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Title 日本における次世代の看護管理者教育とは何か? : アメリカのプ ログラムの学びを通して Author(s) 勝山, 貴美子 Editor(s) Citation 大阪府立大学看護学部紀要 Issue Date URL

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Title

日本における次世代の看護管理者教育とは何か? : アメリカのプ

ログラムの学びを通して

Author(s)

勝山, 貴美子

Editor(s)

Citation

大阪府立大学看護学部紀要

Issue Date

2010-03-15

URL

http://hdl.handle.net/10466/7727

Rights

(2)

大阪府立大学看護学部紀要 16巻1号, 2010

資  料

日本における次世代の看護管理者教育とは何か?

―アメリカのプログラムの学びを通して―

What will be the next generation of educational

programs for nurse managers in Japan?

― Learning from the U.S. programs―

勝山 貴美子

Kimiko KATSUYAMA

キーワード: 次世代の看護管理者,教育プログラム,リーダーシップアカデミー,レジデンシ― プログラム

Keywords: The next generation of nurse managers, Educational Programs, Leadership Academy, Residency Program

要  旨

ヘルスケア環境が複雑化し,看護管理者はコスト効率,ケアの質,患者アウトカムを高めるた めの能力が必要とされるが,彼らがおかれている状況は厳しい。 アメリカ看護部長会や看護系大学,各病院を中心に,看護管理者の離職が大きな社会問題と なっており,次世代のリーダーを育成するための教育プログラムの開発が活発に行われている。 本稿は,University of Pittsburg Medical Center(UPMC),Aurora Health Careで行われている Leadership Academy やLancaster General HospitalのNurse Manager Residency Programと日本の 認定看護管理者教育課程(ファーストレベル)の比較を行う。アメリカの次世代の看護管理者教 育プログラムは,教育方法の4つの視点,①講義内容を想起させるテーマの明示,②リーダーと しての自分の認識の外在化,③プロジェクトマネジメントを通した看護管理実践の方法の獲得, ④学習中,学習後も継続したメンターの支援という点で,日本の看護管理者教育ファーストレベ ルと異なっていた。このことは,日本における次世代の看護管理者教育を考える上でのヒントと なると考える。

Ⅰ.はじめに

ヘルスケア環境が複雑化し,看護管理者はコス ト効率,ケアの質,患者アウトカムを高めるため の能力が必要とされるが,彼らがおかれている状 況は厳しい。アメリカでは,2005年9月から2006 年 4 月 にAONE(The American Organization of Nursing Executive:アメリカ看護部長会)の大掛 かりな看護管理者の離職の調査(Cheryl B. ら, 2006)が実施された。調査対象となった622人の 看護管理者のうち61%(n=380) が5年以内に仕 事を変えている。その理由は,「昇進の追及/キャ リア開発の機会」(28.9%),「人として,専門職 としての人生のバランスの欠如」(28.7%),「定 年退職」(27.9%),「他の管理職の地位を得るため」 (20.5%),「個人的, 家族の理由」(17.9%),「役 割における力の不足」(18.7%)であった。離職の 理由は,必ずしも否定的な理由ではないものの, なんらかの理由で管理職の多くが変わるというこ とは,組織としての凝集力を低くする可能性が否 めない。医療の質を保証し,患者中心の医療を実 現する次世代のリーダーはどのような能力や技能 を持つべきか,それをどのように育成すべきかに 関心がもたれている。 受付日:2009年10月7日 受理日:2009年12月5日 1) 大阪府立大学大学院看護学研究科 2) 大阪府立大学看護学部

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Ⅱ.本稿の目的

 本稿は,日本における看護管理者教育ファー ストレベルとアメリカのプログラムとの比較検討 をすることを通して,その課題を明確にすること である。

Ⅲ.研究の背景 

1.看護管理者に求められる能力 ヘルスケア環境が大きく変化する中で,看護管 理者に求められる能力とはどのようなものである か。また,その能力を獲得するための育成プロ グラムとはどのようなものであるか。先行研究 において,病院など各機関,看護管理者の団体 や研究者は,その能力や能力を高めるための育 成プログラムに必要な内容をさまざまな研究を もとに明らかにしてきた。CNE(The chief nurse executive:看護の執行部団体,看護部長会より も上位の団体)の研究は,2002年に質的研究を行 い,育成プログラムに必要な6つのテーマとし て「コミュニケーション」,「継続的に学習する能 力」,「ヘルスケアの質」,「パートナーシップ」,「相 互作用」,「未来へのオリエンテーション」を抽出 し た(George V.2002)。Scobleと Russell(2003) は,Nursing Health care 2001 conferenceで130の 鍵となる能力のカテゴリーを集め,その中で上位 6位として,「リーダーシップ行動とスキル」,「財 政の眼識と予算」,「ビジネス」,「管理技能」,「コ ミュニケーションスキル」「人的資源管理と労働 のビジョン」を示した。AONE (2005) は,10年 前に看護管理者の能力を明記したが,ヘルスケア 環境も大きく変化し,2004年に改変し,2005年に 「AONE Nurse Executive Competencies」 と し て 発表した。「Nurse Executive Competencies」は, Ⅰ.コミュニケーションと関係性の構築,Ⅱ.ヘ ルスケア環境の知識,Ⅲ.リーダーシップ,Ⅳ. 専 門 性, Ⅴ.ビ ジ ネ ス ス キ ル の4分 野 と し, こ の Competenciesを基盤にした教育プログラムを構 築 す る 必 要 性 を 提 案 し た。Competenciesの 内 容 は,表1に示す。 アメリカの看護管理者の能力は,ヘルスケア環 境の大きな変化にもとづいて研究に基づいて再定 義されており,次世代の看護管理者のための新た な教育プログラム構築の基盤とされている。さら に,その教育プログラムの系統的な評価が行わ れ,それをもとに新たな教育プログラムの構築が おこなわれている。現在の日本における看護管理 者教育は,1992年以降に整備されたものであるが, アメリカのように看護管理者の能力に関する研 究をDomainとしたものではない。アメリカと日 本では,病院の成り立ちが異なり(高橋,2000), 看護管理者の役割や能力は病院ごとに異なるた め,その能力を明記することは難しい。雨宮ら (1996)が,「婦長機能評価マニュアル」の中で, 看護管理者の能力や機能を明記しているが,研究 に基づいたものではなく,実際の看護管理実践を 整理し,看護管理者が自己評価を行うための記述 になっている。また,雨宮ら(1996)は,病院によっ て看護管理者の能力や役割が異なるため,病院に 応じて調整をするようにと,その使用方法を述べ ている。柳橋(2000)は,「看護部長による病棟 婦長に必要な能力の明確化」の研究で,看護部長 が考える病棟婦長(看護師長)に必要な能力につ いてデルファイ法を用いて明らかにしたが,この 能力は日本の看護管理者教育のDomainとしては 活用されていない。日本における認定看護管理者 教育ファーストレベルのカリキュラムは,ヘルス ケア環境の変化に伴い2002年に改正(南,2003) されている。看護管理の対象は,病院管理者だけ ではなく,訪問看護ステーションや介護福祉施設 の管理者を対象に拡大することにともなう教育目 標の変更とそれにともなう科目の変更のみにとど まっている。現在の日本においても,ヘルスケア 環境が急激に変化しており,現存の教育プログラ ムのあり方を検討することは意義があると考え る。 2.アメリカにおける次世代の看護管理者を育成 するプログラムの課題 アメリカの看護管理の育成プログラムは多様で あるが,主は大学院教育であり,そのカリキュラ ムは,先行研究で明らかになった看護管理者の 能力に基づいて構築されている(表2)。臨床で 活躍する看護管理者は,かならずしも高い学位 保持者ではない。たとえば,North Carolina州の 看護局の報告は,ADN(短大卒)が56.1%と約半 数 以 上 を 占 め,BSN(学 士) が33.0%,Masters Degree( 修 士 ) が10.3 %,Doctoral Degree( 博 士)が1%以下である。アメリカの病院の給与体 系は,キャリアに基づいて決定されているため, ADNの資格しか持ちえない看護管理者は,学位 取得など継続教育をせざるを得ない状況におかれ ている。大学院教育は,多くの時間や費用を有す るため,大学院教育以外のオンライン教育を受 講する看護管理者もいる。AONE,大学や企業な

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表1 看護管理者のCompetencies と関係性の構築の能力 コミュニケーション *効果的なコミュニケーション *関係のマネジメント *行動の影響 *多様性のある仕事の能力 *共有された決断 *コミュニティー関係 *医療スタッフとの関係構築 *アカデミックな関係 Effective communication Relationship management Influence of behaviors Ability to work with diversity Shared decision-making Community involvement Medical staff relationships Academic relationships ヘルスケアの環境の知識 *臨床実践の知識*患者ケアの提供モデルと仕事デザインの知識 *ヘルスケア経済の知識 *ヘルスケア政策の知識 *ガバナンスの理解 *エビデンスに基づいた実践の理解 *アウトカムの測定 *患者の安全を促進することとその知識 *利用率/ケースマネジメント *質の改善の知識 *リスクマネジメントの知識

Clinical practice knowledge

Patient care delivery models and work design knowledge Healthcare economics knowledge

Healthcare policy knowledge Understanding of governance

Understanding of evidence-based practice Outcome measurement

Knowledge of and dedication to patient safety Understanding of utilization/case management Knowledge of quality improvement and metrics Knowledge of risk management

スキルシップ リーダー *考えるスキルを構築 *個人の専門性 *システムシンキングを活用する能力 *計画を成功させる力 *変化のマネジメント

Foundational thinking skills Personal journey disciplines The ability to use systems thinking Succession planning Change management 専門性 *個人と専門的能力 *キャリアプランニング *倫理 *エビデンス基づいた臨床と管理の実践 *臨床の企業経営と看護の実践を擁護する *専門職組織の中での活発なメンバーシップ

Personal and professional accountability Career planning

Ethics

Evidence-based clinical and management practice

Advocacy for the clinical enterprise and for nursing practice Active membership in professional organizations

スキル ビジネス *ヘルスケア費用の理解 *人的資源管理と開発 *戦略的なマネジメント *マーケティング *情報管理と技術

Understanding of healthcare financing

Human resource management and development Strategic management

Marketing

Information management and technology

表2 AACNとAONE/CGEAMカリキュラムの比較(Elaine S.2007, p519)

AACN Exam Domains of practice

(American Association of colleges of nursing 全米高等看護教育協会)

AONE/CGEAM Model of Domains

(The American Organization of Nursing Executive アメリカ看護部長会 /CGEAM) (Council on Graduate Education for Nursing Administration 看護管理に関する 大学院教育機構)

AONE/CGEAM Domain Threads

Organization and Structure Leadership Quality Improvement Environment Evidence-Based Practice

Strategic Management Economics Business Accountability

Human Resources Communication Infleuencing Behaviors Professinalism Clinical Leadership

Mentoring Teamwork

Effective Communication Ethics Leadership Ethics

Legal and Regulatory Communication Accountability Leadership Clinical Leadership

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ど,その他の機関などが提供するオンラインの教 育や、病院で構築された独自の看護管理者育成プ ログラムを自主的に受講し,看護管理に必要な知 識や能力を獲得している。

Ⅳ.次世代の看護管理者を育成するプログ

ラムの内容

次 世 代 の 看 護 の リ ー ダ ー を 育 成 す る プ ロ グ ラ ム と し てLeadership Academyが あ る。 そ れ は,大学が独自に構築したもの(Kansas Nurse; Providence Health System-Nursing Leadership Academy) や, 企 業 が 構 築 し た も の(Medical Services,MU Leadership Development Academy for RNs in LTC, Nursing Outreachなど),AONE が構築したものなどがある。その他,老年看護 (Geriatric Nurse Leadershipな ど ), や 緩 和 ケ ア (Johns Hopkins Nursing Leadership Academy)

など分野特定したリーダーの育成プログラムもあ る。これらのプログラムは,オンライン上で受講 登録を行い,web上で提供されたビデオや知識を 学習し,最終的にテストを実施し単位が認定さ れ,一部のものは学士の資格を取得することがで きる。各病院において行われているオンライン以 外の次世代のリーダー育成のための教育は,独自 に構築され公開されていないものも多く,webや 先行文献ではその詳細を知るには十分ではない。 そこで,次の章では,アメリカの病院で実施され ていたプログラムに参加し,得ることのできた看 護管理者教育の内容について詳細に述べ,日本の 看護管理者教育課程, 特にFirst line managerに 焦点をあてた次世代のリーダー育成のプログラム ファーストレベルとの比較検討を行う(表3)。 1.Leadership Academy(UPMC: University

PittsburgMedicalCenter)

UPMC Health Care Systemは ペ ン シ ル バ ニ ア 州 の 西 部 に 位 置 す る 大 学 附 属 の 医 療 法 人 で あ り,4000ベ ッ ド,35000人 の 雇 用 者 を 有 し,30億 円/年の収益がある。雇用する多くの職種の専 門性の幅を広めることは,患者ケアのプロセス と ア ウ ト カ ム に 影 響 を 与 え る と し てUPMCは, Transformational Leadership Modelを基盤とした 次世代の育成プログラム,Leadership Academy を構築した (Wolf, 2004)。ヘルスケア組織の専門 実践に対するTransformational Leadership Model における管理者の持つ目標は,以下の4つである。 1 . 質が高く,費用対効果が高い経営を行う 表3 次世代のリーダーを育成する教育プログラム 実施機関 教育プログラム名称次世代看護管理者 目  的 基盤となる理論 受講資格 期間 方法・内容 Domain 特徴 備考 UPMC (Univer-sity of Pittsburg Medical Center) Leadership Academy 1 .質が高く,費用対効 果が高い経営を行う 2 .本質的なケアの標準 化,プロセス,実践そ してアウトカムを規格 する 3 .明日の変化に向き合 い,専門的な実践を行 うことのできるスタッ フを育成する 4 .そういったサービス を提供し維持する組織 文化を醸成する Transforma-tional Model for

Professional Practice in Healthcare Organizations ・ Nurseであり,Clinical Ladder Ⅲ以上 ・ 看護管理者の推薦なく とも,自分自身でオン ラインで申し込む ・ 2 ヶ月間  2週間に一 回の講義と 演習

・ Text book:Tim Porter- O’Grady; Managing Success Health Care, Mosby, 2006 ・ web上で事前課題をダウ ンロードし,学習して くる。また,テキスト ブックを熟読し,セル フラーニングを行って くる ・講義と演習 ・ 講 師 は,10項 目 程 度 の 小テストを作成し,提 示する。講師も十分に 準備をすることが求め られる ・ Transformational leadership ・Care delivery ・Professional grows ・Collaborative practice ・ DDI(Development Dimension International),The Beckwith InstituteとUPMCお よ びUni-versity of Pittsburge, School of Nursingの共同研究で開発され た ・ 知識の伝達だけではなく,いか に,受講生が実践で活用するた めに必要な看護管理の認識を得 るかがデザインされている ・ 「自分自身の中にあるリーダー を理解する」「人々の学びをデ ザインする」などとタイトルが つけられ,講義内容をイメージ し学びを引き出す工夫がされて いた。 ・ 1996年から実施。 ・ First line  manager, secand line manager, Vice presidentの3段 階の教育プログ ラムが行われて いる。現在,評 価をしながら, 継続的に行って いる Aurora Health Care(St. Luke’s Medical Center) Leadership Academy

Aurora Health Care の 理念である「私たちの患 者の望みや期待にそった 最 善 の ケ ア を 提 供 し ま す。私たちは,測定可能 なすべての医療の質にお いて,他のどこか他でえ られる成果よりもすぐれ た行動によってより高い 質の医療を提供すること に責任を持ちます。」を 実現することのできる次 世代のリーダーを育成す る。

経営学的な視点 ・ Aurora Health Careに所属する全職員のう ち,次世代のリーダー に相当する人。 ・ 10 ヶ月   約2週 間に一度の 講義とプロ ジェクトマ ネジメント の実施,評 価 ・ Text book:Susan H. Gebelein; Successful Manager’s Handbook, 7th Edition personal Decisions International 2004

・ Key Result Areas 2009 Managerial Standards に基づいて実施されて いる ・ Interpersonal Communication styles ・ Leadership Development: Introduction to Management ・ Running Effective Meeting

・ Creating a Safe and Secure

・ Journey to Excellence ・ Leadership

Development: Conflict Management

・ Project Panel Discus-sion ・ 多職種が参加する講義と演習, プロジェクトマネジメントで構 成されている。 ・ 全期間を通してメンターとスー パーバイザーが支援する。メ ンターとスーパーバイザーは 10 ヶ月間の講義のいくつかに 参加し,プロジェクトマネジメ ントを支援する。 ・ 参加者は,メンターとスーパー バイザーをどの人にするか希望 することができる。 ・ メンターとスーパーバイザーと は,いつ,どのような支援をし てほしいのか,第一回目の講義 の際に調整をし,紙面に記載し 契約する。 ・ マグネットホスピタルであるか らこそ持つ,すべてのスタッフ がすべてのスタッフを育成する ことが当たり前とする組織文化 ・ 1990年から実施。 ・ 当初は,Aurora Health Careの 機関病院のみ実 施。現在,全医 療法人の次世代 のリーダーに対 して実施される Lancaster General Hospital Nurse Manager Residency Program ①看護管理者の役割と機 能を定義することができ る,②リーダーとマネー ジャーの役割の違いを定 義することができる,③ 学際的なリーダーシップ スタイルの分析と統合, ④4人の看護管理者の責 任と責務を明らかにし, 報告することができる Bennerの理論 ・ Clinical ladderⅢ以上 学士以上の学歴があ り,看護管理者からの 推薦が得られる人 ・ 一年間のプ ログラム は,それぞ れのfiscal Yearの初 めに開始さ れる。その プログラム は,形式的 な講義,資 料,自分で 管理する ・ 看護管理者の講義と演 習。目標となる優秀な 看護管理者に対する参 加観察。 ・ 看護管理実践の実施と, メンターからの評価 Bennerの理論 ・ 看護部長が申請書に目を通し て,受講資格が確認されたあ と,およそ2週間の間に看護部 長,経営管理者,EBPディレク ター,Nurse Researcherからイ ンタビューをうける。 ・ 学際的な講義と自己学習,チー ムアプローチが含まれる。一人 の看護管理者について,その役 割と機能を分析するとともに, チームアプローチを実践するこ とが課せられる。また,他の看 護管理者のリーダーシップスタ イルとの違いを学際的に明確に することが求められる 日本看護 協会 認定看護管理者 教育課程 ファーストレベル ①看護専門職として必要 な管理に関する基本的知 識・技術・態度の習得を 目指す②看護を提供する ための組織化並びにその 運営の責任の一端をにな うために必要な知識・技 術・態度の習得を目指す ③組織的看護サービス提 供上の諸問題を客観的に 分析する能力の拡大を目 指す 看護管理実践の 中で重要と 考えられる 要素を抽出 ① 日本国の保健師,助 産師および看護師の いずれかの免許を有 すること②保健師, 助産師および看護師 のいずれかの免許を 取得後,実務経験が5 年以上あるもの③管 理的業務に関心があ り,管理的業務に従 事することが期待さ れているもの 150時間, 10単位 原則20日間 以上6 ヶ月 以内に 終了する ・ 日本看護協会出版会    看護管理学学習テキス トNo.1 〜 No.8 ・ 認定看護管理教育終了 後は,各病院で看護管 理実践を行う。一部の 看護協会では,フォロー アップ研修を設けてい る。 ・ 看護管理概説(1単位), 看護専門職論(2単位), ヘルスケア提供システ ム(1単位),看護サー ビス提供論(3単位), グループマネジメント (2単位),看護情報論 (1単位)の講義と演習。 レポート

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表3 次世代のリーダーを育成する教育プログラム 実施機関 教育プログラム名称次世代看護管理者 目  的 基盤となる理論 受講資格 期間 方法・内容 Domain 特徴 備考 UPMC (Univer-sity of Pittsburg Medical Center) Leadership Academy 1 .質が高く,費用対効 果が高い経営を行う 2 .本質的なケアの標準 化,プロセス,実践そ してアウトカムを規格 する 3 .明日の変化に向き合 い,専門的な実践を行 うことのできるスタッ フを育成する 4 .そういったサービス を提供し維持する組織 文化を醸成する Transforma-tional Model for

Professional Practice in Healthcare Organizations ・ Nurseであり,Clinical Ladder Ⅲ以上 ・ 看護管理者の推薦なく とも,自分自身でオン ラインで申し込む ・ 2 ヶ月間  2週間に一 回の講義と 演習

・ Text book:Tim Porter- O’Grady; Managing Success Health Care, Mosby, 2006 ・ web上で事前課題をダウ ンロードし,学習して くる。また,テキスト ブックを熟読し,セル フラーニングを行って くる ・講義と演習 ・ 講 師 は,10項 目 程 度 の 小テストを作成し,提 示する。講師も十分に 準備をすることが求め られる ・ Transformational leadership ・Care delivery ・Professional grows ・Collaborative practice ・ DDI(Development Dimension International),The Beckwith InstituteとUPMCお よ びUni-versity of Pittsburge, School of Nursingの共同研究で開発され た ・ 知識の伝達だけではなく,いか に,受講生が実践で活用するた めに必要な看護管理の認識を得 るかがデザインされている ・ 「自分自身の中にあるリーダー を理解する」「人々の学びをデ ザインする」などとタイトルが つけられ,講義内容をイメージ し学びを引き出す工夫がされて いた。 ・ 1996年から実施。 ・ First line  manager, secand line manager, Vice presidentの3段 階の教育プログ ラムが行われて いる。現在,評 価をしながら, 継続的に行って いる Aurora Health Care(St. Luke’s Medical Center) Leadership Academy

Aurora Health Care の 理念である「私たちの患 者の望みや期待にそった 最 善 の ケ ア を 提 供 し ま す。私たちは,測定可能 なすべての医療の質にお いて,他のどこか他でえ られる成果よりもすぐれ た行動によってより高い 質の医療を提供すること に責任を持ちます。」を 実現することのできる次 世代のリーダーを育成す る。

経営学的な視点 ・ Aurora Health Careに所属する全職員のう ち,次世代のリーダー に相当する人。 ・ 10 ヶ月   約2週 間に一度の 講義とプロ ジェクトマ ネジメント の実施,評 価 ・ Text book:Susan H. Gebelein; Successful Manager’s Handbook, 7th Edition personal Decisions International 2004

・ Key Result Areas 2009 Managerial Standards に基づいて実施されて いる ・ Interpersonal Communication styles ・ Leadership Development: Introduction to Management ・ Running Effective Meeting

・ Creating a Safe and Secure

・ Journey to Excellence ・ Leadership

Development: Conflict Management

・ Project Panel Discus-sion ・ 多職種が参加する講義と演習, プロジェクトマネジメントで構 成されている。 ・ 全期間を通してメンターとスー パーバイザーが支援する。メ ンターとスーパーバイザーは 10 ヶ月間の講義のいくつかに 参加し,プロジェクトマネジメ ントを支援する。 ・ 参加者は,メンターとスーパー バイザーをどの人にするか希望 することができる。 ・ メンターとスーパーバイザーと は,いつ,どのような支援をし てほしいのか,第一回目の講義 の際に調整をし,紙面に記載し 契約する。 ・ マグネットホスピタルであるか らこそ持つ,すべてのスタッフ がすべてのスタッフを育成する ことが当たり前とする組織文化 ・ 1990年から実施。 ・ 当初は,Aurora Health Careの 機関病院のみ実 施。現在,全医 療法人の次世代 のリーダーに対 して実施される Lancaster General Hospital Nurse Manager Residency Program ①看護管理者の役割と機 能を定義することができ る,②リーダーとマネー ジャーの役割の違いを定 義することができる,③ 学際的なリーダーシップ スタイルの分析と統合, ④4人の看護管理者の責 任と責務を明らかにし, 報告することができる Bennerの理論 ・ Clinical ladderⅢ以上 学士以上の学歴があ り,看護管理者からの 推薦が得られる人 ・ 一年間のプ ログラム は,それぞ れのfiscal Yearの初 めに開始さ れる。その プログラム は,形式的 な講義,資 料,自分で 管理する ・ 看護管理者の講義と演 習。目標となる優秀な 看護管理者に対する参 加観察。 ・ 看護管理実践の実施と, メンターからの評価 Bennerの理論 ・ 看護部長が申請書に目を通し て,受講資格が確認されたあ と,およそ2週間の間に看護部 長,経営管理者,EBPディレク ター,Nurse Researcherからイ ンタビューをうける。 ・ 学際的な講義と自己学習,チー ムアプローチが含まれる。一人 の看護管理者について,その役 割と機能を分析するとともに, チームアプローチを実践するこ とが課せられる。また,他の看 護管理者のリーダーシップスタ イルとの違いを学際的に明確に することが求められる 日本看護 協会 認定看護管理者 教育課程 ファーストレベル ①看護専門職として必要 な管理に関する基本的知 識・技術・態度の習得を 目指す②看護を提供する ための組織化並びにその 運営の責任の一端をにな うために必要な知識・技 術・態度の習得を目指す ③組織的看護サービス提 供上の諸問題を客観的に 分析する能力の拡大を目 指す 看護管理実践の 中で重要と 考えられる 要素を抽出 ① 日本国の保健師,助 産師および看護師の いずれかの免許を有 すること②保健師, 助産師および看護師 のいずれかの免許を 取得後,実務経験が5 年以上あるもの③管 理的業務に関心があ り,管理的業務に従 事することが期待さ れているもの 150時間, 10単位 原則20日間 以上6 ヶ月 以内に 終了する ・ 日本看護協会出版会    看護管理学学習テキス トNo.1 〜 No.8 ・ 認定看護管理教育終了 後は,各病院で看護管 理実践を行う。一部の 看護協会では,フォロー アップ研修を設けてい る。 ・ 看護管理概説(1単位), 看護専門職論(2単位), ヘルスケア提供システ ム(1単位),看護サー ビス提供論(3単位), グループマネジメント (2単位),看護情報論 (1単位)の講義と演習。 レポート

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2 . 本質的なケア,プロセス,実践そしてア ウトカムを標準化する 3 . 明日の変化に向き合い,専門的な実践を 行うことのできるスタッフを育成する 4 . そういったサービスを提供し維持する組 織文化を醸成する このモデルは,意図的な「クリティカルシン キ ン グ(Critical thinking)」「 ネ ゴ シ エ ー シ ョ ン (negotiation)」「自己決定(decision making)」を 促 進 し, 結 果 と し て, ⑴ 患 者 の 個 別 的 な ニ ー ズ ⑵ 専 門 性 を 促 進 し ⑶ 効 果 的 な 資 源 管 理 を 行 う こ と が で き る モ デ ル と し て 期 待 さ れ て い る。 こ の プ ロ グ ラ ム は,2004年 にUPMC,The Beckwith Institute, DDI(Development Dimension International),University of Pittsburgh School of Nursingで 構 築 さ れ(Wolf,2005), 3 つ の レ ベ ル(Emerging leaders:将来のリーダーや主任レ ベ ル, Operational leaders: 看 護 師 長 レ ベ ル で 今 までに組織運営やスタッフの育成に関わったこ とのある者, Strategic leader:看護部長や経営者 の立場)のプログラムになっている。本稿では, Emerging leaders(将来のリーダーや主任レベル) のプログラムについて述べる。筆者は,Dr. Wolf に 許 可 を 得 てEmerging leadersの 企 画 会 議 と 初 回プログラムに参加をした。Dr. Wolfは,AONE の役員であり,企業からの補助金を獲得し,Dr. Wolfを中心に計画され,運営しているが,「この 成果は10年後,20年後でないとわからないのよ」 と語る。教育の成果は,すぐには測定することは 難しく,特に次世代のリーダーとして活躍したか どうかの評価は,長い時間がかかるということで ある。 本プログラム(Emerging leaders(将来のリー ダーや主任レベル))の受講資格は,Nurseであり, Clinical Ladder Ⅲ以上であること,看護管理者の 推薦がなくとも,自分自身でオンラインで申し込 むことができる。期間は,2 ヶ月間 2週間に一 回の講義と演習であるが,事前にText book(Tim Porter-OGrady; Managing Success Health Care, 2006)を熟読し,Text book の各章の最後にある セルフラーニングのチェックを行うこと,講師か ら提供された事前課題をwebにアクセス,ダウン ロードし,学習してくることが求められていた。 このプログラムは,看護職30名を定員としており, 彼らが,どのように学び,成長するか,個人の才 能を開発し,次世代のリーダーのレベルに引き上 げられるようデザインされていた。内容は,講義 による知識の伝達ではなく,知識をどのように認 識として身につけるかに焦点が置かれていた。各 講義は,その内容がイメージしやすいよう,「自

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分自身の中にあるリーダーを理解する」「人々の 学びをデザインする」などとタイトルがつけられ ていることや,演習にその工夫がみられる。具体 的には,「自分自身の中にあるリーダーを理解す る」という第一回目のクラスの演習が興味深い。 「自分自身の中にあるリーダーシップを,何かも4 の4を用いて表現しなさい」という課題などであっ た。受講生の一人は,料理に用いるボールを持っ てきて,「私のリーダーシップは,このボールで 表現できる」と述べた。なんのことはない普通の ステンレスのボールを持ち出し,袋の中から取り 出した野菜,レタス,トマト,きゅうり,キャベ ツなどをいれ,最後にドレッシングをかけるまね をし,「スタッフは,野菜と同じ。いろんな個性 がある。そのスタッフを大きなボールの中にい れ,時には,ドレッシングでなじませる。これが, 私のリーダーシップスタイルなの」と表現をし た。Dr. Wolfは,「私のリーダーシップスタイル は,このフィギュアで表現できる」と,クリスタ ルの鳥のフィギュアを取り出した。「リーダーと は,さまざまな角度から見ると異なるし,輝き方 も違う。リーダーシップはひとつの形ではありえ ない。人それぞれスタイルがあるし,輝き方も異 なる」と表現した。この演習は,普段何気なく行っ ている自分自身のリーダーシップのスタイルを, 「もの4 4」を用いて表現することによって外在化し, 客観的に認識できる。他の人に表現することに よって,自分自身のリーダーシップのスタイルに 気がつき,講義をうけて得た知識を基盤にこれか らのリーダーとしての方向性を認識できるという 意義がある。また,リーダーシップを発揮する上 で,なんらかの壁にぶつかった際にも,自分自身 の立つ位置を確認することができるのである。講 師は,講義概要に明記された「すべての講義に知 識を認識,実践知にできる課題を事前に提示し, 講義中は演習を行い,講義の最後には7段階の選 択肢を含む10項目程度の小テストを作成しなけれ ばならない」というガイドラインの記述に従って 準備をしなければならない。その他,講師は十分 に講義の準備をし,提示すること,講義,演習が 各講師によってばらばらではなく,全体として継 続できるように効果的な情報交換ができるようデ ザインされ,プログラム終了後には,その評価を 行い,次年度のプログラムに活用されていた。 2.LeadershipAcademy(AuroraHealthCare)

Aurora Health Care はウィスコンシン州東部 に15の病院(2009年以降に2つの病院が建設され た),120の外来クリニック,140の薬局,在宅看 護サービス,検査部門などで構成され,30億ドル / 年 の 収 益, 総 雇 用 者 数25,750名(2006年 )( そ のうち,看護師は4,948名),マグネットホスピタ ル賞を3回受賞し,離職率1%未満のすぐれた医 療 法 人 で あ る。 こ の 医 療 法 人 も,UPMC同 様 に Leadership Academyが存在した。このプログラ ムは,2000年に開発され,未来のファーストライ ンリーダーシップ志願者,もしくは候補者に対し て,選択されたグループで支援,開発をするため に構築されたものであった。今年度のクラスを終 了すると250人の修了生をだすことになる。看護 師だけを対象としたものではなく,事務部門,情 報部門,医療ソーシャルワーカーの部門,セラピ ス ト(PT,OT,STな ど ) の 部 門, 技 術 部 門 な どさまざまな部門の次世代のリーダーが50名程度 参加していた。私は,企画者の許可を得て,3回 の講義に参加し,参加者にこのプログラム効果な どのヒアリングを行った。

本プログラムの目的は,Aurora Health Care の 理念である「私たちの患者の望みや期待にそった 最善のケアを提供します。私たちは,測定可能な すべての医療の質において,他のどこか他で得ら れる成果よりもすぐれた行動によってより高い質 の医療を提供することに責任を持ちます」を実現 することのできる次世代のリーダーを育成するこ と に あ る。 内 容 は, ①Leadership Development: Class room learning on skill development (講義) ②Meeting:受講生の所属する部門で現在リーダー を と っ て い る 人 と 一 対 一 の 関 係 を 持 っ た メ ン タ ー と ス ー パ ー バ イ ザ ー と の 面 接。 ③Learning Projects:プロジェクトの企画・運営を通して継 続的なスキル構築の機会を提供する,の3つの要 素 か ら な る。 期 間 は,10カ 月 間, 月2回 の 講 義, 演習(回によってはメンターやスーパーバイザー も参加)と,各部門数名の次世代のリーダー候補 と彼らが希望するメンターとスーパーバイザーと の面接,個々のテーマを用いたプロジェクトマネ ジメントを実践することである。プロジェクトの 企画や運営に関する疑問や不安に対してメンター やスーパーバイザーがアドバイスを行う。受講 生は,院内のイントラネットに掲載されたメン ターやスーパーバイザー候補者の中から自分自身 で担当者を選択することができる。そして,参 加 者 は,Leadership Academyが 始 ま る 前 に, ど のような支援を必要とするのかをメンターやスー パーバイザーと面接をし,話し合い,書面に記 述することが求められている。メンターやスー

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パーバイザーは,適時に受講生にフィードバック するシステムになっている。受講生は,事前に 経営学の理論や実践に関するテキスト (Gebelein S. H.: Successful Manager's Handbook, 7th Edition Personal Decisions International 2004) を熟読し, 準備をして講義に臨む。講義は,いくつかのグルー プにランダムに着席し,受講生どうしのコミュニ ケーションがとりやすいように配置され,約50名 の参加者が部門を越えてディスカッションや情報 交換ができるよう工夫されていた。演習は,ロー ルプレイ,クイズ,様々な物品を使用した受講生 のリーダーとしての自分を想起するように企画さ れていた。 受 講 生 は,Leadership Academyに と て も 満 足 していた。インタビューの中で,彼らはいくつか の感想を語った。10 ヶ月間は,彼らにとって適 切な長さであり,講義で得た知識がプロジェク トマネジメントを実施するために適時であり,そ れに活用することができること,疑問や悩みなど は一人で抱えているのではなく,メンターやスー パーバイザーから適時に支援をうけることができ ること,各部門の次世代のリーダーを知ることで 部門を越えたコミュニケーションが行えることに 満足を感じていた。 人が人を育てることが当然とするマグネティズ ム (Forces of Magnetism: ア メ リ カ 看 護 師 協 会 の下部組織であるAmerican Nurses Credentialing Center:ANCCが認定するMagnet Hospitalである 病院は,その理念に基づいて専門看護実践を支援 する環境/文化を構築する活動を継続して行うこ とが課せられている) に基づくとするこの病院の 組織文化が,このプログラムをより活性化させ, 次世代のリーダーを育てるとともに組織内の部門 間のコミュニケーションを促進するようデザイ ン さ れ て い た。Aurora Healthcare のLeadership Academyは,医療法人全体にとってどのような 次世代のリーダーを育てるべきか,誰がどのよう に育てるべきか,組織文化をどう活用するのかを 十分に考えられたプログラムであると考えられ た。 3.NurseManagerResidencyProgram(Lancaster GeneralHospital)

Lancaster General Hospitalはペンシルバニア州 に位置する総合病院であり,このプログラムは, 将来のManagerの候補者に対し,看護管理者の役 割を概観し,リーダーシップスキルと高め,計画 を成功させるためのメカニズムを提供すること を目的としている。目標は,①看護管理者の役 割と機能を定義することができる,②リーダーと マネージャーの役割の違いを定義することがで きる,③学際的なリーダーシップスタイルの分 析と統合,④4人の看護管理者の責任と責務を明 らかにし,報告することができる,としている。 このプログラムは,フルタイムの雇用者で能力 がClinical ladderⅢ以上,学士以上の学歴があり, 看護管理者からの推薦を得て,申請書を提出した あと,看護管理者にサポートをうけるおよそ30週 間のResidency Programである。看護部長が申請 書に目を通して,受講資格が確認されたあと,お よそ2週間の間に看護部長,経営管理者,EBPディ レ ク タ ー(Evidence Based Practice を 実 践 す る ための部門の管理者),Nurse Researcherからイ ンタビューをうける。その後,多職種による学際

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的な講義と自己学習,多職種によるチームに基づ いた教育方法(プロジェクトマネジメント)が含 まれる。一人の看護管理者について,その役割と 機能を分析するとともに,チームアプローチを実 践することが課せられる。また,他の看護管理者 のリーダーシップスタイルとの違いを学際的に明 確にすることが求められる。このプログラムの Domainは,Bennerの理論を用いている。講義だ けではなく,実際の看護管理者の役割や機能を参 加観察し,チームアプローチの実践を通して,実 際の方法を習得する実践的なプログラムであると いえる。 4.日本の看護管理者教育 日本看護協会が「看護管理者」と明記して看護 管理者の研修を行うようになったのは1962年であ る(南,2003)。1993年には,看護研修学校にお いて1年間の管理コースとして高い水準で教育が おこなわれるようになり,その卒業生は臨床・教 育・行政と幅広い分野で活躍するようになってい る。1989年に国際看護師協会(ICN)から看護管 理についての所信表明と看護管理者の養成に関す るガイドラインがだされ,1989年から体系的な看 護管理学教育についての検討会がなされ,1992年 から認定看護管理者制度がスタートした。現在, ファーストレベル(主任レベル),セカンドレベ ル(看護師長レベル),サードレベル(看護部長 レベル)の3段階の教育になり,管理者に対する 教育が体系的に行われている。2009年10月現在, 認定看護管理者の登録(認定看護管理者教育課程 終了後,認定試験に合格したもの)は全国で698人, 地域別には大阪が77名と最も多い。 認定看護管理者教育ファーストレベルの目的 は,①看護専門職として必要な管理に関する基本 的知識・技術・態度の習得を目指す,②看護を提 供するための組織化ならびにその運営の責任の一 端を担うために必要な知識・技術・態度の習得を 目指す,③組織的看護サービス提供上の諸問題を 客観的に分析する能力の拡大を目指す,であり, 150時間(10単位)で実施されている。認定看護 管理者教育課程のカリキュラムに沿って教育がな されているが,講師間での講義内容の重複は調整 されているとはいいがたい。講義内容の重複は, 時には,以前の学習内容を想起するために有効で あるともいえるが,講師間で講義内容を調整する 機会は設けられていないなどの課題があった。 認定看護管理者教育は,各都道府県の看護協会 や日本看護協会研修センターなどで評価が行われ ているが,大規模病院の看護管理者の受講が多い 一方で,100床以下の病院の管理者が少ないなど の課題がある(早川ら,2005)。菊池ら(2001)は,「看 護職員需給予測と中小規模病院における看護職員 確保に関する研究」の中で,中小規模病院の看護 管理者が持つ課題は大規模病院とは異なることを 明らかにしている。筆者が講義をした中小規模病 院の看護管理者は,演習におけるディスカッショ ンの中で,「話が合わない」「看護管理の問題の所 在が異なる」という感想を持っており,菊池らの 研究結果と同様である。 認定看護管理教育ファーストレベルの評価は, 都道府県の看護協会が様々な形で行っている(伊 藤ら,2009;泉名ら,2007)。伊藤ら(2009)は, 2002-2006年にファーストレベルを受講した210名 に調査を行い,171名(81%)が「幅広い学習の 必要性を認識した」,128名(61%)が「学習を活 性化するきっかけとなった」と学習の必要性を認 識し,学習の活性化にむけてのきっかけを得たこ とを明らかにしているが,「新たな役割を担うの に効果があった」82名(39%),「院内教育を担う のに効果があった」36名(17%)と知識を実践に 結びつけるのに対する効果は比較的低いことを示 した。泉名ら(2007)は,受講後のフォローアッ プ研修で,受講生がファーストレベル受講後の実 践した内容が「業務に関する事項」「患者に対す る事項」であり,看護管理実践が,身近に存在す る課題を解決することが多いことを明らかにして いる。各教育機関が実施したファーストレベルの 評価は,限られた対象に対する調査であるため限 界があるが,受講生らが,看護管理に関する知識 や身近な管理の課題を解決する上では有効であっ たことを示唆している。 前項で報告したアメリカにおける3つの次世代 のリーダー育成プログラムは,職能団体が行う日 本のプログラムとは目的が異なり,単純に比較は できない。しかし,日本の看護管理者は,昨今, 医療制度改革が大きく推進され,医療のより高い 成果を求められており,次世代の看護管理者の教 育プログラムのあり方について,アメリカの次世 代の管理者を育成するプログラムと比較検討する ことは意義があると考える。

V.考察

本章は,日本における次世代の看護管理者教 育はどのようなものであるべきかをアメリカに お け る 次 世 代 の リ ー ダ ー を 育 成 す るLeadership

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Academyなどの事例と日本の認定看護管理者教 育ファーストレベルについて,教育プログラムの 内容と方法について比較検討することによって, その課題を明確にする。 認定看護管理者教育ファーストレベルのカリ キュラムの内容と方法とアメリカにおける看護管 理者教育との違い 日本の看護管理者教育は,戦後GHQの強力な 指 導・ 支 援 を う け て 構 築 さ れ,1962年 か ら「看 護管理者」と明記された看護管理者研修が始ま り,1992年から認定看護管理者の養成と資格認 定が行われるようになった (上泉,2003)。日本 の 看 護 管 理 者 の 能 力 明 確 に し たDomainは, 背 景 で 述 べ た よ う に 存 在 し な い。 ア メ リ カ に お け る 次 世 代 の リ ー ダ ー を 育 成 す る プ ロ グ ラ ム は,AONEやANCC (the American Association of Colleges of Nursing: 全米高等看護教育協会), CGEAM(Council on Graduate Education for Administration in Nursing:看護管理に関する大 学院教育機構)など標準化されたDomainを基盤 とし構築されている点で日本のプログラムとは異 なる。日本の各病院における看護管理者の役割が 異なるため,研究に基づいた共通のDomainを明 らかにすることは難しい。しかし,ヘルスケア環 境の変化にはアメリカと同様に大きく,看護管理 者に課せられる期待も高まっており,その変化に 対応した教育が必要となる。その際にカリキュラ ムに盛り込まれなければならない要素は,診療報 酬が変わったのでそれを活用できるようになどと いう,目先の変化に対応したHow toではなく,5 年後,10年後に受講生がリーダーとして活動する ための基盤となる理論や知識であるべきだと考え る。 日本の認定看護管理者教育ファーストレベルと アメリカの教育が大きく異なる点は,受講生の動 機づけを高めるための教育の方法であり,それ は,①講 義 内 容 を 想 起 さ せ る テーマの明示,② リーダーとしての自分の認識の外在化,③プロ ジェクトマネジメントを通した看護管理実践の方 法の獲得,④学習中,学習後も継続したメンター の存在である。 ① 講義を想起させるテーマの明示 日本の認定看護管理者教育ファーストレベルの 科目名は,「看護専門職論」「人的資源管理」など であるのに対し,UPMCのそれは「自分自身の中 にあるリーダーを理解する」「人々のリーダーシッ プをデザインする」「人々の学びをデザインする」 とテーマがつけられている。ファーストレベルの 科目名,たとえば「看護専門職論」には,「看護 の歴史」「看護理論」「キャリア開発」などが含ま れ,それに関連した知識を学習するという認識を 受講生に与える。一方で,UPMCの「自分自身の 中にあるリーダーを理解する」というテーマは, 受講生に「今日の内容はどのようなものだろう」 という講義内容を想起させ,期待を高める効果が あると考えられる。ベンジャミン・ブルーム(梶 田,1992)は,教育目標のTaxonomyの評価の主 要次元 として,認知的領域,情意的領域,精神 運動的領域の3つを上げており,情意領域として 「目を開かせる」(受け入れ),「心を耕す」(反応) の主要指導目標として,が重要であるとしてい る。UPMCが,Leadership Academyでつけたテー マは,受講生の情意領域を刺激し,学習への動機 づけを高めていたと考えられる。 ② リーダーとしての自分の認識の外在化 UPMCの一日目の講義の事前課題は,「自分自 身の中にあるリーダーシップを,何かものを用い て表現しなさい」であった。これは,受講生が,リー ダーとしての自分をどのように認識しているかを 外在化する効果があると考える。White とEpston (2000)は,「外在化とは,自分を支配してきたド ミナント・ストーリーから自分を切り離して客観 化することによって,いままで気がつかなかった 大切な体験の側面に初めて気がつくこと」と定義 する。この記述は,ナラティヴ・セラピーにおい てクライアントが自分自身のドミナント・ストー リーを演劇や絵を描くことによって外在化し,オ ルタナティヴ・ストーリー(いままで光の当たら なかった体験の新たな側面に気がつき,新たなス トーリーを描く)に気がつくというセラピーに用 いられる手法であるが,UPMCの演習は,この側 面を含んでいると考える。リーダーとしての自分 をものを使って表現し,誰かに語るために,自分 自身の内的コミュニケーションを促進し,さらに 話すという外的コミュニケーションを通して外在 化していたと考えることができる。リーダーとし て自分に対する認識の外在化は,自分自身のリー ダーとしてのスタイルに気がつき,講義を受けて 得た知識を基盤にこれからのリーダーとしての方 向性を認識できる意義があると考えられる。さら に,リーダーシップを発揮する上で,なんらかの 壁にぶつかった際にも,自分自身の立つ位置を確 認することができ,リーダーとしての自分のあり 方を考える際に有用だと考える。 ③  プロジェクトマネジメントを通した看護管理

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実践の方法の獲得

Aurora Health CareのLeadership Academyで受 講 生 は,Learning Projectsに よ っ て プ ロ ジ ェ ク トの企画・運営を通して継続的なスキル構築の機 会を得る。この機会は,受講生へのインタビュー からも明らかなように,実際に学んだ管理に関す る知識を,プロジェクトマネジメントを通して活 用することを通して,実践知へと転換していると 考えられる。野中 (2003) は,「知識は,他者や現 実との相互作用と継続的な経験によって①問題設 定,②仮説,③推論,④テスト,⑤保証された命 題の設定が可能になるとし,経験を通じた知識の 内面化や知識の身体化が起こり,それは,暗黙知 が実践知へと転換するきっかけになる」と述べて いる。認定看護管理者教育ファーストレベルは, プロジェクトマネジメントをカリキュラムに含ん ではいないが,受講終了後にそのような機会を設 けることの意義は大きいと考える。 ④  学習中,学習後も継続したメンターの存在 Aurora Health CareのLeadership Academy で 受講生は,院内のイントラネットで自分が選んだ メンターやスーパーバイザーとともにプロジェク トの企画や運営に関する疑問や不安に対して支援 を受ける。メンターとは,「プロテジェ(初学者) より人生経験が豊富な経験,豊かな知識,権力 (影響力)を持つ人であり,プロテジェにとって 指導者,理解者,相談者,教育者,支援者,後見 人という何役もの役割を演じ,その役割を果たす 人のこと」(宗方,2000)と定義される。Aurora Health Careは,Magnet Hospitalで あ る た め, も ともと「人が人を育てることは自分たちが実現し たい看護を実践する上で鍵になる」とする組織文 化を持つ。その組織文化を最大限活かしたメン ターの存在や支援は,受講生にとって大きな効果 をもたらしていると考えられる。受講生は,事前 に,どのような支援を必要とするのか面接をし, 話し合い,書面に記述し契約を行い,その契約に 応じた支援を受けるが,受講生は,メンターから 適時にフィードバックされるという安心感も持っ ていた。認定看護管理者教育ファーストレベル は,看護協会などの教育機関で実施されるため, 受講生は受講時にメンターからの支援を受けるこ とは難しい。しかし,受講生が,講義終了後,よ り上位の看護管理者がメンターとして受講生を支 援することによって,実践に根づいたより看護管 理実践を行っていくことができると考える。 医療制度改革が急速に進められ,看護管理者が 医療や看護の成果を出すことへの期待が高まる 中,次世代の看護管理者の教育をどのように行っ ていくかは重要な鍵となる。本稿は,認定看護 管理者教育ファーストレベルとアメリカの看護管 理者教育との比較によって,その課題を明らかに し,今後の方向性を考える上での資料となればと 考えている。 なお,本稿は大阪府立大学在外研究員派遣事業 にもとづいて収集した資料をもとに作成しまし た。

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