乳房温存術を受けた乳がん患者に関する
看護研究の動向と課題
二 渡 玉 江, 砂 賀 道 子, 堀 越 政 孝
武 居 明 美, 高 橋 陽 子, 廣 瀬 規代美
中 西 陽 子, 神 田 清 子
要 旨 【目 的】 1999 年から 2008年までに日本国内で掲載された乳房温存術を受けた乳がん患者の看護に関する 論文から,研究の動向と課題を明らかにする. 【方 法】 医学中央雑誌」を 用し,「乳がん」「看護」「乳房 温存術」「乳房温存療法」をキーワードに検索を行い, 研究デザイン, 方法, 内容の 析を行った. 【結 果】 対象文献は 49 論文であり, 量的研究が 53.1%と半数以上を占め, 研究デザインは, 因子探索的研究が最も多 く 57.1%であった.研究内容は「心理的変化とストレスコーピング」(18コード : 36.7%),「治療に伴う機能障 害の予防と生活への影響」(7コード : 14.3%),「治療選択や QOL に影響する要因」(8コード : 16.3%),「治療 に関連した情報提供と支援ニーズ」(5コード : 10.2%),「看護介入プログラムの開発とケア実践の評価」(11 コード : 22.4%) の 5つのカテゴリに集約された. 【 察】 以上の結果は, 乳房温存術や継続治療がもた らす心身両面への影響を QOL の視点から捉え, 心理的な看護介入プログラムによる介入研究がなされるよ うになってきていることを示している. 今後は介入研究を積み重ね, それらの評価に基づく効果的な介入プ ログラムの開発が望まれる.(Kitakanto Med J 2010;60:17∼23) キーワード:乳がん, 乳房温存療法, 乳房温存術 .は じ め に 1880年代 Halsted が発表した定型的乳房切除術 (現在 の胸筋合併乳房切除術) は半世紀以上の間, 乳がんの標 準術式だったが, 20世紀半ばに Pateyや Auchinclossが 非定型的乳房切除術 (胸筋温存乳房切除術)を発表後,急 激に増加し, 1980年代には Halsted法を抜いて主流とな り特に欧米で急速に広まった. 日本においては, 2003年乳房温存術が乳房切除術を抜 き, 2006年には乳房温存術 59.3%, 胸筋温存乳房切除術 32.7%を占め標準術式となった. この背景としては, 拡 大手術は必ずしも予後の改善にはつながらないこと, 医 療における患者の権利の尊重に伴い生存率の 長から QOL の尊重へ医療がシフトしたことなどが挙げられる. さらに, 乳がんは原発巣手術の時点で, いかなる臨床検 査手段でも検出し得ないような微細転移が既に存在して いると えられている為, 局所ではなく全身病であると いう概念に基づき, 術前及び術後の補助療法 (化学療法, 放射線療法, 内 泌療法) が行われるようになった. 乳 房温存術を受けた場合, 術後の放射線療法は必須である. 乳がん患者は手術に臨む際, 生存率は変わらないとさ れる 2つの治療法の選択, すなわち完治を目指して切除 するか, 局所再発・再手術のリスクを覚悟した上で乳房 を温存するかという選択を余儀なくされる. 小西ら は, 乳がん患者の手術に臨む姿勢に影響する要因として, 局 所再発への恐怖感, 復帰する職場環境と仕事への傾倒の 2つを導き出した. このような患者に対し, 各治療法に関 する正確な情報の提供や自己価値観・人生観に照らし提 1 群馬県前橋市昭和町3-39-22 群馬大学医学部保 学科 2 群馬県高崎市中大類町501 高崎 康福祉大学看護学部 3 群馬県前橋市昭和町3-39-15 群馬大学医学部附属病院看護部 4 群馬県前橋市上沖町323-1 群馬県立県民 康科学大学看護 学部 平成21年11月19日 受付 論文別刷請求先 〒371-8511 群馬県前橋市昭和町3-39-22 群馬大学医学部保 学科 二渡玉江示された治療法を熟 し, 納得した治療法決定が行える よう支援することが重要である. 乳がん看護に関する研究の動向を 析した種田ら は, 2000年以降,患者の心理,治療に関する意思決定,社会的 支援など多角的に患者を捉える研究が増加している一方 で, 家族や手術療法以外の治療を受ける患者支援や長期 的支援に関する研究の不足を指摘した. また, 佐藤ら は乳房温存療法を受ける乳がん患者の 術後 1年間の心理的変化を検討した. その結果, 術前が 最も気 ・感情が不安定であり,術後 1ヶ月にかけて改善 するが, 術後 3ヶ月に再び増悪すると述べ, 心理適応を促 進するためには放射線治療前後に患者が新たな目標を見 出し, 変化に対する心の準備を促す必要性を指摘した. このことは, 術前の術式選択への支援と術後に心理的苦 悩を引き起こす放射線治療関連事象への対応の必要性を 示唆する. 乳房温存術患者に関する研究は, 乳房切除術患者との 対比で検討されることが多く, 乳房部 切除術とその 後の放射線治療終了までを含む, 初期治療プロセスとし ての乳房温存療法に焦点を当て, 患者の問題状況や支援 の方向性を明らかにした研究は少ない. そこで, 乳房温 存術を受けた乳がん患者に対する看護研究の動向と課題 を明らかにすることとした. .研 究 目 的 1999 年から 2008年までに日本国内で掲載された乳房 温存術を受けた乳がん患者に関する看護研究の動向を 析し, 課題を明らかにすることである. .用 語 の 定 義 乳房温存術とは, 乳房の形状を温存することを念頭に して行う乳房の部 切除術である. 乳房温存療法とは, 乳房温存手術と温存乳房への手術後の放射線照射を行 い, がんの根治を期待する協同治療である. .研 究 方 法 1.研究対象 1999 年から 2008年 8月までに web 版医学中央雑誌 (Ver.4)に掲載された「乳房温存術を受けた乳がん患者の 看護」に関する研究論文である. 2.対象文献の検索および選定 「乳房温存術」「乳房温存療法」「乳がん」「看護」をキー ワードとし, 原則として原著論文を検索した. 対象論文 が少なかったため, さらに「手術」を追加して検索した. 研究対象文献としての選定は, 本研究の意図と合致する 内容であることとした. 選定基準からはずれていると えられる文献に関しては, その内容を 2名の研究者で再 度確認, 協議した上で決定した. 3.データ 析 1)データ化 研究者の先行研究 で用いた文献研究の 析フォーム を本研究の内容にあわせて修正したものを 用し, 対象 文献をデータ化した. 析フォームは研究の種類, 研究 デザイン, データ収集方法, 析方法, 研究対象, 対象と する時期, 補助療法, 研究内容, 研究コードを項目として 構成した. 研究デザインは Diers.D の臨床看護研究の 類 を基に 類した.研究内容は各文献を精読し,その内 容を表す一文として, その意味内容に忠実に要約し, 研 究内容コードとした. 2)データ 析 研究内容以外の項目については Excel2003に入力し, 記述統計を算出した. 研究内容については, 研究内容 コードを Berelson.Bの内容 析の手法 を参 に意味 内容の類似性に基づき 類, 命名しカテゴリ化した. 3) 析の信頼性の確保 析の信用性は, 共同研究者間による検討を重ねその 確保に努めた. 研究者間で判断の異なる場合には繰り返 して討議を行い, 検討を重ねた上で決定した. .結 果 1.乳房温存術を受けた乳がん患者に関する看護研究数 の推移 (表 1) 2008年 11月に web 版医学中央雑誌 (Ver.4) を 用し て検索した結果, 1999 年から 2008年 8月までに 乳が ん 看護 乳房温存術 をキーワードとした場合 31 件, 乳がん 乳房温存療法 看護 をキーワードとし た場合で 25件であった. また, 乳がん 看護 手術 では 116件であった. この中から原著論文に限定し, 手 術内容が乳房切除術のみであるもの, 内容についても本 研究の目的に合致しなかったものを除外した結果, 49 件 を研究対象とした. 論文数の年次推移は, 2008年 5件 (10.2%), 2007年 9 件 (18.4%), 2006年 5件 (10.2%), 2005年 6件 (12.2%), 2004年 5件 (10.2%), 2003年 1件 (2.0%), 2002年 7件 (14.3%),2001年 3件 (6.1%),2000年 6件 (12.2%),1999 年 2件 (4.1%) であった. 研究の種類は量的研究が 26件 (53.1%), 質的研究が 19 件 (38.8%), 質量併用が 4件 (8.2%) であった. 研究デザインは因子探索研究が 28件 (57.1%), 関係探 索研究が 11件 (22.4%), 関連検証研究が 4件 (8.2%), 因 果仮説検証研究が 3件 (6.1%), その他が 3件 (6.1%) で あった.
データ収集方法 (重複集計)は面接法が 23件 (31.1%), 自作質問紙法 14件 (18.9%), 質問紙法 14件 (18.9%), 観 察法 10件 (13.5%), 診療録・看護記録 5件 (6.8%), その 他 8件 (10.8%) であった. 析方法 (重複集計) は記述統計 23件 (36.5%), 推測 統計 17件 (27.0%), 内容 析 5件 (7.9%), グラウンデッ ドセオリー1件 (1.6%), エスノグラフィー1件 (1.6%), その他質的方法が 16件 (25.3%), アクションリサーチ, 現象学的方法はなかった. 研究対象 (重複集計) は患者 47件 (92.1%), 看護師 4 件 (7.8%), 家族はなかった. 研究時期 (重複集計)は診断確定・告知時 1件 (1.5%), 術前 5件 (7.5%), 初期治療期 28件 (41.8%), 初期治療期 以降 32件 (47.7%), 再発期, 終末期はなかった. その他 1 件 (1.5%) であった. 補助療法は放射線療法 6件 (12.2%), 術後化学療法 2 件 (4.1%), その他 5件 (10.2%), 記載なし 36件 (73.5%) であった. 2.研究内容 (表 2) 対象文献 49 件から得られた研究内容コードは, 1文献 1コードとしたため 49 コードであった. これらのコード を意味内容の類似性に基づき 類した結果, 11サブカテ ゴリ, 5カテゴリが形成された. サブカテゴリとカテゴリ の一致率をスコットの式 を用いて 2者間で算出したと ころ, 77.5%であり信頼性は確保された. 以下, 研究内容 のカテゴリを【 】,サブカテゴリを「 」,コードを > にて表す. 【 1. 心理的変化とストレスコーピング : 18コード (36.7%)】 このカテゴリは「心理的変化と関連要因 : 10コード」, 「ス ト レ ス コーピ ン グ と ソーシャル サ ポート : 8コー ド」の 2つのサブカテゴリ,18コードから形成された.こ のカテゴリが全体に占める割合は 36.7%であった. 主な コードは, 告知から手術までの乳がん患者の心理的変 化>, 術後乳がん患者の不安と身体的状況, ソーシャル サポートとの関係> などであった. 【 2. 治療に伴う機能障害の予防と生活への影響 : 7コード (14.3%)】 表1 項目別記述統計年次推移 (N=49) 数 (%) 小計 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 年次別研究数 49 2 6 3 7 1 5 6 5 9 5 1. 研究の種類 1. 質的研究 19 (38.8) 1 3 1 2 1 2 2 4 2 1 2. 量的研究 26 (53.1) 1 3 2 4 0 3 3 0 7 3 3. 質量併用 4 ( 8.2) 49 0 0 0 1 0 0 1 1 0 1 2. デザイン 1. 因子探索研究 28 (57.1) 1 3 2 4 0 2 5 4 6 1 2. 関係探索研究 11 (22.4) 0 2 1 3 1 2 0 0 1 1 3. 関連検証研究 4 ( 8.2) 1 1 0 0 0 1 0 0 1 0 4. 因果仮説検証研究 3 ( 6.1) 0 0 0 0 0 0 0 0 1 2 5. その他 3 ( 6.1) 49 0 0 0 0 0 0 1 1 0 1 3. データ収集 1. 質問紙 14 (18.9) 1 2 1 2 0 2 1 1 3 1 (重複集計) 2. 自作質問紙 14 (18.9) 0 1 1 3 1 3 2 0 2 1 3. 面接法 23 (31.1) 1 3 2 4 1 2 2 4 2 2 4. 観察法 10 (13.5) 1 1 0 3 0 1 1 1 2 0 5. 診療録・看護記録 5 ( 6.8) 1 2 0 1 0 0 0 0 0 1 6. その他 8 (10.8) 74 0 0 1 0 0 0 1 1 3 2 4. 析方法 1. 記述統計 23 (36.5) 0 1 1 4 0 3 4 2 5 3 (重複集計) 2. 推測統計 17 (27.0) 1 2 1 2 0 2 1 1 5 2 3. その他の統計 0 ( 0) 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 4. 内容 析 5 ( 7.9) 0 0 0 2 0 0 2 1 0 0 5. グラウンデッド・セオリー 1 ( 1.6) 0 0 0 0 0 0 0 1 0 0 6. エスノグラフィー 1 ( 1.6) 1 0 0 0 0 0 0 0 0 0 7. アクションリサーチ 0 ( 0) 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 8. 現象学的方法 0 ( 6.0) 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 9. その他質的方法 16 (25.3) 63 0 3 1 1 1 2 1 3 2 2 5. 研究対象 1. 患者 47 (92.1) 2 6 3 7 1 5 4 5 9 5 (重複集計) 2. 家族 0 ( 0) 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 3. 看護師 4 (7.8) 0 0 1 0 0 0 2 0 0 1 4. その他 0 ( 0) 51 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 6. 研究時期 1. 診断確定・告知時 1 ( 1.5) 0 0 0 1 0 0 0 0 0 0 (重複集計) 2. 術前 5 ( 7.5) 0 3 0 1 0 0 0 1 0 0 3. 初期治療期 28 (41.8) 2 6 1 4 1 2 2 4 4 2 4. 初期治療期以降 32 (47.7) 2 1 3 4 0 3 4 3 8 4 5. 再発期 0 ( 0) 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 6. 終末期 0 ( 0) 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 7. その他 1 ( 1.5) 67 0 0 0 0 0 0 1 0 0 0 7. 補助療法 1. 放射線療法 6 (12.2) 0 0 1 1 0 2 1 0 1 0 2. 術前化学療法 0 ( 0) 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 3. 術後化学療法 2 ( 4.1) 0 1 0 0 0 0 0 1 0 0 4. 内 泌療法 0 ( 0) 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 5. その他 5 (10.2) 0 0 0 0 0 0 2 0 2 1 6. 記載なし 36 (73.5) 49 2 5 2 6 1 3 3 4 6 4
このカテゴリは「治療や機能障害の程度と日常生活へ の影響 : 3コード」, リンパ浮腫に対する患者の認知と 予防行動 : 4コード」の 2つのサブカテゴリ,7コードか ら形成された. このカテゴリが全体に占める割合は 14.3%であった.主なコードは 乳がん術後機能障害がも たらす日常生活への影響>, 乳房手術患者のリンパ浮腫 発生要因と予防行動の実態調査> などであった. 【 3. 治療選択やと QOL に影響する要因 : 8コード (16.3%)】 このカテゴリは「周術期患者の QOL と影響要因 : 5 コード」,「患者の術式・治療選択に及ぼす影響要因 : 3 コード」の 2つのサブカテゴリ, 8コードから形成され た. このカテゴリが全体に占める割合は 16.3%であった. 主なコードは 乳がん手術患者の QOL の変化とその影 響要因との関連>, 乳がん患者の術式選択における影響 要因> などであった. 【 4. 治療に関連した情報提供と支援ニーズ : 5コード (10.2%)】 このカテゴリは「治療に関連した支援ニーズの検討 : 2 コード」,「周術期患者に必要な情報提供と援助内容の検 討 : 3コード」の 2つのサブカテゴリ,5コードから形成 された. このカテゴリが全体に示す割合は 10.2%であっ た. 主なコードは 乳房温存術を受ける乳がん患者の周 術期における支援ニーズ>, 乳がん手術患者が必要とす 表2 研究内容コード (n=49) 研究内容コード (49) サブカテゴリ (11) カテゴリ (5) 告知から手術までの乳がん患者の心理的変化 術後化学療法を受ける患者の心理的変化 周手術期にある乳がん患者の心理的状況 放射線治療経過に伴う乳がん患者の心理的変化 乳房温存術患者の周術期不安内容の変化と放射線治療に対する関心度 心理的変化と関連要因 (10コード) 乳がん患者の手術前後の心理的変化 乳房温存術を受けた乳がん患者の術後 1年間の心理的変化 乳がん患者のソーシャルサポートと精神的・身体的状況の関係とその経時的変化 乳がん手術を受ける患者の術前の心理状態 心理的変化とストレスコーピング (18コード : 36.7%) 術式別にみた乳がん患者の心理的適応過程と関連要因 乳がん患者が知覚したサポートとコンフリクト 術後乳がん患者の不安と身体的状況, ソーシャルサポートとの関係 乳がん患者の術前・術後の危機プロセスとソーシャルサポート, ストレスコーピングとの関係 乳房温存術を受ける患者の術前術後のストレスコーピング ストレスコーピングとソーシャル サポート (8コード) 乳がん術後患者の不安と対処行動の関係 手術目的で入院した患者の同室者からのサポートとエンパワーメントの関連 乳がん患者の自己概念の変化と意味づけ 乳がん術後患者の気持ちの変化と対処行動との関係 乳がん術後機能障害がもたらす日常生活への影響 放射線治療中の外来乳がん患者の日常生活上の困難 治療や機能障害の程度と日常生活 への影響 (3コード) 術式別にみた肩関節可動域障害と痛みの回復意欲との関連 乳房手術患者のリンパ浮腫発生要因と予防行動の実態調査 治療に伴う機能障害の予防と生活 への影響 (7コード : 14.3%) リンパ浮腫が患者にもたらした苦悩 リンパ浮腫に対する患者の認知と 予防行動 (4コード) リンパ浮腫に対する患肢挙上方法の実態とその効果 リンパ浮腫予防に対する知識とその活用度との関係 乳がん患者の術後 QOL の影響要因 リンパ浮腫患者の QOL 評価 乳がん体験者のサポートグループ参加と QOL との関連 周術期患者の QOL と影響要因(5コード) 乳がん手術患者の QOL の変化とその影響要因との関連 治療選択や QOL に影響する要因 (8コード : 16.3%) 乳がん手術患者の QOL の実態とその影響要因との関連 乳がん患者が術前に必要と思う情報と術後の満足度との関係 乳がん患者の術式選択における影響要因 患者の術式・治療選択に及ぼす影 響要因 (3コード) 乳がん患者の手術に臨む姿勢とその影響要因 リマンマ製品の活用実態やニーズの把握と看護の役割 治療に関連した支援ニーズの検討 (2コード) 乳房温存術を受ける乳がん患者の周手術期における支援ニーズ 乳がん手術患者が必要とする情報と提供時期の検討 治療に関連した情報提供と支援ニーズ (5コード : 10.2%) 患者が主体的な療養姿勢を保持する為に必要な継続的看護援助内容の検討 周術期患者に必要な情報提供と援 助内容の検討 (3コード) 術後外来通院中の乳がん患者が求める看護援助内容 乳がん術後リンパ浮腫に対するリンパドレナージプログラムの開発と評価 診断・治療期にある乳がん患者に対する心理教育的看護介入プログラムの開発と効果の検証 看護介入プログラムの開発と効果 (4コード) 周手術期患者の不安に対する心理的看護介入の効果の検証 患者満足度から見たクリニカルパスの有用性の検討 乳がん体験者の術後上肢機能障害に対する認知尺度の作成と信頼性および妥当性の検討 用手リンパドレナージ施行前後の指尖血流量からみた効果の検証 看護介入プログラムの開発とケア 実践の評価 (11コード : 22.4%) 治療に伴う症状に対する評価指標 の検討 (4コード) 用手リンパドレナージ施行前後の上肢細胞内外水 比からみた効果の検証 乳房温存術後の放射線療法を受ける患者に対する指導表の作成とその評価 複合的リンパ療法がリンパ浮腫および患者の QOL にもたらす効果の検証 がん術後リンパ浮腫患者への複合的理学療法を中心としたセルフケア指導の介入効果 治療に伴う症状に対するケア実践 の評価 (3コード) 乳房温存術後の放射線療法を受ける患者に対する外来看護の実態
る情報と提供時期の検討> などであった. 【 5. 看護介入プログラムの開発やケア実践の評価 : 11コード (22.4%)】 このカテゴリは「看護介入プログラムの開発と効果 : 4 コード」,「治療に伴う症状に対する評価指標の検討 : 4 コード」,「治療に伴う症状に対するケア実践の評価 : 3 コード」の 3つのサブカテゴリ, 11コードから形成され た. このカテゴリが全体に占める割合は 22.4%であった. 主なコードは 乳がん術後リンパ浮腫に対するリンパド レナージプログラムの開発と評価>, 乳がん体験者の術 後上肢機能障害に対する認知尺度の作成と信頼性および 妥当性の検討>, 乳がん術後リンパ浮腫患者への複合的 理学療法を中心としたセルフケア指導の介入効果> など であった. . 察 1.乳房温存術を受けた乳がん患者に関する看護研究の 動向 研究論文数は 1件から 9 件までとばらつきがみられ た. この 5年間は常に 5件以上の論文発表が行われてい る. ここでは今回の結果で特徴的なものについて 察す る. 特に注目されるのは, 研究の種類が質的研究 (38.8%) に比べ量的研究 (53.1%)が多かったことである.砂賀ら は, がん体験者の適応に関する研究の動向と課題の中で, 質的研究が約 73%と 4 の 3近くを占め, 一方, 量的研 究は 20%以下であったと述べている. また乳がん看護に 関する研究の現状をまとめた調査 では, データ収集方 法から推定すると量的研究, 質的研究はほぼ同数であっ た. 当然, 研究対象テーマによって, その先行研究の進度 によって研究の種類が異なることは周知である. 真壁 は, 研究テーマにそった現象を明らかにするためには, 身体・心理・社会的側な多側面からとらえた特徴を捉え る必要があり, それには事例研究や質的研究の遂行が必 要であると述べている. この点から えると自己概念や 心理的支援に焦点があたっていた乳がん患者に対する看 護の方向性が因子探索研究から関係探索, 関連検証へと 変化していくステップとして期待される. さらに, 量的 研究が多かった一因として, 2007年∼2008年のリンパ 浮腫ケアに関する研究論文数の増加が挙げられる. この 2年間 14論文のうち, リンパ浮腫ケアに関する論文が 8 件, そのうち 7件は量的研究であり, リンパ浮腫の発症 要因や複合的理学療法の効果を評価するものであった. リンパ浮腫ケアに関しては, 平成 20年度の診療報酬改 定において, リンパ浮腫を防止するための指導管理料と 浮腫重篤化予防のための弾性着衣の療養費払いが認めら れ, 医療者, がん患者ともにリンパ浮腫への関心が高 まっていることも影響していると えられる. 研究対象は, 患者が最も多く, 次いで看護師であり, 家 族を対象としたものはなかった. 乳がん患者の術式選択 に関する研究 では,「家族のために元の生活を取り戻し たい. そのためには切除することで, 治療を終わらせ何 とか完治したい. 温存して再手術となって子どもに寂し い思いをさせたくない」など, 再発の不安や恐怖と対峙 しながらも家族や家 を思う患者の姿を明らかにした. また, 手術に臨む姿勢に影響する要因として,「再発への 恐怖感」と「復帰する職場環境と仕事への傾倒」を挙げ, 温存療法の一環として行われる放射線治療の選択では, 復帰する職場環境や患者自身の仕事の傾倒の程度が関連 していることを示唆した.職業継続は,手術後の患者・家 族の生活設計のためには重要な問題であり, 患者個人の 判断のみで決定することは困難である. これらは, 乳房 温存療法を受ける患者は, 自 の病気の進行状況だけで なく, 病気や治療の家族や生活への影響を見据えて治療 法選択をしていることを示唆する. 今後は, 乳房温存療 法過程における患者と家族の関わりや家族のサポートの 状況を明らかにする必要がある. 研究内容は最終的に 5カテゴリーに 類された. 最も コード数の多かったカテゴリーは,【心理的変化とストレ スコーピング : 18コード】であり,全体の 36.7%を占め, 乳がん患者に対する心理的支援への関心の高さが伺われ る. 研究対象を乳房温存術患者に限定した研究は 3件と 少なく, いずれも不安や心理的変化, ストレスコーピン グを検討したものであった. 乳房温存術前後から放射線 治療までの初期治療の一連の過程を捉えた支援を える 上で貴重な資料となる. 次に多かったのは【看護介入プログラムの開発とケア 実践の評価 : 11コード】であり,全体の 22.4%を占めた. これまでのがん看護研究に関する検討では, 明らかに なった研究結果をどう対象に働きかけるかといった介入 研究の不足が指摘 されており, この点から えると 今回の結果は, 現象を明らかにする研究から介入を評価 する研究への発展として期待できる. 看護職の役割拡大 が検討されている中で, 看護職には看護学で蓄積された 知識を臨床に意図的に適用して看護活動を展開し, その 成果を示すことが求められている. それには, 今回の結 果で示された評価指標や介入プログラムに関する研究が 不可欠であり, この点からの意義も大きい. しかしこれ ら 11件のうち, 乳房温存療法患者に限定した研究は 2 件であり, さらなる研究が望まれる. この他のカテゴリーとしては,【治療選択や QOL に影 響する要因 : 8コード】,【治療に伴う機能障害の予防と 生活への影響 : 7コード】,【治療に関連した情報提供と 支援ニーズ : 5コード】が抽出された.治療に伴う機能障
害については, 乳房温存術やセンチネルリンパ節生検の 普及により, 切除術に比し機能障害は少ないという認識 から問題は潜在化している. しかし, 術後 3ヶ月時点では 胸筋温存乳房切除術に比べ乳房温存術後の前方挙上の低 下が著しく, これには放射線照射による術部の痛みや違 和感が関連しているとの指摘 もあり, 手術前から放射 線治療を含めた乳房温存療法施行中の経過を捉えた支援 が必要である. 2.今後の課題 本研究の結果から以下の 2点が今後の課題と えられ た. 1点目は,「初期治療としての乳房温存療法を手術前 から一連の過程を捉えた研究の蓄積」である. これまで 乳房部 切除術を含む乳房温存療法は, 乳房切除術との 対比で, 自己概念の障害や術側上肢の機能障害の程度な どについて論じられてきた. しかし温存療法を受ける乳 がん患者は, 診断直後の術式選択の時点で, 手術後に行 われる放射線治療の心身への影響, 生活への影響を見据 えた意思決定を余儀なくされる. このことは, 手術治療 や放射線治療が患者や生活に及ぼす影響を切り離して捉 えるのでなく, 一連の過程として捉えることの重要性を 示唆する. 2点目は, 介入成果をエビデンスにできる研究の蓄 積」である.根拠に基づいた看護実践を行うためには,先 行研究で明らかにされた現象をふまえて, 再現性かつ実 現可能な介入方法を 案し実践する必要がある. 前述し たように, 看護介入プログラムの開発やケア実践の評価 に関する研究は多かったものの, 乳房温存療法患者に限 定した研究は少なかった. 課題の 1点目で指摘したよう に, 一連の過程として捉えて明らかになった現象に対す る介入を行い, その結果を目に見えるアウトカムとして 提示することにより, 看護独自の機能と役割を検証する ことができる. このためにも現象の理解から効果的な支 援方法と評価の提示が重要である. .お わ り に 本研究において, 内容 析のカテゴリ化においては, 十 な検討を行ったが, 研究者の主観的判断が多少なり とも含まれていることは否定できない. この点は本研究 の限界である. しかしながら, 乳房温存療法は今後ますます増加が予 想されることから, 本治療を受ける患者の現象を多側面 から明らかにし, 介入成果を明確に示す研究を蓄積する ことが重要である (本論文は平成 21-23年度科学研究費 補助金 基盤研究 (C)「乳房温存術後に放射線治療を受 ける乳がん患者に対する看護援助モデルの開発」による 研究の一部である). 文 献 1. 内田 賢, 秋山太編著 : ナースのための最新乳がんテキ スト. 東京 : 真興 易医書出版, 2003: 78-79. 2. 日本乳癌学会編 : 患者さんのための乳がん診療ガイドラ イン. 東京 : 金原出版, 2009 : 72-73. 3. 小西敏子,佐藤禮子.乳がん患者の手術に臨む姿勢とそれ に影響を及ぼす要因. 千葉看護学会会誌 2001; 7(1): 67-73. 4. 種田ゆかり, 大西和子, 大石ふみ子. わが国の乳がん看護 に関する研究の現状 過去 10年間 (1995∼2004年)に焦 点をあてて. 三重看護学会誌 2008; 10,65-70. 5. 佐藤まゆみ,佐藤禮子.乳房温存療法を受ける乳がん患者 の術後 1年間の心理的変化. 千葉看護学会会誌 2002; 8(1), 47-54. 6. 二渡玉江, 星山佳治, 川口 毅. 乳がん患者の心理適応過 程と関連要因の解明に関する縦断的研 究. がん看護 2000; 5, 509-516. 7. 田中千枝子, 中山小百合, 木曽悦子. 乳癌患者のリハビリ テーション看護―術式による肩関節機能と痛みの比較 ―. 成人看護Ⅰ論文集 2000; 18-20. 8. 標準的な乳房温存療法の実施要項研究班編 : 患者さんの ための乳房温存療法ガイドライン. 東京 : 金原出版, 2005: 16. 9. 砂賀道子,二渡玉江.がん体験者の適応に関する研究の動 向と課題. 群馬保 学紀要 2007; 61-70. 10. Diers. D 著, 小島通代, 岡部 子, 金井和子訳 : 看護研究 ケアの場で行うための方法論. 東京 : 日本看護協会出版 会, 1990: 90-91. 11. Berelson. B著, 稲葉三千男, 金 圭煥訳 : 社会心理学講 座Ⅶ 内容 析. 東京 : みすず書房, 1957: 1-57. 12. 舟島なをみ : 質的研究への挑戦. 東京 : 医学書院, 1999 : 48-49. 13. 真壁玲子. 日本における高齢者に関するがん看護研究の 動向と課題. がん看護 2006; 11: 539-545. 14. 嶺岸秀子, 遠藤恵美子. 日本における過去 10年間 (1988 ∼1997年) のがん看護実践領域における研究の概観と今 後の課題. 日本がん看護学会誌 1999 ; 13(1): 1-13. 15. 神田清子, 武居明美, 狩野太郎他. がん化学療法を受けて いる療養者のセルフマネジメントに関する研究の動向と 課題. THE KITAKANTO MEDICAL JOURNAL 2008; 58: 197-207.
16. 田村綾子, 森本忠興, 市原多香子他. 乳癌術後患者の早期 機能回復訓練実施による患側上肢関節可動域の評価. 日 本リハビ リ テーション 看 護 学 会 学 術 大 会 集 録 2001; 13: 15-17.
Trends and Tasks in Nursing Research
on Breast Cancer Patients Receiving
Breast-Conserving Surgery
Tamae Futawatari,
Michiko Sunaga,
Masataka Horikoshi,
Akemi Takei,
Yoko Takahashi,
Kiyomi Hirose,
Yoko Nakanishi
and Kiyoko Kanda
1 School of Health Sciences, Gunma University Faculty of Medicine. 2 Department of Nursing, Takasaki University of Health and Welfare 3 Department of Nursing, Gunma University Hospital4 Department of Nursing, Gunma Prefectural College of Health Sciences
Objectives: Nursing Research trends and topics were analyzed based on publications dealing with breast cancer patients who underwent breast-conserving surgery published between 1999 and 2008 in Japan. M ethods: A search was carried out using Japana Centra Revuo Medicina with breast cancer , nursing , breast-conserving surgery and breast-conserving therapy (BCT) as key words, and the design, methods, and contents of research were analyzed. Results: There were 49 papers, and the quantitative research accounted for more than half(53.1%). The most frequent research design was the factor-exploring type(57.1%). Research topics were divisible into 5 categories: psychological changes and stress coping in breast cancer patients (18 codes: 36.7%), prevention and influence for life of functional disorder attended treatment (7 codes,14.3%),factors affecting selection of treatment and QOL (8 codes,16.3%),giving information related treatment and requirement for support(5 codes,10.2%),and development of nursing intervention programs and evaluation of caring practice (11 codes, 22.4%). Discussion : These results indicate two trends in this research field, i.e., evaluation of the mental and physical influences of breast-conserving surgery and continued treatment from the viewpoint of QOL,and interventional research with nursing interventional programs targeted at management of psychological problems experienced by breast cancer patients.It is desirable that more numbers of interventional studies are carried out henceforth in order to develop valid interventional programs based on evaluation of the data collected through such studies.(Kitakanto Med J 2010;60:17∼23)