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副物流機能空間開発の中国新疆オアシス経済への影響

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副物流機能空間開発の中国新疆オアシス経済への影響

The Developmental Influence of Secondary Logistics Networks

on Oasis Economy in Xinjiang China

薛   雨 陽* XUE, Yuyang 1.本稿の目的と問題意識 2.先行研究の整理 3.新疆乳製品産業の概観と作業仮説 4.結論 1.本稿の目的と問題意識  本稿の目的は、中国の新疆ウイグル自治区(以下、新疆と略す)経済の今後の発展と物流機能の あり方の間の関係についての作業仮説を提示することである。  オアシスは、砂漠の中の水や植物がある場所を指している。現在、世界中にはアフリカ北部、中 央アジアなどの様々なところでオアシスが広範に存在している。そして、オアシスに住んでいる人々 の生活、生産活動がオアシス経済を形成している。一方、オアシス地域は水資源の制約を受けるた め、農牧業にしても製造業にしても、どの産業の規模も通常小さく、さらに各経済体が広い砂漠、 山脈などの無人の地域によって分割されてばらばらに分布しているため、そこでの経済活動は後進 的と見なされることが多い。  一般的には、市場経済において、ある地域の経済発展を分析する時、短期と長期の二つの視点が ある。短期の視点から見ると、投資、消費、輸出が経済成長を支える牽引力となる。オアシス経済 地域は水資源の制約が厳しいため、人口と生産の規模が一般に低い水準にある。人口は少なく、消 費の経済への誘発作用が弱いのである。そのため生産は拡大できず、輸出も少ない。それだけでな く、広範囲に広がる無人地域を通る長い輸送ルートから生じる高い物流コストは、生産を抑制する もう一つの問題である。投資もほぼ同じ状況にある。資本は、消費と生産が限定的な市場には投下 されない。もしこのまま振興策がないのであれば、オアシス経済は発展だけでなく、縮小していく 可能性が高い。以上の様々な問題がオアシス経済発展の基本的な課題である。  一方、新疆は典型的なオアシス地域である。新疆は欧亜大陸の中心部にあり、西は中央アジア5 カ国と隣接し、北はロシアと繋がり、南西からアフガニスタン、パキスタン、インドを経てインド * 岡山大学大学院社会文化科学研究科博士後期課程

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洋に進出できる。さらに、第二のユーラシア・ランドブリッジは新疆の西側と東側を連結するルー トとして、新疆北部の経済ベルトを通じることによって新疆の物流輸送能力と対外開放程度を強化 させる。最近の20年において、「西部大開発」、「新疆工作会議」、「一帯一路」などの一連の政府政 策の支持を受けて、新疆のインフラ施設の整備と建設状況は大きく改善した。交通の利便性向上は、 地域経済の発展を促進してきた。労働力、商品は整備された鉄道、高速道路、空港などのインフラ 施設を通じて以前よりスムーズに新疆に流入できるようになった。現代化された物流の仕組みはこ れまでのオアシス経済に発展のチャンスをもたらす可能性がある。  しかし、過去約70年以上のインフラ施設の開発は新疆の後進的なオアシス経済のパターンを根本 からは変えてこなかった。1950年代に新疆に開通した始めての鉄道「隴海線」から、現在の天山南 北を超える新疆全域の鉄道・高速道路・航空一体化の輸送ネットワーク計画まで、開発計画の中心 は一貫して烏魯木斉、カシュガル、ハミ、イリなどの新疆において中枢機能を持つ中心都市をつな ぐものであり、それ以外の周辺都市への接続が不足している。それは、現在の新疆オアシス経済発 展の現状を反映しているとも言える。すなわち、資源の大都市への集中と地方の発展動力不足とい う矛盾が空間的に投影されている状況である。最も著しい特徴は、新疆北部の鉄道と高速道路輸送 ルートの整備が南部より遥かに上回ることである。新疆南部の最初の民生用鉄道は、1990年代によ うやくクルラーまで開通した。しかし、その鉄道の輸送能力は極めて低く、改革開放後の「四つの 現代化」の建設水準を達すものではなかった。一方、新疆の全面的インフラ整備は2000年代に入っ てからのことである。  物流とインフラ整備は新疆の経済発展を達成させるためには回避できない課題であるが、それは、 同地域の厳しい地理条件の制約を受けてきた。逆に言うと、物流はこの課題を解決するキーワード である。それは新疆の経済発展を研究する研究者たちの共同認識である。しかし、従来の発展計画 はいくつかの大都市圏を形成することに成功したが、新疆全体の輸送能力を向上させるものではな かった。 2.先行研究の整理  中国の新疆における輸送能力評価と開発の研究は、1990年代に始まった。「新疆鉄路発展対策」(呉 昌元 1992)1は新疆鉄道の当時の状況の情報を収集・整理し、存在する問題を抽出し、改善方法を 提示した。1992年頃、ソ連は崩壊したばかりであったことから新疆をめぐる国際情勢は大きく変わっ た。新疆の戦略地位は、ソ連に対抗する前線から対西開放の窓口へ転換した。そして、当時の新疆 鉄道の問題は、主に次の三つであった。①輸送量は飽和状態に達し、「隴海線」の複線鉄道の建設 は輸送量不足の問題を短期間では解決できない。②新疆南部の鉄道は輸送能力、技術、管理が遅れ 1 呉昌元(1992)「新疆鉄路発展対策」、『鉄路輸送与経済』、No.9、pp.6-8。

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ており、メンテナンスが長期間できていない状況であった。③国家補助金は廃止され、鉄道経営企 業が自らの損益の責任を負う。当時の新疆は、また中国東部の「四つの現代化」建設を支援するこ ともその重要な役割とされ、鉄道などインフラ施設の建設がその目標を達成するために続けられた。 呉(1992)は、新疆の経済転換初期の鉄道輸送の問題をこのように指摘している。そして、新疆南 部の鉄道輸送能力が1999年のカシュガル鉄道の完工とともに大きく改善し、約30年後の現在も複線 鉄道の建設が安定的に推進されている。さらに、「一帯一路」政策が展開されることを背景として、 新疆は西へ進出の窓口だけでなく、その重要性はますます強まっている。  しかし、呉(1992)が当時、提示した問題は現在でも解決したわけではない。2020年代に入った ばかりの現在であっても輸送効率低下、管理不足、市場混乱による新疆の物流資源浪費という現象 は珍しくない。新疆の物流産業の現時点での発展段階、新疆の物流産業の発展を制限する深層の原 因および新たな発展対策はこれから注目すべき論点である。  呉(1992)の論文の発表から20年後の2013年に新たな研究が発表された。それは、‘General Layout Planning of Urumqi Hub’(Liu Weiren 2013)2である。この論文では蘭新鉄道と新疆南部鉄

道の電気化改装工事が完成したことを取り上げている。これらの工事の完工により新疆と中国東部、 中央アジア両方向けの貨物・旅客の輸送能力が大幅に強化され、さらに烏魯木斉鉄道調達センター は新疆最大の鉄道輸送センターとなり、その中の烏魯木斉駅は新疆全体の乗客輸送量の50%、貨物 輸送量の30%を占めるようになった。すなわち、烏魯木斉は新疆全域の物流の中心としての地位を 持つようになったのである。そして、Liu(2013)は烏魯木斉の鉄道発展における「南控、北拡、 西延、東進」(南部の開発を抑制し、開発効率を向上させながら合理性がない、あるいは非効率な 開発を排除する。北部は主要な開発地域であり、その開発の規模を拡大させる。西部については生 態系保護と地質安全を重視するため、適度な開発を行う。東部は地方との関連を強化し、将来の発 展空間を創り出す。)の開発戦略を提示し、それは「一帯一路」構想における新疆に期待される地 域機能の目標と一致している。  さらにLiu(2013)は、「二横一縦」Y字型(烏魯木斉から延びている3つの鉄路ルートを指し、 それら3つのルートが繋がるとYの形となる)の「烏魯木斉都市圏城際鉄道計画」を紹介している。 それは基本的に烏魯木斉が持つ物流と鉄道の中心としての機能に基づいて新疆北部経済ベルトを一 体化させる構想である。Liu(2013)は当時、新疆が展開している経済政策の変化と鉄道輸送能力 の向上など新動向を論じた。一方、鉄道物流ノードとしての烏魯木斉とその周辺都市の物流機能開 発については討論する余地がまた残っている。そして、「二横一縦」に基づく烏魯木斉鉄道輸送圏 の構想を順調に実現するため、これまでより詳しく論証することが必要である。

2  Liu Weiren(2013)‘General Layout Planning of Urumqi Hub’Railway Transport and

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 鉄道と高速道路の2つが、新疆物流業を支えているのが現状である。しかし、これら2つのルー トは着実に整備・機能集積してきたとは言えない。これら2つのルートのうち、高速道路は近年、 急速に充実してきており、新疆域内の大部分の物流業務を担当している一方、鉄道の整備は相対的 に遅れている。‘A Tentative Study on Development and Planning of Xinjiang Railway Network’ (Ning Jilong 2019)3の研究によると、2017年末まで新疆の鉄道営業線の長さは6166kmに達して省 別・自治区別で見ると中国第4位になった。しかし、新疆は面積が広いため平均密度で見ると僅か 37km/万㎢であって中国平均水準の28%でしかなく、それを順番にすると第29位となる。それだけ でなく、新疆の鉄道の近代化のレベルの低さ、鉄道駅の限定的な機能、上昇する輸送能力と伸び悩 む効率性という両者の乖離、国際鉄道輸送ルート計画の「一帯一路」への対応不足などの問題が存 在している。それらに対応する方策として、Ning(2019)は多層鉄道ネットワークで沿線都市の 経済を発展させるという提案をしている。具体的には、高速鉄道と快速鉄道で「1h-3h-5h-7h」 の鉄道交通圏を造って高速鉄道物流と高速鉄道観光の両方の機能の集積を促進することである。「1 h-3h-5h-7h」の意味は、1時間以内で烏魯木斉域内、3時間以内で天山北部地域に、5時間以 内で新疆全域、7時間以内で周辺省の中心都市に到着できるということである。そして、鉄道交通 圏域内では鉄道で人口50万以上の都市を全て繋がる計画も挙げられている。  加えてNing(2019)は、新疆一体化の視点から鉄道によって新疆の対内、対外の連結を強化す る物流発展計画を示した。また地方都市や人口が少ない町の存在についても考慮しているが、小規 模地方都市の鉄道物流に対する役割については詳しく検討していない。しかし、中心都市圏以外の 地方鉄道物流ノードは新疆鉄道物流の効率性だけでなく、地域振興の可能性を左右する主要要因で ある。新疆は広いため、各物流センターが相互に連結し一つになるように繋がらないと各物流セン ターが構築するネットワークが作用する範囲が限定的になる。そのため、周辺地域の小規模地方都 市の物流ノードとして機能するためのネットワークの条件に注目すべきである。  ハミは、中国東部から新疆に進出する際の最初の地点に立地する大型物流拠点である。歴史上の ハミは交通の中心という地位にあり、その物流機能が現在まで続いている。‘A Study on Hami South Railway Logistics Center Planning’(Gong Taotao 2018)4は、ハミ鉄道物流の発展の問題に

ついて、策定された計画は整合性がない、道路・鉄道・各種施設整備する際の資材調達の納期が守 られておらず、工事が遅れがちであり、地域内インフラ施設の特定都市への過剰な集中とそれ以外 の地域での不足という不均衡、サービスの差別化がなされていないことから生じる過当競争とそれ による企業体力の消耗、物流施設管理制度が整備されていないことからの低水準施設の重複整備と

3  Ning Jilong(2019)‘A Tentative Study on Development and Planning of Xinjiang Railway Network’Railway Transport and Economy,Vol.41,No.4,pp.101-106.

4  Gong Taotao(2018)‘A study on Hami South Railway Logistics Center Planning’Railway Transport and Economy,Vol.41,No.4,pp.70-75.

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いった点に指摘した。  特に、ハミでは物流産業の参入条件が低いので、競争が無秩序であるという問題が深刻である。 物流会社は輸送、倉庫、修理などの業務を伝統的かつ非近代的な方法で経営し、物流サービスの標 準化とその安定的提供ができておらず、また企業のサービス意識も弱く、効率の良い組織管理制度 もほとんど存在していない。さらに、物流産業を担う大手企業は存在しないため、物流の地域経済 への浸透と牽引の力も形成しにくい。一言で言えば、ハミの鉄道輸送と物流産業は「多、乱、散、小」、 すなわち中小零細事業者の多さ、市場の競争条件の不明瞭さ、産業集積の弱さといった特徴がある。 ハミだけでなく、これらの問題は現段階の新疆物流産業全体に広く存在していると考える。  Gong(2018)の報告は、ハミの鉄道物流ノード建設がもたらす新疆全体の物流効率向上に対す る意義を認識し、そこで指摘した問題が新疆における他の物流ノードの建設、開発に対して示唆的 である。  このように先行研究の整理を踏まえれば、組織管理が十分に行われておらず、また経営計画の合 理性が乏しいことが新疆の物流産業の発展を制限する最大要因の一つだと考えることができる。例 えば石原伸志(2005)は「フォワーダーから見た中国物流に関する一考察」5で中国物流全体の当時 の状況と今後の方向性を考察した。石原(2005)の考察は、日系フォワーダーや商社の視点から当 時中国に存在した増値税還付、委託加工の免税手帳、貿易権、ゼロ運賃、フレイト、複雑な輸入手 続き制度、カーゴダメージ、保税区と保税倉庫の管理問題、運転免許、賠償責任保険の未整備など の問題を指摘した。それらは、ほぼ2001年に中国がWTOに加盟した後、世界の工場として機能し 始めた時点でも存在していた一般的な問題群である。2005年当時、中国経済は高度成長期にあり、 市場経済的な物流制度の整備と管理の規範化の模索が始まったばかりだったので、一時的に世界の 工場のイメージに相応しくない状況が相次いで表面化してしまっていた。しかし、中国経済の発展 が続くとともに、中国全体では物流産業の問題点は徐々に改善してきた。物流産業は、第三次産業 としてその発展の程度が経済活動全体によって規定されていることから、経済全体あるいは第一次、 第二次産業の制度的、機能的、組織的発展の程度を越えることは難しい。そのため、新疆における 物流産業の発展に関わる様々な問題は、新疆経済全体の後進性を反映したものと考えることができ る。それだけでなく、物流資源の不合理な投入と浪費は新疆経済の発展をさらに遅らせてしまう可 能性がある。  以上、先行研究をまとめると、烏魯木斉都市圏以外の大型物流ノード建設に関する専門研究は少 なく、地方物流ノード建設についての研究はほとんど現われていない。これは、新疆域内の大都市 圏以外の物流機能空間の利用と開発にはあまり関心が払われてこなかったことを表している。そし て、これまでの新疆物流に関する研究は概ね新疆域内全体を対象としてきた。そこには、各地方と 5  石原伸志(2005)「フォワーダーから見た中国物流に関する一考察」、『日本物流学会誌』、第13号、pp.19-26。

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地方都市の物流機能開発を意識した分析という視点が希薄である。しかし、新疆の物流産業に存在 している様々な問題を解決するためには、地方物流機能開発と地方都市間産業協力に注目するべき である。

 ただし、新疆における新しい物流ネットワーク構築と物流機能空間利用については近年、徐々に 研究されるようになり始めている。そしてその分析方法は様々な研究領域を融合させる傾向が強く なっている。‘Research on the Construction of Xinjiang Logistics Network Based on the Theory of Hub and Spoke’(Wang Hairui 2017)6は「ハブ・スポーク・システム」モデルを新疆物流ネットワー

ク構築の研究に導入して物流センターの形成原因を分析している。そして、数理モデルの導入は複 雑な具体的な問題を一定のルールで定量化させ、新疆物流研究にとって大きな進歩だと考えられる。 これらの新しい分析視角・研究方法は今後、新たな発見と具体的な課題解決の手法や提案をもたら すかもしれない。  また定量分析は定性的な理論研究を支える重要な根拠となるとともに、有効な検証方法でもある。 Wang(2017)は、新疆の主要物流センターをハブ、副物流センターをスポークとして設定し、定 量的分析方法で物流ネットワークの効率性を分析した。この研究によれば、新疆の道路経済は新疆 経済全体の80%以上を占めていることがわかる。すなわち、新疆経済が基本的に「公路輸送経済」 である。この研究では、近年、相次いで整備された公共物流ルートがあたかも血管のように新疆物 流ネットワークを構築して、新疆の主要の輸送ルートとそれを利用する輸送手段となったことも明 らかにしている。  しかし、Wang(2017)は新疆の物流資源の利用効率が極めて低いことも指摘した。例えば、新 疆物流センターの主要ノードである烏魯木斉すら、公共物流ルートにおける積載効率は60%でしか なく、他の地域はさらに低く40%となっている。つまり、新疆では物流資源が充分に利用されてお らず、逆に深刻な浪費が起こっているのである。そして、Wang(2017)は「ハブ・スポーク・シ ステム」とEntropy-TOPSIS分析法、Universal gravitation Model分析法などの結果に基づいて新 疆を六つの物流圏区に分け、新疆の「ハブ・スポーク・システム・ハブ・ビットマップ」を作成し て、新疆は副中心都市の物流建設を重視するべきという対策を示した。

 ‘The Spatial Structure of Xinjiang Regional Logistics Characteristics, Problems and Optimization’(Sun Shanxiang 2017)7は、幾何学のフラクタル理論(Fractal Theory)を物流ネッ

トワークの研究に導入した。Sun(2017)は、フラクタル図形の自己相似の特性を利用して、規模 に関わらず、物流ネットワーク発展パターンには高度の自己相似性が存在してフラクタル再帰のよ

6  Wang Hairui(2017)‘Research on the Construction of Xinjiang Logistics Network Based on the Theory of Hub and Spoke’, Master Degree Dissertation, Shihezi University.

7  Sun Shanxiang(2017)‘The Spatial Structure of Xinjiang Regional Logistics Characteristics, Problems and Optimization’,Master Degree Dissertation, Shihezi University.

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うな空間構造の特徴があるという仮説を提起した。そして、その物流フラクタルの仮説を前提とし て、新疆物流空間に関する定量研究と定性研究を行った。その結論は、次の三つである。①14個主 要都市で構成される新疆物流システムの発展は不完全であり、烏魯木斉の物流センターのノードと しての機能集積が進んでいる反面、副物流ノードの機能が弱い。②新疆各地方間の物流による連結 は弱くて空間構造は分散的である。③烏魯木斉の経済発展による新疆全体への波及効果は小さい。 烏魯木斉という単一の物流センターのみへの資源投入はその波及効果が限定的である。  そして、Sun(2017)はさらに新疆の各物流ノード間の距離が長すぎるので、中心物流ノードか ら副物流ノードまでの交通緊密性が確保されにくく、それによって非連続性の減衰現象が顕在化し て新疆全体の物流システムのバランスが崩れていること、すなわち地域間で物流機能の集積度と産 業集積度の格差が見られることを指摘している。この現象は、新疆経済の発展段階に対応して、南 部>中部>北部となっている。ただしSun(2017)の研究では、マクロの視点から新疆物流空間を 分析したが、具体的な例による検証が行われていない。  総じていうならば、いずれの先行研究でもミクロ分析は不十分で、具体的な分野と特定の産業を 論じることはなかった。つまり、理論を検討するための事例分析が不足している状態である。その ため本稿では、具体的な事例として新疆の乳製品産業を取り上げ、今後の研究の作業仮説を提示す ることとする。 3.新疆乳製品産業の概観と作業仮説 (1)新疆乳製品産業の概観と特徴  先行研究の整理の箇所で述べたように、新疆経済は典型的なオアシス経済であるため、各経済体 が広い砂漠の中に分散して立地している。新疆の産業発展と展開は分散型立地という地理的要因に 制約されていることから、分散した経済機能を効率的につなぎ合わせる物流ネットワークとその適 切な管理方法がなければ、非効率性と資源浪費の両方が相互に悪循環を引き起こすことが容易に想 像される。特に現在、新疆の鉄道幹線と高速道路の基本的な路線が形成されているが、新疆の物流 能力は均等に成長してきたわけではない。物流管理の低効率性、物流中心都市と地方との連絡の悪 さ、情報技術導入の遅れなどの問題は指摘されてきたが、現状を改善する方法についての議論は制 度設計・提案や発展戦略等、具体性に乏しいものが多い。先行研究の中で、Sun(2017)は各地域 や都市圏を単位とした多くの対策を提案したが、それらの対策は定量分析の結果のみを根拠にして いるため、状況がより複雑な現実でそれらの提案が有効であるかどうかの検証が必要となる。その ため特定地域の特定産業を対象とした定性的な分析が追加されなければならない。  問題の中核をなすものは、副物流空間機能開発の不足、あるいは副物流空間への認識不足である。 ここで副物流空間とは、ハブとスポークの関係ではなく、スポークの先でさらに細分化する物流ルー トと小規模拠点が展開する空間のことであり、現在問題となっているのはスポークの先の物流ルー

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トや物流拠点の整備が不十分なために副物流空間機能が極めて不完全にしか形成されておらず、そ れが新疆の地方圏の低開発性をもたらしている点である。鉄道や高速道路、あるいはターミナル施 設などの中心都市への資源過剰投資と副中心都市へのこれら投資の不足が、この問題に対して認識 が不足していることの具体的表現である。  副物流空間の中心となるべき副中心都市は中心都市物流ネットワークの単なるスポークの先端で はなく、副中心都市を中心とする物流ネットワークを構築することが中心都市の物流ネットワーク を活性化することにもなる。しかし、現在、副中心都市の保管機能は十分に重視されているとは言 えない。そのため空間、あるいは先行研究で指摘されている地方物流圏区の機能を改めて認識しな ければならない。現在までの研究は理論的、計量的なものが多いことから、統計が入手できる範囲 に分析が偏っている。例えば鉄道や道路等の輸送ルート整備とその輸送効率の検証等である。それ について、Wang(2017)が新疆に進出する鉄道・道路等の輸送ルートの本数の少なさや工事の進 捗度の遅れ、技術力低迷などインフラ整備の不足を原因とする輸送効率向上の制限要因があること を指摘している。他には、データ包絡分析法(Date Envelopment Analysis:DEA)という定量分 析法を用いて新疆におけるインフラ整備と輸送効率の関係を検証する研究も存在している。しかし、 新疆の経済発展にとって重要なのは輸送効率の向上だけでなく、物流面で放置されている末端都 市・地域の経済振興である。この課題に対応するためには一定の定性的分析が必要であるため、本 稿では新疆の乳製品産業を取り上げ、作業仮説構築の手段とする。  乳製品産業は第二次産業における食品加工業の一つである。一般的には、製造業を中心とする第 二次産業は経済発展のエンジンであり、第三次産業に属する物流は第二次産業の発展を支える補助 産業のイメージが強い。しかし、物流産業は製造業と密接に関連している。そのため乳製品産業に ついての定義は狭義と広義の二つに分けてその範囲を定めることができる。狭義は、乳製品加工業 だけである。広義は、乳製品に関するあらゆる産業のことを含めたものである。具体的に説明する と、牧場建設、乳製品加工、乳製品質量検査、乳製品加工補助原料の生産、乳製品包装、乳製品開 発、乳製品宣伝などの関連産業に含まれている。そのため、乳製品産業の発展は牧畜業、機器生産、 材料加工、物流輸送などの現地の関連産業の発展を牽引することができ、地域に経済波及効果をも たらす。  本稿では、製造業としての乳製品産業は主に乳製品の加工段階にその対象を限定するが、物流活 動に関しては牧場建設、乳製品加工、乳製品包装との関係が緊密であるため、物流圏区で乳製品産 業を分析する場合に広義の範囲を適用する。 本研究で乳製品産業を選択する理由は、次の4つである。  ①新疆の産業構造を見ると、第一次産業の割合が高く、食品加工業発展の基礎である穀物・野菜・ 果物・肉類生産に関する農牧業は地域内に広範に存在しているので、食品加工業も新疆の全域に広 範に存在している。そして、乳製品産業は新疆での比重が高い。

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 ②これまで食品加工業の技術水準は相対的に低く、典型的な労働集約型産業であったことから資 本蓄積が進むと発展の余地が大きくなると考えられる。また投資規模が相対的小さくて資金回収周 期も短く、投資リスクが低いことが他産業に対する優位性である。  ③食料品は生活必需品のため、どの経済環境であっても食品加工業の存在が必要である。そして、 食料品の生産量は都市の発展規模・速度と関連し、間接的に経済発展段階を評価できる。  ④生鮮食料品は腐りやすいため、輸送効率は食品の価値実現と大きく関係している。この価値実 現の過程は、「原料産地→加工工場」と「加工工場→最終消費者」の2つに分けられる。この2つは、 それぞれに物流が「生産」と「消費」を繋げる役割を表しており、さらに詳しく整理すると、物流 は「包装」、「予約配送」、「倉庫貯蔵」などのサービスで付加価値を創出することができる。これら は、食品加工業が常に都市・町の周辺地域に形成される要因である。一方、乳製品の生産は主に「原 料乳の収集-不純物の分離と濾過-予加工-予殺菌-二次加工-超高温殺菌-包装-出荷」などの過 程があり、一定の標準に従う近代的な乳製品生産は非常に多くの産業と繋がっている。また、乳製 品輸送と保管の最大の特徴はコールドチェーン(cold chain)技術を使っている点である。品質管 理の視点から見ると、乳製品生産の全過程でコールドチェーンを維持する必要がある。そして、生 産・流通中の輸送ルート、輸送時間、積み替え地の選択は乳製品の生産に影響を与えるため、総合 的な物流計画を作成することが重要である。  図1が示すように、2009-2018年の10年間、新疆における乳製品生産量は総じて右肩上がりの発 展を見せてきた。乳製品生産量の増加とともに、新疆の乳製品企業の数も増えてきた。すなわち、 最近10年の間に新疆の乳製品産量は安定に成長したことは明らかである。その成長は、物流産業の 発展とインフラ整備による新設備、投資、技術の導入に関連する可能性がある。 図1 2009-2018年新疆乳製品産量と乳製品企業数 700000 600000 500000 400000 300000 200000 100000 0 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 単位:トン 企業数量 乳製品企業数 乳製品産量

出所: Xinjiang Statistical Yearbook, China Basic Statistical Units Yearbook各年版を参照し、筆者作成。なお一 部の年はデータは入手不能であった。

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 Song Kungang8は‘Transformation and Upgrading of China Milk Source Base’9で中国における乳 製品産業の地域間発展不平衡の問題が近年、ますます顕著となってきたことを指摘した。中国の乳 製品生産地は北部に集中する一方、乳製品の主要消費地は東部と南部にある。さらに、中国の乳製 品産業地図は概ね「北乳南運」(北部で生産された乳製品を南部に運ぶ)と「西乳東運」(西部で生 産された乳製品を東部に運ぶ)という特徴を持つという。  それだけでなく、乳製品産業には二つの産業形態が存在する。その一つは「都市型」、つまり、 前述した都市・町の周辺地域に進出するタイプの企業行動である。自然条件の制約と乳牛飼育がも たらす環境汚染などが、「都市型」乳製品企業が対応しなければならない主要問題である。もう一 つは、「牧区草原型」である。この特徴は豊富な生乳資源を持つが、消費地までの距離が遠い点に ある。遠距離輸送という制約があるため、「牧区草原型」の乳製品企業の主要製品は加工された粉 ミルクである。近年、大量の外国産の安価な粉ミルクが市場に流入したため、中国産粉ミルクの競 争力が失っており、「牧区草原型」の乳製品企業の生産も深刻な打撃を受けた。Song(2019)は中 国の乳製品産業の様々な問題、特に地理的条件がもたらす乳製品産業への影響を整理して示してい る。そして、Song(2019)の分析から物流と乳製品産業の関連の重要性が理解できる。それは、 新疆の乳製品産業を分析する時に参考の価値がある。しかし、新疆は中国の主要乳製品消費地であ る他の省・大都市までの距離が遠すぎるため、新疆内部での独自の産業性の可能性を模索する必要 もある。  ここで、新疆の主要乳製品メーカーを整理すると表1のようになる。この中で、代表的なメーカー は新疆「西域春」乳業有限会社である。このメーカーは、中国乳業20強の企業である。そして、新 疆現地大型乳製品の生産企業、自治区牧畜庁に属する国営呼図壁種牛場有限会社は、「西域春」乳 業有限会社が100%株式を掌握する完全子会社である。この会社は、新疆昌吉回族自治州呼図壁県 東郊種牛場にあり、烏魯木斉市への距離が72kmと交通アクセスの面での利点を有している。10「西 域春」乳業有限会社は、新疆最大の牛乳生産地の呼図壁種牛場を保有し、牧草栽培や乳牛飼育など の川上に位置する産業から、乳製品の生産を通じて経営、販売、輸送までのサプライチェーンを構 築している。

8  Song Kungang, Honorary President of CNCIDF(The Chinese National Committee of International Dairy Federation).

9  Song Kungang(2019)‘Transformation and Upgrading of China Milk Source Base’, China Dairy Industry Newsletter,Vol.1,pp.6-8.

10  新疆ウイグル自治区西域春乳業有限会社ホームページ(http://xiyuchun.xjsite.com:最終アクセス日2020年

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表1:2018年新疆ウイグル自治区主要乳製品企業 企業名称 所在地 創設時間 主要業務 企業性質 克拉瑪依緑成農業開発有 限責任公司 克拉瑪依市 1997年 乳製品加工 国有独資企業 新疆天潤乳業股分有限責 任公司 烏魯木斉市 1999年 乳製品生産と販売 株式有限会社 新疆瑞源乳業有限公司 クルラー市 2001年 滅菌乳 私営有限責任会社 阿拉爾新農乳業有限責任 公司 アクス地域 2002年 乳製品加工 他の有限責任会社 新疆天潤生物科技股分有 限責任公司 烏魯木斉市 2002年 液体乳生産株式会社 株式会社 麦趣爾集団股分有限公司 昌吉市 2002年 液体乳加工 私営株式有限会社 新疆石河子花園乳業有限 公司 塔城地域 2003年 乳製品生産 他の有限責任会社 新疆西牧乳業有限責任公 司 石河子市 2003年 乳製品生産 他の有限責任会社 沙湾蓋瑞乳業有限責任公 司 塔城地域 2003年 液体牛乳生産 他の有限責任会社 南達新農業股分有限公司 カシュガル市 2004年 乳製品生産 私営株式有限会社 新疆西域春乳業有限責任 公司 昌吉市 2005年 乳製品生産 国有独資企業 烏魯木斉伊利食品有限責 任公司 烏魯木斉市 2006年 乳製品冷凍副食品生産 他の有限責任会社 新疆玉昆仑天然食品工程 有限公司 カシュガル市 2007年 冷凍乾燥の驢馬の粉ミルク 他の有限責任会社 新疆蒙牛乳業有限公司 烏魯木斉市 2012年 乳製品生産 私営有限責任会社 新疆凱瑞可食品科技有限 公司 クルラー市 2012年 乳製品精製加工 私営有限責任会社 * 「他の有限責任会社」:投資人が全て自然人の場合は私営有限責任会社、投資人が1人、ないしは1人以上自 然人ではない場合は「他の有限責任会社」である。  出所:中国客戸網(http://data.ltmic.com)、筆者により整理  乳製品の物流輸送について、生乳加工輸送と経営販売輸送を概ね2つに分けられている。どの段 階であっても、腐りやすい生乳と乳製品の品質管理は一番大切な問題である。そのため、輸送全過 程のコールドチェーンの導入が必要である。ある意味でコールドチェーンは新疆乳製品の経営範囲 を制限している決定的な要因である。コールドチェーンの普及によって乳製品産業は大きく変化す ることができる。  しかし、現段階では新疆の一部の乳製品企業は経営コストを抑えるため、完全なコールドチェー ンを導入していない。また、荷主である乳製品企業自身が物流事業者に頼ることなく自家物流の仕

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組みで乳製品を販売店まで輸送しているケースがほとんどである(王夢嬌 2016)11。王(2016)は、 この論文の中で不完全なコールドチェーンは中小乳製品企業の場合により顕著に見られると論じて いる。一方、「西域春」、「花園」、「天潤」、「蓋瑞」、「麦趣爾」などの大手乳製品企業は、既にコー ルドチェーンを利用して中国の中部地域と東部地域の市場を開拓したことも指摘している。例えば、 2017年4月の報道12によると、毎日およそ10トンの新疆産ヨーグルトが航空輸送で中国内陸部に送 られている。航空輸送を使うことによって、32時間内に大連、鄭州、瀋陽、北京、長春、南京、青 島の7つの都市にヨーグルトを届けることができる。2015年初頭に、新疆産ヨーグルトの航空輸送 が始まったばかりの頃は、毎日の輸送量は1-2トンしかなかった。これは航空輸送はコストがか かるからである。そのため航空輸送で運ばれるよりも多くの新疆ヨーグルトがコールドチェーンの 一部をなす冷蔵トラックで内陸部に輸送されている。「毎日3-4台の冷蔵トラックを用意して80-100トンの新疆産ヨーグルトを中国中部と東部に輸送させている。2-3日ぐらいで到着する」と天 潤の経理は話している。13そして、西域春は華東までのコールドチェーン輸送専用ネットワークを 構築している。このネットワークには上海、南京、杭州、青島などの都市が含まれる。西域春は、 2016年に7万トンのヨーグルトを販売し、そのうち15%が中国の中部・東部地域向けである。  上記のようにコールドチェーン、冷蔵トラック、航空輸送が新疆乳製品産業の近年のキーワード である。技術進歩と近代化された物流システムによって、新疆乳製品産業は新規市場を開拓し、そ の過程で物流と製造業の関連性を強化している。このように、新疆乳製品産業は市場として2つの ターゲットを持っていると言える。1つは地元の新疆市場であり、もう1つは新疆以外の地方市場 である。新疆以外の市場は大きいが、そこをターゲットにすることができるメーカーは限られてお り、したがって新疆以外の市場に進出できるメーカーが立地する地域のみが外部市場と繋がって発 展することができる。それ以外の中小零細メーカーとその立地都市・地域は地理的位置、輸送条件、 管理方法の制約で新疆の現地の消費需要をターゲットとせざるをえない。そのため、新疆域内の輸 送条件が改善しない限り、新疆乳製品産業の発展は限定的となり、また低開発地域の振興は後回し にされることになる。これらのことからも、新疆内部のきめ細かな物流ルートの整備と物流管理能 力の向上は、新疆の経済振興という問題を解決するための根本的な課題である。 (2)作業仮説の提示  以下、新疆経済の振興を物流機能のあり方との関係についての作業仮説を提示する。

11  王夢嬌(2016)‘Research on the Operating Pattern of Supply Chain Implemented by Xinjiang Dairy Product   Enterprises’, Xinjiang Agricultural University, Master Degree Dissertation, pp.20-21.

12  中国新疆網(2017)「新疆酸奶火了 , 每天冷链运輸上百吨到内地」(http://www.chinaxinjiang.cn/zixun/

xjxw/201704/t20170419_551264.htm:最終アクセス日2020年11月23日)

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第1に、乳製品産業を事例とした新疆の産業発展の周期のあり方に関する作業仮説であり、第2に、 新疆の産業振興と物流機能のあり方に関する作業仮説である。 1)作業仮説1:産業振興と物流機能充実の関係の段階性 第1の作業仮説は、上記の産業発展と物流機能充実の間の関係の段階性である。 図2 新疆ウイグル自治区の乳製品産業発展周期         出所:筆者により作成。  図2は筆者が考える新疆の乳製品産業の発展周期を示すものである。図2の示すように、新疆の 乳製品製造業の発展は右肩上がりの曲線で表せる。横軸は市場規模、縦軸は物流要因、両者の共同 作用で乳製品製造業の発展速度(傾き)が決まる。想定する発展段階は、ABCDEの5つに分けら れる。  まずはA、この段階は乳製品製造業の萌芽の時期である。物流はただの輸送手段として生産を支 える。そして、インフラの整備と輸送方式が遅れているため、乳製品を販売できる範囲は乳製品加 工工場の周辺地域に限られる。その影響を受けて市場の規模も拡大できず、物流要因が変化しない 限り経営拡大はなされない。この状況を打破しない限り、外部要因などの影響があると新疆の市場 規模は逆に縮小する。それとともに、Aに囲まれる部分(斜線面積)は小さくなって乳製品産業も 不振となる。  次のB段階では、物流に関するインフラ、輸送手段などが大きく改善され(傾きが大きくなる)、 乳製品製造業の発展を一気に加速させる。しかし、この時、市場は物流の発展がもたらす変化を必 ずしも十分に反映しているとは限らないため、それほど急速に拡大しない可能性がある。具体的に 説明すれば、物流に関するあらゆる投資は資金回収周期が長期に渡るという点と投資金額が大きい という点の2つの特徴があるため、リスクが常に高い。インフラの整備期と供用開始期には、荷主 物流要因 市場規模

A

B

C

D

E

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や物流事業者が当該インフラの将来的な効果を明確に予測できないことからリスク回避のため、関 心が低くなりがちである。もし事前にインフラ整備の効果についての適切な分析ができないことに よって物流施設の整備計画が進まなくなるといった事態になると、潜在的な市場の開発が不可能に なる。このことは、Bに囲まれる部分も大きく変化しないことで表示される。しかし、物流要因の 変化は確実に市場規模の拡大をもたらすので、後の長期的発展ための道を開く。この時期の乳製品 製造業の発展は「幼稚期」に当たり、政府や交通部門はインフラと物流産業を政策的に支援すると いう発展モデルが形成されている時期でもある。  C段階は、市場規模拡大期である。この時期には、インフラ施設の整備と物流産業の革新が進む。 貨物運送の範囲はその変化を応えるように急速に拡大し、それとともに市場規模も拡大する。多数 の企業は、この時期に初めて物流の重要性と物流管理を認識する。新疆乳製品製造業の発展は、こ の段階に本格化すると考えられる。  Dは、成長の安定期である。この段階、インフラ投資の資金回収期と物流産業の模索時期であり、 「物流要因の変化なし」と考えられる。これは、図の中では傾斜角0で表れる。しかし、市場は物 流産業の発展に牽引されて規模が拡大し続けるので、Dに囲まれる面積は増加している。同時に、 この安定成長期は資金、技術の蓄積、独占企業の形成時期である。そして、新しい物流産業の革新 を胚胎する時期でもある。  Eは、新しい循環の発端の時期である。この時期には、新しい物流輸送技術、管理システムの導 入により、物流効率は更なる向上を見せるようになる。同時に、物流は輸送だけでなく、包装、コー ルドチェーン、コンテナ、シームレスな海陸空一体化輸送、情報化など様々な付加価値サービスを 提供できるようになり、それまでの輸送環境に激しい変化をもたらす。図の中では、傾きの大幅の 増大で表されている。しかし、インフラ施設の老朽化と改造は物流要因の改善を制約する主な問題 となる。この時期の市場規模は全世界までに拡大し、近代的な物流は「世界市場一体化」あるいは グローバリゼーションを推進している。 2)作業仮説2:新疆地方圏の経済振興と副物流空間開発の関係  第2の作業仮説は、新疆地方圏の経済振興と副物流空間開発の関係に関するものである。  図2のモデルにより、C段階にある新疆乳製品産業に関連する様々な企業が直面する最大の問題 は、物流の利便性に恵まれないことである。新疆の乳製品生産は、オアシスに依存するため通常の 産業集積が困難である。さらに、オアシスの都市用地は不足し、乳製品産業の都市への進出計画は 資金と政策両方から制限されている。そして、新疆の物流インフラの整備の程度が高い地域は烏魯 木斉のような中心都市であり、中心都市から遠く離れた地方都市の物流が一定程度の発展を示した としても、中心と地方の間の連絡が不十分である。  そのため、中心都市の経済発展の波及効果が地方都市にほとんど及ぶことがなく、地方県は見捨 てられた状態になる。中心都市と地方都市は主要物流空間と位置づけ、見捨てられた地方圏が副物

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流空間と称されるのはこの状況を表現するためである。新疆では、副物流空間に属する都市は少な くない。例えば、新疆北部の博楽や精河や塔城、東部の阜康、トルファン、南部の庫車、ホウタン などは副物流空間の代表的な例である。  新疆の鉄道ルートは、鉄道と道路を含む主幹線という形を取っているので、それによって新疆物 流ネットワークの基本形態を表すことができる。新疆鉄道ネットワークの図3を見ると、鉄道ター ミナルが存在しない沿線地域は副物流空間に当たり、この空間機能の開発は新疆物流産業の発展を 大きく規定すると思われる。新疆の物流産業は、単一の物流センターを整備するだけでは十全に機 能せず、地方都市と中心都市物流圏の間のネットワークの構築が必要である。 図3 新疆ウイグル自治区鉄道ネットワーク    出所:筆者が資料を整理して作成。  前述した新疆の大手乳製品企業のうち、「花園」は石河子、「蓋瑞」は塔城、「麦趣爾」は昌吉に ある。いずれの大手乳製品企業も、これらの都市や地方都市物流圏に立地しており、中心都市圏の 物流を利用しにくい。中心都市と地方都市の中間地域の物流機能の欠失は、乳製品企業の外延的な 発展を阻害する。一方、高品質の牧草はオアシス、山地が地方都市の周辺にあるので、中間地域の 物流機能の強化が有効である。そして、副物流空間機能の開発には、保管機能の強化を中心にする 多機能物流圏産業区の建設が必要である。  まず物流圏区経済は、伝統的な生産・輸送・販売のサプライチェーン全ての機能を一括できる経 済パターンであることが認識される必要がある。具体的には、生産の工場、注文を管理する貿易セ ンター、貨物発送の駅・トラック中心などが全部物流圏区に進出して、高効率の生産協力センター となることである。それは、「輸送途上時間」の浪費を最大限に回避する。

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 新疆の乳製品メーカーの伝統的な生産パターンは、「原材料生産→工場加工→倉庫貯蔵→注文処 理→貨物発送→消費者」というように、生産部門だけでなく倉庫部門、販売部門、輸送部門なども 自社内に持っているのが通常である。このことによって、乳製品メーカーはそのコア・コンピタン スに経営資源を集中することができていない。新疆の乳製品メーカーにとって、物流部門を持つこ とは輸送距離が長くなればなるほどコストが高くなり、経営資源の浪費が拡大する。そうした中、 物流圏区を広範に整備すれば、工場加工から貨物発送までのステップが省略でき、生産パターンは 「原材料生産→物流圏区→消費者」になる。そうすれば、新疆にとっての物流圏区は地域の生産資 源と物流資源の集散地となり、現地の企業は各自の経営資源を物流圏区に過剰に投入し、それから 生じるプラスの集散効果は現地のあらゆる産業が共有できるようになる。このことは現地企業の研 究開発や新製品開発への投資余力も生み出し、新たなコア・コンピタンスの形成をもたらす可能性 がある。このように、副物流空間の物流機能整備を物流圏区の整備という形で進めることによって、 新疆は物流圏区の産業集積のメリットを最大限に発揮でき、資源浪費を回避することができるよう になる。  したがって、第2の作業仮説として新疆における地域倉庫機能の具体的な形について、「物流圏 区→鉄道→物流圏区→高速道路→消費者」を提示したい。鉄道は、安定・高速の輸送手段として新 疆各地域や周辺地域までに貨物を調達でき、そして高速道路で最終の消費者に輸送する経済パター ンである。このパターンが確立することによって、新疆経済発展を制限する在来の生産・物流・販 売問題を一挙に解決できる。 4.結論  現代のグローバリゼーションは、既存の分業体制の解体とともに世界経済の枠組みを変えていく。 デザイン、技術開発、経営などのサービス業は、先進国に集中する一方、製造業は先進国から発展 途上国へ移転している。それは、第二次世界大戦後の数十年間における世界経済発展の趨勢である。 産業移転による技術と資本の移転は、発展途上国に発展初期に必要な資本財をもたらす。そして、 様々な物流ネットワークはその移転ルートとしてグローバリゼーションを推進していく。  一方、中央アジア地域が欧亜大陸の西と東を連結する陸上通路としてヨーロッパと東アジアの経 済関係が緊密に繋がる役割を果たしている現在、その地政学的かつ経済開発面での価値は世界的に 認識され始めている。そして、物流と経済の視点から分析すると、将来中央アジア地域は再び欧亜 大陸の陸上交通交差点となる可能性が高い。  中央アジアの中の「中央」が地理の特徴で、ヨーロッパとアジアの陸上の中心部という意味を持 つ。そして、陸上の中心部は物流産業の発展の基本的要因を持つものである。よく考えると、中央 にあるからこそ、昔から中央アジアは一貫して欧亜大陸の陸上「貨物配送ノード」としての役割を 果たしており、東西文明の交差点として機能していた。現代においても合理的に開発すれば、中央

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アジアは再び東西南北の貨物を自由に調達できるような場所となる条件を持っている。この意味で は、中央アジアが欧亜大陸の「物流圏区」に相当するとも言える。  すなわち、中央アジアの地域発展戦略はグローバリゼーションの発展の趨勢にあって自身の物流 機能を最大限に利用することにかかっている。そして、中央アジア地域にある新疆は、東アジアの 西へ進出するための相対的に安定した窓口としての役割を期待されている。物流ネットワークの構 築やインフラ施設の改善は、新疆の輸送効率を向上させることができ、長期の視点から見れば世界 の物流ネットワークの不十分なルート・拠点を補い、将来の国際貿易に新しい輸送ルートを開拓す るという特別の意義がある。  一方で、現在の新疆においては物流圏区とそこで物流機能を担う倉庫業を発展させることによっ て、コストやリスクも抑えて短期的に投資効果が見込める。さらに、これら多数の物流圏区を物流 ネットワークでつなげると新疆全体を世界経済と結びつけ、新疆の低開発地域の経済振興も推進す ることが可能になるかもしれない。そのためには、生産・倉庫・物流・貿易の産業交差点であり、 また多機能の総合エリアである物流圏区の整備を進める必要がある。  しかし、現実の状況は複雑である。現在、原材料生産地はその多くが高山牧場、オアシス、ゴビ 草原などの中央都市圏から遠い地方都市の周辺や中間地域にあるため、それらの地域の物流能力は 低く、管理が不十分なため、専門的な物流圏区の建設を行うことが困難である。一方、物流圏区の 建設、副物流機能空間の開発は短期内に実現できるものではないため、実現の前に厳密な論証を行 う必要がある。  次稿以降では、本稿で示した作業仮説を検証していくこととする。 参考文献

1.Xinjiang Statistical Yearbook各年度版。

2.China Basic Statistical Units Yearbook各年度版。

3. Liu Weiren(2013)‘General Layout Planning of Urumqi Hub’Railway Transport and Economy,Vol.36,No.2,pp.4-10.

4. Gong Taotao(2018)‘A study on Hami South Railway Logistics Center Planning’Railway Transport and Economy,Vol.41,No.4,pp.70-75.

5. Ning Jilong(2019)‘A Tentative Study on Development and Planning of Xinjiang Railway Network’Railway Transport and Economy,Vol.41,No.4,pp.101-106.

6. Wang Hairui(2017)‘Research on the Construction of Xinjiang Logistics Network Based on the Theory of Hub and Spoke’, Master Degree Dissertation, Shihezi University.

7. Sun Shanxiang(2017)‘The Spatial Structure of Xinjiang Regional Logistics Characteristics, Problems and Optimization’,Master Degree Dissertation, Shihezi University.

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8. Song Kungang(2019)‘Transformation and Upgrading of China Milk Source Base’, China Dairy Industry Newsletter,Vol.1,pp.6-8.

9. 石原伸志(2005)「フォワーダーから見た中国物流に関する一考察」、『日本物流学会誌』、第13 号、pp.19-26。

10. 呉昌元(1992)「新疆鉄路発展対策」、『鉄路輸送与経済』、No.9、pp.6-8。

11. 王夢嬌(2016)‘Research on the Operating Pattern of Supply Chain Implemented by Xinjiang Dairy Product Enterprises’,Xinjiang Agricultural University, Master Degree Dissertation, pp.20-21. 12. 新疆ウイグル自治区西域春乳業有限会社ホームページ(2020)(http://xiyuchun.xjsite.com: 最終アクセス日2020年11月23日) 13. 中国新疆網(2017)「新疆酸奶火了, 每天冷链运輸上百吨到内地」(http://www.chinaxinjiang. cn/zixun/xjxw/201704/t20170419_551264.htm:最終アクセス日2020年11月23日) 14.中国客戸網(2018)(http://data.ltmic.com:最終アクセス日2020年11月24日)

参照

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