Title
キモプシンの使用経験 特に泌尿器科手術患者並びに男子
不妊症患者について
Author(s)
稲田, 務; 酒徳, 治三郎; 沢西, 謙次; 吉田, 修
Citation
泌尿器科紀要 (1964), 10(1): 47-56
Issue Date
1964-01
URL
http://hdl.handle.net/2433/112507
Right
Type
Departmental Bulletin Paper
Textversion
publisher
47 一泌 尿 紀 要10巻1号 .昭 和39年1月
キモ ブシ ンの使 用 経 験
特 に泌 尿器 科 手 術 患 者
並 び に男 子 不妊 症 患 者 に つい て
京都大学医学部泌尿器科教室
教 授
稲
田
務
助教授
酒
徳
治
三
郎
助
手
沢
西
謙
次
助 手
吉
田
修
CLINICAL
EXPERIENCES
WITH
"KIMOPSIN"
IN THE
FIELD
OF UROLOGY
Tsutomu
INADA, Jisaburo SAKATOKU, Kenji SAWANISHI and Osamu YOSHIDA
From the Department of Urology, Faculty of Medicine, Kyoto University, Kyoto, Japan
(Director : Prof. T Inada)
This report deals with clinical evaluations of a use of Kimopsin (a-chymotripsin)
for
the treatment of post-operative complications in the field of urological surgery.
Kimopsin,
being one of the endopeptidases, is recently known to have curative effects on inflammatory
edema. The results of studies are summerized as follows.
1) The drug was injected intramuscularly
in 47 cases during the postoperative course
and gave satisfactory results in clinical findings. No side effect was experienced.
2) The drug was added in vitro to semen of 6 cases with oligozoospermia or
necrozoos-permia and resulted in marked improvements of the viscosity of semen and the motility of
spermatozoa.
緒
言
泌 尿 器 科 領 域 に 於 け る各 種 の手 術,特
に 尿 路
の 形 成 手 術 や 陰 嚢,会
陰 部 の手 術 に際 して,我
こ々が 最 も困 却 させ られ る もの に 術 後 の局 所 の 浮
腫 及 び 血 腫 が あ げ られ る.こ れ らの 浮 腫 或 い は
血腫 は 尿 流 の通 過 障 碍 や局 所 の 血 行 障 碍 を 起
し,こ れ が為 に二 次 感 染 を 惹起 す る こ とが 決 し
て少 くな い.特 に 尿 道 痩 や 尿 道 下 裂 の 形 成 術 の
失 敗 は,そ
の大 部 分 が 術 後 惹 起 され る浮腫,二
次 感 染 に 原 因 が あ る とい つ て過 言 で は な い.
陰 薮 内 の 各 種 手 術,膀 胱,尿
管 の 種 々 の手 術
で も亦 同 様 の こ とが 云 い得 る.従 つ て此 等 手 術
に 際 して,必 然 的 に起 る浮 腫,血 腫 等 を予 め予
防 乃 至 抑 制 し得 るな らば,術 後 経 過 を順 調 に促
進 せ し め,感 染,発 熱,尿 痩 等 の 副 症 状 を 防 ぐ 点 か ら も 極 め て 意 義 の あ る 所 で あ る. 薬 理 作 用 α一Chymotripsin(Kimopsin)は1913年Vermon に よ り見 出 さ れ,1933年Knuitz及 びNorthroPよ り結 晶 化 さ れ たendopeptidaseの 一 つ で あ る,こ の 酵 素 は 不 活 性 な 前 駆 物 質Chymotripsinogenの 型 で, 哺 乳 類 の 脾 臓 か ら 分 泌 さ れ.動 物 体 内 に 於 て は 十 二 指 腸 附 近 で 脾 臓 のTripsinに よ り2ケ のdipeptide,即 ちseryl-arginineとthreonyl-asparagineと を 遊 離 し て 活 性 化 さ れChymotripsinに な る.こ の 段 階 に 於 い てChymotripsinに は α,β,γ,δ,π の5型 が 認 め ら れ る が,α 一型 が 薬 理 学 的 に 最 も活 性 が あ り,且 つ 安 定 して い る の で こ の 型 の も の が 使 用 さ れ て い る. 分 子 量22,500等 電 点 は8.1∼8.6,酵 素 活 性 の 至 適pH48 稲 田 ・他一 キ モ プ シ ンの 使 用経 験 特 に泌 尿 器 科 手 術 患 者 並 び に 男 子不 妊 症 患者 に つ い て は8.0∼9.0の 斜 方6面 体 の結 晶 で,水 に易 溶 性 で あ る. この α一Chymotripsin(Kimopsin)の 薬 理 作 用 と し て は(i)著 明 な抗 炎 症 作 用,(ii)蛋 白分 解 作 用, (iii)生 体 内 の他 の 蛋 白分 解 酵 素 系,そ の う ち で も 特 に 線 維 素 溶解 酵 素 に対 す る賦 活 作 用 が あ げ られ る, 1951年Roettingerに よ り初 め て外 科 領 域 に 於 い て,Tripsinを 臨 床 的 に 血栓 凝 血 溶 解,喀 擁 粘 液 分 解,抗 炎 症,抗 浮腫 等 の効 果 を 求 め て 使 用 し,か な り の車 効 を 認 め て 以来,種 々の 蛋 白分 解 酵 素 が 広 範 囲 に 使 用 され る様 に なつ て来 た.し か し これ らの酵 素 の 蛋 白 に対 す る特 異 的 な消 化 及 び 分 解 に よ る作 用 が,強 力 に抗 炎 症,抗 浮腫 に働 く作 用 機 序 に関 して は 尚 不 明 で あ るが,Martinに よ る と,Kimopsin投 与 に よ り細 胞 膜 や血 管壁 の透 過 性 が 高 め られ,そ れ に よ り炎 症 部 の 代 謝 産物 の除 去 が促 進 され る為 で あ る とい い,こ れ が また 逆 に 血管 や リン パ管 の流 れを よ くして 圧 迫 を と り,炎 症 が 消 失 せ しめ られ る と云 つ て い る.血 液,リ ンパ 液流 が 正 常 化 し,組 織新 生 が 促 進 され,併 用 薬 剤 の組 織 内 拡 散 が増 加 し,為 に 治 療 効 果 を 上 げ るの で は な い か と考 え られ る. 副作 用 の 点に 関 して は,本 剤 も蛋 白体 で あ る 以 上 Anaphylaxie乃 至Allergie性 反 応 が生 ず る の は 当 然 で あ る に も拘 らず,他 の 多 くの報 告を み て も,亦 我 々の使 用 経 験 か らみ て も,副 作 用 は殆 ど認 め ず,例 外 的 に 軽微 な薄 麻 疹 程 度 が 報 告 され て い る の み で あ る.LD50はHendley(1956)は 急 速 静 注 して も, 家 兎 で24mg/kg,ラ ツテ で85mg/kg,Webb(1950) らは 腹腔 内注 射 で65mg/kg,東 北 大 赤 崎(1962)ら は 生 後7∼8週 の マ ウ ス の背 側 胸 部 皮 下 に投 与 し,死 亡 例 は2mgで は25%,1mgで は全 く認 め ない と報 じ てい る.た だ 投 与 に あ た り溶 媒2m1中200mg/kg を こえ る と局 所 的 な 蛋 白 分 解 作 用 を 認 め る と の報 告 が あ り,赤 崎 ら も高濃 度 の 皮 下 投 与 に よ り注 射局 所 に康 燗,皮 下 出血,潰 瘍 等 の 発 生 を み たが,0.5%生 理 食 塩 水 溶 液 の皮 下 注 射 の 場 合 は 何 ら この様 な 危 険 を 考慮 す る必 要 が な い と報 じてい る.以 上 の こ と よ り治 療量 は 毒 性 を 示 す量 か ら も充 分 離 れ て お り,Kimopsinの 治 療 安 全 係 数 は 極 め て 高 い も の と い え る.そ の毒 性 は Tripsinよ り少 く,そ の効 果 はTripsinよ り勝 る と い わ れ て い る為 に最 近 で はKimopsinが 広 範 囲 に使 用 され る傾 向 に あ る. 我 が 泌 尿 器 科 領 域 に 於 い て も,手 術 時 使 用 に よ り浮 腫 を 除 き,尿 路 の通 過 状 態 を 円滑 な ら しめ た り,術 後 創 傷 の壊 死 組 織 の除 去,膀 胱,前 立 腺 床 の 被 苔 の 除 去,陰 爽 内血 腫 の溶 解,膀 胱 血 液 タ ソボ ナ ーデ の 溶 解, 更 には 急 性 の副 聖 丸 炎や 膀 胱 炎 な どの よ うに 特 に 強 い 浮 腫 や 腫 張 を 伴 う症 状 や 炎 症 の治 療,ま た 男 子 不 妊 症 の 内,精 液 の粘 稠 度 と精 子 の運 動 性 に は 密 接 な 関 係 を 有 し,そ の高 粘 稠 の もの に対 し,そ の 粘 稠 度 を 減 じ精 子 の運 動 を活 発 と な ら しめ,受 精 へ の 可 能 性 を 助 長 す る こ と等,治 療 面 に 於 い て 広 い適 用 範 囲 が 認 め ら れ る, 今 回 工 一ザ イ株 式 会 社 の 厚 意 に よ りの 提 供 を受 け た ので,上 記 薬 理 作 用 を考 慮 しつ つ 泌 尿 器 科 疾 患 患 者53 例 に使 用 し た の で,そ の使 用 経 験 に つ い て 報 告 す る.
治
験
例
1術
後使用例
① 腎 手 術(表1) 7例 の 腎 手 術,即 ち 腎摘 除 術3例,腎 尿 管 摘 除 術第1表
腎
手
術
No.性 年 令 病名
手
術
名1酬
騰
経
過
効
果
1 2 ♂ Ω 丁 60 41右
水
腎
右
尿
管
石
左
腎
結
核
…
右 腎 摘!1×8左
腎
摘 』
。8
1
1次 癒 合 創 よ り分 泌 あ り1週 間 で 癒 合薯
効
有
効
3 ♂ 45左
腎
石
左 腎 切 石12×71×7 術 後10日 目出 血1週 間 で 分 泌 減効不明
套 ♀ 52右
右
膿
腎
尿 管 膣 痕
右 腎 尿 管 摘2× フ1×3 1次 癒 合:著 i 効 5 6 19両
腎
石
左 腎 切 石 後
左 腎 書商1王 〉<7 11
分泌減
有
効
6 ♂ 47両
腎
石
左 腎
切
石
1 1×10分泌滅
有
効
7 ♀ 25左
腎
石
左 腎 孟 切 石
1×10 痩 孔 は1週 間 で 閉有
効
註:全 例 に抗 生 剤 とサ ル フ ァ剤 併 用稲 田 ・他 一 キ モ プシ ンの 使 用 経 験 特 に泌 尿 器 科 手 術 患 者 並 び に 男子 不 妊 症 患 者 に つ いて 1例,腎 切 石 術2例 お よび 腎 孟 切 石 術1例 に 対 し て Kimopsinを 使 用 した. 症 例1は 外 傷 後 血 尿 を 主 訴 と して 来 院 し た60才 の男 子 で あ るが,第1図 の 如 く右 尿管 結 石 に よる 巨大 水 腎 症(内 容 約2の に 腎 部 外 傷 が 加わ つ た症 例 で,術 中 そ の 内容 液 の た め創 部 がか な り汚 染 され た と考 え,術 後 直 ち に 本 剤 を使 用 した所,順 調 な経 過 を た ど り,一 次 癒合 をみ た.症 例4は 婦 人 科手 術 後 の右 膿 腎 症 及 び 右 尿管 膣 痕 を 来 した52才 の女 子 で 右 尿 管 膣 痩,再 三 の 発 熱 の為 全 身衰 弱著 明 で 第2図(A)の 如 く,膣 部 尿 痩 49 よ り造影 剤 注 入 に よ り膀 胱 直 腸 間 に か な りの 尿滲 潤 を 認 め た.排 泄 性 腎 孟 像 で 膿 腎 様 所 見 を み とめ た(1司 図 B).右 腎摘 除 術 を行 い,本 剤 の 使 用 した 所,術 後 の痩 孔形 成 もな く,膣 尿 痩 の 閉 鎖 も早 期 で あ つ た.そ の 他 の 症 例2,3,5,6,7は 術 後 尿 痩 乃 至 感 染 痩 孔 を 形成 した もの に本 剤 を 使 用 した と ころ 分 泌物 減 少 し,痩 孔 閉 鎖 が 促 進 され た. (2)尿 管 手 術(表2) 尿 管 結石 症9例,尿 管 狭 窄 に よ る水 腎 症1例 お よび 婦 人 科 手 術 後 尿管 膣 痩 の1例,計11例 に 試 用 した.
第2表
尿 管
手
術
No, 8 9 10 11 12 13 14 5 16 17 18性
年令
♂11 640 ♀33 634 636 ♂58 ♀21 ♂22 δ35 665 650病
名
右
水
腎
右
尿
管 石
左 尿 管 膣 痩
左
尿
管 石
右
尿
管
石
右
尿
管 石
右
尿
管
石
左
尿
管 石
左
尿
管 石
左
尿
管 石
左
尿
管 石
手
術
名
尿 管
形
成
右 尿 管 切 石
ボ ワ リー 氏手 術左 尿 管 切 石
右 尿 管 切 石
右 尿 管 切 石
右 尿 管 切 石
左 尿 管 切 石
尿 管 口 切 開
結
石 自然 排 出
自 然 排
出
自 然
排
出
注射 回数
1×21 1×14 1×30 1×21 1×7 1×7 1×7 1×7 1×10 1×14 1×4経
過
術後尿繧
2週 間で閉
1次 癒 合 1次 癒 合 1次 癒 合 1次 癒 合尿管 口の浮腫軽度
半年後 に自然排出
効
果
有
効
効不明
効不明
無
効
有
効
有
効
有
効
有
効
著
効
無
効
有
効
註=全 例 に抗 生 剤,サ ル フ ァ剤 併 用 症 例8は 尿 管 形 成 術 後2週 間 でTチ ュー ブを抜 去 し た が,尿 痕 の 閉 鎖 も早 くそ の 後 の経 過 も順 調で あ る. 症 例12,13,14,15は 尿管 切 石 術 後 直 ち に 本剤 を使 用 し,一 次 癒 含 を 示 した もので,術 部 尿 管 の 浮 腫 を 抑 制 し尿 流 を円 滑 な ら しめ た もの と考 え られ る.症 例16は 尿 管 上 部 の 結 石 が 尿 管 下部 まで 下 降 して 来 た が,尿 管 膀 胱 部 で 止 り移 動 しな い為,2回 尿 管 口切 開 を 行 つ た が 本 剤 使用 に よ り,膀 胱 尿 管 口部 の 浮 腫 が 割 合 軽 度 で第3表
膀
胱
手
術
。。 陸
19 20 21 22 δ δ δ ♂年 令
70 74 42 70病
名
膀
胱
癌
膀
胱
癌
膀
胱
癌
膀
胱
癌
手
術
名
電 気 焼 灼2回
電 気 焼 灼5回
電 気 焼 灼3回
腫
瘍
切
除
電
気
焼
灼
注射 回数
1×10 1×20 1×14 1×IO経
過
効
果
有
効
有
効
有
効
有
効
註;全 例 に 抗 生 剤,サ ル フ ァ剤併 用50 稲 田 ・他一 キ モ プ シ ソの 使 用経 験 特 に 泌 尿 羅 科 手 術 患 者 並 び に 男 子 不 妊 症 患 者 に つ い て 且 つ 被 苔 の 附着 が 少 い為,経 尿 道 的 尿 管 口切 開 の 操 作 が 容 易 とな つ た.又 尿 管 結 石 が あ る とそ の 部 の尿 管 壁 に 炎 症,浮 腫 を 来 す の で,本 剤 使 用 に よ り尿 管結 石排 出 を促 進 し得 る ので は な い か と考 え たが 症 例18で は 使 用4日 で排 出を み たが,症 例17で は2週 間使 用 したが 何 ら変 化 な く約6ケ 月後 に 自然 排 出 して い る ので,こ の 点 に 関 しては 更 に多 くの症 例 につ い て使 用 し比 較 検 討 す る必 要 が あ る と思 う. (3)膀 胱 手術(表3) 症 例19,20,21共 に 膀 胱 癌 で 経尿 道 的電 気 焼 灼 を, 症 例22は 膀 胱 腫 瘍 摘 除 及 び 電 気焼 灼 を行 つ た もの で あ る.い つ れ もKimopsin筋 注 を行 つ た所,焼 灼 部 の 浮 腫 及 び 被 苔 の 発 生 は 比 較 的 軽 度 で あ つ た.先 の症 例 16を 加 え 膀胱 内 侵襲 を 茄 え る場 合,そ の操 作 を 容 易 な ら しめ る様 に 考 え られ る. (4)前 立 腺 手 術(表4) 前 立 腺 肥 大 症 に対 す る被 膜 下前 立 腺 摘 除 術 の5例 に 対 し てKimopsinを 投 与 した. 症 例24,26,27は 極 め て順 調 な 経 過 を た どつ た.し か し症 例25は 術 後 の 尿 痩 が 非 常 に 長 び い た 例 で,本 症 例 に於 い てはKimopsinの 効 果 は 認 め なか つ た.以 上5例 共 に術 後 の 出血 は 少 く,為 に膀 胱 血 液 タ ン ボ ナ
第4表
前 立 腺 手 術
No. 23 24 25 26 27 「 性 …年 令 1病
名 ♂ δ 6 δ ・δ 64前 立 腺 肥 大 66前 立 腺 肥 大7■
前 立 腺 肥 大
64前 立 腺 肥 大 74肩 膏 立 腺 月巴 ブく手
術
名
前 立 腺 摘 除
前 立 腺 摘 除
前 立 腺 摘 除
前 立 腺 摘 除
前 立 腺 摘 除
注射 回数
1×14 1×10 1×28 1×7 1×7経
過
尿 痩1週 間 で 閉 鎖 1次 癒 合 1次 癒 合効
果
効不明
有
効
無
効
有
効
有
効
註=全 例 に抗 生 物 質 とサ ル ファ 剤 併 用 一 デに 対 す る効 果 は不 明で あ る.そ の 他 の前 立 腺 腺 腫 易咄 後 の不 快 な後 遺 症 と して 屡 々み られ る(前 立腺 床 の 凝 塊,膿 苔,カ ッ トグ 叩 トが 附着 し,之 が 細 菌 の 良 き 培 地 となつ てひ き起 され る)頑 固 な 後 部 尿道 炎,膀 胱 炎 は 認 め られ なか つ た とは い うもの の,こ の点 に関 し て は症 例 数 が 少 くそ の 効果 を 論 ず る こ とは 出来 な い. (5)尿 道 手 術(表5) 尿道 下 裂 の7例 に 対 して 使 用 した 。 そ の 内症 例28, 29,30,32の4例 は 小 児 で あ つ た. 症 例28,29は 注 射 時 及 び そ の 後 の 癒 痛 乃 至 灼 熱 感 を 強 く訴 え た為,注 射 中!i二を せ ざ るを 得 な か つ た.そ の 後 は小 児 に対 して は0.5%キ シ ロ カ イン を 混 じ て筋 注 を 行つ た.症 例23は 尿 痩 閉 鎖 を み た が,そ の 他 の症 例 で は尿 痕 が 残 存 した.明 らか に浮 腫 軽 度 と認 め られ た第5表
尿
道
手
術
No. 28 29 30 31 32 33 34性
δ お ♂ δ δ ♂ δ年令
13 5 5 24 8 30 30病
名
尿
道
下
裂
尿
道
下
裂
尿
道
下
裂
尿 道
下
裂
尿 道 ド 裂尿 道
下 裂
尿
道
下 裂
手
術
名
注射回数
尿 道 形 成1/2×3尿 道 形 成 後
尿 痩 閉 鎖 術
尿 痕 閉 鎖 術
尿 道 形 成 後
尿 棲 閉 鎖 術
尿 道 形 成 後
尿 痩 閉 鎖 術
尿
道
形
成
尿 痩 閉 鎖 術
茎/3×3 1/3×7 1×14 1/3×7 1× フ 1×7経
過
疹 痛 の ため 中止効
果
疹痛 のため 中止
尿痩残存
浮腫軽度に て
尿腰閉鎖
尿壊形成
浮腫軽度効
効不 明
効不 明
効不 明
効不 明
1著 効 … 効 不 明 1有 効 1 1註:1)≦ ≧f列に1充`【 ∼剤 と サ ノレ フ ァ 斉1jDF川 2)No.29・No.30,No.33=No.34稲 田 ・他一 キ モ プ シ ソ の使 用経 験 特 に 泌 尿 器 科 手 術 患 者 並 び に 男 子不 妊 症 患 老 に つ いて の は7例 中2例 で あ つ た.し か し この 浮腫 は 局 所 の skinfiapの 状 態 及 び そ れ に か か る圧 力 乃 至 術 後 の圧 迫 の程 度 に よ りか な り異 な る も ので 今 後 更 に使 用 し比 較 検 討 を 加 えた い. ㈲ 陰 嚢 手 術(表6) 症 例35は 会 陰 部 外 傷 に よ る会 陰 部 裂 傷 及 び 薯 明な る 陰 嚢 血 腫 及 び 尿 閉 で 来 院 した30才 の男 子 で,外 傷 性 尿 道 断 裂 に よ る尿 閉 及 び 下腹 部,陰 嚢 部,会 陰 部 血 腫 と診 51 断 し持 続 導 尿 を 行 つ て い た所,上 記 血 腫 は 本 剤 の 使 用 に よ り比 較 的 早 期 に 消 失 した,し か し第3図(A)の 如 く会 陰 部 に 尿 繧 形成 を一 時 来 た した が,本 剤 と抗 生 物 質 の継 続 投 与 に よ り第3図(B)の 如 く,何 ら手 術 的操 作 を行 わ ず して 治 癒 した.そ の他 の症 例 は陰 嚢 内手 術 で あ るが 血 腫 形 成,術 後 の硬 結 等 を 来 さず 治癒 した. しか しい つ れ に せ よ陰 嚢 内手 術 で は,術 部 の止 血 に注 意 す る こ とが 先 づ 肝 要 で あ る こ とは 勿 論 で あ る.
第6表
陰
嚢
手
術
No. 35 36 37 38 39 40性
δ 6 δ 6 δ 6年 令
30 54 56 35 18 13病
名
手
術
名
尿 道
外 傷
陰 嚢 内 血 腫
尿 道
狭
窄
会 陰 部 尿 痩
左 副 睾 丸 炎
(結核性)
左 副 睾 丸 炎
(結核性)
右 停 留 睾 丸
右 停 留 睾 丸
陰
嚢
切
開
馨 陰ll・ 切開
左 副 睾 丸 摘除
左 副 睾 丸 摘除
右 睾 丸 固 定術
右 睾 丸 固 定術
注 射回数
経
過
1×21 1×14 1×7 1×7 1×7 1×7効
果
著
効
有
効
有
効
有
効
有
効
有
効
註:全 例 に 抗 生 剤 とサ ル ファ剤 併 用 (7)包 皮 手術(表7) 症 例4/,42は い つ れ も手 術 的 操 作 を 加 え ずKimop-sin筋 注 に よ り観 察 した が,局 所 の 硬 結 消 槌 に か な り の効 果 を 認 め た.そ の他 の症 例 は いつ れ も包 茎 に対 し 冠 状 切 除 を 行 つ た もの で,局 所 の 浮腫 の程 度 は 症 例 に よ り種 々 で あ つ たが,こ れ は 止 血及 び 圧 迫 包 帯 の程 度 に 大 い に 関 係 の あ る所 で あ るが,非 使 用 例 に 比 して か な りの効 果 を 認 め た 、第7表
包
皮
手 術
No.性 41 42 43 44 45 46 47 ♂ 6 6 ε 6 6 6年令
64 9 22 22 19 26 33病
名
手
術
名
包
皮
炎
亀 頭 包 皮 炎
包
包
包
包
包
茎
茎
茎
茎
茎
冠
状
切
冠
状
切
冠
状
切
冠
状
切
冠
状
切
除
除
除
除
除
注射回数
1×7 1×3 1×1 1×1 1×1 1×1 1×1経
過
サ ル フ ァ剤併 用 サ ル フ ァ剤併 用効
果
有
効
有
効
効不 明
効不 明
有
効
有
効
有
効
皿,不 妊 外 来 患 者 に麓 け る使 用 例
実 験 目 的 精 液 の 液 化 が 不 完 全 で 粘 稠 度 の 高 い 〔乏 〕死 精 子 症 〔01igo-〕necro(astheno)-zoospermiaに 対 し て Kimopsinを 添 加 す る こ と に よ り,そ の 液 化 を 助 長 し,ひ い ては 精 子 運 動 性 を 充 進 せ しめ る事 が 可 能 で あ るか と考 え た. 実験 方 法 不 妊 を主 訴 と し て外 来 を 訪 れ た 男子6例 に つ いて, 精 液 を 用手 法 で採 取 させ,射 精30∼60分 後 にKimop一52 稲 田 ・他 一 キ モ プシ ソ の使 用 経 験 特 に 泌 尿 器 科 手 術 患 者 並 び に 男子 不 妊 症 患 者 に つ い て sinO.5mgを ユccの 精 液 と混 じ,そ の後30∼60分 で Hess氏 粘稠 度 計 に よ る粘 稠 度 と精 子 運 動 率 を 測 定 し,こ れ と対 照 の 岡量 生理 的 食 塩 水 添 加 精 液 と比較 し た. 実 験結 果 表8に み るご と く,6例 中4例 に お い てKimOPSin の添 加 に よつ て精 液 粘 稠 度 の低 下 を み と め,そ の 内 の 3例 で は 精 子 運 動 率 が 著 明 に改 善 され た.
第8表
伍 ム N・・ 閉 1 2 3 3 4 5 6 36 32 33 31 28 37 不 妊 期 間 (年) ア 5 8 5 2 3精
液
所
見
険
K添 加前
稠
量(cc) 数(/cc)度i運
動
率(%)
4,5 3,5 3.0 2.5 3.0 3.0 4.O 90×106 27×106 106×106 69×106 82×106 5×106 132×106 4.7 3.6 8.6 5,3 5.1 12.2K添 加後K添
加前K添
加後
4.2 1.4 4.55 3.7 2.9 12.8 80 35 40 5Q 10 0 0 85 40 70 80 40 0 0 症例1の 正 常 精 液 症 と考 え られ た 例 で はKimopsin の 添 加前 後 にお い て,粘 稠 度,運 動性 と もに差 を認 め な か つ た.ま た症 例6に 於 て は,異 常 の高 粘 稠 度 を 有 す る に もか か わ らずKimopsin添 加 に よつ て も粘 稠 度 は不 変 で あつ た.こ の 例 は精 子数 が132×106/ccも 存 在 し てお り,Doepfmerの 云 うPolyspermiaの 範 疇 に は い る精 子 数 過 剰 の た め の 粘 稠度 上昇 と 考 え ら れ,蛋 白分 解 酵 素 の 影 響 を うけ に くい もの と 思 わ れ る.尚 症 例3に お い て はKimopsinバ ツカル を20日 間使 用 す る こ とに よつ て,40∼50%の 運 動 率 が70%に 改 善 され た のは 興 味 あ る事実 で あつ て,か か る使 用 法 の検 討 も今 後 の 課 題 と して残 され てい る も の と 考 え る.綜
括
最 近 の 酵 素 学 の 進 歩 は 正 常 或 い は 疾 患 時 の 組 織,臓 器 に 於 い て,い ろ い ろ な 酵 素 系 が 非 常 に 重 要 な 役 割 を 演 じ て い る こ と が 少 し つ つ 解 明 さ れ て 来 て,そ れ ら の 知 見 に 基 づ い て 臨 床 面 で の 利 用 が 盛 ん に 行 わ れ て く る 様 に な つ た. 即 ち,酵 素 の 発 見 及 び 臨 床 面 へ の 応 用 の 歴 史 は か な り古 い も の で あ り,Pepsinが1836年 に Schwannに よ り 発 見,1857年,58年 にNelson, Meyerに よ っ て 消 化 不 良 の 局 所 療 法 に 用 い ら れ た の を 初 め と し,Papainは1870年Wurzら に よ り発 見,ジ フ テ リ ー 偽 膜 の 除 去 や 結 核 性 潰 瘍 等 に 使 用 し,Tripsinは1870年Kuhnに よ り 発 見,1890年 代 の 後 期 よ り1900年 代 の 初 頭 に か け,潰 瘍,創 傷,ジ フ テ リ ー 偽 膜,膿 瘍 の 壊 を 組 織 の 除 去 等 に 使 用 さ れ て い る.そ の 他, HyaluronidaseはDuran-Reynals(1928), CollagenaseはHobson(1931),Streptokinase はTillet&Gamer(1933),Streptodornase はMcCarty,Tilletetal(1948)に よ り そ れ ぞ れ 発 見 さ れ,最 近 話 題 の 多 いCytochromeも MacMunnに よ り1884年 に 発 見 さ れ た も の で あ る.し か し こ れ ま で 酵 素 療 法 の 主 流 を 占 め て 来 た の は,所 謂,補 充 療 法(Substitutionthe-rapy)と い わ れ る も の が 主 で あ つ た .所 が 最 近 は 酵 素 療 法 の 新 しい 傾 向 と し て,こ の 補 充 療 法 と は 全 く別 の 観 点 に 立 つ た 考 え 方 が 生 ま れ て 来 た.そ れ は 酵 素 剤 の 具 備 す る 種 々 の 薬 理 作 用 そ の も の を 利 用 し よ う とす る考 え 方 で あ り,正 常 に は 生 体 内 に は 存 在 し な い か,ま た は 僅 か し か 存 在 し な い も の を,或 い は 正 常 の 状 態 で 存 在 す る も の で も本 来 の 作 用 機 転 と 作 用 部 位 と は 全 く異 な る 目的 に 使 用 し よ う と す る も の で あ る. 即 ち ・1948年Tillet,Sherryに よ り膿 汁 中 の 凝 塊 や 沈 降 物 の 主 成 分 はfibrinとDesoxy-riboseNucleoproteinな る こ と が 明 ら か に さ れ た が ・ 翌 年A型 溶 連 菌 の 培 養 済 液 中 にfibr .in を 溶 解 す る 作 用 の あ る こ と と結 び つ け,こ の St「ept・ki…eを 結 核 性 胸 膜 炎 を は じ め 肺 膿稲 田 ・他 一 キ モ プ シ ソの 使 用 経 験 特 に 泌 尿 器 科手 術 患者 並 びに 男 子 不 妊 症 患 者 につ い て 瘍,胸 腔 内 貯 溜 液 の あ る 患 老 に 使 用 し て 効 果 的 で あ つ た と報 告 し て い る.こ れ が 菌 体 外 毒 素 の 線 維 素 溶 解 作 用 を 応 用 し,病 的 組 織 の 清 浄 化 を 計 つ た も の と し て 注 目 さ れ た.次 い で1950年 Roettingerら は 膵 臓 よ り抽 出 し た 純 粋 なTrip-sinに も 強 力 な 蛋 白 溶 解 作 用 が あ り,壊 死 組 織 溶 解 作 用 並 び に 線 維 素 溶 解 作 用 を 示 す こ と を 認 め,臨 床 酌 に も そ の 効 果 を 認 め て い る.ひ き っ づ き1956年 に はBarceloがTripsinと 同 様 蛋 白 分 解 酵 素 で あ る α一Chymotripsin(Kimop-sin)を 用 い て 治 療 効 果 を 発 表 し て 以 来,酵 素 の 臨 床 的 研 究 が に わ か に ク ロ ー ズ ア ッ プ さ れ, 最 近 の 酵 素 化 学 の 進 歩 発 達 と相 ま つ て,基 礎 的 研 究 は 勿 論 の こ と 治 療 面 で も積 極 的 な 酵 素 療 法 と し て の 臨 床 的 応 用 が 盛 ん に な つ て 来 た. こ の 新 し い 酵 素 療 法 の 中 で,特 に 我 々 泌 尿 器 科 領 域 に 於 い て 多 く用 い られ て い る の は 蛋 白 分 解 酵 素 で あ る が,そ の 主 な も の と し て はTrip-sin,α 一Chymotripsin(Kimopsin),Plasmin, Streptokinase,Desoxyribomuclease,Colla-genase,Thrombin,Hyalluronidase,Papain 等 が あ げ ら れ る. 蛋 白 分 解 酵 素 と は 元 来 ア ミ ノ 酸 相 互 間 に 形 成 さ れ るpeptide結 合(CO-NH-)を 加 水 分 解 す る 酵 素 で あ る が,Tripsinが た と へ ばarginyl や1ysy1の よ う な 塩 基 を も つ た 結 合 部 位 だ け に 働 い て 単 独 のCarboxy1基 に は 作 用 し な い の に 対 し,α 一Chymotripsin(Kimopsin)は た だtyrosineま た はphenylalaninesの 残 基 が あ れ ば 十 分 で 特 別 の 塩 基 ま た は 酸 基 を 必 要 と し な い.こ れ はEsterの 分 解 に つ い て も 同 様 で あ る.し た が つ てTripsinに 比 し て α一ChymoP-sinは よ り多 くの 蛋 白 を よ り完 全 に 水 解 す る こ と に な る.亦 α一Chymotripsinは そ れ 自 身 直 接 蛋 白 分 解 作 用 を 示 す ば か り で な く,生 物 体 内 で 他 の 蛋 白 分 解 酵 素 系 の 活 性 を 促 進 す る 作 用 が あ る と い わ れ,Sherryら に よ る とPlasmin活 性 の 促 進 作 用 が 確 め ら れ て い る, 次 に 注 目 さ れ る の は α一Chymotripsinの Steroid剤 に 匹 敵 す る と い わ れ る 消 炎 作 用 で あ り,Innerfieldに よ る と こ の 抗 炎 作 用 は 酵 素 が 炎 症 面 近 く ま で 滲 透 し,特 に 炎 症 部 位 の 蛋 白 質 53
分 子 を加 水分 解 す る蛋 白 質 消 化 力 に基 づ く もの
で,更 に この 加 水 分 解 過 程 に おい て喰 細 胞 作 用
を増 強 す る と言 っ て お り,赤 崎 も マ ウ ス に於 け
る組 織 学 的 観 察 でKimopsin前
処 置 群 に於 け
る創 傷 治 癒過 程 が 網 内 系 機 能 賦 活 剤 を投 与 した
場 合 の炎 症 巣 修 飾 像 と規 を一 に して い る と報 じ
て い る.し か しGuzzon&Schevolaは
本 剤 の
抗 炎 症 作 用 と蛋 白溶 解 力 との問 に 関係 を認 め て
お らず,更
にAdamkiewizは
本 作 用 を下 垂 体
∼ 副 腎 系 の 仲 介 物 質 に よ つ て説 明 す る こ と も出
来 な い と し,従 つ てそ の 作 用 機 序 は な お不 明 で
あ る.し か し以 上 の 抗 炎 作 用,抗 血 腫 作 用 及 び
変 性 蛋 白 及 びpolypeptideの
分 解 除 去 作 用 が
す ぐれ てお り,副 作 用 の少 い点,又 治 療 安 全 係
数 の 高 い 点 な ど よ り,泌 尿 器 科 領 域 の使 用 は極
め て広 い もの と考 え られ る.
以 上 のKimopsin泌
尿 器 科 領 域 に 於 け る
術 後 の 適 用 性 に つ い て検 討 を 加 え た の で あ る
が,本 剤 を 泌 尿 器 科 手 術 患 者47例 に使 用 した.
この酵 素 療 法 の対 称 とな つ た もの は無 差 別 に選
ば れ た もの で,そ
の うちわ け は腎 臓 部 手 術7
例,尿 管 部 手 術8例 及 び尿 管 結 石 自然 排 出例3
例,膀 胱 腫 瘍4例,前
立 腺 手 術5例,尿
道 手 術
7例,陰
嚢 内 手 術6例,包
皮 手 術7例
とな つ て
い る.全 例 と も筋 注 投 与 に よ るの で47例 中,著
効5例,有
効28例,効
不 明9例,無
効3例,投
与 中 止2例
とい う好 結 果 を 得 た.そ
し て有 効 例
で は そ の 使 用 日数 が 少 く10日 前 後 と な つ て お
り,使 用 効 果 が 早 期 に あ らわ れ る の は宍 戸 の 報
告 と同様 で あ る.た だKimopsinの
使 用 効 果
が格 段 に よい か どう か を数 値 的 に 判定 す る こ と
が か か る術 後 使 用 例 で は,実 際 上 困 難 で あ り,
上 記 有 効,効 不 明 の判 定 は我 々の 今 日迄 の 経 験
に よ り基 づ い て行 つ た.陰 嚢 内 手 術,包 茎 の包
皮 切 除 術 な どの場 合 た しか に 本 剤 を使 用 した方
が術 後 の 浮 腫 の程 度 は少 い とい う印 象 を う け,
亦 経 尿 道 的 操 作 を加 え た膀 胱 腫 瘍 の症 例 尿 管 口
切 開 を 加 へ た症 例 で も,膀 胱 内変 化 の経 過 が順
調 で あ る様 にみ られ た.落 合 は急 性 の 副睾 丸 炎
や膀 胱 炎 等 の浮 腫 或 い は 腫 張 の強 い もの に化 学
治 療 を主 体 と して,Kimopsinを
併 用 し,そ の
症 状 消 槌 の促 進 に確 か に 有 効 と判 明 出来 る症 例
54 稲 田 ・他一 キ モ プ シ ソの使 用経 験 特 に 泌 尿 器 科 手 術 患者 並 び に 男 子不 妊 症 患者 に つ い て も 少 く な い と報 じ て お り,叉 近 藤 は 慢 性 膀 胱 炎 に 使 用 し,有 効 な 抗 生 物 質 と の 併 用 投 与 時 の 効 果 を 細 菌 学 的 治 癒 率 か ら判 断 す る とKimopsin はMethylpredomisoloneよ りす ぐれ て い る と 報 告 し て い る.我 々 も 今 後 か か る 方 面 へ の 使 用 に 大 い に 関 心 の あ る と こ ろ で あ る, 尚 副 作 用 と し て 報 じ ら れ て い るAnaphyla-xie及 至Allergie性 反 応 は 連 日1∼2本 の 使 用 に 於 い て も 何 ら 認 め ら れ な か つ た が,注 射 時 及 び 注 射 後 の 疹 痛 を 訴 え る患 者 は か な り多 く, 小 児 に 於 て は,そ の 使 用 困 難 な 場 合 が あ り,我 々 は0,5%キ シ ロ カ イ ン 液 を 混 じ て 行 つ た. 以 上 我 々 はKimopsinを 泌 尿 器 科 手 術 に 使 用 し た 経 験 に つ い て の ぺ た の で あ る が 更 に 我 々 は 新 し い 試 み と し て 男 子 不 妊 症 へ の 適 用 を 考 え た. 即 ち,精 液 粘 稠 度 の み の 病 的 変 化 が 男 子 の 妊 孕 能 力 に 対 し て 如 何 な る 影 響 を 有 し て い る か と 言 う 事 は,現 在 に お い て も ま だ 定 説 を み な い. し か しHotchkissやHammerに よ る と粘 稠 度 の 高 い 精 液 中 で は 精 子 運 動 が 機 械 的 に 阻 害 さ れ る た め に,精 子 は よ り多 く の 運 動 エ ネ ル ギ ー を 必 要 と し,従 つ て 精 子 運 動 の 持 続 時 間 は 短 縮 さ れ る と云 う.一 方Khreninger-Guggenberger 等 の 実 験 に よ る と,生 理 的 食 塩 水 中 の 精 子 は 水 平 運 動 の み を 認 め,上 下 方 向 の 運 動 を 欠 如 す る こ と か ら,精 子 の 正 常 運 動 の た め に は 一 定 の 粘 稠 度 が 必 要 で あ る と云 つ て い る. 人 精 液 の 正 常 粘 稠 度 はZagamiに よ る と6.54 (水 を1.0と す る)で あ つ て,適 度 の 粘 稠 度 は 精 子 運 動 に 密 接 な 関 係 を 有 し て い る と論 じ て い る. こ の 精 液 粘 稠 度 はSzumowskiに よ る と精 子 濃 度 が 重 要 な 因 子 と な つ て い る と称 え ら れ て る が,精 液 の 所 謂 凝 固 液 化 現 象Coagulation andliquefactionも 等 閑 視 出 来 な い と考 え ら れ る,Hammerに よ る と 液 化 前 人 精 液 中 で は 精 子 は 全 く 静 止 し て い る が,液 化 が 開 始 され る に 従 つ て 除 々 に そ の 運 動 性 を た か め て 行 く と云 わ れ る.液 化 に 要 す る 時 間 はMoenchに よ る と 射 精 後10∼15分,Joe1は20∼30分 と 記 載 し て い る.一 方Oettleに よ る と こ の 液 化 速 度 は 精
子 濃 度 に よ つ て も左 右 され る と云 わ れ て お り・
実 際 我 々の 経 験 で も無 又 は 乏 精 子 精 液 で は液 化
時 間 が 延 長 し,か つ液 化 が 不 完 全 で あ る こ とが
多 い.
人 精 液 の液 化 現 象 は そ の 中 に 含 ま れ
るfibri-nogenase,fibrinolysinが
主 役 を 演 ず る と言 わ
れ て い る(Mann)が,主
に 精 嚢 よ り分 泌 さ れ
た 凝 固 物 質 を 蛋 白分 解酵 素 の働 に よつ て液 化 し
て い る事 に他 な らな い.
こ こ にお い て,液 化 が 不 完 全 で 粘 稠 度 の 高 い
〔
乏〕死 精 子 症
〔Oligo-〕necro(Astheno>zo-ospermiaに
対 してKimopsinを
添 加 す る事
に よ りそ の液 化 を助 長 し,ひ い て は 精 子 運 動性
を充 進 せ しめ る事 を 目的 と して実 験 を行 つ た.
そ の結 果 は 不 妊 を主 訴 と し て外 来 を 訪 れ た男
子6例
を 選 ん で行 い,4例
に 於 い て精 液 粘 稠 度
の 低 下 をみ とめ,そ
の 内 の3例
に於 い て精 子 運
動 率 が改 善 され る とい う好 成 績 を 得 た.
即 ち,高 粘 稠 度 の た め に精 子 運 動 が 阻 害 され
て い る と考 え られ る男 子 不 妊 の精 液 に 対 し,
Kimopsinを
加 え る事 に よつ て粘 稠 度 を低 下 さ
せ る の み な らず 精 子 運 動 率 を も改 善 せ しめ 得 る
可 能 性 が あ る と考 え られ た.そ
し て実 際 的 に は
交 接 時 にKimopsinを
含 有 す る 膣 坐 薬 と して
使 用 す る か,配 偶 者 間 人 工 受 精 に際 し て使 用 す
るの が 有 意 義 か と考 へ られ た.
尚 この 使 用 症 例 の 所 で述 べ た 如 く,Kimopsin
バ ツ カル を20日 間 使 用 に よ り運 動 率 が40∼50%
よ り70%に 改 善 され た事 実 は非 常 に 興 味 あ る所
で あ り,か か る使 用 法 も今 後 の 研 究 課 題 と し残
され て い る.
尚 我 々 の 教 室 で は 全 身 麻 酔 に よ り手 術 を 行 つ た 患 者 にKimopsinバ ツ カ ル を1日4錠 ,3 日使 用 し て い る が,こ れ が 喀 疾 排 除 を 容 易 な ら し め て い る こ と を 附 記 し て お く .結
語
本 教 室 に於 い て,Kimopsinを
手 術 患 渚47例
に,亦 新 し い試 み と して 男 子 不 妊 患 者6例
に 使
用 して か な りの 好 成 績 を 得 た の で 報 告 した .
参
考
文
献
1)Lunitz・M・,andNorthroP,J.H.:J .Gen.稲 田 ・他 一 キ モ プシ ソ の使 用 経 験 特 に 泌 尿 器 科手 術 患 者 並 び に 男 子不 妊 症 患 者 につ いて Physio1.,18:433,1935. 2)Kunitz・Mr:J・Gen・Physio1り22:217・1938. 3)Kunitz,M.:J.Gen.Physio1.,30:291,1947. 4)Mann,T.:TheBiochemistyofSemen, Methaen&Co.,London,1954. 5)Purdie,D.,:PharmacologyandTherapeutics, 192:405,1959. 6)Davis,0.F.etal:PostgraduateMedicine, 719,1959, 7)Doepfmer,R.:Fertilitatsst6rungenbeim Manne,Springer-Verlag.Berlin,1960 . 8)Valdecasas,F.G.etPuigMuset,P.M6dicine 55 etHygi6ne,18:575,1960. 9)Strauss.E,W.:ThePractitioner,184:519, 1960. 10)近 藤:臨 床 皮 泌,16=379,1962. U)近 藤 ・梶 田 ・三 木:日 泌 尿 会 誌,53:220,1962, 12)近 藤 ・三 木=日 泌 尿 会 誌,53=1962. 13)近 藤 ・ 内 藤.三 木;泌 尿 紀 要,8:506,1962. 14)後 藤 ・尾 関:泌 尿 紀 要,8:434,1962. 15)百 瀬.王 丸:臨 床 と 研 究,39:137,1962。 16)赤 崎 ・綿 貫 等:東 北 医 学 雑 誌,65:480,1962. 17)宍 戸:東 北 医 学 雑 誌,65:528,1962.
E6 稲 田 ・他 一 キ モ プ シ ソの 使 用 経 験 特 に 泌 尿 器 科手 術 患 者 並 び に 男 子不 妊症 患 老 に つ い て 第1図 症 例1.右 尿 管 結 石 に よる 巨大 水 腎 症(内 容 約2￡)
