甲斐 千舟 Abstract. 等質錐が与えられたとき,一次元の対称錐すなわち半直線の場合には通常の順 序に一致するような半順序が自然に誘導される.一般に,対称錐に付随するJordan代数の逆 元写像はこの順序を逆転することが知られている. Vinbergが等質錐に対して定義した∗写 像は,錐が対称錐の時にはJordan代数の逆元写像に一致するので順序を逆転するが,逆にこ の∗写像の順序逆転性質が対称錐を特徴づけていることを証明する. 実際には我々の主定理 は, Vinbergの∗写像の拡張である擬逆元写像の族を用いて定式化され,順序逆転性質から錐 の対称性が導かれるだけでなく, Jordan代数の逆元写像に一致するような擬逆元写像に限定 されてしまうことも示す. 1. 序 有限次元の実ベクトル空間V の中に開凸錐Ωが与えられたとする. さらにΩは正則で ある,すなわちΩ ∩ (−Ω) = {0} であるとしよう.このとき次のようにして, V に自然な半順 序が誘導される: x ºΩ y ⇐⇒ x − y ∈ Ωdef (x, y ∈ V ). Ωが一次元の対称錐のとき,すなわちΩ = R>0のとき, ºΩは通常の順序に他ならない. 当然 のことながら, R>0で逆数をとる操作によって, この順序は逆転する. 一般に対称錐Ω ⊂ V が与えられたとする. このとき, Jordan 代数と呼ばれる可換な非結合的代数の構造がV に 入る. このJordan 代数の逆元写像はΩ上の対合写像となり, さらにºΩを逆転することが 知られている(証明には Hua等式と呼ばれるものを用いる. 詳しくは第2節を参照). 本講 演では,対称錐を特別なクラスとして含む等質錐のクラスで以上の順序逆転性質について考 察し,対称錐の特徴付けを与える. 等質錐とは,正則な開凸錐Ω ⊂ V で, Ωの線形自己同型群 G(Ω) := {g ∈ GL(V ) | gΩ = Ω} がΩに推移的に作用しているものをいう. 非対称な等質錐の場合には, 対称錐に付随する Jordan 代数のような, 逆元写像が代数的に定義できる代数構造は今のところ知られていな い. しかし Vinbergによって, Jordan 代数の逆元写像を等質錐に解析的に拡張したものが 与えられている. 本講演の主定理を述べるために,ここで簡単にその定義を述べる. Ωの双 対錐をΩ∗とする: Ω∗:= {f ∈ V∗ | ∀y ∈ Ω \ {0}, hy, f i > 0}. Ω∗自身も等質錐である. Ωの特性関数をφ : Ω → R >0で表す: φ(x) := Z Ω∗ e−hx,f idf (x ∈ Ω). ただしdfはV∗上の Euclid測度である. Vinberg の ∗写像 Ω 3 x 7→ x∗ ∈ V∗は次の等式 によって定義される: hy, x∗i = −Dylog φ(x) (y ∈ V ). (1.1) Date: 2006年11月14日,表現論シンポジウム. 日本学術振興会 特別研究員(PD). 1
ただしΩ上の関数fとv ∈ V, w ∈ Ωに対し, Dvf (w) := dtdf (w + tv) ¯ ¯ t=0とする. ∗写像は ΩからΩ∗への微分同相写像となることが知られている. ∗写像とJordan 代数の逆元写像の 関係について述べる前に,まず本講演の主定理を弱い形で簡潔に述べる. 定理 1.1. Ω ⊂ V を等質錐とする. このとき, Ωが対称錐となるための必要十分条件は次の 性質が成立することである: 任意のx, y ∈ Ωに対して, x ºΩy ⇐⇒ y∗ºΩ∗ x∗. 参考までに第6節に, 最低次元(5次元)の非対称な等質錐の一つである双対 Vinberg 錐に付随する∗写像が,必ずしも順序を逆転しないことを具体的な計算で示したものを掲載 した. Ωが対称錐の場合には次のようになっている. 任意にE ∈ Ωをとり, 固定する. 対称双 線型形式
hx|yiφ:= DxDylog φ(E) (x, y ∈ V )
はV 上の正定値内積を定める(これはΩが非対称でも成立する). この内積を用いてV∗を V と同一視し,これによるΩ∗の像をΩφとおく. また, ∗写像をΩ 3 x 7→ ˆx ∈ Ωφで表す. こ のときΩ = Ωφとなり, ∗写像x 7→ ˆxはΩに付随する Jordan 代数の逆元写像に一致する. 例として, V := Sym(n, R) (n次の実対称行列の成すベクトル空間), Ω := Sym(n, R)++= {v ∈ V | v は正定値} の場合を考える. このときΩに付随するJordan 代数の積(x, y) 7→ x ◦ yはx ◦ y = 12(xy + yx) (x, y ∈ V )で与えられる. よって逆元写像は逆行列を与える写像に他ならない. 一方で, φ(x) = det(x)−n/2 (x ∈ Ω)であり, hx|yi φ= n2 tr(xy) (x, y ∈ V )となることがわかる. 結局, ˆ x = x−1 (x ∈ Ω) (x−1はxの逆行列)が成立し, ∗写像と Jordan 代数の逆元写像が一致す るので, ∗写像がºΩを逆転することが従う. 実際には主定理は, Vinbergの∗写像を拡張した擬逆元写像の族を用いて定式化される. その族は次のように定義される. G(Ω)の極大な分裂可解部分群Hで, Ωに単純推移的に作 用するものが存在することが知られている. 関数∆ : Ω → R>0がHの作用に関して相対不 変であるとする. 擬逆元写像I∆: Ω → V∗を
hy, I∆(x)i = −Dylog ∆(x) (x ∈ Ω, y ∈ V ) (1.2) で定義する. ただし Vinberg の∗写像とは違って,一般にI∆(Ω) ⊂ Ω∗ とは限らない. そこ
で, I∆(Ω) ⊂ Ω∗となるような相対不変関数∆は認容的であると言うことにする. 実はこの
ことはI∆(Ω) = Ω∗と同値である. 本講演ではそのようなものに限って考察をする.
Ωの特性関数φは認容的相対不変関数の一つである. 他には例えば, Ωを base cone と するような等質Siegel領域のBergman 核(resp. Szeg¨o核)に付随する相対不変関数がある.
それによって定義される擬逆元写像はDorfmeister [2] やNomura [8] (resp. Nomura [10]) に現れる. また,擬逆元写像の族は等質 Siegel 領域のCayley 変換の族を定義するのに用い られる. この方面の研究に関しては[11]や[8], [9], [10], [6]を参照されたい. 本講演の主定理を正確に述べると次のようになる. 定理 1.2. Ω ⊂ V を既約な等質錐とし, ∆ : Ω → R>0を認容的な相対不変関数とする. この とき次の二つの命題は同値である: (A) 任意のx, y ∈ Ωに対して, x ºΩ y ⇐⇒ I∆(y) ºΩ∗ I∆(x). (B) Ωは対称錐であり,かつ, ∆(x) = φ(x)p (x ∈ Ω)となるp > 0が存在する. ちなみに[4]では,対称錐に付随するJordan 代数の行列式関数(Sym(n, R)++の場合は 行列式に他ならない)を等質錐(を含むもう少し広いクラスの錐)に拡張した“hyperbolic poly-nomial”なるものを導入し, (1.1)でφをそれに置き換えて定義される写像が 常に順序を逆転する ことを証明している. 本原稿執筆時点ではその論文の内容がきちんと把握できていないため, ここではこれ以上コメントすることができないが,講演の際には我々の主定理との関係など について説明できればと思う.
2. Ωが対称錐の場合
第1節で導入した記号を踏襲する. 等質錐Ω ⊂ V が正定値内積h·|·iに関して自己双対で
あるとは, h·|·iを用いてV∗をV と同一視したときに双対錐Ω∗の像がΩと一致することを
いう. 自己双対となるような正定値内積が存在する等質錐を対称錐と呼ぶ.
Ω ⊂ V を対称錐としよう. V 上の可換な積(x, y) 7→ x ◦ yを次のように導入する:
hx ◦ y|ziφ= −12DxDyDzlog φ(E) (x, y, z ∈ V ).
Ωが対称錐なので, (V, ◦)は Jordan代数となる. すなわち,積◦の可換性に加えて, x2◦ (x ◦ y) = x ◦ (x2◦ y) (x, y ∈ V ) を成立することが証明できる. Jordan 代数V の逆元写像x 7→ x−1は, Ω上の対合写像で ある. x ∈ V に対し,作用素P (x)を P (x) := 2L(x)2− L(x2) で定義する. ただし, L(x)y := x ◦ y (x, y ∈ V ). x ∈ V が可逆ならばP (x) ∈ G(Ω)となる. 次の等式はHua等式と呼ばれる.
補題 2.1 ([3, Chapter II, Exercise 5]). a ∈ Ω, b ∈ V とする. もしb, a + b, a + P (a)b−1が 全て可逆ならば,
(a + P (a)b−1)−1+ (a + b)−1= a−1
が成立する.
第1節で挙げたV = Sym(n, R), Ω = Sym(n, R)++の例の場合には, P (x)y = xyx (x, y ∈
V )となり,補題2.1は (a + ab−1a)−1+ (a + b)−1 = a−1 を主張する(この場合には容易に証明できる). 補題2.1を使うと,次のことが証明できる. 命題 2.2. 任意のx, y ∈ Ωに対し, x ºΩ y ⇐⇒ y−1ºΩ x−1. 証明. まずz := x − y ∈ Ωを仮定しよう. y ∈ Ωなのでyは可逆であるから, P (y) ∈ G(Ω) がいえる. z ∈ Ωよりz−1 ∈ Ωなので,結局P (y)z ∈ Ωとなる. よってy + P (y)z ∈ Ωとな り,これは可逆である. 補題2.1においてa := y, b := zとすれば, y−1− x−1= (y + P (y)z−1)−1 となり, y−1− x−1∈ Ωが従う. x ºΩ yの場合,すなわちz := x − y ∈ Ω の場合には, zに収束するΩの点列をとって, 前半の結果を用いて議論すれば, y−1ºΩx−1が従う. ¤ 第1節で述べたように,次の命題が成り立つ. 命題 2.3. Ωは正定値内積h·|·iφに関して自己双対である. よって,写像x 7→ ˆxはΩからΩへの全単射となる. さらに次の関係が成り立つ: ˆ x = x−1 (x ∈ Ω). ただしx−1はJordan 代数V における逆元を表す. ゆえに命題2.2よりx 7→ ˆx ∈ Ωφは順序 を逆転し,その結果x 7→ x∗ ∈ Ω∗も順序を逆転することがわかる. 2.1. 主定理の(B)⇒(A)の証明. 主定理の(B)の成立を仮定しよう. (1.2)より, I∆(x) = px∗ (x ∈ Ω)となるので, I ∆は順序を逆転する. すなわち(A)が成立する.
3. 等質錐に付随する非結合的代数 Ω ⊂ V を等質錐とする. 主定理を証明するためには,以下のようにしてclanと呼ばれる 非結合的,非可換な代数の構造をV に導入する必要がある. [13, Theorem 1]により, G(Ω)の 極大な分裂可解部分群HでΩに単純推移的に作用するものが存在する. 任意にE ∈ Ωをと り,固定する. HのΩへの作用は単純推移的なので,軌道写像H 3 h 7→ hE ∈ Ωは微分同相写 像となる. これをHの単位元で微分することにより,線型同型h := Lie(H) 3 T 7→ T E ∈ V を得る. この逆写像をx 7→ Lxで表す. x, y ∈ V に対して x4y := Lxyと定めると, (V, 4) は非結合的,非可換な代数となる. さらに,次の性質をもつ: (C1) [Lx, Ly] = L(x4y−y4x) (x, y ∈ V ). (C2) 双線型形式(x, y) 7→ Tr Lx4y はV 上の正定値内積を定める. (C3) 任意のx ∈ V に対し,線型作用素Lxの固有値はすべて実数である. また, Eは単位元となる. 代数(V, 4)をΩに付随する clanと呼ぶ. このようにしてΩから, 単位元をもつclan が構成されたのであるが,逆に任意の等質錐は,単位元をもつclan から ある標準的な方法で構成できることが知られている. 単位元をもつ clan は正規分解と呼ばれる性質のよい直和分解をもつ. すなわち, ある r > 0と原始べき等元E1, . . . , Er ∈ V が存在して, Vkj := n x ∈ V ; ∀c = r X m=1 cmEm, c4x = 1 2(cj+ ck)x, x4c = cjx o (1 ≤ j ≤ k ≤ r) (3.1) とおいたときに, V = X 1≤j≤k≤r Vkj と分解される. さらに, Vii= REi (i = 1, . . . , r) となる. 正規分解は積4を具体的に計算する上で非常に有用な,次の性質をもつ: • Vlk4Vkj ⊂ Vlj, •もしk 6= i, jならば, Vlk4Vij = 0, • Vlk4Vmk⊂ Vlm or Vml (l ≥ mかm ≥ lかどうかに依存する). (3.2) また, Vinbergによる次の重要な命題がある. 主定理の証明でもこれを用いる. 1 ≤ j < k ≤ r に対し, nkj := dim Vkj とおく. 命題 3.1 ([14, Proposition 3]). Ωを既約な等質錐とする. このときΩが対称錐であるため の必要十分条件はnkj (1 ≤ j < k ≤ r)がj, kに依らず一定であることである. 4. 擬逆元写像の族 第1節で擬逆元写像の族を定義したが,実際に擬逆元写像の計算を進めていくために,こ の族のパラメタ付けを導入する. 4.1. 相対不変関数のパラメタ付け. Lie 環hの部分空間a, nを a := {Lx ∈ h | x ∈ r X m=1 REm}, n := {Lx ∈ h | x ∈ X 1≤j<k≤r Vkj}
と定義すると, a, nはそれぞれ可換, べき零部分 Lie 環となる. さらに h = a n nとなって いることがわかるので, A := exp a, N := exp nとおくと, H = A n N となる. パラメタ s = (s1, . . . , sr) ∈ Rrに対し, Aの一次元表現χ sを χs ³ exp³XtmLEm ´´ := exp³Xsmtm ´ (tm ∈ R). (4.1) で定義する. H = A n Nなので, χs|N ≡ 1としてχsをHの一次元表現に拡張できる. 微 分同相H 3 h 7→ hE ∈ Ωを用いて, χsをΩ上の関数∆sに移す: ∆s(hE) := χs(h) (h ∈ H). 当然ながら∆sはHの作用に関して相対不変である: ∆s(hx) = χs(h)∆s(x) (h ∈ H, x ∈ Ω). (4.2) 任意のΩ上の相対不変関数は,ある∆sを定数倍したものとして得られる. 4.2. 相対不変関数に付随する擬逆元写像. s = (s1, . . . , sr) ∈ Rrを任意のパラメタとする. x ∈ Ωに対し, xの擬逆元 Is(x) ∈ V∗ を
hy, Is(x)i = −Dylog ∆−s(x) (x ∈ Ω, y ∈ V )
で定義する. 写像Is: Ω → V∗を擬逆元写像と呼ぶ. (4.2)より, IsはH同変であることが わかる: Is(hx) = h · Is(x) (h ∈ H, x ∈ Ω). ただし右辺のH の作用はV∗ への反傾作用である. Is(E)を記述しよう. Ei∗ ∈ V∗ (i = 1, . . . , r)を次のように定義する: DXr m=1 λmEm+ X 1≤j<k≤r Xkj, Ei∗ E := λi (λm ∈ R, Xkj ∈ Vkj). E∗ s := P siEi∗とおくと, [9, Lemma 3.10]より, Is(E) = Es∗. [12]より, Hは反傾作用によってΩ∗に単純推移的に作用している. また,簡単な議論によって Es∗ ∈ Ω∗ ⇐⇒ s > 0 がわかる. ただし, s > 0はs1, . . . , sr > 0を意味するものとする. よって, ∆sが認容的であ る, すなわちIs(Ω) ⊂ Ω∗ であることと, si > 0 (i = 1, . . . , r)であることは同値である. 当 然ながらこれはIs(Ω) = Ω∗とも同値である. また,次のような関係がある:
hx|yis:= DxDylog ∆−s(E) = hx4y, E∗si (x, y ∈ V ). (4.3)
よって, (3.2)を使うことにより, h·|·isが正定値 ⇐⇒ s > 0. 4.3. Vinberg の∗写像のパラメタ. 正のパラメタd = (d1, . . . , dr)をdi := Tr LEi (i = 1, . . . , r)で導入する. (3.1)より, di = 1 +12 X α>i nαi+12 X α<i niα (i = 1, . . . , r) (4.4) と表される. 簡単な議論により, χd(h) = Det h (h ∈ H)がわかる. 一方で φ(gx) = Det g−1φ(x) (g ∈ G(Ω), x ∈ Ω) が成立する. ゆえに, φ(x) = ∆−d(x), x∗ = Id(x) (x ∈ Ω). (4.5)
5. 主定理の(A) ⇒ (B)の証明
主定理の(A)の成立を仮定しよう. ∆は認容的であるから,あるs = (s1, . . . , sr) > 0 を
使って∆ = ∆−sと書ける. 記法を簡潔にするために,正定値内積
hx|yis:= DxDylog ∆−s(E) (x, y ∈ V )
を用いてV∗とV を同一視して話を進める. この同一視によるΩ∗の像をΩsで表す. ただし簡 単のため,擬逆元写像は同じ記号Is: Ω → Ωsで表す. また,整数j, k, lは1 ≤ j < k < l ≤ r を満たすとする. 5.1. 第一段階. まず, s1= · · · = srを証明する. そのために次の補題を示す: 補題 5.1. もしnkj 6= 0ならば, sj = sk. 証明の概略. 任意の0でないvkj ∈ Vkjをとり,正の数ξj, ξkをev := ξjEj+ξkEk+vkj ∈ Ωとな るように適当な方法でとる. このときE +ev ºΩ Eなので,仮定(A)よりIs(E) ºΩs Is(E +ev) となるはずである. IsのH同変性を使ってIs(E + ev) を計算し, 解析していくことによっ て, sj ≥ skが従う. Isの逆写像について同様の計算をすることによってsk≥ sjが従い,結 局sj = skとなる. ¤ 浅野洋氏による次の命題を用いて議論することによって, s1= · · · = srが従う. 命題 5.2 ([1, Theorem4]). 等質錐Ωが既約であるための必要十分条件は, 1 ≤ j < k ≤ r を満たす任意の整数j, kに対して, 相異なる正の整数から成る列λ0, . . . , λm が存在して, nλj−1λj 6= 0 (j = 1, . . . , m)となることである. ただしλj−1< λjのときはnλj−1λj := nλjλj−1 とする. 5.2. 第二段階. vlj ∈ Vlj, vlk∈ Vlkに対し, [7, Lemma 4.4]と[7, Lemma 7.7]より,sLvlkvlj ∈ Vkj が従うことに注意する. ただしsLvlkは内積h·|·isに関するLvlkの転地作用素を表す. 補題 5.3. nlk6= 0とする. 任意の0でないvlk∈ Vlkに対し,線型写像 Vlj 3 vlj 7→sLvlkvlj ∈ Vkj は単射である. よって, nlj ≤ nkj. 証明の概略. sL vlkvlj ∈ Vkj = 0かつvlj 6= 0を仮定して矛盾を導けばよい. 正の数ξj, ξk, ξl をev := ξjEj + ξkEk+ ξlEl+ vlj + vlk ∈ Ωs となるように適当な方法でとる. このとき E + ev ºΩs Eなので, 仮定(A)よりIs−1(E) ºΩ Is−1(E + ev)となるはずである. あとは, 第 一段階で行ったのと同じような方針で計算を進めて,矛盾が導ける. ¤ 5.3. 第三段階. 補題 5.4. nkj 6= 0とする. 任意の0でないvkj ∈ Vkj に対し,線型写像 Vlj 3 vlj 7→ Ulk:= 12(vlj4vkj+ vkj4vlj) ∈ Vlk は単射である. よって, nlj ≤ nlk. 証明の概略. 第二段階と似たように, Ulk = 0かつvlj 6= 0を仮定して矛盾を導く. 正の 数ξj, ξk, ξlをv := ξe jEj + ξkEk+ ξlEl+ vlj + vkj ∈ Ω となるように適当な方法でとる. E + ev ºΩ Eなので,仮定(A)よりIs(E) ºΩs Is(E + ev). あとは第二段階と同じように解析 していけばよい. ¤ 5.4. 主定理の(B)の成立. [10, Section 5.5]と同じような議論によって, 次のようにして主 定理の(B)の成立が証明できる. 補題5.3と5.4より,まず次のことが示せる. 補題 5.5. もしnkj, nlj, nlkのうち少なくとも2つが0でなければ,これらは全て等しい. これと命題5.2を再び用いることにより, nkj (1 ≤ j < k ≤ r)がj, kに依らず一定であ ることがわかる. ゆえに命題3.1より, Ωは対称錐となる. また, (4.4)より, d1 = · · · = dr. 同じくs1= · · · = srなので,あるp > 0に対してs = pd. よって, (4.5)より∆ = ∆−s= φp が従う.
6. 順序を逆転しない∗写像の具体例 実ベクトル空間V を V := v = v01 v03 vv24 v2 v4 v5 ; vi ∈ R で定義する. この中で与えられる正則な開凸錐 Ω := {v ∈ V | v は正定値} は非自己双対な等質錐であり,双対 Vinberg 錐と呼ばれる. Ωに付随するclanの構造を導 入し, ∗写像を具体的に計算しよう. Lie群He を e H := h = h01 h03 00 h2 h4 h5 ∈ GL(3, R); h1, h3, h5> 0 と定義する. eHは作用v 7→ ρ(h)v := hvth (v ∈ V, h ∈ eH)によってV に作用している. 容易 にρ(h) ∈ G(Ω) (h ∈ eH)がわかる. さらにH := {ρ(h) | h ∈ eH} ⊂ G(Ω)はΩに単純推移的 に作用する. 単位行列をbase point Eとしてとる. 第3節の方法でclan の構造をV に導入 すると次のようになる. v ∈ V に対し, vを下三角行列と上三角行列に分けたものをそれぞ れv •, • vで表す. ただし対角成分は半分ずつに分ける. このとき v4w = v •w + w • v (v, w ∈ V ). Clan V の正規分解は次のようになる: E1= 1 0 00 0 0 0 0 0 , E2 = 0 0 00 1 0 0 0 0 , E3 = 0 0 00 0 0 0 0 1 , V21= {0}, V31= 00 0 v0 02 v2 0 0 , V32= 00 00 v04 0 v4 0 . よって特性函数φに付随するパラメタはd = (d1, d2, d3) = (3/2, 3/2, 2)となる. (4.3)より, hv|wiφ= hv|wid= 32v1w1+ 4v2w2+32v3w3+ 4v4w4+ 2v5w5 (v, w ∈ V ). 以後, h·|·iφを用いてV∗をV と同一視しよう. (4.3)よりEd∗ はEに移る. また, h·|·iφ に関するρ(h)の転地作用素をtφρ(h)で表すと, v ∈ V に対し, tφρ(h)v = h 2 1v1+83h1h2v2+43h22v5 0 h5(h1v2+ h2v5) 0 h2 3v3+83h3h4v4+43h24v5 h5(h3v4+ h4v5) h5(h1v2+ h2v5) h5(h3v4+ h4v5) h25v5 . (6.1) x ∈ Ωに対しρ(h)E = xとなるh ∈ eHをh(x)で表すと, h(x)はhi := αi (1 ≤ i ≤ 5)で与 えられる. ただしここで, α1 :=√x1, α3 :=√x3, α5 := q x5− x22/x1− x24/x3, α2 := x2/ √ x1, α4 := x4/ √ x3
とおいた. ˆx = (ρ(h(x))E)ˆ=tφρ(h(x))−1Eなので, (6.1)を用いて計算すると, ˆ x = 4 3(α2/(α5α1))2+ α−21 0 −α2/(α25α1) 0 4 3(α4/(α5α3))2+ α−23 −α4/(α25α3) −α2/(α2 5α1) −α4/(α25α3) α−25 (x ∈ Ω). (6.2) x ºΩ yかつy 6ºˆ Ωφ xˆとなるx, y ∈ Ωの組を与えよう. y := Eとする. 明らかに e v := 10 01 −10 0 −1 1 ∈ Ω がわかるので, x := y + ev ≥Ωy となる. (6.2)を使うと, e w := ˆy − ˆx = 1 2 0 0 0 185 −13 0 −13 13 . だがw 6∈ Ωe φである. なぜなら明らかに e z := 0 0 00 1 7 8 0 78 1 ∈ Ω であり, h ew|eziφ= 2/3 − 7/6 + 5/12 = −121 となるので,双対錐Ωφの定義よりw 6∈ Ωe φ. ゆえにy 6ºˆ Ωφ xˆ が従う. References
[1] H. Asano, On the irreducibility of homogeneous convex cones, J. Fac. Sci. Univ. Tokyo 15 (1968), 201–208.
[2] J. Dorfmeister, Homogeneous Siegel domains, Nagoya Math. J. 86 (1982), 39–83.
[3] J. Faraut and A. Kor´anyi, Analysis on Symmetric Cones, Clarendon Press, Oxford, 1994.
[4] O. G¨uler, Hyperbolic polynomials and interior point methods for convex programming, Math. Oper. Res. 22 (1997), 350–377.
[5] C. Kai, A characterization of symmetric cones by an order-reversing property of the pseudoinverse
maps, preprint.
[6] C. Kai, A characterization of symmetric Siegel domains by convexity of Cayley transform images, to appear in Tohoku Math. Journal.
[7] C. Kai and T. Nomura, A characterization of symmetric cones through pseudoinverse maps, J. Math. Soc. Japan 57 (2005), 195–215.
[8] T. Nomura, On Penney’s Cayley tranform of a homogeneous Siegel domain, J. Lie Theory 11 (2001), 185–206.
[9] T. Nomura, Family of Cayley transforms of a homogeneous Siegel domain parametrized by admissible
linear forms, Diff. Geom. Appl. 18 (2003), 55–78.
[10] T. Nomura, Geometric norm equality related to the harmonicity of the Poisson kernel for homogeneous
Siegel domains, J. Funct. Anal. 198 (2003), 229–267.
[11] R. Penney, The Harish-Chandra realization for non-symmetric domains in Cn, Topics in Geometry,
295–313, Progr. Nonlinear Differential Equations Appl. 20, Birkh¨auser, Boston, Mass., 1996.
[12] H. Rossi and M. Vergne, Representations of certain solvable Lie groups on Hilbert spaces of holomorphic
functions and the application to the holomorphic discrete series of a semisimple Lie group, J. Funct.
Anal. 13 (1973), 324–389.
[13] E. B. Vinberg, The theory of convex homogeneous cones, Trudy Moskov Mat. Obshch. 12 (1963), 303–358; Trans. Moscow Math. Soc. 12 (1963), 340–403.
[14] E. B. Vinberg, The structure of the group of automorphisms of a homogeneous convex cone, Trudy Moskov Mat. Obshch. 13 (1965), 56–83; Trans. Moscow Math. Soc. 13 (1967), 63–93.