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受講生のニーズを考慮した必修科目「メンタルヘルス実習」の展開 ―授業内容の紹介と受講生による評価についての報告―

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Academic year: 2021

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受講生のニーズを考慮した必修科目「メンタルヘルス実習」の展開

―授業内容の紹介と受講生による評価についての報告―

白石智子

宇都宮大学教育学部

  Satoko SHIRAISHI*: A Report on Practice in Mental Health

 * Faculty of Education, Utsunomiya University (連絡先:[email protected]) 概要 宇都宮大学教育学部総合人間形成課程における必修科目の一つに「メンタルヘルス実習」がある。本 授業は,一学年約60名を3クラスに分け,少人数制の実習形式で行われる。従来は,自己省察を中核テーマ に据えた同一内容の授業を3クラスすべてに実施していたが,2013年度より具体的・実践的要素を組み込み, また個別性を重視した新クラスを導入した。本稿では,新クラスの授業内容を紹介するとともに,2013年度 および2014年度受講生による評価を基に本授業の効果と課題について報告する。  キーワード:メンタルヘルス,ストレスマネジメント,大学生,必修科目 1.はじめに  大学におけるメンタルヘル管理については,保健 管理センターなどを中心とする従来の取り組みに加 え,最近では,授業を活用した心理教育やストレス マネジメント,不適応予防実践なども報告が増えて いる(例えば,及川・坂本, 2008 ; 中村, 2010)。  宇都宮大学教育学部においてメンタルヘルスを扱 う科目としては,総合人間形成課程において展開さ れている「メンタルヘルス実習」がある。この科目 の特徴としては,「必修科目」として位置づけられ ていること,すなわち当課程の学生が全員受講する という点がある。一般的に,メンタルヘルスに関す る科目は,教養科目あるいは心理系や健康系の学問 (およびその関連領域)を専攻する学生を対象とし た選択科目として展開されることが多い。受講生は 自らその科目を選択履修していることから,授業へ の積極的な取り組みもある程度期待できると思われ る。一方で,この「メンタルヘルス実習」の受講生 が所属する総合人間形成課程は,複合的な学問分野 から構成されており,教員免許の取得を目的として いないことから,学生の興味関心,目的意識が多様 であるという特徴がある。  そのような受講生を対象とし,必修科目としてメ ンタルヘルスを扱う授業を行うには,受講生の動機 づけをより強く意識する必要がある。動機づけの維 持に関しては,学生自身が授業の効果を日常生活で 実感できるような比較的即効性の高い内容を組み込 むなどの工夫が挙げられよう。もちろん,即効性は あっても持続性に欠けるような効果も多いため偏り すぎることには問題もある。しかしながら,メンタ ルヘルスへの関心が薄い,あるいは抵抗感の強い学 生に対し,最初から継続実施を求めることは,受講 意欲をさらに低下させる可能性もあるだろう。同様 に,メンタルヘルスへの関心が元々高い学生にとっ ての授業充実度も当然考慮する必要がある。そのよ うな学生の中でも,知識を得たい者,内省を深めた い者,具体的なスキルを身につけたい者,などニー ズは様々であろう。このように,受講生の興味関心 や授業への取り組み方が,通常よりもさらに多様で あることから,この種の授業展開においては受講学 生の個別性を考慮することも重要である。  さて,「メンタルヘルス実習」は通年不定時科目 として設定されており,夏季と春季の集中授業およ び後期の週1回定時授業から構成されている。受講 生は3年次生約60名であり,少人数制を活かした実 習とするべく,約20名ずつ3クラスに分けて行われ る。2011年度および2012年度については,同一内容 の授業を担当教員2名が1クラスと2クラスをそれ ぞれ受け持つ形で実施された。概要としては,夏季 休業中に実施される1泊2日の合宿での集団生活体験 宇都宮大学教育学部教育実践紀要 第1号 2015年8月1日

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および各種ワークを通した関係作り,後期定時授業 での固定班(3 ∼ 4名)を利用した内省作業,春季 に振り返りとして実施される集中授業,という構成 をとっている。2011年度の詳細については,川原・ 永井(2012)および永井・川原(2012)を参照され たい。また,2012年度についても前年度をほぼ踏襲 した内容で実施された。2年間の実施を経て,受講 生からは,卒業時期における学生生活の振り返りの 際などに,当科目の意義や効果の実感についての報 告が多くなされるなど,一定の役割を果たしている ものと思われる。しかしながら,やはり多様な受講 生に対する必修科目であるという点からの課題も 残っており,それらへの対応も必要といえる。  本稿では,先述した課題への対応の一つとして, 2013年度から導入した新クラスの内容を紹介し,そ の効果と課題について,学生からの評価を基に報告 する。この新クラスでは,従来の授業において中核 的な目的であった内省作業の割合を減らし,その代 わりに従来の授業では扱いの少ない実践的スキルの 獲得を組み込んでいる。このことにより,具体的・ 実践的要素を重視する学生のニーズに応え,また比 較的早くに効果を実感できることから,すべての学 生の動機づけをある程度の水準以上で維持すること を狙った。また,個別性を重視するという観点から, 過去の振り返りをすることを省き,現状の把握とこ れからどうするかというテーマを中核に据えた。 2.2013年度導入「メンタルヘルス実習」新クラ  スの紹介 (1)クラス分け  内省を中心とする従来クラス(2クラス)と実践 スキルを組み込んだ新クラス(1クラス)を開講し, シラバス公開後に学生に対しアナウンスを行い,新 クラスの受講希望者を募った。その結果,新クラス の受講者は,2013年度が18名(男性6名,女性12名), 2014年度が22名(男性6名,女性16名)となった。 (2)「メンタルヘルス実習」新クラスの授業内容  新クラスは,従来クラスと同様,夏季と春季の集 中授業および後期の週1回定時授業から構成されて いる。以下,その内容について紹介する。なお,2013 年度と2014年度において,大きな内容の変更はない。 ① 夏季集中授業  夏季休業期間中に2日間にわたって行われた。従 来クラスが合宿形式で実施することに対し,新クラ スは大学内の施設を使用して通学形式で行った。そ の際,教室の隅に飲み物やお菓子,果物などを並べ たコーナーを設置,休憩時間に自由に利用できるよ うにして,受講生同士がリラックスしならが交流で きる雰囲気を作った。  授業では,受講に際しての個別事情やニーズを把 握するための個別面談,各自が事前に用意してき たメンタルヘルスに関する図書の概要まとめと,グ ループでのシェアリング,それらの発表を1日半か けて行った。その後,外部講師によるボディワーク (フェルデンクライス・メソッド)を半日体験した。 レッスンの合間には,講師と受講生が積極的に交流 を行えるようにした。 ② 後期定時授業(前半)  「自己理解」を促すものとして,「ストレス」,「セ ルフ・コントロール」,「アサーション行動」,「パー ソナル・コンストラクト」を取り上げた。各回で は,それぞれのテーマについて担当教員から15分程 度の簡単な説明をし,自己理解のための個人ワーク を行った上で,他者に伝えたいことや質問したいこ となどについてグループワークを実施した。その際, 担当教員よりグループワークの目的として,「他者 の話を 聴く 」「他者に自分のことを 伝える 」「自 他の異同を知ることにより,自分の特徴をつかみ, また考え方や感じ方は人それぞれであるという当た り前のことを改めて認識する」といった点を挙げ解 説した。  従来クラスでは,この自己理解・自己分析を中核 テーマに据えており,後期定時授業から春季集中授 業にかけて継続的に実施するため,新クラスはその 半分弱の時間ということになる。また,従来クラス では,担当教員によって編成した4名程度のグルー プを固定し,以降同じメンバーで関係を深めながら グループワークを行う方式をとるが,新クラスでは 毎回グループを変え,様々なメンバーと交流するよ うにした。  前半終了時に,まとめの個人作業として,各回の 振り返り,それぞれの関連性の検討の後,全体の整 理を行った。あわせて,担当教員との個別面談を実 施し,受講生自身に過度の負担や問題が生じていな いかについて確認を行った。 ③ 後期定時授業(後半)  実践的スキルを養成することを目的に,ストレス 対処スキル,ソーシャル・スキルを扱った。具体的

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には,「メリット・デメリットの検討」,「問題解決法」, 「タイム・マネジメント」,「聴くスキル」,「話すス キル」を取り上げた。その際,認知行動療法による ストレス対処スキルを扱った文献(越川, 2007 ; 中 野, 2011)や,大学生を対象としたソーシャル・ス キルを扱った文献(橋本, 2008)などを参考・紹介し, 授業終了後も各自が参照できるようにした。各回で は,それぞれのテーマについて個人やグループで実 践的に取り組み,各自の成果や課題について検討し たり,互いにフィードバックを行うグループワーク を実施した。 ④ 春季集中授業  春季休業期間中に1日で実施した。春季集中授業 では,グループ単位で受講生自身が「セルフ・ケア」 について授業形式での発表を行った。準備として, 後期定時授業の最後に各自取り上げてみたい「セル フ・ケア」について文献等を調べさせ,それについ ての授業案を作成させた。作成された個々の授業案 の類似性・共通性を基に担当教員が4,5名ずつから なるグループを編成し,課外活動にてグループ別に 授業案を検討させ,最終的な授業計画の立案・リハー サルを行わせた。  各グループで取り上げられたテーマは,2013年度 は「身体を動かす」,「表情読解トレーニング」,「各 種ストレス・コーピング」,「涙を流すことの効果」, 2014年度は「色の効果(塗り絵)」,「副交感神経を 高める方法」,「音楽フォーカシング」,「感情表出 (泣くこと,笑うこと)」であり,すべて実践(体験) を含む内容で構成されていた。各グループの授業, フィードバック用紙の記入,休憩,を繰り返し,全 グループの発表終了後,各グループへフィードバッ ク用紙を返却し,それについてグループ内で話し合 いをさせた。続いて,話し合いの結果について発表 をさせ,担当教員からのフィードバックも行った。 最後に,「メンタルヘルス実習」全体についての評 価を求め,授業を終了した。 3.学生による「メンタルヘルス実習」新クラスの  評価  受講生に対し,春季集中授業終了時に新クラスに ついての評価アンケートを無記名式にて実施した。 以下,質問項目別に回答を整理する。 (1)新クラスへの参加理由  「実践的内容への興味」が最も多く挙げられ,具 体的なストレス対処法や対人関係スキルを身につけ たいというニーズが反映されていた。その中では, グループワークや,他者とのコミュニケーションに ついての苦手意識に対処したいという動機も語られ ていた。 (2)事前予想と実際の内容との相違点  グループワークの量について,「思っていたより も多かった」との回答が複数あった。一方で,「意 外と座学が多かった」という記述もあり,やはり学 生によって受け取り方は様々であった。実践的なも のが少なかったというような指摘はなかったため, 多くの受講生が参加動機として挙げた「実践的内容」 にはある程度応えられたと考える。 (3)担当教員による説明理解度  担当教員が授業中に行った説明や解説をどの程度 理解できたかについて,<0.理解できなかった∼ 5.理解できた>の6件法で回答を求めた。その結 果,2013年度の受講生16名中15名が,十分理解でき たと思われる5または4と回答していた。なお,そ れよりやや理解度が低い3と回答した者が1名いた。 本授業では平易な解説を心がけており,概ね伝わっ たと思われるが,その場その場で受講生の理解度を 確認するなどの柔軟な対応も必要とされるだろう。 2014年度はその点を意識した対応を行ったところ, 受講生22名全員が,5または4と回答しており,改 善が奏功したと思われる。 (4)課題遂行時間と心理的負担の程度  後期定時授業においては,毎回「授業で行った作 業を通し,考えたこと,感じたことをA4版1枚程度 で自由にまとめる」という事後課題を出した。  その遂行時間について問うたところ,最も時間が 長かった者で120分,最も短かった者で20分であっ た。その他ほとんどの受講生は40分∼ 90分と回答 しており,一定時間の内省ができたものと思われる。  課題遂行にかかる心理的負担について,<0.負 担を感じなかった∼5.負担を感じた>の6件法で 回答を求めた。その結果,当項目については,何 れの年度においても個人差が大きく,負担感が少な かった者から多かった者まで様々な回答があり,負 担が少なかったと思われる0∼2の何れかに回答し た者が約半数,残りの半数は負担がやや多かったと 思われる3もしくは4と回答していた。内省作業は, まったく負担なく実施できるものではないが,効果 を実感できずに負担ばかりを感じるようでは受講意

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欲を低下させると思われる。本授業では,途中個別 面談を実施し,過度な負担が生じていないか確認し ているが,今後は負担の有無だけではなく,本人が その負担をどう捉えているのかについても聞き取る 必要があるだろう。 (5)授業の進め方について  グループワークのメンバーが毎回変わることにつ いて,ほとんどの学生から「色々な意見・価値観に 触れられて良かった」「毎回新鮮な気持ちで取り組 めた」といったような肯定的な意見が寄せられた。 一方で,個人作業,グループワークともに「時間が 足りなかった」という記述が複数あったことから, 内容を絞り,時間に余裕をもって取り組めるよう工 夫する必要性も示された。 (6)内容評価  本授業で扱ったすべてのテーマは,少なくとも一 名以上から肯定的評価を得た。その中でも特に評価 が高かったのは,夏季集中授業でのボディワーク, タイム・マネジメント,ソーシャル・スキル,春季 集中授業でのセルフ・ケア紹介,であった。ボディ ワークについては,普段体験できないことができた という満足感・充実感が多く報告された。タイム・ マネジメントについては,実際に時間の使い方の偏 りに気づき改善に活かすことができたといったよう な効果を実感する報告が複数寄せられた。ソーシャ ル・スキルについても,実践的で効果が実感しやす かったというコメントが多かった。セルフ・ケアに ついては,自分たちで授業を運営したことによる達 成感や,日常で使えるセルフ・ケアの方法をたくさ ん知れたという満足感が多く報告された。  後期定時授業前半の「自己理解」については,「自 分や他者についての理解が深まるきっかけになっ た」といった肯定的評価が挙げられた一方で,特に 2013年度の受講生から複数の低い評価が報告され た。「これまで目をそらしてきた自分について考え ることが大変だった」「時間が足りず,身になって いない気がする」といった記述にみられるように, 大変な割に効果が目に見えにくい という側面が 影響しているように思われる。即時的な効果を求め すぎることは安易であるが,自己理解を促す作業の 意義について見つめる時間をとる,自分の中での変 化を観察する機会を設けるなど,より一層の工夫が 必要とされるだろう。 4.まとめ  本稿では,2013年度より導入した「メンタルヘル ス実習」新クラスの授業内容を紹介し,2013年度お よび2014年度受講生による評価を基に,その効果と 課題について報告した。  新クラスは,具体的・実践的要素を組み込み,ま た受講生が比較的早くに効果を実感できるようにす ることで受講意欲を維持させるよう計画された。ま た,個別面談を実施するなど受講生の個別事情にも 配慮した。受講生からは,概ね良好な評価を得たこ とから,内省を中核テーマに据える従来クラスと, 実践を扱う新クラスとでそれぞれ一定の役割を担う ことができると考える。この種の授業では,授業へ の能動的な取り組みが不可欠であり,必修授業とは いえ,その中に選択肢が用意されていることは重要 であろう。 引用文献 橋本剛 (2008). 大学生のためのソーシャルスキル  サイエンス社 川原誠司・永井知子 (2012). 必修科目としてメ ンタルヘルス教育を実施することの意味(1) ―大学生の現状と課題― 宇都宮大学教育学 部教育実践総合センター紀要, 35, 85-92. 越川房子(監) (2007). ココロが軽くなるエクササ イズ 東京書籍 永井知子・川原誠司 (2012). 必修科目としてメ ンタルヘルス教育を実施することの意味(2) ―授業内容紹介と授業実践の分析― 宇都宮 大学教育学部教育実践総合センター紀要, 35, 93-100. 中村菜々子 (2010). 大学教養授業での心理教育実 践―ストレス,うつ病,援助要請スキルの知 識増進に焦点をあてて― 学校教育学研究, 22, 47-53. 中野敬子 (2011). ストレスのトリセツ(取扱説明 書)―自分でできる認知行動療法― 遠見書 房 及川恵・坂本真士 (2008). 大学生の精神的不適応 に対する予防的アプローチ―授業の場を活用 した抑うつの一次予防プログラムの改訂と効 果の検討― 京都大学高等教育研究, 14, 145-156. (2015年 3月23日 受理)

参照

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