初版 2016 年 9 月
スポーツと開発 ポジションペーパー
2016 年 9 月
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「スポーツと開発」 はじめに JICA は「人間の安全保障 」を実現するため、ひとりひとりの人間を中心に捉え、確実に届く支 援を実践することを使命としている。スポーツは「人間の権利12345」として、人間の安全保障の 観点のひとつである「人間の生にとってかけがえのない中枢部分を守り、すべての人の自由と可 能性を実現すること」に寄与している。JICA におけるスポーツを通じた国際協力は、青年海外協 力隊発足当初より 50 年あまり、おもに青年海外協力隊やシニア海外ボランティア等によって体育 科教育や様々なスポーツ種目を通じて行われ、数々の成果を上げてきた。 近年は、2020 年の東京オリンピック・パラリンピックの誘致を契機とし、スポーツを通じた国 際協力活動推進の機運はこれまで以上に高まっている。このような状況の中で、JICA は 2014 年 7 月に「開発とスポーツ推進連絡会」を発足させ、スポーツと開発に関わる事業をさらに展開し ようとしている。これまでの JICA のスポーツ分野での取組みは、現場の経験則としてその効果が 認められてきた。2020 年を見据えた今、JICA はスポーツと開発の体系的な概念整理や効果的・ 効率的な取組みを今後さらに進める必要がある。これらの背景をふまえ、近年のスポーツを通じ た国際協力分野の概要を示し、これまで JICA が取り組んできたスポーツを通じた活動を整理し、 これからの戦略的・効果的な取組みを展開するための指針を示すことを目的に、本ポジションペ ーパーを作成した。1
Commission on Human Security, (2003) , UN 人 間 の 安 全保障 委員会は 人間の安 全保障を 、「国家 の安全保 障 の概念を補完し人権の幅を広げるとともに人間開発を促進するもの」としている。 2 子 ど も の 権利条約 第 31 条 (1989),UN 3 国際体育スポーツ憲章(1978),UN 4
UNOSDP(2012), Why Sport?, http://www.un.org/wcm/content/site/sport/home/sport
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目次
1.スポーツと開発の今、JICA の取組み ... 4
1-1 国際社会におけるスポーツと開発の概要 ... 4
1-2 国内の動き ... 4
1-3 これまでの JICA の取組み ... 5
2.スポーツと開発の取組み方針... 6
2-1 体育科教育の普及 ... 8
2-2 障害者や社会的弱者の社会参加、平和の促進 ... 8
2-3 国際競技大会への参加促進 ... 8
3.効果的な実施に向けての体制... 8
3-1 JICA の体制 ... 8
3-2 他機関との連携... 9
別添資料 1. ボランティア事業における体育・スポーツ分野の実績 表 1.ボランティア派遣国と派遣職種(体育・スポーツ) 表 2.ボランティアが指導したオリンピック・パラリンピック出場選手 別添資料 2.スポーツと開発分野における近年の JICA の取組み 表 1.JICA 事業スキーム別取組み 表 2.JICA と競技団体・企業等との連携 表 3.JICA と大学との連携4
1. スポーツと開発の今、JICA の取組み 1-1 国際社会におけるスポーツと開発の概要 スポーツは青少年の健全育成の手段として、1970 年代に国際連合教育科学文化機関(UNESCO) によって国際協力事業に導入された。1978 年に制定された「体育・スポーツ国際憲章」は、現在 に至るスポーツを通じた国際的な協力や協調の根幹を支えている。この憲章により、スポーツの 発展のための国際協力は、恒久平和や相互尊重に貢献し、国際問題解決のための好ましい環境を 作り出すことが示された。また、人の営みの中でのスポーツの在り方の根幹を示す「オリンピッ ク憲章6」では、スポーツとは個々人のみで行う単純なレクリエーションやゲームにとどまらず、 世界的な取り組みによって行うことで、人類の調和のとれた発展に役立てるものとし、人間の尊 厳保持に重きを置く社会を推進する役割を持つとされている。 2000 年以降、ミレニアム開発目標(MDGs)に代表されるように、気候変動や環境破壊など国 家間を超えた課題、改善されることが難しい様々な社会的課題を地球的規模で捉え、取り組む機 運が高まった。スポーツはその機能および地球規模の取組みという点で、開発課題に関する領域 でその役割が論じられるようになり、スポーツが貢献できる対象として、教育・健康・開発と平 和の 4 つの領域が認識されるようになった7。2005 年の「スポーツ・体育の国際年」には、国際 協力の現場でスポーツのもつ機能を積極的に活用するべきとの趣旨である「教育を普及、健康を 増進、平和を構築する手段としてスポーツに関する決議8」が採択された。これにより、スポーツ を通じた国際協力の概念整理がさらに進み、開発課題の解決に向けたスポーツの効用が国際機関 や国家政策のレベルで認知されるようになった。 また、2015 年 9 月に採択された「持続可能な開発(SDGs)のための 2030 アジェンダ9」の第 37 項には、「スポーツもまた、持続可能な開発における重要な鍵となるものである。我々は、ス ポーツが寛容性と尊厳を促進することによる、開発及び平和への寄与、また、健康、教育、社会 包摂的目標への貢献と同様、女性や若者、個人やコミュニティの能力強化に寄与することを認識 する」と明記された。 1-2 国内の動き 我が国のスポーツに関する施策の基本となる事項を定めたスポーツ基本法(平成 23 年法律第 78 号)では「スポーツの国際的な交流や貢献が、国際相互理解を促進し、国際平和に大きく貢献 するなど、スポーツは我が国の国際的地位の向上にも極めて重要な役割である」と明示している。 一方で、これまでに、この理念を実現させるために必要な具体的なスポーツ政策の立案や予算措 置はなされてこなかった10。しかしながら、2020 年東京オリンピック・パラリンピック招致活動 の活発化に伴い、スポーツを通じた国際協力を実施するための政策「スポーツ・フォー・トゥモ ロー(SFT)プログラム」が開始され、基本法の理念を実現するための取組みが動き出した。SFT6 国際オリンピック委員会(IOC)が 1925 年に制定、必要に応じ改訂が加えられている。現行は 2015 年 8 月よ り有効 7
UNOSDP(2005), International year of sport and physical education 2005, final report
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UN (2003), Sport as means to promote education, health, development and peace
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UN (2015), Transforming our w orld: The 2030 Agenda for Sustainable Development
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は、国内外で東京オリンピック・パラリンピックの気運を高めるために実施されるプログラムで あり、2014 年から 2020 年までの 7 年間で開発途上国を含む 100 カ国以上で 1,000 万人以上を対 象にスポーツを通じた国際貢献事業を展開するものである。これまでに日本ではスポーツを通じ た国際協力を広く実施するプログラムはなく、その点において SFTは先駆的な取り組みと言える。 また、SFT は東京オリンピック・パラリンピックを機に開始された事業であるが、大会期間の前 後だけではなく、大会後も持続的・継続的に、大会関係者以外の幅広い人たちに事業効果が届く ことが期待されている。 JICA は SFT コンソーシアム(SFTC)の運営委員を務め、JICA 事業を通して SFT を推進する 立場にある。SFT は、①スポーツを通じた国際協力および交流、②国際スポーツ人材育成拠点の 構築、③国際的なアンチ・ドーピング推進体制の強化支援の 3 つの活動領域が設定されている。 JICA はこのうち①「スポーツを通じた国際協力および交流」の領域において、開発援助の実施機 関としての知見の共有と、ボランティア事業をはじめとする既存の具体的な事業を通じ、スポー ツを通じた国際協力の実施が期待されている(JICA では 2014 年度事業開始から 2015 年度末ま でに、既に 59 か国11で約 20 万人に対し活動を実施)。 1-3 これまでの JICA の取組み JICA によるスポーツ分野の取組は、1965 年に開始されたボランティア事業によるものが多い。 その歴史は 1965 年の柔道・水泳・体育隊員の派遣にさかのぼり、これまでに 88 ヶ国にのべ 3,671 名12が派遣された。JICA ボランティアは、体育科教育や個別スポーツ種目の競技指導等の職種で 派遣され、草の根レベルで開発途上国の人びとの社会・経済の発展を、体育・スポーツを直接的・ 間接的に用いて支援してきた(別添資料 1.表 1)。体育は身体教育を意味し、スポーツを教材と して、スポーツ技能、健康の増進、規律やマナー遵守の姿勢を身に着けることを意図している。 これらの要素は、体育科教育支援はもちろん、スポーツ種目の指導を主に期待されて派遣された 隊員たちからも現地の人びとに伝えられ、人的資源の育成に貢献した。過去 50 年余にわたるボラ ンティア事業によるスポーツ分野での活動の結果、例えば、ボランティアが残した指導法やカ リキュラムが任地の学校教育や選手指導の場で数世代にわたり活用されたり、国定カリキュラム への足掛かりをつくるなど、継続的に活用されている事例も多い。 また、スポーツがもたらす子どもの心と体への効果は広く知られているが、難民キャンプ、あ るいは大規模災害の被災地など、将来の見通しが立ちにくく、厳しい環境下で暮らす子どもたち にとって、スポーツがもたらす心の安定への貢献が非常に大きいことは、ボランティアたちによ って数多く報告されている。 スポーツの普及発展支援としては、JICA ボランティアによる相手国の草の根でのスポーツ普及 活動ならびに任国の代表選手の強化の結果、これまでに約 100 件13のオリンピック・パラリンピ ック大会代表選手の派遣やメダルの獲得などに貢献した(別添資料 1.表 2)。国民の国際舞台に おける活躍は、国家としての統一感を高め、草の根レベルのスポーツ普及を牽引する起爆剤にな11 青 年 海 外 協力隊事 務局調べ (2015 年 度末) 12 青年海外協力隊事務局調べ(2016 年度末) 13 青年海外協力隊事務局調べ(2012 年度末)
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り、その国の国際的なプレゼンスの向上にも寄与している。 近年では、これまでの学校での体育科教育や代表選手の育成に加えて、スポーツを通じた開発 への取組みとして、理学療法士による運動療法を通じた障害者自立支援(ペルー)、日本式運動 会を通じた小学校教育支援(カンボジア)など、体育科教育の改善や個別スポーツ種目の技能向 上に加え、任国が抱える開発課題の解決に取組む事例が報告されている(図 1)。 また、体育を含む全科目の初等教育カリキュラム・教科書改訂を支援する技術協力プロジェク ト(ミャンマー)や教育省をカウンターパートとした初等教育体育カリキュラムの改訂(カンボ ジア)を支援する草の根技術協力のように、国の教育の核となる部分に対する支援を行う事業や、 2015 年より開始された「学校体育」をテーマとする課題別研修など、ボランティア事業以外のス キームによる取組みも開始され、スポーツ分野での事業件数や規模の拡大が進んでいる(表 1)。 また、2016 年には南スーダン独立後初の国民スポーツ大会の運営支援を行うなど、新たな試みも 行っている。(そのほか、近年における JICA の取組は別添資料 2.表 1~3 の通り)。 2.スポーツと開発の取組み方針 JICA が行うスポーツを通じた開発は、スポーツと開発を取り巻く国際場裏での議論や SDGs をふまえ14、個人や集団の厚生を直接的・間接的に向上させる開発課題解決のための有効な手段 として活用することとし1516、スポーツと開発の 3 つの柱(図 2)に沿い、持続的・継続的に実施 していく。また、他の事業同様に相手国との協議に基づき、スポーツを当該国事業にどのように 取り込んでいくのか検討していく。これらは、年次行事やイベント型の事業による短期的な効果14 目標 3.「あ らゆる年 齢のすべ ての人々 の健康的 な生活を 確保し 、福祉を 促進する 」、目標 4.「す べての人 々 への包括的かつ公平な質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する」、目標 5.「ジェンダー平等を達成し、 すべての女性および女子のエンパワメントを行う」 15 田中明彦 JICA 理事長(2014) 開発とスポーツ「スポーツ外交強化に関する有識者懇談会」第 2 回会合(概 要) 16 外務省(2014) ス ポ ー ツ 外交強化 に関する 有識者懇 談会 (図1) JICAが行ってきた体育・スポーツの支援
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を否定するものではなく、今後多くの事例を積み重ねながら「スポーツと開発」の知見を積み重 ねていくものである。各柱の詳細は以下のとおり。