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に必要なデータや処理機能をそれぞれの専門家が提供し それを積極的に共有し それらを統合して処理し 事前準備および地震発生直後の対応に資する状況把握に必要な想定情報を生み出す仕組みを考える 既にこれを行うためのインフラとしての地理情報システム (GIS) やインターネットの技術は整備されてきており 比

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地域安全学会論文集No.27, 2015.11

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WebGISサービスの連携による簡易型地震災害想定Webアプリケーションの開発

Development of Simple Earthquake Disaster Estimation Web Application

Combining Web GIS Services

鈴木 進吾

1

,林 春男

2

Shingo SUZUKI

1

and Haruo HAYASHI

2

1防災科学技術研究所

National Research Institute for Earth Science and Disaster Prevention

2京都大学防災研究所

Disaster Prevention Research Institute, Kyoto University

The paper presents the new method of making earthquake disaster situation estimation system based on web gis services. In earthquake disasters, many kind of damage and impacts occur in complex processes and many kind of person or organizations should prepare based on the estimation of situation. In order to give them personalized estimation information, authors made the simple earthquake disaster estimation application that everyone can estimate that with web brouser. From the development procedures, it is revealed that the data, processing, result of estimation should be made as services so that they can combine them flexibly according to needs, complexity of process, and they can promote collaboration faster.

Keywords : web gis, service, web application, mash up, earthquake disaster situation estimation 1.はじめに 本研究では、地震防災の教育・訓練およびBCPの検討 などに資する想定情報を広く地域に応じて提供すること を目的として、地震災害の複雑な過程を簡易的にウェブ 上でシミュレーションできるウェブアプリケーションを 構築した。その中で、様々な研究者から提案されている 各種被害や影響の予測手法を、分散して稼働する地理空 間情報処理サービスとして構築し、それを連携させるこ とによって複雑な被害・影響過程をシミュレーションす る方法を提案する。 近い将来の発生に備えなければならない地震として、 首都直下地震や南海トラフ巨大地震津波が想定されてお り、それらによる被害は膨大な量になることが予測され ている。また、想定通りの地震以外の地震が発生するこ とも十分有り、想定されていない未知のシナリオが発生 することにより被害が拡大、対応が遅れる可能性がある。 地震災害について、地震の発生から被害の発生、それ によるライフライン寸断、事業中断など想定しなければ ならないこと、発生・波及する影響は多数あり、また多 様な組織・分野にまたがっている。それぞれの個別の要 素については、それぞれの専門家により研究され想定の ために使えるデータや手法が提案されてきている。 効率的なかつ多様な可能性に備えた対策の検討のため には、それらの多様な組織・分野にまたがる知見を柔軟 に統合して、様々な影響を定量化していく必要がある。 防災や災害対応に関する諸問題の解決において、地理 空間情報は重要な位置を占める。災害は面的に広がり、 ハザードの想定、被害想定、ハザードマップなどは地図 として提供される。また個人や組織の関心とするものの 位置はたくさん有り、それは個人や組織によって異なる。 多様な分野と主体で地理空間情報が生成され、利用され る。さらに、災害発生時においても、発生したハザード と被害を調査し、一変した環境を把握することが、その 後の対応に重要である。これらのハザード、被害、対応 も空間的に展開されるため、状況を示す地図を作成し、 活用する必要がある。 地理空間情報を処理し、地震発生直後に状況を示す地 図を作成するシステムは数々公開されている。産業技術 総合研究所では地震動マップ即時推定システム 1)として、 地震が発生すると即時に震度分布を推定する仕組みを公 開している。防災科学技術研究所でも J-RISQ2)として、 地震発生直後の震度、曝露人口の推定しているほか、当 該地域の過去の地震や、確率震度分布も併せて表示でき るようになっている。内閣府の地震防災情報システム (DIS)3)、消防研究センターの広域版地震被害想定シス テム 4)では直後の被害推定が可能となっている。またラ イフライン事業者においても直後の被害推定システム 5) が構築されている。しかしながら、これらのシステムは 事前のシミュレーションシステムとしては利用できず、 また単体として個別に構築されているため、解析機能や 結果の相互利用がしにくくなっている。それぞれの主体 の専門において機能を構築することが必要であるが、そ れを相互利用することによってそれぞれの主体にとって 事前、事後ともに防災、減災に活用することのできる仕 組みが必要であると考えられる。 そこで、本研究では地理空間情報処理を核にし、それ

地域安全学会論文集

No.27, 2015.11

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2 に必要なデータや処理機能をそれぞれの専門家が提供し、 それを積極的に共有し、それらを統合して処理し、事前 準備および地震発生直後の対応に資する状況把握に必要 な想定情報を生み出す仕組みを考える。既にこれを行う ためのインフラとしての地理情報システム(GIS)やイ ンターネットの技術は整備されてきており、比較的容易 にこの仕組みを構築することができる段階となっている。 ウェブメールなどをはじめとして様々な機能はインター ネット上で使えるサービスとして提供されるようになっ てきた。サービス提供者以外のプログラムからサービス を 利 用 す る た め の API ( Apprication Programming Intaface)が用意され、これを使うと、アプリケーショ ン(サービス)から別のアプリケーション(サービス) の機能を使うことができるようになっている。本研究で は、これを利用し、誰もが、いつでも、どこでも、どん な想定でも、インターネットを介して、サービスを連携 させて、ウェブブラウザさえあれば簡単に実行してみる ことができる仕組みとして「あなたのまちの直下型地 震」というサイトを構築した。このプロトタイプは URL、 http://www.drs.dpri.kyoto-u.ac.jp/~shingo/amcj/ で 公開している。本論文では、これを報告するとともに、 この手法の有用性について論じる。 2.システムの機能要件 ここでは、地震災害の複雑な過程を簡易的にかつ柔軟 にウェブ上でシミュレーションできるウェブアプリケー ションの全体の仕組みとしてのシステムについて検討す る。まずアプリケーションに求められる要件を検討し、 その中で、それを実現するために求められる情報システ ムの機能について考える。 (1) 誰でもシミュレーションが実施できる 現在、災害に関する想定は、行政から出されており、 誰もが自ら想定を行ってみることはできない。ハザード マップや地震被害想定報告書といった、紙ベースないし PDF などの情報を見ながら、それを受け入れ、読み取り、 対応を考えるということになる。 自ら行うことができないため、何故そのような想定結 果になるのか、もっと自分のところが揺れる想定はない のか、どんな地震でもやはり自分のところは揺れるのか 揺れないのか、最低どのくらいの規模の地震が起これば 被害が自分に関係するところに発生するのかといった情 報を得ることができない。 また想定情報が自由に拡大縮小できない紙や PDF あ るいは画像であれば、そのスケールでしかみることがで きず、我がこととして、各自の必要な周囲まで拡大し、 身近なものに関連づけてみることができない。従って、 全体としてどうなるかは分かっても、自分の周囲の状況 をイメージできない。 そこで、本研究では、自由に拡大縮小できるウェブマ ップを使用する。ウェブマップを使用するので、ウェブ でインターネットブラウザさえあれば、誰もが自由にみ られるようにする。そして、ウェブのインタラクティブ 性を利用して、ユーザーが誰でもウェブサイトにアクセ スして、インターネットに慣れたユーザーであれば、容 易にそのインターフェースを操作し、簡易的に被害想定 を実施してみられるようにする。これらを要件とし、そ れを満たすウェブアプリケーションを構築した。 (2) 様々な想定が実施できる 前節で述べたとおり、外力については、ユーザーが設 定することによって、様々なものを想定するようにする ことで、外力についての理解を促し、また、多様な想定 を行うことによって、どのくらいから被害が発生し始め るのか、また最悪の場合どこまで被害が大きくなるのか を知ることができる。 しかしながら、外力の想定が変化すると、それに伴っ て被害の想定も行わなければならなく、被害の想定が変 化すると、対策を変更すべきか検討しなければならない。 現状はこれらにかかる労力が大きい。これら一連の作業 に費やされる労力を低減させることで、より多くの可能 性やシナリオの検討をしやすくし、一律の想定に対して 構えるのではなく、様々な想定から地域や自分に関係す るものの脆弱性を考えて対策を検討できるようになると 考えられる。 このようなことから、多様な想定が得られる環境を整 備する必要がある。多少精度が悪くても、簡易的にハザ ードや被害などの基本的な項目についての計算ができ、 その後の詳細な検討が必要か否かを判断できる機能が求 められる。ユーザーに自然外力についての基本的な知識 を教えながら、外力の計算が容易に実行でき、地域の脆 弱性を知ることができる機能が必要である。 また、震度の想定のみならず、それにより発生する建 物被害や人的被害、またそういった基本的な被害のみな らず、災害対応を行っていく際に検討するべき、ライフ ラインの状況や、他分野、関連企業の事業停止状況、道 路被害と交通の状況、物資の需要量や供給量など、様々 なものを想定できるようにすることが必要である。基本 的な被害は、事前の被害抑止対策を強化すべきであるこ とは分かるが、発生してからの被害軽減、災害対応を準 備する上では、それのみではなく、その後の対応におけ る使えるリソースの情報が必要となるのである。 そこで本システムでは、全国のどこでも、自由に震源 を設定し、自分でパラメータを入力して、震度の計算を 実行できるようにすることを要件とする。また、これま で一般的に被害想定で行われている基本的な被害にとど まらず、ライフラインや企業の中断、物資の需要と供給 といった様々な想定ができるようにすることを目指す。 (3) 想定手法のマッシュアップ 巨大災害対策の大きな課題は、被害や影響が、平常時 の社会における多主体からなるネットワークを伝って波 及することに対する効果的な予防、被害軽減である。 物資の需要と供給などの問題は、外力、被害、対応可 能リソース、需要など様々なファクターを組み合わせな いと予測することができない。影響の想定についてはま ず外力となる地震動を想定し、次にそれによる建物被害、 人的被害を知り、ライフラインがどのようになるかを知 り、対応可能な資源を知り、業務を停止することによる 影響を知るといった、いくつかの作業を組み合わせて行 う必要がある。特に、災害対応計画を検討する際には、 他の分野や組織がどのような状況になるか、それにより 使える資源はどのくらいになるか、それはいつ復旧する かを知る必要がある。 これらの作業には、それぞれの専門家の持つデータや 評価手法を必要に応じて統合する必要がある。しかしな がら、現状ではそういった作業を簡単に行う仕組みはな く、それぞれの分野で一から情報を収集し、必要なデー

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3 タを計算する必要があり、想定にかかる労力が非常に大 きくなっている。他の分野のデータや評価手法を簡単に 自分の地域や組織で利用、実行できるようになれば、想 定にかかる労力が軽減され、全体を見据えた計画の検討 が促進されると考えられる。 従って、各専門家がそれぞれの研究によるデータや想 定・評価手法を、統合可能な形式にして共有し、それを 柔軟に組み合わせてシミュレーションすることを可能に する必要がある。 そこで、本研究では、データや想定・評価手法をそれ ぞれ相互利用可能な状態を保ちながら、要素要素に分割 し、それらを連携させる手法をとる。また本システムは ウェブを利用することを前提とするため、ウェブと親和 性の高い方法をとる。すなわち、それぞれのデータや想 定・評価手法をすべてまとめて1つのシステムとして構 築するのではなく、それぞれを独立したサービスとして それぞれ別個に構築し、それらを連携させる方法をとる。 サービスとは、ウェブを介して、データや処理の要求を 送ると、それに応じて、データや処理結果を返す仕組み のことである。 また、外力は行政界を超えて広がるため、複数の自治 体が同時に被災することもある。これまではそれぞれの 自治体において被害想定が別個になされてきた。しかし、 一つの想定で、他の自治体がどうなるかについての情報 を知り、応援が見込めるのかなどの検討することが必要 である。そこで本研究では自治体の行政界にとらわれず、 日本全域について各種データを整備していく。 (4) 緊急時の利用 地震発生直後の失見当期においては、使えるデータは それまでの地震被害想定データと、緊急時に行う被害推 定データとなる。地震被害想定通りの地震が発生するこ とは少ないことを考えると、緊急時に行う被害推定デー タでそれを補助する必要がある。 地震発生直後には、気象庁などの機関から、震源の位 置情報とマグニチュード、深さなどが発表される。これ を用いて即時に被害を推計し、おおよそどうなるかとい う情報、対応や体制を決める基準に照らし合わせて、体 制を迅速に立ち上げる必要がある。 これに資する情報を提供するためには、全国どこで地 震が発生しても、そのパラメータを入力すれば一連の被 害推計、影響の推計ができるようにする必要がある。ま た、精度を求めるあまり時間がかかってしまっては、必 要な時期に使用することができない。現地からの情報が 無い、被害がどうなっているのかが分からない、従って 体制や対応の準備をどれくらいしていいのか分からない といった時間帯において、被害推計情報があることが非 常に重要である。 そこで、本システムでは、情報を入力して計算のリク エストを送信してから、1分程度以内で結果を見ること ができるように、時間がかかる推定手法は使わない。ま た、ユーザーが必要とする情報はユーザーごとに違うと 考えられるため、すべての各種の被害情報を一度に計算 するのではなく、計算のステップを分け、ユーザーが必 要とするものを選択しながら実行し、それぞれの計算は 結果を短時間で返すようにした。 3.システムの構築 以上の機能要件を考慮してシステムの構築を行った。 (1)システムの構成 システムの概念を図1に示す。システムは、ウェブサ ービスとウェブアプリケーションからなっており、ウェ ブサービスには、データサービス、プロセッシングサー ビス、結果サービスががある。このうち、データ、プロ セッシング、結果についてはウェブ GIS サービスとして 構築する。ウェブサービスとは、ウェブを介して、リク エストを送るとそれに応じて結果を返してくる仕組みで ある。ウェブアプリケーションとは、インターネットを 介して利用するアプリケーションソフトウェアである。 データサービスはウェブを介してリクエストがあった 場合にそのデータを返すサービスである。たとえば、人 口のデータを指定したらそのデータを要求元に返すこと になる。いろいろなデータをデータサービスとして構築 し て 空 間 デ ー タ 基 盤 (spatial Data Infrastructure, SDI)を構成した。 プロセッシングは、リクエストに応じて、あらかじめ 定義しておいた処理を実行し、その処理結果を要求元に 返すサービスとなる。地理情報を処理するプロセッシン グサービスをジオプロセッシングサービスという。ジオ プロセッシングサービスは、GIS を用いた処理をあらか じめ定義してサービスとして公開しておき、データやパ ラメータをそれに入力してやると、それを使用して定義 された GIS 処理を実行し、結果を返すものである。 ジオプロセッシングサービスで計算された結果は結果 サービスとして計算の都度生成される。結果が地図形式 であれば、結果マップサービスの形となり、データサー ビスと同様、リクエストを送るとそのデータや画像が要 求元に返される。結果が数値などのテキストである場合 も、結果サービスに照会を送ると、そのデータが返され るという仕組みである。 このように、被害想定や推定を行う上で、必要なデー タ、処理、出力をそれぞれサービスとして独立させて稼 働させ、それを必要に応じて連携させるという手法をと った。処理サービスが必要なデータはデータサービスが 提供し、処理サービスの結果として出てくる結果サービ スのデータは、その次の処理サービスの入力とすること ができる。 アプリケーションは、これとユーザーの間をやりとり するインターフェースとして動作する。ユーザーにパラ メータなどを入力させるインターフェースを提供し、ユ ーザーから実行命令を受け付けたら、インターフェース 上に入力されたパラメータ、計算に必要なデータサービ ス、結果サービスのどれを使えばいいのかを、処理サー ビスに伝え、処理を実行させる。処理が終わるのをまっ て、その処理サービスで生成された結果サービスを参照 し、ユーザーの画面上に返すという仕組みになっている。 これらのサービスは ESRI 社の ArcGIS の解析機能6) サービスとして提供する GIS サーバーである ArcGIS Server7)を用いて構築した。ArcGIS では豊富な GIS 解析 機能が提供されており、それらを組み合わせることによ って複雑な処理も可能となっている。 また、これを行う上でのインフラが整備されている。 データサービスやジオプロセッシングサービスとしての 公開も比較的容易になっている。それらのサービスにウ ェブアプリケーションからアクセスする際のライブラリ

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4 図1 本システムの基本要素の概念 表1 本システムでの計算可能項目 項目 計算出力 表現 形式 震度 震度 地図 震度階ごとの曝露人口 数値 建物被害 揺れによる家屋倒壊件数 地 図 と 数値 火災件数 人的被害 家屋倒壊による死者数 地図 家屋倒壊による死者数、負傷者数、 重傷者数、避難者数 数値 ラ イ フ ラ イ ン支障 断水、断ガス、停電、下水道機能支 障日数 地図 地震発生後 1 日後、1 週間後、1 か 月後の影響世帯数 数値 企 業 の 事 業 中断 大企業・中小企業、製造業・非製造 業の事業中断日数 地図 地震発生後 1 日後、1 週間後、1 か 月後の事業中断事業所数 数値 道路被害 被害箇所数 地 図 と 数値 物 資 の 需 給 バランス ミ ネ ラ ル ウ オ ー タ ー 、 パ ン の 需 要 量、供給量の推移 グラフ (API)が用意されており 8)、これを使うことによって ウェブアプリケーションを構築することが可能となって いる。 (2)各種のサービス 以下では、本システムを構成するウェブ GIS サービス のそれぞれについて構築した例を示す。本システムを用 いて計算可能な項目を表1に示す。図2は震度想定から 曝露人口の計算までのフローを示している。このフロー のようにそれぞれの計算はジオプロセッシングサービス が、計算に必要なデータはデータサービスが、結果は結 果サービスが担い、それらをウェブアプリケーションが つなげて、必要なパラメータを入力して計算を実行して いくものとなっている。 図3に1つの解析実行のためのサービスの連携フロー を示す。ユーザーの要求を受けると、Web アプリケーシ ョンは API を用いてジオプロセッシングサービスに必要 なパラメータを渡し、結果をリクエストする。ジオプロ 図2 サービス連携フローの例 図3 各解析の実行のためのサービス連携 セッシングサービスは解析モデルに必要なデータをデー タサービスにリクエストし、データサービスはそのデー タを返す。解析結果として地図は結果マップサービス、 数値やデータは解析ジョブごとの実行結果サービスとし て公開される。ジオプロセッシングサービスはウェブア プリケーションに実行結果として、参照すべき結果マッ プサービスや実行結果サービスについての情報をウェブ アプリケーションに送り、ウェブアプリケーションは必 要に応じてそれらを参照し、表示または次の解析に利用 できるようにする。これらのウェブアプリケーション、 サービスはウェブサーバー、解析サーバー、データサー バーに分散されている。 a)震度分布 震度分布を出す方法として、3通りの方法を用意した。 すなわち、(1)日本全国任意の箇所に点震源を設定し 計算する方法、(2)全国の主要活断層について想定さ れている震度分布を用いる方法、(3)首都直下地震や 南海トラフ巨大地震について中央防災会議で想定されて いる震度分布を用いる方法である、 (1)の方法については、ユーザーがウェブアプリケ ーションのウェブマップ上で点震源を指定し、マグニチ ュードと深さをパラメータとして入力し、この方法で震 度分布を計算し結果としての震度分布を返すサービスを 呼びだすものである。これにより、ユーザーは簡単にそ れぞれの関心とする点、たとえば、自宅や職場、企業の 施設や関係先など、知りたい点で地震が起こった場合な どを想定することができる。また、震源位置やパラメー タをいろいろと変えて実行することにより、自分の関心 のある点の震度がどのように変化するかを知ることがで き、その位置の地震に対する揺れやすさを自分が実行し たシミュレーションより知ることができるようになる。 入力するマグニチュードと深さの値には、過去の地震災

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5 害の値がプリセットとして用意されており、これらをど う入れるべきか分からない人に対しても、簡単に入力で きるよう配慮している。また緊急時には、震源位置、マ グニチュード、深さを入れることによって迅速に震度分 布を推定することができる。 ユーザーがウェブアプリケーション上で実行ボタンを 押すと、ウェブアプリケーションは震源位置とマグニチ ュード、深さのパラメータをジオプロセッシングサービ スに送信する。サービスは受け取ったパラメータから、 震源からの距離分布を GIS の距離解析機能を用いて計算 しラスタ化する。その後 GIS のラスタ演算機能により、 硬質地盤での最大速度分布を距離減衰式で計算する。そ れに Spatial Data Infrastructure として用意してある 表層地盤の増幅度をラスタ演算機能により掛け合わせ地 表面最大速度分布を計算する。最後にこの PGV 分布から 計測震度を算出し、震度階に直したものを結果マップサ ービスとして作成し、それをウェブアプリケーションが 読み込み地図に重ね合わせる。また、地図上には表示し ないが、後の計算処理に必要となるため、PGV を格納し た結果マップサービスを作成し、その URL をウェブアプ リケーションに返している。 (2)(3)の方法では、ユーザーが身近に想定され ている震度分布を使って以降の解析ができるようにして いる。(1)の方法の使い方がわからない、政府が想定 しているものを使いたい、身近に想定されているものを 知りたいときに利用することができる。活断層による震 度データは地震調査研究推進本部 9)、首都直下地震と南 海トラフの地震データは中央防災会議 10)11)のものを利用 した。 この方法を使う場合、ユーザーはウェブアプリケーシ ョン上で想定断層を選択する。送信ボタンを押すと、ユ ーザーがどの断層を指定したかがジオプロセッシングサ ービスに送られる。ジオプロセッシングサービスは、そ のパラメータから、その断層の震度分布をデータベース から検索し、その断層の震度分布を格納した結果マップ サービスを作成する。処理が終わると、ウェブアプリケ ーションがその結果マップサービスを読み込み地図上に 重ね合わせて表示する。 b)曝露人口 それぞれの震度階にさらされる人口を曝露人口といい、 これを計算することは以下の点で重要である。 震度階ごとに被害の様相が変わるので、大まかにどう いった被害にあう人がどれくらい発生するかが分かる。 これを事前に行えば、既往の災害の曝露人口と比較する ことによって相対的な災害の大きさを知ることができる。 また緊急時に行えば、どれだけの影響がでるのかを迅速 に知ることができる。それによって対応体制の立ち上げ や対応量の見積もりを行うことができる。 曝露人口の計算は震度分布の計算に引き続いて行われ るが、これらはそれぞれ別のジオプロセッシングサービ スに分散してある。震度分布の計算と結果の表示が終わ ると、ウェブアプリケーションは震度分布の計算結果を 表示させる結果マップサービスの URL をパラメータと して曝露人口を計算するジオプロセッシングサービスを 呼び出す。曝露人口を計算するジオプロセッシングサー ビスは、パラメータとしての震度分布の URL を参照し、 そのデータを受け取り、SDI として持っている人口分布2010 年国勢調査地域メッシュ統計より作成)とから、 GIS のゾーン統計機能を用いて、それぞれの震度階ゾー 図4 震度分布計算画面 ンに入る人口の合計を算出し、アウトプットとして各震 度階の曝露人口を返す。ウェブアプリケーションはそれ を受け取って表示するという流れになっている。 任意の地点を指定して震度分布から曝露人口までの 計算を行った後の画面を図4に示す。ウェブアプリケー ションは左側の地図画面と、右側の設定・情報表示パネ ルから構成されている。左側の地図は自由に移動・拡大 縮小できるウェブマップとなっている。右側には、計算 の順序に従って計算で着るようになっており、それぞれ の計算にインプットするパラメータをここで指定する。 また地図を読むのに必要な凡例や、数値等の計算結果デ ータ、地図のレイヤーの表示・非表示を切り替えるもの もこのパネルに配置されている。 c)建物被害 震度分布が計算されると、次の段階に移ることができ る。次の段階は建物、火災、人的被害などの基本的な被 害を計算する。 建物被害計算ではユーザーがウェブアプリケーション 上でインプットするパラメータはなく、計算実行ボタン を押すと、ウェブアプリケーションは震度分布計算の結 果マップサービスを URL を建物被害を計算するジオプ ロセッシングサービスに渡す。建物被害を計算するジオ プ ロ セ ッ シ ン グ サ ー ビ ス は 、 震 度 計 算 で 出 力 さ れ た PGV の結果マップサービスの URL を参照しデータを取 得する。建物被害は揺れによる倒壊建物数を、消防研究 所が開発した簡易型地震被害想定システム12)で用いられ ている方法で計算する。すなわち、PGV のデータから 童ら13)の木造被害の算定式によって建物倒壊率の分布を 計算し、それに SDI の建物数分布(2010 年国勢調査地 域メッシュ統計の総世帯数)をGIS のラスタ演算機能を 用いて掛け合わせて倒壊建物の分布を計算し、建物倒壊 率分布と建物倒壊数分布を結果マップサービスとして公 開する。また計算範囲全域の建物倒壊数をGIS のゾーン 統計機能を用いて算出し結果を返す。ウェブアプリケー ションは倒壊建物数の分布を地図上に重ね合わせ、総数 をテキストとしてページ上に表示する。 建物被害計算を行った画面を図5に示す。 d)火災被害 火災被害については、ユーザーはウェブアプリケーシ ョンで地震の発生時の季節および時間を入力し、ウェブ アプリケーションはその情報と、建物被害の計算で得ら れた建物全壊率の結果マップサービスの URL をパラメ ータとして、火災被害を計算するジオプロセッシングサ ービスに渡す。サーバー側でそれを受け取り、全壊率、 季節ごとの係数、時間ごとの係数、SDI として持ってい る世帯数分布から水野・堀内14)の方法で炎上出火棟数分 布、炎上出火率分布を結果マップサービスとして、その 総数をテキストとして返す。ウェブアプリケーションは

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6 図5 建物被害の計算画面 図6 人的被害の計算結果画面 帰ってきたものから炎上出火棟数の分布を地図上に、総 数をパネル上に表示する。 e)人的被害 人的被害については、ユーザーが指定するパラメータ は無く、ウェブアプリケーションは、建物被害計算から の被害率分布の URL を人的被害を計算するジオプロセ ッシングサービスに渡す。サーバー側では、建物被害率、 SDI として持っている人口分布、世帯あたり人口の分布 から田村ら15)の方法で死者数、負傷者数、重傷者数、倒 壊建物に住む人のカウントから避難者数を算出し、死者 数の分布を結果マップサービスとして、それ以外の総数 をテキストとして返す。ウェブアプリケーションはそれ を受けて、死者数分布を地図上に示し、それ以外をパネ ル上に表示する。人的被害を計算した時点での画面を図 6に示す。 f)ライフライン支障 地震災害時における状況を考え、対応を考える上でラ イフラインに関する支障を推定することは重要である。 ライフラインの停止期間の予測モデルは、永田16)の方法 を利用した。永田は阪神・淡路大震災以降の 7 被害地震 に関して収集したライフラインの供給支障日数の実測値 に基づいて、計測震度を説明変数とする供給支障日数の 簡易予測式を提案している。 ユーザーはウェブアプリケーション上で予測モデルを 選択する。予測モデルは同じ震度においても供給支障日 数にばらつきがでることを考慮し、その確率分布から、 「復旧が早いケース」「平均的な復旧をたどるケース」 「復旧が遅れるケース」の3タイプを用意し、それらか ら選んでもらうようにした。これにより、もし早くライ フラインが復旧したら何ができるか、遅れた場合どのよ うになるか、その供給支障日数を目安として検討するこ とができると考えられる。 これまでと同様にウェブアプリケーションは、実行ボ タンが押されたら、PGV を参照する URL と予測モデルを パラメータとしてライフライン支障を計算するジオプロ セッシングサービスに渡す。サーバー側でそれを受け取 図7 ライフライン供給支障の計算画面 って、PGV を震度に直し、永田の予測テーブルを使って それぞれの震度に応じた供給支障日数に変換する。この 手法ではライフラインの分布は考慮していない。供給支 障日数は、電力・ガス・上水道・下水道のそれぞれにつ いて計算され、その空間分布を結果マップサービスとし て、供給支障となっているエリアの人口データや世帯数 データについて計算領域全体の統計がテキストとして返 される仕組みになっている。ウェブアプリケーションは それを参照し、地図を描画するとともに、統計情報とし て、1日後、1週間後、1ヶ月後の供給支障世帯数がパ ネルに表示される。図7にガスの供給支障日数分布を計 算した結果の画面を示す。 g)事業所の業務中断 地震災害時における、様々な業種、企業の事業中断を 考えることは重要である。企業においては、一般的にど の震度になればライフラインの寸断などによって自社あ るいはサプライチェーンや取引先など関係の他分野の企 業にどのくらいの影響が出るのかを知ることで、業務中 断による影響を分析することが可能である。企業の事業 中断日数の予測モデルは、ライフライン機能支障と同様 に永田16)の方法を利用した。永田は近年発生した 6 被害 地震における 253 事業所の事業中断日数を調べ、その結 果に基づいて、計測震度を説明変数とする事業中断日数 の確率分布の簡易予測式を提案している。 事業所の業務中断についても、ライフライン支障と同 様に、予測モデルをユーザーが選択し、その予測モデル においての計算を実行する。ウェブアプリケーションは 同様に PGV の予測結果の URL と予測モデルをサーバーに 渡し、サーバーは、これらから永田の予測テーブルを用 いて業務中断日数の分布を大企業、中小企業、製造業、 非製造業のそれぞれについて算出し、それぞれ結果マッ プサービスとして返す。また製造業と小売業については、 SDI として持っている事業所数、出荷額、売上高(2008 事業所・企業統計調査地域メッシュ統計、商業統計、工 業統計)の分布とから、1日後、1週間後、1ヶ月後に おける業務中断事業所数、全国出荷額に対する割合、全 国売上高に対する割合を統計を取りテキストとして返す。 ウェブアプリケーションは、それを受け取り、地図とし て返されたものを地図上に、テキストとして返されたも のをパネル上に表示する。 東京湾北部地震を想定して計算し、大企業の事業中断 を地図上に表示したものを図8に示す。 h)道路被害 地震発生時における対応を考える上で、道路被害はユ ーザーの関心とする移動が可能かどうかを知るために重 要である。住民であれば、安否確認、出勤など、企業で あれば出勤、支援、復旧作業などを考える上でどの道路 が使えそうかを知ること重要となると考えられる。ここ

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7 図8 事業所の業務中断の推計画面 図9 主要道路の被害分析画面 では、庄司ら17)の方法を用いて主要道路の被害を推計す る方法をとった。庄司らは 2011 年東北地方太平洋沖地 震において発生した道路構造物の被害情報を基に、被害 形態の類型化を行い、道路延長距離に対する被害件数を 被害率と定義した上で、これと計測震度の関係を分析し ている。 この被害率テーブルを利用して、ジオプロセッシング サービスはウェブアプリケーションから、PGV の参照URL を受け取り、それから計算した震度分布を被害 率分布に変換する。そして、道路延長分布データとこの 被害率分布データをラスタ演算し、被害箇所数分布を求 め、これを結果マップサービスとしてウェブアプリケー ションに返す。また、計算範囲全域での被害箇所数の合 計をとり、ウェブアプリケーションに返す。ウェブアプ リケーションはそれらを表示する。主要道路の被害数分 布を計算した結果の画面を図9に示す。 i)物資需給バランス 地震災害時において、物資がどれだけ必要になるか、 またその供給がどれだけ得られるかを検討することは重 要である。特に被災地が広範囲に広がる巨大災害になれ ばなるほど、流通上の在庫の被災、需要の増大は大きく なり、事前にどのくらい備蓄しておかなければならない のかを検討する必要が出てくる。 そこで、簡易的に以上の分析サービスの結果を使用し て物資の需給バランスを計算するジオプロセッシングサ ービスを構築した。 分析する物資は、ミネラルウォーターとパンを選択し た。基本的には、生産、在庫、需要をそれぞれ計算し、 それらのバランスがどうなるかを計算するものとし、途 中の物流支障などはここでは考慮に入れていない。 まず、ミネラルウォーターについて、平時における需 要量、供給量、生産量は等しいとした。平時における供 給量は日本ミネラルウォーター協会の国内生産・輸入数 量(2011 年) 18)によると、1 年間で 3,172,207kl である ので、これを 365 日で除算して1日あたりの供給量を 8,691kl と算出して推計に利用した。一方、ミネラルウ 図10 物資の需要と供給の分析画面 ォーターの在庫量は、経産省「企業活動基本調査(2008 年度)」19)より業種別の在庫日数を算出し、下記の通り とした。すなわち、清涼飲料・酒類・茶・たばこ製造業 における在庫が 32.1 日分、食料・飲料卸売業が 12.5 日 分、飲食料品小売業が 19.8 日分である。これから、製 配販合計在庫日数を、64.4 日とし、このうち、製配に ついては在庫を全て使えるとし、販については事業中断 中の小売業の在庫は使用できないとした。 非製造業の事業中断日数は上述 g の項から得られるも のを使用し、これと飲食品小売業の分布データから、使 用できない量を計算する。 また、需要量については、上述 f の項から得られる水 道断水日数と人口から、発災後各日の断水人口を計算し、 その1人1人が飲料水として1日に必要なミネラルウォ ーターの量を政策変数としてパラメータ入力してもらい、 被災地の需要量を計算する。被災地外の需要量について は、断水していないところの人口に平常時の平均需要量 を掛けて算出した。 これを統合し、前日の在庫量に当日使用できるように なった在庫量、生産量を足し、そこから需要量を差し引 いて在庫量の推移を計算する。 ユーザーがウェブアプリケーション上で計算実行ボタ ンを押すと、ジオプロセッシングサービスが以上の処理 を行い、結果として、需要量、供給量、在庫量の推移デ ータを返してくるので、それをウェブアプリケーション がグラフ化して表示している。 パンについては、平常時の需要量、生産量、供給量は 等しいとし、ミネラルウォーターのように何日もおいて おけないので、在庫量はないものとした。平常時の需要 量の分布は、家計調査 (2013 年) 20)の都道府県別購入金 額を用い、これを飲食料品小売店分布に応じて按分しメ ッシュ化し推計に利用した。平常時の生産量分布は、家 計調査 (2013 年)の全国購入金額を、食料品製造業分布 に応じて按分しメッシュ化したものを推計に利用した。 これを計算するジオプロセッシングサービスは、上述 gで得られる製造業の事業停止日数、飲食料品製造業分 布データ、ユーザーが政策変数としてパラメータ入力す る生産量補正係数から、生産量を購入金額ベースで計算 する。また、同様に上述gで得られる非製造業の事業停 止日数からパンが購入できない地域の金額、パンが購入 できる地域の金額を算出し、それらにユーザーが政策変 数としてパラメータ入力ができる補正係数を掛けて、需 要量を計算する。そして結果として需要量、供給量をウ ェブアプリケーションに返し、ウェブアプリケーション がそれをグラフ化する。 上述 a での想定を東京湾北部地震とし、ミネラルウォ ーターの推計を行った結果の画面を図 10 に示す。需要 量が断水解消とともにへり、使用可能在庫量は事業所の

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8 復旧によって増えるが、需要量が大きいため在庫量が早 期になくなることを知ることができる。その後、この画 面上でユーザーが生産量を何割増しにしたらどうなるか、 1 日の消費量を変化させたらどうなるかを、インタラク ティブに計算し直しながらみることができるようになっ ている。 j)ポイントサマリー 最後に、一連の想定が終わった後、ユーザーが関心と する任意の地点における想定結果をサマリーとして返す ジオプロセッシングサービスを作成した。 一回の想定でも、ユーザーは様々な地点の状況を知り たいというニーズがあると考えられる。たとえば複数の 事業所を持つ企業であれば、BCP を検討する際に、その 想定でそれぞれの事業所がどうなるのか、関係先、取引 先の状況がどうなるのかを知る必要があると考えられる。 そしてすべての関係先を併せて深刻な事態を引き起こす 地震が発生するのはどんな場合か、その場合、どういっ たように計画を立てるかを検討する。住民であれば、家 族の勤務先や学校などの情報も必要であろう。その場合 に、ひとつひとつの想定した地図を読むのではなく、そ れぞれのポイントごとに一覧してみられるとデータの取 得が容易になると考えられる。 そこで、これまでの想定結果を参照し、ピンポイント で知りたい点のサマリーを知るための機能を追加した。 ウェブアプリケーション上で、「クリックして地図上で 知りたい点を押す」ボタンをおして、地図上の関心のあ る地点をクリックすると、その地点の位置情報、それか らこれまで計算してきた結果を参照するための、それぞ れの結果マップサービスの URL をパラメータとしてウェ ブアプリケーションがサービスにリクエストを送信する。 サービス側では、受け取ったパラメータから、それぞれ の想定結果の結果マップサービスにアクセスし、GIS の 指定したポイントにおける値を読み取る機能により、そ れぞれの結果のその位置での値を取得する。そしてそれ をテキストとしてウェブアプリケーションに戻す作業を する。ウェブアプリケーションではそれを整形して、ク リックした地点の情報サマリーとして、震度分布、建物 倒壊確率、火災発生確率、死亡確率、停電日数、ガス停 止日数、断水日数、下水道支障日数、大企業の業務停止 日数、中小企業の業務停止日数、製造業の業務停止日数、 非製造業の業務停止日数を表示させる。 図 11 にポイントサマリーを取った後の画面を示す。 ユーザーは知りたい地点ごとに、地図上をクリックすれ ば、その位置の情報を取得することができる。 4.考察 これまで、誰もが簡単に地震被害想定ができるシステ ム、災害の全体像をとらえられるシステムの構築を目指 して、サービスの連携という手法を用いて、プロトタイ プシステムを構築してきた。本章ではこの方法について 若干の考察を加えたいと思う。 まず、サービスの連携による予測というところで、こ の新しい方法は、次の点で有効であると考えられた。一 つの点としては、すべてのデータや処理を一括して1つ のシステムとして構築する必要がないという点である。 一括のシステムとして構築しようとすると、その者がす べてのデータや処理を定義しなければならず、構築には 図 11 任意地点の情報を取得する画面 時間がかかる。しかし、分散させてひとつひとつのデー タや処理をサービスとして構築できるようになると、既 にあるデータサービスや処理サービスを連携させるだけ でシステムを構築できるようになり、その構築にかかる 時間は短縮される。メンテナンスの面でも、新しいデー タができればそれでデータサービスへの参照を置き換え るだけでよくなる。新しい手法ができればそれで処理サ ービスを置き換えるだけで適用することができ、研究成 果の迅速な実戦活用が期待される。 さらに一括のシステムとして構築しようとすると、 様々な目的に使えるようにと機能が多くなり、機能が多 くなりすぎた場合に応用可能性やユーザビリティが失わ れがちになる。本手法を用いるとサービスを必要に応じ て、目的に応じて、使う人に応じて選択して使用し、 様々なウェブアプリケーションを構築できようになる。 住民に地震の特徴を教えるための教育用アプリケーショ ン、図上訓練などのシナリオを作成するためのアプリケ ーション、企業が BCP を考えるためのアプリケーション など、同じサービスを用いても様々なアプリケーション を作成することが容易になる。 二つ目の点であるが、データや処理サービスは、誰が 作ってもよく、柔軟に組み合わせることが可能であるた め、様々な種類の想定が可能となる。サービスはインタ ーネットで一般に公開することができるため、たとえば 筆者のサービスを他者が他の目的で使用すること、筆者 のサービスを使って新たなウェブアプリケーションを構 築することも可能である。今回は計算時間の短縮のため、 簡易な方法を用いているが、精度を上げるために別の方 法を用いて処理サービスを立てて、置き換えることも可 能になる。処理サービスが処理をスーパーコンピュータ などに渡せば、大量の情報処理を行って結果を返すこと も可能になろう。また、他者が必要な機能を必要に応じ てサービスとして追加していくことができる。たとえば、 市町村ごとの集計がほしいというのであれば、それをす るサービスを単体で作れば、そのサービスを使っていろ いろな想定結果の市町村ごとの集計が可能となる。 どこに、どんなデータがサービスとして公開されてい て、どこに、どんな処理がサービスとして公開されてい るかを知ることができるポータルがあれば、それを参照 して組み合わせることができる。データサービスについ ての、内容や解像度、作成者や作成時期などを示したカ タログ、処理サービスについての、どのようなパラメー タを入力しなければならないか、どんな処理を行うのか、 出力をどう使うのかなどを示したカタログの整備を目下 行っているところである。そのインフラとして地図関連 のサービスを登録し、カタログを作り、ウェブマップ上 に 重 ね て 表 示 す る こ と が で き る ESRI 社 の ArcGIS Online21)のようなものが整備されている。 9 ただ、以上のように様々な有効性はあるものの、まだ まだ、簡単にサービスが構築できる仕組みにはなってい ない。ある程度の GIS 技術とプログラミング技術が必要 である状況であるが、一からシステムを構築するよりは 遙かに省力可されると考えられる。 また、複数の手法を組み合わせる際の精度のコントロ ールも重要と考えられる。精度は解析に用いるデータの 解像度や、用いるデータの種類や量、手法によって異な る。例えば本研究で用いた建物をすべて同じものとして 扱う手法と、構造・築年等を考慮してデータを拡充しそ れぞれについての被害を計算する手法では結果が異なる。 少ないデータで簡易的に計算した結果を高度な手法を用 いて詳細に計算するサービスに入力しても、その精度は 前者に規定される。それぞれのサービスがどのくらいの 精度があるのかを把握しながら、組み合わせていく仕組 みを検討する必要がある。 5.まとめと今後の課題 本論文では、地震災害の様々な想定を誰もが簡単にで きるようになること、そして、その開発においては多分 野・多組織のデータや手法を柔軟に組み合わせること、 開発に掛ける労力をできるだけ軽減することを念頭に、 簡易型地震被害想定ウェブアプリケーション「あなたの まちの直下型地震」を開発し、その中でその仕組みを検 討した。その結果以下のようなことが明らかになった。 すなわち、これまでの統合されたアプリケーションで はなく地震被害想定におけるデータ、処理、結果をそれ ぞれ分散したサービスとして取り扱う新しい手法が様々 な現象を想定するうえで有効であると考えられる。分散 したサービスとして取り扱うことによって、それを柔軟 に組み合わせてアプリケーションを作成することができ、 複雑な現象の想定も可能となる。また、目的に応じたア プリケーションが作成可能となり、防災における様々な 主体に使ってもらうことが可能となると考えられる。さ らには様々な人の作ったデータ、処理サービスはインタ ーネットを介して使用することができるため、最新のデ ータ、最新の研究成果をより早く利用することができる ようになると考えられる。しかしながら、本アプリケー ションは何人かに利用してもらって評価をしてもらって いるものの、多くの人々に利用してもらって、体系的な 評価結果をまとめるには至っていない。 今後の課題としては、様々な対象者に利用してもらっ て利用結果や評価をまとめ、その結果に基づき本手法の 実利用への検討を実施したい。また、その上で、様々な サービスを作成していくことによってより多くの想定を 可能にすること、また、そのサービスを相互利用可能に するためサービスのポータルを作成すること、複数のサ ービスを組み合わせる際の精度のコントロールなどにつ いても検討していきたい。 謝辞 本研究は、文部科学省委託研究都市の脆弱性が引き起 こす激甚災害の軽減化プロジェクト、サブプロジェクト ③都市災害における災害対応能力の向上方策に関する調 査・研究(代表 林春男)の一環として行われた。ここ に記して謝意を表する。 参考文献 1)産業技術総合研究所:QuiQuake 地震動マップ即時推定シス テム, https://gbank.gsj.jp/QuiQuake/ 2)防災科学技術研究所:J-RISQ, http://www.j-risq.bosai.go.jp/report/ 3)内閣府:地震防災情報システムの整備, http://www.cao.go.jp/others/kichou/it/gis/dis-s.html 4)ESRI ジャパン:事例 地震時の応急対応を支援するための 広域版地震被害想定システムの開発(消防研究センタ ー),http://www.esrij.com/industries/case-studies/55400/ 5) 大阪ガス:地震被害予測システム, https://www.osakagas.co.jp/company/efforts/rd/needs /1191124_3922.html 6) ESRI:ジオプロセッシングツールリファレンス, http://desktop.arcgis.com/ja/desktop/latest/main/to ols/a-quick-tour-of-geoprocessing-tool-references.htm

7) ESRI:ArcGIS for Server, http://server.arcgis.com/ja/ 8) ESRI:ArcGIS API for Javascript,

https://developers.arcgis.com/javascript/ 9) 地震調査研究推進本部:主要活断層帯の長期評価, http://www.jishin.go.jp/evaluation/long_term_evalua tion/major_active_fault/#01 10) 中央防災会議:南海トラフの巨大地震モデル検討会(第二 次報告) 追加資料 地表震度分布, http://www.bousai.go.jp/jishin/nankai/model/index.h tml 11) 中央防災会議:首都直下地震対策専門調査会報告, 92p., 2005 12) 独立行政法人消防科学研究所:簡易型地震被害想定システ ムユーザーズガイド 13) 童・他:被害事例に基づく地震動強さと家屋被害率の関係, 第9回地震工学シンポジウム,2299-2304(1995) 14) 水野・堀内:地震時の出火件数の予測に関する研究,日本 建築学会論文報告集,250,81-90(1976) 15) 田村・他:人的被害の発生に及ぼす地震発生時刻の影響- 木造建物の震動被害による死者を例として-,第9回地 震工学シンポジウム,2335-2340(1995) 16) 永田 茂:地震時のライフライン機能支障による企業の事 業影響の簡易評価手法について、第 2 回相互連関を考慮 したライフライン減災対策に関するシンポジウム講演集, 土木学会 17) 庄司学・高橋和慎・中村友治・櫻井俊彰:2011 年東 北地方太平洋沖地震において地震動が主要因と考えられ る道路構造物の被害―東北 6 県及び関東 1 都 6 県に敷設 された国道及び県道の被害―,土木学会論文集 A1,Vol.68,No.4,I_1186-I_1193,2012. 18) 日本ミネラルウォーター協会:国内生産・輸入数量 (2011 年) 19) 経済産業省:企業活動基本調査(2008 年度) 20) 総務省統計局:家計調査(2013 年度)

21)ESRI:ArcGIS Online, https://www.arcgis.com/home/

(原稿受付 2015.6.6) (登載決定 2015.9.19)

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9 ただ、以上のように様々な有効性はあるものの、まだ まだ、簡単にサービスが構築できる仕組みにはなってい ない。ある程度の GIS 技術とプログラミング技術が必要 である状況であるが、一からシステムを構築するよりは 遙かに省力可されると考えられる。 また、複数の手法を組み合わせる際の精度のコントロ ールも重要と考えられる。精度は解析に用いるデータの 解像度や、用いるデータの種類や量、手法によって異な る。例えば本研究で用いた建物をすべて同じものとして 扱う手法と、構造・築年等を考慮してデータを拡充しそ れぞれについての被害を計算する手法では結果が異なる。 少ないデータで簡易的に計算した結果を高度な手法を用 いて詳細に計算するサービスに入力しても、その精度は 前者に規定される。それぞれのサービスがどのくらいの 精度があるのかを把握しながら、組み合わせていく仕組 みを検討する必要がある。 5.まとめと今後の課題 本論文では、地震災害の様々な想定を誰もが簡単にで きるようになること、そして、その開発においては多分 野・多組織のデータや手法を柔軟に組み合わせること、 開発に掛ける労力をできるだけ軽減することを念頭に、 簡易型地震被害想定ウェブアプリケーション「あなたの まちの直下型地震」を開発し、その中でその仕組みを検 討した。その結果以下のようなことが明らかになった。 すなわち、これまでの統合されたアプリケーションで はなく地震被害想定におけるデータ、処理、結果をそれ ぞれ分散したサービスとして取り扱う新しい手法が様々 な現象を想定するうえで有効であると考えられる。分散 したサービスとして取り扱うことによって、それを柔軟 に組み合わせてアプリケーションを作成することができ、 複雑な現象の想定も可能となる。また、目的に応じたア プリケーションが作成可能となり、防災における様々な 主体に使ってもらうことが可能となると考えられる。さ らには様々な人の作ったデータ、処理サービスはインタ ーネットを介して使用することができるため、最新のデ ータ、最新の研究成果をより早く利用することができる ようになると考えられる。しかしながら、本アプリケー ションは何人かに利用してもらって評価をしてもらって いるものの、多くの人々に利用してもらって、体系的な 評価結果をまとめるには至っていない。 今後の課題としては、様々な対象者に利用してもらっ て利用結果や評価をまとめ、その結果に基づき本手法の 実利用への検討を実施したい。また、その上で、様々な サービスを作成していくことによってより多くの想定を 可能にすること、また、そのサービスを相互利用可能に するためサービスのポータルを作成すること、複数のサ ービスを組み合わせる際の精度のコントロールなどにつ いても検討していきたい。 謝辞 本研究は、文部科学省委託研究都市の脆弱性が引き起 こす激甚災害の軽減化プロジェクト、サブプロジェクト ③都市災害における災害対応能力の向上方策に関する調 査・研究(代表 林春男)の一環として行われた。ここ に記して謝意を表する。 参考文献 1)産業技術総合研究所:QuiQuake 地震動マップ即時推定シス テム, https://gbank.gsj.jp/QuiQuake/ 2)防災科学技術研究所:J-RISQ, http://www.j-risq.bosai.go.jp/report/ 3)内閣府:地震防災情報システムの整備, http://www.cao.go.jp/others/kichou/it/gis/dis-s.html 4)ESRI ジャパン:事例 地震時の応急対応を支援するための 広域版地震被害想定システムの開発(消防研究センタ ー),http://www.esrij.com/industries/case-studies/55400/ 5) 大阪ガス:地震被害予測システム, https://www.osakagas.co.jp/company/efforts/rd/needs /1191124_3922.html 6) ESRI:ジオプロセッシングツールリファレンス, http://desktop.arcgis.com/ja/desktop/latest/main/to ols/a-quick-tour-of-geoprocessing-tool-references.htm

7) ESRI:ArcGIS for Server, http://server.arcgis.com/ja/ 8) ESRI:ArcGIS API for Javascript,

https://developers.arcgis.com/javascript/ 9) 地震調査研究推進本部:主要活断層帯の長期評価, http://www.jishin.go.jp/evaluation/long_term_evalua tion/major_active_fault/#01 10) 中央防災会議:南海トラフの巨大地震モデル検討会(第二 次報告) 追加資料 地表震度分布, http://www.bousai.go.jp/jishin/nankai/model/index.h tml 11) 中央防災会議:首都直下地震対策専門調査会報告, 92p., 2005 12) 独立行政法人消防科学研究所:簡易型地震被害想定システ ムユーザーズガイド 13) 童・他:被害事例に基づく地震動強さと家屋被害率の関係, 第9回地震工学シンポジウム,2299-2304(1995) 14) 水野・堀内:地震時の出火件数の予測に関する研究,日本 建築学会論文報告集,250,81-90(1976) 15) 田村・他:人的被害の発生に及ぼす地震発生時刻の影響- 木造建物の震動被害による死者を例として-,第9回地 震工学シンポジウム,2335-2340(1995) 16) 永田 茂:地震時のライフライン機能支障による企業の事 業影響の簡易評価手法について、第 2 回相互連関を考慮 したライフライン減災対策に関するシンポジウム講演集, 土木学会 17) 庄司学・高橋和慎・中村友治・櫻井俊彰:2011 年東 北地方太平洋沖地震において地震動が主要因と考えられ る道路構造物の被害―東北 6 県及び関東 1 都 6 県に敷設 された国道及び県道の被害―,土木学会論文集 A1,Vol.68,No.4,I_1186-I_1193,2012. 18) 日本ミネラルウォーター協会:国内生産・輸入数量 (2011 年) 19) 経済産業省:企業活動基本調査(2008 年度) 20) 総務省統計局:家計調査(2013 年度)

21)ESRI:ArcGIS Online, https://www.arcgis.com/home/

(原稿受付 2015.6.6) (登載決定 2015.9.19)

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