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<資料>中小企業の男性労働者の職業性ストレスとその関連要因の検討 利用統計を見る

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Academic year: 2021

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中小企業の男性労働者の職業性ストレスと

その関連要因の検討

Examination of the Occupational Stress and Related Factors

in the Male Employee of the Small and Medium Enterprises

五十嵐久人

IGARASHI Hisato

要 旨

職業性ストレスが高ストレス者と非高ストレス者の間で QOL や SOC,生活習慣に違いがあるかを検討す ることを目的に中小企業 6 社の労働者 375 名を対象にアンケート調査を実施した。調査内容は BJSQ, WHOQOL26, Sense of Coherence (SOC),生活習慣で構成される。328 名から回答を得た(回収率 87.5%)。 分析にはサンプル数の少ない女性と欠損値を除いた男性労働者 281 名の結果を用いた。高ストレス者は WHOQOL26 のスコアが有意に低く,QOL との間に関係が認められた。また,高ストレス者は SOC のスコア が有意に低く,ストレス対処能力としての SOC が低いことが示された。高ストレス者は,職業性ストレスと QOL が関連していることや SOC を高めることで職業性ストレスに対する対処能力が向上することを労働者自 身も理解し,ストレスに対するセルフケア能力を高めていく必要があると考える。

キーワード 労働者,中小企業,職業性ストレス,QOL,SOC

Key words Employee,Small and Medium Enterprises,Occupational Stress,QOL,Sense of Coherence(SOC)

受理日:2018 年 1 月 19 日

信州大学医学部保健学科:School of Health Science, Shinshu University of Medicine

Ⅰ . はじめに

職場ストレスは,それ自体が頭痛や睡眠障害,食欲低 下,うつ病などの身体・精神の不調をきたす重要な危険 因子であるとともに,喫煙や飲酒など疾病の危険因子を 増大させ,更に欠勤率や転職率など社会行動面に影響を 及ぼす1)。近年,職場ストレスと関連した精神障害およ び循環器疾患による労働災害認定の事例が増加してお り2)3),健康面への影響は大きく,労務管理上の重要な 課題となっている。 ストレス対処能力や健康保持能力を予測するものとし て,Sense of Coherence(SOC)がある。SOC は首尾一 貫感覚といわれ,人生で起こる様々な出来事やストレス に対して,上手く対処が可能であるかを表している4) 。 SOC と職業性ストレスの関係をみた研究では,SOC が 高い者ほど,職業性ストレスが低いことが報告されてお り5),SOC と職業性ストレスの関連を明らかにすること は労働者の健康管理上有用である。また,職業性ストレ スと QOL の関係をみた研究では,職業性ストレスが高 い者ほど QOL が低い傾向を示すことが報告されてお り6),労働者の QOL を高めていく為には,1 日のうち多 くの時間を過ごす労働環境の影響を切り離すことはでき ない。 2015 年 12 月よりストレスチェック制度が施行され, メンタルヘルス不調となることを未然に防ぐ,一次予防 に重きを置いた取り組みが行われている。この制度では, 高ストレス者を早期に発見し,医師による面接指導につ なげることで労働者のメンタルヘルス不調を未然に防ぐ ことが主な目的となっている。高ストレス者を選別する 方法として,事業所独自の基準を設ける方法,労働安全 衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル7) に従った方法の 2 つに大別される。前者には各事業所で のデータ蓄積が重要であるが,ストレスチェック制度が 導入されてからの期間が短く,データが十分に蓄積され ているとは言い切れない。後者は利用が簡便であること と,基準が統一されており,他集団との比較が可能であ る。 これまでの研究において,職業性ストレスと QOL や SOC,生活習慣との関係を見た研究は多くあるものの, 労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マ ニュアルに従った方法により,高ストレスに該当する者 とそうでない者でその違いについて検討された研究を見

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当した者とそうでない者の間で QOL や SOC,生活習慣 に違いがあるかを検討することを目的とした。

Ⅱ.研究方法

1.対象および方法 Y 県内の製造業・運輸業などの中小企業 6 事業所に勤 務する労働者 375 名を対象とした。産業医の協力を得て, 事業所の衛生管理担当者に研究概要を説明してもらい, 研究協力の意思を示した企業に対してアンケート調査を 実施した。調査票は各自が封筒に入れて厳封したのち, 事業所内に設置した回収箱に入れる留置き法により回収 した。調査期間は 2014 年 1 月から 7 月である。 2.倫理的配慮 質問紙は無記名とし,研究の参加は自由意志であるこ と,個人や事業所が特定されないこと,研究によって得 られたデータは,研究目的以外では使用しないことを明 記し,研究への協力同意は,調査票の返信を持って得ら れたものとした。また,本研究は信州大学医学部医倫理 審査委員会の承認(承認番号 2595),および対象となる 事業所の協力の承諾を得て実施した。 3.調査内容 対象者の特徴として,年齢,婚姻状況,最終学歴,職 種,勤務形態,雇用形態,過去 3 か月間の残業・休日出 勤の状況で構成されている。 職業性ストレスの測定には,職業性ストレス簡易調査 票(Brief Job Stress Questionnaire:BJSQ)8)を用いた。 BJSQ は「仕事のストレス要因」,「心身のストレス反応」, 「修飾要因」の 3 つの枠組みで構成され,57 項目からな る調査票である。「仕事のストレス要因」は「心理的な仕 事の負担(量)」「心理的な仕事の負担(質)」「自覚的な身 体的負担度」「職場の対人関係でのストレス」「職場環境」 「仕事の裁量度」「技能の活用度」「仕事の適正度」「働き がい」の 9 下位尺度で 17 項目の質問,「心身のストレス 反応」は「活気」「イライラ感」「疲労感」「不安感」「抑う つ感」「身体愁訴」の 6 下位尺度で 29 項目の質問,「修飾 要因」は「上司からのサポート」「同僚からのサポート」「家 族や友人からのサポート」「仕事や生活の満足度」の 4 下 位尺度で 11 項目の質問で構成されている。各項目への 回答は「そうだ」「まあそうだ」「ややちがう」「ちがう」 の 4 件法である。BJSQ を用いた高ストレス者の選定方 法には,各質問項目への回答を単純に合計して得られる 評価得点を用いる方法と各項目の回答結果を素点換算表 により,尺度ごとの 5 段階評価(ストレスが高い方が 1 点, 低い方が 5 点)に換算し,その評価得点を用いる方法が く,尺度ごとの評価が考慮された解析方法とされている こと7)から,本調査の高ストレス者の選定は素点換算表 を用いる方法とした。 QOL 測定には,疾患の罹患の有無にかかわらず,健 康状態を包括的に評価する尺度として WHO が開発した WHOQOL の短縮版である WHOQOL269)を用いた。こ の評価尺度は 26 項目で構成され,各項目は 5 件法によ り回答を求める。WHOQOL26 は 24 項目からなる「身体 的領域」,「心理的領域」,「社会的関係」,「環境領域」の 4 領域と,2 項目からなる「全体的な生活の質」で評価す る。各領域のスコアが高い方が QOL が良好な状態とな る。 SOC(Sense of Coherence: ス ト レ ス 対 処 力 )は Antonovsky より開発された首尾一貫尺度の日本語版で ある SOC-13 の 7 件法版10) を用いた。SOC-13 は 3 つの 下位尺度で構成されているが,各下位尺度を単独に扱う ための信頼性と妥当性の検証がされた報告が見られない ことや,Antonovsky も下位因子に分けるのではなく, 一元的な尺度として扱うのが妥当11)としていることか ら,尺度の総計点を分析に用いる。各項目の回答は 1 ~ 7 点に得点化され,13 ~ 91 点の範囲に分布する。SOC は, 得点が高いほど自身や周囲で起こった出来事によるスト レスに対処できる能力が高いとされる。 生活習慣は,森本らが作成した健康習慣指標(Health Practice Index:HPI)の 8 項目12) から自覚ストレス量を 除いた,喫煙,飲酒,朝食の摂取,睡眠時間,労働時間, 身体運動,栄養バランス配慮の 7 項目を用いた。 4.分析方法 BJSQ スコアを基に,労働安全衛生法に基づくストレ スチェック制度実施マニュアル(以降,実施マニュアル) の素点換算表を用いた際の高ストレス者の選定基準に従 い,①「心身のストレス反応」の合計得点が 12 点以下, 又は②「仕事のストレス要因」9 尺度と「周囲のサポート」 3 尺度の合計得点が 26 点以下かつ「心身のストレス反応」 の合計得点が 17 点以下を「高ストレス者」,これらに該 当しなかった者を「非高ストレス者」とした。 「高ストレス者」と「非高ストレス者」による違いを検討 するため,対象者の特徴,生活習慣においては χ2検定 およびt検定を用いた。WHOQOL26 および SOC にス コア分布の正規性を Shapiro-Wilk 検定を用い確認した ところ,「非高ストレス者」で正規性が認められなかった。 そのため,スコアの差の確認に Mann-Whitney の U 検 定を用いた。分析には,統計解析ソフト IBM SPSS Statistics 24.0 を用いた。

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Ⅲ.結果

375 名に対して調査票を配布し,328 名から回答を得 た。回収率は 87.5% であった。328 名のうち,女性のサ ンプル数が 24 名と少なく,性差の影響を考慮し,男性 の回答のみを用いた。また,男性 304 名中,回答に欠損 のあった 23 名を除いた 281 名を分析対象とした。 BJSQ の判定基準に従い高ストレス者と判定されたの は,「心身のストレス反応」6 尺度の合計得点が 12 点以 下に該当した 25 名,「仕事のストレス要因」9 尺度と「周 囲のサポート」3 尺度の合計得点が 26 点以下かつ「心身 のストレス反応」の合計点が 17 点以下に該当した 5 名の 計 30 名となり,残りの 251 名が非高ストレス者となっ た(図 1)。 対象の特徴を表 1 に示す。高ストレス者において,年 齢は 38.1±10.4 歳であった。職種は生産労務職 50.0% が 最も多く,次いで運輸・通信職 33.3% となった。勤務形 態は日勤 60.0% が最も多く,次いで交代制勤務 30.0% と なった。雇用形態では,正社員が 86.7% となった。非高 ストレス者において,年齢は 40.8±10.3 歳であった。職 種は生産労務職 53.4% が最も多く,次いで運輸・通信職 23.1% となった。勤務形態は,日勤 76.5% が最も多く, 次いで交代制勤務 20.7% となった。雇用形態では,正社 員が 82.9% となった。対象者の特徴において高ストレス 者と非高ストレス者の間に有意差は認められなかった。 高ストレス者と非高ストレス者で WHOQOL26 のス コアを比較した結果を図 2 に示す。身体的領域では,高 ストレス者(25% タイル値-中央値- 75% タイル値: 2.71-3.14-3.61),非高ストレス者(3.00-3.43-3.57)となり, 高 ス ト レ ス 者 の 方 が 有 意 に ス コ ア が 低 く な っ た (z=1.992,p=0.046)。 心 理 的 領 域 で は 高 ス ト レ ス 者 (2.33-2.83-3.33),非高ストレス者(3.00-3.17-3.50)となり, 高 ス ト レ ス 者 の 方 が 有 意 に ス コ ア が 低 く な っ た (z=2.810,p=0.005)。 環 境 領 域 で は, 高 ス ト レ ス 者 (2.60-2.75-3.03),非高ストレス者(2.75-3.00-3.38)となり, 高 ス ト レ ス 者 の 方 が 有 意 に ス コ ア が 低 く な っ た (z=2.122,p=0.034)。全体的な生活の質では,高ストレ ス者(2.00-2.50-3.00),非高ストレス者(2.50-3.00-3.50)と なり,高ストレス者の方が有意にスコアが低くなった (z=4.310,p < 0.001)。QOL 全体の平均値では,高スト レス者(2.62-2.77-3.24),非高ストレス者(2.92-3.12-3.46) となり,高ストレス者の方が有意にスコアが低くなった (z=3.145,p < 0.01)。 高ストレス者と非高ストレス者で SOC のスコアを比 較した結果を図 3 に示す。SOC については,高ストレ ス 者(38.50-45.50-54.25), 非 高 ス ト レ ス 者(49.00-54.00-60.00)となり,高ストレス者の方が有意にスコアが低く なった(z=4.330,p < 0.001)。 生活習慣における比較の結果を表 2 に示す。生活習慣 に関する全ての項目において,高ストレス者と非高スト レス者で有意差は認められなかった。 図 1 高ストレス者の分布 (注)データが重なるほど,プロットサイズが大きくなる。 労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアルの素点換算表を用いた選定方法 ①「心身のストレス反応」6 尺度の合計得点が 12 点以下 ② 「仕事のストレス要因」9 尺度と「周囲のサポート」3 尺度の合計得点が 26 点以下かつ「心身のス トレス反応」の合計得点が 17 点以下 ①又は②に該当する者を「高ストレス者」と判定した。 仕事のストレス要因と周囲のサポート 心身のストレス反応

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項目 ストレス度の判定 χ2 p 値 高ストレス者 (n=30) 非高ストレス者(n=251) 年齢(Mean±SD)1) 38.1±10.4 40.8±10.3 1.335 0.183 婚姻状況 既婚 12 (40.0) 84(33.5) 2.553 0.279 未婚・その他 18 (60.0) 167(66.5) 最終学歴 中学 3 (10.0) 8(3.2) 7.487 0.112 高校 21 (70.0) 143(57.0) 短大・専門学校 5 (16.7) 60(23.9) 大学・大学院 1 (3.3) 39(15.5) その他 0 (0.0) 1(0.4) 職種 管理職 1 (3.3) 24(9.6) 4.643 0.461 生産労務職 15 (50.0) 134(53.4) 事務職 1 (3.3) 15(6.0) 研究・技術職 3 (10.0) 13(5.2) 運輸・通信職 10 (33.3) 58(23.1) その他 0 (0.0) 7(2.8) 勤務形態 日勤 18 (60.0) 192(76.5) 5.955 0.051 交代制勤務 9 (30.0) 52(20.7) その他 3 (10.0) 7(2.8) 雇用形態 正社員 26 (86.7) 208(82.9) 0.939 0.816 契約社員 1 (3.3) 5(2.0) パート・アルバイト 3 (10.0) 35(13.9) 嘱託職員 0 (0.0) 3(1.2) 過去 3 か月間の 残業・休日出勤の状況 ほとんど無し 5 (16.7) 51(20.3) 0.348 0.840 多少あった 17 (56.7) 129(51.4) たくさんあった 8 (26.7) 71(28.3) χ2-test 1)T-test 図 2 WHOQLO26 の高ストレス者と非高ストレス者による比較 Mann-Whitney’s U test *:p<0.05 **:p<0.01 ***:p<0.001 QOL全体の平均 身体的領域 心理的領域 社会的関係 WHOQOL26 domains WHOQOL26 scores 環境領域 全体的な生活の質

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Ⅳ.考察

WHOQOL26 については,身体的領域,心理的領域, 環境領域,全体的な生活の質および QOL 全体の平均値 のスコアに差が認められ,高ストレス者の QOL が有意 に低下している事が示された。QOL 尺度が異なるもの の先行研究6) においても,労働者の QOL と BJSQ のス トレス反応に関係があることが指摘されており,同様の 結果を得た。BJSQ のストレス反応は疲労感や抑うつ感, 身体愁訴などで構成されており,ストレスにより何らか の反応を呈している状態と考えられる。また,高ストレ ス者はストレス反応のスコアに重きを置いた基準により 抽出されていることから,ストレスに伴う身体・精神的 な不調を自覚し,QOL のスコアの低下に影響を及ぼし ているのではないかと考える。 職場ストレスは,それ自体が頭痛や睡眠障害,食欲低 下,うつ病などの身体・精神の不調をきたす重要な危険 因子であるとともに,喫煙や飲酒など疾病の危険因子を 増大させ,更に欠勤率や転職率など社会行動面に影響を 及ぼす1) との報告もある。労働者の QOL や,精神的健 康度を維持・向上していくためにも,ストレス反応が生 じる前に事業所全体でのストレス対策の取組みや,個人 のストレスコーピング能力の向上が必要と考える。 先行研究によると,SOC がストレス反応を低減させ る可能性を示唆したものや5),SOC が高い者ほど抑うつ の症状が少ないとの報告もある13)。本研究においても SOC のスコアの比較から,高ストレス者は,ストレス 対処能力が低いことが示され,SOC が高い者は,職場 で生じた様々なストレスに対してうまく処理できている のではないかと考える。ストレス対処能力は様々な人生 経験などを通して獲得した感覚であり,短期間でそれら を変容させることは容易ではない。まずは自身のストレ 図 3 SOC の高ストレス者と非高ストレス者による比較 Mann-Whitney’s U test ***:p<0.001 表 2 ストレス度の判定結果と生活習慣 ストレス度の判定 χ2 p値 高ストレス者 (n=30) 非高ストレス者 (n=251) 朝食の摂取 ほぼ毎日食べる 15(50.0) 162 (64.5) 2.431 0.119 時々食べる・食べない 15(50.0) 89 (35.5) 栄養バランス 考える・多少考える 22(73.3) 199 (79.3) 0.565 0.452 考えない 8(26.7) 52 (20.7) 飲酒 時々飲む・飲まない 7(23.3) 71 (28.3) 0.328 0.567 毎日飲む 23(76.7) 180 (71.7) 喫煙 吸わない 20(66.7) 152 (60.6) 0.421 0.516 吸う・やめた 10(33.3) 99 (39.4) 運動習慣 週 1 回以上 6(20.0) 69 (27.5) 0.768 0.381 ほとんどしない 24(80.0) 182 (72.5) 労働時間(1 日)9 時間未満 18(60.0) 111 (44.2) 2.686 0.101 10 時間以上 12(40.0) 140 (55.8) 睡眠時間 7-8 時間 23(76.7) 175 (69.7) 0.621 0.431 7-8 時間以外 7(23.3) 76 (30.3) χ2検定

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通して,ストレスをうまく対処できるような考え方や感 じ方を身につけてもらえるような支援が必要と考える。 生活習慣において,高ストレス者と非高ストレス者の 間で差は認められなかった。しかし,本研究は横断研究 であり,調査時点の状況の把握に留まり,高ストレス状 態の持続期間や生活習慣を経時的に把握できていない 為,高ストレス状態が生活習慣の変化に影響を与えたか については判断できない。先行研究によると,ストレス 反応が増すにつれて,生活習慣が悪化するという報告14) や,ストレスを感じ易い人ほど,睡眠時間の短縮,多忙 感を強く感じ易いという報告15)がある。先行研究の結果 を踏まえると,高ストレス状態が続くことで,徐々に生 活習慣が悪化していく可能性があるのではないかと考え る。がんや心疾患などの生活習慣病はストレスも大きな リスクファクターであると言われており,ストレス度と 生活習慣の縦断的な検討は,今後の研究課題である。 実施マニュアルによると,過去の調査結果を基に,概 ね 10% が高ストレス者と判定されるように設計した方 法が示されており,本調査においても 10.7% とほぼ一致 した値となった。QOL や SOC のスコアの比較結果も, これまでの研究結果と同様の傾向を示しており,実施マ ニュアルに従った方法は,高ストレス者の抽出を簡便に し,産業保健の現場で優先的にメンタルヘルスの支援が 必要な者を見つけ出す上で有用と考える。しかし,その 簡便さから,高ストレスと判定された者,そうでない者 ということだけに目が向いてしまう可能性もある。図 1 からも,高ストレス者と判定されなかった者でも,スト レス度が高い者が多くいることが示されている。このこ とから,高ストレス者と判定された者を対象に,メンタ ルヘルス不調を未然に防ぐ為にハイリスクアプローチは 重要であるが,職場全体でメンタルヘルスの不調を防げ る良好な労働環境を醸成していくためのポピュレーショ ンアプローチも平行して実施していく必要がある。また, 実施マニュアルには,この基準は変更することが可能と も記されており,絶対的な基準と捉えるのではなく,事 業所の特性など考慮した判定基準の検討も必要と考え る。

Ⅴ.おわりに

高ストレス者と非高ストレス者の比較を通して QOL に差が認められ,高ストレス状況が QOL 低下に影響を 及ぼしている可能性が示唆された。また,高ストレス者 は,ストレス対処能力としての SOC が低いことが示さ れた。実施マニュアルに従った抽出方法においても,こ れまでの研究と同様の傾向が得られており,有用性は高 いと考えられる。本研究では,女性の対象数が少なく, ない。今後は女性のサンプル数を増やした検討が必要で ある。また,本研究では,実施マニュアルに従った選定 基準を用い検討を行っているが,一義的な基準として扱 うのではなく,QOL や SOC との関係を確認しながら, 事業所の特性に応じた基準を検討していくことも必要で ある。 謝辞 調査にご協力いただきました労働者の皆さま,調査票 の配布・回収にご協力いただきました山梨厚生病院予防 医学センターの金子誉先生に心より感謝申し上げます。 引用文献 1) 荒木修一,川上憲人(1993)職場ストレスの健康管理.産業医学, 35(2):88-89. 2) 金子仁朗,小西博行(1989)ストレスによる業務上の疾病.公衆 衛生,53(2):90-94. 3) 半田肇,西川方夫(1987)ストレスと脳卒中発生の因果関係に関 する研究.日本災害医学会誌,35(3):246-254. 4) 山崎喜比古,戸ヶ里泰典,他(編)(2008)ストレス対処能力 SOC.有信堂高文社,東京. 5) 吉田えり,山田和子,他(2013)看護師の Sense of Coherence とストレス反応との関係.日本看護研究学会雑誌,36(5):25-33. 6) 五十嵐久人,飯島純夫(2015)女性雇用者の QOL と職業性スト レスの関係-正規雇用と非正規雇用の比較による検討-.山梨 大学看護学会誌,13(2):1-7. 7) マニュアル URL 厚生労働省(2016)労働安全衛生法に基づくス トレスチェック制度実施マニュアル.http://www.mhlw.go.jp/ bunya/roudoukijun/anzeneisei12/pdf/150507-1.pdf(2017 年 11 月 22 日現在) 8) 下光輝一(2005)厚生労働科学研究費補助金労働安全衛生総合研 究事業 職場環境等の改善等によるメンタルヘルス対策に関す る研究.平成 14 年度~ 16 年度総合研究報告書:93-133 9) 田崎美弥子,中根允文(2013)WHOQOL26 手引き改訂版.金子 書房,東京. 10) 戸ヶ里泰典,山崎喜比古(2009)SOC スケールとその概要- SOC スケールの種類と内容・使用上の注意点・課題-.看護 研究,42(7):505-516. 11) Aaron Antonovsky(著),山崎喜比古,吉井清子(訳)(2001) 健康の謎を解く-ストレス対処と健康保持のメカニズム.有信 堂高文社,東京. 12) 森本兼曩(1991)ライフスタイルと健康 健康理論と実証研究. 医学書院,東京. 13) 浅野祐子,山崎喜比古,他(1999)ストレスフルな生活出来事が 首尾一貫感覚(Sense of Coherence: SOC)と精神健康に及ぼす 影響.日本公衆衛生雑誌,46(11):965-976.

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14) 田甫久美子(2008)事業所における定期健康診断受診者の健康習 慣実行度とストレス反応の因子構造-健康習慣指標と職業性ス トレス反応の主成分分析を試みて-.金沢大学つるま保健学会 誌,32(1):77-83. 15) 恩田恵子,野坂周,他(2003)ライフスタイルの見直しはメンタ ルヘルス増進につながるか.逓信医学,55:119-124.

参照

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