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有責配偶者からの離婚請求(1)

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愛知工業大学研究報告

第26号 A 平成 3年

有 責 配 偶 者 か ら の 離 婚 請 求 (

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有責配鵠者からの離婚請求

はじめに 今日の裁判離婚においてもっとも注目される問題は、有責配偶者から の離婚請求が認められるか、ということである。この問題につき、昭和 六二年九月二日最高裁判所大法廷は、 ﹁有責配偶者からの請求であると ( 1 ) の一事をもって﹂離婚を許されないものではないと判決した。 周知のごとく、従来、最高裁判所は、この問題につき有責配偶者から ( 2 ︺ の離婚請求をまったく否定する立場をとっていたし、一部の有力な反対 i A i ( 3 ) ( 4 ) 説があったものの、多数の学説も判例の結論を是認していた。 前記大法廷判決は、このような判例・学説の流れに対して、今後どの ような影響を及ぼすであろうか。すなわち、この判決がその後の最高裁 判例および下級審裁判例にどのような影響を与え、また学説は、大法廷 判決をどのように理解し、どのような方向へと進むであろうか。極めて 有 責 配 偶 者 か ら の 離 婚 請 求 興味のある問題である。 小稿では、みぎの問題を考察する一助として、前記大法廷判決を分析 し、大法廷判決がその後の最高裁判例および下級審判決例にどのような 影響を与えたか、またその後の最高裁判例および下級審判決例が前記大 法廷の明確でない部分をどう補っているかということを検討する。 2 最高裁昭和六二年九月二日大法廷判決の評価 ﹀

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( 最高裁昭和六二年九月二日大法廷判決

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まず、前記大法廷判決の事実の概要および判旨を紹介しよう。 [ 事 実 の 概 要 ︺ X 男(原告・控訴人・上告人 ) Y 女(被告・被控訴 人・被上告人)は昭和一二年二月一日婚姻したが、子がなかったため、 昭和二三年 A 女の子を養子とした。ところが、昭和二四年頃 X が A と継 続していた不貞関係を Y が知ってから X Y 聞に不和が生じ、同年八月 X X と別居後生活に窮し、昭 が A と同棲をし、今日に至っている。 Y は 、 和二五年 X から生活保障のため処分権を与えられていた居住家屋を二四 万円で処分し、実兄の家の一部屋を借り、みぎ処分金を生活費にあてる とともに、昭和五三年頃まで人形屈に勤務するなどして生活をたててい たが、現在は無職で資産もなく、 X からの援助もみぎ建物の件を除いて まったくない。一方、 X は三つの会社の取締役を勤め、経済的に極めて 安定した生活状態にある。 X は昭和二六年頃一度離婚請求をしたが、 X A 聞の不貞行為、悪意の遺棄による有責配偶者の離婚請求であるとして 1 斤けられた。昭和五九年、 X は再度離婚調停を申し立てたが、調停は不 調に終わったので、本件訴訟を提起した。なお、 X はみぎ調停で財産上 の給付として現金一

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万円と絵画一枚の提供を申し出ている。 第一審は、 ﹁三五年余にわたる別居が継続し、夫婦問の婚姻関係が形 骸化して久しいような場合においては、有責配偶者からの離婚請求であ ることの一事をもってただちにその請求を排斥することは相当でないと の考えも成立ちうる﹂けれども、①﹁既に昭和二九年に X からの離婚請 求が排斥されて訴訟上確定している経緯がある﹂、②﹁ Y は現在実兄の -一部屋を使用して細々と生活し、固有の財産は何もなく、その生活 教 養 部

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基 盤 は 必 ず し も 安 定 し た も の と は い え ず 、 今 後 の 生 活 も そ の 多 く を 実 兄 ら同居者の善意によらざるを得ない﹂、③﹁ X は経済的には安定してい る と こ ろ 、 離 婚 に 伴 う 相 応 の 財 産 給 付 を な す 意 思 に 乏 し く 、 別 居 が 継 続 している間 Y に 対 す る 経 済 的 援 助 を 全 く す る こ と な く 、 破 綻 し た 婚 姻 関 係 の 調 整 な い し 整 理 に 真 剣 な 努 力 の 跡 が う か が え な い ﹂ と い う ﹁ 特 別 の 事情のある本件においては、専ら婚姻関係の破綻を招来したものとして、 自E 有責配偶者である X の 本 訴 離 婚 請 求 を 認 め る こ と は 信 義 誠 実 の 原 則 に 徴 ( 5 ) し 相 当 で な い と い わ ざ る を 得 な い ﹂ と 判 示 し 、 本 訴 を 棄 却 し た 。 第 二 審 も、第一審判決を支持した。 X は 、 X Y 問 の 婚 姻 関 係 は 破 綻 し 、 共 同 生 活 を 営 む 意 思 を 欠 い た ま ま 三 五 年 余 の 長 期 に わ た り 別 居 を 継 続 し た こ と 、 ま た X は別居にあたって 当 時 有 し て い た 財 産 の 全 部 を Y に給付したのであるから、 Y に対し、民 法 七 七

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条一項五号に基づき離婚を請求しうるとして、上告した。 [ 判 決 理 由 ] ﹁ 民 法 七 七

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条 は 、 i i 法 定 の 離 婚 原 因 が あ る 場 合 で も 離 婚 の 訴 え を 提 起 す る こ と が で き な い 事 由 を 定 め て い た 旧 民 法 八 一 四 条ないし八一七条の規定の趣旨の一部を取り入れて、二項において、 島

I ノ 直 二 号 な い し 四 号 に 基 づ く 離 婚 請 求 に つ い て は 右 各 号 所 定 の 事 由 が 認 め ら れ る 場 合 で あ っ て も 二 項 の 要 件 が 充 足 さ れ る と き は 右 請 求 を 棄 却 す る ことができるとしているにもかかわらず、 一項五号に基づく請求につい て は か か る 制 限 は 及 ば な い も の と し て お り 、 二 項 の ほ か に は 、 離 婚 原 因 に 該 当 す る 事 由 が あ っ て も 、 離 婚 請 求 を 排 斥 す る ご と が で き る 場 合 を 具 体 的 に 定 め る 規 定 は な い 。 こ の よ う な 民 法 七 七

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条 の 立 法 経 緯 及 び 規 定 の 文 言 か ら み る 限 り 、 同 条 一 項 五 号 は 、 夫 婦 が 婚 姻 の 白 的 で あ る 共 同 生 そ の 回 復 の 見 込 み が な く な っ た 場 合 に は 、 夫 婦 活を達成しえなくなり、 の 一 方 は 他 方 に 対 し 、 訴 え に よ り 離 婚 を 請 求 す る こ と が で き る 旨 を 定 め た も の と 解 さ れ る ﹂ の で 、 五 号 所 定 の 事 由 に つ き ﹁ 責 任 の あ る 一 方 の 当

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事 者 か ら の 離 婚 請 求 を 許 容 す べ き で な い と い う 趣 旨 ま で を 読 み と る こ と は で き な い ﹂ 。 他 方 、 離 婚 に つ き 夫 婦 の 意 思 を 尊 重 す る た め に 、 協 議 離 婚 等 の 制 度 を も う け る と と も に 、 ﹁ 相 手 方 配 偶 者 が 離 婚 に 同 意 し な い 場 合について裁判上の離婚の制度を設け、:・:・離婚原因を法定し、これが 存 在 す る と 認 め ら れ る 場 合 に は 、 夫 婦 の 一 方 は 他 方 に 対 し て 、 裁 判 に よ り 離 婚 を 求 め う る こ と と し て い る 。 こ の よ う な 裁 判 離 婚 制 度 の 下 に お い て 五 号 所 定 の 事 由 が あ る と き は 当 該 離 婚 請 求 が 常 に 許 容 さ れ る べ き も の と す れ ば 、 自 ら そ の 原 因 と な る べ き 事 実 を 作 出 し た 者 が そ れ を 自 己 に 有 利 に 利 用 す る こ と を 裁 判 所 に 承 認 さ せ 、 相 手 方 配 偶 者 の 離 婚 に つ い て の 意 思 を 全 く 封 ず る こ と と な り 、 つ い に は 裁 判 離 婚 制 度 を 否 定 す る よ う な 結 果 を も 招 来 し か ね な い の で あ っ て 、 右 の よ う な 結 果 を も た ら す 離 婚 請 求が許容されるべきでないことはいうまでもない。 i i 婚姻の本質は、 両 性 が 永 続 的 な 精 神 的 及 び 肉 体 的 結 合 を 目 的 と し て 真 撃 な 意 思 を も っ て 共 同 生 活 を 営 む こ と に あ る か ら 、 夫 婦 の 二 万 又 は 双 方 が 既 に 右 の 意 思 を 確 定 的 に 喪 失 す る と と も に 、 夫 婦 と し て の 共 同 生 活 の 実 体 を 欠 く よ う に なり、その回復の見込みが全くない状態に至った場合は、当該結婚は、 も は や 社 会 生 活 上 の 実 質 的 基 礎 を 失 っ て い る も の と い う べ き で あ り 、 か かる状態においてなお一戸籍上だけの婚姻を存続させることは、かえって 不 自 然 で あ る と い う こ と が で き よ う 。 し か し な が ら 、 離 婚 は 社 会 的 ・ 法 的 秩 序 と し て の 婚 姻 を 廃 絶 す る も の で あ る か ら 、 離 婚 請 求 は 、 正 義 ・ 公 平 の 観 念 、 社 会 的 倫 理 観 に 反 す る も の で あ っ て は な ら な い こ と は 当 然 で あ っ て 、 こ の 意 味 で 離 婚 請 求 は 、 身 分 法 を も 包 含 す る 民 法 全 体 の 指 導 理 念 た る 信 義 誠 実 の 原 則 に 照 ら し て も 容 認 さ れ う る も の で あ る ご と を 要 す る も の と い わ な け れ ば な ら な い ﹂ 。 そ こ で 、 五 号 所 定 の 事 由 に よ る 離 婚 請 求 が 有 責 配 偶 者 か ら さ れ た 場 合 に 、 ﹁ 当 該 請 求 が 信 義 誠 実 の 原 則 に 照 ら し て 許 さ れ る も の で あ る か ど う か を 判 断 す る に 当 た っ て は 、 有 責 配 偶 者 の 責 任 の 態 様 。 程 度 を 考 慮 す べ き で あ る が 、 相 手 方 配 偶 者 の 婚 姻 継 続 に つ い て の 意 思 及 び 請 求 者 に 対 す る 感 情 、 離 婚 を 認 め た 場 合 に お け る 相

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手方配偶者の精神的・社会的・経清的状態及び夫婦間の子、殊に未成熟 の子の監護・教育・福祉の状況、別居後に形成された生活関係、たとえ ば夫婦の一方又は双方が既に内縁関係を形成している場合にはその相手 方や子らの状況等が島酌されなければならず、更には、時の経過ととも に、これらの諸事情がそれ自体あるいは相互に影響しあって変容し、ま た、これに与える影響も考慮されなければならないのである﹂。そうで あるならば、﹁有責配偶者からされた離婚請求であっても、夫婦の別居 が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間に及び、 その間に未成熟子が存在しない場合には、相手方配偶者が離婚により精 神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容 することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情のない限 り、当該請求は有責配偶者からの請求であるとの一事をもって許されな いとすることはできないものと解するのが相当である。けだし、右のよ うな場合には、もはや五号所定の事由に係る責任、相手方配偶者の離婚 による精神的・社会的状態等は殊更に重視されるべきものでなく、また、 相手方配偶者が離婚により被る経済的不利益は、本来、離婚と同時又は 離婚後において請求することが認められている財産分与又は慰籍料によ り解決されるべきものであるからである﹂。本件においては、﹁ X と Y との婚姻については五号所定の事由があり、

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は有責配偶者というべき で あ る が 、 X と Y との別居期間は、原審の口頭弁論終結時まででも約三 有 責 配 偶 者 か ら の 離 婚 請 求 六年に及び、同居期間や双方の年齢と対比するまでもなく相当の長期間 であり、しかも、両者の聞には未成熟の子がいないのであるから、本訴 請求は前示のような特段の事情がない限り、これを認容すべきものであ る﹂が、﹁右特段の事情の有無につき更に審理を尽くす必要があるうえ、 Y の申立いかんによっては離婚に伴う財産上の給付の点についても審理 判断を加え、その解決をも図るのが相当であるから、本件を原審に差し 戻す﹂とした。 なお、裁判官角田雄次郎、岡林藤之輔は、相手方配偶者が離婚により 被る経済的不利益は離婚と同時または離婚後に財産分与または慰藷料を 請求すれば足りるとする多数意見に対し、つぎのような補足意見を述べ ている。すなわち、相手方配偶者の経済的不利益を、その者の﹁主導に よって解決しようとしても、相手方配偶者が反訴により慰籍料の支払を 求めることをせず﹂、また人訴法一五条一項による﹁財産分与の附帯申 立もしない場合には、離婚と同時には解決されず、あるいは、経済的問 題が未解決のため離婚請求を排斥せざるをえないおそれが生ずる。一方、 経済的不利益の解決を相手方配偶者による離婚後における財産分与等の 請求に期待してその解決をしないまま離婚請求を認容した場合において は、相手方配偶者に対し、財産分与等の請求に要する時間・費用等につ き更に不利益を加重することとなるのみならず、経済的給付を受けるに 至るまでの間精神的不安を助長し、経済的に困窮に陥れるなど極めて苛 酷な状態におくおそれがあり、しかも右請求の受訴裁判所は、前に離婚 請求を認容した裁判所と異なることが通常であろうから、相手方配偶者 にとって経済的不利益が十全に解決される保障がないなど相手方配偶者 に対する経済的不利益の解決を実質的に保障するためには、更に検討を 加えることが必要である﹂。民法七六八条は、﹁離婚をした者の一方は 相手方に対し財産分与の請求ができ、当事者間における財産分与の協議 3 は不調・不能なときは当事者は家庭裁判所に対して右の協議に代わる処 分を請求することができる旨を規定しているだけであって、右規定の文 言からは、協議に代わる処分を請求する者は財産分与を請求する者に限 る趣旨であるとは認められない。また、人訴法一五条一項に定める離婚 訴訟に附帯してする財産分与の申立は、 i i 分与の額及び方法を特定し てすることを要するものではなく、単に抽象的に財産分与の申立をすれ ば足り i i 、裁判所に対しその具体的内容の形成を要求すること、言い 替えれば裁判所の形成権限の発動を求めるにすぎないのであって、通常

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の民事訴訟におけるような私法上の形成権ないし具体的な権利主張を意 味するものではないのであるから、財産分与をする者に対して、その旦( 体的内容は挙げて裁判所の裁量に委ねる趣旨でする申立を許したとして も、財産分与を請求する側において何ら支障がないはずである。更に実 質的にみても、財産分与についての協議が不調・不能な場合には、財産 分与を請求する者だけではなく、財産分与をする者のなかにも一日も早 く協議を成立させて婚姻関係を清算したいと考える者のあることも当然 のことであろうから、財産分与について協議が不調・不能の場合におけ る協議に代わる処分の申立は財産分与をする者においてもこれをするこ とができると解するのが相当というべきである﹂として、 ﹁人訴法一五 日 日 条一項による財産分与の附帯申立は離婚請求をする者においてもするこ とができる﹂とした。こうすることにより、﹁有責配偶者から離婚の訴 えが提起され、相手方配偶者の経済的不利益を解決しさえすれば請求を 認容しうる場合において、相手方配偶者が、たとえば意地・面子・報復 感情のために、慰藷料請求の反訴又は人訴法一五条一項による財産分与 の附帯申立をしようとしないときは、有責配偶者にも財産分与の附帯申 島

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/ 立をすることを認め、離婚判決と同一の主文中で相手方配偶者に対する 財産分与としての給付を命ずることができることになり、相手方配偶者 の経済的不利益の問題は常に当該裁判の中において離婚を認めるかどう かの判断との関連において解決され﹂るとする。 これに対して、裁判官佐藤哲郎の意見は、﹁有責配偶者からされた離 婚請求が原則として許されないとする当審の判例の原則的立場を変更す る必要を認めないが、特設の事情のある場合には有責配偶者の責任が阻 却されて離婚請求が許容される場合がありうると考える﹂ので、﹁多数 意見の結論には賛成するが、その結論に至る説示には同調することがで 42 き

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な し 、 ' -ー と す る ( 6 ︺ 大法廷判決に対する評価 明 大 法 廷 判 決 の 構 成 大法廷判決は、一般論としては、有責配偶者の離婚請求は具体的事情 のいかんによって認められる場合もあり、逆に認められない場合もある とし、本件については、その具体的事情から X の離婚請求を認めた。 その理論構成は、要約すると、つぎのとおりである。⑦民法七七

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条 一項五号は、有責配偶者からの離婚請求を認容すべきでないという趣旨 まで読みとることはできない。同条二項の規定は、一項一号から四号に までは機能するけれども、一項五号には機能しないからである。←③自 らその破綻原因を作出した者の離婚請求を認めることは、裁判離婚制度 を否定するような結果を招くことになるので認められない。←⑨本来、 正義公平の観念、社会的倫理観に反する離婚請求は認められないので、 信義誠実の原則に反する有責配偶者の離婚請求は否定される。←③信義 誠実の原則に反する離婚請求かどうかは、①有責配偶者の責任の態様 a 程度、②相手方配偶者の婚姻継続についての意思および請求者に対する 感情、③離婚を認めた場合における相手方配偶者の精神的・社会的・経 済的状態、④夫婦問の未成熟の子の監護・教育・福祉の状況、⑤別居後 に形成された生活関係、たとえば夫婦の一方又は双方がすでに内縁関係 を形成している場合にはその相手方や子らの状況、⑥時の経過によるこ れらの諸事情の変容、を考慮しなければならない。←②その判断基準は、 ①夫婦の別居が相当の長期に及んでいること、②その聞に未成熟子がい ないこと、③相手方配偶者が離婚によって、精神的・社会的・経済的に 極めて苛酷な状態におかれることがないこと、という三つの要件に集約 される。この要件に該当すれば、離婚請求が信義誠実の原則に反しない ので、有責配偶者であっても離婚請求が認められることになる。 刊 大 法 廷 判 決 の 特 徴 大法廷判決は、有責配偶者と認定されればまったく離婚請求を認めな かった従来の判例を変更した。 たとえ有責配 つまり、本判決の特徴は

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偶者であるとしても原則として離婚請求を認めうるとし、その要件を示 したことにある。もっとも、このことはすでに近年の下級審裁判例が採 ( 7 ) 用していたものであり、最高裁が下級審裁判例を原則として承認したも ( 1 ) のと理解しえよう。 ただ、大法廷判決は、端的に婚姻が破綻していれば直ちに離婚を認め ( 8 ) るとしたのではないことに注意しなければならない。すなわち、本判決 は、第一に離婚を請求した者が有責配偶者かどうかを判断し、有責配偶 者からの離婚請求であると認定した場合には、たとえその婚姻が破綻し ていたとしても、離婚請求が信義誠実の原則に反する場合には離婚を認 めないとする立場を明確にし、離婚請求が信義誠実の原則に反するかど うかの要件を掲げた点に特徴があるのである。また、大法廷判決と原審 判決の違いにも注目すべきである。もちろん、原審判決が、これまでの 下級審判決の流れを採用し、有責配偶者の離婚請求であったとしても信 義誠実の原則に反しない限り離婚を認めるとしたことは、大法廷判決と 異ならない。両者が異なる点は、信義誠実の原則に反するかどうかを考 慮する要件である。すなわち、原審判決は、前示したように大法廷より も広い範囲の基準を示しているのである。よって、以下においては、大 法廷判決がなにゆえに前記的②の①から③の要件を採用したかを、判決、 ( 9 ) 最高裁判所調査官の判例解説などによって、確認しよう。 肋 離 婚 請 求 が 信 義 誠 実 の 原 則 に 反 す る か ど う か の 判 断 大法廷判決は、有責配偶者からの離婚請求が信義誠実の原則に照らし て許されるものかどうかを判断するにあたって、島酌すべき事情として、 前記的③①から⑥までの基準を考慮しなければならないと判示した。こ こで軒酌された判断基準が、結論的には、前記的⑧の①から③の三つの 要件に集約される。この判断基準がなにゆえに三つの要件に集約される ( 旧 ) のかは、いまひとつはっきりしない。したがって、この関係を明らかに 大法廷判決以後の裁判例が、信義誠実の原則を適用する するためにも、 三要件だけを検討することになるのか、それともこれらの 判断基準をも劃酌するのか、という点を注目すべきであろう。 つぎに、大法廷判決が示した三要件の検討に入ろう。 大法廷判決は、﹁夫婦の別居が長期間に及ぶ場合は、長期別居により にあたって、 法律上の婚姻が空洞化している事実及び重婚的内縁という事実を直視す この場合に﹁なお考慮す べきは、相手方配偶者が離婚により被る苛酷な状況からの救済と未成熟 子 に 対 す る 監 護 養 育 の 確 保 に 限 ら れ る こ と に な る ﹂ と い う 観 点 か ら 、 ﹁夫婦が長期間別居し、客観的に婚姻が回復不能な状態に達し破綻した 原則として離婚を認めるという原則的破綻主義 ることこそ重要であると考えるべき﹂であり、 と認められるときには、 を採り、例外として、ロ a e -当該婚姻の解消(離婚)を認めるのが正義の 観点から許されないと判断すべきときに限って、離婚請求を棄却する﹂ ( 日 ︺ こととしたものであろう。ここから、前記的⑧の①から③の三要件が導 き出されている。 5 第一の要件は、﹁相当長期間の別居﹂をすることである。別居期間は、 ﹁有責配偶者からの請求の否定法理を排斥する要件として、::・有責性 等の諸事情から解放するに足りるものでなければならず、したがって相 ( 日 ) 当の長期間であることが必要である﹂という。では、具体的にどの程度 の期間別居していたら、﹁相当の長期間﹂といえるか。大法廷判決の事 案は、別居期間が三六年にもおよぶものであったので、判旨は﹁対比す るまでもなく﹂相当の長期間としている。それゆえ、どの程度の別居期 間があれば﹁相当長期間の別居﹂といえるかは、本判決からは明確にな ら な い 。 ただ、事件を担当した調査官は﹁一

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年にも満たないような場 合には、同居期間や阿当事者の年齢と対比して相当の長期間とはいえな ( 日 ) いと判断されることがありえよう﹂との指摘をしている。この点につい ては、大法廷以後の判決を検討することが必要となろう。 大法廷判決は、第二の要件として ﹁未成熟子がいないこと﹂を必要

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とする。夫婦の別居期間が長期にわたる場合には、大法廷判決の事実も そうであるように、未成熟子が存在しない場合が多いと考えられる。し かし、﹁未成熟子が存在する場合には、原則どおり、子の利益について 劃酌しなければならない﹂のである。したがって、﹁未成熟子が存在す [ 事 案 ︺ X 男と Y 女は昭和二七年婚姻をし、三人の子供をも n つ けた。当初から意思の疎通が欠けていたが、昭和四五年七月頃から X の女性問題が原因となって、しだいに夫婦問に溝が生ずるように なった。昭和五周年九月頃、 X は、ある売春組織の会員になってい る場合には、 たことが新聞沙汰になり、 それが原因で勤め先を退職した。昭和五 X は Y と十分な話し合いもないまま、喫茶屈を営んでい おそらく離婚によって子の家庭的・教育的 e 精神的 e 経済 的状況が根本的に悪くなり、その結果、子の福祉が害されるごとにな ( H ) るような特段の事情があるときには、離婚をすることが許されない﹂と 五 年 四 月 、 たビルの二階に居を移して、 Y のもとにかえらなくなった。現在、 いうことになるのであろう。ここでいう﹁未成熟の子﹂というのは、親 の監護がなければ生活を保持しえない子の意味であって、必ずしも自然 ( 目 ) 年齢に関するものではない。この点についても、大法廷判決以後の事例 X 名義の建物に単身で住み、その一部の賃貸による賃料、貸 家の賃料を得て生活している。他方、 X は、喫茶庖からの収益、貸 Y は 、 事務所の賃料と厚生年金および企業年金で生活している。 自

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を検討しなければならない。 大法廷判決は、第三の要件として、﹁精神的@社会的。経済的に苛酷 な状態に陥らないこと﹂を要求している。これについては、 つぎのよう ( 判 旨 ] ﹁ X と Y との間の子三名は既に成年に達して就職し、 経済的にも独立しているといえるが、双方の別居生活は、その合意 によるものでない上に、昭和五五年四月からであって、必ずしも相 島 に説明されている。 当の長期間にわたっているものということはできず、また前示の如 き Y の資産、収入の状況を考えると、今後における Y の経済的基盤

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ノ ﹁まず、苛酷な状態は婚姻の破綻によって生じるも のでは足りず、離婚自体に起因するものであることを要する。右特段の 事情は、相手方に例外的に期待不可能な著しい過酷さをもたらすことを したがって異常な事情に起因する例外的な著しい過酷さ も到底安定しているものとはみられないので(:::現に前記丁原の 意 味 す る : 家の一部の賃貸借をめぐり X が賃借入である第三者に明渡を求める などの問題が発生していることが認められるし、 i i 離婚が成立し X は Y に対し、全財産の半分程度は分与してもよいとか、 た 場 合 は 、 であることを必要とするため経済的理由による過酷条件の適用の余地は かなり狭く、また、夫婦の別居が長くなればなる程、右事情は認め難く ( 日 ︺ なるであろう﹂と。離婚請求を制約するものとされる精神的・社会的・ 経済的苛酷状態の具体的内容も今後の判例の発展を検討する必要があろ 右丁原の家の敷地の二分の一を分与しその余は自らの生活設計のた めに処分するほか Y に対してはさらに月々の生活費を送って老後の h つ 。 生活が成り立つよう配慮するというのみであって、その方策につい ては具体性を欠くばかりか Y が現に居住している右丁原の家屋全部 3 大法廷判決以後の裁判例の動きおよびその評価 を Y のため確保ないし分与する意思もなく、 Y の今後の住居場所に っき殆ど配慮していないことが窺われる。 ) i i 加えて右 X 本人の 40 ︹ 事 例 一 ︺ 大法廷判決以後に出された裁判例 ︹円) 東 京 高 判 昭 和 六 二 年 九 月 二 四 日 │ 棄 却 ( 確 定 ) いうところによれば、

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離婚によって相互にすっきりした気持ち になって財産関係も整理した上、老後を楽しむことに本件離婚を求

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め る 主 眼 が あ る と い う の で あ る か ら そ の 申 し 条 に は い さ さ か 身 勝 手な面があるものと認められる﹂。 本 判 決 は 、 前 記 大 法 廷 判 決 の 要 件 に し た が っ て な さ れ た 最 初 の 裁 判 例 で あ る 。 判決は 一要件のうち ①﹁相当長期間の別居﹂ お よ び ③ ﹁ 精 神的@社会的・経済的に苛酷な状態に陥らないこと﹂ の要件を満たして いないとして 有責配偶者の離婚請求を認めなかった。 とくに注目すべ き 占 川 は ③ の 要 件 を 満 た し て い な い 理 由 と し て 、 離 婚 が 成 立 し た 場 合 に ( 1 ) 妻の経済的状況が悪くなることを強調していることであろう。 ( 日 ) 東京高判昭和六二年一

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月 八 日 │ 取 消 ( 上 告 ︹ 事 例 二 ︺ 事 案 X 男と Y 女は 昭 和 四 五 年 一 月 頃 知 り 合 い X が Y 宅 有 責 配 偶 者 か ら の 離 婚 請 求 にときどき通うという生活が続いていた。 昭 和 五 一 年 一 月 に A の出 生 届 と と も に 婚 姻 届 出 を し た が 依 然 と し て X が Y 宅 を 訪 れ る と いう生活が続いていた。 X は 定期的に Y に 対 し て 生 活 費 を 入 れ る X の 優 柔 不 断 な 態 度 に 不 満 も あ っ た が 、 X と の 変 則 的 な 婚 姻 生 活 も や む を え な い 現 実 と 受 け と め 、 事 業 の金融業。美術品販売業に打ち込み、不動産等も購入した。 X は Y ということもなかった。 Y は 、 の 経 済 力 や 行 動 力 に 劣 等 感 e 疎外感をもっていたが、昭和五八年一 二 月 頃 、 生 活 を 立 て 直 す べ く X 宅 で 同 居 す る こ と を 提 案 し た が 、 容 れられなかった。原審は、婚姻関係が破綻したのは、 Y の側にも責 任があるとし、未成熟子がいるとしながらも、 Y が 経 済 的 に 困 る こ ともないとして、離婚請求を認めた。 Y から控訴。 [ 判 旨 ] ﹁今日の両者の婚姻の破綻の原因の多くは X の側にあ り 、 i i Y は 現 在 事 業 不 振 と な っ て 廃 業 し 、 経 常 的 収 入 の 道 を 失 つ ており、経済的生活に不安があること、 A は X Y 双 方 に 対 し て 等 し く 慕 っ て い る う え 、 家 族 関 係 が 強 く 影 響 す る 年 代 に 差 し 掛 か っ て い ることに鑑みると、 両 者 の 婚 姻 関 係 を 解 消 す る こ と は 妥 当 な も の と はいえない﹂。 本判決の事案は、準婚期間が長く、 同 居 も し て い な い と い う 点 で 、 若 干特徴がある。原審が、 は、未成熟子の存在、 有責配偶者の離婚請求を認めたのに対し、 高 裁 および離婚後の経済的生活に不安があることから、 離婚請求を認めなかった。 ヘハリリ J 東京高判昭和六二年一

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月二

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日 ! 棄 却 ( 確 定 ) [ 事 案 ] X 男 Y 女は、昭和四二年婚姻し、二一子をもうけた。 Y が自己中心的、勝気であり、 X 側親族との融和を損ない、洋口問庖経 営 者 と し て の X に 対 し 、 安 ら ぎ を 与 え ず 、 か え っ て そ の プ ラ イ ド を 傷つけるような言動におよんだことから、 X の生活に乱れが生じ、 つ い に 、 X 自ら別居するに至り、その前後頃から、 X は A 女と交際、 同棲し、同女との聞に一子をもうけ、その認知をしている。 Y は 、 現 在 、 X か ら 一 か 月 一 七 万 五 千 円 づ つ の 仕 送 り を 受 け 、 実 家 か ら の 士一子を養育している。原審は、有責配偶者の離婚請 ︻事例三] 援助もあって、 求であるとして、棄却。 X から控訴。 7 ﹁ X と Y と の 同 居 期 間 は 約 一 一 年 半 で 双 方 の 年 齢 は 現 在 そ れ ぞ れ 四 六 歳 と 四 三 歳 で あ っ て 、 こ れ ら に 対 比 す る と 、 別 居 期 間 約 八 年 を 以 て 相 当 の 長 期 間 と す る に は 足 り な い の み な ら ず 、 両 者 の 間 に は 、 い ず れ も 未 成 熟 の 長 男 ( 一 八 歳 ) 、 長 女 二 七 歳 ) 及 び 二 男 ( 一 二 歳 ) の 三 子 が あ る の で あ る か ら 、 そ の 他 Y がこれら三子 の 監 護 、 教 育 に 携 わ っ て い る こ と な ど を 勘 案 す る と 、 た と い X にお い て 自 己 の 側 に 婚 外 子 を 抱 え な が ら 右 三 子 の た め に 前 記 金 員 の 仕 送 り を し て い る 等 の 事 情 を 劃 酌 し で も 、 こ の 離 婚 請 求 は 、 民 法 一 条 二 項の信義誠実の原則に照らして容易に肯認し難い﹂。 本 判 決 も 、 約 八 年 の 別 居 期 間 は 相 当 の 長 期 間 と す る に は 足 り な い こ と 、 お よ び 未 成 熟 子 が 存 在 す る こ と を 理 由 と し て 、 有 責 配 偶 者 か ら の 離 婚 請 求を棄却した。 判 旨 [ 事 例 四 ︺ (剖) 一 月 二 四 日 認 容 最 判 昭 和 六 二 年

(9)

[ 事 案 ] X 男 Y 女は、昭和二七年六月婚姻し一子をもうけたが、 X は、昭和三一年四月頃、単身で上京し、昭和三二年末頃、 A と同 棲を始めた。 Y は、昭和三三年春右同棲を知り、その後も何回か話 し合いがもたれたが、まとまらなかった。昭和四八年頃、 Y は、上 京 し 、 B と同居することになった。 X は、引っ越し荷物の運搬、種 々の手続などで Y を援助し、その後も、借家の家賃を援助したりし た 。 Y は昭和五六年春以来、現住所で一人で、年金により生活をし ている。また、Xの再三の離婚申し入れに対し、婚姻した以上どん なごとがあろうと戸籍上の夫婦の記載を守りぬきたいと主張してい る 。 他 方 、 A は、Xや Y に離婚を要求したこともなく、 Y や B に対 する配慮から妊娠を避け、長年にわたって X に尽くしてきて既に老 境を迎えており、 X はこうした A の誠意、愛情に応える気持ちから、 Y に対し夫婦関係調整の調停の申立をしたが、 Y が四度の調停期日 月に離婚調停の申立をしたが、合意に達する見込みがないとして取 り下げたのち、昭和四七年二月に長男 B を伴って別居した。その三 か月後に、元従業員の A と同居をした。原審は、有責配偶者の離婚 請求であるとして X の請求を棄却した。 X か ら 控 訴 。 ︹ 判 旨 ] X と Y の別居期間は、前記のように両名の同居期間の 約三倍に当る一五年を超える長期となっており、また、両名の子 B は未成年者とはいえ、すでに一九歳の半ばを超えており、 i i 大学 ︹ 判 旨 ] 生となり寮に入って独立して生活するに至っていることが認められ る。しかし、 i i X は、前記別居の時点やその後も今日まで Y に対 し特に財産の分与もしていないうえ、昭和五四年一一月五日に婚姻 費用分担の審判が確定したのちにおいても、 Y からその強制執行を 受けなければこれを支払わないという態度を続けているし、また、 昭和四八年三月頃には Y を社会保険の被扶養者から外すという措置 をとるなど、不誠実な態度をとり続けているものであって、このよ うな事情や前記認定のように Y が現在定織がなく、その年齢からみ 8 fl~ 島 に一度も出頭せず不調となった。 ﹁ Y と X との別居期間は原審の口頭弁論終結時:::ま で で も 約 一 ニ

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年に及び、同居期間や双方の年齢と対比するまでもな く相当の長期間であり、しかも、両者の聞には未成熟子がなく、 Y が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれ る等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるよ て相応の収入のある職業を新たに見つけることは困難であることが うかがわれ、離婚となれば将来さらに経済的な窮境に放置されると ととなる危険性があること(仮に Y の反訴請求に基づき財産分与な いし慰藷料の支払が認容されるとしても、前記の従前における X の うな特段の事情﹂は存在しない。 本判決は、大法廷判決後初の最高裁の判断である。判旨をみればわか るとおり、大法廷判決の三要件をそのまま維持した判決といえよう。本 件事案も、夫婦の別居期聞が三

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年におよび、その聞に未成熟子がいな いという、前記大法廷判決と大差がないものである。 ︹ 幻 ) 大阪高判昭和六二年一一月二六日 l 棄却(上告) X 男は会社経営者で、婚姻後四年くらいたった昭和四 態度からみてその実効性には疑問がある)、前記の X の現在までに とった態度からみると、 Y の危慎するように本件離婚が認められれ ば B との実質的な親子関係を回復することは殆ど不可能な状況に追 い込まれるものとみられるごとなどの事情を考慮すると、本件にお 38 { 事 案 ] 六年四月頃から Y 女に対して離婚を求めるようになった。同年一

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いて離婚を認めることは、自ら本件婚姻破綻の原因となるべき事実 を作出し、不誠実な態度を継続している X の請求を認容し、他方、 婚姻継続を熱望している Y を経済的及び精神的にさらに窮状に追い ︻ 事 例 五 ︼ 込むことになるものであるから、このような場合本件離婚請求は信

(10)

1 )

3

7

義誠実の原則に照らして許されないものと解するのが相当である﹂。 本件事案は、夫婦問の別居が一五年以上継続していること、および夫 婦の間の子は一九歳を超えており独立して生活しているので未成熟子は いないと認定したが、①確定した婚姻費用分担の審判があるのに強制執 行を受けなければ支払わないという態度を続けていること、② Y を社会 保険の対象者から外していること、③離婚が認められれば Y B 間の実質 的な親子関係を回復することがほとんど不可能になること等の事情を考 慮 し 、 Y を経済的 a 精神的に窮地に追い込むことになるから、 請求は信義誠実の原則に照らして許されないとした。 X の離婚 有 責 配 偶 者 か ら の 離 婚 請 求 1 最判昭六二・九・二民集四一巻六号一四二三頁。 最判昭二七・二・一九民集六巻二号一一

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頁。この事案は、 夫 X 男 は 、 Y 女と婚姻したが、そのうち A 女との婚外関係が生じ 2 Aを妊娠せしめたため、 Y に離婚を求め、拒絶されるやいなや別 居して民法七七

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条一項五号にもとづき離婚請求を提訴したもの である。これに対し、最高裁は、﹁婚姻生活を継続しがたいのは X が Y を差し置いて、他に情婦を有するからである。 X さえ情婦 との関係を解消し、よき夫として妻のもとに帰り来るならば、い つでも夫婦関係は円満に継続しうべきはずである。すなわち、

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の意思如何にかかることであって、かくの如きはいまだもって婚 姻を継続しがたい重大な事由に該当するものということはできな い O i -の規定は相手方に有責行為のあることを要件とするもの ではないことは認めるけれども、さりとて、前記の様な一小徳儀、 得て勝手を許すものではない﹂として、有責配偶者からの離婚請 求を棄却した。この判例のリ│ディング圃ケ!スたる点は、夫の 請求を不徳儀、得て勝手と激しく非難し、離婚請求の倫理性を要 その他、最判昭二九・一一・五民集八巻 求していることにある。 一 号 二

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二三頁、最判昭二九。一一・一四民集八巻一二号一二 四三百一、最判昭三六・四・七家月一三巻八号八六頁、最判昭三七 。五・一七家月一四巻一

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号九七賀、最判昭三八回一

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・一五家 月一六巻二号三二頁などがある。 ( 3 ) これには、破綻したものを破綻と認め、そこに個人の尊厳と 幸福が実現されるとするもので、離婚を認めることに倫理性があ るとする立場(高梨公之・日本婚姻法論二五

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頁[一九五七])、 破綻した事実に権利評価を認め、事実を権利にまで引きあげるこ とができるとする立場(中川淳﹁有責配偶者の離婚請求をめぐる 一考察﹂民商三九巻四・五・六合併号五九四頁)、および法と事 実の一致は法の内在的正義の求めるところであるとする立場(高 橋忠次郎﹁破綻主義における離婚の訴﹂専法一

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号 五 二 頁 ご 九 五六])などがある。六

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年代から七

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年代にかけて、外国法の 離婚制度改正とともに、従来少数説であったこの立場が多数説に 9 なりつつある。 4 たとえば、中川善之助教授は、 綻主義は、元来、被告の有責を要求しないというだけの理論﹂で あるから、原告について有責主義を採って、有責原告の離婚請求 を棄却せよということは破綻主義の理論と矛盾するものではない (中川善之助 e 新訂親族法二五九百一[青林書院・一九六五])と。 この立場は、大別すると、つぎのような見解である。第一は、離 婚拒絶の根拠を婚姻道徳と離婚倫理に求め、これを破綻主義に内 在する最小限度の離婚制限とみるものである(谷口知平﹁愛情消 つぎのように主張する。 破 失 、 長 期 間 棲 廃 止 と 離 婚 ﹂ 民 商 二 八 巻 五 号 二 八 五 頁 二 九 五 四 ] など)。第二は、法の一般条項から、信義誠実の原則、権利濫用、 あるいはクリーンハンドの原別により請求の制限をはかるもので ある(太田武男﹁破綻主義﹂家族問題と家族法町一三三百一一酒井

(11)

一八歳にたっして自らの労働で生活の糧を得る者はもはや未 成熟子とはいえまい﹂としている。 (同)門口。前掲注 ( 7 ) 三

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六頁 j 三

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七 頁 。 ( 打 ) 家 月 四

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巻九号六七頁、判時一二六九号八

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頁 。 (時)判時一二六九号八三頁。 (日)判タ六六九号二

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六 頁 。 ( 羽 ) 家 月 四

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巻三号二七頁、判時一二五六号二八賞、判タ六五四 号 一 三 七 百 一 。 判時一二八一号九九頁。 主 目 居 @ 一九五八]なと)。第三は、離婚による無責配偶者の不利 益保護から、婚姻継続により経済的効果を与えんとするものであ 。 前 掲 一 ニ

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五 頁 な ど ) 。 る(中川(善 5 第二番は判時一二

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二号五二頁によった。 ( 6 ) 本判決に関する論説・判例評釈 E 判例解説等には、 のがある。久貴忠彦﹁有責配偶者の離婚請求│最高裁大法廷昭 和六二年九月二日判決の研究﹂ジュリ八九七号四八頁以下(一九 八七)、石川稔ほか﹁有責配偶者離婚請求訴訟判決をどう読むか (座談会)﹂法ひ四一巻二号四頁ご九八八)、星野英一 H 右近 健男﹁対談 H 有責配偶者の離婚請求大法廷判決﹂法教八八号六頁 つぎのも 二九八八)、鈴木誠弥 H 鈴木ハツヨ﹁いわゆる﹃有責配偶者の E l

s

離婚請求﹄についての新判例﹂家月四

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巻二号一頁二九八八)、 鍛冶良堅﹁破綻主義と最高裁大法廷判決﹂判タ六五二号六五頁 (一九八八)、中川淳﹁客観的破綻主義について│最高裁昭和 六二年九月二日判決に寄せて﹂民研三一六八号一頁二九八七)、 前田透明﹁有責配偶者の離婚請求│比較法的見地から﹂法セ三 島

j ノ 九五号一四頁二九八七)、滝沢章代﹁有責配偶者の離婚と今後 の課題﹂判タ六八

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号一九頁(一九八九)、武井正臣﹁有責配偶 者の離婚請求認容の条件│昭和位。 9 ・ 2 最高裁大法廷判決の 問題点﹂名城三七巻別冊五六七頁二九八八)、高橋忠次郎﹁裁 判離婚における有責性と経済関係│最高裁昭和六二年九月二日 大法廷判決をめぐって﹂専法四七号一頁(一九八八)、中川高男 ﹁有責配偶者離婚請求訴訟と現代離婚事情﹂法ひ四一巻二号二六 頁(一九八八)、門口正人﹁判解﹂曹時四

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巻一一号二六

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頁 21 (一九八八)、右近健男﹁判批﹂民商九八巻六号一

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五頁(一九 八八)、利谷信義﹁判批﹂判時一二六

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号一七九頁二九八八)、 36 佐藤義彦﹁判解﹂法セ三九九号一

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一頁こ九八八)。 ( 7 東京高判昭五二・八四二一

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判時八七二号八五頁、東京高判昭 五五・五・二九判時九六八号六二百一、仙台高判昭五九・一二・一 四判時一一四七号一

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七頁、東京高判昭六一 二二三号八一頁。 一一了二四判時 8 鈴木 H 鈴木・前掲注 ( 7 ) 七 頁 以 下 。 門口・前掲注 ( 7 ) 二 六

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頁 以 下 。 星野 H 右近・前掲注 ( 7 ) 9 1日 一 四 頁 。 11 門口・前掲注 ( 7 ) 三

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一 ニ 頁 。 12 門口 a 前掲注 ( 7 ) 二 一

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五 頁 。 門口・前掲注 ( 7 ) 三

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五 頁 。 門口・前掲注 ( 7 ) 三

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六 頁 。 門口。前掲注 ( 7 ) 三

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六頁。﹁年長の子であっても身体的 又は精神的な障害によって未成熟子とされる場合もあろうし、逆 15 14 ( 未 完 )

参照

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