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1. 研究の目的 東日本大震災の発生や台風 集中豪雨による災害の頻発をふまえ 災害対応 危機管理のための被害想定やハザードマップの作成が各地で進んでいる 不動産評価にも災害リスクが考慮されつつある一方で ハザードマップの公表や警戒区域の指定が不動産価値の低下につながることを懸念する声もある しかし

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Academic year: 2021

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公益財団法人大林財団

研究助成実施報告書

助成実施年度 2014 年度(平成 26 年度) 研究課題(タイトル) 地価変動にみる災害リスク認知に関する研究 研究者名※ 稲垣 景子 所属組織※ 横浜国立大学大学院 都市イノベーション研究院 特別研究教員 研究種別 研究助成 研究分野 都市政策、都市経済 助成金額 90 万円 概要 本研究では、災害や災害リスク情報の開示が地価へ与えた影響を示 し、地価変動に基づくリスク認知の実態把握の可能性を検証する。 地価に影響を与える要因に災害リスクを加え、神奈川県域において 地価形成要因分析を行ったところ、災害リスクが地価に与える影響 は非常に小さいものの、土砂災害リスクが地価に、津波浸水リスク が東日本大震災前後の地価変動率に影響していることが確認され た。地価は災害リスクの受け止め方を示す指標と捉えられ、地価の 時系列変化を観察することは、社会が災害リスクを認知する機会と その期間を把握することにつながると考える。 発表論文等 地域安全学会梗概集 No.38, p.1433-144, 2016 年 6 月 ※研究者名、所属組織は申請当時の名称となります。 ( )は、報告書提出時所属先。

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1.研究の目的 東日本大震災の発生や台風・集中豪雨による災害の頻発をふまえ、災害対応・危機管理のため の被害想定やハザードマップの作成が各地で進んでいる。不動産評価にも災害リスクが考慮され つつある一方で、ハザードマップの公表や警戒区域の指定が不動産価値の低下につながることを 懸念する声もある。しかし、土地の災害安全性と不動産市場価値との関係は不明瞭で、災害リス ク情報の公表が地価へ与える影響は一時的なものとされている。また、成熟社会を迎え都市のコ ンパクト化が志向されており、集約・縮退候補地を選定する際に災害リスクを考慮することが望 まれるが、その実現には、他の指標や土地所有者の意向,不動産取引の実態等をふまえた総合的 な視点が欠かせない。 そこで本研究では、不動産市場をはじめとする社会が災害リスクをどう評価しているのか、そ の実態を明らかにするため、害発生や災害リスク情報の公表が地価へ与えた影響を示し、地価変 動に基づくリスク認知の実態把握の可能性を検証する。 研究対象地は、都市的土地利用が大半を占める神奈川県域とし、地価公示及び都道府県地価調 査データを GIS 上で整理する。主に津波浸水リスクを対象とし、2011 年 3 月(東日本大震災)等 を防災意識・リスク認知度が高まるターニングポイントと位置付け、地価評価地点の浸水深等の ハザードレベルも反映し地価変動との関係を分析する。災害リスク以外に地価に影響を与える変 数として「駅からの距離」「都心までの所要時間」「前面道路幅員」等を候補に、地価および地 価変化率の形成要因を分析し、災害リスクと地価変動との関係を明らかにする。 地価と説明変数のデータは、GIS 上で地理空間情報として整理しデータベース化する。地価は、 国土交通省国土数値情報ダウンロードデータを用い、周辺環境については、国土数値情報の他に 基盤地図情報の GIS データを用いるなど、公開されている既存データを活用し、効率的かつ客観 的に分析を行い、他の自然災害や他地域への適用も視野に手法の汎用化を目指す。 2.研究の経過 研究対象地は、主に神奈川県の相模湾に接する9市町(三浦市、横須賀市、葉山町、逗子市、 鎌倉市、藤沢市、茅ケ崎市、平塚市、大磯町)とした。沿岸部は津波浸水リスクを有し、内陸で は土砂災害リスクを有している。当該地域の地価公示データ1) と災害リスクデータ2)、 3)を GIS 上 で重ねあわせ、地価公示データの属性に「災害リスクの有無」を加えたうえで、ヘドニック・ア プローチによる地価形成要因分析を行った。 災害リスクの他に「駅からの距離」「都心までの所要時間」「地積」「容積率」「前面道路幅 員」「市街化調整区域」「都市ガス敷設状況」「下水道敷設状況」などを説明変数の候補とした (表1)。なお「建ぺい率」は「容積率」と強い相関関係にあったため説明変数から除外した。 また、業務地域と住宅地では地価の形成要因が異なると考えられるため、説明変数から「用途地 域」を除き、住宅地に限定することとした。さらに、災害の発生が地価に与えた影響を把握する ため、2011 年 3 月(東日本大震災)を防災意識・リスク認知度が高まるターニングポイントと位 置付け、震災前後の地価を対象に、地価変動と津波浸水リスクとの関係を分析した。

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表1.分析に使用した変数 変数 内容 被説明 変数 住宅地の地価 ・公示価格[円/㎡] ・公示価格の変動率[%] 説明 変数 駅からの距離 最寄駅までの距離[m] 都心への時間 最寄駅から山手線の駅までの所要時間(1) [分] 地積 土地面積[㎡] 容積率 延床面積の敷地面積に対する割合[%] 前面道路の幅員 前面道路の幅員[m] 調整区域ダミー 市街化調整区域は「1」、市街化区域は「0」 都市ガスダミー 都市ガス整備済は「1」、未整備は「0」 下水道ダミー 下水道整備済は「1」、未整備は「0」 津波浸水深 津波浸水想定図2)に基づく津波浸水深[m] 土砂災害ダミー 土砂災害警戒区域または土砂災害危険箇所3)内は「1」、他は「0」 ■本研究で用いた GIS データ 1) 国土交通省:国土数値情報・地価公示データ、平成 28 年度 2) 神奈川県:津波浸水想定図、平成 27 年 3 月 3) 神奈川県:土砂災害警戒区域データ(平成 28 年 3 月)及び土砂災害危険箇所データ 3.研究の成果 3-1. 地価形成要因分析 2016 年度の公示価格を被説明変数,津波・土砂災害リスクを含む地価形成要因(表1)を説明 変数として重回帰分析を行った(サンプル数 303)。結果を表2の左列に示す。 湘南地域の住宅地では,最寄駅からの距離や,最寄駅から都心部への所要時間,市街化調整区 域であることが 1%有意で地価に負の影響を,都市ガスが整備されていることや前面道路幅員が 5% 有意で地価に正の影響を与えていた。災害リスクに関しては「津波浸水深」は係数 0.139 で 1%水 準で有意であり、津波浸水深が大きいほど地価が高い結果となった。湘南地域では海に近い住環 境が津波リスクを超える魅力として捉えられていると考えられる。「土砂災害ダミー」は係数 -0.072 で 10%水準で有意であった。土砂災害リスクの有無が地価にわずかに影響を与えているこ とがわかった。 3-2. 地価変動率形成要因分析 東日本大震災の影響を確認するため、地価変動率を被説明変数として分析した。過去 10 年間に 新設・選定替えのあった調査地点を除く計 214 地点について、前年度地価に対する変動率の推移 (図1)を見ると、津波リスクのある調査地点の方が 2012 年以降の地価変動率が小さく下落傾向 が顕著であった。

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そこで、震災前後(2011~2016 年度)の地価変動率を被説明変数、津波・土砂災害リスクを含 む地価形成要因(表1)を説明変数として重回帰分析を行った(サンプル数 214)。結果を表2 の中央列に示す。最寄駅からの距離や、最寄駅から都心部への所要時間、市街化調整区域である ことが 1%有意で地価変動率に負の影響を、下水道整備が 1%有意で地価変動率に正の影響を与えて いた。「津波浸水深」は係数-0.172 で 1%水準で有意であり、地価を下げる要因となっている。 次に、比較対象として震災前の 5 年間(2006~2011 年度)の地価変動率を被説明変数として重 回帰分析を行った。結果を表2の右列に示す。最寄駅からの距離や、最寄駅から都心部への所要 時間が 1%有意で地価変動率に負の影響を、地積や都市ガス整備が地価変動率に正の影響を与えて いる。「津波浸水深」は係数 0.218 で 1%水準で有意であり、地価変動率を上げる要因となってい る。東日本大震災の発生を契機に、津波浸水リスクが湘南沿岸部の地価を下げる要因となったと 考えられる。 なお、「土砂災害ダミー」の係数は両期間ともマイナス値ではあるものの、有意差は認められ なかった。 図1.地価変動率の推移(津波リスクの有無別) 表2.地価・地価変動率形成要因分析(重回帰分析)の結果 -5.0% -2.5% 0.0% 2.5% 5.0% 7.5% 2 0 0 6 -2 0 0 7 2 0 0 7 -2 0 0 8 2 0 0 8 -2 0 0 9 2 0 0 9 -2 0 1 0 2 0 1 0 -2 0 1 1 2 0 1 1 -2 0 1 2 2 0 1 2 -2 0 1 3 2 0 1 3 -2 0 1 4 2 0 1 4 -2 0 1 5 2 0 1 5 -2 0 1 6 津波リスク無の平均値 津波リスク有の平均値 被説明変数 説明変数 偏回帰 係数 標準偏回帰 係数 偏回帰 係数 標準偏回帰 係数 偏回帰 係数 標準偏回帰 係数 駅からの距離[m] -11.771 -0.354 -7.699 ** -0.001 -0.278 -5.677 ** -0.001 -0.225 -3.461 ** 都心への時間[分] -2764.472 -0.403 -9.124 ** -0.373 -0.528 -11.579 ** -0.164 -0.255 -4.221 ** 地積[㎡] 0.574 0.007 0.153 0.006 0.048 1.101 0.023 0.207 3.542 ** 容積率[%] -33.699 -0.034 -0.810 0.001 0.006 0.140 -0.002 -0.020 -0.347 前面道路幅員[m] 2874.955 0.088 1.983 * -0.151 -0.028 -0.653 -0.367 -0.076 -1.315 調整区域ダミー -43372.944 -0.137 -2.860 ** 4.983 0.137 2.832 ** -3.335 -0.101 -1.574 都市ガスダミー 16831.861 0.128 2.465 * 0.891 0.062 1.156 2.258 0.173 2.434 * 下水道ダミー 5665.431 0.024 0.499 7.600 0.303 6.194 ** 1.422 0.063 0.963 津波浸水深[m] 6417.134 0.139 3.474 ** -0.812 -0.172 -4.135 ** 0.935 0.218 3.954 ** 土砂災害ダミー -13783.624 -0.072 -1.788 -1.077 -0.050 -1.202 -0.772 -0.039 -0.716 定数項 287300.438 12.022 ** 7.789 2.719 ** 0.374 0.109 修正済決定係数 ** 1%有意,* 5%有意 0.378 0.647 0.528 2016年 地価 (N=303) t 値 t値 2006-2011年 地価変動率 (N=214) 2011-2016年 地価変動率 (N=214) t値

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4.今後の課題 本研究では、地価変動に基づくリスク認知の実態把握の可能性を検証するため、神奈川県湘南 地域の住宅地における津波浸水・土砂災害リスクを対象に地価形成要因分析を行った。分析の結 果、災害リスクが地価に与える影響は小さいものの、土砂災害リスクが地価にわずかに影響し、 津波浸水リスクが東日本大震災後の地価変動率に影響したことが確認された。本研究の対象地は 災害リスクより「湘南ブランド」の影響が大きく表れている可能性があり、地方の沿岸域におい ても検討する必要があるが、地価は災害リスクの受け止め方を示す指標と捉えられ、地価の時系 列変化を観察することは、社会が災害リスクを認知する機会とその期間を把握することにつなが ると考える。 今後は、属性移動等もふまえ地価データを精査し、分析精度を向上させるとともに、東日本大 震災以外の災害発生や災害リスク情報の公表時期を詳細に整理し、地価変動を分析する予定であ る。神奈川県は東日本大震災後に津波浸水予測図(改定版)を全国に先駆け 2011 年 12 月に公表 しており、隣接する東京都や静岡県沿岸部の地価変動と比較することで、リスク情報開示の影響 を把握できると考える。また、土砂災害防止法(2001)に基づく土砂災害特別警戒区域や、津波 防災地域づくり法(2011)に基づく津波災害特別警戒区域では、開発行為や建築が制限される。災 害リスクを考慮した都市・地域再生を実現するためには、このような施策の影響・効果を継続的に確 認することが重要であり、区域指定時期と地価変動との関係を明らかにすることも有用と考える。 なお、浸水想定区域データ(国土数値情報・平成 24 年度)を用いて、説明変数に洪水浸水リスクを 加え類似の分析を行ったが、地価および地価変動率を下げる影響は確認できなかった(2)。神奈川県で は河川沿いの低地部に鉄道や幹線道路が集積している市街地も多く、災害リスクより利便性が評価さ れていると考えられる。今後、神奈川県外において災害発生や災害リスク情報の公表時期もふまえ、 分析を行う必要がある。 また、本研究では入手が容易な地価公示データを活用し、他の自然災害や他地域への適用も視 野に汎用的な手法の開発を目指した。今後は、路線価や実勢価格等も反映し、より実態に即した 分析手法の開発につなげる計画である。 ■本研究に関連した発表論文 (1) 稲垣景子、炭吉祐輝、佐土原聡:地価変動にみる災害リスク認知-神奈川県・湘南地域を対 象として-、地域安全学会梗概集、No.38、p.143-144、2016 年 6 月 (2) 炭吉祐輝、稲垣景子、吉田聡、佐土原聡:地価分析から見る自然災害リスクの社会的認知、 日本建築学会大会学術講演梗概集、F-1、2016 年 8 月(発表予定)

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