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目 次
はじめに 䈈……… 2
Ⅰ 配偶者控除について ……… 2
Ⅱ 最低賃金制度 ……… 4
Ⅲ 計算 ……… 6
1 先行文献 ……… 6
2 検証 ……… 7
3 GDPの計算 ……… 11
おわりに ……… 15
103 万円/130 万円の壁は
全国一律で良いのか?
曽 根 涼 平
(2)− 92 −
2
-はじめに
筆者は最低賃金の額は物価に合わせて都道府県によって異な
るのに、多くのパートタイマーが働く時間の基準とする「103 万
円/130 万円の壁」と呼ばれるものは全国一律である事に注目し
た。物価の違いによって最低賃金が異なるなら「この 103 万円/
130 万円の壁」も物価に合わせて各都道府県によって異なるべき
である。本論文の目的は、「103 万/130 万の壁」も都道府県別最
低賃金に合わせて変動させたことによる経済効果について検証し
ていくことである。
以下、本稿の構成は次のとおりである。Ⅱ章では、配偶者控除
について説明する。Ⅲ章では最低賃金について説明する。Ⅳ章で
は先行文献の説明をし、都道府県別最低賃金に合わせて4つのモ
デルを紹介する。そして、主婦パートの人数とモデルを使って、
各モデルの想定の下で国民総所得がどのぐらい増加するのかを検
証する。
Ⅰ 配偶者控除について
給与収入を 103 万/130 万円に抑える理由はパートタイマーの
場合は配偶者控除を受けるためである。
配偶者控除とは所得税法2条1項 33 号によれば、「居住者の配
偶者でその居住者と生計を一にする者のうち、合計所得金額が
38 万円以下である者」とある。つまり、パートタイマーは給与
所得者には必要経費の控除は無いが合計所得金額が 38 万円以下
であれば給与所得控除が受けられる
1)
。
1)三木義一(2007)『よくわかる税法入門』より。
(3)- 3 -
− 95 −
よって、給与所得の金額は「収入金額」−「給与所得控除」で
あり、給与所得控除は最低でも一定額控除出来る(所得税法 28
条3項1号)。例えば、給与所得控除額は年収が 180 万円以下の
場合は収入の 40%だが、当該金額が 65 万円に満たない場合に
は、65 万円と規定されている。よって、所得金額が 38 万円とな
る給与所得者の年収をXとすると、
X− 65 万円= 38 万円
X= 103 万円
である。つまり、103 万円というのは収入金額の事である。パー
トタイマーは配偶者控除を受けるためには、所得金額が 38 万円
以下でなければならないので、給与所得者の場合は収入を 103 万
円以下にしなければ適用されないのである。
そして、この配偶者控除というのは配偶者の一方が一定金額以
下の所得しか無い場合に、他方配偶者の所得から一定金額を控除
出来る制度である。
現行法は免税点方式を採用しているため、一定金額を超える
と控除額が一挙にゼロになり、他方配偶者の税負担が一挙に増
え(他方配偶者の所得が多いとさらに増える)、多少の収入増で
はかえって手取額が減少してしまうのである。このため、一定額
以下に収入を抑えるという現象が生じる。これが俗にいう「○○
万円の壁」と呼ばれる弊害を生み出し、女性の社会進出、女性労
働者の賃金向上に悪い影響を与えてきた。これは、まさに税法上
の制度が生み出した弊害であり、しかも所得が増えるとかえって
手取りが減ってしまうという所得税法上あってはならない現象を
生み出してしまった。所得税法が超過累進税率を採用しているの
はこのような弊害をさけるためであったことからすれば、配偶者
控除等に免税点方式を採用していることが是正されなければなら
ないはずである。そこで、学説では免税点方式に代えて消失控除
(4)− 94 −
4
-方式(一定額を超えても控除額を一挙にゼロにするのではなく、
増えた分だけ控除額を減らしていく方法。これにより、手取りが
かえって減少するという事態はなくなる。)を導入すべき事が主
張されてきた。これが、ようやく、1987 年に配偶者特別控除(所
税 83 条の2)という制度を通じて実現した。
この制度によると収入が 103 万円を超えると、確かに配偶者控
除はなくなるが、そのかわりに、配偶者特別控除が全額適応され
るので、実質的な控除額は変わらない。したがって、現行税法に
ついていえば、もはやパートの収入を一定額に抑える必要はなく
なっている。なお、この特別控除は専業主婦優遇などの批判も
あって、2004 年から廃止されたが、103 万円を超えた場合の調整
部門は、存続するので税法上はパート収入を一定額に抑える必要
はない。だが、年収が 130 万円を超えると自分で医療保険や年金
の支払いをする必要があるので、年収を 130 万円以下に抑えよう
とするパートの人も多い。
Ⅱ 最低賃金制度
日本には最低賃金制度があり、都道府県により最低賃金が異な
る。最低賃金制度とは、最低賃金法に基づき国が賃金の最低限度
額を定め、使用者は、その最低賃金額以上の賃金を支払わなけれ
ばならないとする制度である
2)
。
日本では最低賃金を決定する際、審議会方式を採用している。
審議会で労働者側と使用者側をそれぞれ代表する同数の委員と中
立の公益委員から構成される。まず使用者側は常に引き上げ額ゼ
ロの主張から始め、労働者側は目安を上回る額を主張する。そし
2)厚生労働省「最低賃金制度概要」より。
(5)- 5 −
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て、公益委員は同程度に経済力がありそうな他県の状態をみて妥
当な引き上げ額を提示する。中央最低賃金審議会の目安の決定と
は異なり最終的に労使の意見がまとまらなければ延々と1円の引
き上げを巡って議論して最低賃金は決定される
3)
。
また民主党は 2009 年マニフェスト
4)
で全ての労働者に適用さ
れる全国最低賃金を時給 800 円とし、全国平均を 1000 円に引き
上げる事を打ち出している。実際に平成 20 年から平均で 31 円増
加している
5)
。
平成 24 年 10 月1日現在の都道府県別最低賃金は、最高は東京
都の時給の 850 円、最低の島根県と高知県は 652 円であり、平均
額は奈良県と茨城県の 699 円である
6)
。また、東京都と高知県を
比較すると 198 円の差が生じている。
3)大橋勇雄(2010)「日本の最低賃金制度」より。
4)民主党の政権政策公約「Manifesto2009 年」では以下のように記載されている。
40.最低賃金を引き上げる
【政策目的】○まじめに働いている人が生計を立てられるようにし、ワーキング・プ
アからの脱却を支援する。
【具体策】 ○貧困の実態調査を行い、対策を講じる。
○最低賃金の原則を「労働者とその家族を支える生計費」とする。
○全ての労働者に適用される「全国最低賃金」を設定(800 円を想定)
する。
○景気状況に配慮しつつ、最低賃金の全国平均 1000 円を目指す。
○中小企業における円滑な実施を図るための財政上・金融上の措置を実
施する。
5)厚生労働省「平成 20 年地域別最低賃金の一覧」平成 20 年9月 12 日発表。
6)厚生労働省「平成 24 年 11 月地域別最低賃金の一覧」(平成 24 年 10 月5日現在)よ
り。
(6)− 96 −
− 6
- ここで東京都と高知県で「103 万/130 万円」の壁まで稼ぐこ
とを想定する。103 万円の場合東京都では 103 万÷ 850 円で約
1,212 時間働き、高知県では同様に約 1,580 時間働く計算になる。
差し引きすると約 368 時間である。東京都では1日に約3時間、
高知県では1日約4時間働くと 103 万円に到達する計算になり、
高知県は東京都と比べると1日約1時間多くはたらく計算にな
る。同様に 130 万円の場合東京都は約 1,529 時間で、高知県では
約 1,994 時間であり、その差は約 465 時間になる。こうした結果
をうけて、次章では都道府県別に 103 万円/130 万円の上限を変
化させる事を述べていく。
Ⅲ 計算
1 先行文献
永瀬伸子(2001)によれば、「育児や介護など家庭内でのケア
活動の水準とは独立に『妻の身分』に対して与えられる諸恩典
東 京 都 850 滋 賀 県 716 福 井 県 690 鹿児島県 654
神奈川県 849 岐 阜 県 713 和歌山県 690 岩 手 県 653
大 阪 府 800 栃 木 県 705 山 口 県 690 鳥 取 県 653
埼 玉 県 771 福 岡 県 701 新 潟 県 689 佐 賀 県 653
京 都 府 759 富 山 県 700 宮 城 県 685 長 崎 県 653
愛 知 県 758 長 野 県 700 香 川 県 674 熊 本 県 653
千 葉 県 756 茨 城 県 699 福 島 県 664 大 分 県 653
兵 庫 県 749 奈 良 県 699 青 森 県 654 宮 崎 県 653
静 岡 県 735 群 馬 県 696 秋 田 県 654 沖 縄 県 653
三 重 県 724 山 梨 県 695 山 形 県 654 島 根 県 652
北 海 道 719 石 川 県 693 徳 島 県 654 高 知 県 652
広 島 県 719 岡 山 県 691 愛 媛 県 654 (円)
表1 都道府県別最低賃金(平成 24 年度 10 月1日現在)
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− 99 −
が、育児負担の減少とともにパート市場に参入する女性のインセ
ンティブを抑制し、パート賃金に対して、弱い賃金上昇圧力と少
ない能力評価という形のたがをはめている。」としている。
例えば、時給 800 円の労働者が、年収 103 万円まで働くとしよ
う。労働時間は、ボーナスなどが無ければ、103 万÷ 800 ≒ 1288
である。その労働者の働きぶりが認められて、雇用者が時給を
1000 円に上げたとしよう。同じ時間働けば、年収は約 26 万円増
え、努力を評価された本人のやる気も高まるはずだ。
しかし、現在「103 万/130 万の壁」と呼ばれるものが世間に
は存在している。そのため、賃上げは賃上げ率と全く同じだけの
労働時間の削減をもたらす。上の例の賃上げが「やる気」を引き
出すどころか、むしろ優秀な労働者が、労働時間を自主的に減ら
したいと言ってくる結果を生む状態が生じている。
また、安部由起子(2001)の文中で紹介されている樋口美雄の
研究では、1990 年パートタイム労働者総合実態調査を用い、年
間収入が 103 万円程度になるように収入を調整する有配偶女性
パート労働者と、調整をしない有配偶女性パート労働者の賃金率
を比較している。その結果、前者の賃金が後者よりも平均で5%
低いという結果を得、その原因を「年収を調整しようとしている
人は、賃金の引き上げ要求が他の人より弱い事、また、他より低
い賃金の企業でも働こうとする事によって起こっているのであろ
う。」と分析している。
2 検証
最低賃金に合わせて 103 万円という額も変動させるのでなけれ
ば、全都道府県の中で東京都が実質賃金の意味では一番損をす
る。ここで、以下の4つのモデルを検討する。
(8)− 98 −
− 8 −
(a)上限 103 万円のとき、最低値である高知県の最低賃金 652 円
を基準とし東京都の最低賃金 850 円で計算する場合
(b)上限 130 万円のとき、最低値である高知県の最低賃金 652
円を基準とし東京都の最低賃金 850 円で計算する場合
(c)上限 103 万円のとき、平均値である奈良県の最低賃金 699 円
を基準とし東京都の最低賃金 850 円で計算する場合
(d)上限 130 万円のとき、平均値である奈良県の最低賃金 699
円を基準とし東京都の最低賃金 850 円で計算する場合
まず、はじめに(a)の上限 103 万円のとき高知県の時給 652
円を基準とし東京都の時給 850 円で計算する。
652:1030000 = 850:X
652X= 875,500,000
X= 1342791.4
この場合には、東京都では上限額を 103 万円ではなく約 134 万
円にすることが妥当となる。同様に全 47 都道府県で計算すると
下図のようになる。
東 京 都 1,342,791 滋 賀 県 1,131,104.3 福 井 県 1,090,031 鹿児島県 1,033,160
神奈川県 1,341,212 岐 阜 県 1,126,365.0 和歌山県 1,090,031 岩 手 県 1,031,580
大 阪 府 1,263,804 栃 木 県 1,113,727.0 山 口 県 1,090,031 鳥 取 県 1,031,580
埼 玉 県 1,217,991 福 岡 県 1,107,408.0 新 潟 県 1,088,451 佐 賀 県 1,031,580
京 都 府 1,199,034 富 山 県 1,105,828.2 宮 城 県 1,082,132 長 崎 県 1,031,580
愛 知 県 1,197,454 長 野 県 1,105,828.2 香 川 県 1,064,755 熊 本 県 1,031,580
千 葉 県 1,194,294 茨 城 県 1,104,248.5 福 島 県 1,048,957 大 分 県 1,031,580
兵 庫 県 1,183,236 奈 良 県 1,104,248.5 青 森 県 1,033,160 宮 崎 県 1,031,580
静 岡 県 1,161,120 群 馬 県 1,099,509.2 秋 田 県 1,033,160 沖 縄 県 1,031,580
三 重 県 1,143,742 山 梨 県 1,097,929.4 山 形 県 1,033,160 島 根 県 1,030,000
北 海 道 1,135,844 石 川 県 1,094,769.9 徳 島 県 1,033,160 高 知 県 1,030,000
広 島 県 1,135,844 岡 山 県 1,091,610.4 愛 媛 県 1,033,160 (円)
表2 652 円を基準とした都道府県別の上限
(9)− 9 −
− 101 −
(b)上限 130 万円のとき高知県の時給 652 円を基準とし東京都
の時給 850 円で計算する。
652:1300000 = 850:X
X= 1694785.3
この場合東京都では、約 169 万円まで働く事が可能になる。
同様に全国の最低賃金平均の奈良県を基準にし(c)(d)も計
算していく。
(c)上限 103 万円のとき平均の奈良県の時給 699 円を基準とし東
京都の時給 850 円で計算する。
699:1,030,000 = 850:X
699X= 875,500,000
X= 1252593.6
(d)上限 130 万円のとき平均の奈良県の時給 699 円を基準とし
東京都の時給 850 円で計算する。
699:1300000 = 850:X
X= 1580829.8
(a)(b)(c)(d)のモデルを全国でまとめると下の表のよう
になる。
都道府県 (a)103 万
高知基準 (b)130 万
高知基準 (c)103 万
奈良基準 (d)130 万
奈良基準
東 京 都 1,342,791.41 1,694,785.25 1,252,503.56 1,580,829.75
神奈川県 1,341,211.66 1,692,791.39 1,251,030.03 1,578,969.95
大 阪 府 1,263,803.68 1,595,092.00 1,178,826.88 1,487,839.76
埼 玉 県 1,217,990.80 1,537,269.92 1,136,094.41 1,433,905.57
京 都 府 1,199,033.74 1,513,343.54 1,118,412.00 1,411,587.97
愛 知 県 1,197,453.99 1,511,349.67 1,116,938.47 1,409,728.17
千 葉 県 1,194,294.48 1,507,361.94 1,113,991.40 1,406,008.57
兵 庫 県 1,183,236.20 1,493,404.89 1,103,676.67 1,392,989.98
表3 各モデルでの上限変化値
(10)− 100 −
− 10 −
静 岡 県 1,161,119.63 1,465,490.78 1,083,047.20 1,366,952.78
三 重 県 1,143,742.33 1,443,558.26 1,066,838.33 1,346,494.98
北 海 道 1,135,843.56 1,433,588.94 1,059,470.66 1,337,195.98
広 島 県 1,135,843.56 1,433,588.94 1,059,470.66 1,337,195.98
滋 賀 県 1,131,104.29 1,427,607.34 1,055,050.06 1,331,616.59
岐 阜 県 1,126,365.03 1,421,625.75 1,050,629.46 1,326,037.19
栃 木 県 1,113,726.99 1,405,674.83 1,038,841.19 1,311,158.79
福 岡 県 1,107,407.97 1,397,699.37 1,032,947.05 1,303,719.59
富 山 県 1,105,828.22 1,395,705.50 1,031,473.52 1,301,859.79
長 野 県 1,105,828.22 1,395,705.50 1,031,473.52 1,301,859.79
茨 城 県 1,104,248.47 1,393,711.64 1,029,999.99 1,299,999.99
奈 良 県 1,104,248.47 1,393,711.64 1,029,999.99 1,299,999.99
群 馬 県 1,099,509.20 1,387,730.04 1,025,579.39 1,294,420.59
山 梨 県 1,097,929.45 1,385,736.18 1,024,105.85 1,292,560.79
石 川 県 1,094,769.94 1,381,748.45 1,021,158.78 1,288,841.19
岡 山 県 1,091,610.43 1,377,760.72 1,018,211.72 1,285,121.59
福 井 県 1,090,030.67 1,375,766.85 1,016,738.18 1,283,261.79
和歌山県 1,090,030.67 1,375,766.85 1,016,738.18 1,283,261.79
山 口 県 1,090,030.67 1,375,766.85 1,016,738.18 1,283,261.79
新 潟 県 1,088,450.92 1,373,772.99 1,015,264.65 1,281,401.99
宮 城 県 1,082,131.90 1,365,797.53 1,009,370.52 1,273,962.79
香 川 県 1,064,754.60 1,343,865.01 993,161.65 1,253,505.00
福 島 県 1,048,957.05 1,323,926.36 978,426.31 1,234,907.00
青 森 県 1,033,159.51 1,303,987.71 963,690.97 1,216,309.00
秋 田 県 1,033,159.51 1,303,987.71 963,690.97 1,216,309.00
山 形 県 1,033,159.51 1,303,987.71 963,690.97 1,216,309.00
徳 島 県 1,033,159.51 1,303,987.71 963,690.97 1,216,309.00
愛 媛 県 1,033,159.51 1,303,987.71 963,690.97 1,216,309.00
鹿児島県 1,033,159.51 1,303,987.71 963,690.97 1,216,309.00
岩 手 県 1,031,579.75 1,301,993.85 962,217.44 1,214,449.20
(11)− 11 −
− 103 −
3 GDPの計算
「統計でみる都道府県の姿
7)
」によると、全国の女性パートタ
イム労働者は 4,601,910 人存在する。下の表が都道府県別の女性
パートタイム労働者数である。
鳥 取 県 1,031,579.75 1,301,993.85 962,217.44 1,214,449.20
佐 賀 県 1,031,579.75 1,301,993.85 962,217.44 1,214,449.20
長 崎 県 1,031,579.75 1,301,993.85 962,217.44 1,214,449.20
熊 本 県 1,031,579.75 1,301,993.85 962,217.44 1,214,449.20
大 分 県 1,031,579.75 1,301,993.85 962,217.44 1,214,449.20
宮 崎 県 1,031,579.75 1,301,993.85 962,217.44 1,214,449.20
沖 縄 県 1,031,579.75 1,301,993.85 962,217.44 1,214,449.20
島 根 県 1,030,000.00 1,299,999.98 960,743.91 1,212,589.40
高 知 県 1,030,000.00 1,299,999.98 960,743.91 1,212,589.40
(円)
7)総務省統計局(2012)「統計でみる都道府県の姿」
東 京 都 455,870 滋 賀 県 46,870 福 井 県 21,190 鹿児島県 54,840
神奈川県 317,580 岐 阜 県 74,740 和歌山県 28,740 岩 手 県 36,330
大 阪 府 356,060 栃 木 県 98,010 山 口 県 59,060 鳥 取 県 14,410
埼 玉 県 299,590 福 岡 県 309,400 新 潟 県 85,360 佐 賀 県 28,840
京 都 府 81,000 富 山 県 32,720 宮 城 県 56,460 長 崎 県 53,540
愛 知 県 280,600 長 野 県 76,100 香 川 県 28,580 熊 本 県 65,270
千 葉 県 217,500 茨 城 県 78,320 福 島 県 49,070 大 分 県 31,340
兵 庫 県 211,230 奈 良 県 47,130 青 森 県 33,650 沖 縄 県 40,290
静 岡 県 158,840 群 馬 県 61,640 秋 田 県 33,420 宮 崎 県 37,560
三 重 県 66,220 山 梨 県 29,200 山 形 県 27,110 島 根 県 18,550
北 海 道 193,760 石 川 県 46,920 徳 島 県 18,730 高 知 県 14,470
広 島 県 114,470 岡 山 県 57,800 愛 媛 県 53,520 全 国 4,601,910
(人)
表4 都道府県別女性パート労働者数
(12)− 102 −
− 12 −
総務省統計局の平成9年就業構造基本調査によると、パート
と呼称される者のうち約8割は主婦であるとされている
8)
。そ
して、株式会社アイデムの人と仕事の研究所の『平成 22 年版
パートタイマー白書〜主婦パートの実態と今後の可能性〜
9)
』に
よると、主婦パートのうち 50%が自分の収入に上限を設けてい
ると回答している。つまり、全国の 4,601,910 人のうち8割の
3,681,528 人が主婦パートであると推測する事ができ、また、そ
のうち 50%の 1,840,764 人が収入に上限を設けていると推測する
事が出来る。都道府県別で同様の計算を行うと、収入に上限を設
けていると推測されるパート労働者の数は以下の表のようにな
る。
東 京 都 182,348 滋 賀 県 18,748 福 井 県 8,476 鹿児島県 21,936
神奈川県 127,032 岐 阜 県 29,896 和歌山県 11,496 岩 手 県 14,532
大 阪 府 142,424 栃 木 県 39,204 山 口 県 23,624 鳥 取 県 5,764
埼 玉 県 119,836 福 岡 県 123,760 新 潟 県 34,144 佐 賀 県 11,536
京 都 府 32,400 富 山 県 13,088 宮 城 県 22,584 長 崎 県 21,416
愛 知 県 112,240 長 野 県 30,440 香 川 県 11,432 熊 本 県 26,108
千 葉 県 87,000 茨 城 県 31,328 福 島 県 19,628 大 分 県 12,536
兵 庫 県 84,492 奈 良 県 18,852 青 森 県 13,460 沖 縄 県 16,116
静 岡 県 63,536 群 馬 県 24,656 秋 田 県 13,368 宮 崎 県 15,024
三 重 県 26,488 山 梨 県 11,680 山 形 県 10,844 島 根 県 7,420
北 海 道 77,504 石 川 県 18,768 徳 島 県 7,492 高 知 県 5,788
広 島 県 45,788 岡 山 県 23,120 愛 媛 県 21,408 全 国 1,840,764
(人)
8)永瀬伸子(2001)「パートの賃金に 103 万円の壁は重要か」より。
9)株式会社アイデム 人と仕事研究所(2011)『平成 22 年版 パートタイマー白書
〜主婦パートの実態と今後の可能性〜』
表5 収入に上限を設けている女性パート労働者推計値
(13)− 13 −
− 105 −
ここで、全国の先ほどの4つのモデルの場合のように、「103
万円/130 万円の壁」を変更した場合にどれだけ各都道府県の国
民所得が増加するか計算すると、以下の表のようになる。
都道府県 (a)103 万高知基準の
増加額
(b)130 万
高知基準の
増加額
(c)103 万
奈良基準の
増加額
(d)130 万
奈良基準の
増加額
東 京 都 57,036,813,268 71,988,255,180 40,573,159,392 51,208,788,840
神奈川県 39,533,882,784 49,897,026,312 28,077,882,960 35,438,117,040
大 阪 府 33,299,300,896 42,028,183,008 21,196,536,648 26,752,924,160
埼 玉 県 22,528,089,476 28,433,487,720 12,713,880,584 16,046,759,416
京 都 府 5,476,701,600 6,912,345,600 2,864,548,800 3,615,451,200
愛 知 県 18,795,036,960 23,721,924,000 9,757,921,120 12,315,870,720
千 葉 県 14,293,578,000 18,040,494,000 7,307,217,000 9,222,783,000
兵 庫 県 12,947,216,112 16,341,175,260 6,225,117,084 7,856,911,080
静 岡 県 8,330,840,320 10,514,636,176 3,370,394,192 4,253,925,808
三 重 県 3,012,798,096 3,802,564,304 975,764,944 1,231,559,560
北 海 道 8,203,333,376 10,353,681,856 2,284,120,384 2,882,838,784
広 島 県 4,846,385,072 6,116,773,132 1,349,418,148 1,703,130,448
滋 賀 県 1,895,497,792 2,392,376,036 469,637,400 592,755,516
岐 阜 県 2,880,928,040 3,636,130,896 616,724,584 778,402,152
栃 木 県 3,282,433,308 4,142,882,700 346,602,564 437,477,436
福 岡 県 9,580,014,080 12,091,228,240 364,720,720 460,387,200
富 山 県 992,436,864 1,252,600,128 19,291,712 24,343,680
長 野 県 2,308,204,320 2,913,290,640 44,868,560 56,618,400
茨 城 県 2,326,041,344 2,935,809,536 0 0
奈 良 県 1,399,723,296 1,766,658,624 0 0
群 馬 県 1,713,813,904 2,163,070,880 -109,004,176 -137,555,824
山 梨 県 793,410,720 1,001,396,480 -68,841,920 -86,887,520
表6 各モデルによる都道府県別のGDP増加額
(14)− 104 −
− 14 −
石 川 県 1,215,603,360 1,534,246,464 -165,927,888 -209,432,112
岡 山 県 1,424,423,200 1,797,834,320 -272,538,560 -343,979,360
福 井 県 508,822,756 642,201,092 -112,408,712 -141,871,288
和歌山県 690,116,376 871,017,432 -152,459,952 -192,420,048
山 口 県 1,418,172,344 1,789,919,608 -313,301,488 -395,418,512
新 潟 県 1,995,750,944 2,518,905,312 -503,111,840 -635,010,112
宮 城 県 1,177,349,088 1,485,982,032 -465,885,336 -588,019,608
香 川 県 397,319,160 501,464,680 -421,132,016 -531,530,840
福 島 県 372,087,996 469,619,528 -1,012,294,472 -1,277,645,404
青 森 県 42,533,600 53,678,480 -892,519,140 -1,126,480,860
秋 田 県 42,242,880 53,311,584 -886,418,712 -1,118,781,288
山 形 県 34,267,040 43,245,872 -719,054,796 -907,545,204
徳 島 県 23,674,720 29,878,096 -496,787,028 -627,012,972
愛 媛 県 67,649,280 85,375,104 -1,419,543,072 -1,791,656,928
鹿児島県 69,317,760 87,480,768 -1,454,554,224 -1,835,845,776
岩 手 県 22,960,560 28,976,808 -985,022,556 -1,243,227,132
鳥 取 県 9,107,120 11,493,416 -390,701,212 -493,115,964
佐 賀 県 18,226,880 23,002,784 -781,944,688 -986,916,336
長 崎 県 33,837,280 42,703,504 -1,451,640,728 -1,832,160,216
熊 本 県 41,250,640 52,059,352 -1,769,678,564 -2,233,565,508
大 分 県 19,806,880 24,996,784 -849,727,688 -1,072,467,336
沖 縄 県 25,463,280 32,135,304 -1,092,390,828 -1,378,739,916
宮 崎 県 23,737,920 29,957,856 -1,018,371,792 -1,285,318,224
島 根 県 0 0 -513,879,520 -648,589,620
高 知 県 0 0 -400,853,728 -505,934,868
全 国 265,150,200,692 334,655,476,888 119,837,812,160 151,251,915,664
(円)
(15)− 15 −
− 107 −
この表より、「103 万円/130 万円の壁」の上限額を都道府県
別の最低賃金に合わせて変動させるだけで大幅な国民所得(=
GDP)の増加が見込めることがわかる。例えば、モデル(a)の
場合では、約 2652 億円の国民総所得の増加を見込む事ができる
のである。
おわりに
以上、本稿では、いわゆるパートタイマーの「103 万円/130
万円の壁」の上限額を都道府県別の最低賃金に合わせて変動させ
るだけで大幅な国民所得の増加が見込めることを数値計算で示し
た。各都道府県の最低賃金の額が物価に合わせて大きく異なるの
なら、同様に「103 万円/130 万円の壁」も都道府県ごとに変え
ることが、公平であるのみならず景気にも良いことを示せたと考
えている。
最後に、あるかもしれない疑問に答えておこう。たとえば、
「103 万円/130 万円の壁」がモデル(a)の状態に法律が変わっ
たとしても、企業(雇う側)は雇用者数を減らすことにより、労
働者全体の合計労働時間は増加せず、GDP も上昇しないのでは
ないかという疑問がありえるだろう。だが、筆者は、それには簡
単な対策があると考えている。政府が企業に補助金などを与え、
一年間ほど雇用者数を減少させないようにし、ひいては、一時間
当たりの雇用数を増加させる方向にもっていけばよいと考える。
つまり、モデル(a)の場合で言うと約 2652 億円の補助金を政府
が企業または、上限を設けている主婦パートに給付する。そうす
れば、一年後には、上限を設けている主婦パート約 184 万人の可
処分所得は上がり約 2652 億円分の内需がアップして企業が忙し
くなり、自然と企業は雇用者数を増やし、補助金なしでも雇用時
(16)− 106 −
− 16 −
間が増えるようになるはずである。また、このときいわゆる乗数
効果により、その他の国民の総所得も増加しているであろう。こ
のような対策を行えば、企業は雇用者数を減らさず、失業者も増
えないどころか、景気の上昇に貢献すると考える。
参考文献
安部由起子(2001)「103 万円の壁はパートの時間あたり賃金率を下げているか」『日
本労働研究雑誌』
大橋勇雄(2010)「日本の最低賃金制度について−欧米の実態と議論を踏まえて」『日
本労働研究雑誌』
永瀬伸子(2001)「パートの賃金に 103 万円の壁は重要か」『日本労働研究雑誌』
三木義一(2007)『よくわかる税法入門』有斐閣選書
参考 web サイト
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http://www2.mhlw.go.jp/topics/seido/kijunkyoku/minimum/minimum-09.htm
厚生労働省「平成 20 年地域別最低賃金の一覧」平成 20 年 9 月 12 日発表
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2008/09/h0912-5.html
厚生労働省「平成 24 年 11 月地域別最低賃金の一覧」平成 24 年 10 月 5 日現在
http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/
minimumichiran/index.html
総務省統計局「統計でみる都道府県の姿」
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001036889&cycode=0
総務省統計局(2008)『平成 19 年就業構造基本調査』結果の概要
http://www.stat.go.jp/data/shugyou/2007/pdf/gaiyou.pdf
独立行政法人 労働政策研究・研修機構(2011)「103 万・130 万円の壁−雇用管理と
働く側の意識」
http://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2010/12/pdf/054-067.pdf#search
独立行政法人労働政策研究・研修機構(2011)『平成 22 年版 パートタイマー白書〜
主婦パートの実態と今後の可能性〜』」
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001uh83-att/2r9852000001umna.
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古谷泉生(2003)「配偶者特別控除のマイクロ・シミュレーション」
PRIDiscussionPaperSeries(No.03A-23)(財務省財務総合政策研究所)
http://www.mof.go.jp/pri/research/discussion_paper/ron074.pdf#search
民主党の政権政策「Manifesto2009」
http://www.dpj.or.jp/article/60025/
民主党の政権政策「Manifesto2010」
http://www.dpj.or.jp/article/60026/