ナノメーター分解能をもつ顕微鏡 の技術は,プn一ブ側から光を高い伝達効率で照射する 方法も確立し,さまざまな物質制御に利用できる.  顕微鏡としては,STM等の使えない誘電体の計測を はじめ,すでに水中での利用法も確立し,生物・医学領 域でさまざまな応用が進んでいる.マイクロチューブル などの,埋め込まれた生体組織の観測も可能で,また近 接場光ピンセットとしての利用は細胞骨格などの構造解 明に用いられている.また,NOMと, AFM, STM等 を組み合わせた利用も研究されているが,これら相互作 用型の顕微法は互いに干渉し合うので,像解釈には相応 の注意が必要である.  分解能が高いため,高濃度試料でも単分子からの発光 計測ができ,また光ファイバープローブからの局所的励 起光照射や蛍光観察も可能である.さらに光波長よりも 解像度の良いラマン計測も実現しており,これらを組み 込んだ近接場蛍光分析装置も開発され,分子化学などの 広分野で応用が期待される,また蛍光分子などをプロー ブの先端に固定した,機能性光近接場プロ・一・・プの開発も 進んでいる.  固体素子等の計測では,近接場光が光と物質の結合し た素励起の性質を持つことから,物質が形状変化を持た なくても局所的キャリアの励起やその観測等が可能であ り,電子デバイスの機能の測定が直接できる点が注目さ れる.特に,近接場光で局所的にエキシトン等の励起を 発生させ,その結果生ずる発光や電気伝導等を測る技術 は,新しい電子デバイスの評価方法として,量子細線, 超格子,量子ドットなど,ナノ電子系の性質の解明にも 極めて有効である.  高い分解能を利用した光記録は既に,テラバイト級の 光ディスクを目指して活発に研究されつつあり,磁気光 学的なものでは従来の100倍程度の記録密度を容易に 得ている.NOMのナノメーター分解能を考えれば,さ

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らに桁違いの高密度化が可能で,これに備えた並列計測 プローブも検討されている.  光ファイバープローブによる局所的光照射は,紫外 光領域まで可能で,既に数10 nm程度の分解能での光 CVDによる細線の製作が報告されている.これを発展 させた単原子レベルでの構造製作など,ナノ電子デバイ スの製作のための有効な手法としても発展しつつある. 4 光近接場プローブの原理  光近接場プローブには,さまざまな微小構造が利用で きるが,これと同時に,マクロな場の伝達を遮断し,か つ微小構造の試料との光近接場相互作用の結果を,散乱 光として遠方に伝え得る機能を持たせなくてはならな い.この点を,光学系の一般的仕組を比較することで考 察しよう.光学系は,広い意味で,光源から光検出器へ の光の伝達を通して,途中に置かれた物質系の光に対す る応答を測定する系である.近接場光学系の特徴を,二 つの光散乱体が関わる図2の系で考察する.  光を照射した物体には分極が生じ,周囲にはその形状 に依存する電場分布が生じ,同時に一般に遠方にも伝搬 する光の波が放出される.物体Aの散乱場をさらに散 乱体Bを用いて散乱し,その結果を観測する光学系を 考える.図2には3種類の特徴的場合が示してある; (a)

(光源)一⑧一・一⑧ww(蓮

(b一寸⑧一㊥

(c)

(光源)』(蓮)

図2:物質系の光相互作用の特徴的系 ることによる.散乱電磁場の表現では,どのようなモー ドを選択することが現象の見方として適当かという点が 問題となる.  まず部分系への分割性の問題を考察する.これは,物 体A,Bの間に”切り込み”を入れ,光源によってAが 励起されているモードと,Bが励起されてその結果と して検出器に光が散乱されるモードに切り分け,散乱過 程をモード間の相互作用として記述することが妥当か どうかという問題である.これは,A, B間の相互作用 の過程が,一方向の信号の流れあるいは因果関係のもと に記述できるかどうかによる.(c)の系は,AB間の相 互作用が強く,多重散乱を考慮するより,一体のモード で扱うことが有利な系であり,また,光源とB,検出器 とAの直接相互作用を実験的に排除することも困難で ある.(a)(b)の場合にも,光源とB,検出器とAが直 接相互作用するモードが実験的に排除されているときに のみ部分系に分けることがよい描像となる.これは近接 場光学設計での最も重要な点である.  次に,A, Bの相互作用を部分系に切り分けたとき, 相互作用を担う代表的モードがどのような性質で記述 されるかが問題である.光の波の分散関係において,波 数kが実数の範囲で分散関係を満たすものは遠方まで 伝わる波の性質を持ち,(a)はこのモードを通じて相互 作用する.実波数ベクトル成分のみを観測するので,測 定の空間分解能は回折限界をもつ.(b)では,波数kが 虚数成分を含み,虚数成分に対応する方向に減衰する エバネッセント波[1,10]が相互作用の主要部分を担う. 後述するように,AB間の距離の逆数程度の波数をもつ エバネッセント波が相互作用の主要部分となり,測定の 空間分解能の上限はAB間の距離にのみ依存する.こ れが,光源から光を送り遠方から散乱光を観測する光学 測定系でも,物質系に工夫をして回折限界を越える測定 を可能にする近接場光学系である.実際の分解能は,上 に述べたように,モL・一・Lドの絶縁の仕組に依存する場合が 多い. 5 光近接場プローブの種類 (a)”far”物体間距離が光波長より十分大きく,相互作 用は伝搬光による, (b))) near”物体間距離が光波長より小さく,近接場を 通じて相互作用する, (c)”close”物体間距離が極めて近いので,複合した一 体の系として振舞う. これらの系はすべて,電磁相互作用の厳密な理論からは 相違の無い系である.違いは,観測者が現象を理解する モデルと近似法による.物体A,Bの区分は,それぞ れの固有電子モードとマクロな光学応答から解析を始め  上に述べたように,近接場光学では,計測や制御の対 象と局所電磁相互作用をさせるのに適した,特徴的プ ロー一一ブの開発が重要である.これまで開発されている主 要なものを,図3に概念的に示した.  先鋭化光ファイバープローブにも併用されている金属 開口や,金属探針,微小金属球では,光近接場は電子ガ スのプラズマ振動,あるいはプラズモンと結合したモー ドであり,局所電場の大きな増強が生ずる.金属探針や 金属微小球のような増強が著しく強い場合は,近接場を 強く乱して計測することと,照射光が試料・探針の両方

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第50号 を直接励起することから,試料の光近接場の探針による 計測というよりも,探針と試料を一体と見た結合モード の散乱特性の計測という見方をするのが適当と思われ る.光ファイバープローブ先端付近の金属被覆も,界面 プラズモンを通じて近接場から伝搬光への変換効率を大 きく向上させていると考えられている.

「光近鵬力づ一一:::一一「

光フアイバープローブ  金凪操針    金屑徹球 的モデルにより,容易に解析する手法が与えられている [1,3,6,11].  微小開ロ

vi了

ua Ezz

「機能プローブ 一::=TT;::一一”’        性光プローブ      諺 体構造 :TO膜 図3:各種光近接場プローブ /  このような,プラズモン等の素励起と結合した電磁 場モード,すなわち広い意味でポラリトンモードの利用 は,近接場相互作用の増強に大きな効果がある.これを 発展させ,プローブ先端に蛍光分子や半導体構造を作り 付け,その励起あるいはエキシトンモードを利用する, いわゆる機能性プローブの開発も種々進められており, またエキシトン伝達や信号収集に適した分子設計も研究 されている.強い共鳴効果を持つものは,特定の周波数 領域で信号増強があるが,反面光周波数選択的になるた め,特徴を生かした利用が必要である,近接場相互作用 では,遠方に伝搬光を放射できない励起モードも高効率 に検出できる点に著しい特徴がある.  プローブの波長程度のスケールの形状は,近接場相互 作用の伝搬光への変換効率に大きく影響する.このた め,光照射モードでも利用できる光ファイバープローブ 等では,先端を数段階の異なる化学工ッチング加工し, 大きなテーパー角と先端の微小突起を両立させたもの や,形状を軸対称型から電子線加工等で変形させ,伝達 効率を飛躍的に向上させるなど種々の手法が開発されて いる.  また,AFM計測と両立させるための湾曲ファイバー プローブや,STMと両立させトンネル電子注入と近接 場蛍光観測を同時に可能とする,ITO膜付きの光ファ イバープローブも半導体素子計測の目的から研究されて いる.  電磁場は,ベクトル性すなわち偏光特性を持つため, これがプn一ブの近接場・伝搬光変換特性に大きな影響 を与える.これらの特性は,本学の坂野らによる準静 6 光学系と電磁相互作用  光波長より小さい空間では,物質を励起する光と電磁 場を伴った物質は,厳密な意味では分離できない一体の 系を構成している.ところがメゾスコピック系特有の性 質として,物理現象を適切な描像のもとに眺めると,際 立った特徴を示す部分系を抽出することができ,これを 利用してさまざまな有用な機能を発揮させることができ る.既に述べたように,近接場光学では特に,光波長よ りも小さい対象の周りの光の場を,光波長よりも近くで 観測するという描像が成り立つように,物質の形状・配 置と光照射・検出の方法を工夫する.これによって,光 と物質の相互作用の多様な側面を捕えて有効に利用する ことができ,これまでにない新しい光の応用を生み出し ている.マクロな光学系の中での部分系の捕え方/捨て 方は一意的ではないので,光と物質系の局所的相互作用 に意味をもたせるような現象の切り口を用意すること, それを選択的に光源や光検出器からなるマクロな光学系 に接続する方法を開発することが,近接場光学系の設計 の主要課題である.ここで,局所的部分系としての特徴 を与えられた,あるモードの電磁場の流れを制御する部 分が近接場素子である.その作用をマクロな光学系の中 で抽出し観測可能な信号に結び付ける選択性は電磁場の モードのフィルター的機能とみなすことができる.  近接場光学の有用な切り口を見い出すためには,光近 接場素子そのものを切り離して取り扱うのではなく,光 源から光検出器に至るマクロな光学系の中で,その近接 場素子を通してどのように信号や情報が運ばれるかとい うことを考察することが重要である.光学系は一般に, 光源から光検出器への光の流れを,途中の経路に含まれ るさまざまな光学素子によって制御し,信号や情報の流 れとして利用するマクロな系である.重要な点は,信号 の一方向性と,制御と出力の対応関係あるいは因果関係 である.近接場光学をはじめ,相互作用が多体的なメゾ スコピック電子デバイスにおいては,意味のある一方向 の信号の流れを作る仕組を慎重に検討する必要が生じ る.近接場光学素子を含む光学系では,どのような量が 近接場素子を通して一方向に流れるということができる のか,その近接場素子を通さずには光が検出器に届かな いか,あるいは検出信号から近接場素子を通した成分を 選択抽出できるという条件,すなわち近接場素子の機能 と光学系全体としての光の流れのよい対応を,いかにし て作るかが最も重要な課題である.  近接場光学系は,光波長よりも小さい空間サイズで特 徴的に変化する電磁場を含むので,マクロな全系を一つ

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の取り扱いで記述するのはよい方法ではないし,また実 際不可能である.そこで図4に示すように,マクロな光 伝搬が問題となる光波長よりはるかに大きい領域,光近 接場相互作用が問題となる光波長よりはるかに小さい領 域,近接場と伝搬波の接続が問題となる光波長程度のサ イズの領域,の3つの主要部分に分けて考察するのがよ い.このように部分系に分割して考察することがよい近 似となるためには,それぞれの系の空間的スケv−・・ルが大 きく異ることが必要である. NOM Configuration (a)      Photo     D6tectOr  Control  Parameter  (X.ylz)   s。mPl、、。、、ect(1)}w     Ooupling

さ」と呼ばれる.電磁波(光)の波tw kを複素数に拡張 したエバネッセント波が近接場における光である. Signal Transfer 蹴。 図4:光学系の空間スケールと部分系 7 エバネッセント波と光近接場の測定  光近接場とその測定の仕組を説明するための理論的 取り扱いには種々のものがあるが,ここでは近接効果や 分解能などの関係を直観的に理解するのに便利な,エ バネッセント波に基いて考察をすすめる.図5(a)のよ うに,誘電体のプリズムに光を入射すると,内部には分 極と光が相互作用しながら伝わるモードの波が生ずる、 これが反対側の面に到達すると表面分極波が現われ,反 射波と透過波を発生する.表面分極波の波長は,屈折率 n,入射角θ,真空中の光波長λoとして,λo/nsinθと なる.ηsinθ>1の入射角では,表面分極波の波長は真 空中の光波長よりも短くなり,プリズムの外側に生ずる 電磁場は遠方まで伝わる電磁波(光)にはならず,入射 エネルギーが全てプリズム内への反射波に与えられる 全反射となる.このときの表面電磁場の表面方向の波数 は,分極波と等しい,kll=2πn sinθ/λoであり,その 大きさ陶1はω/cより大きくなる.この波も真空中の 電磁場の分散関係を満たし,表面に垂直成分の波数は純 虚数(k⊥=ilk⊥Dとなり,表面から垂直方向xにそって exp(一lk⊥lz)のように減衰する波,エバネッセント波と なる[10]・波の減衰距離λP。n=1/lk⊥1は,「しみこみ深 (a} (b) A (c} B 図5:エバネッセント波と近接場観測:(a)全反射とエ バネッセント波,(b)エバネッセント波の測定,(c)エ バネッセント波測定とトンネル効果  プリズムAの全反射面に,図5(b)のように,別のプ リズムBを近付けた場合を考えてみよう.Aの表面分

極波はBの表面と内部に分極波を誘起し,AからBへ

の透過波が生じる.透過光を遠方で観測しながら,Aと Bの距離を変化させれば,AとBの相互作用が観測さ れ,「Bを探針として試料Aの光近接場(エバネッセン ト波)を観測した」ということができる.Bに誘起され た分極波は,図4(c)のように外側に減衰するエバネッ セント波を伴うので,AとBの間隙にある場は, Aの みの場合と異なる.光近接場を探針を入れて測定する ことは,もとの場を乱す「破壊測定」である,しかしこ の場合には,Bを置くことによって生じた透過光は, B を置くまえのAの光近接場分布に直接対応する.これ は,BがAと同様に平坦な形状をもち, Aの光近接場 と同じ波数のエバネッセント波をモー一ドとして共有する からである、このような試料と探針のモードの一・致が あれば,測定結果の解釈は単純になる.このような状況 を一般的に考察したものが,近接場光学の理論である. 試料と探針の組み合わせは,マクロな物体から,ナノ物 質,原子分子に至るまで多様である[1−3].  図5(c)のように,AとBの間隙でのエバネッセント 波を介しての相互作用は,プリズム内の入射波,反射波, 透過波と,その間隙にある双方向の減衰波から構成され ている。このときの電磁波(光)の様子を,間隙に垂直 な成分に関する1次元系と見ると,後述するように量子 力学におけるポテンシャル障壁をトンネルするシュレー ディンガーの波と同等になる.屈折率nの媒質を伝播 する波数(ω/c)ncosθの1次元の波に対するポテンシャ ルは,V=(ω/c)2(1−n2)となる.波の接続条件は,電 磁場の偏光に依存する.近接場の相互作用を,障壁の外 の波と接続された減衰波の重なりによって表す方法は, 電子のトンネル接合の場合と同じである,光のエバネッ セント波とトンネル問題の類似性は,光近接場と光近接 場相互作用の性質を理解する手がかりとなる.また反対

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に,電子トンネル過程での輸送やコヒーレンス,トンネ ル時間等の問題を考察する手掛かりでもある[1,4]. 8 散乱場のアンギュラースペクトル表現  ここで,近接場相互作用を理解するために,散乱場の アンギュラースペクトル表現について考察する.自由空 間の電磁場分布は,分散関係を満たす平面波の重ね合せ によって展開できる.物質系の散乱場も,遠方では平面 波で近似できる.平面波は,空間の平行移動に対して不 変な,並進対称性をもつモードで,波数ベクトルはモー ド関数の平行移動生成子(Gu=一一i▽)に対する固有値 である.物質系の周りの近接場まで含めた場合には,並 進対称性はないが,複素数に拡張された波数をもつエバ ネッセント波まで含めると,平面波の重ね合せとして表 わせる.これを簡単なスカラー場で考察しよう[1,7,12].  一般に周波数ωのスカラー入射波の物質系による散 乱場は,時間依存のないHelmholtz方程式を用いて表 される.        [▽2+K2ε(・)]9(・)=0  (1) K=ω/cとε(r)はそれぞれ真空中の波数と物質の誘電 関数で, [▽2+κ2ユ9(・)=κ2[1−・(・)M・) (2) のように,散乱ポテンシャルとしてV(r)=K2[1一ε(r)] を分離して書けば,入射場と散乱場が,誘起分極の場を 介して結合していることがはっきりする. (a) o D Σ+ Σ一 仮想平面境界 き (b} lmo 複素O平面 伝搬波 C’ Reo 0 C◆ n/2   n エパネッセント波 図6:アンギュラースペクトル表現  図6(a)のように,物質系を含む領域Dの端に,仮想 的平面境界Σ+とΣ一を考え,散乱体の「右/左」の半 空間で問題を考察する.散乱場は誘電分極の作る場の重 ね合わせとして次のように表される.

ρ岡ω一一

@鍵〆,ω)v(・’)9(・’)d3r’(3) 達として次のように表される.        eiκlr−r’l Go(r, r’,ω)=        4π lr−r’1

一瓢dβ止一声ぽ)

(4) (5) §=(sinαcosβ, sinαsinβ, cosα)は,波数の単位ベク トルに相当する複素数の組で,「右/左」半空間への散乱 場に対して複素α空間の積分路C+/ひ(図6(b))をと る.エバネッセント波は伝播方位角が複素数の平面波で ある.式(5)のような,波数の伝播方位角に関し解析接 続した散乱場の平面波展開をアンギュラースペクトル表 現という[12].  散乱場は遠方で観測される電磁波と,近傍のエバネッ セント波を必ず含む.エバネッセント波の複素波数の実 部は,仮想的平坦境界の並進対称性に関するベクトル で,光波長より小さい散乱体ではその形状に応じた激し い空間的振動を含んでいる.これに対応する虚部は短い しみこみ深さを表す。もし散乱体の近傍に観測点をおけ ば,高い空間周波数成分の観測が可能である.近接場光 学顕微鏡は,散乱場に含まれる実波数の大きな成分を, 探針をその減衰長よりも近付けて散乱することでナノ メーター分解能を得ている.先端の極めて小さいプロー ブを用い,位置をわずかに変化させながら散乱光を遠 方から観測するとき,アンギュラースペクトルに含まれ る減衰長の大きい成分の場はほとんど変化しないので, 高い空間周波数成分のみを抽出できることを利用して いる.  アンギュラースペクトルは,注目する物質系の大きさ と観測距離に関する,相互作用の特徴を抽出する指標で あり,近接場光学現象の理解と近接場顕微鏡の分解能評 価の尺度を与える.基本的な例として,点電気双極子の 作る放射場のアンギュラースペクトルを考察しよう.電 気双極子からの動径をrで表すと,近傍では双極子場の (1/r)3に依存する強度変化が主要となる.双極子から距 離zの平面を仮想境界にとり展開したときの,エバネッ セント波部分のスペクトルを図7に示す[1,7].スペク トルは,ほぼ2/zに等しい空間周波数で最大値を持ち, 半値幅はおよそ2/zである.双極子場を近くで観測す るほど,主要なエバネッセント波成分の波数が大きくな り,また空間的局在度が増すことを表す.アンギュラー スペクトル展開では,伝達関数が伝播する平面波とエバ ネッセント波に分けられているので,作用がどのように 観測点まで伝わるかを容易に理解することができる. ここでWeyl変換を用いると,グリーン関数Go(r, r’,ω) 9 ベクトル場のアンギュラースペクトル表現とエバ は,エバネッセント波まで含めた平面波による作用の伝        ネッセント波の第=fi子化

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  0

璽  ・500 二 〇 て rく ・1000 l i; W −1500 へ ・2000 0 100    200 300     400     500 エバネッセント波の空間周波数  (真空中の波数で規格化) 図7:電気双極子放射場のアンギュラースペクトル;空 間周波数は真空波数ko=ω/cで規格化した値,ρは観 測点Σ+までの距離zとkoの積である.  井上と筆者らはさらに,ベクトル場の性質を取り込ん だアンギュラースペクトル展開を,任意の多重極場に対 し定式化している.図8に示すように,電磁場のベク トル性を明確に定義するために,z方向に伝播しx, y 方向に電場ベクトルを持つ平面波を基礎とし,これを複 素角に解析接続した回転変換によってベクトル場のエバ ネッセント波を定義し,これに基づいて任意の多重極場 のアンギュラースペクトル表現を得た[7]. (a) Z y X TE A θ

S

w

, ”一 一. 甲 X (b}Y y 図8:ベクトル平面波の解析接続 β  詳細は省略するが,その形式を図9に模式的に示し た.これは,本研究室で行われた原子をプローブとした レー一ザー分光法によるエバネッセント波の計測結果[5] と比較し,妥当性が確認されている[7].  特に,双極子場と平坦誘電体表面の相互作用のアン ギュラースペクトル成分への分解は,図10に示すよう な近接場相互作用の特徴を明らかにする.原子の放射な どによる双極子場は,伝搬波とエバネッセント波成分に 展開され,線形応答の範囲での表面との相互作用もそれ ぞれの成分ごとに分解して考察できる.図10(b)に示す SpGe「e P=正.TM 離n㌧耀(・,)

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 漕9創A:儒!(r・) 図9:多重極相互作用過程のアンギュラースペクトル 表現 ように,双極子と表面の距離が光波長程度に近づくと, エバネッセント波を通じての相互作用が誘電体中の伝播 波に変換される.これは,表面近傍での双極子放射は自 由空間の場合よりも余分な電磁場のモードを終状態に持 つことを意味し,原子の放射寿命などに変化が生ずるこ とを意味する.このような性質は,広い意味で共振器量 子電気力学(QED;共振器Quantum Electrodynamics) 効果として,近年活発に研究が進んでいる量子光学現象 である.さらに双極子と表面の距離が光波長よりはるか に短いとき,相互作用の主要部は誘電体中のいかなる伝 搬波の波数より大きくなる.図10(c)に示すように誘電 体中への透過波もエバネッセント波となり,相互作用は 表面に局在する.   璽艦r lm{α} (c} ・ C (b) a} き π Re{α」 〔c) Evanescent Evanescent   / 図10:多重極と誘電体表面の相互作用  これらの量子光学効果を定量的に評価するために,井 上と筆者は多重極場のアンギュラースペクトル展開を

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基礎とした光近接場の量子理論も構築している.従来, エバネッセント波の第二量子化で用いられていたトリプ レットモードを検出器モードとして再定義することで, 終状態モ・一一一’ド密度の評価を明確にし,近接場領域での多 重極放射の共振器QED効果等を明らかにしている[13]. 10 プローブ顕微鏡の意味と近接場測定の理論  一般に走査型プロープ顕微鏡に共通の仕組を考察する と,近接場測定の原理が見えてくる.既に説明したよう に,局所場の測定とは,散乱場のアンギュラースペクト ルの特定部分の選択を意味する.注目する局所場を効率 良く励起し,近接場相互作用による散乱光を有効に選択 的に収集し,背景とのコントラストを高めることが課題 である.この特性は,モードの一致とフィルターという 観点で整理することができる.注目するスペクトル部分 を切り出すために,試料と相互作用させる探針先端を, 注目するモS−一・・ドを生み出す形状に,すなわち,空間的大 きさを合わせて加工する.次に観測面の近さでスペクト ルは決まるので,探針先端のサイズと同程度に試料に近 付け走査することが必要である.これでアンギュラー一一一ス ペクトルの意味で,モL−一一・iドの一致が実現され,近接場相 互作用が強調される,また,励起光など注目する局所場 以外の成分で特に空間周波数の小さいものは,遠方から 見た総工ネルギーが大きいので,探針形状や光検出を工 夫し遮蔽することが必要となる.このようなフィルター 特性を備え,モードの一致をとることが,全ての近接場 測定やその応用の鍵である.  空間形状による工夫に加え,微小物体の共鳴効果を 利用した近接場の増強が可能である.ナノメーターサ イズの物質系では,電子系も様々な量子効果を発現する ので,共鳴的モードの一致とフィルター効果を備えた, 極めて多様な近接場プローブを考えることができる.特 に局所的な物質と光の相互作用が強い共鳴効果をもち, プラズモンやエキシトンなどの素励起として振る舞う場 合には,近接場の増強に顕著な効果を発揮する[2,14].  近接場相互作用部分では,相互作用の局所性や,光波 長より小さい空間サイズを問題にする場合の準静的性質 などを評価できるモー一’ドのとり方が必要である.近接場 光学系全体の中での近接場相互作用の役割は,光源モー ドから検出器モV−一一Lドへの遷移を引き起こす要因である. これらのモードが近接場以外の経路を通じての遷移に対 してよく絶縁されていれば,近接場部分のみに注目した モードの記述が可能になり,機能がはっきりと特徴付け られた近接場素子となりうる.これらの点で,近接場相 互作用の領域は,光波長よりもはるかに小さいことが, 相互作用の性質の記述と理解を容易にすることは明らか であり,実際そのような装置のみが有用な近接場光学素 子となるであろう.  近接場相互作用に寄与する主要な物質系の大きさと, 相互作用を通じてその場が観測される距離を変数とし て,準静的描像が成り立つ近接場条件と,電束密度場を 導くベクトルポテンシャルを用いた記述が本学の坂野ら によって与えられ,電磁場のベクトル性まで考慮に入れ た取り扱いを可能にしている[1,6,11].  近接場と伝搬波のモード変換の部分の解析は,特に その効率を評価するうえで極めて重要である.しかし, ちょうど光波長程度の空間的サイズで形状が変化する物 質系の評価が必要になり,伝搬波の部分と近接場部分が ともに存在し,ベクトル場としての取り扱いも独立な成 分に分離できないため,たいへん取り扱いの難しい領域 である.近似法などの評価基準となる簡単な系の厳密な 取り扱いも,これまでには与えられていない.そこでと りあえずは,近接場と伝搬波の伝達効率を,接続部分全 体の形状や物性などを考慮しながら,適当なモデルを立 てて評価する方法をとることになる.これまで,細い導 波路のカットオフの無いモードや準粒子モデルによる評 価なども試みられている.接続部分の形状の対称性,非 対称性に依存するモV−一一一ド間の重なりや,金属被覆された 円錐プローブでの界面プラズモンなどが,導波路の材質 による伝達特性の改良や,光源系と検出器系として区分 される近接場モードの絶縁性など,種々の性質を大きく 左右するので,それぞれの特徴を評価しやすいようなモ デルを導入する必要がある[1,11}. 11 近接場の物理と準保存則  光が物質系に及ぼす力学的作用が,原子のレーザー冷 却や微小物体の光ピンセットとして注目されている.光 近接場の力学作用の特徴に簡単にふれておく.光近接場 によるナノ物質の操作は最も期待される応用のひとつで ある.近接場相互作用では,マクロには禁止されている ような遷移や相互作用を誘起することもでき,特にメゾ スコピックな光と電子系の相互作用は,極めて多様な応 用の可能性をもつであろう.  光の及ぼす力学作用には,物質系の電気分極のもつエ ネルギーから導かれるものと,磁気的なものがある.電 気的なものは,光の運動量の物質系への移行によって, 磁気的なものは,光の角運動量の電子系の軌道角運動量 への移行と,電子系の軌道スピン相互作用から生ずる. 電気的作用は,誘起分極の電場中のエネルギーの勾配か ら導かれ,光の吸収,散乱に伴う運動量移行と,誘起分 極の位置エネルギーに起因する保存力である,場の強度 勾配に依存した双極子力に分類される.自由空間の波と

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しての光の力学作用で,原子のレーザー冷却や捕獲,微 小誘電体球を捕獲する光ピンセットが構成されている.  光近接場は,物質と結合した電磁場であるから,そ の場に対する運動量や角運動量の定義と保存則は近似 的なものになり,物質系の形状に強く依存するようにな る.それゆえこれらを擬保存量[5]と呼ぶ.例えばエ バネッセント波などの表面電磁波は,光の分散関係を満 足するが,系の並進対称性と関連する保存量である表面 に平行な伝搬ベクトルkllの大きさは,真空中の電磁波 の波数ω/cよりも大きい.このことが近接場特有の力 学効果をもたらすkllは電磁場の擬運動量に比例する ので,例えば,光近接場から光子を吸収した原子は,真 空中で同じエネルギーの光子を吸収したときよりも,大 きな擬運動量を受け取ることが,本学の松土,桜井,筆 者らのグループにより実験的に証明されている[5].ま たエバネッセント波は,擬運動量と垂直方向に指数関数 的強度勾配を持ち,大きな双極子力を及ぼす.これを利 用した原子誘導路等も実現している[3].真空中の光で は,強度勾配と波数方向が同じであるのに対し,近接場 では直交するのが特徴である.さらに局在した光近接場 の場合には,極めて大きい力学効果を及ぼすことがアン ギュラースペクトルから予想され,その応用が検討され ている.光近接場の力学効果を,原子間力顕微鏡で測る 試みもなされている図.また,メゾスコピックな電子 系をもつ物質においては,プラズモン共鳴等の効果での 著しい力学効果の増強が報告されている.  極めて近距離に置かれた物質系では,外場が無くて も,物質系の分極と真空の揺らぎから,近接場相互作用 が生じ,van der Waals力などが生み出される.光近接 場の力学作用は,外部から制御できる分子間力のような ものと考えてよい.近接場の力学効果を利用した,物質 系の制御や微細加工,ミクロな生体の制御など,極めて 幅広い応用が研究されっっある[2].  もうひとつ重要な量は擬角運動量であり,たとえば原 子と誘電体表面の光近接場相互作用では,系の回転対称 性から表面に垂直な成分の保存則が予測される[15].擬 角運動量は,光の磁気的な効果と関連し,磁気光学効果 をはじめ,光の角運動量の電子系の軌道角運動量への移 行と,電子系の軌道スピン相互作用を通じて,さまざ まな応用の可能性をもつ.これは次の様な理由による. 自由空間の光の場は円偏光を基底として表現すると,電 子系の多重極との相互作用における電子軌道角運動量の 昇降演算子を与える.通常の光ポンピングにおいては, スピン偏極した光子の角運動量を電子に軌道角運動量と して与え,原子内部のスピン軌道相互作用を通じてこれ が電子スピンに移った後,ランダムな自然放出過程を利 用して平均で0の光の角運動量を捨て,電子スピン偏極 を残すものである.筆者の研究室では,光近接場の擬角 運動量を,近接場光による原子の光ポンピングを通じて 直接検証するための実験を進めている.  近年,電子スピンの性質を有効に利用するデバイス の研究が盛んであり,特に表面第一原子層におけるス ピンの振る舞いを計測する実験手段の開発が待望され ている.本学の鳥養らは偏極原子線散乱による新しい グローバルな計測法を開発している.一方で,スピン 偏極STMを目指した局所スピン計測も種々の方法で考 察されている.筆者は武笠らのスピン研究グループと, GaAs探針の光スピン偏極等について研究を進めており, 近接場光の偏極を利用した探針構造を提案している.電 子スピン制御は,量子効果を最大に生かしたデバイスを 生み出す大きな可能性を秘めており,ここでも光近接場 技術は重要な役割を果たすと考えられる.

11 おわりに

 近接場光学のさまざまな側面を簡単に紹介した.微小 物質の励起とそれに伴う光の場は厳密には切り離せない ものだが,物質と結合した光の多様な側面を抽出するモ デル化や問題の切り口の発見により,さまざまなスケー ルの異る電磁相互作用の性質を組み合わせた応用が開け る.近接場の考察を進めてゆくと,電磁相互作用の基本 的問題にまで考察が及ぶ.物質と結合した光の問題はま た,電磁相互作用を繰り込んだものとしての電子の量子 電気力学(QED)的性質を,電磁場のモードを通じて制 御する問題として眺めることで,さらに新しい光・電子 系の科学技術を開くであろう.  例えば,物質系近傍での光の振舞いの研究は,物理の 新しい側面,電子系の新しい制御技術などを通じてのさ まざまな応用を開く.メゾ系の物理量の結合モードとし ての性質を利用した新機能デバイスが期待される.ま た,ナノメーターサイズの電子デバイスにおける電気信 号の輸送の問題は,ナノメーター回路設計技術として特 に重要である.  さらに量子電磁気学にまでさかのぼる理論的考察は重 要である.本稿では議論を展開する紙面がなかったが, 光近接場相互作用は,光子と電子相互作用の素過程であ る制動放射と対照的に,光の場が物質系によって自由光 子とは異なる分散関係の仮想状態に移り,電子系と相互 作用する過程である.すなわち,Schwartz−Hora効果と して議論されているように,光近接場による自由電子 波動関数の直接変調の可能性がある[1,2].この過程は, トンネル接合における光子アシストトンネル過程や,真 空の揺らぎに起因する誘導制動放射過程として量子1/f 雑音の起源との関連でも議論されており,筆者もこのよ

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平成11年12月 うなトンネル電子デバイスと近接場光の相互作用を基礎 とした,機能素子に関する共同研究に着手している.  近接場光学は,このように対象とする物質系のサイズ と,特徴的な電磁場が存在する空間的スケールの相関に より,さまざまな様相を表わし,これを応用した技術も ますます広領域に広がってゆくであろう.本稿が,今後 の展開を予測する役に立てば幸いである.  本稿の内容は,本学の坂野斎助手,桜井彪教授,鳥養 映子助教授と,大学院生であった井上哲也,松土龍夫両 博士との共同研究を基礎としている.共同研究や研究 討論を通じて内容を深めることができたことを,大津 元一,北原和男,北野正雄,薮崎努,塚田捷,根城均, W.Jhe,武笠幸一,早川和延の各博士をはじめとする 多くの方々に感謝する. 参考文献 1.M. Ohtsu and H. Hori, Near−Field Nano−Optics  (Kluwer Academic/Plenum Publishers, New York,  1999). 2.大津,河田編,近接場ナノフォトニクスハンドブッ  ク(オプトロニクス社,1997). 3.M. Ohtsu, ed., Near−Field Nano/Atom Optics and  Technology(Springer−Verlag, Tokyo,1998). 4.塚田,堀,他編,領域探索プログラム「電子・フォ  トン系のサイエンス」(新技術事業団,1995) 5.T. Matsudo, H. Hori, T. Inoue, H. Iwata, Y. In−  oue and T. Sakurai, Phys. Rev. A 55,2406−  2412(1997).T. Matsudo, Y. Takahara, H. Hori, T. Sakurai, Opt. Co㎜un.145,64−68(1998). 6.1.Banno, H. Hori and T. Inoue, Opt. Rev.3,  454−457(1996). 7.T. Inoue and H. Hori, Opt. Rev. 3,458−462  (1996).T. Inoue and H. Hori, Opt. Rev.5,295−  302(1998). 8.D. W. Pohl and D. Courj on Eds., Near Field  Optics(Kluwer Academic Publishers, Dordrecht,  1993). 9.R. Wiesendanger et. aL, eds., Scanning 71un.  neling Microscopy,1, II, IU,(Springer−Verlag,  Berlin,1994,1995,1996). C. J. Chen:Introduc・  tion to Scanning 71unneling Microscopy(Oxford  Univ. Press, New York,1993). 10.諸,,堀,パリティー−11,14−22(1996).堀,応用物  理68180−184(1999). 11.坂野,堀,電気学会論文誌C,119,1095−1099  (1999). 12. E.Wblf and M. Niet−Vesperinas, J. Opt、 Soc. Am.  A2,886−890(1985). 13.堀,日本物理学会1999年秋の分科会,領域1シン  ポジウム,25aYH2(1999). T. Inoue and H. Hori,  to be published. 14.張,石原,大淵,日本物理学会誌52,343−349(1997). 15.H, Hori, K Kitahara,1. Banno, M. Ohtsu, to be  published. 16.E. Torikai and H. Hori, Solid State Sci.121,136−   137(1996).

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