商担手貸と更生手続
著者
小関 健二
著者別名
K. Koseki
雑誌名
東洋法学
巻
30
号
1・2
ページ
83-108
発行年
1987-03
URL
http://id.nii.ac.jp/1060/00003578/
Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja商担手貸と更生手続
小
関 健 一一
八七六五四三二一
はじめに 商担手貸とは 更生手続と手形の落込み 商担手貸と弁済充当 商担手貸と更生法一二一条 更生債権の届出 商担手貸の裁判例 むすび 東 洋 法 学 八三商担手貸と更生手続 八四 はじめに 譲渡担保の制度は、実際界の必要から開発発展され、判例・学説でも承認されてきたものであるが、実定法上は、 破産法八八条︵和議法四条でも準用︶において、譲渡担保権者が破産した場合に譲渡担保設定者の取戻権を認めない 旨の規定が存するに過ぎなかった。そして、昭和二七年会社更生法︵以下単に更生法という︶の制定に際しては、破 産法の規定にならい、その六三条に同様の規定が設けられた。 しかしながら、譲渡担保設定者について破産あるいは更生手続が開始きれた場合については、何の規定も設けられ ていなかった。その後、昭和三四年の国税徴収法の全文改正において、その二四条に譲渡担保権者の物的納税責任の 規定を設けるに至り、同趣旨の規定が地方税法一四条の一八にも設けられた。 そのため、譲渡担保設定者が破産した場合において、譲渡担保権者が取戻権を行使できるかどうかについては、積 極説と消極説に分かれることになるが、消極説においても、譲渡担保権者は別除権の行使によってその満足を得ること ができるので、実務上は左程問題とはならない。ところが、更生手続においては、担保権者は、破産の場合のように 別除権の行使が認められず、更生手続に参加して更生手続によって弁済を受けるほかないので︵更生法ご三一、一一 二︶、 機械器具等を譲渡担保にとり、引続き譲渡担保設定者に使用させていた場合に、譲渡担保設定者について更生 手続が開始きれると、譲渡担保権者にとって、取戻権が認められるかどうかは重大な問題となった。これについても、 ︵1︶ 積極説と消極説が対立し論争の的となったが、昭和四一年四月二八日の最高裁の判決により一応の決着をみた。
ところで、本稿で取り上げようとする商担手貸︵次項で詳述︶における手形の譲渡担保は、同じ譲渡担保といって も、機械等の譲渡担保とはその態様を異にするので、別に考える必要のある問題である。担保物たる手形は譲渡担保 権者が所持するので、取戻権の行使は問題とはならないが、担保手形による回収金の処理が問題となるのである。こ れについては、通常、手形の譲渡担保は更生債権か更生担保権かという形で論争され、既に沢山の有益な論文が発表 ︵2︶ され、論じ尽された観もあるが、本問は、更生法のほか民法、手形法、民事訴訟法等の交錯する部門に属し、銀行実 務とも相侯って難解な問題を提起し、筆者は以前からこれに大きな関心を寄せていたので、この機会にまとめておこ うと思い筆を執った次第である。 ︵1︶ ︵2︶ 最一判昭和四一・四・二八民集二〇巻四号九〇〇頁は﹁原審が確定した事実によれば、昭和三四年二一月二五日本件更生 手続開始当時、本件物件の所有権は、訴外深田木材株式会社︵更生会社︶と上告会社間の譲渡担保契約に基づき、上告会社 に移転していたが、右所有権の移転は確定的なものではなく、両会社間に債権債務関係が存続していたものである。かかる 場合、譲渡担保権者は、更生担保権者に準じてその権利の届出をなし、更生手続によってのみ権利行使をなすべきものであ り、目的物に対する所有権を主張して、その引渡を求めることはできないものというべく、すなわち取戻権を有しないと解 するのが相当である。﹂とした。 長谷部茂吉﹁会社更生法の問題点﹂法律時報四二七号六九頁以下 石田真﹁会社更生手続における商業手形の譲渡担保の取扱い﹂金融法務事惜四五八号二四頁以下 青山善充﹁譲渡担保の会社更生法上の取扱い﹂金融法務事情五二〇号九頁以下 関石守正﹁商業手形の譲渡担保と会社更生法﹂司法研修所創立二〇周年記念論文集二巻二一六頁以下 菅野孝久﹁更生手続と商業手形の譲渡担保﹂金融商事判例五五四号一〇八頁以下 竹内康二﹁手形の譲渡担保﹂金融商事判例七一九号一五三頁以下 等 東洋法学 八五
商担手貸と更生手続 八六 二 商担手貸とは 銀行の一般顧客に対する与信業務として行われる貸付には、証書貸付、手形貸付、当座貸越の三種類があり、他に 手形割引が行われる。銀行は債権回収の確実を期するため当然のことながら、貸付に際しては担保を要求する。物的 担保たる不動産に対する抵当権、根抵当権の設定及び人的担保たる保証が一般的ではあるが、それがすべてではな い。手形割引においては、通説はこれを手形売買と解しているが、手形の振出人の信用︵これは約束手形の場合で、 為替手形の場合は引受人であるが、以下本稿では特記しない限り約東手形の場合についてのみ記述し、為替手形にっ いては省略する。︶ が重視され、裏書人があれば、これが保証的役割をはたす。割引依頼人が裏書入としての遡求義 務あるいは特約による買戻義務を負うことはいうまでもない。 さて、①割引する手形の枚数が多く②個々の手形の金額が小さく③満期までの期間が長かったり④振出人の信用が 不明の場合などには、個々の手形について割引料の計算をして手形割引をするというようなことはしないで、これら の手形を一括して譲渡担保とし、手形貸付を行うのが普通である。これが本稿で取上げようとする商業手形担保手形 貸付、略して商担手貸といわれるものである。商担手貸の貸出先が倒産した場合、銀行はもちろん担保手形により回 収をはかる。ところで、破産の場合は、手形が貸付金の担保であると解しても、別除権として破産手続によらないで 債権回収をはかることができるが、更生手続においては、担保を有する債権者も担保権の実行が許きれず、更生手続 に参加して更生手続によってのみ債権の弁済が行われることになる。従って、商担手貸が文字どおり債務者の所有す
る商業手形を担保とした手形貸付、つまり担保付貸金債権であるのか、あるいは単なる担保付貸付金とは異なる趣旨 のものであるのかによって結論が違ってくる。 そこでまず、商担手貸において、債務者が債権者たる銀行に手形を譲渡担保として裏書交付する場合、債権者及び 債務者はどのように考えているのかを検討してみる。一般に債権者が物的担保を取得するのは、債務者が弁済期に債 務の弁済をしないときに、担保物を換価処分し、その売得金によって債権の満足を得ることを目的としている。従っ て、第一次的には、債務者は弁済期に債務を弁済して担保の返還をうけることが予定きれている。ところが、商担手 貸においては、 一般的に︵例外がないわけではない︶、債務者は借入金を弁済期に返済して、譲渡担保として債権者 に交付した手形の返還を受けることなど当初から考えておらず︵そのような資金繰をしていない︶、 裏書譲渡した手 形の手形金が満期に債権者に支払われることによって、借入金は消滅するものと確信しており、債権者もそのように ヤ ヤ 予定しているのである。すなわち、この場合の手形の裏書譲渡は、譲渡担保という言葉を用いて債権者に交付きれて ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ はいるが、債務者の意思としては、借入金の返済のために裏書譲渡をしているのである。一方、債権者の側からみれ ば、手形が貸付金返済のために裏書譲渡きれたとしても、それによって直ちに貸付金債権が消滅するわけではなく、 これは貸付金の回収を確保するためのものであるから、担保の提供をうけたと解することもでき、この場合に譲渡担 保の語を使用することが必ずしも不当とはいえない。 従って、商担手貸において、債権者たる銀行は債務者に対し、貸付金債権と単名手形による手形債権と譲渡担保手 形による将来の遡求権及び特約による買戻請求権とを取得しているわけであり、譲渡担保手形が満期に支払われるこ 東洋 法学 八七
商担手貸と更生手続 八八 とにより、貸付金債権はそれだけ消滅し、減少することになるのである。なお、譲渡担保手形の落込みにより貸付金 債権が全部消滅したときには、銀行は手形金の残額及び残余の手形の返還義務を負うことはいうまでもない。 三 更生手続と手形の落込み 手形は満期に支払呈示することにより手形金が支払われ、手形は現金化する。では、債権者たる銀行が更生手続開 始申立前に債務者から裏書譲渡を受けていた第三者振出の手形が、更生手続開始後に満期が到来し、これが現金化し た時には、更生手続上その処理はどうなるのであろうか。 ω 取立委任裏書の場合 銀行は当該手形につき商法上の留置権を有するので︵商五二一︶、 手形金額について更生担保権の屈出をするこ とができる︵更一二三︶。 しかし、更生債権の屈出期間内に満期が到来する場合は、債務者に対する取立金の引渡債 務と債権とを相殺し、残額を一般更生債権又は更生担保権︵他に担保がある場合︶として屈出ればよい。更生債権の 屈出期間後に満期が到来した場合には、銀行は取立手形金につき引続き商法上の留置権を行使することになるので、 この分については更生計画において相殺処理きれることになる。 ③ 質入裏書の場合 銀行は質入裏書手形の手形金の範囲で更生担保権を有することになるが、更生手続開始後は更生担保権を消滅さ せる行為をすることができないので︵更二二、一二三︶、 質入裏書を受けた手形が更生手続開始後満期の到来によ
り現金化されても、債権は消滅することなく、手形に代って取立てた手形金の上に引続き質権を有することになり、 結局更生計画によってこれが処理される。通常は現金に質権を設定した債権などあり得ないが、更生法上はそのよう な結果になってもやむを得ない。 ③ 手形割引の場合 手形割引は一般に手形の売買と解され、手形は完全に銀行の所有となっているので、銀行は満期に手形金が支払 われれば問題はない。ただ、満期に手形金が支払われない場合を考慮し、銀行は将来の遡求権又は特約による買戻請 求権を一般更生債権として届出ることになる︵更一〇八︶。 そして、手形金が支払われたときは、これらの請求権は 消滅するので、屈出を取下げればよい。 ㈲ 譲渡担保の場合 純粋な債権担保の目的で、単なる譲渡裏書がなされた場合は、いわゆる隠れた質入裏書であり、裏書人につき更 生手続が開始されたときは、質入裏書の場合と同一に取扱うのが妥当である。 ㈲ 商担手貸の場合 商担手貸の場合は、手形の譲渡担保裏書がなされるといっても、㈲の場合とはその趣旨が異なり、別異に検討さ れなければならない。一般の譲渡担保においては、担保権設定時において、債務者は、弁済期に債権者に債務を弁済 し、担保物の返還をうけることを予定している。ただ、債権者が法定の担保権実行の手続によらず、担保物の換価、 債権回収を簡便迅速に行い得るようにするため、担保物を譲渡した形式を取るに過ぎないのである。手形において
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商担手貸と更生手続 九〇 も、例えば、期日一二月二〇βの金額二千万円の優良手形を譲渡担保として、一〇月一〇日に一〇月三一日を弁済期 として一千万円を借入れた場合を想定すると、債務者としては、優良手形であるから手形割引も可能であるが、必要 とする資金額と期問の関係から、余分な金利を払う必要がなく、この方が有利なためこのような形式をとるのであ る。この場合、債権者と債務者の間では、手形は担保として銀行に差入れたのであって、少なくとも借入金の弁済期 までは、手形の所有権は完全には債権者に移転していないのである。 しかるに、商担手貸においては、前項で述べたとおり、債務者は、借入当初から、債務を弁済して裏書譲渡した手 形の返還をうけることなど考えておらず、満期に手形金が債権者に支払われることによって、借入金債務が消滅する ことを予定しているのである。すなわち、手形の裏書は債務支払のためになしているのである。従って、手形の譲渡 をうけた後に、債務者につき更生手続が開始きれても、債権者は完全に自己の所有に帰した手形について、その支払 をうけうるのは当然であって、その結果として、予定どおり貸付金債権が確定的に消滅するのである。手形が不渡と なって手形金が支払われなかったときは、消滅する予定の貸付金債権が消滅しないので、この分については、更生手 続によって弁済をうけるほかない。 次に、商担手貸により取得した手形が満期に振出人によって支払われ、銀行が手形金を受取ったときに、貸金債権 との関係はどうなるのであろうか。銀行実務においては、これを手形取立代り金と称し、一般的には別段預金として 保管し、一定期日又は一定金額に達したときに、まとめて貸付金の内入として処理し、これを弁済充当と呼んでい ヤ ヤ ペ ヤ ヤ ヤ る。しかしながら、前述の如く貸付金の支払のために譲渡をうけた手形が、予定どおり満期に現金化したならば、何
らの手続を要せずその時点で即座に手形金と同額の貸金債権は消滅する筈である。この点については、次項で詳述す る。ただこの場合、民法四八九条、四九一条による法定充当に従って処理されることはいうまでもない。 四 商担手貸と弁済充当 銀行実務においては、商担手貸においても、債務者に別掲のような﹁商業手形担保約定書﹂あるいは﹁譲渡担保差 入証﹂ ︵以下単に雛形という︶を差入れさせた上、取得した手形の処理を行っているようである。これによれば、手 形の取立金は、銀行の都合のよい時に債務の弁済に充当することができ、また、商担手貸の債権が消滅しても、残っ た手形は債務者に返す必要はなく、根担保として他の債務の担保にもなるということで、一見、銀行にとって非常に 有利な都合のよいもののように見える。これは正に手形の譲渡担保で、一般の場合には何らの不都合もないが、更生 手続においては、問題になるところが二点ある。一つは、文字どおり手形は担保で、債権は更生担保権となるのかと いうことと、更生法二二条との関係である。 更生法二二条本文は﹁更生債権については、更生手続によらなければ、弁済をし、弁済を受け、その他これを消 滅させる行為︵免除を除く。︶ をすることができない。﹂ と規定する。これは、企業の更生の原動力となる会社の積 極資産の減少を防ぐと共に、債権者間の公平をはかろうとするものである。 従って、銀行に譲渡した手形が依然として会社の財産であり、担保に供したものであれば、更生手続開始決定当時 銀行の有する債権は、手形を担保とする更生担保権となり、更生手続開始後は、担保たる手形が満期に現金に代って 東 洋 法 学 九一
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ξ 紙 ○ ○ 銀行 御中 商業手形担保約定書 住 所債務者
担保権設定者 昭和 年 月 日 ㊥ 私は,別に差し入れた銀行取引約定書第1条に規定する取引によって 貴行に対して現在および将来負担するいっさいの債務の根担保として, 担保手形明細表記載の手形を貴行に譲渡するについては,上記銀行取引 約定書の各条項のほか,次の条項を確約します。 第1条(担保手形の取立金) 貴行は,担保手形の取立金を,上記債務の期限のいかんにかかわらず, 直ちに,または担保手形の代り担保として保管のうえ,随意の時期にそ の弁済に充当することができます。 第2条(担保手形の不渡等) ①担保手形の主債務者が期日に支払わなかったとき,または銀行取引 約定書第5条第1項の一にでも該当したときは,その者が主債務者と なっている手形について,貴行から通知催告等がなくても当然に,直 ちに,手形面記載の金額を支払い,または代わりの担保手形を差入れ ます。 ② 担保手形について債権保全を必要とする相当の事由が生じた場合に は,前項以外のときでも,貴行の請求によって,直ちに手形面記載の 金額を支払い,または代わりの担保手形を差入れます。 ③前2項により支払う担保手形代り金については,貴行は第王条の担 保手形の取立金と同様に処理して差しつかえありません。 第3条(再担保) 貴行は,担保手形を,都合によって,他に譲渡し,または再担保とす ることができ窪す。 以 上 商担手貸と更生手続 九東 洋 法 学 九 ○ ○ 銀行御中
譲渡担保差入証
印 紙i 昭和 年 月 臼 住 所債務者
左記記載の手形を,私が貴行に対し現在負担している債務および将来 負担する債務のすべての根担保として,下記約定ならびに別に差入れた 銀行取引約定書の各条項を承認のうえ,譲渡します・ 第1条①担保手形は貴行において取立のうえ,私の貴行に対する債 務の弁済期のいかんにかかわらず,任意に弁済に充当されても異議あ りません。なお貴行との取引約定を解約し,債務全額を完済した場合 において,その余剰金があるときはご返済下さい。 ② 貴行において,前項の取立金を私名義の預金に振込まれた 場合には,貴行の承諾なしにその払戻しの請求はしません。 第2条①担保手形の債務者が期日に当該手形金を支払わなかったと き,または貴行が担保手形について債権保全のため必要があると認め る場合には,貴行の請求によって手形面記載の金額を直ちに支払いま す。 ②前項の支払金は,前条の担保手形の取立金と同様に処理さ れてもさしつかえありません。 第3条 担保手形について,手形の主債務者その他の手形関係人から支 払の猶予・更改等の申出があり,貴行においてやむを得ないと認めた ときは,私への通知を要せず任意に処理きれても異議なく,またそれ による損害はすべて私の負担とします。 以 上商担手貸と更生手続 九四 も、銀行は、更生会社の財産たる手形金によって、債権を消滅させる行為をすることは許されないことになる。これ が更生担保権説の考え方である。 次に、前述の如く、この雛形の文言にかかわらず、商担手貸における手形の譲渡は債務の支払のためになされたも のであると解したとしても、雛形第一条に記載されるとおり、手形の取立金は、銀行が任意の時期に、債務の弁済に 充当することができ、その時に債務が消滅するものだとすると、これは、銀行が更生手続によらないで、更生債権を 消滅させる行為をしたことになり、更生法二二条本文に反し許されないことになりはしないかということである。 もし、そのように解されるのであれば、銀行は更生担保権の届出をし、手形の取立金は銀行において保管し、更生 計画において処理するほかないことになる。この場合、取立金は担保物として銀行が占有することになるので、更生 会社において使用することもできず、銀行はこれに対して利息を付する必要もない。一方、更生担保権については、 更生手続開始後一年分の損害金は更生担保権となり︵更一二三︶、 また、更生計画において更生担保権の一部免除も ありうるということで、いかにも形式的で実情にそぐわない。 ところで、雛形にいう﹁弁済に充当する﹂とはどういう意味であろうか。民法四八八条ないし四九一条に規定する 弁済の指定充当・法定充当とは異なる趣旨で用いられていることは明らかである。まず、 ﹁弁済﹂とは、 ﹁債務の内 容たる給付を実現する行為﹂であり、本来債務者のみがなし得るものであるが、法は、当事者の利益を考慮し、原則 として第三者もこれをなし得ることとした︵民四七四︶。学説の申には、担保権の実行や強制執行による満足も﹁弁 ︵1︶ 済﹂とみるものもあるようであるが、債務者の意思に反して実現されるこれらの場合を、弁済の概念申に含ませるの
は妥当でないと思われる。たしかに、民法三四二条、三六九条中には﹁弁済﹂の文字が見られるが、これは﹁債権の ︵2︶ 満足を得る﹂趣旨で使用きれたものと解せられる。 債権が消滅する原因には、法が債権の消滅として定める民法四七四条ないし五二〇条によるもののほか多数存在す ︵3︶ るが、本稿で問題として取上げるのは、金銭債権について、目的到達によって債権が消滅する場合である。そのうち でも、強制執行、担保権の実行及び債務者が複数ある場合と請求権が競合する場合の更生手続との関係についてであ る︵後述︶。 さて、 ﹁弁済充当﹂とは、民法四八八条に規定するとおり、 ﹁債務者が同一の債権者に対して同種の目的を有する ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ 数個の債務を負担する場合に、弁済として提供した給付が総債務を消滅させるに足らないときに、給付の時に於て其 弁済を充当すべき債務を定める﹂ことである。すなわち、弁済充当は、弁済があった場合にどの債務を消滅させるか を定めることであり、弁済充当によってはじめて、弁済の効力が生じ債務が消滅するわけではない。弁済充当の意思 ︵4︶ 表示が弁済の時より後に相手方に到達しても、弁済の効力は弁済の時に生じ、債務は消滅するのである。弁済充当は、 複数の債務がある場合、何れの債務を消滅せしめるかを決定することであって、債務の消滅行為そのものではない。 従って、雛形にいう﹁弁済に充当できる﹂というのは、﹁弁済があったと同様な債権消滅の処理をしてよい﹂とい う趣旨に解せられるが、債権の消滅する原因が生ずれば、その時点で、弁済があったと同様に債権は当然に消滅する のであって、債権者の債権消滅行為を必要としない。この場合に法定充当の処理が必要なことはいうまでもない。 貸付金返済のために裏書譲渡をうけた手形が満期に現金化したならば、その時点で貸付金は目的到達により当然消 東洋法学 九五
商担手貸と更生手続 九六 滅するのである。それが貸付金の弁済期前であれば、以後利息も発生しない。もし、銀行が弁済期までの利息を前払 として受取っていれば、元金消滅以後の利息分は不当利得となり、これを返還しなければならない。従って、雛形に いう﹁債務の弁済期の如何にかかわらず、任意に弁済に充当きれても異議ありません。﹂ とは、銀行の実務上、貸付 金消滅の処理が任意の時期になされ、利息の計算上不当利得返還請求権が発生しても、これを放棄するという趣旨と 解せられる。 きれば、銀行実務においても、手形取立金は、その処理をするまで別段預金の形で保管するが、通常は利息をつけ ない別段預金に、この場合に限って普通預金並の利息をつけたり、利息天引の場合に、戻し利息を計算したりするこ とがあるようである。 このように、商担手貸における譲渡手形は、債務支払のために銀行に譲渡されたものであって、もはや更生会社の ︵5︶ 財産ではない。従って、この貸付金債権は更生会社の財産で担保されたものではないから更生担保権ではない。商担 手貸による貸付金債権は、その支払のために手形の譲渡をうけているので、手形金が支払われることにより消滅する ものではあるが、それまでは消滅しないで存在する。従って、手形の満期前に更生手続が開始されれば、満期に手形 金が支払われないときは請求することのできる貸付金債権︵あるいは単名手形金債権︶を、一般更生債権として屈出 ることができる。しかし、手形が満期に支払われたときは、その分貸付金債権は消滅するので、その場合は、更生債 権の屈出を取下げればよい︵更一二五④︶。更生法二二条は、債権者あるいは管財人は更生会社の財産によって更 生債権を消滅させる行為をしてはならないということであり、債権者たる銀行が、更生手続開始前に確定的に譲り受
けていた手形が、更生会社以外の者によって支払われたことにより、それまで消滅が保留されていた貸金債権が予定 どおり消滅したからといって、本条にふれるものではない。この点については次項で詳述する。 ︵1︶奥田昌道﹁注釈民法働﹂三六頁以下参照 ︵2︶ 勝本正晃﹁債権法概論︵総論︶五〇八頁 ︵3︶ 磯村哲﹁注釈民法働﹂一五頁以下参照 ︵4︶ 山下末人﹁注釈民法働﹂二〇六頁以下参照 ︵5︶ 経理処理の上では、このような譲渡された手形を資産勘定たる受取手形に計上し、借入金債務を負債勘定に計上するが、 これは、借入金の消滅が確定的ではなく、また、借入金額と譲渡手形の額面金額が一致せず、最終的な清算を必要とするか らである。だからといって、債務支払のために確定的に債権者に譲渡した手形が、法律上依然として更生会社の財産である ということにはならない。 五 商担手貸と更生法二二条 更生法は、株式会社の事業の維持更生のため、開始決定の時点における資産・負債の状況を一応凍結し、これを取 締役から管財人に引継いだ上、管財人の手によって再建を図ろうとするものである。そのための最も重要な条文の一 つが第一二一条の更生債権の弁済禁止規定である。本条本文により、更生債権者は会社財産による債権消滅行為が一 切禁止され、強制執行や担保権の実行も許きれない︵更六七︶。 従って、譲渡担保権の実行によって更生債権を消滅 ︵王︶ させることもできないと解すべきである。 東 洋 法 学 九七
商担手貸と更生手続 九八 そこで、商担手貸において、更生手続開始後に手形の満期が到来してこれが現金化した場合に、貸金債権が消滅す ることになるのかどうか。消滅すると解すると、本条にふれることにならないか。ということが問題となる。 ︵2︶ 更生担保権説によれば、手形は譲渡担保であるから、担保たる手形が満期に現金化しても、本条により債権を消滅 させることはできず、これを債権者において保管の上、更生計画において処理されることになるとする。ただ、更生 ︵3︶ 担保権届出期間までに現金化したものについては、弁済充当を認めるとするものもある。前段のとおり解してなきれ た更生担保権の届出については、担保権の目的たる手形の評価額の点を除けば、異議を述べる理由はなく、正論と解 される。しかし、後段については、その一部消滅を認める理由として、﹁更生法一六二条一項の規定の趣旨からして﹂ ︵4︶ とされるが、更生担保権の前提をとる限り理由がないと思われる。 一方、一般更生債権説においては、手形債務者が更生法二四〇条二項の﹁会社とともに債務を負担する者﹂に該当 ︵5︶ ︵6︶ し、その者からの支払として弁済に充当できるとか、商担手貸は実質的には手形割引である。などと説明きれてい る。しかしながら、更生法二四〇条二項は計画の効力についての規定であり、計画認可前において、更生債権者が更 ︵7︶ 生会社以外の債務者に対して有する権利行使が開始決定により何らの制限をうけないのは当然であって、かえって更 生法一〇八、一〇九条によって、更生会社に対する関係では、その全額について更生手続にも参加できるのである。 本条は、保証債務の附従性等を定める民法の例外を規定したものであって、計画認可によって更生会社に対する関係 で権利に変更が生じても、更生会社以外の債務者に対する関係では、その有する権利に影響を及ぼきないことにした のである。しかも、ここで会社とともに債務を負担する者の債務は手形債務であって借入金債務ではない。従って、
更生会社の借入金が消滅する理由は他に求められなければならない。また、商担手貸が経済的実質において手形割引 と同一であるとしても、法律上これを同一に取扱うことが許されるわけのものでもない。 ききに、譲渡担保権の実行も更生法二二条によって許されないと解すると述べたが、それは、強制執行や法定担 保権の実行が原則として執行機関︵債権質や手形質は質権者が直接取立できる︶によってなされるのに対し、譲渡担 保権の実行が債権者の手によってなされるだけの違いであって、何れも債務者の財産処分によって目的が達せられ、 債権が消滅するからである。次に、更生会社以外に債務者があって、その者からの債権の満足により更生会社に対す る債権が消滅する場合は、前述のとおり更生法一一二条とは関係ない。この場合、それにより更生会社に対する求償 権が発生することもあるが、それは更生手続開始当時既に存在した将来の求償権が現実化したに過ぎず、更生法の認 めるところである︵更二〇︶。 問題は請求権が競合する場合、すなわち、債権者が数個の更生債権を有するが、そ のうちの一個が消滅すれば、他の更生債権も消滅する関係にある場合である。例えば、手形貸付における貸付金債権 と手形金債権である。この場合、何れの債権を更生債権として屈出てもよく、また、両者を届出てもよい。両者を届 出ても、その一方に弁済の計画が定められるに過ぎない。 さて、商担手貸はこの請求権競合の場合に当り、債権者たる銀行としては、更生会社に対し、貸付金債権、単名手 形金債権、譲渡担保として取得した手形の将来の遡求権及び特約による買戻請求権を有することになる。従って、銀 行としてはこれらの更生債権の全部又は一部を更生債権として届出ることができるが、このうち譲渡担保手形には、 更生会社以外の債務者が存するので、その者から支払をうけたときは、その分だけ請求権の競合する他の更生債権も 東 洋法学 九九
商担手貸と更生手続 一〇〇 消滅することになる。 前項で述べたとおり、商担手貸における譲渡担保手形は、名は譲渡担保であるが、実質は借入金返済のために譲渡 されたものであり、確定的に債権者の所有に帰し、もはや更生会社の財産ではない。それによって債権の目的を達し 債権が消滅するのであるから、更生法一一二条にふれることはない。これに対し、同じ手形の譲渡担保でも、純然た る担保の趣旨で交付された手形の場合は、実質上の手形の所有権は引続き更生会社に存することになるので、これが 満期に現金化しても、更生手続上は、債権者は更生会社の財産たる手形代り金を担保として保有するのみで、更生計 画で処理されるまでは債権も消滅しないことになる。
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︵3︶ ︵4︶ ︵5︶((
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最判昭和三二・四・一一裁判集︵民事︶二六号一一九頁 青山善充・前掲一〇頁 郎﹁会社更生法︵新版︶﹂二三二頁 長谷部茂吉・前掲七〇頁、時岡泰﹁会社更生手続における手形の譲渡担保の取扱﹂金融法務事情五〇五号四三頁、松田二 岡旨青山善充・前掲一一頁 石田真・前掲二八頁、山内八郎・前掲二八三頁 事情四五号九頁、明石守正・前掲二二四頁 石田真・前掲二八頁、山内八郎﹁実務会社更生法﹂二八二頁、永田喜雄﹁会社更生法をめぐる実務上の諸問題﹂金融法務 前掲最一判昭和四一・四・二八民集二〇巻四号九〇〇頁六 更生債権の届出 更生債権は原則として更生手続によらなければ弁済を受けられない︵更二二、一二三︶。 すなわち更生計画に従 ってのみ弁済を受けることができ、計画に定められない更生債権は更生会社に対する関係では失権する︵更二四一︶。 そのため更生債権者は更生手続に参加し、更生計画に自己の有する債権についての定めを求める必要がある。これが 更生債権の届出である。 この更生債権の届出は、裁判所の定める一定の期間内になすことを要し、その屈出に基づき作成される更生債権者 表は、確定すると確定判決と同一の効力がある︵更一四五︶。 また、更生債権の届出は時効中断の効力もあり︵更 ︵1︶ 五︶、 更生債権の屈出は一種の訴訟行為であり、訴の提起と同様に考えられる。従って、更生債権の届出において は、更生債権者に主導権があり、更生債権者は、更生債権の屈出をするかどうかの自由を有するのはもちろん、更生 債権として届出るか更生担保権として届出るか、事実を如何に構成するかも更生債権者の判断に委ねられる。そして、 届出られたものに対し、管財人その他の関係人の認否が行われ、異議があるときは更生債権確定訴訟において、最終 的にはその存否について裁判所の判断がなされることになる。 そこで、一つの例をあげると、債権者が売掛金の支払のために更生会社振出の約東手形を受取っている場合に、債 権者は、更生債権として売掛金の届出をしても手形金の届出をしてもよい。ただ、売掛金の届出をしたときは、他に 手形金の屈出をする者がなければ、手形金については更生計画認可によって免責される︵更二四一︶のでよいが、他 東洋法学 一〇一
商担手貸と更生手続 一〇二 に手形金の届出があるときは、重複することになるので、売掛金債権は、手形の返還を条件に支払う形で認められる ︵2︶ ことになる。 次に、債務者の信用状態に不安のあるときは、債権者は債務者振出の手形でなく、第三者振出の手形いわゆる廻し 手形の裏書交付を要求する。この場合も、債権者は売掛金の支払のために第三者振出の手形の裏書譲渡を受けている のであり、手形金が支払われない限り売掛金は消滅しない。従って、債権者は売掛金の更生債権の屈出もできるし、 手形の所持人として裏書人たる更生会社に対する将来の遡求権を更生債権として届出ることもできる︵更一〇八︶。し かし、売掛金の屈出がなきれたときには、更生債権調査の期日までに手形金が支払われていなければ届出は認められ ることになるが、更生計画では、手形の返還と引換に弁済するという形で処理きれることになるであろう︵届出後手 形金が支払われたときは、届出は取下げられる。︶。というのは、更生会社振出の手形の場合と異なり、更生会社の財 産たる第三者振出の手形が譲渡きれているのであるから、実質上は代物弁済である。ただ、手形の性質上満期に手形 金が支払われて始めて弁済の目的が達せられるので、それまで弁済の効力発生を保留する必要があるのである。従っ て、消滅が保留きれている売掛金の弁済を受けるためには、実質上の代物弁済として受取った手形を返還しなければ ならないのは当然である。 この場合に、債務者たる裏書人に対して更生手続が開始されても、債権者は手形所有者として、その権利を行使し て手形金の支払を受けることができ、その結果売掛金は確定的に消滅することになるのである。更生法一一二条との 関係についていえば、債務者は売掛金たる更生債権を消滅させる行為をしたのではなく、更生手続開始前に、実質上
の代物弁済として受け取っていた手形が、満期の到来により更生会社とは無関係に現金化したため、消滅が保留され ていた売掛金たる更生債権が確定的に消滅したに過ぎないのである。 商担手貸の債務者について更生手続が開始された場合に、債権者たる銀行が、手形を担保とした貸付金として更生 ︵3︶ 担保権の届出をすれば、これに対し異議を述べる余地はなく、更生担保権として認められることになる。ただし、担 保たる手形の申に既に不渡となった手形や、不渡を出した者の振出にかかる手形が存在するときは、その分について は担保価値がない。更生担保権としての屈出をした以上、担保たる手形が満期に現金化しても、それをもって貸付金 債権を消滅きせることができないことについては前述したとおりである。 一方、銀行が貸付金債権を更生債権として屈出、その支払のためにこれこれの手形の譲渡をうけている旨届出書に 記載すれば、これも事実に合致し、更生債権として認めぎるを得ない。この場合は、手形金が支払われる都度、貸付 金債権は消滅減少するので、その分更生債権の屈出を取下げればよい。銀行は、前述のとおりこのほか手形について の将来の遡求権及び買戻請求権をも有するので、これを更生債権として届出ることもできる。 ︵1︶
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債権者が自己の所有に帰した手形を、自らその所有権を否定し、更生会社の財産として屈出るのであるから、更生会社に 最二判昭和三五・七・八民集一四巻九号一七二〇頁、福岡高判昭和二九・三・三高民集七巻一四五頁等参照 の提起に準ずるものというべく﹂といっている。 為に当らない﹂というが、横浜地判昭和三九・六二二〇判タ一六六号二〇二頁は﹁更生債権の屈出は民事訴訟法における訴 最三判昭和四二・五・二一二民集二一巻四号九二八頁は﹁更生裁判所に対する債権の屈出行為は信託法一一条にいう訴訟行 とっては有利であり、管財人その他の関係人に異議はないであろう。東洋法学
一〇三商担手貸と更生手続 一〇四 七 商担手貸の裁判例 更生手続は、管財人と債権者の協力によって会社の再建が図られるので、更生債権に関する訴訟は比較的少ない。 特に、債権者たる銀行は大口の更生担保権者の場合が多く、管財人との話合いで処理し、訴訟になることはほとんど ︵減︶ ない。商担手貸に関する唯一と思われる訴訟の判決がでているので、これを検討する。 ︹事実︺ 更生会社日本自動車株式会社の更生手続において、債権者株式会社幸福相互銀行︵以下単に銀行とい う︶は、土地及び譲渡担保手形を担保の目的として貸金債権全額を更生担保権として届出たところ、債権調査期日に おいて、管財人は土地の根抵当権極度額と同一金額を更生担保権として認め、その余の金額については、更生担保権 としては異議を述べ、一般更生債権としては認めた。銀行はこれに対し、一月内に更生担保権確定訴訟を提起しなか ったので、そのとおり確定した︵更一四七︶。 そこで、管財人は、更生計画に従い更生担保権の返済をした後、銀行が保管していた担保手形の取立金の返還を求 めて提訴した。銀行は、手形の譲渡担保による貸金は更生債権であり、更生会社以外の債務者から回収し得ると主張 し、管財人が土地の根抵当権極度額を更生担保権として認めたのもその趣旨だと述べた。これに対し、管財人は、手 形の譲渡担保は更生担保権であるが、手形の担保価値が認められないので、更生担保権として異議を述べたのだと主 張した。 ︹判旨︺ ﹃管財人は、被告の右更生担保権の届出に対し債権調査をしたが、更生会社がひろく融通手形の交換を
していた情況にあって本件担保手形の大部分も弁済を受けられる見込の薄いものであると判断し、かつ、多数の債権 者の多数の担保手形の信用度について逐一調査を遂げることも不可能であったため、被告の更生担保権としては、屈 出の貸付金残元本中、本件土地についての根抵当権の極度額金三〇〇〇万円と同額について異議なく認めることとし 右金額を超える分については異議を述べて、被告から更生担保権確定訴訟が提起された段階で更に調査を尽くし、本 件担保手形中に取立可能なものがあれば、その分については更生担保権として認めるという方針で前記のとおり認否 をしたこと﹄等を認定した上、原告の請求を認めた。 また、更生担保権説を支持して、次のとおり述べている。 ﹃e被告は、譲渡担保手形は、手形法の特性からして、 被裏書人である所持入の財産であって、債権質の質入債権のように担保提供者︵更生会社︶の財産であるのとは異な ると主張する。なるほど、譲渡担保手形は、担保の目的からとはいえ、通常の譲渡裏書がなされるのであるから、こ れにより更生会社の財産としての性質が失われるかの如くであり、現に、更生会社が被告に差し入れた約定書にも ﹁担保手形は貴行に帰属し、手形権利の無条件移転であります。﹂ との文言も見られるのである。しかしながら、形 式は手形の譲渡裏書であっても、当事者間においては、あくまでも担保の目的に出たものであることは明らかであ り、約定書の文言だけでその本質が左右されるわけのものではないし、更生会社が被告に差し入れた他の約定書には ﹁貴行の占有している私の動産、手形その他の有価証券﹂という文言も見られるのである。そして、譲渡担保手形 は、その所持人である債権者が満期に取り立てることができる︵この点は、担保保有者の善管義務ですらあると解さ れる。︶ が、その取立金は、元来、被担保債権の弁済期が到来するまでは債務の弁済に充当することができず、債権 東洋法学 一〇五
商担手貸と更生手続 一〇六 者はこれを債務者のために預り保管しておき、弁済期到来後にはじめて弁済充当の処理をなしうる︵この弁済充当の 処理を必要とする点で、譲渡担保手形は割引手形とは法的性質を異にする。︶ のであって、それまでは右取立金は、 いわば、担保手形の﹁代り金﹂というべき性質を持つものと説明することが可能である。また、譲渡担保手形の取立 金が被担保債権額を超過したときは、債権者はその超過分を債務者に返還しなければならないわけであるし、被担保 債権が弁済その他によって消滅したときは、債権者はその所持する譲渡担保手形を債務者に返還する義務を負うこと も明らかである。してみると、譲渡担保手形は、債務者からの譲渡裏書によって債権者の所持するところとなるので はあるが、右譲渡裏書の性質は、いわば隠れた質入裏書というべきものであり、少なくとも当事者間においては右手 形は依然として債務者︵更生会社︶の財産と見ることを妨げないと解する余地がある。 ω被告は、更生計画によって更生会社の債務が減免されても、担保手形上の他の手形合同義務者の債務には減免の 効果が及ばず、かつ、会社更生法一〇八条や二四〇条二項の規定の趣旨等からしても、譲渡担保手形の被担保債権は 更生債権として扱うほかはないと主張するが、譲渡担保手形の所持人が、債務者の更生手続開始決定にかかわらず、 手形の振出人その他の合同義務者に対し手形金額についての権利行使が可能であるということと、その取立金を当然 に被担保債権の弁済に充当できるかどうかは別の問題であって、これを前記のとおり担保手形の代り金と見るべきも のとすれば、会社更生法の右法条があるからといって、被告主張のように更生債権説を採らなければならないという 必然性はないと言えよう。 日被告は、その他にも、譲渡担保手形に関する更生担保権説の不当性を指摘するが、いずれも本質的な問題ではな
く、手続的な解決の可能な事柄にすぎないと解される。﹄ ︹意見︺ 本件更生手続において、銀行は、商担手貸︵本件は純粋な手形譲渡担保貸付ではない︶の債権を更生担 保権として届出て置きながら、管財人の債権調査期日における認否により、これが更生債権説に従った一般更生債権 の届出に変更されたと誤解したところに失敗の原因がある。更生手続における債権調査の制度は、簡易な債権確定手 続であり、債権調査期日に異議のなかった届出債権は、届出どおり確定するに過ぎず、異議を述べるに理由は必要と しない。管財入が更生担保権として異議があり、一般更生債権として認めると認否したのは、更生担保権の届出には、 担保不足等の場合は無担保の一般更生債権の届出が予備的になされていると解する実務の取扱に従ったに過ぎない。 従って、法定期限内に更生担保権確定訴訟の提起がなかった本件においては、届出に従って、担保の目的として届出 た譲渡担保手形は、土地と共に確定した更生担保権の担保の目的とされたのであって、本判決の結論は妥当である。 前項で述べたとおり、更生債権・更生担保権の届出は、債権者側にその主導権があり、その有する債権をどのよう に届出ようと自由である。自己に有利な届出をし、それに自信がなければ、予備的屈出をしてもよい。本件訴訟で銀 行が主張しているように、更生債権説で行くのであれば、債権調査期日前に商担手貸の分について、届出変更の手続 ︵更一二六②、一二五④︶をしておくべきであった。 次に、判決が傍論として述べている更生担保権説であるが、純粋な手形の譲渡担保貸付であれば、正にそのとおり であるが、商担手貸の場合には当てはまらない。その理由は既述したとおりである。 ︵1︶ 東京地判昭和五六・ 東洋 法 学 コ 一六判例時報一〇二四号一〇九頁︵控訴審で和解︶ 一〇七
商担手貸と更生手続 一〇八 八 む す ぴ 以上商担手貸と更生手続との関係について縷々述べてきたが、要は、商担手貸の債権を更生担保権として届出る か、一般更生債権として届出るかである。更生担保権として届出た場合、担保たる手形の評価の点を除けば、管財人 その他の関係人に異議のある筈はなく、理論構成としても、これを否定することはできない。問題は、一般更生債権 として届出た場合に、債権者の保有する商業手形が満期に支払われた時、その手形金を自己のものとなし得る法的根 拠と更生法との関係である。そのためには、更生法二二条との関係で、まず第一に、更生手続開始決定当時、既に 手形は更生会社の財産ではなく、債権者たる銀行の所有になっていなければならない。そして、手形と貸金との関連 がどうなっているかということである。 そこで、商担手貸における手形の裏書譲渡を借入金支払のためになされたものと解し、満期に手形が支払われるま では、貸金債権も消滅しないで存在するとみるのである。さすれば、債権者は確定的に自己の所有に帰した手形につ いて、裏書人の更生手続に関係なく振出人から支払をうけることができ、それによって所期の目的を達し、貸金債権 は自動的、確定的に消滅するのである。そこに債権者の貸金消滅のための何らの行為︵雛形では﹁弁済充当﹂とい う︶ を必要としないのである。債権者も債務者も、このような処理がなされることを予定して、商担手貸取引を行 っているにも拘らず、 ﹁譲渡担保﹂あるいは﹁弁済充当﹂の字句に拘泥したため、議論が紛糾したものと思われる。