民泊リスクとマンション管理
著者
松永 光雄
著者別名
Mitsuo MATSUNAGA
雑誌名
観光学研究
巻
18
ページ
51-59
発行年
2019-03
URL
http://id.nii.ac.jp/1060/00010519/
Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja民泊リスクとマンション管理
House staying business risk and apartment management
松 永 光 雄
Mitsuo MATSUNAGA
1.はじめに
政府が目指す観光立国は、我が国経済の成長戦略の大きな柱としてその重要性が認識されている。 観光立国実現のためには、観光インバウンドの拡大を図るとともに、その受け皿である宿泊施設の 整備・確保が求められる。この点について、現在、観光インバウンドの増加、そして 2020 年の東 京オリンピック・パラリンピックに向けて、観光分野において宿泊施設不足が懸案となっている。 この問題の解決策として、「民泊」が注目されている。それは、この宿泊施設不足を機に、建物 所有者であれば誰でも観光産業への参入が可能なビジネスチャンスであるからだ。 しかし、それは同時に、民泊ビジネスへの参入者、民泊利用者、そして民泊施設周辺住民等の関 係者において、民泊施設の管理、運営に伴うリスクを生んでいる。このリスクに対処するために、 政府は 2018 年 6 月に「住宅宿泊事業法(以下、民泊新法)」を定め、2019 年 6 月に施行し、住宅 宿泊事業者(民泊ホスト)の届出制度、住宅宿泊管理事業者(民泊運営代行会社)・住宅宿泊仲介 業者(民泊仲介サイト)の登録制度を設けることで、民泊関連業者の業務運営の適正化を図ってい る。 そこで、本論文では、民泊登場の背景とそれに寄せる期待を確認したうえで、民泊の現状とリス ク、そして今後の課題について指摘する。さらに、その課題を解消するために、マンションの空き 室を活用した民泊とそのマンション管理上の注意点について検討する。2.民泊の登場の背景と期待
(1)観光立国と成長戦略
2016 年の政府の成長戦略であるローカルアベノミクスの一つとして、国際競争力を高める観光 が位置づけられている1。観光が我が国の成長産業として位置づけられたのは、2006 年 12 月に成 立した「観光立国推進基本法」に遡る。これを受けて、2007 年に「観光立国推進基本計画(以下、 基本計画)」が閣議決定され、2008 年 10 月には観光立国推進体制強化のために観光庁が国土交通 省の外局として設置された。 こうした観光立国実現の目的には、我が国の人材・技術力・観光資源などの優れたリソースを有 効活用し、地域経済の活性化、雇用機会の創出、国際相互理解の増進等に資することで、将来にわ観光学研究 第 18 号 2019 年 3 月 52 たって持続可能な国づくりを進めることにあった。具体的には、2013 年までに訪日外国人旅行者 数を 1,000 万人、国内における観光旅行消費額を 30 兆円にすることを目指していた。 なお、2007 年当時の世界各国・地域への外国人訪問者ランキングにおいて、日本は約 853 万人、 世界 28 位であった2。
(2)観光インバウンドの状況
その後、政府の訪日外国人旅行者増加を目的とする政府観光局を中心とした訪日プロモーション 事業(ビジット・ジャパン)の成果もあって、訪日外国人観光客数は、2013 年に 1,000 万人を超え、 2015 年には 1,974 万人と 2 年間で約 2 倍、そして、2017 年は約 2,869 万となった。2016 年世界各国・ 地域への外国人訪問者ランキングにおいて、日本は 16 位となった3。 政府は 2012 年の基本計画において、訪日外国人観光客数の目標を 2020 年までに 2,500 万人とし ていた目標を、2020 年までに 4,000 万人に、外国人延べ宿泊者数についても 7,000 万人泊(2015 年 実績は 2,514 万人泊)に変更した4。 ちなみに、外国人延べ宿泊者数の 2017 年実績は 7,088 万人泊で、既にその目標値を超えた5。(3)宿泊施設不足とその解決策
基本計画を上方修正させるような状況は、観光産業の勢いを感じさせるものではあるが、問題と なるのがその宿泊者を受け入れる宿泊施設の状況である。2017 年の宿泊施設の客室稼働率は、全 国平均 60.8%であり、大阪府や東京都では、80%の稼働率を超えており、宿泊施設が益々不足する 傾向にある6。2020 年の東京オリンピック・パラリンピックを控えて、宿泊施設の確保が急務とさ れている。 この宿泊施設不足を解消するためのアイデアとして近年注目されているのが、ホテル、旅館に代 わる住宅を利用した第三の宿泊事業としての「民泊」である。(4)観光における民泊の位置づけ
民泊は既存の住宅を利用するため、新たなホテル等の施設建設が不要となることから、2020 年 の東京オリンピック・パラリンピックに予想される宿泊施設不足に対して早期の対応が可能な点で、 ホテル、旅館を補完する存在である。しかも、施設運営において、ホテル等に比べて低コストでの 運営が可能で、建物所有者であれば誰でも参入を可能とする。 また、民泊施設の利用者の多くは、既存のホテル等のルールに縛られて、しかも高額な宿泊料が かかる施設を好まない旅行者である。お仕着せの旅行を嫌い、新たな観光体験を求めるような旅行 者にとって、民泊は日本の民家として使用された施設を割安料金で自由に体験できる、新たな観光 体験を提供する施設である。それは、シェアリング・エコノミー7を志向する時代の第三の宿泊施 設である。3.「民泊」の概要と課題
(1)「民泊」の概要
「民泊」とは、ホテルや旅館の営業者以外の者が、宿泊料を受けて住宅に人を宿泊させる事業で ある。旅行者の宿泊先として、戸建て住宅や、空き別荘、マンション空き室を有料で宿泊用に提供 する宿泊業であり、インターネットの仲介サイトを通じて予約を受け付ける形態が主流である。 民泊新法の成立以前の 2013 年の「国家戦略特別区域法」によって、所謂「特区民泊8」が認めら れていたが、民泊新法の成立により、営業の届出制を実施することで、民泊に関与する業者及びそ の運営の適正化が図られた。なお、民泊新法において、民泊の営業日数は 180 日までとされている。(2)民泊ブームの要因
近年、この民泊が増加している要因は、以下の 5 つが挙げられる。 1 つには、ホテル不足を補うために、海外で既に活用されていた宿泊方法が確立している点であ る。その方法を取り入れることで、比較的容易に事業に参入できる。 2 つには、宿泊施設として貸出しをするのに低コストでの運用が可能である点である。新規にホ テルを建設する場合に必要となる資金、時間、手続等の膨大なコストに比べ、部屋をリノベーショ ンすれば宿泊施設にすることができる。一般的に、マンション 1 部屋について 200 万円程度の費用 で可能であり、資金調達や投資資金の回収も比較的容易である。 3 つには、インターネットによる民泊の仲介業者(Airbnb:エアビーアンドビー等)の参入によ り、民泊業者、民泊利用者双方の利用が増加した点にある。世界的な民泊仲介事業者が参入したこ とで、民泊事業運営のプラットフォームができ、事業参入が促進した。 4 つには、近年のシェアリング・エコノミーを活用する者が増加した点である。特に若者を中心に、 シェアリング・エコノミーを活用するライフスタイルが浸透しつつある状況で、観光の宿泊分野に おいても低額で寝泊りする機能に注目して、1 つの部屋を複数人で共同使用することに対する利用 方法が確立しつつある。 そして、5 つには、パッケージツアーやホテルのおもてなしのようなお仕着せの観光を嫌い、束 縛されずに自由に自分の判断で行動する外国人観光客が増加した点による。外国人旅行者において、 日本人の日常的な生活を体験することを目的とする観光が増加したことによる。(3)民泊の課題
ホテル・旅館不足の状況を背景に、先述の民泊ブームの要因から民泊への関心が高まっている一 方で、民泊を取り巻くリスクとして、以下の 5 つが挙げられる。 1 つには、近所トラブルのリスクである。「騒音」、「ゴミ出し」、「喫煙」、「マンションの共用部 分の使用」についてのマナー違反、「窃盗」や「不法侵入」といった犯罪も発生している。 2 つには、公衆衛生上のリスクである。一般家屋では旅館業法の適用を受けないため、ホテル・ 旅館のような厳しい衛生上の管理がなされないことが予想され、「レジオネラ症」のような感染症、 「トコジラミ」のような害獣・害虫による健康被害のリスクがある。観光学研究 第 18 号 2019 年 3 月 54 3 つには、テロの温床となるリスクがある。届出のない民泊営業、つまり「ヤミ民泊」では、宿 泊受付時の本人確認及び宿泊者名簿の管理が行われない。テロリストの潜伏先としては、格好の場 所となる。 4 つには、犯罪に巻き込まれるリスクがある。特にヤミ民泊の場合、先述のとおり本人確認等が ないことから、匿名性が確保されやすく、宿泊事業者としては麻薬取引、売春行為の拠点とされる 可能性がある。そして、宿泊者や周辺住民においては、その犯罪トラブルに巻き込まれる危険性が ある。 そして、5 つには、個人情報の流出のリスクである。ヤミ民泊事業者によって、宿泊者の個人情 報が不正に利用される可能性がある。
(4)民泊新法による運営の適正化への期待
先述のとおり、民泊は、シェアリング・エコノミー志向、お仕着せを嫌う個性的な観光を求める 外国人観光客を中心に人気の宿泊形態ではある。その一方で、ヤミ民泊による様々なリスクも懸念 される。 政府も、2016 年に「「民泊サービス」のあり方に関する検討会最終報告書(以下「報告書」)9」に おいて、衛生管理やテロ悪用防止のための管理機能の安全性確保、地域住民等とのトラブル防止、 そして訪日外国人観光客の宿泊需要への対応を基本視点として示しており、この報告を受けて 2017 年に民泊新法が成立した。民泊新法は、この視点を踏まえて、民泊関連事業者の業務の適正 な運営確保と宿泊需要への的確な対応の趣旨から以下の制度を採用している。 住宅宿泊事業者、つまり、住宅を提供して宿泊業を行う者は、住宅ごとに都道府県知事の届出制 が適用され、定期清掃等の衛生管理、非常用照明器具の設置などの安全の確保、そして宿泊者名簿 の備え付け等の「住宅宿泊管理業務」を義務付けた。 住宅宿泊管理業者、つまり住宅宿泊事業者から住宅宿泊管理業務を委託された者であり、部屋の 鍵の受渡し等を行う者で、登録制が適用される。 住宅宿泊仲介業者、つまり住宅宿泊業者と宿泊希望者との代理、媒介、取次業務を行う者であり、 通常、インターネットのサイト使って民泊の予約受付業務を行う者で、登録制となっている。住宅 宿泊仲介業者においては、届出がなされた住宅宿泊事業者のみをサイトに搭載することで、ヤミ民 泊利用による宿泊者のリスク軽減が期待されている。 ちなみに、2018 年 5 月 17 日時点における届出受付件数は、住宅宿泊事業者(民泊ホスト)724 件、 住宅宿泊管理業者(民泊運営代行会社)512 件、住宅宿泊仲介業者(民泊仲介サイト)33 件である10。 民泊新法の成立・施行で民泊関連事業者の届出・登録制度の導入により、正規業者とヤミ民泊業 者との区別、正規事業者への適切な指導、そしてヤミ民泊の取締まりが可能となったことで、良質 な民泊施設の供給のための枠組みが構築された。 次に問題となるのが、宿泊需要への対応との関係で求められる民泊施設、ハード面の供給である。 この点について報告書では、空きキャパシティの有効活用等地域活性化の要請にこたえる方向を示 している11。そこで、注目されるのが、各地域で余剰状態の住宅ストックである空き家を、不足す る民泊施設に利活用することである。その中でも、比較的地域の交通の利便性の高い場所や観光地 付近に立地するマンションの空き室を民泊施設として利活用することを検討すべきである。4.空き室マンションの民泊活用とマンション管理
(1)空き室マンションの現状
全国のマンションストックは 623 万戸(平成 27 年末)に達し12、国土交通省の試算によれば平 成 33 年には築 40 年超のマンションは 106 万戸、平成 43 年には 235 万戸となるとされる13。 他方、マンションの完成年次別の空室率を見ると、全体の空き室率は 2.5%に過ぎないが、1979 年以前完成のマンションでは 10 ~ 15%、1969 年以前になると 20%超の物件が増えている。築 30 年を超えると、マンションの空室率が高まることになる。空室率が高くなると、マンション管理上、 管理費の徴収が困難となり管理が不十分となり、空室となった部分は荒廃し老朽化する。その空室 がマンション内で増加することで、一棟のマンション全体の老朽化につながり倒壊の危険を誘発し、 周辺環境の悪化を招き、犯罪の温床となる。つまり、「空き室マンション」の増加は、不良住宅地域、 つまり「スラム化」を生むリスクが指摘されている。 通常、対象となる地域において空き家率 30%を超えるとスラム化が始まると考えられており、 例えば、2013 年 7 月において連邦破産裁判所において破産申請がなされ財政破綻したアメリカ合 衆国ミシガン州デトロイト市の場合、空き家率は 29.3%であったとされる14。(2)空き室マンション管理の困難性
空き室マンションの場合、戸建て空き家と異なり、マンション管理上の問題点として、老朽化し たマンションの建替え又は大規模修繕を視野に入れた管理が求められる点である。 マンションの建替えについては、今後、建替えラッシュの時期に突入する。わが国のマンション は、昭和 40 年代の高度経済成長期に建築ラッシュがあり、その後年間約 100 万戸のペースで供給 されてきた。特に高度経済成長期に建設されたマンションは、当時の建築技術及び使用したコンク リート等の建築材料の材質の影響で耐用年数が 30 年程度とされている。また、設計上も旧耐震基 準下における建築であれば、震度 6 強の耐震性に不安がある15。さらに当時のマンション販売業者 は、将来の建替え需要を見越して、30 年程度の耐久性を前提に建築し、販売をしていた。こうし た事情から、高度経済成長期に建築されたマンションは、今後、建替えの時期に突入し、建替え又 は大規模修繕のラッシュが予想される。 昭和 45 年以前に建設されたマンションでは、空き家率 2 割の住棟が 20%あり、また、建替えを 要するとされるマンションで、60 歳以上のみの世帯割合は 36%ある16。平成 26 年の時点で築 40 年を超えるマンションは 51 万戸、10 年後には 3 倍の 152 万戸、20 年後には 6 倍の 296 万戸となり、 老朽化、そして建替えの必要性が急増することが想定される17。 しかし、平成 27 年 4 月時点で、1 年度間のマンションの建替え実績は 243 件にすぎない。過去 に建替えができたものはわずかであり、その多くはデベロッパー主導によるものである。空室化や 賃貸化が進み、管理組合が機能していない例もあり、中にはスラム化しているものもある。マンシ ョンの区分所有者においては、老朽化マンションの建替えを視野に入れた管理意識とその対応につ いて重要課題としての共通認識には至っていない。国土交通省が平成 25 年に行ったマンション総 合調査において、マンションの老朽化問題についての対策の議論を行っている管理組合は 35.9%、観光学研究 第 18 号 2019 年 3 月 56 そのうち「建替えの方向で具体的な検討をした」が 2.6%、「修繕・改修の方向で具体的な検討をし た」が 62.0%、「議論はしたが、具体的な検討をするに至っていない」が 30.5%となっており、建 替えの合意形成は難航している。 さらに実際のマンションの建替えに当たっては、区分所有者及びその議決権の 5 分の 4 以上の多 数による管理組合の集会決議が必要となる。この要件で、区分所有者間の建替えの合意を得ること は、極めて厳しいのが現実である。その上、高齢化社会において、マンションを終の棲家と考えて いる高齢の区分所有者にとっては、建替えは経済的、肉体的、精神的に負担となり賛成が得られな いことが予想できる。大規模修繕においても、区分所有者及びその議決権の 4 分の 3 以上の多数に よる管理組合の集会決議が必要となり、こちらも賛成を得られることが難しい。 加えて、空き室となったマンションは、そのマンションの所有者を特定することが難しくなり、 日常管理のための管理費や大規模修繕・建替えのための修繕積立金も徴収できなくなり、建替えや 大規模修繕を前提としたマンション管理を困難にする要因となる。 従って、マンション管理の観点からも、空き室マンションを民泊施設として利活用することは、 当該利益をマンション管理のための管理費や修繕積立金に充当でき、日常及び建替え・復旧のため の費用を確保することが可能となる点からも有利である。
(3)空き室マンションの民泊活用による意義
空き室マンションを民泊施設として利活用することの意義は、以下の 3 つが挙げられる。 1 つには、民泊需要への貢献である。不足する民泊施設の需要に対し、マンションの空き室を宿 泊施設として提供することで、宿泊施設の需要に対応することができる。 2 つには、マンション価値の維持への貢献である。空き室の増加によるマンションのスラム化が 進行するとマンション価値を低下させることになるが、空き室を活用することで日常的な部屋の管 理が行われ、その収入から管理費が充当されマンションの共用部分の管理が行き届くことから、マ ンション全体の価値を維持することに繋がる。 3 つには、マンション管理への貢献である。空き室マンションが増加することは、マンションの 区分所有者が死亡し、その相続人が存在しないか確認できない場合であり、空き室を引き継ぐ者が 存在しない場合である。この場合、当該マンションの取扱いのみならず、マンションの管理費・修 繕積立金の滞納が起こる。少子高齢化により、相続人の存在しない空き室マンションが増加傾向に あり、この状態を食い止めなければマンション全体の管理が資金不足で立ち行かなくなる。空き室 マンションを民泊活用し、当該収入を管理費に充当することでマンション管理経費を賄うことが可 能となる。(4)空き室マンション管理の今後の方向性
空き室マンションの民泊活用においては、特にマンション管理への貢献の観点から、マンション の区分所有者において、次のような取組みを期待したい。 所有者が不明となった空き室マンションのマンション管理組合においては、管理組合自らが住宅 宿泊事業者となって、当該空き室マンションを積極的に民泊施設としての利活用を行うべきことを 提案する。そのためには、マンション管理規約に空き室となった場合には、管理組合において民泊施設としての利活用を認める旨のマンション管理規約の改正を行うことが必要である。 現在、既存のマンションでは、空き室はもちろん、区分所有者によるマンションの民泊施設とし ての利活用を禁じる旨の管理規約の改正が行われていることが多い。確かに、マンション内に知ら ない旅行者、特に訪日外国人観光客が出入りすることは不安を感じるかもしれない。しかし、住宅 宿泊管理業者(民泊運営代行業者)に委託することでトラブルを未然に防止し、また、トラブル発 生の際は住宅宿泊管理業者に対応を任せれば足りる。 更に、マンションのほとんどが、マンション管理をマンション管理会社に委託している状況下に おいては、マンション管理業者は将来、民泊の住宅宿泊管理業者の業務を兼業すべきである。これ により、マンション管理を受託しているマンション管理業者が、マンション管理の一環として住宅 宿泊管理業を営むことで、マンションの民泊としての利活用が期待できる。その結果、空き室マン ションの増加による管理費用の未払いによる管理費不足の補てんが可能となり、管理費用を安定的 に確保することができ、マンション管理業者においても新たなビジネスチャンスとなるものと思わ れる。
5.まとめ
2018 年 6 月 15 日民泊新法が施行され、住宅宿泊事業者、つまり家主の営業の届出が開始されたが、 約 2,700 件程度にとどまっている18。届出開始時は低調なスタートであるが、今後、徐々に届出件 数は増加すると思われる。それは、届出手続や運営上の要件を充たすための措置の煩雑が影響して いると考えられる。また、ホテル、旅館等の既存の宿泊施設を配慮して、営業日数の上限を 180 日 としたことが足枷となっている。 しかし、宿泊施設不足が解消されない状況下においては、民泊に頼らざるを得ない。その民泊施 設の供給には、現在使用されていない空き家を利活用することが合理的である。しかも、空き室マ ンションは、戸建ての空き家に比べて比較的良好に管理されていることから利活用が容易であり、 その需要は大きいものと思われる。 一方、民泊新法については、将来の宿泊施設需要を踏まえながら、営業日数の見直しを含めた民 泊市場の活性化を図るための改正を視野に入れた対応が求められる。また、民泊施設の供給源であ る空き室マンションの管理組合は、マンション管理費用を賄うためにも住宅宿泊事業者としての空 き室マンションの民泊の利活用を積極的に推進すべきである。その運営については、マンション管 理業者が宿泊管理業者として民泊運営代行を行うことで、民泊もマンション管理も円滑に機能する ことが期待できる。 空き室マンションを民泊施設として利活用することは、将来における、観光業界における宿泊施 設不足を賄うだけでなく、空き室増加によるマンション管理、特に管理費・修繕積立金不足を補う ためにも有効な手段であることを指摘するものである。 [注] 1 内閣官房日本経済再生総合事務局「日本再興戦略 2016 これまでの成果と今後の取組」(2016 年 6 月)7 頁観光学研究 第 18 号 2019 年 3 月 58 http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2016/0602/sankou_04.pdf#search=%27%E6%88%90%E 9%95%B7%E6%88%A6%E7%95%A52016%27(2018.8.25 取得) 2 独立行政法人 国際観光振興機構プレスリリース https://www.jnto.go.jp/jpn/news/press_releases/081003_hakusyo2008.html(2018.8.25 取得) 3 独立行政法人 国際観光振興機構「世界各国、地域への外国人訪問者数ランキング」 https://www.jnto.go.jp/jpn/statistics/visitor_statistics.html(2018.8.25 取得) 4 観光庁プレスリリース(2017 年 3 月 28)日「観光立国推進基本計画」を閣議決定」 http://www.mlit.go.jp/kankocho/news02_000307.html(2018.8.25 取得) 5 観光庁プレスリリース(2017 年 6 月 30 日) http://www.mlit.go.jp/common/001190401.pdf(2018.8.25 取得) 6 前掲観光庁プレスリリース(2017 年 6 月 30 日)(2018.8.25 取得) 7 個人が保有する遊休資産の貸出しを仲介するサービス。 8 国家戦略特別区域法に基づく旅館業法の特例制度を活用した民泊。 9 「「民泊サービス」の制度設計のあり方について」(「民泊サービス」のあり方に関する検討会最終報告書)(平 成 28 年 6 月 20 日)3 頁 https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11121000-Iyakushokuhinkyoku-Soumuka/0000128393.pdf (2018.8.25 取得) 10 観光庁プレスリリース「田村観光庁長官発言要旨」(2018.5.17) http://www.mlit.go.jp/kankocho/page01_000579.html(2018.8.25 取得) 11 前掲 3 頁 https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11121000-Iyakushokuhinkyoku-Soumuka/0000128393.pdf (2018.8.25 取得) 12 国土交通省「全国マンションストック戸数」 http://www.mlit.go.jp/common/001130475.pdf(2018.8.25 取得) 13 国土交通省「共同住宅ストックの現状と再生の課題」3 頁 http://www.mlit.go.jp/common/000191746.pdf#search=%27%E3%80%8C%E5%85%B1%E5%90%8C%E4%BD %8F%E5%AE%85%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%83%E3%82%AF%E3%81%AE%E7%8F%BE%E7%8A% B6%E3%81%A8%E5%86%8D%E7%94%9F%E3%81%AE%E8%AA%B2%E9%A1%8C%E3%80%8D%27 (2018.8.25 取得) 14 牧野知弘『2020 年マンション大崩壊』82 頁 15 昭和 56(1981)年 5 月 31 日までの建築確認において適用されていた建築基準。新耐震基準では、震度 6 強程 度の揺れでも倒壊しないような構造基準として設定されているが、旧耐震基準はそこまでの耐震性が求めら れていなかった。 16 国土交通省「マンション政策の現状について」老朽化マンションの現状 http://www.mlit.go.jp/common/000020943.pdf#search='%E5%9B%BD%E5%9C%9F%E4%BA%A4%E9%80% 9A%E7%9C%81%E7%B5%B1%E8%A8%88++%E3%83%9E%E3%83%B3%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83% B3%E7%A9%BA%E5%AE%A4%E6%88%B8%E6%95%B0'(2018.8.25 取得) 17 国土交通省「分譲マンションの現状と課題」 http://www.mlit.go.jp/common/001116856.pdf#search='%E5%9B%BD%E5%9C%9F%E4%BA%A4%E9%80% 9A%E7%9C%81+%E5%88%86%E8%AD%B2%E3%83%9E%E3%83%B3%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B 3%E3%81%AE%E7%8F%BE%E7%8A%B6%E3%81%A8%E8%AA%B2%E9%A1%8C'(2018.8.25 取得)
18 2018 年 6 月 16 日産経新聞 3 面 [参考文献] 1 三口聡之介『民泊ビジネスのリアル』幻冬舎(2016) 2 小沢吾亘 町田龍馬『中古アパート・マンションが生まれ変わる airbnb 空室物件活用術』幻冬舎(2015) 3 牧野知弘『空き家問題-1000 万戸の衝撃』祥伝社新書(2015) 4 中川寛子『解決!空き家問題』ちくま新書(2015)