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〈論説〉給付行政についての覚え書き

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Academic year: 2021

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(1)法科大学院論集. 第8号. 給付 行 政 につ いて の覚 え書 き. 村. 上. 則. 武. は じめ に. 私 が2002年 に拙 著r給 付 行 政 の 理 論 』*1を 公 に した 当時 は,市 場 原 理 が強 調 され,ま. さに行 政 権 は檜 舞 台 か ら撤 退 を余 儀 な く され,ア ダ ム ・ス ミス に帰 還. す る こ とが是 と され るよ うに な って い た。 どな た か は忘 れ た が,当 時,私 に対 して,「 給 付 行 政 の 研 究 」 は終 わ った で す ね と,や や 皮 肉 っ ぼ く言 わ れ た もの だ った。 しか しど う で あ ろ うか,現 在 は,逆 に な って き た と言 って は言 い過 ぎ だ が, 麻 生 政 権 の とき の リー マ ン ・シ ョ ック*2を 契 機 とす る経 済 ・財 政 の 世 界 的 危 機, さ らに は2011年3月11日. に発 生 した東 北 大 震 災 ・巨大 津 波 お よ び 引 き続 く福 島. 原 発 事 故 の あ と,ま さに政 府 ま た は行 政 権 に よ る経 済 援 助,財 政 援 助,生 活 援 助,す. な わ ち給 付 行 政 ま た は生 存 配 慮 が な け れ ば 国家 ・社 会 は一 日た り とて も. 成 り立 ち え な い状 況 で あ り,ま さに給 付 行 政 は現 代 国家 ・社 会 に お い て不 可 欠 な行 政 現 象 で あ るの で は な か ろ うか。. *1同. 書 は,公 刊 して か ら既 に今 年 で お よ そ10年 に な る。 有 信 堂 高 文 社,2002年11月 京 都 大 学 に て論 文 博 士 号 を賜 っ た(平 成17年9月27日,学 知 の よ うに,リ ー マ ン ・シ ョ ッ ク(LehmanShock)と. *2周. 位 記 番 号 は論 法 博 第159号)。 は,2008年9月15日 に,ア. 衆 国 の投 資銀 行 で あ る リー マ ン ・ブ ラ ザ ー ズ が破 綻 した 出来 事 を,こ 同時 不 況)の. 出版 。 本 書 は. メ リカ合. れ が世 界 的金 融 危 機(世. 引 き金 に な った こ とに 照 ら して 呼 ば れ る表 現 の こ と。cf.http://ja.wikipedia.org/. wiki. 1. 界.

(2) 給 付 行 政 につ い て の覚 え書 き. 第一章. 私 の最終講義(阪 大時代)に お ける給付行政 と人間の尊厳. 私 は,今 か ら約4年 前,2008年1月30日(水)に 記 念 講 義)に お い て,「給 付 行 政 研 究 の歩 み あて. 大 阪大 学 の最 終 講 義(退 官 人 間 の尊 厳 と法 治 主 義 の確 立 を求. 」 と題 して給 付 行 政 に 関 して私 な りに熱 弁 を ふ る った。 そ こで は,私 の. 給 付 行 政 の研 究 の道 程 を語 った わ け で あ るが,そ の なか で,副 題 に あ る よ う に, と くに人 間 の尊 厳 と法 治 主 義 の確 立 を強 調 した。 私 に と って,給 付 行 政 に は な るほ ど資 金 補 助 行 政 も含 ま れ るの で社 会 権 の み で給 付 行 政 を説 明 す る こ とは で き な い が,給 付 行 政 の柱 と して非 常 に重 要 な社 会 保 障行 政 に あ って は,と. りわ け弱 者 の憲 法 上 の権 利 と して の社 会 権 の保 障 が. 本 質 的 に重 要 とな る。 そ の 際,人 間 の尊 厳 が 問題 と され るの で あ るが,最 終 講 義 の とき もそ うだ が,今 な お 印 象 深 く感 じて い るの は,最 高 裁 平 成16年 判 決*3 で,生 活 保 護 法 の 関連 で,生 活 保 護 費 を原 資 と して学 資 保 険 に加 入 し,満 期 保 険金 を得 た場 合,福 岡市 が 保 護 費 を減 額 変 更 決 定 を した と き,最 高 裁 は,「子 弟 の高 等 学 校 修 学 の た あ の費 用 を蓄 え る努 力 を す る こ とは,同 法 の趣 旨 目的 に反 す る もの で は な い」 と して,同 処 分 は,生 活 保 護 法 の解 釈 適 用 を誤 った もの と い うべ き で あ る と判 示 した。 この判 決 は,事 件 の法 関係 に つ い て,生 活 保 護 法 の法 関係 を 国 お よ び個 人 が協 働 しな が ら個 人 の 自立 を促 す た あ の もの と と らえ た と解 した い。 同判 決 に よ れ ば,生 活 保 護 法 は 「世 帯 主 等 に 当該 世 帯 の家 計 の 合 理 的 な運 営 を ゆ だ ね て い る もの と解 す るの が相 当 で あ る」 と し,「高 等 学 校 に 進 学 す る こ とが 自立 の た あ に有 用 で あ る と も考 え られ る」 と され て い る と ころ. *3生. 活 保 護 費 を原 資 とす る学 資 保 険 の満 期 保 険金 が収 入 認 定 の対 象 に 当 た ら な い と さ れ た事 例 で あ る。 最 判 平 成16年3月16日. 民 集58巻3号647頁. 。 須 藤 陽子 ・法 学 教 室289号(2004年)148頁. 照。. 2. 参.

(3) 法科大学院論集. 第8号. か ら,私 は,こ の判 決 は実 質 的 に人 間 の尊 厳 を尊 重 した もの とい え る*4と 最 終 講 義 で述 べ た。 ま た私 は最 終 講 義 に お い て,ホ ー ム レス の人 が路 上 生 活 を して い るに もか か わ らず,ド イ ツ に お い て も施 設 に空 き部 屋 が 目立 つ こ とを取 り上 げ,そ の理 由 の一 つ と して,ホ ー ム レス の人 が施 設 に入 りた くて も,手 続 の面 で,身 体 上 衛 生 的 に 問題 が な い か ど うか公 の証 明書 を要 求 され た り,施 設 の な か に お け る職 員 の侮 蔑 的 な態 度 等 々,人 間 の尊 厳 を無 視 す るか の如 き実 態 が あ る こ と等 の原 因 を指 摘 した*5。 人 間 の尊 重 の原 理 は,給 付 行 政 に お い て も っ と も重 要 な指 導 原 理 の一 つ で は な か ろ うか。 この原 理 に 関 して は,給 付 行 政 の実 践 の な か で,た え ず検 証 しな け れ ば な らな い と思 う。 そ の例 と して,児 童 福 祉 法 関係 で,児 童 相 談 所 に お け る実 態 を一 つ指 摘 した い。 父 母 の こ とで子 供 達 が 同相 談 所 に よ る保 護 を うけ る とき が あ る。 しか し実 際 に子 供 達 と ヒア リ ング す る機 会 が あ った が,彼. らが述. べ るに は,施 設 内 に お け る職 員 の侮 蔑 的態 度,傲 慢 な態 度 … … を理 由 に,施 設 か ら出 た い,施 設 に も ど りた くな い,施 設 に入 るな ら,あ るい は戻 るな ら死 ん だ方 が ま しだ と言 って い た。 一 つ の例 に す ぎ な い が,こ れ を も って す べ て と断 じ るつ も りは な い が,実 態 と して子 供 達 の人 間 の尊 厳 が傷 つ け られ て い る一 つ の例 の よ うに感 じ る。 子 供 の権 利 の侵 害 の可 能 性 もあ ろ う。 子 供 達 は私 た ち 日 本 の将 来 を担 う大 事 な存 在 で あ る。 大 人 と子 供 達 を し っか り と絆 で結 び つ け な け れ ば な らな い。 一 人 一 人 の子 供 達 は そ れ ぞ れ さま ざま な境 遇 に あ る。 施 設 の な か に お い て,一 人 一 人 の人 格,尊 厳 を尊 重 す る行 政 を期 待 した い。 一 人 の子 供 の尊 厳 を尊 重 し,し っか り と大 人 社 会 に結 び付 け る こ と こそ が,相 手 を尊 重 す る気 持 ち,社 会 を尊 重 す る気 持 ち,愛 国心 を育 て る重 要 な要 素 の よ うに私 は *4こ. の 最 高 裁 判 決 は 藤 田宙 靖 先 生 が 裁 判 長 を 務 め られ て い た 。 日本 公 法 学 会 で お会 い した と き に,私. 的 な こ と が らだ が,ふ. と私 が,こ. の判 決 の趣 旨 は,人. 間 の尊 厳 を守 る こ と に な っ て い る と. 思 い ます が と先 生 に話 しか け た と こ ろ,先 生 は そ う な ん だ と言 わ れ た こ と が 印象 深 か っ た。 *5村. 上 ・前 掲 書460頁 以 下 参 照 。. 3.

(4) 給 付 行 政 につ い て の覚 え書 き. 感 じて い る。 学 校 教 育 の場 で愛 国心 を育 て るた あ に 国歌 斉 唱 を義 務 付 け る こ と も重 要 か も しれ な い が,人 間 の尊 厳 を尊 重 す る給 付 行 政 を こま あ に配 慮 し実 践 す る こ と こそ,個 人 ・社 会 ・国家 を愛 す る気 持 ち を育 て る根 源 的 な力 に な るよ うに思 う次 第 で あ る。. 第二章. (1)平. 原状回復請求権 による国家補償の充実を!. 成22年6月3日. 平 成22年6月3日. の最 高 裁 判 決 の 最 高 裁 判 決*6は. 非 常 に 意 義 深 い 判 例 で あ る。 一 口 に 言. え ば 公 定 力 と 国 家 賠 償 は 関 係 な し と さ れ た の で あ っ た 。 理 論 的 に は 民 法724条 に よ り,行. 為 の あ っ た と き か ら20年 前 に 遡 及 し て 損 害 賠 償 を 請 求 で き る の で あ. る。 し か し私 は 違 法 行 為 が さ ら に20年 よ り以 上 に 遡 る場 合 に も,救. 済 法 の灯 り. を 灯 す こ と が で き な い か 考 え る。 山 本 隆 司 教 授 の 論 文*7に. よ れ ば,多. く の 自治 体 が,地. 方 税 法 所 定 の5年. え て 遡 っ て 返 還 す る 場 合,「 寄 附 又 は 補 助 金 」(地 方 自 治 法232条 で 調 整 し て い る と の こ と で あ る*8。 一 つ の 名 案 で あ る が,私 て,損. 害 賠 償 請 求 権 や 不 当 利 得 返 還 請 求 権 の ほ か に,国. た あ に,新. た な 視 点 に 基 づ い て,国. の2)の. を超 形式. は国家補 償 と し. 家 補 償 の欠 敏 を埋 め る. 民 に 権 利 性 を 与 え る こ と が で き な い か と考. え る。 そ の 際,ド. イ ツ の 公 法 上 の 結 果 除 去 請 求 権(oeffentlich-rechtlicherFolgen-. beseitigungsanspruch)*9,あ *6最. 判 平 成22年6月3日. る い は 公 法 上 の 原 状 回 復 請 求 権 に 注 目 す る。 結 果 民 集64巻4号1010頁,平. 成23年 度 重 要 判 例 解 説 ・ジ ュ リス ト1420号56頁. (仲 野 武 志 解 説)。 こ の事 例 は,地 方 税 法 に お い て 固定 資 産 税 の過 誤 納 金 返 還 が争 われ た も の で あ る が,取. 消訴 訟 に よ る 出訴 期 間 が経 過 した 後,損. 害 賠 償 請 求 が で き るか が 争 わ れ た もの で あ る。. す な わ ち公 定 力 と損 害 賠 償 請 求 と の 関係 が 問題 と さ れ た。 *7山 本 隆 司 『判 例 か ら探 求 す る行 政 法 ・第28回 公 定 力(1)』法 学 教 室364号(2011年)111頁 *8山. 本 ・前 掲112頁 参 照 。. *9ド. イ ツ の公 法 上 の結 果 除去 請 求 権 に 関す る考 察 と して,最 近 で は,太. 4. 以下。. 田照 美 「ドイ ツ に お け る.

(5) 法科大学院論集 除 去 請 求 権 に は 時 効 は 原 則 と し て は 存 在 し な い 。 こ の 権 利 の 意 義 は,違 政 に よ り 国 民 が 損 害 を 被 っ た 場 合,権 の 法 的 根 拠 は,正. 義,法. 法 な行. 利 の 存 続 そ の も の の 原 状 回 復 を 狙 う。 そ. 治 主 義 お よ び 基 本 権 の 統 合 性(lntegritaet)等. る*10。 こ の 公 法 上 の 結 果 除 去 請 求 権 を わ が 国 に も確 立 で き れ ば,損 異 な る,す. 第8号. で あ. 害 賠 償 とは. な わ ち 無 過 失 責 任 と し て の 国 家 補 償 に よ り救 済 で き る の で は な い か. と考 え る*11。 しか も民 法 の 時 効 の 規 定 を 超 え て も原 則 請 求 で き る よ う に 思 わ れ る。 あ る い は 結 果 除 去 請 求 権 に 基 づ か な く と も,行 (Folgenbeseitigungslast)*12を. 課 し て,原. 政 の側 に結 果 除去 負担. 状 回復 の救 済 を与 え る こ と もで き る. の で は と考 え る。. (2)社 会 法 上 の 回復(実 現)請 求 権 さて,私 の研 究 テ ー マ で あ る 「給 付 行 政 」 と前 掲 平 成22年6月3日. 最高裁判. 決 が ど う関 わ るの か分 か りに くい と思 わ れ る。 さき ほ ど私 は,最 高 裁 判 決 は損 害 賠 償 と して20年 前 に遡 及 して救 済 が可 能 とす るけ れ ど も,さ らに違 法 行 為 の 発 生 時 に遡 って も結 果 除去 請 求 権 に よ る救 済 策 を提 起 した。 私 は,こ の公 法 上 の原 状 回復 請 求 権 ま た は公 法 上 の結 果 除去 請 求 権 と密 接 に 関 わ る社 会 法 上 の 回 復 ま た は実 現 請 求 権 の確 立 を と くに社 会 法(給 付 行 政 の分 野)に 公 法 上 の結 果 除去 請 求 権 の研 究 』(有 信 堂 高 文 社,2008年12月)参 照。 *10こ れ を三 段 階理 論 と よ ぶ。 太 田 ・前 掲 書61頁 以 下,297頁 以 下 参 照 。 な お,四 こ の理 論 は ドイ ツ民 法(BGB)1004条 *11こ. *12「. 田照 美 「租 税 過 誤 納 金 返 還 問題 と公 法 上 の原 状 回. 成23年)1頁. 結 果 除 去 負 担 」 と い う概 念 は,公. して,そ. 段 階 理 論 もあ る。. の 類推 を加 え る。 太 田 ・前 掲 書299頁 以 下 参 照 。. の観 点 を わ が 国 で最 初 に提 唱 した の は,太. 復 請 求 権 」 産 大 法 学45巻1号(平. お け る救 済 と. ∼30頁 で あ ろ う。. 法 上 の 原 状 回復(Wiedergutmachung)の. 独立の変形物 と. う こ うす る う ち に,結 果 除去 請 求 権 か ら解 放 さ れ た もの で あ る が,一 方 で は,あ. らゆ る. 形 式 の違 法 な行 為 で足 りる の で あ り,他 方 で は,そ の 法 効 果 は,単 な る裁 量 的誘 導(Steuerung) に制 限 さ れ るべ き もの を い う。 と も か く,行 政 庁 の誤 っ た行 為 の事 後 的 な訂 正 が給 付 主 体 の裁 量 の 中 に あ る と こ ろ で は,結 果 除去 負 担 の制 度 が,損 害 を蒙 っ た者 の,法 律 上 規 定 され て い る 出発 状 況(Ausgangslage)の. 原 状 回 復(Wiedergutmachung)に. を用 意 す る(bereithalten)」. 6頁 参 照 。 な お,結 果 除 去 負 担 につ い て,太 頁,194頁,200-202頁,220頁. 対 す る請 求 権 の た め の 十 分 な根 拠. とさ れ る。 太 田 『ドイ ツ に お け る 公法 上 の 結 果 除 去 請 求 権 の 研 究 」 田 ・前 掲 書6頁. 参照。. 5. の ほ か に,43頁,178頁,180頁,186.

(6) 給 付 行 政 につ い て の覚 え書 き. して提 案 して い る*13。す な わ ち,給 付 行 政 の分 野 に お け る社 会 法 上 の 回復 ・実 現 請 求 権 に よ る救 済 を 『給 付 行 政 の理 論 』 で訴 え て い る。 わ が 国 で,年 金 問題 で 旧社 会 保 険庁 に よ る不 祥 事 事 件 が起 こ り,国 に よ る大 量 の違 法 行 為 が露 顕 し て い る。 この救 済 は焦 眉 の課 題 で あ るが,救 済 理 論 の な か に,是 非 と も原 状 回 復 請 求 権 と して の社 会 法 上 の 回復 ・実 現 請 求 権 に よ る救 済 を強 く訴 え た い の で あ る。 こ こで私 が強 調 した い こ とは,平 成22年6月3日. の最 高 裁 判 決 は 国家 賠 償 請. 求 権 を広 く認 あ る点 で は高 く評 価 しな け れ ば な らな い が,損 害 賠 償 請 求 あ るい は 金 銭 に よ る補 償 請 求 よ り も さ ら に重 要 な 観 点 は,権 利 や 地 位 そ の もの の存 在 ・存 立 の保 障 で は な か ろ うか*14。こ の意 味 で の原 状 回復 請 求 権 の確 立,原 状 回復 を求 あ る訴 訟 を,広 い意 味 で の 国家 補 償 の な か に確 立 させ る必 要 が あ るの で は な い か。 幸 い平 成16年 に行 政 事 件 訴 訟 法 が大 改 正 され,第4条. に 「公 法 上. の法 律 関係 に 関 す る確 認 の訴 え」 が 明文 で定 あ られ た。 これ を活 用 して,権 利 そ の もの の存 在 の確 認,あ. るい は給 付 訴 訟 も提 起 で き るよ うに考 察 して ゆ くべ. き よ うに思 わ れ る。. *13村. 上 ・前 掲 書360頁 以 下 を 参 照 して い た だ け れ ば 幸 い で あ る。. *14従. 来,ド. イ ツ で も,「 受 忍 せ よ,そ. して 補 償 を求 め よ」 とい う法 格 言 が あ った が,そ. ツ で は 判 例 ・学 説 上 克 服 さ れ て き て い る。 まだ 日本 は,「 受 忍 せ よ,そ 用 さ れ て い る よ う に思 う。 す な わ ち,補 償 を求 め よ の う ち,よ に な っ て き た。 しか しさ らに今 後,権. れ は ドイ. して 補 償 を 求 め よ」 が 適. う や く損 害 賠 償 が認 め られ る よ う. 利 そ の もの の存 在 ・存 立 を実 現 させ て い く方 向 へ 向 か わ な. け れ ば な らな い よ う に思 う。 な お,「 受 忍 せ よ,そ. して 補 償 を 求 め よ(duldeundliquidiere)」. る い は,「 受 忍 せ よ,し か して 清 算 せ よ(duldeundliquidiere)」. あ. とい う法 格言 に つ い て,高 木 光. 「公 定 力 と 国家 賠 償 請 求 」 記 念 論 文 集 刊 行 委 員 会 編 『行 政 と国 民 の権 利 ・水 野 武 夫 先 生 古 稀 記 念 論 文 集 」(法 律 文 化 社,2011年12月)5頁,15頁(注10)参. 照,太. 93頁,120頁,236頁,283頁,289頁,290頁,291頁,310頁. 参 照,村. 6. 田 ・前 掲 書7頁,35頁,36頁, 上 ・前 掲 書374頁 参 照 。.

(7) 法科大学院論集. 第 三章. 第8号. 『給 付 行 政 の 理 論 』 の 研 究 の 意 義 につ い て. (1)隣 接 領 域 の研 究 の重 要 性 拙 著 『給 付 行 政 の理 論 』 で は,一 般 的 な法 解 釈 学 の 問題 に終 始 して い な い。 さ らに財 政 の 問題 を も扱 った*15。 ドイ ツ に お い て は基 本 法(憲 法)に 政 の安 定 が義 務 づ け られ て い る*16。わが 国 で は,国. お い て財. と地 方 公 共 団体 を合 わ せ る. と長 期 累積 債 務(国 債 や地 方 債 な ど)は1,000兆 円 に達 す る とい う。 先 進 国最 大 の債 務 国家 で あ る。 ギ リ シ ャの二 の舞 が危 惧 され て い る。 しか しEU最. 大 の盟. 主 国 ドイ ツ は,財 政 の安 定 化 策 を ギ リ シ ャに も同意 させ,最 大 の危 機 を克 服 し よ う と して い る。 私 は,こ の よ うな財 政 の 問題 を も 『給 付 行 政 の理 論 』 で考 察 した。 そ の狙 い は,単 に与 え る行 政 と して の観 点 で給 付 行 政 を分 析 す るの で は な く,全 国家 の財 政 の安 定 の な か で の給 付 行 政 の展 開 を考 え た次 第 で あ る。 さ ら に,『 給 付 行 政 の理 論 』 に お い て,財 政 の監 視 ・評 価 の憲 法 上 の 機 関 と して の会 計 検 査 院 の意 義 を 訴 え た*17。法 的 に は さ らに経 済 性 ・効 率 性 ・有 効 性 の研 究 を 目指 した。 これ らの財 政 の安 定 を あ ざす給 付 行 政 の理 論 は,伝 統 的 な法 解 釈 と して の行 政 法 学 か らは ほ とん ど無 視 され るで あ ろ うが,法 解 釈 学 と して も給 付 行 政 の理 論 に お い て は け っ して無 視 す べ き で な い こ とを訴 え て い る。 た とえ ば,経 済 性 等 の基 準 を法 的 な基 準 に た か あ る こ とを あ ざ して い るの で あ る。 私 は,給 付 行 政 の研 究 は,単 に伝 統 的 な法 教 義 学 と して の行 政 法 学 か らは十 分 に解 明 で き な い の で は な い か と思 って い る。 財 政,社 会,経 済,政 治 学 等 々 の 隣接 の諸 科 学 と連 携 しな け れ ば な らな い と確 信 して い る。 この点,ド *15村. 上 ・前 掲 書 第 二 部 第 二 章. *16基. 本 法109条2項. は,「 連 邦 お よ び州 は,そ. の予 算 運 営 に お い て,全 経 済 的均 衡 を考 慮 しな け れ. ば な らな い」 と規 定 して い る。 村 上 ・前 掲 書249頁 以 下 参 照 。 *17同. イツの. 書 第 四部 第 一 章. 7.

(8) 給 付 行 政 につ い て の覚 え書 き. ク リス チ ャ ン ・ブ ム ケ教 授 が,行 政 法 学 と して も,行 政 法 学 が科 学 とい え るた あ には隣 接諸 科学 の成 果 を学 ぶ べ きで あ るとの趣 旨の論文 を公 に されて い る*18こ とを大 い に 参考 に した い。. (2)法. 関係 論. 給 付 行 政 を研 究 す るな か で,私 は ドイ ツ の 「法 関係 論 」 に大 き な興 味 を感 じ た。 と りわ け 「法 関係 論 」 が,侵 害 行 政 と給 付 行 政 との違 い に つ い て,侵 害 行 政 は決 定 処 分 の 瞬 間 を と らえ る との趣 旨で局 所 的,し か し給 付 行 政 は社 会 保 障 の よ う に,瞬 間 で終 了 す る の で は な く,継 続 的 な 関係 で あ る こ と,そ れ か ら, 侵 害 行 政 は租 税 行 政 の よ うに,取. る側 と取 られ る側 との対 抗 関係 で あ るの に た. い して,給 付 行 政 の場 合 に は,給 付 行 政 側 と給 付 を受 け る国民 との 関係 は,対 立 関係 で は な く,一 つ の公 益 を あ ざ して両 当事 者 が協 力 す る関係 に あ る との結 論 か ら大 き な感 銘 を受 け た。 もち ろ ん,今. 日の協 働 国家,官 民 協 働. 公私協働. の 理 念 が 強 調 さ れ る時 代 に は,す べ て の 行 政 が 協 働 とい う こ と に な って い く が,そ れ に して も,租 税 行 政 に お い て,取. る行 政 側 と納 税 者 が い つ も仲 良 く と. い うわ け に は い か な い で あ ろ う し,法 関係 と して は あ き らか に対 立 関係 に あ る け れ ど も,社 会 保 障 の よ うな給 付 行 政 に お い て は,対 抗 関係 とい うわ け で は な く,た とえ ば生 活 保 護 法 の法 目的 の確 立,個 人 の 自立 を あ ざ して,両 当事 者 が 協 力 す る とい うの は,侵 害 行 政 や,あ. るい は契 約 と も違 った意 味 で,給 付 側 と. 受 給 者 とが継 続 的 に協 力 関係 に立 た な け れ ば な らな い とい え る と思 う。 そ の意. *18ChiristianBumke,DieEntwicklungderverwaltungsrechtswissenschaftlichenMethodikin derBundesrepublikDeutschland,in:EberhardSchmidt-Assmann/WolfgangHoffmannRiem(Hrsg.),MethodenderVerwaltungsrechtswissenschaftSchriftenzurReformdes Verwaltungsrechts,Nomos,2004,SS.73ff.な ロ ッパ 化 に 伴 う ドイ ツ 行 政 法 学 の 改 革. お,こ. の 興 味 深 い 論 文 に つ い て,太. ク リ ス チ ャ ン ・ブ ム ケ 教 授 の. 田照 美. の 方 法 論 の 展 開 』(DieEntwicklungderverwaltungsrechtswissenschaftlichenMethodikin derBundesrepublikDeutschland,SS.73ff.)の 196頁 ∼236頁. 紹 介 」(大. が参 考 に な る。. 8. 「ヨ ー. 『 ドイ ツ に お け る 行 政 法 学. 阪 国 際 大 学 研 究 叢 書No.14,2006年).

(9) 法科大学院論集. 第8号. 味 で,さ き ほ どの生 活 保 護 法 に お け る学 資 保 険加 入 事 件 で,生 活 保 護 は継 続 的 に個 人 の 自立 を あ ざ して,行 政 側 も受 給 者 の側 も,協 力 しな け れ ば な らな い と い え るの で あ ろ う。 そ れ ゆ え,学 資 保 険加 入 を も って,生 活 保 護 法 違 反 と して 減 額 決 定 を行 うの は法 律 の趣 旨に違 反 す るば か りで な く,協 働 とい う給 付 行 政 の響 導 理 念 に も反 す る と思 わ れ る。. (3)「 基 本 権 論 」 の 重 要 性 さ て 私 は,フ 月),す. ン ボ ル ト財 団 の 奨 学 生 と し て2度. な わ ちWiederaufnahmeで. の も と で3ケ. 目 の 留 学(2000年7月. ∼9. バ ズ ー ラ 教 授(Prof.Dr.PeterBadura). 月 間 ミ ュ ン ヘ ン大 学 で 短 期 留 学 し た 。 こ の と き に は,明. け て も暮. れ て も ア レ ク シ ー 教 授 の 著 書(RobertAlexy,TheoriederGrundrechte,2. Aufl.,1994)に. 読 み ふ け っ た 。 フ ラ ン ク フ ル ト空 港 に 到 着 し て,な. ラ イ ブ ル グ お よ び ミ ュ ン ヘ ン を 訪 れ た と き も,列. つ か しい フ. 車 の な か で も同書 に ず っ と 目. を 奪 わ れ て い た 。 そ の 研 究 の 成 果 と し て,『 給 付 行 政 の 理 論 』に お け る第3部 二章. 「ア レ ク シ ー の 社 会 権 の 理 論 」 を 著 し た 。 そ こ で は,ド. と ん ど が 自 由 権 か ら構 成 さ れ て い る が,そ 権 利)を. 第. イ ツ の基 本 法 は ほ. こ か ら一 定 の 請 求 権(給. 付 を受 け る. 導 こ う とす るア レ ク シー の法 解 釈 の努 力 に大 き な感 銘 を受 け た。. (4)「 中 間 行 政 法 」 の 提 唱 と ころ で私 は,給 付 行 政 を 中 間行 政 法 の な か に位 置 づ け て い る。 中 間行 政 法 とい うの は,前 述 の法 関係 論 に も関 わ るが,私 の 編 纂 した 『応 用 行 政 法 』*19で 問題 提 起 した概 念 で あ る。 す な わ ち,伝 統 的 な行 政 法 総 論 で は あ ま りに も一 般 的 で,し か し伝 統 的 な行 政 法 各 論 で は具 体 的 す ぎ て,ど ち ら も実 際 に は あ る種 の行 政 領 域 の紛 争 解 決 に は ふ さわ し くな い よ うな 問題 が起 こ る。 そ うい った と. *19初. 版 は1995年(平. 成7年)6月22日,第2版. は,2001年(平. 9. 成13年)10月25日. で あ る。.

(10) 給 付 行 政 につ い て の覚 え書 き. き に,私 は い わ ゆ る中 間行 政 法 の範 疇 を つ く り,そ こに お い て樹 立 され る法 原 則 を適 用 して有 意 義 な解 決 を あ ざす もの で あ る。 そ して そ の意 味 で の 中間 行 政 法 の な か に,私 は給 付 行 政,海. の管 理 行 政 法,. 災 害 行 政 法 お よ び監 察 行 政 法 等 の領 域 を掲 げ た。 将 来 は,中 間行 政 法 の な か か ら,あ る もの は行 政 法 総 論 へ,あ. る もの は各 論 に移 る こ と も予 想 され う る と し. た。 この よ う に 中 間行 政 法 は,い わ ば フ ァ ジ ー 的 要 素 も含 む と して捉 え て い た。 しか し要 す るに,中 間行 政 法 で打 ち立 て られ た法 原 則 を応 用 して,実 際 の 行 政 分 野 で生 起 して い る法 律 問題 の解 決 を企 図 す る もの で あ った。 この意 味 で は,学 生 に行 政 の意 義 を説 明 す るば か りで な く,公 務 員 に対 して も,実 際 の行 政 の責 任 と課 題 を説 明 す る役 割 も意 識 して い た次 第 で あ る*20。 当 時 は,ま だ行 政 事 件 訴 訟 法 は改 正 され て お らず,し た が って義 務 付 け訴 訟 や差 止 訴 訟 も法 定 化 され て お らず,公 法 上 の法 律 関係 に 関 す る確 認 の訴 え もま だ 明文 化 され て い な か った とい う法 状 況 の も とで の発 想 で あ った こ と も留 意 し て い た だ き た い。 そ の後,行 政 事 件 訴 訟 法 が大 改 正 され,そ の 当 時 と状 況 が変 わ って き た。 これ らの 中 間行 政 法 が な く と も,義 務 付 け訴 訟 や差 止 訴 訟,公 法 上 の法 律 関係 に 関 す る確 認 の訴 え を利 用 す る こ と も救 済 手 段 とな り う る。 け れ ど も,た とえ ば給 付 行 政 論 を と って み て も,そ こで確 立 され て い る法 原 則 に よ れ ば,法 関係 を 明確 に して権 利 ・義 務 関係 を 明 らか に す る こ とを め ざ し て い る。 す な わ ち,給 付 を 受 け る権 利 性 を確 立 しよ う と して い る。 した が っ て,実 体 法 上 の地 位 を確 立 しよ う とす る こ と も努 力 して い るの で,現 行 法 の公 法 上 の法 律 関係 に 関 す る確 認 訴 訟 を い っそ う利 用 しや す くす る こ と も可 能 な の で あ る。 もち ろ ん給 付 行 政 の な か に お い て処 分 性 を構 成 で き れ ば取 消 訴 訟 ば か りで な く,義 務 付 け訴 訟 や差 止 訴 訟 も可 能 とな って く るの で あ る。 要 す るに行 政 事 件 訴 訟 法 が大 改 正 され た が,そ れ に よ り中 間行 政 法 が不 要 に な った わ け で. *20ロ. ー ス ク ー ル に お け る教 育 で は な か な か達 成 で き な い要 素 が こ こ に含 ま れ て い る。. 10.

(11) 法科大学院論集 第8号 は な く,一 層 意 義 深 い もの に な って き た とい って い い と思 わ れ る。 さ らに,中 間行 政 法 の うち,監 察 行 政 法 は,そ の後 ま す ま す監 視 と評 価 の 時 代 を迎 え て お り,応 用 が一 層 き くよ うに な って き て い る。 ま た,海 の管 理 行 政 法 も,地 方 自治 法 の改 正 に よ り,機 関委 任 事 務 が廃 止 され,多. くの もの が 自治. 事 務 又 は法 定 受 託 事 務 化 され,地 方 公 共 団体 の事 務 と され て き た の で あ り,中 間行 政 法 と して の海 の管 理 行 政 法 の意 義 も大 き な もの に な って き て い る とい っ て よ い。 そ の意 味 で,『 応 用 行 政 法 』 の 海 の管 理 行 政 法 で と りあ げ た 「広 島 の 海 の 管 理 に 関 す る条 例 」*21は今 日の 法 状 況 の さ き が け と い って よ い と思 わ れ る。 ま た災 害 行 政 法 は,ま. さ し く昨年2011年3月11日. 津 波 ・福 島原 発 事 故 が証 明 して い るよ うに,さ. に発 生 した東 北 大 震 災 ・大. らに解 明 され るべ き行 政 領 域 と. な って き て い る と感 じ る。. 第四章. 給付行政の法形式の問題 と最近の事例. 私 の処 女 論 孜 は,「 給 付 行 政 とそ の 法 形 式 」*22であ った。 そ の意 味 で,京 都 府 と大 山 崎 町 との 間 の水 道 の利 用 を あ ぐ る最 近 の訴 訟 で,京 都 府 の基 本 水 量 の決 定,通 知 等 の処 分 性 が争 わ れ た事 件 が 興 味 深 い*23。この事 件 で は,大 山 崎 町 に よ り基 本 水 量 決 定 の処 分 取 消,不. *21『. 応 用 行 政 法(第2版)」46頁. 当利 得 返 還 請 求 が裁 判 所 に な され た。. 参 照 。 当時 は,海. の管 理 を地 方 公 共 団体 が行 う と して も機 関委 任. 事 務 と して の も の で あ っ て,条 例 で は な く規 則 で制 定 して い た。 今 日 で は ほ とん ど条 例 化 さ れ て き て い る。 *22(京 都 大 学)法. 学 論 叢89巻5号(1971年)44頁. 以 下 。 な お この 論 説 は,村. 上 『給 付 行 政 の 理 論 」. 2頁 以 下 所 収 。 *23第. 一 審 京 都 地 裁 判 決(平. の判 決 は,イ. 成22年3月18日),控. 訴 審 大 阪 高 裁 判 決(平. ンタ ー ネ ッ トで参 照 で き る。. 11. 成22年9月30日)。. これら.

(12) 給 付 行 政 につ い て の覚 え書 き. (1)事 件 の あ らま し す な わ ち,原 告(控 訴 人,大 知 事,以 下Y)に. 山 崎 町,以 下X)が,被. 告(被 控 訴 人,京 都 府. お いて 条 例*24に 定 め る協 議 を経 る こ とな く,2度. にわ た って,. Xの 申込 水 量 を超 え る基 本 水 量 決 定 を行 った と主 張 し,こ れ らが違 法 な行 政 処 分 で あ る と して,処 分 の取 消 しを求 あ,選 択 的 に,本 件 基 本 水 量 決 定 の手 続 き が契 約 で あ り,意 思 の合 致 がXの 申込 み の範 囲 に 限 られ る と主 張 し,こ れ を超 え る部 分 の支 払 に つ い て,不 当利 得 に基 づ き支 払 額 の返 還 を求 あ た と ころ,京 都 地 裁 は,一 般 に処 分 性 が認 あ られ る行 政 活 動 とは,行 政 庁 に よ る公 権 力 の行 使 と して行 わ れ る国民 の権 利 義 務 の範 囲 を形 成 し又 は そ の範 囲 を具 体 的 に確 定 す る行 為 を い う と ころ,本 件 決 定 は,地 方 公 共 団体 で あ るYが 同 じ く地 方 公 共 団体 で あ るXに 対 して した もの で あ る こ と等 に か ん が み れ ば,本 件 決 定 は処 分 性 が認 あ られ る行 政 活 動 とは い え ず,む. しろ,公 法 上 の法 律 関係 に基 づ く法 律. 行 為 と解 す るの が相 当 で あ る と して,却 下 し,ま た,不 当利 得 返 還 請 求 に対 し て は,作 成 され た本 件 協 定 書 は,給 水 に つ い て のXの 申込 及 びYの 決 定 の基 本 とな るべ き もの で あ り,本 件 協 定 書 の締 結 はXとYと. の 間 の基 本 水 量 に 関す る. 公 法 上 の給 水 契 約 の予 約 で あ る と認 あ られ る と し,「法 律 上 原 因 が な い」 との請 求 を棄 却 した。 これ に対 して,大 阪高 裁 は,Xが,Yに な く,Xの. お い て条 例 に定 あ る協 議 を経 る こ と. 申込 水 量 を超 え る基 本 水 量 決 定 を行 った と主 張 し,こ れ らが違 法 な. 行 政 処 分 で あ る と して,そ の取 消 しを求 あ,選 択 的 に,本 件 基 本 水 量 決 定 の手. *24京. 都 府 営 水 道 の供 給 料 金 につ い て は,本 件 条 例(京. 和62年3月17日. 京 都 府 条 例 第9号,た. 都 府 営 水 道 の供 給 料 金 等 に関 す る条 例,昭. だ し,そ の後 改 正 さ れ た もの)に. よ っ て,次. の と お り規 定. さ れ て い る。 第2条. 水 道 用 水 の供 給 を受 け よ う とす る市 町 は,毎 年,年. 間(毎 年4月1日. か ら翌 年3月31. 日ま で の 間 を い う。 以 下 同 じ。)に お け る1日 当 た りの 最 大 の 受 水 量 を定 めて,府 の水 道 事 業 の管 理 者 の権 限 を行 う知 事(以 2知. 下 「知 事 」 と い う。)に 申 し込 ま な け れ ば な らな い 。. 事 は,前 項 の 申込 み を受 け た と き は,当 該 市 町 と協 議 の上,年. 最 大 の給 水 量(基. 本 水 量)を. 決 定 し,通 知 す る。. 12. 間 に お け る1日. 当 た りの.

(13) 法科大学院論集. 第8号. 続 き が契 約 で あ り,意 思 の合 致 がXの 申込 み の範 囲 に 限 られ る と主 張 し,こ れ を 超 え る 部 分 の支 払 につ い て,不. 当利 得 に基 づ き支 払 額 の返 還 を求 あ た と こ. ろ,原 判 決 が,一 部 を却 下 し,一 部 を棄 却 した た あ,Xが. 控 訴 した事 案 に お い. て,基 本 水 量 決 定 に処 分 性 を認 あ る と と もに,本 件 条 例2条2項. の文 言 上,Y. の基 本 水 量 決 定 権 限 が,受 水 者 の 申込 み に係 る範 囲 に 限定 され て い る と解 す る こ とは で き ず,本 件 各 決 定 が権 限 を逸 脱 す る もの で あ る とい うXの 主 張 は理 由 が な い と し,控 訴 を棄 却 した。. (2)水 道 の利 用 関係 に つ い て 水 道 の利 用 関係 は,非 権 力 関係 で あ るか ら,一 般 的 に は契 約 に よ る利 用 関係 で あ る と い うの が 普 通 の解 釈 で あ ろ う。 と りわ け 近 年 で は,高 根 町(山 梨 県) 簡 易 水 道 事 業 給 水 条 例 無 効 確 認 等 請 求 訴 訟 最 高 裁 判 決*25で 明 らか な よ うに,基 本 的 に は水 道 利 用 関係 は契 約 関係 で あ る とい うの が常 識 的 で あ ろ う。 しか し給 付 行 政 の法 関係 に つ い て は,周 知 の よ うに,わ が 国 で は形 式 的行 政 行 為 論 ま た は形 式 的 処 分 論 が説 か れ,他 方,ド. イ ツでは有名 な二段 階論が あ. る*26。 わ が 国 の形 式 的行 政 行 為 論 は,か つ て雄 川 一 郎 博 士 が理 論 化 され た概 念 で あ る。 す な わ ち,本 来 的 に は非 権 力 行 政 に お い て は契 約 で説 明 で き るが,さ ま ざ ま な法 政 策 に よ り,た とえ ば,画 一 的 ・公 平 な法 律 関係 の処 理 とい った 目的 に よ り政 策 的 に処 分 性 が導 入 され るの で あ る。 た とえ ば生 活 保 護 の支 給 決 定 等 が あ げ られ る。 あ るい は処 分 性 を賦 与 す る こ とに よ り抗 告 訴 訟 で訴 訟 を可 能 に さ. *25最. 判 平 成18年7月14日. 参照。 *26形 式 的行 政 行 為 論(形. 民 集60巻6号2369頁. 式 的処 分 論)や. 。 黒 川 哲 志 〈重 要 判 例 解 説 〉 ジ ュ リス ト1332号47頁. ドイ ツ の二 段 階 論 につ い て,村 上 ・前 掲 書54頁 以 下 を参. 照 して い た だ け れ ば幸 い で あ る。 と くに雄 川 一 郎 博 士 の形 式 的行 政 行 為 論 につ い て は,雄 川 一 郎 「現 代 に お け る 行 政 と法 」 「岩 波 講 座 ・現 代 法 四 巻 参照。. 13. 現 代 の 行 政 』(岩 波 書 店,1966年)所. 収18頁.

(14) 給 付 行 政 につ い て の覚 え書 き. せ る とい う政 策 目標 もあ る。 そ の例 と して は,著 名 な事 例 で は釧 路 市 工 場 誘 致 条 例 事 件 札 幌高 裁 判 決*27が あ げ られ る。 ドイ ツ で は,二 段 階論 が有 名 で あ る。 この理 論 は 出発 と して は,資 金 補 助 行 政 と して の融 資 が取 り上 げ られ る。 す な わ ち,資 金 を貸 し付 け るか ど うか の決 定 は,一 段 階 目の行 政 行 為 に よ り高 権 的 に行 わ れ るが,内 容 は二 段 階 目の契 約 に よ り行 わ れ る とみ るの で あ る。 な お,ド イ ツ で は補 助 金,す の な い場 合 に は,オ. な わ ち返 還 義 務. ッ トー ・マ イ ヤ ー以 来 ず っ と,高 権 的 な行 政 行 為 で考 え ら. れ て き て い る と ころ で あ る。 した が って,わ が 国 で も ドイ ツ で も,水 道 の利 用 関係 の な か に あ って,本 来 は非 権 力 関係 す な わ ち契 約 利 用 関係 と と らえ る こ とが で き る法 律 関係 に あ って も,さ ま ざま な法 政 策 的観 点 に よ り処 分 性 が導 入 され る場 合 もで て く る こ とが 予 想 され る と ころ で あ る。. (3)原 審 京 都 地 裁 の考 え方 紹 介 して い る事 例 は や や複 雑 な訴 訟 で あ る。 内容 的 に は,前 述 の よ うに,基 本 水 量 決 定 処 分 取 消 請 求 事 件(第1事. 件)と 不 当利 得 返 還 請 求 事 件(第2事. 件). に分 か れ る。 ま ず,第1事. 件 で,原 告Xは,京. 都 府 の行 った基 本 水 量 決 定 に処 分 性 あ り と. して,そ の基 本 水 量 決 定 処 分 取 消 請 求 を行 った が,京 都 地 裁 は,一 般 に処 分 性 が認 あ られ る行 政 活 動 とは,行 政 庁 に よ る公 権 力 の行 使 と して行 わ れ る国民 の 権 利 義 務 の範 囲 を 形 成 し又 は そ の範 囲 を 具 体 的 に確 定 す る行 為 を い う と こ ろ, 本 件 決 定 は,地 方 公 共 団体 で あ るYが 同 じ く地 方 公 共 団体 で あ るXに 対 して し た もの で あ る こ と,「 年 間 に お け る1日 当 た りの 最 大 の給 水 量 」 の 決 定 は,Y が一 方 的 に行 うの で は な く,市 町 か らの 申込 を受 け て協 議 の上 で行 う もの で あ る こ と,基 本 料 金 の徴 収 に つ い て,滞 納 処 分 の例 に よ る こ とが で き る との規 定 *27札. 幌高 判 昭和44年4月17日. 判 例 時 報554号15頁. 14. 以下。.

(15) 法科大学院論集. 第8号. は な い こ と,基 本 水 量 の 決 定 は,条 例 の 名 称 に も趣 旨 に も何 らの規 定 が な く, む しろ(給 水 の 申込 み等)と. の見 出 しの下 に規 定 され て い るに す ぎ ず,条 例 自. 体 も基 本 水 量 の決 定 が行 政 処 分 で あ る こ とを前 提 と して い る とは い い難 い こ と が認 あ られ,以 上 の点 に か ん が み れ ば,本 件 決 定 は処 分 性 が認 あ られ る行 政 活 動 とは い え ず,む. しろ,行 政 行 為 とは異 な る公 法 上 の法 律 関係 に基 づ く法 律 行. 為 と解 す るの が相 当 で あ る と して,第1事. 件 に お い て は これ を却 下 して い る。. 次 に第2事 件 に お い て,同 地 裁 は,Xは,毎. 年,本 件 協 定 書*28に 基 づ い た基. 本 水 量7,300立 方 メ ー トル/日 の 給 水 申込 を し,Yは,同. 申込 水 量 で給 水 す る と. の決 定 を して い る こ とが認 あ られ,本 件 協 定 書 の締 結 に至 る経 緯 は,YのXに 対 す る一 方 的 な押 し付 け とい った もの で は な く,む しろ,Xの. 要 望 等 を ふ まえ,. Xの 意 向 を十 分 に尊 重 しな が らな され た もの で あ る とい う こ とが で き る し,こ う した経 緯 を経 て作 成 され た本 件 協 定 書 は,給 水 に つ い て のXの 申込 及 びYの 決 定 の基 本 とな るべ き もの で あ り,本 件 協 定 書 の締 結 はXとYと. の 間 の基 本 水. 量 に 関 す る公 法 上 の給 水 契 約 の予 約 で あ る と認 あ られ る と し,そ して,こ の よ うな予 約 の下 で,本 件 協 定 書 と異 な る申込 及 び決 定 を す るに は,XとYの の上,こ. 協議. れ を変 更 す る との合 意 に至 る こ とが必 要 で あ る とい うべ き で あ り,協. 議 に基 づ く変 更 が な され な い以 上,本 件 協 定 書 に基 づ く予 約 の効 果 が存 続 す る もの と解 す るの が相 当 で あ る と して,協 議 に お け る同意 が な い ゆ え 「法 律 上 原 因 が な い」 と前 提 して不 当利 得 返 還 請 求 を行 ったXの 請 求 を棄 却 した。. *28被. 控 訴 人 知 事 と,控 訴 人 町長 と の 間 で は,平 成10年3月30日. 道 乙 訓 浄 水 場(仮. 称)に. の記 名 及 び被 控 訴 人 知 事 印 が,乙 欄 に 「α1町 長B」 「被 控 訴 人 知 事(被. 付 け で,次. 係 る施 設 整 備 等 に 関 す る協 定 書」 が 作 成 され,甲. 称)に. 係 る施 設 整 備,水. 欄 に 「京 都 府 知 事A」. の記 名 及 び控 訴 人 町長 印 が あ る。. 控 訴 人 の 水 道 事 業 の 管 理 者 の 権 限 を 行 う知 事,甲)と. 京 都 府 営 水 道 乙訓 浄 水 場(仮. の 内容 の 「京 都 府 営 水. 控 訴 人 町 長(乙)は,. 配 分 等 に関 して,次. の と お り協 定 を締 結 す. る。 (配 分 水 量) 第3条. 被 控 訴 人 知 事 が,供 用 開始 に伴 い控 訴 人 町 長 に配 分 す る1日. 方 メ ー トル と し,控 訴 人 町長 は こ れ を 引受 け る もの とす る。」. 15. 当 た りの水 量 は,7,300立.

(16) 給 付 行 政 につ い て の覚 え書 き. (4)控 訴 審 大 阪高 裁 の考 え方 上 記 の よ う に,京 都 地 裁 は,Yの. 行 った 基 本 水 量 の 決 定 に処 分 性 を 認 あ な. か った が,大 阪高 裁 は 明 瞭 に そ の処 分 性 を認 あ た。 す な わ ち,事 件 を ま とあ る と,第1事 京 市,α1町)の. 件 は,京 都 府 乙訓 地 域(向. 地 方 公 共 団体 で あ るXが,京. る条 例(以 下 「本 件 条 例 」 とい う。)2条1項. 日市,長. 岡. 都 府 営 水 道 の供 給 料 金 等 に 関す に基 づ き,「 年 間 に お け る1日 当. た りの最 大 の受 水 量 」 を3,407立 方 メー トル と定 め て 申 込 み を した の に対 し,Y が,Xに. 対 す る 「年 間 に お け る1日 当 た りの最 大 の 給 水 量 」(本 件 条 例 上 「基. 本 水 量 」 と定 義 され る。 以 下 「基 本 水 量 」 とい う。)を いず れ も7,300立 方 メ ー トル とす る基 本 水 量 決 定 を行 った こ とが,本 件 条 例2条2項. で定 あ られ た権 限. を逸 脱 あ るい は裁 量 権 を逸 脱 し,又 は 同条 で定 あ る手 続 を経 な い で行 わ れ た違 法 な行 政 処 分 で あ る と主 張 して,Yに 事 件 訴 訟 法3条2項)で 第2事. 件 は,Yの. 対 し,処 分 の取 消 しを求 あ た訴 訟(行 政. あ る。 前 記 各 基 本 水 量 決 定 を受 け てYに 基 本 料 金 を 納 付 したX. が,各 基 本 水 量 決 定 の 手 続 はXとYと よ っ て 契 約 が 成 立 した 部 分 は,Xの メ ー トル/日. に限 られ,YがXに. の 契 約 で あ るが,双 方 の 意 思 の 合 致 に 申 込 み の 範 囲 で あ る基 本 水 量3,407立 方. 通 知 した基 本 水 量7,300立 方 メ ー トル/日. う ち3,407立 方 メ ー トル を超 え る部 分(3,893立 に は 法 律 上 の 原 因 が な い と主 張 して,不 づ き,1日. 方 メ ー トル/日)に. 当利 得 返 還 請 求 権(民. の. 対 す る支 払 法703条)に. 基. 当 た りの 最 大 の給 水 量3,407立 方 メ ー トル を超 え る部 分 に 相 当 す る. 2億5,470万7,311円 並 び に これ に対 す る 「遅 延 損 害 金 」 な い し民 法704条 前 段 の 利 息 の支 払 を求 あ た事 案 で あ る。 な お,Xは,原. 審 に お い て,第1事. 件 と第2事 件 の各 請 求 は選 択 的併 合(順. 位 を つ け な い)で あ る と し,控 訴 審 に お い て,Yの 性 質 に つ い て は,第2事. 基 本 水 量 決 定 に 関す る法 的. 件 に係 る主 張 が主 た る主 張 で あ るが,第1事. 主 張 も維 持 す る と述 べ て い た。 16. 件 に係 る.

(17) 法科大学院論集. 第8号. さて大 阪高 裁 に よ れ ば,公 共 事 業(上 水 道)の 利 用 に関 す る行 政 契 約 と して, 法 律 や条 例 に よ り一 部 を行 政 処 分 の形 式 を採 って規 律 す る こ とが可 能 な もの と 解 され,し か も,京 都 府 営 水 道 は,地 方 公 共 団体 が住 民 の福 祉 を増 進 す る 目的 を も って そ の利 用 に供 す る た あ に設 け た公 の 施 設(地 方 自治 法244条)で. ある. か ら,そ の料 金 は,公 の施 設 の管 理 に 関 す る事 項 と して,条 例 で定 あ な け れ ば な らな い(同 法244条 の2第1項),そ. の意 味 で,本 件 条 例 は,公 共 事 業 の利 用. に 関 す る契 約 に つ い て,公 益 上 の見 地 か ら,契 約 自由 の原 則 を修 正 す る性 格 を 有 す る もの と解 され て い る。 ま た 同高 裁 に よ れ ば,処 分 性 を認 あ る根 拠 と して以 下 の こ とが指 摘 され て い る。 す な わ ち,ま ず,本 件 条 例2条2項. は,「年 間 に お け る1日 当 た りの最 大 の. 給 水 量 」(基 本 水 量)に つ いて,当 該 市 町 と 「協 議 の 上 」,Yが. 「決 定 し,通 知. す る」 と規 定 され て お り,文 言 上,協 議 に お い て受 水 市 町 とYと の合 意 が で き な い とき は,Yが,協. 議 を踏 ま え て,一 方 的 に基 本 水 量 を決 定 す る こ とが で き. る構 造 とな って い る と分 析 され る。 ま た,基 本 水 量 とは,Yが. 京 都 府 営 水 道 事 業 を始 あ るに 当 た り投 資 した水 源. 開発 費 や施 設 整 備 費 等 の 固定 費 を適 正 に供 給 料 金 に反 映 させ る手 段 で あ る基 本 料 金 を定 あ る基 準 で あ る と ころ,京 都 府 営 水 道 事 業 は,地 方 公 営 企 業 法 の適 用 を受 け る企 業 で あ り,常 に企 業 の経 済 性 を発 揮 す る と と もに,公 共 の福 祉 を増 進 す るよ うに運 営 され な け れ ば な らず(地 方 公 営 企 業 法3条,京 の設 置 等 に 関 す る条 例2条1項),そ. 都府公営企業. の 料 金 は,公 正 妥 当 な もの で な け れ ば な ら. ず,か つ能 率 的 な経 営 の下 に お け る適 正 な原 価 を基 礎 と し,地 方 公 営 企 業 の健 全 な運 営 を確 保 す る こ とが で き る もの で な け れ ば な らな い(同 法21条2項)の で あ り,そ して,そ こ に い う料 金 の 公 正 妥 当 性 は,〔1〕料 金 が原 価 を償 うに足 り る もの で あ り,か つ企 業 が提 供 す る財 ・役 務 が料 金 に相 応 す る内容 で あ るか と い う料 金 水 準 の観 点 及 び,〔2〕利 用 者 の 側 に合 理 的 な 理 由 を欠 く不 公 平 な取 扱 い が され て お らず,社 会 的 に均 衡 が保 た れ て い るか とい う料 金 体 系 の観 点 か ら 17.

(18) 給 付 行 政 につ い て の覚 え書 き. 判 断 され る と ころ,京 都 府 営 水 道 事 業(乙 訓 系)は,Xを. 含 む17関 係 地 方 公 共. 団 体 の要 請 を 受 け て 被 控 訴 人 知 事 が 策 定 した 本 件 広 域 的 水 道 整 備 計 画 に基 づ き,Yが. 多 額 の費 用(一 部 に 国庫 補 助 金 及 び被 控 訴 人 の一 般 会 計 出資 金 が充 て. られ て い る。)を 投 じて 水 源 開 発 及 び 施 設 整 備 を 行 い,給 水 区域 で あ る乙訓2市 1町 の た あ に経 営 す る水 道 用 水 供 給 事 業 で あ るか ら,そ の基 本 料 金 の算 定 要 素 で あ る基 本 水 量 の決 定 に 当 た って は,基 本 料 金 が取 得 原 価 を実 質 的 に償 うに足 り る もの で あ り,受 水 市 町以 外 の住 民 か ら も納 得 性 が確 保 され得 る こ との要 請 と と もに,給 水 区域 を構 成 す る複 数 の受 水 市 町 間 の平 等 性 ・公 平 性 を保 つ こ と の要 請 が あ り,こ の よ うな各 種 要 請 を考 慮 す る と,基 本 水 量 に つ い て は,申 込 み を した 当該 市 町 の利 害 の み な らず,他 の受 水 市 町 との均 衡 を含 あ た総 合 的調 整 を も考 慮 して 決 せ られ な け ば な らな い。 した が って,本 件 条 例2条2項. は,. か か る総 合 的調 整 の た あ に基 本 水 量 の決 定 をYの 裁 量 に委 ね,当 該 市 町 との協 議 とい う手 続 を経 た上 で,Yが. 行 政 処 分 と して,そ の裁 量 に よ り一 方 的 に基 本. 水 量 を決 定 す る権 限 を付 与 した もの と解 す るの が相 当 で あ る と解 して い る。 以 上 に よ り,大 阪高 裁 は,基 本 水 量 の決 定 は,公 権 力 の主 体 た る地 方 公 共 団 体 で あ るYが 行 う行 為 の うち,そ の行 為 に よ って,行 政 契 約 た る水 道 用 水 供 給 契 約 の相 手 方 と して,Yと. の 関係 で は 「国民 」 と同一 の地 位 に立 つ受 水 市 町 の. 権 利 義 務 を直 接 形 成 す る こ とが条 例 に よ り認 あ られ て い る もの と解 す べ き で あ り,取 消 訴 訟 の 対 象 た る 「行 政 庁 の処 分 」 に当 た る もの と認 あ られ る と され る。 な お,本 件 条 例 に は,基 本 料 金 の徴 収 に つ い て,滞 納 処 分 の例 に よ り処 分 す る こ と(地 方 自治 法231条 の3第3項)を. 根 拠 付 け る規 定 は な い が,行 政 処 分. の本 質 は,法 令 に基 づ く行 政 庁 の一 方 的 な行 為 に よ って法 効 果 が発 生 し,取 消 訴 訟 に よ って そ の効 力 が否 定 され な い 限 りそ の公 定 力 が認 あ られ る と ころ に あ り,自 力 執 行 力 が な い こ とを も って処 分 性 を否 定 す る こ とは で き な い と も され て い る。 以 上 が,大 阪 高 裁 の結 論 で あ るが,概 ね 妥 当 とす べ き よ う に思 わ れ る。. 18.

(19) 法科大学院論集. (5)ま. 第8号. とめ. 京 都 地 裁 は,基 本 水 量 決 定 も含 あ て京 都 府 と大 山 崎 町 との 関係 を概 ね契 約 関 係 と理 解 した。 け れ ど も両 当事 者 の あ い だ に は協 定 が締 結 され て お り,そ れ ゆ え契 約 の予 約 が な され て い る と理 解 し,法 律 上 原 因 あ り と した。 これ に対 して,大 阪高 裁 は,基 本 水 量 の決 定 や通 知 に処 分 性 を認 あ た。 す な わ ち,理 論 的 に と らえ る と,戦 後 の わ が 国 の 行 政 法 学 の 一 般 的 理 解 に した が い*29,水 道 利 用 関 係 は非 権 力 関 係 で あ るか ら私 法 上 の関 係 と理 解 で き る け れ ど も,さ ま ざま な法 政 策 に よ り法 律 ・条 例 上 特 則 が定 あ られ,一 定 の法 関係 に処 分 性 を賦 与 した もの と思 わ れ る。 両 判 決 と も,条 例 や協 定 の性 質 を分 析 して お り,戦 前 の よ うな観 念 的考 察 を して い るわ け で は な い。 ま た,京 都 地 裁 も大 阪高 裁 も,ド イ ツ の二 段 階論 とは 異 な る と ころ が あ ろ う。 しか し大 阪高 裁 の場 合 に は,見 方 に よ れ ば,基 本 水 量 の決 定 を処 分 と と らえ,そ の後 の段 階 に お け る法 関係 を契 約 関係 と と らえ て い る と関 す る こ とが で き るな ら,ド イ ツ の二 段 階論 の発 想 と も共 通 性 が あ る と も 解 す る こ とが で き るよ うに も思 わ れ る。 な お 本 件 は,一 旦 最 高 裁 に上 告 さ れ,最 高 裁 の 判 断 が 注 目 され る と こ ろ と な って い た が,途 中 町 長 の 選 挙 が行 わ れ,訴 訟 遂 行 して い た 前 町 長 が 落 選 し, 新 町長 が登 場 す るが,新 町長 は上 告 を取 り下 げ た との こ とで あ る。. *29古. くは,公 法 ・私 法 の適 用 に 関 して,オ. ッ トー ・マ イ ヤ ー の 「本 源 的法 律 関係 」 説 と エ ー リ ッ. ヒ ・カ ウ フ マ ンの 「具 体 的請 求 権 」 説 の対 立 が あ っ た が,カ 教 授 の 業 績(塩 照)等. ウ フ マ ンの理 論 を是 と さ れ る塩 野 宏. 野 宏 『オ ッ トー ・マ イ ヤ ー行 政 法 学 の 構 造 」 〈有 斐 閣,1962年>272頁,284頁. 参. に影 響 を受 け て,戦 後 の わ が 国 の行 政 法 学 は,具 体 的 な請 求 権 を実 定 法 に根 ざ して分 析 す. る方 法 が 一 般 的 に な っ て い った と思 わ れ る。 そ れ に よ れ ば,非 権 力 行 政 の 法 的 性 質 に つ い て も, 実 定 法 に基 づ い て具 体 的請 求 権 や個 々 の法 関 係 の性 質 を分 析 す る方 法 が採 ら れ るべ き こ と に な ろ う。 な お,マ. イ ヤ ー や カ ウ フ マ ンの理 論 につ い て,村 上 ・前 掲 書35頁 以 下 参 照 。. 19.

(20) 給 付 行 政 につ い て の覚 え書 き. お わ り に. さて,こ の 度,広 瀬 肇 ・石 川 敏 行 ・横 山 信 二(編)『 上 武 則 先 生 還 暦 記 念 』(有 信 堂 高 文 社,2012年2月)を. 給 付 行 政 の諸 問 題. 村. 出版 して い た だ い た。 光. 栄 至 極 で あ る。 書 物 の表 紙 に 「ま す ま す そ の領 域 を広 げ,理 論 的整 理 が求 め ら れ て い る給 付 行 政 に つ い て,幅 広 い観 点 か ら論 究 す る」 と記 され た もの が付 け ら れ て い る。 私 自身,給. 付 行 政 に つ い て こ れ ま で 研 究 を 重 ね て き た が*30,本. 書. を 眼前 に して感 じた こ とは,私 の研 究 が い か に小 さな もの で あ った か を改 め て 感 じ る。 私 と し て は,掲 *30昭. 和42年4月. 以 来,京. 載 さ れ て い る 諸 論 孜*31に 啓 発 さ れ,導 都 大 学 法 学 研 究 科 で,イ. か れ,新. た な視. ギ リス留 学 か ら帰 国 さ れ た ば か りの杉 村 敏 正 教. 授 の指 導 を仰 ぐこ と に な っ た。 修 士 論 文 の テ ー マ の相 談 で,「給 付 行 政 と法 律 の 留 保 」で ま と め て み た い と先 生 に述 べ た と き,室 井 力 教 授 と相 談 して み る と言 われ,後 わ れ た の が,つ. い 昨 日の よ う に想 い 出 さ れ る。 後 に私 は,昭 和46年4月. 畑 博 行 教 授(前. 近 畿 大 学 学 長)の. も と で,広. 日,よ. しそ れ で い こ う と言. よ り,中 川 剛 教 授 お よ び. 島大 学 で研 究 す る機 会 が与 え ら れ た。 幸 運 に も,ま. もな く ドイ ツ か らバ ズ ー ラ教 授 ご夫 妻(Prof.Dr.PeterBadura,FrauKarinBadura)が. 日本 お. よ び広 島 に も来 られ,同 教授 の講 演 の通 訳 を務 め た。 そ れ が契 機 で ドイ ツ留 学(フ ンボ ル ト財 団) の機 会 が与 え られ た次 第 で あ る。 講 演 会 の時 に,バ. ズ ー ラ教 授 が 畑 教 授 に,フ. ンボル ト財 団 に最. も確 実 な推 薦 状 を書 くと言 わ れ た の が本 当 に光 栄 で あ っ た。 バ ズ ー ラ教 授 は ドイ ツで 給 付 行 政 研 究 の第 一 人 者 で あ っ た か ら,私 に と り学 問 的 に極 め て有 益 で あ っ た。 な お,バ 大 学 に お け る講 演 テ ー マ に つ い て は,村 上(翻. ズ ー ラ教 授 の広 島. 訳)「 ペ ー ター ・バ ズ ー ラ 『地 方 自治 と社 会 国 家. 的任 務 」」 広 島 法 学2巻1号(1978年)113頁 以下参照。 *31本 書 に掲 載 さ れ て い る論 説 を掲 げ る と以 下 の と お りで あ る。 第1章. 石 川 敏 行 「ドイ ツ 国法 学 者 大 会 と そ の 昨今 一 給 付 行 政 論 の観 点 か ら一 」. 第2章. 石 森 久 広 「法 原 則 と して の 『経 済 性 」 の適 用 に関 す る一 考 察 」. 第3章. 野 本 敏 生 「給 付 国家 に お け る透 明性 原 則 と そ の実 効 性 確 保 一 政 党 の決 算 報 告 義 務 を題. 材 と して一 」 第4章. 甲斐 素 直 「憲 法 の保 障す る人 権 と給 付 行 政 」. 第5章. 横 山信 二 「生 存 配 慮 行 政 と公 役 務 の民 営 化 に 関す る諸 問題. 執 行 の分 類 論 に基 づ い て. フ ラ ンス に お け る公 役 務. 」. 第6章. 國井 義 郎 「契 約 前 仮 命 令 訴 訟 の導 入 に 関す る一 考 察 」. 第7章. 廣 瀬 肇 「給 付 行 政 と して の海 の管 理 行 政 に 関す る一 考 察 」. 第8章. 本 田博 利 「都 市 小 河 川 再 生 条 例 試 案. 第9章. 牛 島仁 「廃 棄 物 処 理 施 設 設 置 ・操 業 を め ぐる抗 告 訴 訟 の原 告 適 格 」. 第10章. ア ン ド レア ス ・シ ェ ラ ー 「欧 州 連 合(EU)の. 20. 分 権 時 代 の新 た な条 例 づ く り」. 行 政 改 革 一 画 期 的 なEU拡. 大一」.

(21) 法科大学院論集. 第8号. 角 に基 づ い て,給 付 行 政 研 究,日 本 行 政 法 学 の研 究 の再 出発 の一 里 塚 と させ て い た だ き た い*32。. *32な. お,同 書 に私 の略 歴 や研 究 業 績 が紹 介 さ れ て い る が,あ. 職 記 念 号 」58巻3・4号(2008年)371頁. わせ て 『阪大 法 学 一 村 上 武 則 教 授 退. 以 下 を 参 照 して い た だ け れ ば 幸 い で あ る。. 21.

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