研修コーナーについてご意見募集
現在本会機関誌に掲載中の研修コーナーは第61巻12号掲載分までを再度見直しの うえ,学会のコンセンサスを得たものとして「産婦人科研修の必修知識2011」とし て,発刊の予定です. 会員の皆様には研修コーナーをお読みいただいて,お気づきの点がございましたら, 忌憚のないご意見を学会事務局・研修コーナー編集宛お寄せ下さい. 「産婦人科研修の必修知識2011」をより一層,研修医ならびに会員の皆様のお役 にたてる書籍と致したく,会員皆様のご協力をお願い申し上げます. 日本産科婦人科学会教育委員会 研修コーナーのブラッシュアップと産婦人科研修の必修知識編纂委員会 送付先:〒113―0033 東京都文京区本郷2―3―9 ツインビュー御茶の水 3 階 (社)日本産科婦人科学会・研修コーナー編集係FAX 03―5842―5470 E-mail: [email protected]
日本産科婦人科学会
研修コーナー
60巻
12
号
2008
E.婦人科疾患の診断・治療・管理 4.不妊症 ………(495) 慶應義塾大学講師 浜谷 敏生 慶應義塾大学教授 吉村 典 5.不育症 ………(505) 名古屋大学教授 杉浦 真弓 1 月号(予告) D.産科疾患の診断・治療・管理 10.異常分娩の管理と処置 14)産科ショックおよび 産科ショックの対応………野田 洋一 15)DIC および DIC の処置 ………野田 洋一 19.新生児の管理と治療 14)先天異常児………平原 史樹 E.婦人科診断の診断・治療・管理 3.内分泌疾患 2)月経異常を伴う内分泌疾患………千石 一雄 6.性器の形態異常:位置異常 1)形態の異常………藤吉 啓造他 2)位置の異常………古山 将康 7.婦人科感染症………川名 尚
E.婦人科疾患の診断・治療・管理
Diagnosis, Treatment and Management of Gynecologic Diseases
4.不妊症
Infertility
4)生殖補助医療技術(Assisted Reproductive Technology:ART)
ART とは,一般に,1978年の Steptoe P.C. & Edwards R.G. et al.による世界初の体 外受精・胚移植(In vitro fertilization-Embryo transfer:IVF-ET)児の誕生以降に開発さ れた技術を意味し,主として IVF-ET や顕微授精を指す1) .広義には従来の人工授精法 (AIH)なども含む.これらの技術は患者の不妊原因そのものに対する治療法ではなく,あ くまで挙児を目的とした医療技術であるので,挙児を得ても不妊原因が残されることに留 意が必要である. (1)人工授精(AIH) AIH とは配偶者間人工授精を指し,排卵日周辺期に人工授精針あるいはカテーテル(外 刀付きやスタイレット入りなど各種販売されている)を用いて女性生殖器内に注入する方 法の総称である.また,精液そのものを子宮腔に注入するのではなく,遠心洗浄濃縮精子 浮遊液を子宮腔内に注入する方法を Intrauterine insemination(IUI)と呼ぶ.これらの適 応症例としては精子濃度が1,000万∼3,000万 ml程度の軽度造精機能障害や性交後検査 不良例(抗精子抗体陰性例)などの頸管因子不妊,タイミング指導(Timed intercourse: TI)を一定期間行っても妊娠に至らない原因不明不妊などに用いられる.さらに,男性不 妊では軽度造精機能障害,性機能障害(Erectile dysfunction:ED)や逆行性射精なども適 応となる.また注入部位も表 E-4-4)-1に示すごとくさまざまな方法がある.一方,非配 偶者の精液を用いて人工授精する場合を AID(非配偶者間人工授精)と呼ぶ. 実際の手技としては,授精用カテーテルを静かに頸管内に挿入し,先端が内子宮口を越 えたら,Swim-up 法などにより約1mlに調整された活力精子浮遊液を注入する.出血や 腹膜刺激症状,ショック状態などの副作用の有無を確認するため,しばらくそのまま安静 にさせて異常を認めなければ帰宅させる. 一般に周期ごとの妊娠率は TI で約3%と言われるが,AIH でも約5%程度に留まる2) .AIH の妊娠例は最初の3∼4周期で得られることが多いため,併用する排卵誘発法にもよるが 通常4∼6回の治療周期をめどに他の ART に ス テ ッ プ ア ッ プ す る こ と が 望 ま し い. ま た,投 与 全 運 動 精 子 数(postwash total motile sperm count:postwash TMC)や Computer-assisted sperm analysis(CASA)による処理後精子速度(curvilinear veloc-ity:VCL)>100(u"sec)が,IUI 後の妊娠率と正の相関があるとする報告も多い.しかし, postwash TMC の cut-off 値には0.8∼5 106個と報告によって大きな幅があり,精液パ ラメーターから IUI の有効性を判断するのは難しいと考えられる.
最近の Cochrane library の Systematic review によれ ば,3つ の randomaized con-trol studies(RCTs)の検討により男性不妊の場合には IUI の有効性は認められていない3)
. しかし,原因不明不妊の場合は,排卵誘発周期において IUI 群と TI 群を比較すると,IUI 群で有意に高い妊娠率が得られている(6 RCTs,517例:Odds ratio[OR]1.68,95% confidence interval[CI]1.13 to 2.50)4)
(表 E-4-4)-1) 人工授精の種類
配偶者間人工授精 ArtificalInsemination with Husband’ s Semen
AIH
非配偶者間人工授精 ArtificalInsemination with Donor’ s Semen
AID
頸管内人工授精 Intra-cervicalInsemination
ICI
子宮内人工授精 Intra-uterine Insemination
IUI
子宮鏡下卵管内人工授精 Hysteroscopic Intra-fallopian Insemination
HIFI 行群を比較すると,排卵誘発施行群で有意に高い生児獲得率が得られている(4 RCTs, 396 例:OR 2.07,95%CI 1.22 to 3.50)4) .しかし,これらの結果を考慮しても,多胎妊娠 予防の観点から,排卵誘発を施行する場合は AIH よりもむしろ IVF-ET を推奨する意見 もある. (2)体外受精・胚移植(IVF-ET) IVF-ET とは,超音波ガイド下に採卵して,体外で受精させ,受精卵あるいは培養胚を 子宮腔内に移植する方法である.通常は複数の卵の回収を目指すため,採卵周期には卵巣 刺 激 法(Controlled ovarian stimulation:COS あ る い は Controlled ovarian hy-perstimulation:COH)を用いる.日本産科婦人科学会会告では IVF-ET は難治性不妊に 対して行われる医療行為であり,これ以外の手段では妊娠成立の見込みがないと判断され る場合に限るとされている.IVF-ET の絶対的適応として難治性卵管性不妊があげられる が,軽度卵管性不妊の場合は,最近の内視鏡下微小外科手術は侵襲性も少なく好成績が期 待される.Koh CH et al.は腹腔鏡下卵管吻合術により76%の例が5),また末岡らは卵管 間質部・峡部に対する卵管鏡手術(Falloposcopic tuboplasty:FT)で FT 成功例のうち 30.3%が1∼2年以内に妊娠したことを報告している6) .したがって,障害部が限局した卵 管性不妊の場合は適応を絞って内視鏡手術を試みるべきであろう.しかし,これらの手術 を行っても再閉塞してしまう例も少なからず認められ,1∼2年以内に妊娠しなければ, IVF-ET を考慮すべきである. COH に関しては,図 E-4-4)-1に示すごとくさまざまな方法が考案されている.採卵 周期の COH に大切なことは,(1)COH 開始前の生理的な FSH 分泌増加を抑制しておく ことにより,自然周期にみられるような単一卵胞発育ではなく,COH による均一な複数 の卵胞の発育を導くこと,(2)LH サージを抑制し,採卵まで自発排卵が起こらないように することである.(1)については,ロングプロトコールにおける前周期黄体期中期からの GnRH アゴニストの使用や,GnRH アンタゴニスト周期前の EP 剤の使用などがそれに 当たる.また,(2)には,GnRH アゴニストや GnRH アンタゴニストが用いられるが,最 近では,クロミフェンクエン酸塩(Clomifene citrate:CC)を月経周期10日目以降も服用 することで卵胞発育のみならず LH サージの抑制も期待する試みが行われている.この場 合,卵成熟(第1極体放出)を目的として採卵34∼36時間前に注射する HCG の代わりに, GnRH アゴニストのフレアアップを用いて LH サージを誘導したり,あるいは CC によ る内膜菲薄化などを考慮して採卵周期に胚移植を行わず全胚凍結保存とすることも多い. 採卵は経腟超音波プローブに採卵針用のアタッチメントを装着して,モニター上のガイ ドラインに沿って針を卵胞に刺入する.卵胞液ごと卵子を吸引し,卵子を回収する.射精 精液より遠心洗浄法,Swim-up 法により活力精子を回収し,1∼4 105 "ml程度の精子 濃度で媒精する.媒精後,5%酸素,5%炭酸ガス,90%窒素ガスの混合気相内で37℃, 100%湿度の培養器内で培養を継続する.媒精後2∼3日目の4∼8細胞期に Veeck 分類(図 E-4-4)-2)に基づいて,あるいは5(∼6)日目の胚盤胞期に Gardner 分類(図 E-4-4)-3) に基づいて,形態良好胚を選択して,移植用カテーテルを用いて子宮内に胚移植(ET)す る.通常,媒精後5日目まで培養するためには,胚の栄養要求性(アミノ酸やグルコース)
(図 E-4-4)-1) 体外受精における COH 101112131415161718192021222324252627281 2 3 4 5 6 7 8 9 101112131415161718192021222324252627281 2 3 X X X X X X X X GnRH アゴニスト 採卵 FSH/hMG ↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑ ↑↑↑↑↑↑↑↑↑ ↑↑↑↑↑↑↑↑↑ ↑↑↑↑↑↑↑↑ ↑ ↑ ↑ ↑ ↑ ↑ ↑ ↑ ↑↑↑ ↑ ↑ ↑↑ ⇒ ⇒⇒ ⇒ ⇒ ⇒ HCG GnRH アゴニスト ロング プロトコール GnRH アゴニスト 採卵 FSH/hMG HCG (EP 剤) GnRH アゴニスト 採卵 GnRH アゴニスト ショート プロトコール FSH/hMG HCG GnRH アンタゴニスト 採卵 GnRHアンタゴニスト (一相性ピルorカウフマンor自然周期+EP剤) FSH/hMG HCG GnRH アンタゴニスト (一相性ピルorカウフマンor自然周期+EP剤) クロミフェンクエン酸塩 採卵 FSH/hMG HCG CC-FSH/hMG 採卵 クロミフェンクエン酸塩 FSH/hMG HCG or GnRH アゴニスト の変化に合わせて,3日目に培養液を変更しなければならなかったが,最近では5日間通 して培養が可能な培養液も開発されている. 昨今,多胎妊娠による患者の医学的リスクに加え,不妊治療による多胎妊娠の増加と産 婦人科・小児科医師の不足による周産期医療の窮状が社会問題化し,単一胚移植(Single embryo transfer:SET)による多卵性多胎妊娠の予防が重要な課題となっている.日本 産科婦人科学会も「生殖補助医療における多胎妊娠防止に関する見解」(平成20年4月12 日)により SET を原則としている(35歳以上の女性,または2回以上続けて妊娠不成立で あった女性などについては,2胚移植を許容).培養液やインキュベーターなどを含めた 培養技術の進歩もあり,胚盤胞移植では分割期胚移植に比較してより高い妊娠率が報告さ れ,良好胚の選別にも有利であるため,現在では1個の胚盤胞を移植することが一般的と なっている. (3)配偶子卵管内移植(GIFT) 媒精した状態の配偶子を受精前に,腹腔鏡下に卵管采から卵管内に移植し,卵管内環境 で受精する方法が Asch RH et al.によって開発され,配偶子卵管内移植法(Gamete intra-fallopian transfer:GIFT)と呼ばれる.GIFT は腹腔鏡を使用すること,全身麻酔が必要
(図 E-4-4)-2) 初期分割胚(採卵後 2日目の 4細胞期胚あるいは 4日目の 8細胞期胚)の Veeck分類 4 細胞期 8 細胞期 Grade1 細胞の形態が均等で フラグメンテーションを認めない胚 Grade2 細胞の形態が均等で, わずかにフラグメンテーションを認める胚 Grade3 細胞の形態が不均等な胚 Grade4 細胞の形態が均等または不均等で, かなりフラグメンテーションを認める胚 Grade5 細胞をほとんど認めず, フラグメンテーションが著しい胚 なことなどより手技や設備が IVF-ET と比較して煩雑なため,近年実施施設は減少し, 2006年には全国で34周期に施行されたのみであった7) .しかし,自然の妊娠成立機序に 近いことより,今後も有用な技術であると考えられる.GIFT 以外に,前核期卵を卵管内 に移植する方法を ZIFT(Zygote intrafallopian transfer)あるいは PROST(Pronuclear stage transfer)法,卵管内に分割期胚を移植する方法を TET(Tubal embryo transfer) 法と呼ぶ.
(4)顕微授精(ICSI)
当初顕微授精は,透明帯に化学的または物理的に開窓(孔)あるいは切開を加え媒精精子 の囲卵腔内への侵入を補助する透明帯ドリリング法(zona drilling),透明帯切開法(Par-tial zona dissection:PZD)から始まり,続いて囲卵腔内に数匹の精子をマイクロマニ ピュレーターで注入する囲卵腔内精子注入法(Subzonal insemination:SUZI)へと移行 した.その後1992年 Palermo et al.が精子を卵細胞質内へ直接注入する卵細胞質内精子
(図 E-4-4)-3) 胚盤胞期(採卵後 5~ 6日目)における Gardner分類 Gardnerの分類(1999年)は,胚盤胞のステージを 6段階に,さらに ICM および Trophectoderm の形態を 3段階に分類する.移植胚が 3AA以上,すなわち胞胚 腔が胚全体に及び,ICM が多数の細胞より形成され密集し,栄養外胚葉も多数の 細胞からなりその結合が密である胚盤胞を移植すると,その妊娠率が高率となる ことが報告されている. 初期胚盤胞:胚盤胞腔が 50% 以下 初期胚盤胞:胚盤胞腔が 50% 以上 胚盤胞 拡張胚盤胞:透明帯菲薄化 ハッチングが始まっている ハッチングが完了
内細胞塊 (Inner cell mass:ICM)
A B C A B C 密で細胞数が多い 疎で細胞数が少ない 細胞がほとんど 認められない 密で細胞数が多い 疎で細胞数が少ない 細胞が非常に少なく 大きい 栄養外胚葉 (Trophectoderm) 1 2 3 4 5 6
注入法(Intracytoplasmic sperm injection:ICSI)をヒトに応用して妊娠例を報告して以 来,多数の臨床応用がなされその良好な成績から現在では ICSI が顕微授精そのものと称 されるようになった.しかし ICSI は注入精子の人為的選択や卵子の損傷,そして児の奇 形率増加の可能性や造精機能に関する Y 染色体上の遺伝子微小欠失(AZF)の児への継承
(図 E-4-4)-4) 顕微授精 授精針の先に精子が認められる など,未だ解決されていない問題点がある. したがって適応症例の選択やインフォームド コンセントは慎重に行う必要がある. 次に, ICSI の方法の概略について述べる. まず採卵卵子を3∼6時間前培養後,ヒアル ロニダーゼにて卵丘細胞を除去し,第1極体 が放出されている第2減数分裂中期(Meta-phase Ⅱ)成熟卵のみを ICSI に供 す る.一 方,PVP(ポリビニールピロリドン)小滴内 で,精子の尾部をインジェクションピペット の先端でデイッシュの底面に擦りつけ不動化 させる.インジェクションピペットで極少量 の PVP 溶液とともに不動化精子を尾部より 吸引する.ホールデイングピペットを卵子の 第1極体が6時または12時の方向になるように位置を調節し,吸引圧をかけて卵を固定す る.精子をインジェクションピペットの先端まで移動し,ピペットを卵子の3時の方向よ り透明帯を貫通して,深く卵実質内へ刺入する(図 E-4-4)-4).次にピペットに陰圧をか け,少量の卵実質をピペット内に吸引することによって,卵細胞質膜を確実に穿破したの を確認後,精子を注入する.ICSI 終了後は16∼18時間後に実体顕微鏡下にて,雌雄前核 (2PN)形成,第2極体の放出を観察するが,ICSI を行っても受精障害となる例が存在する (約3%).卵活性化の異常,精子頭部脱凝縮や星状体形成の異常などが原因と考えられ, 今後の克服課題となっている. 最近では,卵の質のみならず,精子の質が妊娠予後に大きく関連することが知られてい る.特に,精子の DNA フラングメンテーションと ICSI の治療成績について,多核胚の 増加と初期胚発生の低下,流産率の上昇が報告されている.DNA フラングメンテーショ ンの割合を測定する方法として Sperm Chromatin Structure Assay(SCSA),Comet, Tunel などの方法が一般的であるが,より簡便かつ臨床的に精子の質を検討する方法とし て,高倍率下で精子の頭部形態(特に空胞の程度)を基準に精子が選択できる Intracyto-plasmic morphologically-selected sperm injection(IMSI)[High-magnification ICSI (HD-ICSI)]が Bartoov et al.により開発された.一般的な精子形態は正常であるが,IMSI で大きな空胞が認められる精子を用いた場合は,大きな空胞を認めない精子を用いた場合 に比較して,妊娠率は有意に低く,流産率は有意に高かったと Berkovitz et al.は報告し ている8) .今後は,精子頭部の空胞と DNA フラグメンテーションの因果関係も含め,IMSI の有用性に関して,さらなる検討が必要であると考えられる. (5)精子採取法(MESA,PESA,TESE,MD-TESE) 精巣上体精子を精巣上体管から採取する場合,精巣上体精子吸引法(microsurgical epididymal sperm aspiration:MESA)と呼ばれる.腰椎麻酔下に陰囊に小切開を加え 精巣上体を露出し,10∼40×の手術用顕微鏡にて,精巣上体被膜に小切開を加え露出し た精巣上体管(閉塞部位の遠位端)より,5µlマイクロピペットあるいはサーフローカテー テルを挿入し,精巣上体精子を吸引する.先天性両側精管欠損症例には良い適応であるが, 閉塞性無精子症の精路再建術不成功例などにも用いられる.また,陰囊皮膚上から精巣上 体を把持し,経皮的に穿刺針で精巣上体管を穿刺し精子を吸引する方法は経皮精巣上体精 子吸引法(percutaneous epididymal sperm aspiration:PESA)と呼ばれる.採取精子 数は MESA に劣るが,迅速,簡便,安全,安価である.
(図 E-4-4)-5) 解凍胚移植における人工内膜調整周期法 凍結胚移植 HCG 採血 ↓ ↓ ↓ D1D2D3D4D5 10 14 朝 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 昼 夕 ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● 月経から 1 2 3 投薬開始から 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 2122 23 24 25 26 27 28 29 30 3132 33 34 ↑ 超音波検査:内膜厚が十分か,自然排卵の可能性なきこと確認 (採血:卵胞ホルモン E2,黄体ホルモン P4) 結果によっては,エストラーナ増量,ルトラール開始を延期 エストラーナ ® (Estradiol として 0.72mg 含有) 4 枚 /2 日毎に貼りかえ (卵胞ホルモン) 夜 ルトラール ® (酢酸クロルマジノン 2mg) 3 錠 3X (黄体ホルモン) (表 E-4-4)-2) MD-TESEの精子回収率 精子回収率(%) 症例数 報告者 63 27
SchlegelPN,etal.(Hum Reprod 1999)
44.6 74 Okada H,etal.(J Urol2002) 41 100 Tsujimura A,etal.(J Urol2004) 57 460
Ramasamy R,etal.(Urology 2005)
白膜を切開し,精巣組織を5mm 角に数カ所生検し,ただちに緩衝液(Ham F-10や PBS) 内で実体顕微鏡下に細切し,スライドガラスとカバーグラスの間に挟み圧平標本を作製す る.倒立顕微鏡(×200∼400)下で組織片より遊走する精巣精子の存在を確認する.精子 の存在が確認されなければ再度,生検を実施する. さらに,最近では microdissection-TESE(MD-TESE)の登場により精子採取率が飛躍 的に改善された(表 E-4-4)-2)9) .これは1999年 Schlegel により報告され,手術用顕微 鏡を用いて,太く透明あるいは白色の精細管を選択して採取する方法である.これにより, 非閉塞性無精子症の約10%を占める Klinefelter 症候群であっても,約半数の症例で精巣 内から少数ながら精子が回収できることが明らかとなってきた10) . (6)胚凍結保存・解凍胚移植 新鮮胚移植に用いなかった余剰胚は,患者の希望・同意があれば凍結保存する.もし新 鮮胚移植で生児が得られなかった場合には,次周期以降に凍結胚を解凍して移植する.胚 凍結保存の目的は余剰胚の有効利用,患者負担の軽減,多胎妊娠の防止,卵巣過剰刺激症 候群(ovarian hynerstimulation syndrome:OHSS)の予防などが考えられる.凍結法は, 従来のプログラムフリーザーを用いた緩慢凍結法に代わり,現在では,高濃度の耐凍剤で 胚を平衡化させ,細胞内水分を脱水,濃縮させて液体窒素で急速冷却するガラス化法(vit-rification)が 用 い ら れ て い る.耐 凍 剤 に 関 し て も,従 来 は 前 核 期 胚 に Propanediol (PROH),分割期胚に Dimethyl sulfoxide(DMSO)を用いた緩慢凍結法が一般的であっ たが,最近では DMSO や EG(ethylene glycerol)を用いたガラス化法で胞胚期凍結も行 われている.急速に温度を低下させることができるよう,Cryotool としても,Open pulled straw,CryotopⓇ ,CryoloopⓇ ,EM gridⓇ などが開発されている.凍結胚の凍結保存期 間は,被実施者夫婦の婚姻の継続期間であってかつ卵子を採取した女性の生殖年齢を超え ないこととする.卵子の凍結保存期間も卵子を採取した女性の生殖年齢を超えないものと する.
(表 E-4-4)-3) 治療法別出生児数および累積出生児数(2006年) 累積出生児数 出生児 治療周期総数 81,967 6,256 44,757 新鮮胚(卵)を用いた治療 (顕微授精を除く) 54,365 5,401 52,539 顕微授精を用いた治療 38,124 7,930 42,171 凍結胚(卵)を用いた治療 174,456 19,587 139,467 合計 (表 E-4-4)-4) 2006年に行われた ARTの治療成績 凍結融解胚移植 ICSI-ET IVF-ET 射出精子以外 の精子 射出精子 28,038 2,038 31,974 31,752 患者総数 42,138 2,897 49,422 44,686 治療周期総数 ― 2,705 46,934 42,156 採卵総回数 35,784 1,848 30,493 29,361 移植総回数 33.0 24.4 24.3 28.9 移植あたりの妊娠率(%) ― 16.6 15.8 20.2 採卵あたりの妊娠率(%) 24.0 24.9 24.3 22.6 妊娠あたりの流産率(%) 11.0 12.2 12.3 13.7 妊娠あたりの多胎妊娠率(%) 7,929 322 5,054 6,252 出生児数 19.8 15.2 14.5 18.3 移植あたりの生産率(%) 解凍胚移植には自然周期法以外に人工内膜調整周期法がある.卵胞ホルモンと黄体ホル モンの順次投与により人工周期を作る方法であり,解凍胚移植日を設定できる利点がある. 具体的なスケジュール例を図 E-4-4)-5に示す. このように受精卵・胚凍結保存法が非常に安定した技術として臨床に定着する一方,未 受精卵凍結保存は1980年代後半に妊娠例が報告されて以来,1997年に Porcu が PROH を用いた緩慢凍結・急速融解法と ICSI を組み合わせることで妊娠例を報告するまで,し ばらく成功例はなかった.最近になって,DMSO+EG+sucrose を用いたガラス化法が 未 受 精 卵 凍 結 保 存 に も 導 入 さ れ,Kuleshova,Cha,Katayama,Kyono,Ku-wayama,Mukaida など複数のグループより良好な成績が報告されている.未婚女性が 悪性腫瘍の治療などで投与される薬剤あるいは放射線療法により妊孕性を強く傷害される 場合など,未受精卵の凍結保存技術が果たす臨床的意義は極めて大きく,今後さらなる進 歩が望まれる. (7)ART の成績・副作用 本邦で ART を実施するためには,日本産科婦人科学会への実施施設と実施者の登録, 結果の報告を行う義務があり,学会の倫理委員会が結果を年報として公表している.最近 の報告を表 E-4-4)-3および表 E-4-4)-4にまとめた7) .平成18年末におけるわが国の ART 登録施設数は575施設であり, 年々増加傾向にある年間治療周期数は69,019周期に及び, これによって出生した児の総数は19,587児となり年間約2万人の児が ART により誕生す る時代になっている.この年の出生数が1,092,662人であるので,ART による出生が全 出生の1.8%を占め,これは子供56名中に1名の割合である.さらに,平成18年末までに 本邦で174,456児が ART により誕生したことになる.
一方,新鮮胚による IVF-ET では妊娠率は移植あたり28.9%,採卵あたり20.2%であっ た.これに対し,ICSI では24.3%,15.8%であった.近年,移植あたりの妊娠率に増加 傾向が認められるが,これは胚盤胞期胚移植に関わる技術の進歩と普及によるものと考え られる. 凍結融解胚を用いた治療の実施施設は434施設で実施総施設数530の81.9%にあたる. 治療周期数は42,138周期であり,移植あたり妊娠率は33.0%であった.これにより7,929 児が出生している.これらの数字はいずれも近年急速に増加している.ガラス化法を含め た胚凍結保存技術の進歩・普及もさることながら,培養技術の進歩と多胎妊娠防止のため に今後はさらに SET が増加することが予想されるため,胚解凍移植周期数も今後さらに 増加すると考えられる.多胎妊娠の実態は,妊娠あたり IVF-ET で13.7%,ICSI-ET では 12.3%,凍結融解胚移植では11.0%であった.このうち3胎以上の妊娠例が70例含まれ ている.日本産科婦人科学会も「生殖補助医療における多胎妊娠防止に関する見解」(平成 20年4月12日)により SET を原則としている.今後とも多胎の防止には十分注意を払っ ていかねばならない. さらに,表 E-4-4)-4に示した妊娠率は1治療周期の妊娠率であるが,複数回の ART を 行い妊娠に至る場合もあるので,厚労省研究班による報告を参照したところ,妊娠例の 90%が実施回数5回までに含まれていた11) .また最終的に妊娠に至る例は,治療を開始し た症例の約50%に過ぎず, 残りの50%は ART でも妊娠が困難であると報告されている.
また子宮外妊娠の発生率については,イギリスの Human Fertilization and Embryol-ogy Authority が,2003年に行われた156,454治療周期(IVF+ICSI)のうち31,666治療 周期で妊娠が成立し,その2.4%が子宮外妊娠であったと報告している9)
. (8)PGD(着床前遺伝子診断)
ART の不妊症以外への臨床応用が始まっている.1990年 Handyside et al.により着 床前診断(Preimplantation genetic diagnosis:PGD)が施された胚を用いた妊娠例が報 告された.PGD は,体外受精後の8分割胚の2割球あるいは胚盤胞期栄養外胚葉の数個の 細胞を生検して,“非罹患胚”と診断された胚を子宮内に移植する技術である.筋ジストロ フィー,ハンチントン病,cystic fibrosis などの単一遺伝子疾患あるいは Robertson 転 座や相互転座などの染色体異常症が適応となりうる. 一般に前者では nested PCR 法が, 後者では,Fluorescence in situ hybridization(FISH)法が用いられる.この技術には,(1) 受精卵への操作や棄却することに対する生命倫理的問題,(2)障害を持つ方々から優生思 想であるとの批判,(3)自然妊娠が可能な方に体外受精を行うこと,などの問題がある. 日本産科婦人科学会は1998年に「着床前診断に関する見解」を作成し,重篤な遺伝性疾 患に限って,申請された症例毎に審査して認可することを決めた.これまでに,染色体均 衡型転座による習慣流産,Duchenne 型筋ジストロフィー,筋強直性ジストロフィーな どの症例に対する PGD が承認されている9) . さらに欧米では,その適応を拡大し,IVF-ET における着床不全や流産を予防する目的 で,この PGD 技術を用いて de novo に発生する異数性胚をスクリーニングする着床前 スクリーニング(Preimplantation genetic screening:PGS)が行われている.数的異常 の頻度の高い13,16,18,21,22,X,Y などの染色体に対する DNA プローブを用い た FISH 法により診断されるが,最近では comparative genomic hybridization(CGH) を用いたマイクロアレイ技術の臨床応用も期待されている.37歳未満で,3回以上良好胚 を移植しても妊娠しない IVF-ET 反復失敗例は,胚の染色体異常率が高いため,PGS を 行うことで妊娠率が向上するという報告が散見される.しかし,最近の RCT では,高齢 不妊女性に IVF-ET を行い,PGS 施行・未施行群を比較した場合,PGS 施行群で生児獲 得率は低下していた12) .したがって,IVF-ET において生児獲得を目的として行う PGS
については,安全性も有効性も明らかではない現時点では考慮すべきではない.
《参考文献》
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〈浜谷 敏生* ,吉村 典* 〉 *Toshio H AMATANI,*Yasunori Y OSHIMURA
*Department of Obstetrics and Gynecology, Keio University, School of Medicine, Tokyo
Key words : ART・ICSI・PGD・SET・COH
E.婦人科疾患の診断・治療・管理
Diagnosis, Treatment and Management of Gynecologic Diseases
5.不育症
Recurrent Pregnancy Loss
はじめに
不育症についてはいまだに原因不明の部分が半数を占めており,そのために標準的検査, 治療法がないのが現状である.一般臨床病院でどこまで検査を行うべきかについて,日本 産婦人科学会不育症小委員会で検討し,現時点での一次スクリーニング検査が提案された 表 E-5-1).しかし,同ガイドラインではこれらの検査をすべて推奨してはいない.検査 の意義の高いものを太字で示した. なお不育症は繰り返す流死産によって生児を得られない状態であり,習慣流産は3回以 上連続する流産と定義されている.1回の流産は約15%,習慣流産は1∼2%,不育症は5% 程度の頻度と推定されている.既往流産回数,女性の加齢によって流産率は上昇する.女 性の晩婚化・少子化の昨今,2回の流産の段階で反復流産として患者の希望があれば精査 の対象としている.夫婦の染色体検査
染色体異常の意味について検査前に説明されなければならない.当院での反復流産患者 1,284組の調査では7.8%に9番逆位を含む染色体異常が,4.5%に均衡型転座がみられた (表 E-5-2).相互転座と診断された患者の次回妊娠における成功率は31.9%であり,正 常染色体を持つ夫婦の流産率71.7%と比較して有意に低い成功率であった(表 E-5-3). ただし累積成功率は68.1%であった.日本の多施設共同研究では診断後初回妊娠での成 功率は63.0%であり1) ,オランダでの多施設共同研究での累積成功率は83%であった2) . つまり流産さえ乗り越えれば,生児獲得率は充分高いことを説明してあげることができる. 日本でも流産予防を目的とした着床前診断が始まっている.体外受精によって得られた 受精卵の割球を取り出し,均衡型の受精卵のみを胚移植して流産を防止する技術である. 現在出産成功率を明記している報告は3つあり,1回の採卵による成功率は23.7%, 47.2%,6.2%である.着床前診断によって出産成功率が改善できるとした case control study は報告されていない.着床前診断を行っても流産は約10%.自然妊娠でも出産が 十分可能であること,着床前診断のメリット,デメリットについて遺伝専門医に相談する ことが望ましい.子宮形態検査
子宮奇形の診断のために子宮卵管造影法を行う.3D 経腟超音波検査,MRI などによる 診断も報告されているが,スクリーニングとしては嘴管法による子宮卵管造影法が子宮底 部の観察に優れている. 当院の検討で単角単頸子宮,双角子宮,中隔子宮などの子宮奇形は3.2%にみられた. 弓状子宮を含めると約15%になるが弓状子宮が反復流産の原因であるか結論に至ってい ない.子宮底部筋層内の脈管の減少が流産の原因であると推測されている.双角子宮には(表 E-5-1) 不育症検査 ガイドライン推奨レベル 一次スクリーニング B 夫婦の染色体検査(G分染法,2,400点) 染色体検査 A 経膣超音波検査法(530点) 子宮卵管造影検査(嘴管法)(515点) 子宮形態検査 A 抗リン脂質抗体 抗 CL・β 2GPI複合体抗体(230点) あるいは抗 CL抗体 IgG(250点),IgM(保険未収載) ループスアンチコアグラント(290点) 抗 PE抗体 IgG,IgM(保険未収載) 抗 PS抗体 IgG,IgM(保険未収載) 抗核抗体(70点) 免疫学的検査 C 基礎体温測定 糖尿病検査 空腹時血糖(11点) 甲状腺機能検査 TSH(115点),FT4(140点) 下垂体機能 PRL(100点),LH(125点),FSH(125点) 黄体機能検査 P4(170点) 内分泌学的検査 C aPTT,PT(29,15点),凝固第Ⅹ Ⅱ因子(240点) 凝固系検査 日本産科婦人科学会生殖・内分泌委員会(ヒト生殖のロス(習慣流産等)に対する臨床実態の調査小 委員会) 保険点数は平成 20年 4月 (表 E-5-2) 不育症の原因 胎児側異常 母体側異常 ・夫婦染色体転座 4.5% ・抗リン脂質抗体 5― 15% ・胎児染色体数的異常約 50%? ・子宮奇形 3.2% ・内分泌異常? ・遺伝子異常? 黄体機能不全 23.4% ・エピゲノム異常? 糖尿病 1% 甲状腺機能異常 10% 多のう胞性卵巣症候群 6.2% ・凝固系異常? ・遺伝子多型? ・免疫異常? ・炎症? ・精神的ストレス? 子宮形成術,中隔子宮には Transcervical Resection(TCR)が有効であると報告されて いる.Hickok et al.は TCR によって81.8%の成功率が得られたと報告しているが,習 慣流産患者の成功率は過去の流産回数ごとに異なるため厳密な意味のコントロールが得ら れにくく,手術の有効性はいまだ明らかではない.手術を施行しなくても出産に成功する
(表 E-5-3) 均衡型相互転座保因者の妊娠帰結 累積成功率 診断後初回妊娠 自然妊娠 自然妊娠 PGD Franssen Steph enson Sugiura 日本多 Steph enson Sugiura Feyere isen * OtaniT Chun KL * 157 20 47 46 20 47 35 29 * * * 43 患者数 31.0±3.9 * * 29.1±5.6 32.7 31.5±4.0 妻の年齢 3.1±1.2 3.4 既往流産回数 81 36 59 採卵 54 ET周期 17 22 positive hCG 0 6 流産 131 18 32 29 13 15 5 17 14 分娩 83.0% 90.0% 68.1% 63.0% 65.0% 31.9% 14.3% 58.6% 32.6% 出産成功率 6.2% 47.2% 23.7% 成功率 /IVF *習慣流産患者と明記されていない * *転座の診断時の年齢 * * *採卵に失敗した患者は除外されている (表 E-5-4) 抗リン脂質抗体症候群診断基準 臨床所見 動静脈血栓症 妊娠合併症 ・妊娠 10週未満の 3回以上連続した原因不明習慣流産 ・妊娠 10週以降の原因不明子宮内胎児死亡 ・妊娠 34週未満の重症妊娠高血圧腎症・子癇や胎盤循環不全による早産 検査所見(12週間以上の間隔で 2回以上陽性)
・Lupus anticoagulant陽性
(国際血栓止血学会ガイドラインに準じた方法) ・(β 2glycoprotein I依存性)抗カルジオリピン抗体 IgGもしくは IgMが 中高力価 ・抗β 2glycoprotein I抗体 IgGもしくは IgM が陽性 J Thromb Haemost2006 症例もあり,慎重な説明が必要である.
抗リン脂質抗体と抗核抗体
抗リン脂質抗体の測定法には ELISA 法とループスアンチコアグラント(LA)と呼ばれる 凝固時間法を用いた方法があるが,世界的に標準化された測定方法がないのが現状である. 抗リン脂質抗体症候群の新診断基準において測定方法が推奨されているのは抗カルジオリ ピン抗体,抗 CL・β・2GPI 複合体抗体,ループスアンチコアグラントである3) .12週間 あけて2回陽性であれば抗リン脂質抗体症候群と診断できる.この診断基準は2年ごとに 改定されており有用性が証明されれば他の検査も追加される可能性がある. 抗リン脂質抗体症候群の治療についてはアスピリン・ヘパリン併用療法が標準的治療で ある.ステロイドは早産,妊娠糖尿病などの副作用のため膠原病合併症例にしか使われない.また,抗核抗体陽性例に対するステロイド療法も有効性は証明されていない.
内分泌学的検査
基礎体温表を記録してもらい高温5∼9日にプロゲステロン値(P)測定を行う.P<10 ng"mlを黄体機能不全と定義した時,黄体機能不全は23.4%にみられたが,その後の流 産率は正常群,異常群ともに変わらないという結果が得られたため当院ではホルモン療法 は原則として行っていない.しかし,Cochran review はホルモン補充によって習慣流産 患者の流産率が改善する可能性を指摘しており,今後の検討課題である. 高プロラクチン血症については,妊娠9週までブロモクリプチンを投与することで成功 率が改善できたとする報告があるが,同様の報告は乏しい.多囊胞性卵巣症候群が習慣流 産患者に多いとする欧米の少数の横断研究から LH,FSH が一次スクリーニングに含まれ たが,これについても充分なエビデンスではない. 糖尿病,甲状腺機能異常は原疾患の治療が流産の治療とされる.空腹時血糖が100以上 であれば75gGTT あるいは HbA1c を測定し,糖尿病と診断されれば妊娠前からインシュ リン療法を行う.軽度の甲状腺機能低下は約10%にみられるが,治療の必要性について は確証は得られていない.凝固系検査
LA 陽性患者は生体内では血栓症を起こすが,凝固検査では aPTT が延長することが知 られている.安価であり,LA のスクリーニングとして有用である. 1990年代にプロテイン C(PC),プロテイン S(PS),アンチトロンビン(AT)欠乏症な どの先天性血栓性疾患と流死産との関係が報告された.最近のメタアナライシスでは PS 欠乏症と Leiden Mutation(日本人には存在しない)のみが子宮内胎児死亡と関係すると いう結果であった.血栓性疾患が胎盤における血流障害によって子宮内胎児死亡を起こす とすれば胎盤形成以前の初期流産との関係は疑問である.当院において PC,PS,AT, 凝固第 因子の低下と反復初期流産の関係を前方視的に調べてみたが,低下症例も正常例 もその後の流産率に差を認めなかった. 凝固第Ⅻ因子欠乏症は出血ではなく血栓症を起こすことが知られ,習慣流産との関係も 複数報告されているため1次スクリーニング検査に含まれた.当院の前方視的検討でも第 Ⅻ因子活性の低下はその後の流産の危険因子であり,第Ⅻ因子活性低下症例に抗凝固療法 を施行したところ流産率は有意に改善した.しかし,まだ報告は限られており1次スクリー ニングとするには疑問も残る.第Ⅻ因子については遺伝子多型(46C"T)によってその活 性が低下し,日本人は欧米人より活性が低いことが知られている.当科において反復流産 患者の遺伝子頻度を調べたが対照との差はなく,第Ⅻ因子活性低下の原因は抗体によるも のと推測している.原因不明不育症
散発性流産の50∼70%は胎児(胎芽)染色体異常によって起こることが知られている. 反復流産において染色体異常率は散発性流産よりも有意に低いが,約半数に確認された. 習慣流産患者の中には絨毛染色体異常を繰り返している症例が存在すると推測できる.胎 児染色体異常の確認された患者のその後の成功率は,染色体正常の患者の成功率よりも高 い.また,治療にもかかわらず,胎児染色体正常流産を認めたら,次回の治療を見直すこ とが必要である.その意味で絨毛染色体検査は一次スクリーニングに含まれなかったが重 要であると筆者は考えている. 原因不明不育症について凝固線溶系異常,遺伝子多型,細胞性免疫異常,エピジェネチックな異常,精神的ストレスとの関係が報告されている.しかし,確立された治療法はまだ ない.1981年に夫リンパ球による免疫療法が報告されて以来,習慣流産の研究は免疫学 的妊娠維持機構の解明を中心として進められてきた.しかし,米国 FDA は対宿主移植片 反応の危険性から,その有効性が明らかになるまで施行しないとしている.Franssen et al.は染色体異常のない不育症患者の84%が5.8年の follow up の後に健児獲得できたと 報告している.原因不明なりに予後が比較的よいことも患者に説明できる. 「原因不明不育症」は何を「原因明らか」とするかによって各施設でまったく異なって くる.そこが不育症の検査・治療の標準化の難しいところである.スクリーニング検査の 内容もエビデンス蓄積とともに見直される必要がある.不育症診療はいまだ研究領域と考 えられ,臨床研究の蓄積が必要である.
要旨
不育症についてはいまだに原因不明の部分が半数を占めており,標準的検査,治療法が ないのが現状である.当院では夫婦いずれかの染色体均衡型転座4.5%,子宮奇形(弓状子 宮を含まない)3.2%,抗リン脂質抗体,胎児染色体異常を原因明らかな部分と考えている. 黄体機能不全,甲状腺機能異常,凝固線溶系異常,精神的ストレス,免疫異常が流産と関 係するのは明らかであるが,指標となる検査,有効な治療についてのエビデンスレベルの 高い報告はまだ限られている. 《参考文献》1.Sugiura-Ogasawara M, Aoki K, Fujii T, Fujita T, Kawaguchi R, Maruyama T, Ozawa N, Sugi T, Takeshita T, Shigeru Saito. Subsequent pregnancy out-comes in recurrent miscarriage patients with a paternal or maternal carrier of a structural chromosome rearrangement. J Hum Genet 2008 ; 53 : 622―628 2.Franssern MTM, Korevaar JC, van der Veen F, Leschot NJ, Bossuyt PMM,
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〈杉浦 真弓* 〉
*Mayumi S
UGIURA
*Nagoya City University, Graduate School of Medical Science, Human Reproduction and
Embry-ology, Nagoya
Key words : Recurrent miscarriage ・ Recurrent pregnancy loss ・ Antiphospholipid anti-body・Translocation