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風力発電の適地選定に及ぼす風の乱れの強さの影響を考慮した九州地区での風況分析 [ PDF

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Academic year: 2021

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風力発電の適地選定に及ぼす風の乱れの強さの影響を考慮した九州地区での風況分析

野方 香里 1. 序 近年注目される自然エネルギーの一つである風力発電 開発では,定常的な高風速発現地域の選定1,2)が最も重要で あるが,山岳地形や台風の影響を受ける日本では風車の安 定駆動が容易ではなく,大型機器を海岸などに集中的に配 備するウィンドファーム構築が前提になっている。一方で, 大規模発電所から一方向に電力を送り出す従来の輸送方 式は自然災害への脆弱性を有することが指摘されており, 地域内の小規模発電施設をネットワーク化し,需要にあわ せて最適制御を行う“マイクログリッド”による安定した 電力輸送の実証実験がすでに行われており,中小規模風力 発電機器を利用した分散型電力は有用であると考えられ る。しかし,大型ウィンドファームだけでなく中小規模の 風力発電システムに対しても,風速や風向変動の大きさに よって,設計された風車の発電性能よりも実際の発電量が 低下することが指摘されており,安定した高風速の発生が 重要となる。実験やシミュレーションに基づいて推定した 風力エネルギー量に比べ実際の発生エネルギーは20~ 30%程度小さく3-5),機器によっては乱れの強さが0.2を超 えると発電電力が約50%低下する6)ことや80度の風向急 変に風車の方位制御が追い付かず出力が大きく下がった との報告7)があり,風力発電開発適地策定には平均的な風 向風速情報だけでなく,変動情報を含む風観測情報の整備 が必要である。 著者らは既報8)で,NeWMeK9)(九州電力(株)広域高密 度風観測システム)の10 分間平均風速記録を使用して九 州での風向風速変動特性を整理したが,安定的な風力発電 開発を行うためには10 分平均風速よりも詳細な風の変動 情報を整理する必要がある。 本研究ではNeWMeKの 1 秒平均風向風速記録を使用し, 九州でのより詳細な風の乱れ特性を分析するとともに,中 規模のプロペラ型風車の設置を想定して,潜在的風力エネ ルギーと発電量の推定を行う。風向風速変動の大きさと潜 在的風力エネルギーおよび推定発電量の減少率との関係 を検証することで,風力発電機器がより安定的に稼働でき る地域を選定し,風力によるマイクログリッド構築に資す る情報を提供することを目的とする。 2. 利用した観測記録の概要と九州全域の風況特性 本報では,NeWMeK による 2007 年の 1 秒平均風向風 速記録を利用し,観測点ごとに算出した10 分間の平均風 速,最大瞬間風速,乱れの強さ,最頻風向を基本的な風情 報とする。最大瞬間風速値以外の風情報には,台風の影響 を除いた記録を用いた。平均風速はべき指数則を用いて, べき指数1/710) で基準高度 30m に高さ補正を行った。平 均風速に比べ鉛直方向分布の変化が少ない風速の標準偏 差10)は高度補正を行わず,10 分間での 1 秒平均風速の標 準偏差を高度補正済みの10 分間平均風速で除した値を乱 れの強さとした。 図1 九州全域での 年平均風速(2007 年) 観測点位置 凡例 ~5.0m/s ~4.0m/s ~3.0m/s ~2.0m/s ~1.0m/s ~6.0m/s 図2 九州全域での風軸上の 風向出現率(2007 年) 図3 九州全域での平均風速 15m/s 時の 乱れの強さの期待値𝐼𝑟𝑒𝑓(2007 年)

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19-2 NEDO の風況精査マニュアル 1)によれば,平均風速は 地上高10m で年平均風速 5m/s 以上,風軸上の風向出現 率60%以上が風力発電開発の目安とされる。風軸とは 16 方位の風向を対象にして,主風向とその隣にある2 風向と これらの風向と対称となる風向の合計6 方向であり,欠測 値などを除いた有効な全風向記録に対する風軸上の風向 記録の割合を風軸上の風向出現率とする。年平均風速およ び乱れの強さの年平均値は,有効記録値の和を記録数で除 した値である。10 分間平均風速に対する風速の標準偏差 の比として定義される乱れの強さは,低風速域では1.0 を 超える場合もあるが,一般に平均風速の増大とともにその 値は低下するため,風車設計JIS IEC61400-111)では,10 分間の平均風速が 15m/s 時の乱れの強さの期待値𝐼𝑟𝑒𝑓を 求め,乱れの強さの指標とし,高い乱れ特性のカテゴリー A として𝐼𝑟𝑒𝑓=0.16 を設定している。 図 1 に本研究で求めた九州全域での年平均風速,図 2 に風軸上の風向出現率,図3 に平均風速が 15m/s 時の乱 れの強さの期待値𝐼𝑟𝑒𝑓を示す。図1 から,ほとんどの観測 点では年平均風速値が約3m/s であり,5m/s を超えたの は5 観測点で,平均風速が高い観測点は少ない。図 2 よ り,観測点ごとに向きは異なるが,風向出現率は40~60% の観測点が多く風向出現率が60%を超えるのは32観測点 あり,80%近い観測点もあった。図 3 より,乱れの強さは 観測点位置によって大きくばらつき,𝐼𝑟𝑒𝑓が0.2 より小さ い地点は多くはなかった。NEDO が示す風力発電開発に 有望な目安を満たす観測点は1 つあった。 3. 九州全域の風力エネルギー密度 風力エネルギーの潜在的な量を評価するために風力エ ネルギー密度について検討を行う。風力エネルギー密度 P0(W/m2)は,以下の式で算出される2,12)。 𝑃0= 12∑𝑛𝑖=1𝜌 ∙ 𝑉𝑖3/𝑁 (1) ここで, 𝜌は空気密度(kg/m3)で,ここでは 15℃,1 気 圧での𝜌=1.226(kg/m3)を用いた。またV は 10 分間平均風 速(m/s)を用い,n は風車が発電可能な風速の発現数,N は1 年間の 10 分間記録の有効数(標準で 52,560 個)と し,年間での平均値を求める。一般的に風車が発電し始め るカットイン風速は3~5m/s,高風速時に風車の安全を確 保するため発電を停止するカットアウト風速は20~25 m/s 程度である。ここではカットイン風速を 3m/s,カッ トアウト風速を20m/s に設定し,風車が発電可能な風速 3m/s~20m/s でのエネルギー密度を求めた。以下では風 力エネルギー密度の1 年間での平均値に着目した。 図4 に NeWMeK 観測点での 2007 年の全観測記録を用 いた場合の風力エネルギー密度を,図 5(a)から(c)に乱れ の強さが0.2 以下及び 0.3 以下の場合と風軸上の風向に着 目した場合で算出される平均風力エネルギー密度をそれ (b) 乱れの強さが 0.3 以下 (a) 乱れの強さが 0.2 以下 (c) 風軸上にある風向 図 5 全観測記録を基準とする乱れの強さや最頻風向に着目した場合の風力エネルギー密度の割合 凡例 0~20% 60~80% 40~60% 80~100% 20~40% 凡例 0~20% 60~80% 40~60% 80~100% 20~40% 凡例 0~20% 60~80% 40~60% 80~100% 20~40% 凡例 図 4 風力エネルギー密度 150 0 30 60 90 120 W / m2 観測点位置

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19-3 ぞれ示す。 図4 より風力エネルギー密度は北西にひらけ た海岸部と海風の影響を受けるやや内陸の山間部で高い 傾向がある。風力エネルギー密度は平均風速の影響を強く 受けるため,図1 より年平均風速の高い観測点ほど,高い 風力エネルギー密度となる。図5(b)の乱れの強さを 0.3 以 下の地域に着目すると,ほとんどの観測点での風力エネル ギー密度は,図4 の全記録での値の 6 割以上で,9 割を超 える観測点も34 地点あった。図 5(a)から乱れの強さが 0.2 以下の地域に着目すると,全観測記録での風力エネルギー 密度に対する割合が6 割を超える観測点は 30 地点で,9 割を超える観測点は1 つのみであった。全観測記録での風 力エネルギー密度からの減少率は,図1 より風速が高い観 測点で少ない傾向があるが,乱れの強さが常に0.2 以下で あることは高風速においても少なく,実際に風力発電機器 を設置した場合,その発電量は設計時の算定値よりも大き く減少する可能性がある。また,図5(c)より風軸上の風向 に制限した風力エネルギー密度の全観測記録での値に対 する割合は,観測点位置によって大きな差がある。北西に ひらけた海岸部にある観測点では風軸上のエネルギー密 度が小さくなりやすいことから,風軸以外からも強い風が 吹いていると考えられる。一方,中央山間部の観測点では 全観測記録での風力エネルギー密度に対する割合が比較 的大きいことから,もともと風軸上の風が多くて強く,風 向変化が少ないことがわかる。 4. 500kW 級風車を想定した発電量の推定 4.1. 風車性能曲線の想定 ここでは,定格出力500kW の中規模プロペラ型風車に よる発生電力量を推算する。想定した500kW 級風車の性 能曲線を図6 に示す。ここではカットイン風速を 3m/s, カットアウト風速を20m/s,定格風速を 10m/s とした。 定格風速とは,設計上の最大連続出力,すなわち定格出力 が得られる風速で,一般に年間を通じ風力エネルギーを最 も多く引き出すことのできる風速に設定され,通常は10 ~14m/s 程度である。簡単のため,カットイン風速から定 格風速までの出力は風速に比例するものとする。 4.2. 性能曲線に対する発電量の推定 一年間の発電電力量Pw(kWh)は以下のように求められ る2,12) Pw= ∑ 𝑃(𝑉) ∗ 𝑓(𝑉) ∗ 8760[ℎ] (2) 図 7 推定年間発電量 出力 Pw 風速(m/s) 図 6 500kW 級風車を想定した性能曲線 観測点位置 凡例 1600 0 320 640 960 1280 MWh (b) 乱れの強さが 0.3 以下 (a) 乱れの強さが 0.2 以下 (c) 風軸上にある風向 図 8 全観測記録を基準とする乱れの強さや最頻風向に着目した場合の年間推定発電量の割合 凡例 0~20% 60~80% 40~60% 80~100% 20~40% 凡例 0~20% 60~80% 40~60% 80~100% 20~40% 凡例 0~20% 60~80% 40~60% 80~100% 20~40%

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19-4 ここで𝑃(𝑉)は風速 V での発生電力(kW),𝑓(𝑉)は風速 V の出現率とする。8760(h)は年間の発電可能時間である。 𝑃(𝑉)は図 6 より求め,𝑓(𝑉)は通常は 1 時間平均風速 Vm/s の出現数から求めるが,本報では10 分間平均風速Vm/s の出現数からその割合を求めた。ここでは風の乱れの強さ や風向を考慮せず全観測記録を用いた場合と乱れの強さ 0.3 以下,0.2 以下の記録及び風軸上にある風向に着目し た場合の記録をそれぞれ用いた場合の電力量を算定する。 図7 には NeWMeK 観測点での 2007 年の全観測記録を 用いた場合の推定年間発電量を,図 8 には乱れの強さが 0.2 以下及び 0.3 以下の場合と風軸上にある風向に着目し た場合で算出される推定年間発電量を示す。 図4 と図 7 から風力エネルギー密度と年間発電量が大 きくなる観測点が異なる場合がある。風力エネルギー密度 は発電可能な風速間で風速値が大きい観測記録が多いほ ど値が大きくなるのに対し,年間発電量は風車の定格風速 の出現頻度の影響を受けるためと考えられる。 図5 と図 8 から,全観測記録での推定発電量に対する 乱れの強さ0.3 以下および 0.2 以下での年間発電量割合は ほとんどの観測点で風力エネルギー密度の場合とほぼ同 じであった。風軸上の年間発電量も同様である。 5. まとめ 本研究では,NeWMeK で観測した 1 秒平均風速観測値 を使用して,九州での風況の特性を確認するとともに,風 力エネルギー密度と500kW級風車の設置を想定した年間 発電量を推算して潜在的風力エネルギーを検討した。また, 風向風速変動による風車の発電性能の低下を考慮し,特に 発電性能の低下が少ない,乱れの強さが0.2 以下および風 軸上にある場合での潜在的風力エネルギーを算定し,エネ ルギーの低減率を検証した。得られた所見を以下に示す。 1) NeWMeK の観測記録に基づく年平均風速は約 3m/s の地点が多く,5m/s を超えた観測点は 5 つあった。 風軸上の風向出現率が 60%を超えた観測点は全体の 1/4 程度で,出現率が 80%近い観測点もあったが,平 均風速15m/s での乱れの強さが 0.2 以下の観測点は 多くはなかった。 2) 乱れの強さ 0.2 以下の風記録をもとに算定した風力 エネルギー密度や年間発電量は,すべての記録を用い た場合に比べると多くの観測点で大きく低減し,風車 の性能を十分に発揮できない可能性がある。 3) 風軸上の風向出現率は観測点によって大きく異なり, すべての記録を用いた場合の風力エネルギー密度や 年間発電量が大きくても,風軸上での風力エネルギー は大きく低減する場合があり,発電機器の風向制 御が追い付かずに出力が低下する可能性がある。 4) 平均風速が大きい地点では風力エネルギー密度が大 きいが,500kW 級風車を想定して算定した出力発電 量は,風車の定格風速範囲の風の出現頻度の影響を受 けるため,風力エネルギー密度に対して小さくなる場 合がある。 以上のことから,乱れの強さの小さい風記録や風軸上の 風速から算定した潜在的風力エネルギーは,年平均風速値 のみで算定したエネルギーよりも小さくなる可能性があ り,風力発電適地算定には風向風速変動情報の確認が重要 であることがわかった。 参考文献 1) 新エネルギー・産業技術総合開発機構新エネルギー導 入部,風況精査マニュアル(概要版),1997.12. 2) 新エネルギー・産業技術総合開発機構 エネルギー対 策推進部:風力発電導入ガイドブック,2008.2. 3) 今村他:複雑地形における風況測定と風力タービン性 能評価に関する研究,第1 報,竜飛ウィンドパークに おけるNEDO–500 kW 機の性能評価,日本機械学会 論文集B 編,64(626),pp.3323-3329,1998. 4) 土屋他:ウィンドパークにおける風車取得エネルギー 量予測手法の実用性評価,竜飛ウィンドパークにおけ る 検 証 , 日 本 機 械 学 会 論 文集 B 編,61(590) , pp.337-342,1995. 5) 今村他:複雑地形における風況測定と風力タービン性 能評価に関する研究,第2 報,風況特性および乱れ度 の 影 響 , 日 本 機 械 学 会 論 文集 B 編,70(693) , pp.1223-1229,2004. 6) 田中,他:風況測定と小型ダリウス型風車の年間発電 量に関する研究,日本機械学会論文集(B 編)p111-117, 2007.11. 7) 七原:風力発電電力系統安定化等調査の概要について, 季報 エネルギー総合工学Vol25 No.4,2003.1 8) 前田潤滋(代表):広域送電線網を利用した潜在的風 力エネルギー開発のための風速マップ作成,平成 14~15年度科学研究費補助金(萌芽研究)研究報告書, 2004.

9) Eriko Tomokiyo, Junji Maeda et al.:Typhoon

Damage Analysis of Transmission Towers in Mountainous Regions of Kyushu, Japan, Wind&Structures An International Journal, Vol.7, No5, pp.345-357, 2004.6 10) 大熊他:建築物の耐風設計,鹿島出版会,1996.3. 11) 日本工業標準調査会 審議:風車第1 部:設計要件 JIS C 1400-1,日本規格協会,2010. 12) 牛山:風車工学入門,森北出版株式会社,2002.8. 13) 野方他:九州地域の風力ポテンシャルにかかわる風の 乱れ分析 九州支部研究報告会(構造系)pp.353-356, 2013.3 14) 独立行政法人新エネルギー産業技術総合開発機構(NE DO):局所風況マップ(18 年度改訂版),http://app8. infoc.nedo.go.jp/nedo/index.html,2012-11-22 参照.

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