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顔,および,ヒトの検出過程の研究

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DOI: http://dx.doi.org/10.14947/psychono.34.23

顔,および,ヒトの検出過程の研究

遠 藤 光 男

琉球大学

Processes of detection of faces and human presence

Mitsuo Endo

University of the Ryukyus

Our adaptive visual processes require us to quickly detect human presences in a visual scene. In this light, it is proven that faces and human body forms particularly capture our attention, which connotes the key roles these two aspects play in how we detect others. Functional neuro-imaging studies have revealed three face-selective and three body-selective regions in the human cortex. It is found that each of these body- selective areas is located in close proximity to one of the three face-selective areas respectively, and that the corresponding areas have similar func-tioning. Yet until quite recently, there have been but few studies that address how we detect faces or human presence against natural backgrounds. This paper reviewing studies on the earlier stages of visual processing of faces and hu-man presence, includes proposals for further research.

Keywords: face detection, person detection, human body, natural scene

1. は じ め に 顔と身体はわれわれがヒトの存在に気づくための重要 な手がかりである。顔と身体は共に注意を捕捉し,その 生理的基盤には,後述するような対応関係がある。ただ し,身体の研究は顔の研究と比較すると圧倒的に少な い。また,顔やヒトを自然の情景の中で検出する過程の 研究やヒト検出過程における顔と身体の相互作用の研究 は最近になって始まったばかりである。この論文では, 顔と身体に対する初期の処理過程と生理的基盤,自然の 情景の中の顔やヒトの検出過程についてこれまで明らか になったことを概観する。その上で,それぞれの研究の 今後の方向性について議論する。 2. 顔,および,身体による注意の捕捉 顔 顔は社会的にも生物学的にも重要な刺激であるため, その検出は前注意的,すなわち,無意識的自動的過程に よって行われるのではないかと予測された。そして,そ の検証が,視覚探索課題を用いて行われてきた。視覚探 索課題では,複数の同一物体(ディストラクター)の中 に異質の物体(ターゲット)が存在するかどうか判断す ることを実験参加者に課す。ターゲット検出に要する時 間がディストラクターの数に影響されないとき,すなわ ち,ポップアウトが生起したとき,前注意的過程によっ てターゲット検出が行われたことの証拠とされている。 顔の視覚探索課題の実験は,主に図顔を用いて行わ れ,妨害刺激には,ターゲットと異なる表情や倒立顔, 目鼻口の配置をスクランブルさせた顔が用いられている (Kuehn & Jolicoeur, 1994; Nothdurft, 1993)。実験の結果,

妨害刺激の増加に伴う反応時間の増加,すなわち,探索 効率はポップアウトの基準(10 ms/item以下)よりも大 きくなり,ポップアウトの証拠は得られなかった。

しかし,Hershler & Hochstein (2005)は,ターゲット として実際の刺激写真を用い,妨害刺激として顔以外の 多様な物体を同時に提示するとポップアウトの基準を満 たすことを示した。彼らは,これまでの実験の問題点と して,図顔をターゲットとして用いると顔検出の視覚シ ステムを十分活性化できない可能性があることと,妨害 刺激として倒立顔や異なる表情の刺激を用いると,これ らの刺激も顔として分類されてしまう可能性があること を指摘して上記の実験を行った。しかしながら,彼らの Copyright 2015. The Japanese Psychonomic Society. All rights reserved. Corresponding address: Department of Human Sciences,

Faculty of Law and Letters, University of the Ryukyus, 1 Senbaru, Nishihara-cho, Nakagami-gun, Okinawa 903– 0213, Japan. E-mail: [email protected] (ll: エルエル)

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実験手続きでは,通常の視覚探索課題と異なり,刺激提 示前に実験参加者にターゲットが顔であることをあらか じめ告げている。そのため,実験結果は純粋な前注意的 な過程を反映しているものではない。 以上の視覚探索課題の実験では,顔検出が前注意過程 によって行われる明確な証拠は提出されていない。しか し,その他の研究で顔によるボトムアップ的な注意の捕 捉が生起することと,注意喚起後の注意の保持や解放が 他の物体よりも遅いことを示す証拠が提出されている。 ボトムアップ的な注意の捕捉は,視覚探索前に実験者 によって定義されたターゲットの属性や実験参加者が視 覚探索後に報告すべきターゲットの属性とは異なる属性 による注意の捕捉でなければならないとされている (Yantis, 1993)。Langton, Law, Burton, & Schweinberger (2008)は,この基準を満たしている付加的シングルト

ン パ ラ ダ イ ム(additional singleton paradigm, Theeuwes, 1994)を用いて,顔がボトムアップ的に注意を捕捉する ことを示した。付加的シングルトンパラダイムでは,複 数提示される刺激系列内にターゲットが存在するかどう か探索することを実験参加者に課す。そして,その試行 中に提示した無関連刺激(シングルトン刺激)のター ゲット探索に対する影響の有無を検討する。Langton et al. は,同心円状に配列された6つの刺激を提示し,その 中にチョウが提示されているかどうか探索することを実 験参加者に課した。その際,半数の試行には無関連刺激 として顔が提示された。実験の結果,顔が提示された条 件の方が提示されない条件より有意にターゲット検出が 遅くなった。

眼球運動のIOR (inhibition of return)を用いた研究で も顔へのボトムアップ的な注意の捕捉が示されている。 IORは,注意がある空間位置に移動した後に,同じ場所 に提示された刺激に再び注意を向けるのが抑制され,そ の刺激に対する反応が遅くなる現象である。これは最初 の注意の定位が反射的な時にのみ生起することが知られ ている(Posner & Cohen, 1984)。Theeuwes & Van der Stigchel (2006)は,実験参加者に顔とトースターなどの電気器 具を左右に200 ms間だけ対提示し,その600∼800 msの 後に画面中央に左右どちらかに向いた矢印と先に提示さ れた刺激の二つの場所に+の印を提示した。実験参加者 の課題は,矢印の方向にある+の印に素早く視線を向け ることであった。実験の結果,顔が提示された方向への 視線の移動は顔以外が提示された方向への視線移動より 有意に遅くなり,顔へのIORが認められた。 顔に対しては注意の捕捉ばかりではなく,注意の保持 も他の物体よりも長いことが示されている。Bindemann,

Burton, Hooge, Jenkins, & de Haan (2005)は,画面中央に 提示されるドットの色によって異なる反応をすることを 実験参加者に課した。ドットが緑の時は,ドットと同時 に左右に提示される垂直線と水平線のうち垂直線の位置 に対応した反応を,赤の時は,垂直線分の位置にかかわ らずニュートラルな反応(スペースキー押し)をする必 要があった。これらの課題を遂行する際,ドットの背景 に正立顔,倒立顔,顔以外の物体(果物など)を提示し て,その影響を検討した。実験の結果,ニュートラルな 反応には条件間の差はなかった。垂直線分への反応は, ドットの背景に物体が提示されない統制条件の方が物体 提示条件よりも有意に反応が早かった。物体提示条件間 では,正立顔が倒立顔や他の物体よりも有意に反応が遅 くなり,正立顔では他の物体よりも注意の保持が長いこ とが示された。 身体 身体に対する注意の捕捉の証拠は,Downing, Bray, Rogers, & Childs (2004)によって非注意による見落とし (inattentional blindness)を用いて示されている。彼らは, 実験参加者に短時間提示された縦横の線分の長さを比較 し,どちらが長いかを報告することを求めた。そして, 4試行目に縦横の線分によって分割された4象限のいず れかに無関連刺激を同時提示し,それがどの程度検出さ れるか検討した。その結果,予告なしに無関連刺激を提 示した時の検出率や同定率は頭部のついた身体のシル エットが電話などの物体よりも有意に高くなり,身体へ の注意捕捉の優位性が認められた。

Ro, Friggel, & Lavie (2007)は,Langton et al. (2008)と は異なる付加的シングルトンパラダイムで,顔と身体の 注意喚起後の処理が他の物体よりも早いことと注意の保 持がより長いことを示している。彼らの実験では,実験 参加者は同時提示される6個の刺激の中からターゲット を探索し,そのターゲットが事前に提示されたカテゴ リー名と一致するかどうか判断することを課せられた。 その際,ターゲット以外の刺激は青の枠で囲まれている がターゲットは緑の枠で囲まれていた。そして,半数の 試行にはシングルトン妨害刺激として赤枠で囲まれた刺 激も提示され,その影響を検討した。実験の結果,ター ゲットの検証は顔や身体の一部の方がその他の基礎カテ ゴリーの検証よりも有意に早かった。さらに,顔や身体 の一部がシングルトン妨害刺激として提示されたときの ターゲット検証は他の物体のときよりも有意に遅くなっ た。この実験では,実験参加者の注意はカテゴリーの検 証をする物体自体とは異なる手がかりによって喚起され

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ているので,顔や身体へのボトムアップ的な注意の喚起 を反映したものではなく,その後の処理過程や注意の保 持の効果が反映されていると解釈されている。 以上,身体も顔と同様に注意捕捉の優先性や保持の遅 延などが報告されている。しかしながら,顔と比較する と研究例が少なく,顔と同等の実験パラダイムでの研究 がほとんどないのが問題といえる。特に,付加的シング ルトンパラダイムのようなボトムアップ的な注意の捕捉 の基準を満たすとされる実験パラダイムでの検討が今後 必要となる。 3. 顔,および,身体の処理過程の生理的基盤 顔 これまでのニューロイメージング法の研究によって, 顔認識の基本的過程に関わる三つの皮質領域が明らか に な っ て い る。 こ れ ら は,Haxby, Hoffman, & Gobbini (2000)の提出した顔認識神経システム内で主に知覚的

分析を行うコアシステムを構成し,下後頭回の OFA (occipital face area)と,紡錘状回中央外側部のFFA

(fusi-form face area),上側頭溝後部のfSTS (a face-selective re-gion in the posterior part of the superior temporal sulcus)か らなる。OFAは,顔の要素の知覚や顔検出に関わる部位

で,顔の最初の知覚的表象を形成し,FFAとfSTSに並列

的に情報を送る部位とされている(Haxby et al., 1999; Hoffman & Haxby, 2000)。FFA は,顔検出と人物同定過 程に関わり,顔情報の静的側面の処理を行う部位とされ ている(Grill-Spector, Knouf, & Kanwisher, 2004; Kanwisher, McDermott, & Chun, 1997; Tong, Nakayama, Mosco-vitch, Weinrib, & Kanwisher, 2000)。fSTSは,顔の動的な情報の 処理に関わり,視線や表情,口の動きに活性化を示す (Calder & Young, 2005; Haxby, Hoffman, & Gobbini, 2002)。 顔検出,人物同定過程に関わる OFAとFFAに関して は,当初 OFAは顔の部分的特徴に反応し,主に顔検出 に関わり,FFAは顔の全体的特徴に反応し,顔検出と人 物同定過程に関わるとされてきた。しかしながら,その 後,OFAが人物同定過程に関わることや空間関係の処理 も可能なことが示唆されている。たとえば,fMR順応パ ラダイムにおいて同一人物の写真を連続提示するとOFA の活性化が低下し順応が生じるが,複数の人物の連続提 示では順応が生じないことや,同一人物の内部特徴の配 置を変化させて連続提示しても順応が生じないことなど OFAでもFFAと類似の特性が示されている(Gauthier et al., 2000; Rhodes, Michie, Hughes, & Byatt, 2009)。

身体

身体に関しても,主に静的な情報に活性化を示す部位 と動的な情報に活性化を示す部位がある。前者には,外 側後頭側頭領域の EBA (extrastriate body area)と,紡錘 状回のFBA (fusiform body area)がある(EBA: Downing, Chan, Peelen, Dodds, & Kanwisher, 2006; Downing, Jiang, Shu-man, & Kanwisher, 2001; FBA: Peelen & Downing, 2005; Schwarzlose, Baker, & Kanwisher, 2005)。身体の運動に選択 的に反応する部位はSTS後部にあり,顔の動的処理領域 と近接している(Allison, Puce, & McCarthy, 2000; Downing, Peelen, Wiggett, & Tew, 2006)。

EBAとFBAは,それぞれOFAとFFAと近接しており, 機能的にも類似していることが示唆されている。Taylor, Wiggett, & Downing (2007)は,指,手,腕,上半身(頭 なし)と身体の提示される部位を増加させたときのそれ ぞれの活性化のパターンをfMRIによって計測した。そ の結果,EBAは提示される身体部位の量が増加するに伴 い,活性化が上昇したが,FBAでは,指や手では有意な 活性化は得られず,腕以降で有意な活性化が得られ,段 階的な活性化の増加がみられた。したがって,EBAでは 身体の部分の分析を,FBAでは,身体部分の空間配置の 分析をしていることが示唆され,OFA, FFAとの対応関 係が認められた。 しかしながら,前述のように OFAは顔の部分の処理 ばかりではなく,部分間の空間配置の処理も可能である ことが示されている。さらに,OFAとFFAともに顔検出 のみではなく人物同定過程に関わることが示されてい る。しかし,顔以外の身体からどの程度人物同定が可能 なのかは今のところ明確ではない。そして,EBAとFBA においても人物同定過程とどのように関わるのか不明で あり,今後の検討が必要である。 4. 自然の景観の中での顔・ヒト検出 これまでの注意の捕捉やニューロイメージング法によ る研究では,顔や身体は自然の情景から切り離して白な どの無地の背景に単独,または,複数同時に提示される ことがほとんどであった。しかし,われわれはさまざま な情景の中でヒトや顔を検出している。そのような自然 の情景の中での顔,および,ヒトの検出過程の研究はあ まり進展がみられなかったが,最近になって本格的に取 り組まれるようになってきた。 顔検出

Lewis & Edmonds (2003)は,テレビドラマから顔を含 むシーンを抽出し,それらの刺激を用いて顔検出に影響

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する要因を検討した。そして,シーンを 3×3のブロッ クに分割し,それらをスクランブルさせると顔検出が有 意に遅くなり,顔以外のシーンの文脈が顔検出を促進す ることを示した。さらに,刺激の倒立提示と明度の反転 (ネガ化),色相の反転の顔検出に対する抑制効果を比較 したところ,明度の反転が最も強く,次に倒立提示,色 相の反転の順となった。顔同定過程では,倒立効果の方 がネガ効果より強いことが示されており(Hole, George, & Dunsmore, 1999),顔検出過程特有の効果が認められ た。

Burton & Bindemann (2009)は,室内の情景の中の写 真立てや額の中に顔写真を提示して,顔検出に対する顔 向きの効果などを検討した。顔の大きさは,画面全体の 0.08∼1.73%に設定されていた。実験の結果,顔の大き さと検出の早さには負の相関があり,顔が大きくなると 検出が早くなった。この関係には顔向きなどの他の要因 の影響はなかった。顔向きの効果は,正面顔と斜め45° の顔(以下,斜め顔)では差がなかったが,横顔では, 反応時間とエラー率共に正面顔と斜め顔より有意に悪く なった。これらの正面顔と斜め顔の優位性は,顔画像の 左右どちらか半分のみを提示しても,すなわち,片目の みの提示でも得られることと,顔の上半分を提示しても 得られることが示された。さらに,顔の上半分と下半分 による顔検出の早さを比較すると正面顔と斜め顔では上 半分が有意だったが,横顔では差がなかった。 この顔検出に対する顔向きの効果は,顔を画面中央に 提示して顔かそうでないかの判断,すなわち,顔分類を 課したときには生起しないことが Bindemann & Lewis (2013)によって示されている。彼らは,Burton &

Bin-demann (2009)の刺激設定に加えて,それらの刺激の顔 提示部分を中心に少しの背景を残して切り出した刺激を 提示する条件と,背景なしで顔のみを画面中央に提示す る条件を設けて実験参加者に顔検出を課した。その結 果,オリジナルのBurton & Bindemann (2009)の刺激条 件のみで顔向きの効果,すなわち,正面顔と斜め顔の優 位性が認められた。

Bindemann & Burton (2009) は,Burton & Bindemann (2009) と同様の方法で顔を提示し,自然の景観の中での顔検出 に対する色の効果を検討した。彼らは,顔と背景の色に ついてカラーと白黒の2条件を組み合わせて,4種類の 刺激を作成し,それらの刺激において顔検出に要する時 間を比較した。その結果,背景が白黒で顔がカラーの刺 激への反応時間が最も早くなった。次いで顔と背景がカ ラーの刺激が早くなり,顔が白黒の場合は,背景の色に かかわらず最も遅くなった。さらに,背景はすべてカ ラーで顔の色の色相を反転させた時には顔が白黒のとき よりも顔検出が有意に遅くなった。これらの結果は,肌 色が顔検出に重要な役割を担うことを示唆している。ま た,顔の左右半分のみがカラーで残りが白黒の顔を提示 した条件では,顔すべてが白黒の条件とほぼ同じ早さと なった。この結果について Bindemann & Burton (2009) は,単に肌色の領域が顔検出に関与しているのではな く,肌色の情報と顔の形態情報が結合して顔検出に貢献 していることを示すと解釈している。

ヒト検出

自然の情景での身体を含めたヒトの検出研究は非常に 少ない。先に紹介したLewis & Edmonds (2003)の研究は, テレビドラマからヒトを含むシーンを取り出して刺激とし ており,身体部分も提示されていた。そのため,実験参加 者の課題は厳密には顔検出というよりヒト検出であった。 そして,顔以外の背景をスクランブルするとヒト検出が有 意に遅くなったので,ヒト検出に身体が有効な手がかりと して貢献していることを示唆する結果となっていた。

Bindemann, Scheepers, Ferguson, & Burton (2010)は,自 然な情景の中のヒト検出における顔と身体の役割を直接 比較している。彼らは,室内や屋外などの背景を用いて ヒトのいるシーンと,同じ背景でヒトのいないシーン, ヒトのいるシーンから頭部のみを残し身体を削除した シーン,その逆のシーンを作成した。その際のヒトの提 示位置は左視野,中央,右視野のいずれかとした。シー ン全体の中のヒトの大きさの割合は,1.5∼12.6%(頭 部: 0.2∼0.8%; 身体: 1.3∼11.8%)であった。頭部と 身体はいずれも正面向きであった。実験参加者は最初に 画面の四隅のいずれかに提示された点を凝視し,その後 に提示されたシーンのヒト検出を課せられた。その際, 課題遂行中の眼球運動もモニターされた。 実験の結果,全身提示条件が,頭部提示と身体提示条 件より有意にヒト検出が早かった。頭部提示条件と身体 提示条件ではヒト検出に要する時間がほぼ同じ早さにな り,両者がヒト検出の手がかりとして同程度の有効性を 持つことが示唆された。 眼球運動の分析では,どのヒト提示条件でも平均2.4 回から2.7回の固視でヒト検出に至り,条件間に有意差 はなかった。最初の固視点はほとんどが画面の中心付近 に分布した。この中心固視バイアス(central fixation bias)は一般的傾向として観察されている(Bindemann, 2010; Tatler, 2007)。最初の固視点のうち,ターゲットの ヒトに直接定位されたものは全身提示条件では上半身が 19%,頭部が6%であった。頭部提示,身体提示条件で

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はそれぞれの部分に定位された割合は4%と18%で,全 身提示の割合と同じくなった。したがって,最初の固視 点では,身体優位性が示され,それが頭部の提示の有無 に影響されなかった。また,身体への固視はほとんどが 上半身で,下半身には定位されなかった。2番目,3番 目の固視点は頭部条件,身体条件では,それぞれの領域 への固視の割合が45%, 70%と増加した。全身条件では, 頭部への固視が 52%,上半身への固視が32%と頭部優 位に変化した。この結果は,身体検出後は,社会的知覚 の手がかりとして重要な顔へ視線が移動することを示唆 している。 以上,BurtonとBindemannらの最近の研究によって自 然な情景の中の顔,および,ヒトの検出過程の基本的特 性が明らかになってきた。しかし,研究はまだ始まった ばかりで,今後明らかにすべき研究課題が多くある。ま ず,彼らの採用した実験手続きに改良の余地がある。 Burton & Bindemann (2009)の顔検出過程の研究では, 主に壁や写真立ての中に置かれた小さな顔写真の検出を 実験参加者に課しており,自然な情景の中ではあるが, 厳密には実際の顔の検出過程とは異なる。情景と顔の大 きさの比率を実際の比率に近づけることや,例えば,窓 などから顔を出している状態の刺激を用いて検討するこ となどが考えられる。また,Bindemann et al. (2010)の ヒト検出過程の研究でも,頭部のみ,または,身体のみ が呈示されるような不自然な提示条件を用いていた。や はり,ヒト全体が提示されている自然な状態の中で顔や 身体の向きを操作することにより顔と身体の相互関係の 検討をすることも必要であろう。例えば,後ろ向きの状 態で顔が見えない状況や暗い情景でシルエットしか見え ない状況でのヒト検出過程を研究することが考えられる (遠藤,2013)。 Bindemann et al. (2010)の研究では,顔と身体がヒト 検出の手がかりとして同等の重要性を持つことが示され ているが,さまざまな状況,例えば,観察距離などでこ の関係が変化する可能性がある。やはり,多様な状況で の顔と身体の相互関係を検討する必要があろう。 本論文において概観してきたすべての研究領域におい て,顔の研究と比較すると身体の研究は圧倒的に少な い。これは,社会的刺激としての顔の重要性を反映して いると思われるが,身体の処理過程の研究が少ない理由 として,身体には手足の状態や姿勢など多様な変化があ り,その条件統制をどうすべきか決定することが困難な ためでもあろう。この点については,これまでの解決方 法として採用されてきた方法は,提示する姿勢を一つの 種類にしてしまうことや,ランダムに多様な姿勢を刺激 として提示することであった。Bindemann et al. (2010) の研究では,どんな姿勢の刺激を用いたか明示されては いないが,論文に提示されている刺激例はすべて正面向 きの直立しているヒトであったので,前者の方法を用い ていると思われる。今後は,全身が提示されている状況 で手足の状態や姿勢の変化がヒト検出にどのような影響 を及ぼすか検討する必要があろう。そのような基礎的 データによって,ヒト検出過程の研究においてどのよう な姿勢の身体を提示すればよいか明確になってこよう。 引用文献

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