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研究紀要第241号

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研究紀要第241号

基礎学力の向上ときめ細かな指導を目指す

基礎学力の向上ときめ細かな指導を目指す

基礎学力の向上ときめ細かな指導を目指す

基礎学力の向上ときめ細かな指導を目指す

算数科における少人数指導の在り方

算数科における少人数指導の在り方

算数科における少人数指導の在り方

算数科における少人数指導の在り方

平成

平成

平成

平成 15

15

15

15 年

年 2

2

2

2 月

岡山県教育センター

岡山県教育センター

岡山県教育センター

岡山県教育センター

G3-02

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ま え が き

岡山県教育センターでは,教育に関する専門的,技術的事項の調査研究,教育関係職員の研修,教 育相談,教育情報の収集・蓄積・発信等の諸事業を行っております。特に,調査研究におきましては, 国の教育改革の動向と本県の教育課題を踏まえ,幾つかの研究主題を設定し,共同研究・個人研究を 行い,その成果の提供と普及に努めております。 完全学校週 5 日制の下,新学習指導要領は,小・中学校で平成 14 年度から全面実施され,高等学校 では平成 15 年度から学年進行で実施されます。「ゆとり」の中で「特色ある教育」を展開し,児童生 徒に豊かな人間性や自ら学び自ら考える力などの「生きる力」を育成することがねらいとなっていま す。特に,「心の教育」の充実と「確かな学力」の向上は教育改革の重要なポイントとされ,その実現 に向けて,各学校で新しい学校づくりの取り組みが推進されています。 学習指導要領の最低基準性が一層強調され,算数科においても,「基礎・基本の確実な定着」と「個 性を生かす教育の充実」が求められています。算数教育の究極の目的は,「創造性の基礎を培う」こと にあります。このことは,言い換えれば,これまでの算数教育の在り方を見直し,知識・技能の質を 高めることにほかなりません。これらを実現する有効な方策として,第 7 次公立義務教育諸学校教職 員配置改善計画により少人数指導が導入されました。しかし,少人数指導の授業実践はスタートした ばかりであり,学習集団の編成方法や指導方法などについて,具体的な考え方を求める声が多く出さ れております。 本研究では,これからの算数科の指導に求められている基本的な考え方を整理し,学習集団の規模 と教育効果に関する日本とアメリカの研究の比較分析,少人数指導及び課題選択学習の実践分析を通 して,少人数指導において留意すべき点や,これからの算数科の授業を充実させるための手掛かりを 示しております。 御高覧の上,御意見,御批判をいただくとともに,新学習指導要領の趣旨に沿う教育実践のための 資料として御活用いただければ幸いです。 終わりになりましたが,この研究を進めるに当たり,御協力をいただきました協力委員の先生方並 びに関係各位に厚くお礼申し上げます。 平成 15 年 2 月 岡山県教育センター所長 門 野 八 洲 雄

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目 次

研究の要旨 ···1

Ⅰ はじめに

···2

Ⅱ 研究の目的···

2

Ⅲ 創造性の基礎を培う算数教育···

3 1 「創造性の基礎を培う」授業をするために··· 3 2 創造性の基礎 ··· 3 (1)「多面的にものを見る力」とは··· 3 (2)「論理的に考える力」とは··· 3 3 算数の基礎・基本 ··· 4 (1)「数と計算」領域の基本となる考え方··· 4 (2)「量と測定」領域の基本となる考え方··· 5 (3)「図形」領域の基本となる考え方··· 5 (4)「数量関係」領域の基本となる考え方··· 5 4 数量や図形についての豊かな感覚 ··· 6 (1) 数についての豊かな感覚 ··· 6 (2) 量についての豊かな感覚 ··· 7 (3) 図形についての豊かな感覚 ··· 8

Ⅳ 算数科における少人数指導···

8 1 少人数指導等の多様な指導法の必要性 ··· 8 2 全国における少人数指導等の実施状況 ··· 8 3 岡山県における少人数指導等の実施状況 ··· 9 (1) ティーム・ティーチングの実施状況 ··· 9 (2) 少人数指導の実施状況 ··· 9 (3) 習熟度別指導の実施状況 ··· 9 4 効果的な学習集団の規模に関する考察 ··· 10 (1) アメリカのクラス・サイズに関する実験研究 ··· 10 (2) 日本における学級規模に関する調査研究 ··· 11 (3) アメリカと日本の研究結果から得られる知見 ··· 12

Ⅴ これからの算数授業のために···

13 1 実践例Ⅰから得られる知見 ··· 13 (1) 基礎・基本の確実な定着を目指したコース設定 ··· 13 (2) 習熟度別指導の効果 ··· 13 (3)「知識・理解」及び「表現・処理」の評価··· 14 2 実践例Ⅱから得られる知見 ··· 14 (1) 一つの評価方法に頼らない評価 ··· 14 (2) 一斉指導と少人数指導の効果との関係 ··· 15 3 実践例Ⅲから得られる知見 ··· 15 (1) ガイダンスの機能を持った自己診断テスト ··· 15 (2) 課題選択能力の育成 ··· 16 (3) 評価する意味 ··· 16

Ⅵ おわりに

···17 資料 少人数指導及び課題選択学習の実践 実践例Ⅰ 単元の終末に習熟度別指導を取り入れた例 ··· 18 実践例Ⅱ 少人数指導における評価を工夫した例 ··· 24 実践例Ⅲ 単元の終末に課題選択学習を取り入れた例 ··· 30

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基礎学力の向上ときめ細かな指導を目指す

算数科における少人数指導の在り方

A Small-class Arithmetic Instruction

to Develop Basic Skills and Accommodate Individual Differences

あらまし 本研究は,まず,これからの算数科の指導に求められている基本的な考え方を整理した。次に,学習集団の 規模と教育効果に関する日本とアメリカの研究を比較分析し,少人数指導が持つ潜在的な効果を生かすためには,従来 の指導方法を見直し改善していく必要があることを指摘した。実践からは,一斉指導を中心とした少人数指導では,特 定の児童にしか効果が現れにくいことや,習熟度別指導や課題選択学習におけるコース設定の仕方や評価の考え方につ いて多くの示唆を得ることができた。 キーワード 算数,少人数指導,学習集団の規模と教育効果,習熟度別指導,課題選択学習,評価

研究の要旨

本研究では,①これからの算数科の指導に求められ ている基本的な考え方の整理,②少人数指導の実施状 況の整理及び学習集団の規模と教育効果に関する日本 とアメリカの研究の比較分析,③少人数指導及び課題選 択学習の実践分析の3点を行い,その中で,少人数指導 において留意すべき点や,これからの算数科の授業を 充実させるための手掛かりを示した。 以下,研究の概要を簡単に述べる。

創造性の基礎を培う算数教育

算数科の指導における基本的な考え方については, 第Ⅲ章「創造性の基礎を培う算数教育」の中で述べて いる。ここでは,これからの算数教育を進める上で重 要な次の 3 点について整理した。 1 点目は,「創造性の基礎」として,「多面的にもの を見る力」と「論理的に考える力」の二つを挙げ,そ れぞれの力について述べた。2 点目は,算数科におけ る基礎・基本について,坪田耕三(2002)の考えを基 に,具体的な例を加えながら整理した。3 点目は,数 量や図形についての豊かな感覚について,「数と計算」 「量と測定」「図形」の 3 領域における具体的なとら え方を示した。

算数科における少人数指導

少人数指導の実施状況の整理及び学習集団の規模と 教育効果に関する日本とアメリカの研究の比較分析に ついては,第Ⅳ章「算数科における少人数指導」の中 で述べている。 少人数指導の実施状況の整理では,全国的に算数科 に注目が集まっていること,岡山県では,習熟度別指 導に対する取り組みはまだ多くの学校で様子見という 状況であるが,少人数指導等の加配がある学校におい ては,約半数の学校が習熟度別指導を取り入れていこ うとしていることが明らかになった。 また,少人数指導を効果的に進めるための学習集団 の規模については,テネシー州で実施された STAR 計 画及びチャレンジ計画を始めとする代表的な実験研究 と日本における学級規模と教育効果に関する代表的な 調査研究の比較分析を基に,単に少人数の学習集団を 編成しただけでは少人数指導の効果はほとんど期待で きないことや,効果を得るためには,その学習集団に 合った指導方法を用いる必要があることを指摘した。

これからの算数授業のために

少人数指導及び課題選択学習の実践分析については, 第Ⅴ章「これからの算数授業のために」の中で述べて いる。ここでは,先に述べた基礎的な理論を背景に, 3 名の協力委員に依頼した少人数指導及び課題選択学 習の実践について,授業者とは異なる視点から分析し, これからの算数科の授業について重要な示唆を与えて いる部分を探った。 その結果,実践例Ⅰでは,基礎・基本の確実な定着 を目指す一つの方法として,補充的な学習のコースを 複数設定した習熟度別指導が考えられること,「知識・ 理解」及び「表現・処理」の評価については,市販の テストも活用の方法を工夫すれば現実的な評価方法の 一つとなることを指摘した。 一方,実践例Ⅱでは,客観的な評価をするためには, 複数の評価方法を用いる必要性があること,また,少 人数指導における学習集団の編成と教育効果の関係に ついては,機械的に分割するのではなく,教師が意図 的に均質な学習集団を編成しても,指導方法が一斉指 導中心である場合,ペーパーテストの得点が伸びるの は,その授業のレベルに合った特定の児童だけになる 可能性が高いことを指摘した。 また,実践例Ⅲでは,いかに算数の指導に自信があ る教師でも,客観的に授業を振り返る資料がなければ, 日々の実践から児童の学力を固定的にとらえてしまう 可能性があることを指摘した。 以上,本研究の概要を簡単に述べた。少人数指導が 持つ潜在的な効果を生かすためには,教師一人一人が 質の高い授業ができる力を持つことが何よりも重要で ある。本研究が,先生方の授業力を高める一助になれ ば幸いである。

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研究の概要

本研究では,まず,これからの算数科の指導に求められている基本的な考え方を整理した。次に,学習集 団の規模と教育効果に関する日本とアメリカの研究を比較分析し,少人数指導が持つ潜在的な効果を生か すためには,従来の指導方法を見直し改善していく必要があることを指摘した。実践からは,一斉指導を中 心とした少人数指導では,特定の児童にしか効果が現れにくいことや,習熟度別指導や課題選択学習にお けるコース設定の仕方や評価の考え方について多くの示唆を得ることができた。 キーワード 算数,少人数指導,学習集団の規模と教育効果,習熟度別指導,課題選択学習,評価

Ⅰ はじめに

今,算数は20 年ぶりのブームと言われている。 実際,全国で少人数指導又はティーム・ティーチン グを「算数」で実施している学校は9,956 校にのぼ る。これは,平成13 年度にスタートした第 7 次公 立義務教育諸学校教職員定数改善計画(以下「改善 計画」と言う。)により加配措置のあった小学校 10,618 校の 93.8%に当たり,2 番目に実施が多い教 科の「国語」(2,743 校,全体の 25.8%)と比較して, 明らかに算数に注目が集まっていることが分かる1) 文部科学省は,平成元年度の学習指導要領を改善 するに当たり,当初,内容の「精選」という文言を 使っていたが,いつのころからか「厳選」という文 言を使うようになった2)。また,大学の研究者が出 版した書物を始め,多くの場で「学力低下」の問題 が論議されるようになった。特に算数が注目を集め ているのは,これらのことと無関係とは言えないで あろう。 基礎・基本の確実な定着は,算数科に限らず義務 教育段階での指導の基本と言える考え方である。し かし,基礎・基本の確実な定着と言えば,すぐさま ドリル学習に走る傾向も見られ,これまで子どもた ちがじっくり考える授業を大切にしてきた教師さえ も,自分の授業が問題解決を中心としたもので本当 によいのかという疑問を抱き始めていることは,大 変危惧ぐされることである。また,学習指導要領の最 低基準性から,算数科の基礎・基本が児童に確実に 身に付いたかどうかを客観的に評価することが今ま で以上に求められており,各学校においては,評価 規準の作成が急務の課題となっている。しかし,現 実には評価規準を作成すること自体が目的となって いる場合も少なくない。 このような状況の中,算数科の指導に今最も求め られていることは,学習指導要領に示された目標や 内容の正しい理解と教師の授業力の向上である。評 価規準を作成するにも,実際の場面で客観的な評価 に基づいた指導をするにも,まずは教師自身の力量 を高めなければならない。

Ⅱ 研究の目的

学習指導要領の最低基準性が一層強調され,算数 科においても「基礎・基本の確実な定着」と「個性 を生かす教育の充実」が求められている。そこで, 第7 次改善計画では,これらを実現する有効な方策 として少人数指導を導入した。しかし,少人数指導 の授業実践はスタートしたばかりであり,少人数指 導における学習集団の編成方法や指導方法などにつ いて具体的な考え方を求める声が多い。 そこで,本研究では,次の3 点について研究を行 い,少人数指導において留意すべき点や,これから の算数科の授業を充実させるための手掛かりを示す ことを目的とした。 1 これからの算数科の指導に求められている 基本的な考え方の整理 ・創造性の基礎を培うとは ・算数科における基礎・基本のとらえ方 ・数量や図形に対する豊かな感覚 2 少人数指導の実施状況の整理及び効果的な 学習集団の規模に関する日米の研究の比較分析 ・全国と岡山県における少人数指導等の実施状況 ・アメリカにおけるクラス・サイズ縮小と教育効果に 関する実験研究と日本における学級規模と教育効 果に関する調査研究の比較分析 3 少人数指導及び課題選択学習の実践分析 ・単元の終末に習熟度別指導を取り入れた実践の分析 ・少人数指導における評価を工夫した実践の分析 ・単元の終末に課題選択学習を取り入れた実践の分析

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Ⅲ 創造性の基礎を培う算数教育

1 「創造性の基礎を培う」授業をするために

算数科の究極の目的は「創造性の基礎を培う」 ことである。伊藤説朗(2002)は,学校教育にお ける創造性について述べたE.A.Silver(1997)の 論文を引用した上で,創造性の基礎を培うための 活動は,毎日の算数の中にたくさん含まれている ことを指摘している3)。しかし,実際には,どの ような見方や考え方を育てることが「創造性の基 礎を培う」ことになるのかを意識して授業してい る教師は非常に少ないと思われる。当然のことで はあるが,「創造性の基礎を培う」算数の授業を 展開していくためには,まず「創造性の基礎とは 何か」を指導者が十分に理解しておく必要がある。

2 創造性の基礎

小学校学習指導要領解説算数編には,創造性の 基礎として「多面的にものを見る力」と「論理的 に考える力」の二つが示されている。これらの力 を育てるためには,教師自身がこれらの力を持っ ていなければならない。 (1)「多面的にものを見る力」とは 「多面的にものを見る力」とは,数量や事象を 他と関連させたり,いろいろな視点から見たりす ることができる力のことを指す。一例を次に示す。 ① 数を多面的に見る力 例えば,「8」という数を考えてみよう。第 1 学 年では,数の合成分解を学習する。すると,児童 は,「8」という数を「5 と 3 を合わせた数」と見 たり「10 より 2 少ない数」と見たりすることがで きるようになる。また,第2 学年でかけ算の学習 をすれば,「2×4」や「8×1」と見たり,第 3 学 年でわり算を学習すれば,「16÷2」と見たりでき るようになる。 このように一つの数を多様に見ることができ る力が「数を多面的に見る力」である。 ② 式を多面的に見る力 例えば,「37×99」の計算は,99 を(100−1) と見れば,計算が非常に簡単にできる。また,「1 +2+3+…+8+9+10」の計算(ガウスの計算) の仕方を児童に考えさせると,「1 と 10,2 と 9 …と見て,11×5」と考えたり「1 と 9,2 と 8… と見て,10×5+5」と考えたりするであろう。 このように一つの式を多様に見て計算できる 力が「式を多面的に見る力」である。 ③ 図形を多面的に見る力 算数科では正方形,長方形,直角三角形,正三 角形,二等辺三角形,台形,ひし形などの平面図 形を学習する。図形に対する理解を深めるために, 「仲間分け」の活動を取り入れることがある。 例えば,次のような図形(台形は等脚台形とす る)の仲間分けをさせると,通常は「三角形」「四 角形」「円」と分類するのが一般的であろう(図 1)。 三角形 四角形 円 図 1 平面図形の一般的な分類 しかし,児童が「すべて同じ仲間」と発言した とすると,教師はこの意見をどう扱うであろうか。 円と正三角形は明らかに異なる図形に見える。 一方は直線で囲まれた形であり,一方は曲線で囲 まれた形である。このような発言を聞いた周囲の 児童も,「それはおかしい」という反応を多く見 せるであろう。教師も「そうかな。ほかの分け方 も考えてみよう」とつい助言しそうである。 実は,図 1 で仲間分けした図形をよく見ると, すべて線対称になっていることが分かる。つまり, この児童は,「折ればぴったり重なる」というこ とを根拠に,「同じ仲間」と発言したのである。 このようにいろいろな視点から図形を見るこ とができる力が「図形を多面的に見る力」である。 (2)「論理的に考える力」とは 「論理的に考える力」とは,明確な根拠を示し ながら,考えを進めることができる力のことを指 す。論理的に考える際に用いる代表的な考えとし ては,次に示す三つの考えが挙げられる。 ■帰納的な考え 幾つかの具体的な例に共通な 一般的な事柄を見いだす考え ■類推的な考え 既習の内容との類似性に着目 して新しい事柄を見いだす考え ■演繹的な考え 既に証明されている事柄を基 に,別の新しい事柄を証明する考え

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3 算数の基礎・基本

算数の基礎・基本については,様々な研究者が その解釈を述べているが,大別すると「基礎と基 本を分けずにとらえる」考え方と「基礎と基本を 分けてとらえる」考え方に二分される。 前者の代表的な考え方は,小学校学習指導要領 解説算数編で示されている。これによれば,算数 の基礎・基本は「子どもたちのいろいろな活動の 基になる大切なもの」と説明されている。いろい ろな活動とは,算数の学習場面はもとより,日常 生活で算数を活用する場面も含んでいる。さらに, 同解説書を読み進めれば,児童の将来の社会生活 や生涯にわたっての活動も視野に入れ,非常に大 きなとらえ方をしていることが分かる。 一方,後者の代表的な考え方は,筑波大学附属 小学校の坪田耕三(2002)が示している。坪田は, 「基礎とは,たし算が習得されれば,それを基礎 としてかけ算が発展として現れる。このように基 礎は,一つ一つの内容が次々と土台をつくりなが らその上に積み重なっていくものである。基本は, 一本の幹のように下から上まで中心を貫く考え 方のことである」4)と説明している。特に,算数 科における「基本」は,各領域に一つずつ存在す るとしており,系統性の強い算数科の特徴を考え れば,坪田の考え方は非常に分かりやすく参考に したい(図 2)。 次項から,各領域における基本について,この 坪田の考えを基に,具体的な例を加えながら説明 する。 (1)「数と計算」領域の基本となる考え方 「数と計算」領域において,6 年間を貫く考え 方は,「十進位取り記数法の原理に従い,数を操 作すること」である。整数,小数,分数の加法, 減法,乗法,除法は,すべてこの十進位取り記数 法の原理が基になっている。 例えば,第2 学年では,2 位数までの加法とそ の逆の減法の筆算を学習する。児童は,具体的な 場面を思い浮かべながら,この計算の仕方を考え ていく中で,2 位数同士の計算が,筆算を用いれ ば,1 位数同士の計算だけでできるというよさを 発見していくのである。具体的には,「38+27」 という2 位数同士の計算であれば,「8+7」「3+2」 という1 位数の計算だけで答えを導くことができ る。このような簡単な手続きで形式的に計算がで きるのは,この計算方法が十進位取り記数法に基 づいているからである。 十進位取り記数法のよさは,加法,減法,乗法, 除法の学習を通して,それぞれの計算の仕方を考 えたり,筆算を用いたりして問題を解決する中で, 児童自身に気付かせていくことが重要である。 筆算の学習は,形式的な計算方法を教師が一方 的に説明し,後はその手続きに基づいて計算練習 を行うという形になりやすいが,次のような計算 を発展的な学習として扱うなど,指導が形式的に ならないようにしたい。 例えば,第3 学年では,2 位数同士の乗法を学 習する。その発展的な学習として,「速算」を扱う ことが考えられる。「25×25」や「35×35」など の計算のように,十の位が同じ数字でかつ一の位 が5 になっているものは,下のようにすれば簡単 に答えを出すことができる。 3 5 × 3 5 1 2 2 5 実際の授業では,まず,幾つかの計算(「25× 25」「35×35」「45×45」など)を速算する様子 を教師が見せる。その後,児童が「なぜ,そんな に速く計算ができるのだろうか」と疑問を持った ところで,「速く計算できるひみつを探ろう」と か「ほかにもできる計算があるか考えよう」とい った課題を提示すればよい。 実は,この「速算」は,一の位が5 でなくても, 一の位の和が10 になっていれば同じ方法で計算 が可能である。児童にこのような学習をさせる場 【数と計算】領域 十進位取り記数法の原理に従い,数を操作する 【量と測定】領域 単位を決めて,その幾つ分で数値化する 【図形】領域 概念の形成過程を自らつくり出す 【数量関係】領域 いつでも成り立つきまりを見いだす 図 2 各領域に貫かれている基本となる考え方 5×5=25 3×4=12 (3+1)

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合大切なことは,速く計算できる理由を,教師は 十進位取り記数法の仕組みに基づき,児童に分か りやすく説明できる力を持っていることである。 一例として「36×34」の速算を紹介する。積 「1224」の「12(意味は 1200)」が「3×4(意 味は30×40)」の計算で求まることは,次のよう に筆算の部分積に着目すれば説明できる。 (2)「量と測定」領域の基本となる考え方 「量と測定」領域において,6 年間を貫く考え 方は,「単位を決めて,その幾つ分で数値化する こと」である。長さ,面積,体積,その他どのよ うな量であっても,それらの量の大きさを求める ということは,基本の単位を決め,その幾つ分か を数を使って表現することである。 第1 学年では,長さの直接比較,間接比較の学 習の後,これらの方法では,どれだけ長い(短い) かについては表現しにくいことから,任意単位に よる測定の学習を行い,長さを数値化することの よさに気付くようにさせる。 例えば,次の図のように同じ長さの鉛筆を並べ, その数で板の長さを表現することがある。 この場合,実際の授業では,児童が鉛筆を板に 沿って並べて測る活動をする中で,例えば「5 鉛 筆」といった表現で板の長さを表すことを期待し たい。 測定の指導の順序としては,一般的に,任意単 位を導入した後,だれもが共通に扱える新たな単 位が必要であることに気付かせ,普遍単位を導入 するが,「測定」の基本的な概念は,「任意単位の 測定」の学習の中にその大部分が存在するため, 第1 学年から第 2 学年にかけて学習する「長さ」 の単元の学習は,特に丁寧な指導が望まれる。 (3)「図形」領域の基本となる考え方 「図形」領域において,6 年間を貫く考え方は, 「概念の形成過程を自らつくり出すこと」である。 図形の学習では,基本的に「比較」「抽象(捨象 も同義)」「概括(まとめること)」の3 段階を経 てその概念を理解していくことが基本となる。 例えば,第2 学年では,三角形と四角形につい て学習する。三角形という図形を理解させるには, まず,三角形ではない形と「比較」させることが 重要である。次に,色や大きさといった図形を構 成している要素ではないものを「抽象」し,三角 形とそうでないものに分類していく。そして,最 終的に共通している点を「概括」し,「三角形は, 3 本の直線で囲まれた形である」という定義に導 く。これは,立体図形についても同様である。 36 ×34 24・・・ 6×4 120・・・ 30×4 180・・・ 6×30 30×40 900・・・ 30×30 (4+6+30) 1224 (4)「数量関係」領域の基本となる考え方 「数量関係」領域において,6 年間を貫く考え 方は,「いつでも成り立つきまりを見いだすこと」 である。数量関係の学習で大切なのは「関数の考 え」である。「関数の考え」とは,数量や図形に ついて,それらの変化や対応の規則性に着目して 問題を解決する考えのことである。 例えば,紙を折ったときの折り目の数を求める 下の図のような問題は,この「関数の考え」を身 に付けさせるよい問題と言える。 下の図のように,紙を同じ方向にくり返し折っ ていきます。 6 回折ったときの折り目の数を求めましょう。 指導に当たっては,①依存関係に着目すること, ②関数関係のきまりを見付けたり,用いたりする こと,③関数関係を表現することの3 点が重要で ある。特に,①の指導が欠落している授業が多く, 気を付けたい。すなわち,何が変われば何が変わ るのか,何が決まれば何が決まるのかといった依 存関係にある数量が何かは,教師が提示するので はなく,児童自身が見付けることなのである。

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4 数量や図形についての豊かな感覚

ある調査によれば,「2400 ㎝2は,教室の広さと 机(児童用)の広さのどちらの広さでしょうか」 という問いに対して,第6 学年の児童の約 60%が 教室の広さと回答したという。第4 学年で面積の 学習をする際に,自分の机の広さを実際に測定す る活動をした経験があれば,もっと高い正答率が 得られたと考えられる。算数の基礎・基本を確実 に定着させるためには,算数的活動を工夫し,数 量や図形についての豊かな感覚を育てることが 大切である。 (1) 数についての豊かな感覚 数についての豊かな感覚は,おおむね次の4 点 と考えられる。 ① 数の構成に着目する 「数の構成に着目する」とは,大きくは「数の 多面的な見方」と「数の相対的な見方」に分けて 考えられる。「数の多面的な見方」については, その例を先に述べたので,ここでは「数の相対的 な見方」について簡単に説明する。数を相対的に 見るということは,言い換えれば一つの数を0.1, 1,10,100,1000 といった単位の幾つ分と見る こと(単位の考え)である。例えば,3/7 は,1/7 の三つ分と見ることができるようにする。3/7+ 2/7 の計算は,1/7 を単位にすると,3+2 という 整数の計算に帰着できる。小数の計算についても 同様である。 ② 数の増え方のリズムを感じる 第1 学年では,ものの数を 2 飛び 5 飛びで数え ることがある。授業では,児童が,「二,四,六, 八…」や「五,十,十五…」のように,リズムよく 数えている姿が見られるような算数的活動を考 えたい。例えば,第1 学年では 100 までの数を学 習する。その際に図 3 のようなプリントを用意す ると児童は様々な工夫をして数えるようになる。 授業では,図 3 のプリントと雪だるまの数を一 つだけ少なくしたプリントを用意し,ランダムに 配付する。こうすると,当然,実際に数えると, ある子どもは「30 の雪だるま」と言い,ある子ど もは「29 の雪だるま」と言う状態が起こる。 雪だるまは いくつある? 図 3 第 1 学年「100 までの数」プリント 自信を持って答えた子どもは,自分が数えた結 果と異なる結果を発表した子どもの意見を聞い て,必ず数え直しをするようになる。その際,2 個や5 個ずつ○で囲んだり,数えた雪だるまにチ ェックをしたりするなどいろいろと数え方を工 夫する姿が見られる。 ① 数の構成に着目する ② 数の増え方のリズムを感じる ③ 数のおよその大きさをとらえる ④ 数の並び方の規則性を見付ける プリントの準備に掛かる時間はわずかなもので ある。しかし,たったこれだけの工夫で授業は見 違えるほど内容の濃いものに変容するのである。 数をリズムよく数える経験は,第2 学年でのかけ 算の重要な基礎となるため,特に算数的活動の工 夫が期待される。 ③ 数のおよその大きさをとらえる 例えば,304.15×18.73 を電卓で計算したとす る。正しく答えが表示されていることを300×20 が6000であることから判断できるようにしたい。 このかけ算は,平成5,6 年度に文部省が実施 した「教育課程実施状況に関する総合的調査研 究」の中で第5 学年の問題として実際に使われた ものである。同調査では,およその計算を書かせ た上で,正答を「①570,②5697,③56967,④ 569673」の中から選択させている。調査結果を見 ると,この問題の通過率は24.6%であり,たいへ ん低いことが分かる。報告によれば,約46%の児 童が,概算をせず正確な計算を筆算で求めようと しており,300×20=6000 とおよその計算をした 児童は,わずか8.0%であったとしている。 電卓やコンピュータは,今後更に日常生活のあ らゆる場面で活用されるであろう。したがって, このような数に対する感覚を生かして,適切に用 いることができる力の育成は,一層重視する必要 がある。

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④ 数の並び方の規則性を見付ける 第1 学年では,10 の合成と分解を学習する。例 えば,「たして10 になる式」を子どもたちに発表 させると,「5+5」「1+9」「2+8」などこれまで 学習したことを基にいろいろな式を出すであろ う。教師は,これを意図的に次のように並べて板 書することで,児童は「数がきれいな規則性(パ ターン)を持って並んでいる」ことに気付くよう になる。この式を,数図ブロックなどを用いて表 し直すと,規則性の美しさが図形としても現れ, 数に対する豊かな感覚を育てることだけにとど まらず,図形に対する豊かな感覚を育てることに もつながる(図 4)。 第1 学年及び第 2 学年には,「数量関係」の領 域が設けられていないが,このように低学年にお いても,関数的な見方の素地を養う算数的活動を 工夫していくことが大切である。 (2) 量についての豊かな感覚 「量と測定」の領域においては,量についての 豊かな感覚を育てることが重要である。長さ,重 さ,広さなどの量について学習することを通して, いろいろな量の大きさについての量感を持った り,豊かな感覚を適切に働かせたりできるように したい。 例えば,長さについての豊かな感覚とは,次の 四つのことができるようにする必要がある。 量についての豊かな感覚を育てるためには,日 常生活における事象と関連付けた,作業的・体験 的な算数的活動を工夫することが大切である。 教科書には,量感を育てるための算数的活動が 写真を用いて分かりやすく例示してある。具体的 には,重さの学習での「1 ㎏の砂袋づくり」(啓林 館 3 年下),面積の学習での「模造紙などで作成 した1m2の紙の上に乗る活動」(教育出版4 年下) や「児童机四つで1m2づくり」(東京書籍4 年下) などがその一例として挙げられる(図 5)。 量についての豊かな感覚を育てるには,こうし た児童の身近な素材や生活の場を利用した算数 的活動が必要不可欠であり,教科書で取り上げて いる活動をヒントに,多様な活動を工夫すること が重要である。例えば,「1m2づくり」の活動は, 新聞紙を図 6 のように折り,4 枚つなげると,定 規を使わず簡単に1m2を作成することができる。 1+9=10 2+8=10 3+7=10 4+6=10 5+5=10 6+4=10 7+3=10 8+2=10 9+1=10 ■□□□□□□□□□ ■■□□□□□□□□ ■■■□□□□□□□ ■■■■□□□□□□ ■■■■■□□□□□ ■■■■■■□□□□ ■■■■■■■□□□ ■■■■■■■■□□ ■■■■■■■■■□ 図 4 たして 10 になる式(第 1 学年) 図 5 教科書に見られる算数的活動 ① 長さの大きさをとらえることができる ② 長さの見当付けができる ③ 基本的な単位の量の大きさについて,およそ の大きさを示すことができる ④ 適切な単位や計量の選択ができる 図 6 新聞紙 4 枚で 1m2を作る

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(3) 図形についての豊かな感覚 図形についての豊かな感覚とは,おおむね次の 4 点ができることと考えられる。 基礎・基本の確実な定着 基礎・基本の確実な定着 児童の個性の理解 創造性の基礎の育成 創造性の基礎の育成 多様な指導方法 興味・関心 能力 適性 少人数指導 習熟度別 指導 ティーム・ ティーチング 図 8 児童の個性の理解と多様な指導方法 小学校 中学校 45.5% 74.0% 54.3% 合計 図 9 少人数指導等の実施状況(全国) 基本的な図形について理解する上で,図形を敷 き詰めたり,敷き詰められた図形を観察したりす る活動は大切である。 平面図形を敷き詰める活動のねらいは,「幾何 学模様の美しさを味わう」,「平面の広がりについ て理解する」,「図形に関する性質を見いだす」の 3 点にある。 また,図形に対する豊かな感覚を育てる教具と しては,パターンブロックを導入することも有効 である。パターンブロックとは,正六角形(黄色), 台形(赤),ひし形(青,白)の 2 種類,正三角 形(緑),正方形(だいだい)の 6 種類からなる 木製のブロックである。特徴としては,各図形を 構成している辺の長さは,台形の長辺が2 インチ であることを除くと,すべての辺が1 インチの長 さで構成されていることや,すべてのブロックの 厚さが1㎝,また,各図形の角度が,30°の倍数 になっていることが挙げられる。 図 7 は,パターンブロックを使った,正六角形 の構成と分解である。この活動は,実は,対角線 をひいていない正六角形でも,その中に,正三角 形,台形,ひし形が見える力を育てているとも考 えられる。

Ⅳ 算数科における少人数指導

1 少人数指導等の多様な指導法の必要性

① ものの形を認めたり,その特徴をとらえたり することができる。 ② 身の回りにある幾何学模様などの図形的な 美しさに気付くことができる。 ③ 図形を構成したり,分解したりする見通しを 持つことができる。 ④ 図形を多様な観点から見ることができる。 教育課程審議会答申(平成10 年 7 月)に示さ れている教育課程の基準の改善のねらいや,学習 指導要領の総則には,従来の指導方法を見直し改 善していくことが今まで以上に強調されている。 児童一人一人に,基礎的,基本的な内容を確実 に身に付けさせ,創造性の基礎を培い,主体的, 能動的な児童を育成するためには,児童一人一人 の個性(興味・関心や適性及び思考力,判断力, 表現力等の能力)を十分にとらえ,指導方法を工 夫し,個に応じた多様な教育を展開することが不 可欠である。その重要な方策がティーム・ティー チングであり,少人数指導の導入である(図 8)。

2 全国における少人数指導等の実施状況

文部科学省初等中等教育局財務課によれば,平 成13 年度に少人数指導及びティーム・ティーチ ングを実施した公立小学校は,10,618 校(全体の 45.5%)である(図 9)。 ■構成 ■分解 また,同調査によれば,少人数指導等を実施し ている学年は中,高学年が最も多いことが報告さ れている(図 10)。 さらに,少人数指導等を実施している教科につ いては,算数を挙げた学校が他の教科と比べて圧 図 7 正六角形の構成と分解

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0% 20% 40% 60% 80% 100% 算数 国語 理科 生活 総合 体育 社会 音楽 図工 家庭       実施学校数 10,618校(小学校) 25.8% 93.8% 18.7% 11.9% 図 11 少人数指導等の実施教科(全国) 0% 20% 40% 60% 80% 100% 1年 2年 3年 4年 5年 6年       実施学校数 10,618校(小学校) 70.1% 64.9% 66.9% 58.1% 倒的に多く,まずは理解や習熟の程度に顕著な差 が見られる算数科において実施しようとする学 校側の意図が読み取れる(図 11)。 図 10 少人数指導等の実施学年(全国)

3 岡山県における少人数指導等の実施状況

ここでは,平成14 年 5 月に岡山県が実施した 「平成 14 年度教育課程の実施に関する調査」の 集計結果等を基に,県内の小学校における少人数 指導等の実施状況について,その現状をまとめる。 岡山県では,第6 次改善計画に基づき,平成 5 年度よりティーム・ティーチングのための教員加 配をスタートさせた。平成14 年度は,第 7 次改 善計画により,ティーム・ティーチングの実施の ために104 人(学校数 104 校)の教員を,少人数 指導の実施のために77 人(学校数 77 校)の教員 を加配措置している(いずれも小学校)。 (1) ティーム・ティーチングの実施状況 ティーム・ティーチングは,県内の小学校444 校のうち347 校(全体の 78.2%)が実施している (図 12)。平成14 年度の加配校数は 104 校(全 体の23.4%)であることを考えれば,各学校にお いては専科の教員や外部の人材を活用してティ ーム・ティーチングを積極的に取り入れていこう とする傾向が読み取れる。 (2) 少人数指導の実施状況 少人数指導は,県下の小学校444 校のうち 192 校(全体の42.3%)が実施している(図 13)。少 人数指導の加配校数は 77 校であることを考えれ ば,ティーム・ティーチングのみの加配があった 学校においても,何らかの形で少人数指導を工夫 実施していることが予想される。 (3) 習熟度別指導の実施状況 習熟度別指導は,県内の小学校444 校のうち 21 校(全体の4.7%)が実施している(図 14)。実施 予定と回答した77 校を加えても,全体の 22.1% であり,習熟度別指導への取り組みはまだ様子見 という状況である。しかし,図 13 で少人数指導 を実施していると回答した192校に限定して習熟 度別指導への取り組み状況を見ると,実施もしく は実施予定の学校数は,少人数指導を実施してい る学校192 校の 51.0%となり,2 校に 1 校の割合 で習熟度別指導へ目が向いていることが分かる。 工夫実施(176校) 未実施(97校) 加配中心(171校)

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図 12 ティーム・ティーチングの実施状況 工夫実施(87校) 未実施(252校) 加配中心(105校)

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図 13 少人数指導の実施状況

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実施予定(77校) 予定なし(346校) 実施(21校) 図 14 習熟度別指導の実施状況

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4 効果的な学習集団の規模に関する考察

少人数指導を効果的に実施するには,学習集団 をどのように構成するかについて十分に考える 必要がある。ここでは,アメリカの教育史上最も 偉大な実験の一つと言われているテネシー州で の調査研究を始めとした幾つかの実験研究と日 本で実施された調査研究結果を比較し,少人数指 導を効果的に進める学習集団の規模について考 察する。 図 15 グラス・スミス曲線 (1) アメリカのクラス・サイズに関する実験研究 アメリカ教育省が,1998 年 6 月に発表した「少 人数クラスと教師の質の向上」5)では,ここ20 年 間にわたり全米で実施されてきているクラス・サ イズに関する実験研究について述べている。 以下,ここで報告されている代表的な実験研究 を紹介するが,この中で用いている「クラス・サ イズ」という文言は,「学習集団の規模」と同義 と考えてよい。その根拠は,「Class Size」を直訳 すると「学級集団規模」であるが,アメリカでは, 1957 年にティーム・ティーチングが導入されて以 来「Class Size」に関する研究は,「学級集団」を 対象にしたものに加え「学習集団」を対象にした ものが含まれていること,中等学校では,我が国 で言う「学級集団」は存在しないことにある6) ① 代表的な実験研究の概要 ア グラスとスミスの「メタ・アナリシス」 この研究は,グラスとスミスが「クラス・サイ ズと成績に関する77 の実験的研究」をまとめた ものである。グラスとスミスは,「学習到達度」「教 師の満足度」「子どもの情緒面に与える影響」の 三つの要素と「学習集団の規模」との関係を図 15 に示すグラフにまとめた。 グラスとスミスは,この調査結果を基に,次に 挙げる三つの結論を導き出している。 ・「子どもの情緒面に与える影響(Affect)」と「学 習到達度(Achievement)」は,20 人を境にし て,小さいクラス・サイズで著しく高くなる。 ・「学習到達度(Achievement)」は,クラス・サ イズが10 人以下で更に著しく高くなる。 ・「教師の満足度(Teacher Satisfaction)」は, 30 人を割るクラス・サイズから高くなる。 イ テネシー州での実験研究 テネシー州で実施されたSTAR 計画(Student Teacher Achievement Ratio)とチャレンジ計画 (Project Challenge)は,現在において最も完全 でよく設計されたクラス・サイズ縮小の効果に関 する研究と言われている。特に,1985 年に始まっ たSTAR計画がとった調査方法は,極めて制御さ れた信頼性の高い手法であり,その調査結果の信 憑 ぴょう 性は高い。また,この調査は1989 年から,持 続効果研究と呼ばれる追跡調査が始まり,その研 究は今でも継続中である7) ■STAR 計画■ STAR 計画は,テネシー州の幼稚園,第 1,2, 3 学年のクラス(79 校 300 クラス,7000 人以上 の幼児児童を対象)について1985 年から 4 年間 にわたり追跡調査したものである。この調査は, 幼児児童数が13 人∼17 人のクラスを「少人数ク ラス」,22 人∼26 人のクラスを「多人数クラス」 とし,両者の効果の違いを比較している。 この実験研究では,次のことが明らかにされた。 ・標準化されたテスト(スタンフォード達成度テ スト),カリキュラムに基づいたテスト(基礎能 力優先試験)の両方において,少人数クラスの 児童は多人数クラスの児童を大幅に上回る成績 であった。 ・教員助手が付くか付かないかに関係なく,多人 数クラスの児童の成績に,大きな変化は見られ なかった。 また,この実験研究の後実施された持続効果研 究では,第3 学年までに少人数クラスで指導を受 けた児童が,その後どのような状況かを調査して いる。その結果,第4 学年では,それまで少人数 クラスにいた児童は,全教科において多人数クラ

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スにいた児童の成績を超えていること,授業態度 もよかったこと,さらに,少なくとも第8 学年に 至るまで,効果は徐々に減少傾向にあるものの, 少人数クラスにいた児童は,より高い成績レベル を維持していることが明らかにされた。 ■チャレンジ計画■ チャレンジ計画は,1990 年から開始された実験 研究である。この研究は,STAR 計画によって得 られた調査結果を用い,16 の最も貧困な学区でク ラス・サイズの縮小を実施した効果をテネシー州 全体で行われる達成度試験の結果から検証して いる。その結果,第2 学年の「リーディング」及 び「算数」の成績にクラス・サイズ縮小の効果が 見られたとしている。 ウ その他の州における実験研究 ■ノースカロライナ州での実験研究■ ノースカロライナ州バーク郡では,1990 年から 予備的な実験を始め,その後郡内の学区にクラ ス・サイズの縮小を段階的に実施している。この 実験研究はテネシー州でのそれとは異なり,実験 にかかわった教師は指導と評価を含む教師の技 能研修を受けている。この研究でも,実験の対象 となった第1 学年から第 3 学年までのすべての少 人数クラスにおいて,多人数クラスより「リーデ ィング」及び「算数」の成績が高いこと,授業態 度などの指導に掛ける時間数が少ないことが明 らかにされた。 ■ウィスコンシン州での実験研究■ ウィスコンシン州での実験研究は,SAGE 計画 (Student Achievement Guarantee in Education)

と呼ばれ,ここでもSTAR 計画と同様の効果を明 らかにしている。この実験研究も,バーク郡での 実験研究と同様に,少人数クラスにかかわる教師 は,専門的な研修を受けている。 ② 代表的な実験研究から得られた結論 アメリカ教育省が発表した報告書では,先に紹 介した全米での代表的なクラス・サイズ縮小に関 する実験研究から次の3 点を結論付けている。 ③ 低学年(第3 学年まで)におけるクラス・サ イズ縮小が,より高い成績につながる。しかし, 4 学年から 12 学年までのクラス・サイズ縮小 は,明白に効果があるとは言えない。 また,成績への大きな効果は,クラス・サイ ズが15人から20人の規模に縮小されたときに 現れ,1 対 1 の個別指導の状況に向かってクラ ス・サイズが小さくなるに従い,その効果は大 きくなる。 (2) 日本における学級規模に関する調査研究 我が国での学級規模に関する実証的な研究は, 「すしずめ学級」全盛期の1960 年代には多く見 られたが,近年では非常に少ないのが現状である。 しかし,第7 次改善計画の前後から,再び学級規 模に関する研究が脚光を浴びてきている。そこで, ここ数年間の研究で報告されているものの中か ら代表的な三つの研究の概要とそれぞれの研究 から導き出された結果を紹介する。 一つ目は,加藤幸次らの研究グループが,昭和 64 年から平成 2 年にかけて行った「学級集団の規 模とその教育効果についての研究」である8)。こ の研究は,茨城県の小学校20 校と栃木県の中学 校16 校の児童生徒を対象にし,学級規模を「20 人前後」「30 人前後」「40 人前後」に分け,それ ぞれの児童生徒のペーパーテストでの成績につ いて比較したものである。この研究では,小学校 の場合,調査したすべてのテスト(国語,算数, 理科,体育,図工,計算力)において,小さい学 級規模の児童がより高い得点をとっており,グラ ス・スミス曲線と非常に類似した結果であったと 報告されている。すなわち,40 人から 30 人に学 級規模を縮小しても顕著な効果は見られず,顕著 な効果は20 人以下にした場合に見られるという ものである。また,この研究は,児童を対象に「興 味・関心」「理解度」「学習条件」「価値・態度」「個 別指導」に関する40 項目を入れたアンケートも 実施している。その結果,「個別指導」に関する すべての項目について,学級規模間に有意な差が 見られたと報告している。一般に,「学習集団の 規模が小さくなると,子どもたちが個別に指導を 受ける機会は顕著に高まる」と考えられているが, このことを統計的に明らかにした調査と言える。 ① 1 クラスの児童数を20 人以上から20 人以下 に大幅に小さくすると,標準的な成績が真ん中 辺りから上位から 40%の位置の学力に上昇す る。 ② 児童,教師,保護者のすべてがクラス・サイ ズ縮小への肯定的な効果を報告している。 二つ目は,世羅博昭を研究代表とする日本教育 大学協会第二常置委員会が行った研究である。同 委員会は,学級規模の教育的効果に関する調査報

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告書を2001 年 3 月にまとめている9)。この報告書 の中心は,学級規模の大小によって,教授と学習, 学校・学級生活,教員の各種の職務がどのように 異なっているかを分析した四つの論文であり,第 6 次改善計画の大きな柱であったティーム・ティ ーチングの教育的効果についても特に章を設け, 詳しく分析を行っている。 この研究では,児童生徒の学習状況と学校生活 の状況,教員の学習指導や生徒指導のしやすさは, 学級規模が小さいほど順調度が高いことが報告 されている。この傾向は小学校において顕著であ り,学級規模の縮小による教育的な効果は,特に 小学校において期待できるとしている。興味深い ことは,この結果にティーム・ティーチングを実 施しているかどうかの違いは全く影響をしてい ないということである。 また,ティーム・ティーチングについては,概 して実施している教員には好意的に評価されて いるが,児童生徒は必ずしもティーム・ティーチ ングによる授業を高く評価しているわけではな いことが報告されている。この調査によれば,二 人の先生による授業より,伝統的な一人の先生に よる授業を好きだと答える児童生徒が多く,ティ ーム・ティーチングに対する意識は児童生徒と教 員とでは大きく異なっている。一人の授業をよし とする理由として,児童生徒は,「授業が分かり やすくなるわけではない」(中学校),「かえって 授業に集中できなくなる」(小・中学校)を挙げ ている。報告書では,この結果を「意外にも」と いう表現を使って述べているが,漠然と「一人よ り二人の指導の方が効果がある」と考え,ティー ム・ティーチングを実施することへの警告を与え る結果と考えられる。ただし,小学校の場合,児 童は,学級担任と専科教員との組み合わせでのテ ィーム・ティーチングについては,好意的に受け 入れていることが報告されている。この理由とし て,報告書では,「学級担任一人による授業より, 専科教員による教科に関する専門的知識に裏打 ちされた分かりやすい授業が実現しているため」 と分析している。 三つ目は,高浦勝義を研究代表とする国立教育 政策研究所が行った研究である。同研究所は,平 成11∼12 年度にかけて実施した「学級編成及び 教職員配置等に関する調査研究」の成果を,国立 教育政策研究所紀要第131 集「学級規模に関する 調査研究」として平成14 年 3 月にまとめている。 この研究報告の一つに,小学校算数及び理科の 学力調査分析がある。これによると,小学校算数 の得点は,多くの項目において 20 人以下の学級 規模の児童の得点が高いが,児童の得点と学級規 模との間には有意な差が認められないこと,理科 についても,ほぼ同様な結果であったことが報告 されている10) (3) アメリカと日本の研究結果から得られる知見 国立教育政策研究所がまとめた報告では,学級 規模と児童生徒の成績との間に有意な差が見ら れたとするアメリカでの研究結果と違いが出た 理由を,アメリカでは少人数と多人数では教師が とる指導方法が異なっていることが作用してい るためではないかと分析している。アメリカ教育 省の報告は,少人数クラスに移行する際に,教師 は必ずしも態度を変えるわけではないことや,教 師が少人数クラスにおいて指導方法や授業手順 を変えなければ,少人数クラスで好ましい結果は 得られにくいことを指摘している。 テネシー州での実験研究で対象となった教師は, 少人数指導のための特別な研修は一切受けてい なかったが,その他の実験研究の対象となった教 師は,特別な研修プログラムを受けている。いず れの場合がより顕著な成果が出ているのかは,こ の報告書では不明であるが,アメリカの場合,多 くの実験研究において少人数クラスの効果を確 認していることは事実である。 アメリカと日本の研究結果から得られた知見 を基に,効果的な学習集団の規模について,次の ような仮説を考えることができる。 ① 少人数指導における効果的な学習集団の規模 を決める決定的な数はないが,20 人より少なく すれば何らかの効果が期待できる。 ② しかし,単に学習集団の規模を小さくしただ けでは,その効果はほとんど期待できない。 ③ 効果を得るには,少人数の学習集団を編成し た場合,教師が意識してその集団に合った指導 方法を用いることである。 アメリカ教育省の報告書では,教師がどのよう な特別な研修を受けたのかその詳細は示されて いないので不明であるが,学習規模に合った指導 方法を取り入れれば必ず効果が生まれることは 否定できないであろう。

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では,どのような指導方法を用いればより高い 効果を得られるのであろうか。一般的な一斉指導 では,全く効果が得られないのであろうか。 このことに一つのヒントを与えてくれるのが明 石要一(2002)の指摘である。 明石要一は,千葉県での実践結果を基に,機械 的にクラスを分ける方法では,学業成績が伸びる のは中位の児童だけであり,上位と下位に位置す る児童の成績は伸びないことを指摘している11) これは,日々の授業の大半が一斉指導であること を考えれば実に納得のいくことである。 一般的に一斉指導では,ある一定の水準に合わ せた授業が行われていると考えられる。仮に,授 業の多くが,学習集団の上位に合わせた授業であ れば,学級の大部分の児童は授業が理解できない であろうし,下位に合わせた授業では,大半の児 童が授業に飽きてしまうであろう。したがって, 多くの教師は,中位かそれよりやや下の児童に合 ったレベルで授業を行っていると考えるのが自 然である。機械的に学級を分割し,学習集団の規 模が元の集団の1/2 になれば,児童と教師が触れ 合う機会が増える。授業のレベルに合った中位の 児童は,元の学級で指導を受ける場合より更に指 導を多く受けることができることから,成績が伸 びるというのはもっともな話である。しかも,い くら少人数の学習集団を編成したとしても,相変 わらず中位の児童に合った一斉指導を行うので あれば,上位の児童には飽きる,下位の児童には 理解できない授業に何ら変わらないのである。 そこで考えられる一つの方法が「習熟度別指導」 であろう。習熟度別指導とは,ある学習集団を児 童の理解や習熟の程度の差によって幾つかの集 団に再編成し学習指導を行うものである。その瞬 間瞬間は能力別の学級編成と一見同じ印象を与 えるが,習熟度別指導は,例えば単元の最初や単 元の途中で診断テストを実施し,その結果や自己 評価を基に学習課題や学習コースを児童自らが 選択し学習を進めていく学習方法であり,その時 点での理解や習熟の程度の差を問題にしている という点で,能力別学級編成とは異なる。 本研究では,ここまで述べてきたことを基に, 3 名の協力委員に少人数指導及び課題選択学習に ついての授業実践を依頼した。次章では,これら の実践から得られる知見をまとめ,これからの算 数授業を充実させるための手がかりを探る。

Ⅴ これからの算数授業のために

ここまで,様々な文献や調査研究を基に,第Ⅲ章 では,「創造性の基礎を培う算数教育」について,ま た,第Ⅳ章では,「少人数指導の現状と効果的な学習 集団の規模」について述べてきた。本章では,これ らの基礎的な理論を背景に,3 名の協力委員に依頼 した3 本の実践について,授業者とは異なる視点か らそれぞれの実践について分析を加える。その中で, これからの算数授業の在り方,特に,少人数指導及 び課題選択学習を進める上で重要な示唆を与えてい る部分を明らかにし,本研究のまとめとしたい。な お,各実践の詳細な報告は巻末に掲載している。

1 実践例Ⅰから得られる知見

(1) 基礎・基本の確実な定着を目指したコース設定 実践例Ⅰは,単元の終末に習熟度別指導を取り 入れた例である。本実践の特徴としては,習熟の 状況に応じたコース分けにおいて,二つの「基 礎・基本コース」を準備し,きめ細かな指導がで きるようにしている点を挙げることができる。 報告によれば,基礎・基本コース1 は,「知識・ 理解」の面で努力を要する児童のためのコースで あり,同コース 2 は,「表現・処理,数学的な考 え方,関心・意欲・態度」の面で努力を要する児 童のためのコースとしている。発展的な学習と補 充的な学習を考えた場合,本実践の基礎・基本コ ース1,2 は,後者の学習に相当する。補充的な 学習が必要な児童は,教師の支援がより必要な児 童であり,評価の4 観点の到達度により基礎・基 本コースを細分化し,補充が必要な部分を焦点化 して指導を行うこの方法は,基礎・基本の確実な 定着を実現する一つの在り方を示している。また, 本実践は,習熟度別指導に入る前に,1単位時間 を使って,どのコースで学習をするのかを自己決 定させる時間を設けている。コース選択の資料と なる小テストの作成に当たっての配慮事項や自 己評価の項目など参考にしたい。 (2) 習熟度別指導の効果 本実践では,単元末テストの結果では,92 名中 89 名が「おおむね満足できる」状況であったこと が報告されている。市販のテストにおいて,70 点 以上を「おおむね満足できる」状況と考えてよい かどうかについては,十分に検討する必要がある が,習熟度別指導に対してほとんどの児童が「楽

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しかった」「役に立った」と回答していることや 学習後の感想を見ると,児童の学習に対する満足 度は非常に高く,本実践の習熟度別指導は,一定 の効果を上げることができたと言ってよい。 (3)「知識・理解」及び「表現・処理」の評価 本実践にはもう一つ大きな提案がある。それは, 「知識・理解」と「表現・処理」における評価の 考え方である。 本実践では,国立教育政策研究所が平成14 年 2 月に示した評価規準等に関する参考資料に取り 上げられている実践事例を基に,1単位時間1観 点での評価を実施しているが,「知識・理解」と 「表現・処理」の評価については,A か B かの判 断が難しい場合が多く,その解決策として「B↑」 という記号を用いて座席表に記録を残し,単元末 に設定した習熟度別指導の学習状況及び単元末 の評価テストでの定着状況を見て最終的に判断 する方法を提案している。 国の説明によれば,「B」と判断できるものの中 から,質的に十分満足できる状況が見られた場合, その中から「A」と判断するというのであるから, そのためには,どうしても「A」と判断する「基 準」を設定する必要がある。しかし,「知識・理 解」「表現・処理」の評価については,これが現 実には難しいというのが本事例の主張である。 学習指導要領に示す内容は,最低基準であると いうのが国の見解である。したがって,学習指導 要領を全く逸脱していない教科書に書かれてい る内容は,「最低基準」と考えるべきであり,そ うであれば,すべて習得できて「B」ということ になる。このことから考えれば,例えば,計算技 能の評価テストにおいて,評価問題を教科書の練 習問題を用いたのであれば,仮に評価テストが10 問の場合,10 問完全にできて「B」と判断するの が妥当であろう。 一般には,多くの学校で単元末の評価テストと して市販のテストが使われていると予想される。 市販されている幾つかのテスト問題を調査する と,市販のテストもできる限り客観的な評価がで きるように,出題の仕方や問題に工夫をしている ことが分かる。市販のテストのみで4 観点すべて の評価を行うことには問題があると考えられる が,「知識・理解」及び「表現・処理」の評価に 関しては,市販のテストを本事例のように活用す ることも現実的な方法の一つであろう。 本事例では,授業中の評価は座席表に記録して いる。座席表は評価を授業中に残すためには有効 な道具となるが,その記録に多くの時間が取られ るようでは意味がない。授業が座席表を記入する ことに追われるようであれば,指導に大きな支障 をきたすことは明らかだからである。その意味か らも,本実践での「知識・理解」及び「表現・処 理」の評価の考え方は非常に参考になると考えら れる。ただし,本事例の場合,単元末の評価テス トの結果を最も重視しているのではなく,あくま でも授業中に教師が評価した結果を更に客観的 なものにするためにテスト結果を活用しようと していることを再度確認しておきたい。

2 実践例Ⅱから得られる知見

(1) 一つの評価方法に頼らない評価 実践例Ⅱは,2 学級を解体し均質な三つの学習 集団を編成した少人数指導における評価の工夫 を行った例である。本実践の特徴は,評価の工夫 として,「ノート」「座席表」「チェックリスト」 の三つの評価方法を用いて,よりきめ細かな指導 ができるようにしている点にある。 算数科においてノート指導が重要であることは 多くの研究者が指摘しており,特に目新しいもの ではないが,本実践は,毎時間自分の学習の跡を 丁寧に残させれば,ノートは,児童の思考や理解 の状況,学習に対する興味・関心などの評価資料 として十分に活用できることを示唆している。 一方,座席表については,個人の記録欄の数字 によって重点的に評価する観点が一目で分かる 形式のものが使われている。この座席表の基にな っている形式は,岩手県のある小学校の実践事例 に見られるものであるが,これに似た形式は,最 近では,指導と評価(Vol.49,2003 年 1 月号,図 書文化)にも紹介されている。座席表にこのよう な形式の工夫をすることは,授業がねらいを明確 に持ったものになるという効果が期待できる。し かし,実際の記録となると,座席表の記録方法と しては,A を○で,C を△で記録するという簡単 な方法を用いたにもかかわらず,すべての児童の 記録を残すことは大変な労力であったと報告さ れているように,座席表だけで評価を行うことに は非常に無理がある。このことは,言い換えれば, 授業の評価に当たっては,複数の評価方法を用い る必要性があることを示唆している。

参照

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