オバマ大統領が魅せた広島演説
所属:心理・教育ゼミ 2年1組2番 今井 一樹第1章 はじめに
第 1 節 テーマ設定の理由
昨年は私たち前高生にとって「平和とは何か」を問う年となったのではないだろうか。 私たち前高生は昨年11 月の修学旅行では沖縄へ行き、ガマの中を見学したり、現地の方 から沖縄戦の激しさ、むごさを拝聴したりした。そうやって平和学習を行う中で、自分 自身でもひとつテーマを決めて、自分なりに平和学習を進めてみたいと思うようになっ た。テーマはオバマ大統領の広島演説が良いと思った。広島演説をひも解くことは平和 学習につながると思ったし、彼のたぐいまれな演説のうまさを研究することは今後の自 分自身の役に立つと思ったからだ。オバマ大統領は歴代の大統領の中でもスピーチが上 手だといわれている。そんな彼が広島演説で、自分の言葉を人々の心に残すためにどん な技巧を凝らしたかを研究してみたいと思った。以上が、テーマ設定の理由である。(な お、バラク・オバマ氏は2017 年 1 月 20 日をもって大統領の座を退いている。だから正 確にはオバマ氏は‘元’大統領だが、便宜上大統領と明記する)第2章 研究の展開
第 1 節 結論
広島にある原爆ドームは、第二次世界大戦以前は「広島県産業奨励館」という名で広 島名所の一つに数えられた。だが、1940 年代半ばに大戦が勃発。建物は 8 月 6 日、広島 に落とされた原爆「リトルボーイ」によって吹き飛ばされた。今では名を原爆ドームに 変え、大戦の負の遺産として後世に残されている。それから71 年後、現職のアメリカ大 統領として初めて、オバマ大統領が原爆ドームを訪れ、原爆慰霊碑に献花し、平和演説 を行った。 結論から言おう。演説をよく咀嚼してみると、なるほどこの演説は「後世に伝えるべ き素晴らしい演説」である一方、「言い訳じみた責任逃れの演説」でもある。当然、前者 は好評の意であり、後者は悪評の意である。同じスピーチでなぜこのような真反対の評 価ができるのか。それをこれから書き記したい。第2節 酷評の理由
まず、この演説がなぜ酷評されているのかを説明する前に、この演説を酷評する人は 少数だということを記しておく。共同通信社が行った全国電話世論調査では「良かった」 と回答した人は全体の98%だった。また、NHK が広島の被爆者に対して行ったアンケ ートではオバマ大統領の広島演説を「評価できる」という回答は全体の93%(214 人/231 人)だった。これを踏まえたうえで、なぜ広島演説が「責任逃れ」と揶揄されるのかを説 明する。ポイントは2つある。1 つは演説の始まりに隠れている。この演説は次のように 始まる。71 years ago, on a bright cloudless morning, death fell from the sky and the world was changed.
71 年前、明るく、雲一つない朝、死が空から降ってきて世界は変わった。 注目していただきたいのは「死が空から降ってきた」という表現である。実際に「降 ってきた」のは「死」ではなく、原爆であり、それを落としたのはほかでもない米軍で ある。だからここを普通に表現するならば「米軍が広島に原爆を落とした」となるはず である。始まりをあえて抽象的な表現にしたのは2つの狙いがある。1つはインパクト をより増幅させ、原子爆弾の悲惨さや恐怖を大きく伝えるためだ。そしてもう1つは謝 罪を避けるという、政治的要因である。17 分に及ぶ彼の演説の中で謝罪や、それをにお わす発言は一切していない。意図的に謝罪を避けているのだ。そしてこれが「責任逃れ」 の所以である。そして「責任逃れ」と揶揄されるもう1 つのポイントは主語にある。こ の演説の中で彼は「we」という単語が主語の文章を多用している。この「we」はここで は「白人も黒人も黄色人種も、アメリカ人も日本人もみんな」という意味でつかわれて いる。「I」や「you」という単語は存在をピンポイントに指摘するが、この「we」は全体 を表す単語である。そういった包括的な意味の文を多用することで責任の所在をぼかし、 謝罪を回避している。
第3節 責任を逃れた理由
前節では広島演説が「責任逃れ」な理由を説明したが、ここではなぜオバマ大統領が 責任を逃れたのかを説明する。要因は国民にある。イギリスの意識調査会社「ユーカブ」 社がアメリカ人1000 人を対象に面接調査を行ったところ、原爆投下が「正しい決断だっ た」とした回答者は全体の46%で、「間違った決断だった」とした回答者の 29%を上回 っている。これは2015 年の調査結果なので、最近の世論を反映したものと言えるのでは ないだろうか。一国の大統領が、大国の指導者が、海をまたいだ広島の地へ赴き、日本 への謝罪会見をしたらアメリカ人の約46%の人々はどう思うだろう。場合によっては、 国の威信問題につながりかねない。それを避けるために、謝罪をにおわす言葉を使わなかったのだろうと考える。また、そもそもの話として、広島の被爆者の多くや政府は謝 罪を要求していなかったことも書き添えておく。すなわち、元から謝罪する必要性は皆 無だったのである。
第4節 絶賛の理由
一方で、広島演説は後世に残る名演説とも評価されている。そう評価できる理由は演 説の構成にある。実にわかりやすい構成で、ストーリー性をもっている。具体的には、 前半では「原爆投下という史実と過去の戦争の悲惨さ」、中盤では「国家間の侵略行為や テロ」、後半では「広島の教訓と今後へのメッセージ」と、17 分に及ぶ演説を過去、現在、 未来の3 つのチャプターに分けて時系列に並べ、わかりやすいストーリーに仕立ててい る。 また、演説にしかり、作文にしかり、私たちが何か訴えかけたい場面に遭遇したとき、 それがたくさんあると結局一番言いたいことは何なのか、要点が見えなくなってしまう ことが多い。この演説でも、オバマ大統領は次のことなどに言及している。 ・原爆の悲惨さ ・過去の人類がしてきた所業の残忍さ ・科学の発展には我々の道徳心の革命が伴わなければならないこと ・宗教の裏に潜む凶暴さ これら以外にもたくさんのことについて言及しており、普通なら途中で話の方向性が ぶれたり、箇条書きのようにブツ切れになったりしてもおかしくない。が、この演説は そのようになっていない。聞いていてとてもわかりやすく、要所がはっきりしている。 それもひとえに演説全体の構成がしっかりしていることのおかげだろう。 この演説で一貫して語られているのは「道徳の革命」である。次の2文は、彼が聴衆 に向けてもっとも伝えたかったと思われるメッセージと、その訳である。The scientific revolution that led to the splitting of an atom requires a moral revolution as well. That is why we come to this place. We stand here in the middle of this city and force ourselves to imagine the moment the bomb fell. We force ourselves to feel the dread of children confused by what they see.
We listen to a silent cry. We remember all the innocents killed across the arc of that terrible war, and the wars that came before, and the wars that would follow.
だからこそ私たちは広島へ来るのです。ここ、この町の中心に立ち、私たちは原爆の落 ちた瞬間を思い浮かべなければいけません。声なき悲鳴に耳を傾けなければいけません。 あの恐ろしい戦争の間に殺された罪なき人々に思いをはせましょう。あれに先立つ戦争 や、これから来るであろう戦争の犠牲者にも。
Among those nations like my own that hold nuclear stockpiles, we must have the courage to escape the logic of fear and pursue a world without them.
我が国のように核兵器を持つ国々は、恐怖の論理を捨て、核なき世界を追求しなけれ ばなりません。 この2文には微妙な違いがある。メッセージを聞かせるターゲットの違いである。前 の文は我々一般市民に向けたものである。対して後の文は自国の官僚や、核兵器を所持 する国の首脳へ向けたメッセージだと思われる。また、この2文には共通点も存在する。 その直前の文が、聴衆にとって関係の深いトピックとなっているのだ。例えば前者の直 前の文で彼は次のように語っている。
Science allows us to communicate across the seas, fly above the clouds, to cure disease and understand the cosmos. But those same discoveries can be turned into ever more efficient killing machines.
科学のおかげで、私たちは海を越えて交流し、雲を突き抜けて飛べるようになり、や まいを癒し、宇宙を理解できるようになりました。しかし同じ科学的発見が、最高に効 果的な殺人マシンへとなりうるのです。 この場面で彼は、科学の発展によって我々が受けてきた恩恵と、そこにひそむ害悪に ついて述べている。SNS や飛行機、医療技術などは我々が受けてきた科学の恩恵である。 そういった我々にかかわりの深い事柄を挙げて、次の言葉を興味深く聞かせようとして いる。興味深く聞かせることで、メッセージを心にとどめさせることができる。そんな テクニックである。
第5節 細かな配慮
この広島演説が、広島の被爆者たちだけに向けられたものでないところも素晴らしい。 それが表れているところを2か所見つけたので紹介する。1つは原爆の犠牲者として広 島の市民だけでなく、当時広島にいた「何千人もの韓国人、そして12 人の捕えられてい たアメリカ人捕虜」の存在にも触れているところだ。そしてもう1つは、image of a mushroom cloud that rose into these skies 広島と長崎の空に立ち上ったきのこ雲のイメージ
という表現にある。これは原爆投下直後の空を描写した表現だが、「into these skies」 とすることで、広島の空だけでなく、もう1個の原爆「ファットマン」が投下された長 崎の空にもさりげなく言及している。細かいことだが、こうした配慮がこの演説をより 素晴らしいものにしているのだ。
第3章 まとめ
こうしてみてみると、広島演説でオバマ大統領はさまざまな知恵と工夫、それにテクニ ックを駆使していたことがわかる。こうして注意深く聞いてみると、普段なら聞き流して しまうようなさりげない表現にも政治の裏事情が潜んでいたりして、演説を聞くことの面 白さを感じた気がした。さて、彼がこの演説で繰り返し訴えたのは「道徳の革命」である。 「これを成し遂げ、世界から核兵器がなくなったとき、広島の教訓は生かされたことにな るだろう」と語っている。それがいつになるかはわからないが、皆それを望んでいるだろ うし、私もそれを望んでいる。実現のために、今回の平和学習で学んだ戦争の痛ましさと、 戦没者への慰霊の意を忘れずに生きていきたい。 〈 主な参考資料 〉 ・広島市 原爆ドーム http://www.city.hiroshima.lg.jp/www/dome/index.html ・オバマ大統領広島訪問「よかった」「評価する」 世論調査で9 割超 http://www.j-cast.com/2016/05/30268171.html ・「原爆投下正しかった」米国人46% 若年層は「間違い」が多数 70 年経て変化する 意識 http://newsphere.jp/world-report/20150801-1/ ・被爆者の9割超がオバマ大統領の広島訪問を評価 http://web.archive.org/web/20160526110408/http://www3.nhk.or.jp/news/html/2016 0525/k10010534641000.html ・CNN ENGLISH EXPRESS 2 月号 ・オバマ大統領の広島での演説 ~英語全文・日本語訳・解説~ http://english-learninghelp.com/obama_speech_hiroshima/・特集オバマ大統領広島スピーチ生音声 The Japan Times News Digest 臨時増刊号 ・オバマの広島スピーチは“Yes, we can”だった https://newswitch.jp/p/4826