特許権の侵害における特許権者,専用実施権者およ
び通常実施権者の損害額
著者
盛岡 一夫
著者別名
K. Morioka
雑誌名
東洋法学
巻
32
号
1
ページ
117-142
発行年
1988-12
URL
http://id.nii.ac.jp/1060/00003557/
Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja特許権の侵害における特許権者、専用実施権者および
通常実施権者の損害額
盛 岡
一
夫
五 おわりに ︵ 2 ー 独占的通常実施権を許諾している場合 ︵ 1 ー 非独占的通常実施権を許諾している場合 四 通常実施権を許諾している場合 ︵ ー 特許権者または専用実施権者の一方が原告の場合 2 ︵ 1 ー 特許権者と専用実施権者の双方が原告の場合 三 専用実施権を設定している場合 ー 特許権者が実施していない場合 ー 特許権者が実施している場合 エ 二 特許権者のみの場合 一 はじめに東洋法学
二七
特許権の侵害における特許権者、専用実施権者および通常実施権者の損害額
二八
はじめに 特許権が侵害されたときに特許権者は侵害者に対し損害賠償を請求することができるが、特許権者が実施権を設定 している場合に、特許権者、専用実施権者、通常実施権者の損害額をそれぞれどのように算定したらいいのだろう か。 特許権者が実施している場合に、特許法一〇二条一項の推定規定が適用されるが、その場合に侵害者の受けた利益 とは荒利益をいうのかそれとも純利益をいうのか、その立証をどのように考えるか、製品を構成する一部分が特許権 を侵害する場合に、損害額をどのように認定するか、特許権者が実施していない場合に特許法一〇二条二項の実施科 相当額をどのように算定するか、専用実施権設定後は、特許権者は訴の提起をすることができないのか、両者が共に 損害賠償を請求したときに両者の損害額をどのように算定するか、非独占的通常実施権者は損害賠償を請求すること ができるか、独占的通常実施権者が請求する場合に、特許法一〇二条の類推適用が認められるかということなどにつ いて問題となる。そこで、これらの問題点について順次検討する。 二 特許権者のみの場合 ω 特許権者が実施している場合 特許権が第三者により侵害された場合、 不法行為により損害賠償を請求することができる︵民七〇九条︶。特許権者は自己の蒙った損害賠償額を立証するよりも、侵害者の受けた利益の額を立証する方が多くの場合容易である、特 許権者が侵害行為によって蒙った消極的損害を立証することは困難であるので損害額の算定の困難を救うために、特 ︵王︶ 許法は次のような規定を設けている。特許法一〇二条一項は、特許権者が故意または過失により自己の特許権を侵害 した者に対し、その侵害により自己が受けた損害を賠償する場合において、その者がその侵害行為により利益を受け ているときは、その利益の額は、特許権者が受けた損害の額と推定する旨規定している。 この一項について、工業所有権制度改正審議会の答申は、不法行為のほかに、故意または過失により自己の特許権 または専用実施権を侵害した者に対し、その侵害の行為によって受けた利益の返還を請求することができる旨の規定 をおくこととしていたが、利益が損害の額をこえる場合にまでそのすべてを返還せしめるのは侵害者に苛酷であり、 民法の原則から著しく逸脱することになるというような理由から、これを改めて利益の額は損害の額と推定するとい う規定にしたものである。すなわち、審議会の結論は不当利得の返還として問題をとらえているのに対し、立法とし ︵2︶︵3︶ ては不法行為による損害の賠償として問題をとらえているといわれている。 一項の推定は、法律上の事実推定であり、特許権者によって、侵害者が侵害行為により受けた利益の額を立証すれ ば、その額が侵害によって蒙った損害額であることを法律上推定するものである。このような推定を可能ならしめる ︵4︶ のは経験則であるが、このような経験則が客観的に認められるか疑闘である。しかし、特許権侵害についての損害賠 ︵5︶ 償としては、利得返還の考え方を立法として否定したものと解されている。一項は推定規定であって、特許権者の損 ︵6︶ 害を墳補するものであり、利益の返還を定めたものではない。
東洋法学 一一九
特許権の侵害における特許権者、専用実施権者および通常実施権者の損害額 一二〇 一項は推定規定であるから、侵害者は、特許権者の蒙った損害額を立証することによって推定を覆すことができ る。したがって、侵害者が特許権者の損害の額を反証しない限り、特許権者は侵害者の受けた利益の額を立証すれ ば、侵害者の受けた利益の額が損害の額と認定されることになる。 侵害行為がなかったとすれば、特許権者は侵害者が製造販売したものと同じ分だけの製晶を製造販売し得たものと 認定するのであるが、製品が売れるのは、品質の問題だけでなく、侵害者の販売方法、宣伝広告、企業の信用等によ っても左右される。したがって、侵害者のこれらの独自の能力を立証することによって推定を覆すことができる。 特許権者は特許権が侵害された場合、その侵害者に対して不法行為︵民七〇九条︶に基づく損害賠償を請求するこ とができるが、そのためには、㈲故意・過失、㈲権利の侵害、@損害の発生、⑥損害と侵害行為との因果関係、㈲損 害額を主張・立証することが必要である。このうち、一項の推定規定は、@の損害の発生を推定するものであるか、 あるいは、㈹の損害と侵害行為との因果関係および㈲の損害額を推定するものであるか問題となるが、@の損害の発 ︵7︶ 生まで推定されるものではないと解されている。 ︵8︶ 商標権の侵害に関する事案において、長野地判昭和六一年六月二六日は、不法行為にょり蒙った損害の賠償を請求 するには、権利者において損害の発生を主張・立証しなければならないが、商標法三八条一項の規定は、損害の額の 立証が困難であることにかんがみ、これを救済することを目的として、権利者が蒙った損害額を推定するにとどま り、侵害者が侵害行為にょり受けた利益額と同額の損害を権利者によって蒙ったとまで推定するものではない。権利 者が右規定の適用を受けるためには、自ら業として登録商標を使用しており、かつその商標権に対する侵害行為によ
って現に営業上の損害を蒙ったことを主張立証する必要があると述べている。 このように、損害の発生の事実は原告である特許権者が主張立証しなければならないので、特許権者自身が実施し ている場合に、一項の推定規定は適用されると解されている。 ︵9︶ 東京地判昭和三七年九月二二日は、原告自身が実用新案権の実施をしていない︵したがって、実施による利益を得 ていない︶ような場合には、被告が利益を得ているとしても、その額をそのまま原告の損害額と推定することはでき ないと解している。 特許権者が実施していない場合には、実施による利益を得ていないのであり、したがって、得べかりし利益を失っ ︵10︶ ていないのである。 一項は得べかりし利益を失った場合の損害額を推定しているのである。しかし、一般論として は、権利者が未だ実施していなくても、自ら実施の準備をなすとか、実施の許諾につき他の交渉中のところ、侵害行 為により座礁のやむなきにいたった場合等、実施料相当額を超える損害の賠償を請求する場合には、三項による途も ︵n︶ あるが、一項により損害額を推定する余地も残っているとの見解があるが妥当な見解である。 損害の発生は、特許権者が立証しなければならないが、どの程度の立証をしたら一項が適用されるのであろうか。 権利者が正確には特許発明の実施でなく、その類似晶の製造販売をしている場合であっても、侵害品と同種の製品 ︵12︶ の製造販売を行なっているときは、損害の発生を認めてよいとか、特許権者としては、侵害品と競合する特許の実施 ︵招︶ 品を製造し、販売していることをいえば足りるとか、特許権者は、現にしている特許発明の実施を妨げられたこと、 ︵14︶ またはこれからしようとしている特許発明の実施を妨げられたことの主張立証を要するとの見解がある。
東洋法学 一二一
特許権の侵害における特許権者、専用実施権者および通常実施権者の損害額 一二二 特許法一〇二条一項の侵害者が受けた利益とは、荒利益をいうのであろうか、それとも純利益をいうのであろう か。荒利益とは、売上高から売上原価を控除した金額をいい、純利益とは、売上高から荒利益のほか必要経費︵一般 管理費、販売人件費、水道光熱費、宣伝広告費等︶を控除した金額をいう。 ︵1 5︶ ︵1 6︶ ︵∬︶ ︵娼︶ 荒利益説をとる学説、判決例があるが、多くの学説、判決例は、純利益説をとっている。荒利益説をとると、特許 権者を過剰に保護することになるから純利益説をとるべきである。しかし、純利益説をとると、特許権者において広 告宣伝費、設備の償却費等を立証しなければならないが、これらの必要経費を特許権者が立証することは困難であ ︵扮︶ り、この説はあまり実際的でないとの批判がある。 この立証の問題については、次のように解することも可能であろう。特許法一〇五条による文書提出命令申立権を ︵20︶ 利用して、必要経費の立証をすることも考えられるが、必要経費を特許権者が正確に知ることは困難であろう。そこ で、特許権者が立証しなければならないのは荒利益額とし、必要経費については侵害者に立証させるのが妥当であろ ︵21︶ う。必要経費について、侵害者が立証することは特許権者が立証することに比較するとそれほど困難ではないと思わ れるからである。 商標法三八条一項の適用にあたっては、被告の純利益を把握しえたときはこれによるべきものであるが、その場合 原告側が荒利益について一応の立証を遂げていれば、純利益額を算出するためのこれを減額する要素は、被告側にそ ︵22︶ の主張・立証責任を負わせるのが相当であると解する判決がある。その理由として、原告側には、被告が得た利益を 立証するために文書提出命令の申立をすることができるが、これにより立証できるのは、侵害品の製造・販売数量、
販売価格、製造・仕入原価等の荒利益額を把握できる資料に止まることが多く、そうした場合、被告の得た利益額の 立証責任が原告にあるからといって、さらに原告側に被告の利益となる純利益額算出のための滅額要素の挙証義務を 負わせ、その資料の提出がないからといって、損害額についての立証がないとしたのでは、かえって商標権侵害訴訟 における原告の損害額の立証の困難性を緩和するために特に設けられた右推定規定の活用が著しく困難となり、右推 定規定が設けられた立法趣旨にも反する結果となるからであるとしている。 特許発明の侵害品が製品の一部品である場合︵製晶を構成する一部分が権利侵害になる場合︶に、損害額をどのよ うに認定すべきであろうか。 ︵23︶ ︵24︶ 全体利益説と寄与度考慮説︵利用率説︶とがある。特許発明を侵害した部晶が製品に組込まれたことによって製品 の晶質がよくなり、大量に売れるようになることもあれば、製晶の全体としての品質の向上にはそれほど貢献してい ないこともある。侵害されている特許発明が製品全体に対して、どの程度占めているかを判断することは困難である が、寄与率を考慮して損害額を決すべきである。 ③ 特許権者が実施していない場合 特許権者が自らその特許発明を実施していない場合には、特許法一〇二条二項により実施料相当額を請求すること になる。特許法一〇二条二項は、特許権者は、故意または過失により自己の特許権を侵害した者に対し、その特許発 明の実施に対し通常受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を、自己が受けた損害の額としてその賠償を請求するこ とができる旨規定している。ここに、その特許発明の実施に対し通常受けるぺき金銭の額とは、通常実施権実施料相
東洋法学
一二一二特許権の侵害における特許権者、専用実施権者および通常実施権者の損害額 一二四 当額をいう。この二項は、特許権侵害の場合に、損害額を立証するのが困難であるので設けられた規定である。 ︵25︶ これは、損害の発生、損害額および損害と侵害行為の因果関係を擬制したものと解されており、特許権の侵害の場 ︵26︶ 合には、最低限実施料相当額は損害額として認めようとするものである。このように少なくとも実施料相当額を請求 ︵27︶ し得る根拠については、公開の代償としての独占権の付与という特許権の社会経済的な性質に基づくとの見解と、商 標権︵商標三八条二項︶や著作権︵著二四条二項︶にも同一規定がありこれらが公開の代償として与えられたとす ︵28︶ ることはできないから、無体財産の性質に基因して公平の原則より認められたものとの見解がある。 ︵29︶ 実施料相当額をどのように算定するかは困難な問題である。特許権者がすでに実施権を許諾している場合には、そ ︵30︶ ︵雛︶ れの約定実施料が参考になる。もちろん、その約定実施料は不当なものであってはならない。特別な事情がある場合 ︵32︶ には、これを考慮して約定実施料率を増減することになる。 特許権者が実施権を許諾していない場合には、慣行的実施料率その他の諸般の事情を考慮し個別的に定めることに なる。固有特許権実施契約書︵昭和四七年特総第八八号特許庁長官通牒︶による実施料算定法を採用する判決例が多 ︵33︶ い。これは、実施料鋒基準率×利用率×増減率×開拓率とするものである。 ︵3 4︶ 具体的な実施料率は、三%∼五%が多いが、その基礎とする価格については、販売価格とするもの、工場渡し価格 ︵35︶ ︵36︶ とするもの、工場渡し価格から梱包代、輸送代を差引いた額とするものとに分れている。工場渡し価格から梱包代や 輸送代を差引いた額とする考え方が妥当である。 特許発明の侵害が侵害者の製品の全部でなく、一部である場合には、その侵害部品の製品全体に占める割合︵寄与
率・利用率︶を算定しなければならない。カメラの露光計に関する実施料相当額の算出にあたっては、露光計は機構 も商品価値の構成上もカメラ全体と密接に接合しているので、露光計のみの価格を基準とすべきではなく、カメラ全 体の価格に基づいて算出すべきであるとし、当該特許発明が製品全体に占める割合、すなわち利用率は四〇%である とみて、カメラの税引卸売価格につき、実施料率四%に利用率四〇%を乗じた一・六%が実施料相当額になるとした ︵37︶ 判決がある。 賠償額としての実施料相当額は、一種の法定賠償額にほかならないので、その額につき権利者の主張・立証が欠け ︵38︶ る場合においても、裁判所としては、独自の判断に基づきこれを算定しなければならないとの見解がある。 実施料相当額は最低限の賠償であるから、特許権者の蒙った損害がそれ以上である場合には、それ以上の額を立証 して損害賠償を請求することができる。この場合に侵害者に故意または重大な過失がなかったときは、裁判所は損害 ︵39︶ の賠償の額を定めるについてこれを参酌することができる︵特一〇二条三項︶。 特許法一〇二条一項は三項後段の適用を受けるか否かについては、一項によって侵害者の受けた利益額が損害額と 推定された賠償額が実施料相当額を超過している場合には、三項後段の﹁この場合において﹂に該当せず、損害額の ︵憩︶ 軽減は不可能であるとの見解がある。三項後段の規定の趣旨については、特許権の侵害の有無は実際問題として微妙 であり、また侵害と判断されれば巨額の賠償をしなければならない場合も少なくないから、これらの事情を考慮して ︵41︶ 設けられたものであるとか、あらかじめ権利侵害の有無を確認することは、権利侵害者を含む競業者一般にとって必 ずしも容易なことではないため、賠償額をなるべく実施料相当額に近い範囲にとどめ、過って権利を侵害した競業者
東洋法学
一二五特許権の侵害における特許権者、専用実施権者および通常実施権者の損害額 一二六 ︵42︶ の負担を軽減しようという趣旨に出た規定であると解されている。このように軽過失によって特許権を侵害した場合 に侵害者の負担を軽くすべきであるから、一項により侵害者の受けた利益額が特許権者の蒙った損害額と推定された 場合でも、その額が実施料相当額を超える場合には損害額の軽減を受けると解すべきである。参酌することができる というのは、実際の損害額より少ない額で賠償額を定めることができるという意味である。 特許権を侵害しているか否かを判断することは困難なことであり、他人の特許権を侵害していないと思って実施し ていた場合や、他人の特許は無効であると思って実施していた場合等には、侵害者の立場も十分に考慮し、賠償額を 軽減することも必要である。実施する前に他人の特許を十分に調査し善意︵軽過失︶で実施していたが、特許権を侵 害したような場合には、実際の損害額よりも少ない賠償額を認定してもよいと解する。 これに反し、侵害行為が故意であるときは、賠償額の増額を考えてもよいであろう。これには、アメリカ特許法二 ︵騒︶ 八四条の賠償額の増額が参考になろう。裁判所は、実施する前に原則として社外の特許専門の弁護士の意見を聞いて ︵45︶ ︵46︶ いたか、弁護士の意見にしたがって行動したか否か等を考慮して侵害行為が意図的であった否かを判断している。わ が国においても、侵害行為が意図的︵故意︶な場合には賠償額を増額し、軽過失の場合には賠償額を軽減することを 積極的に認めてもよいのではないだろうか。 ︵王︶ ︵2︶ 紋谷暢男・無体財産権法概論︹第四版︺一三五頁、織田秀明謎石川義雄・増訂新特許法詳解三六八頁、橋本良郎・特許法 二六二頁以下、吉原隆次罐小松祐治・改正特許法説義二三三頁参照。 特許庁編・工業所有権法逐条解説二三八頁以下、しかし、半田正夫・特許判例百選︹第二版︺一九五頁は、準事務管理の
︵3︶ ︵4︶ ︵5︶ ︵6︶ ︵7︶ ︵8︶ ︵9︶ ︵m︶ ︵U︶ ︵1 2︶ ︵13︶ 法理を援用しないことを示すものとみることができると解している。 豊崎光衛・工業所有権法︹新版︺二三七頁は、損害賠償の名の下に実は利得の返還も認められることになるのではないか と述べている。 大阪地判昭和五五年一〇月三一日無体集一二巻二号六三二頁は、 一般に、特許権者は他人が当該特許権侵害により何ほど かの利得を得た場合、これにより右利得と同額の損失を生じたとみなければならない合理的な理由はな恥。損害賠償請求の 場合に侵害者の利得即権利者の損害額とみられるのは特許法一〇二条一項所定の推定規定が存するからにほかならないこと はいうまでもないと述ぺている。なお、筒井豊・﹁損害①ー推定規定の適用要件﹂・﹁損害③ー複数の権利の侵害﹂裁判実務大 系9工業所有権訴訟法︵牧野利秋編︶三二四頁以下・三四四頁以下参照。 松本重敏・注解特許法上巻︵中山信弘編︶七〇三頁。 斎藤博・特許判例百選︹第二版︺二〇三頁参照。 松本・前掲七〇三頁、筒井・前掲三二六頁以下、清永利亮・﹁損害㈲!複数の侵害者﹂裁判実務大系9工業所有権訴訟法 ︵牧野編︶三五二頁。 無体集一八巻二号二三九頁、立証がないとして、使用料相当額を損害額と認定している。 判例タイムズ一三六号一一六頁。 品川澄雄・特許判例百選︹第一版︺一八五頁、松本・前掲七〇四頁、筒井・前掲三二六頁参照。 斎藤・前掲二〇三頁。 吉原省三へ特許権侵害と損害賠償請求訴訟の要件事実﹂無体財産権法の諸問題︵石黒淳平先生追悼論集︶一八六頁・一九 三頁、筒井・前掲三二七頁は、特許権者が厳密には特許発明の実施品でなくても侵害品と同種の製品の製造販売を行ってい るときは、侵害行為がなければ特許権者が侵害品に関する取引の機会を得て自らその製造販売をなしえたはずであると解す ることが可能であり、この意味で吉原説に賛成する。 設楽隆一・﹁損害③ー侵害行為により受けた利益﹂裁判実務大系9工業所有権訴訟法︵牧野編︶三三一頁。
東洋法学
一二七︵廻︶ ︵蛎︶ ︵掲︶ ︵誓︶ ︵18︶ ︵B︶ ︵20︶ ︵班︶ ︵22︶ .︵2 3︶ ︵24︶ ︵%︶ 特許権の侵害における特許権者、専用実施権者および通常実施権者の損害額 一二八 清永・前掲三五二頁。 播磨良承・判例工業所有権法︵内田修編︶二〇五頁。 大阪地判昭和四三年八月一九日企業法研究一六五輯七二頁、大阪高判昭和五六年二月一九日無体集二一一巻一号七一頁は、 商標法三八条一項の規定は商標権の侵害行為によって蒙る商標権者の損害額の証明が困難であることにかんがみ、商標権者 の利益を保護するために設けられたものであるから、同条項にいう侵害者の利益額とは、侵害者が類似標章を附した商品を 販売することによって得た利益に当該商晶の販売総数を乗ずる方法によって算出される、恥わゆる荒利益︵営業利益︶をい うものと解するのが相当であるとしている。そして、荒利益の営業利益率を六%と認定しつつ、商品の販売のうちには当該 標章が使用されたこととは全く無関係に営業努力等によってもたらされたものもあるとして利益額を二%に減じている。 渋谷達紀・注釈特許法︵紋谷暢男編︶二四八頁、畑郁夫・判例特許侵害法︵馬瀬文夫先生古稀記念︶七四五頁、八掛俊彦 ・﹁損害額﹂工業所有権法の基礎︵申山信弘編︶一四六頁。 東京地判昭和四八年五月二五日無体集五巻一号一二八頁等。 三宅正雄・改訂版特許争訟雑感一六頁以下。 高林克己・﹁損害賠償・不当利得返還請求﹂特許・意匠・商標の法律相談︹新版︺︵吉藤H紋谷編︶五一六頁参照。 畑・前掲七四六頁、設楽・前掲三三七頁参照。 大阪地判昭和六〇年六月二八日無体集一七巻二号三一一頁、本件におψては、被告が純利益額算出のための荒利益額を減 額し得る要素について何ら立証していないので、被告の荒利益をもって原告の損害と認定している。 東京地判昭和五二年三月三〇日無体集九巻一号三〇〇頁、大阪高判昭和五七年九月一六日無体集一四巻三号五七一頁。 八掛・前掲一四七頁、筒井・前掲三四六頁、設楽・前掲三三三頁以下、畑・前掲七四三頁以下は、顧客吸引力に対する当 該特許発明の寄与度ないし貢献度︵質的配慮の必要性︶および当該特許発明の実施部分が容量的ないし容積的にどの程度の 割合を占めているか︵量的配慮の必要性︶という点の配慮が必要であるとする。 品川・前掲一八五頁。
︵26︶ ︵27︶ ︵28︶ ︵29︶ ︵3 0︶ ( 31 ) 切な実施料を請求することが多い。望彗罫鼠掌麟鏡欝ポ瓢ぼε9留ω評帯馨お3鼻餅︸急●おc ◎侵害者が得た利益の返還︵瓢窪鎧茜答o山霧く①触竃ぎ①茜①毒ぎ霧︶の三方式があるが、④と◎は立証が困難であるので⑤の適 西ドイツにおける算定方式としては、③喪失利益︵①馨αQきαQ鶏費9惹寒︶⑤適切な実施料︵きαqΦ鷺霧零琴い齢窪お①鐸ぼ︶ 久々湊伸一・特許判例百選︹第二版︺一九七頁。 舟本信光・判例特許実用新案法−三六〇頁。 アメリカ特許法二八四条一項は、適正な実施料が最低限の賠償額である旨を規定している。 。Oψ803浮鼻鐘幽 評富纂αQΦ器貫8︾藁騨おo o一〇 〇。貿OO3類暮導導劇のo毒角導30目力①島塞魯暮㌍9︾島辱おo oo 。ψ一謡停ωoぎ︸叶ρ 評竃p茜霧①貫G 。。︾島曲一Φo o一9臼c o鞭参照。 播磨・工業所有権法工三四四頁、東京地判昭和三九年二月二九日判例タイムズ一五九号二〇九頁は、原告は実用新案の実 施に対し通常受けるべき金銭の額をその実施料として取得できたはずであるから、その実施料が現に販売価額の三%である ならば、これをもって損害とすべきであるとしている。 大阪地判昭和五八年一〇月二八日判例タイムズ五一四号三〇三頁は、権利者が設定していた専用実施権の実施料率を参考 にしている。また、東京地判昭和四三年九月四日判例タイムズニニ九号二四二頁は、﹁専用実施権の実施料が専用実施権者に おいて販売した物の販売量に一定の率を乗ずる方式のものであるときは、被告の侵害行為にょり被告が生産販売した量だけ 専用実施権者の販売量が減少し、結局、特許権者が専用実施権者から受領し得たはずの被告の販売料に対応する実施料が減 少するのであるから、特許権者は実施料相当額を得べかりし利益を失い、これと同額の損害を蒙ったとしている。 ↓o欝器さピα銘銭窪餌のω評け窪?”○①ぼ鎧。冴き霧8マ¢&艶昏鉱g魯壼o房感&鐸⇒αq。 。器畠富餌震じ ご毒象ωお饗げ一欝U①葺ω畠・ 雷&”幹︾島。おG oo。幹おO篤wω8訂鉱︸勲鉾ρ︾ψに臼3じ ご。旨誇識?図壁ゆg鉾黛○‘堕器N臨参照。 東京地判昭和四二年七月三日下級民集一八巻七・八合併号七三九頁、アメリカにおける損害額の算定基準には、④逸失利 益︵一〇雪鷲&芭、⑤確定実施料︵婁ぎ冴ゲa8饗一蔓︶、◎適性実施料︵器霧8答8き饗一蔓︶の一二方式があるが、③の逸失 利益は、特許権者が実施している場合に認められ、⑤の確定実施料は、特許権者が他の者に実施権を許諾している場合に認
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二一九︵32︶ ︵33︶ ︵誕︶
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︵37︶ ︵38︶ ︵39︶ ︵切︶ ︵殿︶ ︵姐︶ 特許権の侵害における特許権者、専用実施権者および通常実施権者の損害額 一三〇 められる。この確定実施料は、侵害訴訟の提起前に相当数の者によって同意され、かつ支払われており、適切であると認め られていることを要する。◎の適正実施料は最低限の損害賠償額である。9巨欝/紋谷訳監修・アメジカ特許法とその手続 二六九頁以下、川口博也・アメリカ特許法概説七七頁以下参照。 富山地判昭和四五年九月七日無体集二巻二号四一四頁は、特許権者のアメジカにおける契約を参考にし︵五%の約定実施 率︶、わが国における特別な事情を認めて販売価格の四%と認定している。 東京地判昭和四七年五月二二日無体集四巻一号二九四頁、大販地判昭和五八年五月二七日無体集一五巻二号四二九頁等、 薯優美・改正工業所有権法解説二四八頁以下参照。 東京地判昭和四一年コ月二二日下級民集一七巻一一・一二合併号一コ六頁は、製晶の販売価格の○・五%としている。 前掲東京地判昭和四二年七月三日は、製晶の販売価格の二・五%としている。大阪地判昭和五五年六月一七日無体集一二巻 一号二四二頁は、考案の内容その他当裁判所に顕著なこの種の相場にてらし売上代金額の三%としている。 東京高判昭和四八年四月五日判例タイムズ三〇六号二六九頁は、製晶の工場渡し価格の三%としている。 東京地判昭和三七年九月二二日判例タイムズ=士ハ号二六頁は、製品の工場渡し価格から梱包代、輸送代を差し引恥た 額の二・五%としている。 東京地判昭和四七年五月二ニヨ無体集四巻一号二九四頁。 渋谷・前掲二四九頁。 西ドイツ特許法二二九条二項は、侵害者に軽過失の責めしかない場合には、裁判所は損害賠償に代えて、被侵害者の蒙っ た損害と侵害者が受けた利益との間を限度として補償金︵国露。。魯毬蒔μ轟︶を確定することができる旨を規定している。 光石士郎・新訂特許法詳説三八六頁、兼子一韮染野義信・工業所有権法︹改訂版︺二五二頁。 吉藤幸朔・特許法概説︹第六版︺三二五頁、生駒正文・特許判例百選︹第二版︺一九九頁、大阪地判昭和五九年二皿月二 〇臼判例時報一ニニ七号二一三頁。 渋谷・前掲二四九頁。︵43︶ ︵擁︶ ︵妬︶ ︵46︶ 特許庁編・前掲二三八頁、渋谷・前掲二四九頁。 古城春実﹁アメリカにおける意図的特許侵害と賠償の増額上申﹂発明八五巻四号二五頁以下、八五巻五号一四頁以下参照、 d⇔山霞嬢簿段Uoユ89冒9︿9鷺o瑛坤ω○㌣渓ロ鐸静窪Oo●︸H琴‘譲“男●謡誌G oρ黙 oおd.ψ勺。P㎝8︵男&6Ω目’おo oωY O①講篤一留醤Oo4甘o。<●の09︾.霞段導巴簿OOご蕊ω屑.母一㎝お矯鵠Od。9勺●P魅O︵肇①山。Ω磐おc oω︶。 三 専用実施権を設定している場合 ω 特許権者と専用実施権者の双方が原告の場合 専用実施権者が設定されると、その範囲では特許権は空権となり、侵害によっても損害を生ずることはありえない から、訴の利益という観点から、特許権者は侵害訴訟を提起する利益を有しないと解するのが最も妥当な結論である ︵1︶ とか、特許権者が独占的実施権を与えた後においては、もはや特許権者は単独で損害賠償請求を有すべきではなく ︵2︶ て、これがためには独占的実施権者を参加せしめるか、独占的実施権者が損害賠償訴訟を提起すべきである、との見 解がある。 ︵3︶ しかし、実績実施料の場合に、侵害者の実施によって専用実施権者の製品の売上が減少し、その結果として特許権 者が受領すべき実施料収入が減少することになるので、特許権者はその分だけ損害を蒙ることになる。したがって、 ︵4︶ 特許権者にも損害賠償請求権を認めるべきである。 ︵5︶ 名古屋地判昭和五八年三月一八日は、実用新案権者は、侵害者に対し特段の事由の存しないかぎり、実用新案法二 九条二項の実施料相当額を損害賠償として請求し得ることは明らかであり、専用実施権者は、侵害行為にょり減少し
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二三特許権の侵害における特許権者、専用実施権者および通常実施権者の損害額 一三二 た製晶の販売利益から特許権者に支払うべき実施料相当額を控除した額を請求し得るとしている。なお、専用実施権 は登録原簿に登録されなければ効力を生じないから、専用実施権設定契約を結んだときからではなく、設定登録され た日以降の侵害行為についてのみ賠償を求めることができるとしている。 ︵6︶ 東京地判昭和六三年四月二二日は、特許権者には実施料相当額を、専用実施権者には、侵害者の販売によって減少 した製品の販売利益から特許権者に支払うべき実施料相当額を控除した額を請求し得るとしている。 これに対し、侵害者の受けた利益額から特許権者に支払うべき実施料相当額を控除しないで、専用実施権者の損害 ︵7︶ 額を認定した判決がある。東京地判昭和四三年七月二四日は、専用実施権者に対しては、特許法一〇二条一項により 侵害者の受けた利益額を損害額と認め、特許権者に対しては実施料相当額を損害額としている。 このように、専用実施権者と共に特許権者も損害賠償請求の訴を提起しうるものと解すべきである。この場合、尊 用実施権者の損害の算定については、特許発明の侵害によって侵害者の受けた利益を専用実施権者の蒙った損害と推 定し、この額から特許権者に支払うべき実施料を控除した額を損害額と認め、特許権者に対しては、実施料相当額を 損害額として認めることになろう。特許権者は、専用実施権者の利益額に応じた実施料を受けとることができたはず であるが、侵害行為により専用実施権者の利益額が減少し、その結果、特許権者の受けとるべき実施料が減少するか らである。これに対し、実績実施料ではなく、一括支払であるときには、特許権者に損害は生じないから訴の利益が ︵9︶ ない。 しかし、特許権者は特許法一〇二条二項の請求はできないとの見解がある。その理由として、特許権者は専用実施
権を設定した後は、特許発明を実施することができないから、通常実施権を設定することができず、期待利益もない ︵10︶ からであるとしている。特許権者は、専用実施権設定の範囲内において実施できなくなるが、侵害者に対する損害賠 償の請求まで否定するものではないと解する。特許法一〇二条二項の趣旨を考えても、特許権者には同条二項の適用 を認めるべきである。 したがって、専用実施権者が特許法一〇二条一項の規定により、侵害者の受けた利益額を自己の蒙った損害額であ るとして請求し、特許権者が同条二項の規定により、実施料相当額を損害額であるとしてそれぞれ請求した場合に は、専用実施権者の蒙った損害額を算定するにあたり、特許法一〇二条一項の規定を適用し、これから実施料相当額 を控除した金額を損害額とし、特許権者については、同条二項を適用して実施料相当額を特許権者の蒙った損害額と 認定すべきである。 問題となるのは、専用実施権と特許権者の双方が特許法一〇二項の適用を請求してきたときにどのように考えるか ということである。 この点について、同条二項は権利者がその特許発明を第三者に実施させる権限を有していることを前提としている と考え、同条二項が﹁特許権者又は専用実施権者は﹂と定めている意味を﹁実施についての専有権を有しているその ︵U︶ いずれかは﹂というように解し、特許権者は同条二項を適用することはできないとの見解がある。このような場合に 侵害者が特許権者と専用実施権者の双方に実施料相当額を支払わなければならないと解するのは妥当でないので、ど のように損害額を算定するのがよいか、今後、検討したいと思う。また、専用実施権者が実施していない場合に、特
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一三三特許権の侵害における特許権者、専用実施権者および通常実施権者の損害額 一三四 許権者および専用実施権者の損害額をどのように考えるのがよいのかという問題点についても今後の検討課題にした い。 ⑭特許権者または専用実施権者の一方のみが原告の場合 特許権者と専用実施権者の双方に訴権を認めると、両者共に訴を提起しないこともある。特許権者は専用実施権者 に対して訴を提起する義務を負わず、また、専用実施権者は特許権者に対して訴を提起する義務を負わないので、い ずれの当事者が訴を提起する責任を負うかという問題が生じる。 このような問題が生じないように、あらかじめ実施契約中に定めておく方がよい。その場合訴訟提起者、訴訟提起 期聞、訴訟費用等を当事者のいずれが負うか、また、訴訟の結果取得した損額金の配分等を明確に定めることが必要 ︵1 2﹀ である。たとえば、特約により専用実施権者が訴を提起することになっている場合には、特許権者の損害を含めた金 額を侵害者に対して損害賠償請求することができ、あとは、特約により専用実施権者より特許権者にその一部を支払 うことになる。 実施契約中に明文の規定がないときには、特許権者も専用実施権者も共に相手方のために訴を提起する義務を負わ ないのであるから、特許権者は自己の蒙った損害額についてのみ賠償請求をし、専用実施権者も自己の蒙った損害額 ︵蔦︶ の賠償のみを請求することもできる。また、両者の相談により、当事者の一方が相手方の分も含めた金額の損害賠償 の請求をすることもできるが、この場合、特許権者と専用実施権者の重複する損害額の部分については不真正連帯債 ︵艮︶ 権の関係に立つことになる。
実施料が一括支払になっている場合には、特許権者は侵害行為によって、実施料の収入が減少することはないので 損害が生じない。したがって、専用実施権者は、侵害者の受けた利益額を自己の蒙った損害額︵特許権者に支払う実 施料を控除しない額︶として請求することができる。 ︵1︶ ︵2︶ ︵3︶ ︵4︶
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︵7︶ ︵8︶ ︵9︶ ︵憩︶ ︵U︶ ︵鷲︶ 染野義信難染野啓子﹁特許権侵害訴訟における実施権者の訴訟適格﹂企業法研究創刊十周年記念論文集一二八頁。 永田大二郎・技術援助契約二二七頁。 実施料の分類については、永田・前掲一四六頁以下、野口良光・国内実施契約の実務一三二頁以下参照。 専用実施権設定後の特許権者の差止請求権について、谷口知平・特許判例百選︵第一版︶一五五頁、中井美雄・判例工業 所有権法︵内田修編︶一二四頁、紋谷・商事判例研究︵昭和三八年度︶二二二頁、播磨・判例研究工業所有権法︵中川・播 磨編︶三〇三頁以下、拙稿﹁実施権の侵害﹂国際工業所有権法研究︵瀧野博士喜寿記念論文集︶五一八頁参照。 判例タイムズ五一四号二九一頁。 判例時報一二七四号一一七頁。本件の場合、特許権者と実施権者との問では専用実施契約を設定しているときと独占的通 常実施権を設定しているときがある。なお、特許権者も実施権者も特許法一〇二条一項または二項の規定の適用を求めてい ないようである。 判例タイムズニニ九号二三一頁。 大隅健一郎﹁技術提携﹂経営法学全集一一企業提携八二頁。 大隅・前掲八二頁。 八掛・前掲一四七頁。 吉原ら損害㈲﹂前掲三六八頁。 野口・前掲二〇一頁以下参照。東洋法学
一三五︵B︶ ︵猛︶ 特許権の侵害における特許権者、専用実施権者および通常実施権者の損害額 二呈ハ 前掲昭和四三年九月四日は、特許権者のみ原告となり、自己の損害の賠償を請求し、大阪地判昭和五九年一二月二〇日無 体集一六巻三号八〇三頁︵その控訴審である大阪高判昭和六一年六月二〇目無体集一八巻二号二一〇頁︶は、完全独占的通 常実施権者のみ原告となり自己の損害の賠償を請求した事案である。 吉原﹁損害⑤ー複数の権利者﹂前掲三六八頁以下参照。 四 通常実施権を許諾している場合 ① 非独占的通常実施権を許諾している場合 通常実施権を独占的通常実施権と非独占的実施権に分けて検討する。非独占的通常実施権者は侵害者に対し、損害 ︵1︶ 賠償の請求をすることができるか否かについて見解が分れている。 ︵2︶ 通常実施権の法的性質については、債権︵債権的性質︶であると解されている。そこで、第三者が当該特許発明を 無権限で実施しているときに、債権の侵害行為になり、不法行為になるか否か問題となる。第三者による債権侵害が 不法行為になることは、学説・判例の認めるところであるが、すべての侵害行為が常に不法行為になるわけではな い。債権侵害が不法行為になるか否かは侵害行為の態様を考えあわせてきめなければならないとされているが、その 態様としては、@債権の帰属自体の侵害、㈲債権の目的たる給付の侵害、@債務不履行への加担があげられている。 第三者が無権限で実施契約の対象である特許発明を実施しても、債権侵害のいずれの態様にも該当しないから非独占 的通常実施権の侵害があったとはいえない。したがって、非独占的通常実施権者は不法行為に基づく損害賠償の請求 ︵3︶︵4︶ をすることができないと解する︵したがって、実施契約申に特許権者の侵害排除等について特約しておくとよい︶。
このように非独占通常実施権者は侵害者に対して損害賠償を請求し得る立場にないから、特許権者のみが訴を提起 することになる。 特許権者と非独占的通常実施権者が共に実施している場合には、特許権者は、特許法一〇二条一項の推定規定によ り侵害者の受けた利益額を自己の蒙った損害額として請求することができると解する。また、特許権者が実施してい なかった場合でも同条二項の規定に基づき実施料相当額の請求をすることができると解する。 特許権者が多数の第三者に対し非独占的通常実施権を許諾している事案において、実施者が多数存在するときに は、侵害行為があったとしても、その侵害行為がなければ特許権者の製品の売上が増加したであろうとはいえず、特 許法一〇二条一項の規定による推定は覆されたものというべきであるとの被告の主張に対し、大阪地判昭和六二年一 ︵5︶ 一月二五日は、そのことだけで同項一項の規定による推定が覆されるものではないとしている。侵害行為により、特 許権者は得べかりし利益を喪失するのであるから、他に非独占的通常実施権者が実施しているときでも、侵害者の受 けた利益額を特許権者の損害額と推定しても不都合はない。特許権者が蒙った現実の損害額が侵害者の受けた利益額 よりも少ないときに推定は覆されることになる。 ② 独占的通常実施権を許諾している場合 独占的通常実施権者が損害賠償の訴を提起することができるか否かについても見解が分れている。第三者が無権限 で実施契約の対象である特許発明を実施するときには、独占的通常実施権を侵害することになる。この場合には実施 権者の独占性を害し、形式的には目的たる給付の侵害があったといえる。したがって、独占的通常実施権者は不法行
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一三七特許権の侵害における特許権者、専用実施権者および通常実施権者の損害額 一三八 ︵6︶ 為に基づく損害賠償請求権を有する。 ︵7︶ 東京地判昭和三八年九月一四欝は、特許権者に実施料相当額を、独占的通常実施権者には、侵害者の販売した価額 から特許権者に支払うべき実施料を控除した額に利益率を乗じた額を損害額と認定している。 ︵8︶ ︵9︶ 大阪地判昭和五四年二月二八日およびこの控訴審である大阪高判昭和五五年一月三〇照は、実質上専用実施権者と 同視して差支えのない独占的通常実施権者の損害額を算定するにあたり、実用新案法二九条一項を類推適用して、侵 害者が侵害行為により受けた利益額を独占的通常実施権者の蒙った損害額と一応推定し、この額から実施料相当額を 控除した額を損害額としている。また、実用新案権者の蒙った損害額の算定にあたっては、自ら実施していないので 同条一項の推定規定を適用するのは相当でなく、同条二項によって実施料相当額を損害額として請求するのが相当で あるとしている。 ︵10︶ このように独占的通常実施権者は、直接侵害者に対して損害賠償を請求することができると解すべきである。しか し、特許法一〇二条一項および二項を類推適用することによって独占的通常実施権者の損害額を算定するのは妥当で ︵藍︶ ないと解する。特許権者が実施していない場合には、専用実施権者と︵完全︶独占的通常実施権者とは同じような立 ︵皿︶ 場ではあるが、この場合でも特許法一〇二条の類推適用を認めるのではなく、民法七〇九条を適用すべきである。 実施権者が独占的に実施し、意匠権者との間では、あたかも専用実施権を設定した場合に類する関係にあるので、 意匠法三九条一項の規定が類推適用されるぺきであるとの主張に対し、通常実施権であるとして、同条項の適用ない ︵1 3︶ し類推適用の余地はないとした判決や、完全独占的通常実施権者の損害賠償請求権については、民法の一般原則にゆ
︵錘︶ だねていると解する判決がある。 特許権者が実施していていない場合には、特許権者には特許法一〇二条一項は適用されず、同条二項が適用され、 独占的通常実施権者には民法七〇九条が適用されることになる。したがって、独占的通常実施権者は、民法七〇九条 の不法行為に基づく損害賠償の立証責任を負い、侵害行為と相当因果関係にある損害額から実施料相当額を控除した 残額が独占的通常実施権者の実損害額となる。また、特許権者は実施しないので、一括払のときには損害がないが、 実績実施料のときには実施料相当額が損害額となる。 これに対し、特許権者も独占的通常実施権者も共に実施している場合には、特許権者には特許法一〇二条一項また は二項が適用され、独占的通常実施権者には民法七〇九条が適用される。この場合、特許権者が特許法一〇二条一項 の適用をし、侵害者の受けた利益の額を立証して自己の蒙った損害額であると主張し、また、独占的通常実施権者が 民法七〇九条により自己の蒙った損害額を立証したときに、それぞれの損害額をどのように算定したらいいのだろう か。特許権者および独占的通常実施権者がそれぞれ立証した損害額について、侵害者が支払わなければならないと解 するのは妥当でない。両者の損害額をどのように分配するか困難な問題であるが、各自が販売している製品の売上高 ︵15︶ の比率に比例して決めるのも一つの方法であろう。 なお、専用実施権者は、特許権者の承諾を得た場合に限り、他人に通常実施権を許諾することができる︵特七七条 四項︶が、この場合の特許権者、専用実施権者、通常実施権者の損害額について、ここでは論じない。また、不当利 得返還請求についても論じないことにする。 東洋法学 =二九
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︵5︶ ︵6︶ ︵7︶ ︵8︶ ︵9︶ ︵鉛︶ 特許権の侵害における特許権者、専用実施権者瀦よび通常実施権者の損害額 一四〇 中山信弘・注解特許法上巻六〇一頁、小島庸和・工業所有権と差止請求権八八頁以下、拙稿・﹁通常実施権者の差止講求権﹂ 日本工業所有権法学会年報八号六三頁、同・特許判例百選︹第二版︺一七一頁参照。 西ドイツでは、鎧馨匡溶窪3①瓢脳窪N︵独占的実施権︶が物権の性質を有し、鉱無8竃口器震︵非独占的実施権︶が債権 の性質を有していると解している。困ρき総?穴暮げぎ㌣獄&窪蓉魚9ご霧評8浮茜窃①賞㎝︾呂﹂薯Oω・89困鈴まマ 窯爵ユ轟︸評瞳窪窪o畠莚︷o奪簿o糞拶♪ω魯いo 。︾島●お嵩ψ戯①黛ω。ご一貫鉾勲O﹂ψ一①翻望導訂鼠亨図旨欝び勲勲○ご ψOO鱒監 詳しくは、拙稿﹁通常実施権者の差止請求権﹂前掲六六頁以下参照。 アメリカにおいても非独占的実施権者︵88蓉欝巴毒ぎ①誘8︶に訴の提起を認めていない。o露霊簿/紋谷・前掲二九五頁。 西ドイツにおいても非独茜的実施権者︵Φぎ萄魯窪崔N窪§9欝①触︶には自己固有の権利として訴の提起を認めていない。損 害賠償請求権は第三者に譲渡することができる。顧魯富霧鼠P..Nq導︾ぴ名oぼ餌霧讐綴9留3置♂3窪¢鴇欝羅げ導o誘”、Oヵご菊 這臼。ψo o陰鎗い霊ω魯鍵︸、.ω3鼠窪器誘象賊注融山窪巳o穿きωω〇一旨&一一畠窪¢器欝霧﹃糞窪、.○勾ご塑おooOgc
。誤鎗いω9導鳳︸ U段資器欝くR嘗薦︸お㎝①ω●§9ω畠q冨︾餌●鉾○こψ峯ω● 判例時報一二八○号一二六頁。 掘稿﹁通常実施権者の差止請求権﹂前掲六七頁参照。 下級民集一四巻九号一七七八頁、旧法における独占的実施権は現行法における専用実施権に類似していた。 無体集一一巻一号九二頁。 無体集一二巻一号三三頁。 フランス特許法五三条は、原則として特許権者が訴を提起するが、実施契約中に特段の定めがないかぎり、独占的実施権 者は特許権者に侵害訴訟を提起するように催告しても特許権者がこれに応じないときには、自ら訴を提起することができる 旨規定しており、イギヲス特許法六七条も独占的実施権者は訴を提起できる旨規定している。アメリカにおいても︵O獣鶏翰 /紋谷・前掲二九五頁︶、西ドイツにおいても︵↓①ぎ器び勲鉾ρ︾届Oε独占的実施権者に訴の提起を認めている。︵U︶ ︵1 2︶ ︵招︶ ︵忽︶ ︵15︶ 前掲東京地判昭和六三年四月二二日も独露的通常実施権と専用実施権とを区別しないで損害額を算定している。 佐藤義彦﹁専用実施権と通常実施権﹂特許法50講︹第三版︺︵紋谷編︶一八一頁、小島庸和﹁通常実施権の侵害﹂特許・意 匠・商標の法律相談︹新版︺︵吉藤旨紋谷編︶四九二頁。 東京高判昭和五六年三月四旨無体集ニニ巻一号二七一頁。 前掲大阪地判昭和五九年一二月二〇日は、﹁原告は本件意匠権の完全独占的通常実施権者であり、本件意匠にかかる利益を 独占しえる地位を有し、イ号物件は本件意匠権を侵害するものであるから、特段の事情のないかぎり、被告がイ号物件の販 売によりあげた利益額をもって、被告の行為と相当因果関係にある損害額と推認するのが相当である﹂として、右利益額と その他の無形損害額との合計額をもって完全独占的通常実施権者の損害額としている。 これには、共有者の持分権の割合によって按分した額を損害額とする考え方が参考になるとおもわれる。前掲大阪地判昭 和六二年一一月二五日は、特許権の共有者が特許権侵害行為によって損害を受けた場合には、特許法一〇二条一項の規定に より、侵害者の受けた利益額を共有者の持分権の割合によって按分した額をもって当該共有者の蒙った損害額であると推定 すべきことになるとしている。 五 おわりに ω 特許権が侵害され損害賠償を請求する場合、特許権者がその特許発明を実施しているときには、特許法一〇二 条一項の推定規定により侵害者の受けた利益額を損害額として請求することができるが、その場合の侵害者の受けた 利益とは純利益をいうと解する。しかし、特許権者は純利益の額を立証することは困難であるので、荒利益の額を立 証すればよく、純利益額算出のための必要経費の立証責任は侵害者に負わせてもよいであろう。特許権者が実施して いない場合には、特許法一〇二条二項により実施料相当額を請求することになる。実施料相当額の算出は諸般の事情 東洋法学 一四一
特許権の侵害における特許権者、専用実施権者および通常実施権者の損害額 一四二 を考慮し個別的に判断することになる。 ③ 専用実施権を設定している場合においても、特許権者は訴の提起をすることができると解する。特許権者と専 用実施権者が原告としてそれぞれの分の損害賠償を請求する場合、特許権者は、実績実施料のときには特許法一〇二 条二項の規定により実施料相当額を損害額として請求し、専用実施権者は、同条一項により侵害者の受けた利益額を 専用実施権者の蒙った損害額と一応推定し、その利益額から特許権者に支払うべき実施料を控除した額が専用実施権 者の実際の損害額であるとして請求することができる。実施料が一括支払になっているときには、特許権者に損害が 生じないので、訴の利益はないことになる。特許権者または専用実施権者が相手の分まで損害賠償の請求をするとき には、そのうち重複する損害額の部分については不真正連帯債権の関係に立つ。 ③ 非独占的通常実施権者は損害賠償を請求することができないので、特許権者のみが特許法一〇二条の規定によ り請求することになる。これに対し、独占的通常実施権者は損害賠償を請求することができるが、この場合には特許 法一〇二条の規定が類推適用されるのではなく、民法七〇九条が適用されるべきである。もちろん、特許権者には特 許法一〇二条が適用される。