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Vol pp Quarterly Journal of Geography SMEs Development Policy 2011 A A I NPC

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元東北大学大学院経済学研究科・院 〒 465-0041 名古屋市名東区朝日が丘 33-2 タウンライフ藤が丘東 201 号

ルワンダ・フイエにおける一村一品運動とビジネス振興

大 和 田  美  香*

要 旨   本稿ではルワンダ・フイエ郡で SMEs Development Policy に基づき 2011 年から 取り入れられた一村一品運動が現地企業および協同組合におよぼした変化と,運動 の現地化の過程を明らかにした。一村一品運動ではビジネスの基礎について知識の インプットと実践をセットにした研修が,参加グループによって個々のビジネスの 改善につなげられた。調査の結果,売上,雇用人数が増加したグループが多く,地 域活性化への意識にも変化が見られた。運動の現地化の過程としては,一村一品運 動により,起業家たちが共に学ぶ場所ができたことで構築されたネットワークが前 向きな成果をもたらした。政策を背景にトップダウンで導入された一村一品運動で あったが,起業家のネットワークから道の駅を設立する動きがあり,ボトムアップ が機能しているといえる。また一村一品運動を通じたコーヒー企業と農家の変化に ついては,コーヒー企業 A 社の事例を通じて考察した。結果,A 社が輸出先市場の 求める品質や,栽培技術について知り,積極的に農業技官を派遣して指導を行って いることが付加価値向上につながっていることが分かった。コーヒーツーリズムは 農家のモチベーション向上に寄与している。 キーワード 一村一品運動,ルワンダ,コーヒー,ビジネス振興,中小企業,協同組合,観光 I. は じ め に 1. 一村一品運動の定義・理念・特徴 「一村一品運動」とは,1979 年に大分県で始まっ た地域おこしの運動である。具体的な定義は「各 市町村で地域住民が全国的に自慢できる価値ある 地域資源を見つけ,加工・販売・マーケティング などを通じてその価値を高めていくプロセス」1) である。文字通り「一村で一品」,一つの地域で 一つの品を選び,付加価値を高める取り組みであ る。 同運動の背景として,1960 年代に大分県内で は都市への人口集中により過疎の進行と活力の低 下が問題となっていた。そこで地域の活力を引き 出し地域の身の丈に合った地場産業を興すことが 必要となっていた。また地域の過剰な行政依存傾 向が指摘され,住民の自主自立と生産意欲を促す 必要性があった2)。当時,すでに県内では自発的 な地域おこし運動の先進事例として,大山町(現・ 日田市)が NPC 運動3)として商品価値の高い作 物への転換や,町の福祉向上などで成果を上げ4) 湯布院町(現・由布市)は長期滞在型温泉保養地 を目指した地域づくりで成果を上げていた。 一村一品運動の目的は,「地域・農村と住民の 自立」であり,地域の人口がその地域で生計手段 を確立し自立することであった5)。運動の担い手 は地域・農村の住民であり,具体的には小規模零 細農家・商工業者,関心のある個人や団体であっ た。対象地域は大分県内の各市町村であった。「一 品」を何にするかは各地域に委ねられ,住民は自

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分たちのリスク(経済的リスク)を踏まえたうえ で商品開発と販売を行った6)。通常の農村開発の 目的を「農村の住民を中心とした,当該地域の特 性を考えたうえで地域住民の持続的な生計向上自 立を図ること」7)と定義する場合,一村一品運動 も目的は同じである。同運動の特徴は第一に「対 象地域が大分県内の各自治体であったこと」,第 二に「一品になりうるものの範囲が幅広く,民芸 品・工芸品や観光や文化など付加価値が付けられ るものであれば何でも良かったこと」,そして「も のづくりを販路に乗せることを重視していたこ と」と指摘できる。 一村一品運動には三原則と呼ばれる理念があ る。第一に「ローカルにしてグローバル」であり, 地域の独自性を磨いてこそ世界に発信できるもの づくりができるという意味である。第二に「自主 自立・創意工夫」であり,今あるものを最大限に 生かす工夫をするという意味である8)。第三に「人 づくり」であり,グローバルな視野を持ったリー ダーを育てることが地域活性化の究極の目標とい う概念である9) 同運動の成果として,品目数と販売額の増加が 挙げられることが多い。一村一品運動の特産品の 品目数は 1980 年には 143 品目で販売額 359 億円 だったが 2001 年には 336 品目で販売額 1,410 億円 にまで増加した10) 一村一品運動については,先行研究で,大分県 の行政施策を分析した孫(2010)は,担当課をお かず既存の組織と事業に関連付けて展開したこと を指摘した11)。吉田健太郎(2006)は大分の焼酎 産業の発展プロセスを事例に,「(一村一品運動は) まさに地域の一中小企業の力だけではどうするこ ともできない部分である初期の市場創出と販路拡 大という点を補完していた」と考察している。山 神・藤本(2006)は,大分県大山町の地域振興戦 略について分析している。同運動は地域活性化の 手法として注目され,国内各地から視察を受け入 れ類似の取り組みが行われるようになった12)。ま た海外ともローカル外交と称し交流を進め,一村 一品運動が取り入れられたり,普及啓発で関わっ たりした国は世界で合計 100 か国になる13)(大分 一村一品国際推進協議会,2013)。 2. 海外の一村一品運動 大分県は 1983 年以降,中国,ヨーロッパ,ア メリカ,ロシア,南米,韓国,フィリピン,イン ドネシア,マレーシアなどと交流し,海外からの 視察・研修団を受け入れてきた。2003 年には NPO法人大分一村一品運動国際交流推進協会 (現・国際一村一品運動交流協会)が設立された。 2005年から 2012 年まで 8,673 名が研修に参加し た14)。経済産業省と独立行政法人 日本貿易振興

機構(Japan External Trade Organization, JETRO)は

2006年から開発途上国の商品の輸出向上を支援

する目的で,開発途上国「一村一品」キャンペー ンを開催し成田国際空港と関西国際空港に「一村

一品マーケット」を設置している15)。2008 年のア

フリカ開発会議(Tokyo International Conference on African Development, TICAD IV)では「横浜宣言」 でアフリカにおける一村一品運動への日本の支援 が明言された。 海外の一村一品運動を日本のそれと比較したも のが第 1 表である。運動の目的は海外では国に よって様々だが,対象地域・住民の所得向上や経 済的自立,中小零細企業・生産者のビジネス振興 が多い。アプローチは日本の場合,住民の自主的 な取組みを県が支援するボトムアップ型である が,海外では導入を決めた政府や関係機関が参加 グループを導くトップダウン型になりやすい傾向 がある16)。これは,日本では大分で時間をかけて 徐々に広がり根付いてきた一村一品運動が,海外 では課題解決のための政策や手法として導入され ることが多いためである。中央政府や関係機関は

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定量的・定性的に成果を把握し評価する必要性が あるため,決まったプロジェクト期間を設定して アクションプランに沿って導入する場合が海外で はほとんどである。対象となるのは海外の場合, モデル県やモデル州の生産者である。内容は,海 外では主に広報・宣伝,マーケティング支援,人 材育成・能力強化のための研修,生産者への融資・ 機材供与であり,一村一品運動を自国に合ったか たちで取り入れるための体制・仕組みづくりも重 視されている。成果としては,所得向上や商品の 質向上,販路開拓などが挙げられる。 海外の一村一品運動に関する先行研究も蓄積が ある。タイで 2001 年に当時のタクシン政権の政 策の一つとして取り入れられた一村一品運動は, 成果として商品の質向上や売上増加,生産者ネッ トワークの構築が挙げられている。藤岡(2006) はタイの一村一品運動は中央政府主導で短期的成 果を念頭に有望な生産者を対象とした起業家育成 とモノづくりに特化していると述べている。武井 (2007)は,事例村の家計調査から一村一品のか ご製品が生産者の家計に対しては,雇用創出と所 得向上にプラスの影響を与えていると結論づけて いる。Kumponkanjana (2011)は,日本とタイの一 村一品運動を比較し,ロナルド・S・バートのネッ トワーク理論をもとに両地域ともに「各地域の推 進役が地域住民との bonding network (結束型ネッ トワーク)を持ち,国内や海外の他地域の人物の bridging network(橋渡し型ネットワーク)を活用 したことで課題を克服できたとしている。モンゴ ルにおいては 2002 年から大分県とバヤンホンゴ ル県との友好協定締結により一村一品運動が本格 的に開始された。背景としては首都と地方の格差 があった(井草,2006)。独立行政法人 国際協力 機構(Japan International Cooperation Agency, JICA) や国連開発計画(United Nations Development Pro-gramme, UNDP)も協力を行い,成果としては各 地で地域産品が生み出され若い事業家グループが 現れた。井草(2008)は,大分の一村一品運動モ デルのアジア諸国への適応について,当時のアジ アが経済的に勃興期にあり日本がかつて経験した 高度成長時代における地方の社会状況,地域産業 の課題,都市と農村との相互関係など経済環境が ある程度類似していることが,同運動が各地で取 り入れられる背景として挙げられるとしている。 第 1 表 日本と海外の一村一品運動の比較 日本(大分県) 海外 目的 地域・住民の自立 ・対象地域・住民の所得向上や経済的自立・中小零細企業・生産者のビジネス振興 アプローチ ボトムアップ型が基本 トップダウン型になりやすい 期間 定められていない プロジェクト期間は決められている(数年間) 対象 大分県内の生産者グループ・個人 対象地域(モデル地域)の生産者グループ・個人 内容 ① 技術支援 ② マーケティング支援 ③ 人材育成 ④ 国内外地域との交流 など ① 広報・宣伝 ② マーケティング支援 ③ 人材育成・能力強化のための研修 ④ 生産者への融資・機材供与 ⑤ 一村一品運動の体制づくり・仕組みづくり など 成果 対象品目数や販売額の増加 ① 所得向上② 商品の質の向上 ③ 販路拡大 日本については各種関連文献,海外については各国プロジェクト資料を参考に作成

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サブサハラ・アフリカにおいて最初に一村一品 運動を導入したのはマラウイである。第三回アフ リカ開発会議で 2003 年に来日した当時の大統領 が,大分県を視察した際に自国でも実施したいと 考え,以降マラウイに事務局が設置され 2004 年 から JICA の技術協力とも連携して一村一品運動 が展開された。マラウイでは農業が国民の収入の 80%以上を占めているが,大多数の農民が天候依 存型農業に従事しており,農業・農村開発は最優 先課題のひとつである17)。貧困削減18)や,包括的 な農村開発は重要視されており,「マラウイ成長 開発戦略(2006-2011)」の中で,一村一品運動は 主要テーマの「包括的な農村開発」の実施戦略と して明記された。成果として,参加する生産者グ ループは 100 を超え,一村一品運動に携わる人は 2万 8,000 人以上に達した19)。各県に一村一品運 動担当の地方行政官を配置するなど国の開発政策 の一環として展開されたのがマラウイの一村一品 運動の特徴の一つである。吉田栄一(2006)は地 方での参加グループへの聞き取り調査をもとに, 「(一村一品運動の)事務局が地域社会運動として 崇高なコンセプトを掲げているのにもかかわら ず,今後低金利の融資事業として位置づけられる 危険性を孕んでいる」と指摘した。吉田(2009)は, 「一村一品のように地域資源に近い場所で加工さ れるということは,地域の人材を活用することで, またその意思決定や,人材の補給,育成も地域に 近い場所でなされる。つまり,さまざまな意思決 定が地域内で行われることで,そこに知識や技術, 人材が根付き,資金が経由して流れるという点で, 地域振興のうえでの意味がある」とその意義を述 べている。また地域における一村一品の認知度の 向上についても「3 年間での一村一品運動の量的, 面的な拡がりと,軌道に乗ったいくつかの小規模 食品加工ビジネスの評判によって地域での認知度 が高まっている」と説明している。杉山(2011) は「人づくり」に焦点をあて,大分県とマラウイ の一村一品運動を比較した。マラウイの一村一品 グループがアフリカ近隣諸国と交流する方法が, 学習や情報交換につながり持続可能性があると指 摘している。Kurokawa et al. (2010)はマラウイの 一村一品運動の特徴の一つとして農業分野の加工 に特化していることを挙げている。同著によれば 47グループのうち 41 グループが農業に分類され る活動をしており,タイではその割合は 2007 年 には 33.5% だった。一村一品運動の少額融資によ り,生産性やバリューチェーンについて改善の成 果が見られた一方で,活動を持続させているのが 16グループであったことから持続性が課題であ ると指摘した。アフリカで同運動を有効なものに するためには,グローバル・バリューチェーンへ のアクセスを良くすることが重要と指摘してい る。Chidumu(2007)は,マラウイの一村一品運 動参加グループと非参加グループを比較し,参加 前は双方の集団の所得に差がなかったが,一村一 品運動参加グループが機材を購入し生産性を向上 させ市場へのアクセスを改善したことで所得が増 えたことを統計分析から指摘した。よってアフリ カにおける一村一品運動については,従来の農村 地域の所得向上という側面と,生産者グループの 自主性,一村一品運動の認知度や面での広がりが 課題と言える。 上述のような一村一品運動に関する議論は少な くともあるが,他方で,ルワンダの農村開発にお けるコーヒーの重要性は無視できない。たとえば, Boudreaux (2010)がルワンダのコーヒー業界の自 由化がもたらした恩恵を価格上昇や現金へのアク セスのような直接的な経済的恩恵と,間接的かつ 社会的な恩恵について分析したように,海外市場 への輸出を通じた農村開発の視点は大変重要であ る。Elder et al. (2012)はフェアトレードがソーシャ ルキャピタルに与える影響について,ルワンダを

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事例に回帰分析を用い考察した。農村経済の中で のコーヒー生産についての研究としては上田 (2011)がタンザニアの北東部アルーシャ州アル メル県において,マクロ経済的インパクトが農村 に与えた影響を分析している。辻村(2012)はタ ンザニアのキリマンジャロ州ルカニ村の事例にも とづき,コーヒー生産が農村にもたらす影響を多 様な要素から明らかにした。コーヒーツーリズム についての先行研究は Anbalagan and Lovelock (2014)が,ルワンダ人コーヒー農家にとって, 購買力ある消費者とつながり,商品をコントロー ルし,付加価値あるアクティビティを開発する機 会であると指摘している。一村一品運動は農村を 主地域としていることから,コーヒーは選ばれる ことが多い作物だが20),一村一品運動とコーヒー を通じた付加価値向上という視点で研究は行われ ていなかった。 3. 本論の問題意識 本稿では日本からの支援がプッシュ作用を持っ ていて,「現地での自主的活動が続いていること」, 「導入元経験を現地の社会経済環境に擦り合わせ ていること」を現地化と定義する。本論では,一 村一品運動が取り入れられたルワンダのフイエ郡 を事例に,一村一品運動が現地の企業・協同組合 に与えた変化と,運動が現地化の過程を明らかに する(III章)。次に,国外市場を前提としたコーヒー と一村一品運動の関係を明らかにするため,コー ヒー企業と農家の変化を検討する(IV 章)。 ルワンダでは国の開発戦略である Vision 2020 (Ministry of Finance and Economic Planning, 2000)お よび経済開発戦略である Economic Development and Poverty Reduction Strategy 2で民間セクター開

発21)の重要性が掲げられている22)。一村一品運動

は貿易・産業省(Ministry of Trade and Industry, MINICOM)の中小企業開発政策である Small and Medium Enterprises (SMEs) Development Policy

(MINICOM, 2010)に基づき導入された。 II. 調査方法・調査対象地の概要 1. 調査方法 本研究が対象とするのは,ルワンダのフイエ郡 である(第 1 図)。ルワンダはアフリカ東部に位 置する。国境をウガンダ,タンザニア,コンゴ民 主共和国,ブルンジと接している。ルワンダは行 政区が首都キガリ市と東西南北各県から成りフイ エ郡は南部県に位置する。ルワンダは一村一品運 動を中小企業のビジネス振興策の一環として 2011年に導入した。当初は日本の国際協力と連 携したプログラムとして開始したものの,現在は プログラム終了後も各グループ(本論では企業や, 協同組合をグループと呼ぶ)の自立的な運動とし て継続されている。そのため,一村一品運動の現 地化について検討するのに適した地域である。ま た,I 章で整理した一村一品運動を導入している 国々の中での位置づけは,「中小零細企業および 生産者のビジネス振興」を目的とした国である。 筆者は 2012 年 2 月から 2014 年 1 月までと 2014 年 11 月フイエ郡に滞在し,企業と協同組合合計 第 1 図 ルワンダのフイエ郡の位置 United Nations Department of Field Support Cartographic Section Map No. 3717 Rev. 10の基 図および Rwanda Coffee Development Author-ity資料をもとに作成

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9グループの代表および従業員に聞き取り調査を 行った23)。調査では,事業内容,地域活性化への 関わり方について質問した。コーヒー農家への調 査ではのべ 90 件の農家24)に調査を行った。一村 一品運動の関係省庁やフイエ郡の関係者にも聞き 取りをした。 2. 調査対象地の概 第 2 図はルワンダの GDP と GDP 成長率を示 したものである。1994 年に,ジェノサイドおよ び関連した内戦で多くの犠牲者が出て社会的・経 済的な影響が甚大で,GDP が大きく落ち込んだ。 内戦終結後 20 年を経た現在は復興を経て開発の 段階にあり,インフラ整備や公共セクターの能力 強化,ビジネス投資環境の整備が進められている。 1人当たり GDP は,703 ドル(World Bank25))で 後発開発途上国26)に分類されているが,経済成 長率はここ 10 年で平均 7% 以上と高く,2020 年 には 1 人当たり GDP 1,240 ドルを目指している。 主要産業は農業で GDP に占める割合は 30%,次 いで卸売業・小売業 14% となっている(National Bank of Rwanda, 2016)。輸出品目は鉱石(39%), 茶(10%),コーヒー(10%)で輸出総額の半分以 上を占める27)。就業者人口の割合は,第一次産業 が 75% を占め農業への依存度が高い。就業者人 口の特徴は第一に,農業自営業者が 6 割を占める こと,第二に失業人口のうち地方居住が占める割 合が 6 割あることが挙げられる(National Institu-tion of Statistics of Rwanda, 2014)。よって,就業者 人口の多くを占める農業で,付加価値付けや,販 路拡大が求められている。また地方居住の失業人 口が多いことから,地方での雇用創出や起業家育 成が必要であると言える。 事例地域のフイエ郡は人口 32 万人で,就業者 人口の 8 割は農業に従事していると言われる。国 立公園へ行く交通の要所となっていることから観 光地である。 III. ルワンダ フイエにおける一村一品運動 1. 導入の背景と実施体制 本章ではフイエ郡における一村一品運動の制度 と内容,影響について述べる。 ルワンダにおける一村一品運動は 2009 年に政 府が導入のための暫定委員会を設置し,2011 年 6 月から 2012 年 6 月まで「ルワンダ一村一品運動 のための能力強化プログラム」として導入された。 当時,ルワンダでは貿易・産業省の戦略の一つと して中小企業振興政策(SMEs Development Policy) が策定された。その中で,政策目標として「中小 零細企業あるいはビジネス開発のための適切な制 度的枠組みをつくる」必要性が訴えられている。 ルワンダ政府は,それまで複数の官民のビジネス 振興機関28)が各々に,SMEs を支援しており,包 括的な制度的枠組みがないことを課題と認識して いた。そこで,一村一品運動が「包括的・体系的 なビジネス振興制度」として SMEs のビジネス振 興の在り方を示すことが期待されていた。よって 「ルワンダ一村一品運動のための能力強化プログ 第 2 図  ルワンダの GDP と GDP 成長率(1988 年∼)

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ラム」の目標は第一に「ルワンダに適した一村一 品運動の制度をつくること」,第二に「その制度

と制度運営による成果を示すこと」であった29)

そのフイエ郡における実施体制を示したのが第 3 図である。中央レベルでは貿易・産業局とルワン ダ開発局(Rwanda Development Board, RDB),経 済団体連合会(Rwanda Private Sector Federation, PSF),協同組合機構(Rwanda Cooperative Agency, RCA)が関係機関として参加し,JICA が日本人専 門家派遣や RDB 内に設置された事務局運営の面 で協力していた。地方レベルでは,RDB フイエ 支所,PSF フイエ支所,郡庁の協同組合担当とド ナー調整担当が担当機関であった30)。制度として は(以下丸数字は第 3 図と一致),① 一村一品事 務局が各地方でルワンダ版一村一品の概念を説明 し,② その概念を理解した地方の各企業・協同 組合が,③ 参加申し込みを行い(④ 地方機関経 由で),⑤ 一村一品事務局が応募グループをスク リーニングし,⑥ 結果を共有された地方機関が, ⑦ 実務面・戦略面で協力を得られるサービスプ ロバイダー31)とともに,⑧ 各グループを支援す るというものであった。そのような制度により, 参加グループにとっては,地方機関である官民ビ ジネス振興機関から包括的な支援を受けやすくな り,それは包括的なビジネス振興の必要を説いた 中小企業振興政策に対応するものであった32)。本 プログラムは,対象地域として東西南北各県から 1か所ずつを選定し 4 地域で展開した(南部県フ イエ郡,北部県ムサンゼ郡,東部県ニャガタレ郡, 西部県ルバブ郡)。60 の企業および協同組合・ NGOが参加した。この実施組織の特徴は,既存 の担当業務にプラスして一村一品関連業務を加え 第 3 図 ルワンダ フイエ郡における一村一品運動の実施体制 聞き取り調査により作成

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Q協同組合 バナナ、パイナップル、ワイン (製造業) ⑤W社 食品加工・軽食 (製造業) ③M社 花、装飾 (農業) C社 キノコ(農業) ⑨B協同組合 キノコ(農業) ⑧J社 フルーツワイン(製造業) ⑥J協同組合 アイス (製造業) N協同組合 コーヒー(農業) ⑦L協同組合 牛乳(農業) キナジ ルワニロ キゴマ シンビ マラバ ルサティラ ルハシャ ンバジ フイエ ギジャンブ ンゴマ トゥンバ ムクーラ カラマ ②A社 コーヒー(農業) N社 バナナ (農業) ④L社 靴、革製品 (製造業) Q社 ハチミツ(製造業) T社 トウモロコシ粉 (農業) D協同組合 手工芸(製造業) B社 衛生(サービス業) T協同組合 バナナ・豚・牛 (農業) ①V協同組合 鉄製品 (製造業) 0 3 6 km 第 4 図 フイエ郡の一村一品運動参加グループの立地図 記載の地名はフイエ郡内の行政単位であるセクターの名前 聞き取り調査により作成

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たこと,すなわち新しい組織を設置するのではな く,既存の中小企業振興のための機関を活用した 点が挙げれる。 フイエ郡では企業 10 社,協同組合 8 組合の計 18グループが一村一品運動に参加した。第 4 図 は参加グループの立地図である。農業が 9,製造 業(食品加工,靴・革製品,鉄製品,手工芸など) が 8,サービス業 1 であり,農業と食品加工が多い。 2. 一村一品運動による参加グループの変化 フイエ郡における一村一品運動の具体的内容 は,ビジネス基礎研修や見本市への参加,先進企 業視察などであった。事務局および地方機関が重 視していたのは,グループが研修で学んだ知識を インプットするだけでなく自身のビジネスで実践 する経験であった。 研修では,各グループの代表を対象にマーケ ティング,カスタマーケア,ビジネスプラン,会 計などビジネスの基礎となる分野について基礎の 講義が行われた。事務局によれば全グループのう ち 59% がビジネスプランの講義を受けるのが初 めてだった。見本市では,本番前に研修で学んだ 知識をもとに接客を練習し商品の競争優位性を考 察し,本番後には反省会で改善点を議論した。こ のように研修内容の実践の機会があり PDCA を 回した。 また食品加工の一村一品グループは,スタディ ツアーで先進企業を視察したり,他の一村一品グ ループの現場を見学したりした。同じ業種のグ ループが現場を訪問することで,課題を共有し改 善点を議論する機会となった。 研修を通じて得た知識を,各々のグループが実 際のビジネスに取り入れ創意工夫することで,商 品やビジネスに変化が生まれた。ここでは,2 つ のグループの変化を述べる。 アイスクリームの J 協同組合は,フイエ中心部 で国内初のアイスクリーム店として 2010 年に開 業。女性に働く場を提供すること,地域の人々に 栄養あるものを提供することを目指している。代 表の B 氏は一村一品運動のビジネス基礎研修で 在庫管理を学んだことで,以前は記録していな かった原料の調達記録を取るようになり,効率的 な調達ができるようになった。またマーケティン グ研修では数字で物事を把握する重要性を認識 し,来店客数をカウントするようになった。販促 施策も工夫し,研修で紹介されたソーシャルネッ トワーキングサービス(Social Networking Service, SNS)を活用して通常の 2 倍の来客効果が得られ た。B 氏は,経営について関心が高まり,仕事を しながら大学に通うようになった。一村一品運動 は,ビジネスの基礎について研修の機会を提供す ることで,起業家が専門性を高めるきっかけづく りになったと言える。 V協同組合は鉄製農具を生産・販売している。 この地域は 100 年以上前から鍛冶が行われてお り,V 協同組合は 1997 年から鍛冶職人の組織と して鉄鉱石から製品を作っている。一村一品運動 を通じ,商品の質の改善,雇用創出およびマーケ ティングの面で成果があった。以前は売り込みに 行っても断られることが多かった。そこで一村一 品の研修受講後,他製品との差別化を考え,材料 を見直し,加工に工夫を加えた結果,頑丈で長持 ちする農具(鋤,鍬)を完成させた。売り込みで 商品サンプルを持参するようになり,以前はフイ エ郡内のみだった販売先が首都のキガリ市にも増 加した。首都の土産物需要に注目し,ルワンダ文 化に関連したダンス用の鈴や,ミニチュア版の鉄 の装飾品を作るようになった。結果売上の 80% が首都向けを占めるようになった。代表のG氏は, 「一村一品運動に参加後はケニアで国際貿易文化 展示会にも出展するなど商品宣伝の機会が増え た。以前は鍛冶を地域の強みだと捉える視点がな かったが現在は地域の魅力を宣伝していきたい」

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第 2 表 一村一品運動の参加前後におけるグループの売上の変化 グループ名 商品 設立年 売上 増減率(倍) ’11年 ’13年∼’14 年 前後比 物価変動 調整後 ① V 協同組合 鉄製品 ’97  3 25 ( 37千ドル) 8.3 7.4 ② A 社 コーヒー ’10 39 253 (372千ドル) 6.5 5.8 ③ M 社 花,装飾 ’00 16 36 ( 53千ドル) 2.3 2.1 ④ L 社 靴・革製品 ’09 10 18 ( 26千ドル) 1.9 1.7 ⑤ W 社 食品加工 ’06 21 36 ( 53千ドル) 1.7 1.5 ⑥ J 協同組合 アイスクリーム ’10 19 23 ( 34千ドル) 1.2 1.1 ⑦ L 協同組合 牛乳 ’10 369 353 (519千ドル) 1.0 0.8 ⑧ J 社 フルーツワイン ’05 15 3 ( 4 千ドル) 0.2 0.2 ⑨ B 協同組合 キノコ ’08 − 144 (212千ドル) − − 単位=百万ルワンダフラン,1 ドル= 680 フラン(2014 年 11 月の為替レート) −はデータが入手できなかった。

2011年と 2014 年の消費者物価指数は World bank, Data, Indicators より算出し 1.127 倍と想定 各グループ代表への聞き取り調査より作成(調査言語は英語・ルワンダ語),ルワンダ語話者 の通訳 1 名と調査 第 3 表 一村一品運動参加前後のグループの雇用人数の変化 グループ名 ’11年 10 月 ’13年∼’14 年 前後の 変化 合計 男性 女性 合計 男性 女性 ② A 社 91 12 79 320 − − +229 ① V 協同組合 21 19 2 34 20 14 +13 ④ L 社 9 7 2 22 15 7 +13 ⑤ W 社 10 6 4 20 − − +10 ⑧ J 社 8 4 4 15 9 6 +7 ⑨ B 協同組合 20 1 19 27 2 25 +7 ③ M 社 10 6 4 14 − − +4 ⑦ L 協同組合 13 11 2 14 10 4 +1 ⑥ J 協同組合 9 0 9 6 6 0 −3 平均雇用人数 21.2 7.3 13.9 平均雇用人数 (② H 社を除く) 12.5 6.75 5.75 19.0 − − 6.5 −はデータが入手できなかった。 各グループ代表への聞き取り調査より作成(調査言語は英語・ルワンダ語),ルワン ダ語話者の通訳 1 名と調査

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と話した。地域で仕事を作る重要性を認識した G 氏は村の若者 12 名を新規雇用した。 上記のように各代表が一村一品の研修で学んだ ビジネスの基礎要素を実際のビジネスに生かすこ とで,商品自体やマーケティングに変化が生まれ た。大分の一村一品運動の三原則である「ローカ ルにしてグローバル」「創意工夫・自主自立」「人 づくり」がフイエ郡の担い手によって実践された。 第 2 表は,一村一品運動の参加前後の売上の変 化をグループごとに示している。8 つのグループ について参加前の 2011 年と参加後の 2013 年∼ 2014年の年間売上を聞き取り,増減率を比較し た(丸数字は第 3 図の立地図と一致)。結果,物 価変動を加味した増減は,① から ⑥ までの 6 グ ループで増加。⑦ と ⑧ の 2 グループで減少した。 売上が減少したグループについてヒアリングした ところ,⑦ の L 協同組合は牛乳を加工する機械 の故障が売上減少の理由であり,需要に生産が追 い付いていない状態であった。⑧ の J 社はフルー ツワインを生産しているが,設備が使えない期間 があり,実質 1 か月しか稼働できず売上減になっ た。 第 3 表では,一村一品運動参加前後での各グ ループの雇用人数の変化を示した。雇用人数 は ⑥ J 協同組合を除くすべてのグループで増加し ていた。② A 社の変化が大きいため A 社を除い た平均の雇用人数を比較すると,一村一品への参 加前は合計で 12.5 人,参加後の平均雇用人数は 19人だった,前後で平均 6.5 人増えていた。 第 5 図は,一村一品運動前後における販路の変 化を示した図である。国内では,一村一品運動前 はフイエ郡内とキガリ市が主な販路だったが,運 動後は周辺のニャマガベ郡,ニャルグル郡,ギサ ガラ郡を含め 4 郡 1 市に拡大した。また海外では 運動前はアメリカ向けのみだった輸出先が,運動 後はニュージーランドや韓国,日本にも拡大して いるコーヒーのグループや,ブルンジ,コンゴ民 主共和国向けの乳製品の輸出を始めた乳製品のグ ループもある。国内外で販路が拡大した。 第 4 表は,一村一品運動の参加前後で,地域活 性化に対する意識がどのように変化したかを参加 グループの代表が述べた内容をキーワードと共に まとめたものである。「アントレプレナーシップ」 については,① のように以前はビジネスの利益 第 5 図  一村一品運動参加前後のグループの 販路の変化 各グループ代表への聞き取り調査より作成 (調査言語は英語・ルワンダ語),ルワンダ語 話者の通訳 1 名と調査

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ばかりを考えていたが,従業員の福利厚生にも目 が向くようになったという回答や,「マーケティ ング」については,② のように販路開拓の手法 を学んだという回答や,③ 商品の認知度向上を 通じてフイエが有名になるようにしたいという回 答があった。「地域活性化の視点」については, ④ 雇用を増やすことで地域に貢献したいという 意識が芽生えたという意見や,⑤ 税金での国の インフラへの貢献,⑥ 栄養面で豊富な商品を生 産することで地域住民の健康に貢献するといった 回答があった。また「地域資源の活用」について, ⑦ 地元の材料を調達しているという回答があっ た。「ネットワーキング」について,⑧ 一村一品 運動に参加する前は他のグループについて知らな かったが,現在は他のグループと一緒に協力して 働くこともあり,このネットワーク自体が有益で あるという回答があった。実際に一村一品運動に 参加するグループ内で取引が生まれたり,大学時 代に食品加工について学んだ経験のあるグループ の代表が他のグループの助言をしたりするような 関係になった。 一村一品運動はグループのビジネスの変容の きっかけを提供し,各グループは実践を通じて商 品やマーケティングで創意工夫をした。売上や雇 用人数の増加,販路開拓の面で成果があった。そ れゆえ,2012 年 6 月にトライアルプロジェクト が終わった後も,各グループは各自研修で学んだ 改善を続け,自主的に一村一品運動は続けられた。 3. フイエの一村一品運動の特徴 ルワンダの一村一品運動を他地域のそれと比較 した場合に第一に,第 I 章で述べた一村一品運動 の理念が日本に研修に行った関係者の手によっ て,グループに伝わりやすかったこと,第二にプ ロジェクト終了後も自主的な活動が続いているこ とが指摘できる。フイエ郡で一村一品運動がグ ループに理解されやすかった背景として,第 2 図 に示されるように内戦後初めての経済成長を経験 する中で,SMEs のニーズにビジネスの基礎部分 に直接的かつ具体的にアプローチする一村一品運 動の手法が合致したと考察できる。また運営側と 第 4 表 一村一品運動参加グループの地域活性化についての意識 キーワード 地域活性化についての意識の変化 アントレプレナーシップ ①  以前は,自分 1 人のことばかり考えていたが,一村一品運動に参加してからは, グループで仕事に取り組んだほうが良いことが分った。メンバーの健康面のケアや 福利厚生を重視するようになった。 マーケティング ②  マーケティングや販路開拓に様々な手法があることを一村一品運動で学んだ。(2 グループ) ③  今後フイエという地域のブランド力向上にビジネスを通じて貢献したい。商品を 全国レベルで認知されるようにすることで,フイエに貢献したい。 地域活性化の視点 ④  一村一品運動に参加する前は地域活性化という意識はなかった。しかし,参加後 は,地域の発展とビジネスが相互作用するという考えを持つようになった。自分も ビジネスで雇用を生むことで地域に貢献したい / 昨年は 11 人だった従業員も現在 は 20 人にまで増えた。工場を建てたので追加で 15 人程増やしたい。(2 グループ) ⑤ 税金を支払うことでルワンダの国全体にインフラ面も含め貢献したい。 ⑥  栄養のある,地域資源(牛乳とフルーツ)を使った食べ物を顧客に提供すること で顧客の健康に良い影響を与えたい。 地域資源の活用 ⑦ 地域の農家から材料の牛乳,野菜,フルーツを購入している。 ネットワーキング ⑧  一村一品運動に参加する前は他のグループについて知らなかったが,現在は他の グループと一緒に協力して働くこともある。このネットワーク自体が有益。 各グループ代表への聞き取り調査より作成(調査言語は英語・ルワンダ語),ルワンダ語話者の通訳 1 名と 調査

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参加グループから 6 名が日本での研修に参加し現 場を見る経験をしたため,自分の言葉で一村一品 の概念を参加グループに説明できた。A 社の代表 C氏,W 社の代表 F 氏は北海道で食品加工の企 業見学や地域活性化の現場訪問などを通じ,もの づくりを通じた地域振興について学び,帰国後は, 他グループから相談に乗っている。大分県での研 修に参加した事務局メンバー Z 氏は,「学んだ最 も重要なことは一村一品運動の自主自立の精神 で,地域の持つ人的,自然,文化的資産,伝統的 資源を特定する能力が大切だ」と述べている。帰 国してからは関わるグループのエンパワメントを 大事にしていると語った。またフイエ郡の研修の 講師をしたコンサルタント A 氏は,「日本では外 から来る人を受け入れるおもてなしの文化があ り,また農業で儲かる仕組みづくりがあり感銘を 受けた。ルワンダではグループを訪問しファシリ テートすることを大切にしている。彼らと銀行や 支援機関とつなぎ,市場への接点を作ることが重 要だ」と述べている。一村一品運動より前にルワ ンダでなぜ起業家教育や研修が普及しなかったの かについては,それ以前のルワンダの関係組織の 支援がビジネスプランコンペで優秀なビジネスプ ランを選び金融機関の融資とのマッチングを行う という性格だったことが指摘できる。結果,実施 機関,金融機関と借り手との間で意思疎通の問題 等があり,想定された成果には至らなかった。 第二のプロジェクト期間終了後も活動が続いて いる点については,一村一品運動では研修を通じ 他のグループとつながりが出来たためと言える。 例えば食品加工のグループが別のグループで技術 を持つ人に新商品の相談を持ち掛けるなど,自主 的な改善が見られるようになった。資金ありきで はなく,まずはできる改善を進め,(一村一品運 動以外の)他の手段で資金を調達するというかた ちがとれたことは各グループの自主性によるとこ ろが大きい(ルワンダの一村一品運動では資金提 供をしていない)。現地化の過程について,当初 フイエ郡における一村一品運動は各グループに は,既存のビジネス支援の枠組みを生かした新し い研修と実践の機会として受容された。そして研 修内容を各グループが実践した。それは大分の一 村一品運動の概念を各グループが理解し,ルワン ダの社会経済環境に応じて適用できたからと考え られる。 個別のグループが売上を増やすだけではなくフ イエ郡全体に運動を広げるため,2013 年 1 月, 市場との接点を増やし,地域の商品を観光客に宣 伝する目的で「道の駅」を作る計画が始まった。 もともと A 氏が日本の道の駅を訪問し,興味を 持ったのがきっかけであった。「道の駅は,休憩 スペース,地域の物産販売スペース,情報発信ス ペースが一つの場所に集まっているが,ルワンダ に同様の概念の施設がないため取り入れたい」と いう考えであった。一村一品のグループが自主的 に集まって議論し構想を纏め,外務省の草の根・ 人間の安全保障無償資金協力の案件として,2014 年 3 月に贈与契約署名がなされた。2017 年 3 月 に「フイエ郡地域農業支援センター」33)(Huye Self

Empowerment of Local Farmers Community Village)

として建物が完成した34)。この施設は,(1) 研修 機能,(2) 地域資源を生かしたものづくりの展示・ 販促機能,(3) 観光情報の発信機能を持つ場所と して今後活用が想定される。この道の駅では既存 の一村一品運動参加グループだけでなく,フイエ 郡の企業・協同組合が販売したり研修に参加した りすることが想定されている。フイエ郡の一村一 品運動は,中央政府や地方自治体だけでなく民間 の PSF が重要な役割を果たした。新規に人を採 用するのではなく地域に精通した PSF コンサル タントの A 氏を講師にすることで情報が効率的 にグループに提供された(グループは A 氏に日

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常的に相談に訪れるため,それが研修のフォロー にもなっている)。あまり横のつながりがなかっ たフイエ郡のグループが一村一品運動を通じて ネットワークを作り,道の駅のような取り組みに つながっていった。大分県の顕彰制度やマラウイ の少額融資のようなグループに資金を提供するス キームはなく,ルワンダの一村一品運動はあくま でもビジネス基礎の研修に特化し,学習と実践の 繰り返しを重視していた。ただ,ルワンダの一村 一品運動の課題として,マラウイのような面的広 がりまで至っていないことが挙げられる。同様の 運動を他地域に広げられるのかが課題である。 IV. コーヒーと一村一品運動 1. 一村一品運動による A 社とコーヒー農家 の変化 ルワンダは赤道に近いコーヒーベルトと呼ばれ る地帯に位置しており,1904 年ドイツのミッショ ナリーがコーヒーを導入したのが栽培の起源とさ れている。現在でも外貨を稼ぐ主要な農作物であ り輸出作目の輸出総額 272 百万ドルのうちコー ヒーは 64 百万ドルと 24% を占める(2014-2015

年度 National Agricultural Export Development Board, 2015)。2000 年に 2 か所だったコーヒーの水洗式 加工場(コーヒー・ウオッシング・ステーション) は現在は 210 に増加した(第 1 図)。フイエ郡の 位置する南部県は国内第二のコーヒーの産地であ る。フイエ郡においてコーヒーウオッシングス テーションを持っているのは 13 企業・組合だが, A社はなかでも生産量が多く,生産地を代表する 企業と言える。一村一品運動に参加した 2011 年 当時は販路開拓や農家の技術向上の課題があっ た。320 軒のコーヒー農家からコーヒーの実を集 め,加工と販売を行っている。本事例では一村一 品運動が A 社およびコーヒー農家にどのような 影響を与えたのかを検討する。第 6 図は,一村一 品運動が A 社およびコーヒー農家に及ぼした変 化を纏めたものである。 1) 品質向上セミナー 2012年,2013 年に日本のコーヒー企業の専門 家を招き,品質向上セミナーを実施35,36)。農家は コロンビアやインドネシアなど世界の有名産地の コーヒーをカッピング(味見)し,専門家による 品質管理の講義を受講した。コーヒー農家は普段 自分のコーヒー豆しか飲まないため,他の国の豆 を試飲するのは初めてだった。苦味・甘味・酸味・ 香りなど世界のコーヒーには多様な特徴があるこ とを知ることで地元の豆の特徴を認識し,品質へ の意識づけになった。専門家からマーケット情報 として日本のコーヒー市場について講義を聞くこ とで品質管理の重要性を認識した。また専門家が 第 6 図  一村一品運動と A 社およびコーヒー 農家の変化 聞き取り調査より作成

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農園を訪問し栽培技術の助言をした。セミナーに 参加した農家への聞き取り調査では「品質への認 識が高まった」,「味の違いが分かるようになっ た」,「また同様のセミナーに参加したい」という 回答があった。 A社の特徴として改善に前向きなことが挙げら れる。他社に先駆け農業技官を 7 人雇用し,各地 に派遣して農業指導をした。上述したセミナー後 にも指導が行われた37)。農家は,助言を実践して 施肥やマルチング38)の継続的な取組みを続け収 穫量が増加した。結果的に,品質が認められ,日 本企業への輸出が決まり輸出先の増加につながっ た。 2) 新商品開発とマーケティング指導 A社にはパッケージを改善したいという希望が あり,日本人ボランティアの助言で,伝統的な布 地を用いたパッケージの新商品を開発した。また 国内での販路開拓のため,ボランティアが営業手 法の指導をした。販路が増えることで A 社と契 約するコーヒー農家も自信が高まった。 3) 人材育成 III章で述べた通り A 社の代表 C 氏は,北海道 で研修に参加した経験がある。またウオッシング ステーション代表の D 氏は 2013 年に地域におけ る中小企業振興について北海道での研修に参加し た。C 氏は帰国後,コーヒー農家を集め,農家の 目標策定と実現方法を議論するワークショップを 開催した。フイエ郡の現状に適応するように解釈 した一村一品運動を農家に紹介した。家畜を飼っ て食料安全保障をすること,貯蓄,健康保険への 加入などが農家の目標となった。 4) 栽培技術の指導 A社では専門家による生産性向上のための技術 指導を受け,農家も参加し技術をトライアルし栽 培の参考とした。 要約すると,A 社は品質管理の改善による輸出 先の増加により,農家のモチベーション向上と「品 質への意識付け」に取り組んだと言える。また日 本のコーヒー企業は一村一品運動を通じてルワン ダのコーヒー業界に品質向上への助言を行ったと 言える。 以上 A 社が自助努力もしながら,一村一品運 動をうまく活用し,品質向上と販路拡大に成功し た事例である39) 2. A 社によるコーヒーツーリズムの展開 A社は輸出先を増やし販路開拓で成果をあげ た。一方,地域にお金が落ち,農家の生計向上に つなげられないか考え C 氏はコーヒーツーリズ ムを始めた40)。コーヒー農園に観光客が訪問し, 栽培から加工の流れを見学し,農園で実際にコー ヒーの木やコーヒーチェリーを見た後,伝統的な 方法で淹れたコーヒーを自然の風景の中で飲むと いう内容である。農園の近くには歴史的な名所も ありガイドの説明が受けられる。これは地域資源 に着目し,農園観光に付加価値づけをしたもので ある。これまで 2 千人以上がツアーに参加した。 1人当たり 30 ドルのツアー代の売上があり,ま たツアーに参加するための交通や周辺産業へのプ ラスの効果があった。農家にとっても外部から観 光客が訪れることで生産意欲の向上につながって いる。 A社の事例はコーヒーツーリズムのなかにルワ ンダの歴史や文化を感じられる要素を取り込み, 観光客の関心を高めているといえる。コーヒーと いう「一品」の質向上を行う一方で,観光への展 開で人を地域に呼ぶ磁力を付けた例といえる。 V. お わ り に 本稿では,第一に「一村一品運動が参加グルー プに及ぼした変化」,第二に「一村一品運動の現 地化の過程」を分析した。また第三に「同運動を 通じたコーヒー企業と農家の変化」を検討した。

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第一の問題意識である「一村一品運動が参加グ ループに及ぼした変化」については,いくつかの グループで売上,雇用人数の増加や,地域活性化 への意識の変化が見られた。また途上国における ビジネス振興には,ニーズにあった技術習得の機 会の提供,ネットワークの場づくりが重要である ことが分かった。 第二の問題意識である現地化の過程について は,参加グループが一村一品の概念を理解し,現 地の経済に合わせて自らのビジネスで実践したこ とで成果が出たことが分かった。また成果が出た からこそ,トライアルプログラム終了後も自主的 な取組みが続き道の駅を作り他の企業・協同組合 を巻き込み地域振興に生かそうとする展開を見せ ている。 第三の「一村一品運動を通じたコーヒー企業と 農家の変化」については,(1) 品質向上セミナー, (2) 新商品開発とマーケティング指導,(3) 人材 育成,(4) 栽培技術の指導の機会が一村一品運動 によって A 社にもたらされ A 社はそれらを活用 しコーヒー農家に成果を伝播した。販売先の増加 は A 社にとっては企業収益の増加,農家にとっ ては生計向上をもたらす。また A 社がコーヒー ツーリズムを始めたことで,A 社にとっては新た な収入源,農家にとっては外部からの観光客との 交流によるモチベーション向上の効果があった。 最後に調査から,ルワンダでの一村一品運動に は次の特徴があったことが指摘できる。それは運 営側が個々のグループに資金面での援助は行わず に,改善のためのアクションプラン作りを手伝う スタンスだったことである。本事例では,当初は トップダウン的な枠組みづくりから始められたも のの,現地の起業家らが一村一品の要素である「創 意工夫」を重ね効果をあげたケースと言えるだろ う。支援方法として既存の PSF のコンサルタン トによる助言を採用したのも,切れ目のない協力 を行う上で必要不可欠だったと言える。道の駅に ついては当初一村一品運動に関わった日本人関係 者は想定しておらず,現地のニーズから道の駅が 作られた。道の駅が実現することになったのは, ボトムアップが可能になる環境,すなわち起業家 同士のネットワークが構築されため意見の交換や 合意形成が容易となったことが寄与している。 最後に,本稿ではフイエ地域の一村一品運動の 過程とグループの変化に焦点を置いたため,消費 者のニーズや商品そのものの特徴についての分析 は不足している。国内の産業構成の変化や地域の 消費ニーズの変化,観光客の増加を背景に,各グ ループがどのようにポジショニングするのか,ま た一次産業から六次産業化への展開などは今後ま すます必要になると予想される。この点は今後の 課題である。 謝   辞 本論文を執筆するにあたり,東北大学大学院の 増田聡教授,川端望教授には多くの助言を賜った。 また本研究の調査にあたっては,PSF の Theo-phile Karangwa氏,Huye Mountain Coffee の David

Rubanzangabo氏,ルワンダ一村一品運動事務局, 一村一品運動の参加グループ,コーヒー農家の皆 様,国際一村一品交流協会理事長の内田正氏,元 JICA専門家の金子万里子氏,山本詞子氏,元青 年海外協力隊員の園田裕明氏,古賀聖啓氏に多大 なご協力を頂いた。心よりお礼申し上げます。以 上本稿作成に際しお世話になった方々と機関なら びに本論文の校閲者に謝意を表します。なお,本 稿は一般財団法人 東北開発記念財団の平成 26 年度海外派遣援助事業の援助を受けた研究の成果 である。本稿は 2015 年に東北大学大学院経済学 研究科に提出した博士論文の一部を大幅に加筆・ 修正したものであり,本稿の内容の一部は 2014 年日本地理学会春季学術大会および 2014 年東北

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地理学会秋季学術大会で発表した。 (2018 年 6 月 22 日 受理) 注 1)  松井(2006)および国際一村一品交流協会の資 料より。 2) 国際一村一品交流協会ホームページ,http:// www.ovop.jp/jp/ison_p/haikei.html(2017 年 12 月 3 日閲覧) 3) NPC 運動は時期により名称が変わる。第一次 NPCは New Plum and Chestnuts の略で,所得向上 を目的に「梅栗植えてハワイに行こう!」という キャッチフレーズのもとコメから梅・栗への作物 転換や,労働環境の改善に取り組んだ。第二次 NPCは New Personality and combination で豊かな人 づくりを目的とし,住民の自学自習の場の提供や, 農業後継者への育英資金の提供,農協による体験 学習のための海外研修旅行などの各種施策が行わ れた。第三次 NPC は New Paradise Community で 住みよい環境づくりを目的とした。(大分県大山町 農業協同組合,1987 および大分大山町農業協同組 合 ホ ー ム ペ ー ジ,http://www.oyama-nk.com/rinen/ npc.html(2017 年 12 月 10 日閲覧) 4) 農作業労働の軽減化や,土壌改良によりキノコ 産地としての農産品のブランド化に成功。月収の ような定期的な収入の目途づけを可能にした。少 量多品目生産により,安定した収入が得られるよ うになった。Stenning and Miyoshi(2008)は,大 山町が行っていたネットワーク構築の取り組みを 事例に,コミュニティ開発の力は一品を生み出す 力と関連性があると指摘した。 5) 国際一村一品交流協会の資料より。平松(1982) では,インフラ開発が進むと都市の磁場に人口が 吸い寄せられる現象が起きるため,地域ならでは の磁場をつくることが地域開発の必須条件である とし,過疎地域の資源を活用し産業を興し定住可 能にする必要性が述べられている。 6) 平松(1990,p. 33)によれば当時平松知事は一 村一品運動開始時に「どの村が何を一品に選ぶか は,自分たちのリスク(危険)とアカウント(勘定) でやってもらいましょう」と述べた。  大分県では農業改良普及員,生活改良普及員, 農協の営農指導員,商工会議所の経営指導員,観 光協会など関係者が知識と技術を指導した。県は 技術面での支援のため,各分野で生産と加工に関 する研究および指導を行うセンターを設立・拡充 した。大分県一村一品 21 推進協議会(2001)によ れば,1984(昭和 59)年に大分県農水産物加工物 総合支援センター,1985(昭和 60)年に大分県花 き総合指導センター,大分県水産物加工指導セン ター(のちに大分県農林水産研究指導センターに 改組),1989(平成元年)にきのこ研究指導センター (のちに大分県農林水産研究指導センターに改組) が開所した。バリューチェーンにおける販売の面 で,個々の生産者にできることには限界があるた め,大分県行政側が広報・宣伝で支援した。知事 のトップセールスで豊後牛,麦焼酎,果物などを PRしたり,東京で大分県の産品や風土を PR する イベントを開催したりと,県産品を全国の流通に 乗せるための支援を県が行った。 7) 国際協力事業団(2002)の第 4 章 1-2 農村開 発の定義より抜粋。 8) 主体は住民であり,行政は技術や販促などの側 面支援を行うという役割分担でもある。 9) 県内で人材を育成する「豊の国づくり塾」とい う名称の塾を開いた。地域リーダーの成功事例, 失敗から学び自らの実践に生かすことを目的とし た塾であり,1983 年度から 2002 年度までに 2 千人 以上が卒塾した(平松,2005)。期間は 2 年間で実 践や先進地視察を含むカリキュラムは塾生の話し 合いで決められた。 10) 国際一村一品交流協会ホームページ,http:// www.ovop.jp/jp/ison_p/seika.html(2018 年 1 月 6 日 閲覧)。 11) 一村一品運動がゼロ予算事業であったことは, 行政主導ではなく地域住民のイニシアティブによ るものだという考えに基づいている(平松,1990, P 38)。民間からの寄付金を原資とした基金により, 県産品の振興に寄与した個人,団体の顕彰,海外 への研修派遣などが実施された。 12) 北海道をはじめとして日本の 24 都道府県で一 村一品運動を取り入れたとされている(平松, 1990,p. 83 および大分一村一品 21 推進協議会, 2001,p 139)。また「一村一品/ヒューマン・ブラ ンド」は 1988 年自由国民社の新語・流行語大賞で 特別賞部門・特別功労賞を受賞した(受賞者は平 松知事)。

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13) これまで一村一品運動に取り組んできた国, 普 及啓発で関わった国は,アジア 35,アフリカ 32, 中南米 19,ヨーロッパ 8,オセアニア 4,北米 2 で 合計 100 か国である(大分一村一品国際交流推進 協会,2013) 14) 研修に参加したのは海外の政府・地方機関,農 業,商工団体の職員や JICA,JETRO などの研修生 であった。研修の他にも一村一品運動に取り組む 政府,自治体,個人,団体が一堂に会し体験やノ ウハウなどの取組み状況を報告し,技術や情報の 交換と人材交流を目的とする「国際一村一品セミ ナー」も 2004 年から 2012 年までで 8 回開催され ている(大分一村一品国際交流推進協会,2013)。 15) アジア・アフリカの約 300 品目を販売。JETRO ホームページ https://www.jetro.go.jp/events/market/ (2017 年 9 月 2 日閲覧)。 16) 宗像(2006)は大分の一村一品運動とタイの One Tambon One Productプロジェクトとを比較し, ボトムアップとトップダウンとの対比について指 摘している。 17) 「一村一品グループ支援に向けた一村一品運動 実 施 能 力 強 化 プ ロ ジ ェ ク ト 」 事 業 事 前 評 価 表  https://www2.jica.go.jp/ja/evaluation/index.php?anken No=1000677&schemes=&evalType=&start_from= &start_to=&list=search(2018 年 4 月 30 日閲覧) 18) マラウイの 2003 年の 1 人当たり GDP は 260 ド ルでアフリカでデータ入手可能な 48 か国中 38 番 目である。 19) 国際協力機構,2013,Featuring Africa. 大分発, マラウイで広がる一村一品運動,https://www.jica. go.jp/topics/news/2013/20130502_01.html(2018 年 6 月 10 日閲覧) 20) 一村一品マーケットの 23 か国のうち 9 か国の 商品にコーヒーが含まれている。

21) 経済協力開発機構(Organisation for Economic Co-operation and Development, OECD)の開発援助 委員会(Development Assistance Committee, DAC) が定義する民間セクターは,「貧困層か富裕層か, 個人かビジネスか,小農か多国籍企業か,フォー マルかインフォーマルかを問わず,利益や収入を 得るためにリスクをとるすべてのアクター」を指 す(上江洲ほか,2008,p. 58)。 22) Vision2020 では,(1)「良いガバナンスと能力 ある国家」,(2)「人的資本開発と知識ベースの経 済」,(3)「民間セクター主導の開発」,(4)「イン フラ開発」,(5)「生産性高く高付加価値な市場志 向型農業」,(6)「地域統合とグローバルな統合」 の 6 つの柱が設定されている。「民間セクター主導 の開発」では,フォーマル・インフォーマルセクター 両方の開発の必要性が述べられている。Economic Development and Poverty Reduction Strategy 2では 2013年から 2018 年に急速な成長と経済変革のため の民間セクター変革と,地方開発のための農業生 産性向上が目標とされている。 23) 9 グループの選定条件は,プロジェクト開始か ら終了期間まで一貫して一村一品の研修やイベン トに参加し続けたことである。フイエ郡を対象地 域に選定した理由は,第一にルワンダのパイロッ ト地域の中で最も多くの研修が実施されたこと, 第二にフイエ郡の複数の関係者が日本での一村一 品運動研修へ参加し導入が積極的に推進されたた め,導入による変化を測定するのに適していたた めである。 24) 90 件の農家は,フイエ地域のコーヒー産地を形 成する各地区から選んだ。

25) World Bank, Data, Indicators, http://data.world bank.org/indicator(2017 年 6 月 4 日閲覧)。 26) 後発開発途上国(Least Development Country,

LDC)の定義は,国連開発計画委員会が認定した 基準に基づき,国連経済社会理事会の審議を経て, 国連総会の決議により認定された特に開発の遅れ た国々。

27) Rwanda Development Board, Trade statistics, http://www.rdb.rw/departments/sez-and-exports/ trade-statistics.html(2017 年 6 月 4 日閲覧)。 28) ルワンダでは,ビジネス振興政策を管轄する貿

易・産業省,国の民間セクター開発を管轄する RDB,商工会議所である PSF,協同組合を管轄す る RCA,企業の資金調達のための基金であるビジ ネス開発基金(Business Development Fund, BDF) が各々の事業で SMEs を支援しており,各機関同 士の連携が課題となっていた。 29) 日本の一村一品運動が地域と住民の自立を目的 としたのに対し,ルワンダのそれはビジネス振興 の制度的枠組みの構築を目的としていた。 30) 郡庁の協同組合担当は,縦割り的には中央組織 の中で,RCA の地域担当に相当し,ドナー調整担 当は Rwanda Governance Board の地域担当に相当す

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る。 31) ここでは一村一品参加グループを支援可能な機 関や企業をサービスプロバイダーと総称している。 例としては,実務面では商品規格を管轄するルワ ンダ基準局,戦略面では戦略コンサルティング会 社や,各産業での先進企業が実際のプロバイダー であった。 32) 中小企業振興政策では,望ましい政策目標とし て「ビジネス開発サービスへの SMEs のアクセス を容易にする」(目標 2),「SMEs 開発のための適 切な制度的枠組みをつくる」(目標 5)としており 一村一品の制度はそれらの内容に対応していると 考えられる。 33) 外務省ホームページ,草の根・人間の安全保障 無償資金協力 地域・国別 平成 25 年度 http:// www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/data/zyoukyou/gc_ m25_region_open.html#africa(2017 年 7 月 15 日 閲 覧)。申請者はフイエ郡。 34) 在ルワンダ日本国大使館,2017,「草の根無償」 「フイエ郡地域農業支援センター建設計画」完工式 開 催(http://www.rw.emb-japan.go.jp/itpr_ja/00_000 119.html,2018 年 6 月 10 日閲覧)によれば,集会 所兼研修室 2 室,実習室 1 室,展示スペース 3 室, 軽食スタンドおよび事務所からなる地下 1 階,地 上 2 階建ての建物である。道の駅と一村一品運動 を組み合わせることによりフイエ郡地域全体の経 済開発につながることが期待されている。 35) JICA ルワンダ事務所が主催。 36) UCC 上島珈琲株式会社,UCC の CSR 活動 ル ワンダ持続可能なコーヒー栽培の実現,https:// www.ucc.co.jp/company/csr/country_of_origin/rwanda. html(2017 年 8 月 6 日閲覧)。 37) 他の会社は 1 ウオッシングステーション当り 1 人というところが平均的。 38) 地表から水分が蒸発するのを防ぐ目的で,草や 枝で覆うこと。 39) A 社として独自の支援を農家に対し行っており, 化学肥料や殺虫剤の提供,農家の福利厚生のため の健康保険の負担などを行っている。 40) コーヒーツーリズムの着想は C 氏と A 氏が議論 していたもので,一村一品運動はその具現化の際 に様々な機会を提供したという位置づけである。   文   献 井草邦雄(2006): モンゴルの地方開発と一村一品運 動─草原の国のあらたな挑戦─.松井和久・山 神 進編 : 一村一品運動と開発途上国─日本の 地域振興はどう伝えられたか─.アジア経済研 究所,201-227. 井草邦雄(2008): アジアの地方産業おこしの課題と 「一村一品運動」─大分モデルのアジア諸国への 適応性─.国際 OVOP 学会誌,1-2, 5-20. 上江洲佐代子・長谷川安代・吉田美樹(2008): 貧困 者の市場への参加とドナー支援のあり方─セネ ガルにおけるフィリエール分析の事例から─. 独立行政法人国際協力機構. 上田 元(2011): 山の民の地域システム─タンザニ ア農村の場所・世帯・共同性─.東北大学出版会. 仙台. 大分一村一品国際交流推進協会(2013): NPO 法人  大分一村一品国際交流推進協会 2004∼2012 活動 の記録─世界に息づく一村一品─.特定非営利 活動法人 大分一村一品国際交流推進協会.大 分. 大分一村一品 21 推進協議会(2001): 一村一品運動 20年の記録.(大森 彌監修).大分一村一品 21 推進協議会.大分. 大分県大山町農業協同組合(1987): 虹を追う群像─ 大分県大山町のまちづくり─.大分県大山町農 業協同組合. 国際協力事業団 国際協力総合研修所(2002): 開発 課題に対する効果的アプローチ. 杉山世子(2011): 一村一品運動による地域振興と人 づくり─大分県とマラウイの事例比較─.慶応 義塾大学総合政策学部卒業論文. 孫 京美(2010): 地方政府の政策実施の開始におけ る特徴─大分県の一村一品運動施策を事例に─. 立命館法学,2010(5-6), 788-810. 武井 泉(2007): タイにおける一村一品運動と農村 家計・経済への影響.高崎経済大学論集,49(3-4), 167-180. 辻村英之(2012): おいしいコーヒーの経済論─「キ リマンジャロ」の苦い現実─.太田出版. 平松守彦(1982): 一村一品のすすめ.ぎょうせい. 平松守彦(1990): 地方からの発想.岩波書店. 平松守彦(2005): 21 世紀の地域リーダーへ.東洋経

参照

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