• 検索結果がありません。

就学前後のコミュニケーション発達と障害 [ PDF

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "就学前後のコミュニケーション発達と障害 [ PDF"

Copied!
4
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)就学前後のコミュニケーション発達と障害 キーワード:定型発達児、乳幼児期、コミュニケーション発達、発達段階、スクリーニング. 行動システム専攻 村上. 問題と目的. 太郎. えた発達のものさし作成を試みた研究はほとんどない。. 乳幼児期のコミュニケーション能力はどのようにして. また、この研究の社会的意義としては、この発達のもの. 発達していくのだろうか。乳児はその出生から社会的認. さしの臨床応用性にある。定型の発達尺度を臨床応用し. 知の萌芽を見せ始め、9 ヶ月頃には「奇跡の 9 ヶ月」. た例として重要な研究には大神・実藤(2006)が挙げられ. (Tomasello, 1995)と呼ばれるように共同注意能力が急. る。大神・実藤(2006)は、縦断悉皆調査によって定型発. 速に立ち上がってくる。共同注意能力の獲得によって、. 達児における共同注意の発達過程を押さえた上で、共同. 乳児は「自己‐他者」という二項関係から「自己‐対象. 注意行動における複数の欠損項目が 18 ヶ月時点での自. ‐他者」という三項関係に参入していく。このコミュニ. 閉症の初期予兆を示すということを報告した。これは「定. ケーション構造の変化の中で乳児は言葉を獲得し、自他. 型からの逸脱」という観点において発達障害のスクリー. の理解を深めていくと考えられている。. ニングに成功した例であり、学術的にも社会的にも大き. 他者を意識するということは自己を意識するという. な意義があるものと考えられる。. ことにもつながる。社会的な関わりの中で生起する情動. 現在、発達障害についてはその症例の拡がりが認めら. として重要な項目に「照れ」や「罪悪感」などの自己意. れ、典型的な症例だけではなくなってきた。それを示す. 識的情動(Lewis, 1992)が挙げられる。ここにみられる自. のが平成 14 年度文部科学省の報告である。この報告で. 己意識は時間的拡張自己(Neiseer, 1988)の萌芽ともみら. は、小中学校で発達障害が疑われる児童が 6.3%いると. れ、その重要性は大きい。. いうことが示されたのである。この 6.3%に該当する児. 自他についての意識が深まってくると、友達関係など. 童には高機能自閉症やアスペルガー障害などの子どもが. の関わりが多くなってくる。友達から受ける影響の大き. 含まれている可能性がある。これらの子どもたちは、言. さは Harris(1998)の社会集団化理論においても説かれ. 葉の使用には問題はないものの、対人関係や情動のコン. ており、その社会化の過程での自己調整(self-regulation). トロールに難しさを抱えているケースがある。. 能力も重要とされている(柏木, 1988)。. それでは、これらの子どもを就学前に発見し、適切な. 発達心理学の中で長く議論されているトピックに「心. 対策を講じることはできないのだろうか。現在のスクリ. の理論」がある。遠藤(1997)の「自己と他者の理解を支. ーニング・ツールでは、問題行動に焦点を当てたものが. える、ある種の基本的枠組みを意味するもの」として捉. 多い。しかしながら、問題行動が出てきてからでは対応. えると、他者の意図理解、語用や指示語の理解などの文. が遅いと考えられる。発達に難しさを抱える児に対する. 脈の参照を必要とするコミュニケーション能力の発達に. 早期発見・早期介入の効果は示されつつある(大神・実藤,. ついても視野に入れる必要があると考えられる。さらに、. 2006; 井上・大神, 2007)。大神・実藤(2006)が示したよ. 就学前の子どもの発達を捉える際、時間的・空間的な表. うな方法論を用いて、 「定型からの逸脱」という視点から. 象、そしてその操作の発達についてみることが重要であ. 幼児期の包括的な発達尺度を作成することができたら、. ると考えられる。. 発達のどの時期においてもスクリーニングが可能になる. これらの多岐に渡る発達のトピックスを包括的に捉. のではないか。.

(2) 以上の点から、本研究では乳幼児期の発達を包括的 に描き出すことを目的とする。また、就学期の定型発達. Table 1 質問項目の内容と5因子への分類 関係調整. 児、コミュニケーション障害児において、今回作成した 質問紙が発達の特徴をどのように示しうるのかについて 検討する。 第 1 研究 目的. 1)定型発達児のコミュニケーション能力の発達. 過程・指標となった各行動の発達順序の解明。2)項目 間における発達的連関の検討。 方法. 対象:K 県 U 町にある 10 の保育園に通う子ども. 周囲の状況理解 周りの空気を読んで行動することができますか。 相手の立場に 立った表現 他者への自分の 経験の説明 社会的遊び( 筋 書きのあるごっこ 遊び) 他者依存的な方 法 問題解決のツー ルとしての言語 の使用. (1 歳から 6 歳)の保護者(有効回答数:697 件、回収 率約 70%)に、園を通じて回答してもらった。 実施期間:200X 年 X 月配布、2 週間後に回収。 質問紙:全 48 項目からなる。項目の構成は、村上・大 神(2007)で用いられた共同注意に関する項目(以下「共. 的情動に関する項目より 15 項目を用いた。就学前の子 記号・表象. 研究では様々な観点から新たに 33 項目を追加した。 結果. 各項目の通過率をもとに標準化を行い、項目の. 50%通過月齢を算出した。 先行研究(黒木・大神, 2003; 村 上・大神, 2007)との比較の結果、本研究で用いた共同注 意項目、自他・語彙項目においては、その通過時期にお いて先行研究とほぼ一致を示した。 また、48 質問項目を用いて因子分析を行い、5 因子を 抽出した。抽出された因子は、 「関係調整」 「表象」 「自他 意識」「共同注意」「社会的に好まれない行為」とそれぞ れ命名した(Table 1)。 さらに、各因子内において、各項目間の連関と他の因 子との連関をみるため、月齢を制御変数においた偏相関 分析を行った。 考察. 標準化による 50%通過月齢の算出、因子分析によ. る因子の項目検討の結果、4 つの因子が発達段階を示す ものとして想定された。また、偏相関分析により各項目. 自分の気持ちをお友達や大人に伝える時、相手の事を考えてやわらか い表現で話すことができますか。 自分が経験したことをお友達や大人に分かるように上手に説明すること ができますか。 筋書きのあるごっこ遊びを特に仲間と一緒に行うことがありますか。 お友達と問題が起こったとき、親や先生に代わりに交渉してもらうことが できますか。 考えや感情を表したり、計画について話し合ったり、問題解決や交渉を 行う時に言葉を用いますか。. 何か物事を達成したり手に入れた時、「できた!」とか「やった!」と誇ら しげに周囲の大人に見せびらかすようなことがありますか。 やや曖昧な指示 「ああいうおもちゃが欲しいの?」 や「そういうことは言わないで」などの 語の使用 指示語を正しく使うことができますか。 相手が持っているものに対して「貸して」 と言ったり、交換条件を出したり 自己主張 して自分で交渉することがありますか。 遊びへの参加 入りたい遊びに自分から「 入れて」 と言えますか。 (自己主張) 慣用句・ ことわざ 「腹が立つ」 などの簡単な慣用句やことわざの意味がわかりますか。 の理解 曜日の知識 曜日を言うことができますか。 ひらがなの知識 ひらがなを読むことができますか。 「は」 と「わ」 、「 へ」と「 え」、「 を」 と「 お」を正しく使いわけることができます 助詞の使い分け か。 状況に合わせた 相手や状況に合わせて、丁寧な言葉と普段の話し言葉を区別すること 言葉遣い ができますか。 道順の説明 公園へ行く道などを正しく説明することができますか。 話し合いへの積 複数人で話し合いをする時、話し合いの内容をよく理解し、話し合いに 極的参加 積極的に参加しますか。 仮定文でのやり 「もしお金持ちだったらどうする?」 や「 もし(好きなアニメのキャラクター) とり だったらどうする?」などの仮定の話をすることができますか。 他者意図の読み 物語の中で登場人物がどのように感じたり、登場人物の意図は何なの 取り かという評価について話すことがありますか。 「わざとしたでしょ」 と言ったり、大人が「わざと意地悪」 することを知って 故意性の理解 いるような振る舞いをしますか。 「どこ」「 誰」の理 「どこに行ったの?」「 誰と遊んだの?」などの質問に答えられますか。 解 自己概念の発達 「お名前は?」 と聞くと自分の名前をいえますか。 (名前) 誇りの表出. 同注意項目」 )、自他概念・語彙獲得に関する項目、社会. どものコミュニケーションの発達過程を捉えるため、本. 項目内容 質問項目 相手を見て話す お話をするときに、きちんと相手の方を見て話すことができますか。 「あれ取って」 や「おもちゃはそこにあるよ」などの指示語が指しているも 指示語の理解 のがわかりますか。 会話のターンテイ 自分ばかりが話すのではなく、お友達や大人の話を興味を持って聞くこ キング とができますか。 子どもがお菓子を食べているとき、「お菓子ちょうだい」などとは言わず、 語用(分与) 「そのお菓子おいしそうだね」などというと、そのお菓子を分けてくれるこ とがありますか。 お友達が物(おもちゃなど)を持っている時、その子が貸してくれるまで 自己抑制 待つことができますか。 重い荷物を運んでいるとき、「重いなぁ」 などというと、手伝ってとは言っ 語用(援助) ていないのに手伝おうとすることがありますか。 語用(譲渡) 食事中に「おしょうゆはどこ?」 ときくと、探して渡してくれますか。 「∼の前に」 「∼の後で」といった大人の働きかけに応じて行動を調節で 働きかけに応じ きますか。 た行動調節 (「 (何か欲しいものを) 後であげます」と言えば待てる、など) 子どもの前におもちゃがある時、「 そこにおもちゃある?」ときくと、「う 指示語の使い分 ん、ここにあるよ」 と答えるように、適切に「 そこ」「ここ」「 あそこ」を使い け 分けられますか。 遊びのルールを理解し、守って遊ぶことができますか( ズルをしたり、ご ルールの理解 まかしたりしない)。 大人との会話の中に、「○○ちゃん」や「∼∼くん」と言ったお友達の名 友達への関心 前が出てきますか。. 自他意識. 自分の気持ちの 自分の気持ちや考えを話すことができますか。 言語化 絵本をみて「 これは何?」 と聞くと3つ以上の名前を答えられますか( ゾ 有意味語の獲得 ウさん、りんごなど)。 「どうやって作ったの?」「 どうしてけんかしたの?」などの質問に答えら 因果関係の理解 れますか。 時間軸の形成 過去や未来のできごとについて、わかるように教えてくれますか。 照れの表出 「いい子ね」 「上手ね」などほめたとき、照れたりしますか。 いつもできていることが、たまたまできなかったとき、はずかしそうにしま 恥の表出 すか。 物をこわしたときや悪いことをしたとき、バツの悪そうな顔をしたり、すま 罪悪感の表出 なそうにしますか。 保育園や幼稚園などで、人の話をちゃんと聞いたり、指示に従うことが 指示理解 できますか。 叙述の指さし産 子どもが何かに興味を持ったり、驚いた時、それをお母さんに伝えようと 共同注意 出 して、指差しをすることがありますか。 大人やお友達が痛そうにしたり、悲しそうにした時( 又はふりをしたと 他者苦痛の理解 き)、その人の顔を心配そうに見ることがありますか。 応答の指さし産 お母さんが「 ○○はどこ?」 とたずねると自分からそれを指して、あるい 出 は言葉で教えてくれることがありますか。 慰め・ いたわり行 質問4のとき、慰めたり、いたわるような行動をすることがありますか。 動 指さし理解 お母さんがおもちゃなどを指すとその方向を見ますか。 状況を考慮しな 相手が持っているものを無理矢理取ろうとしたり、叩いたりするような攻 い自己中心的な 社会的に好ま 撃的な方法を取りますか。 解決法 れない行為 遊びの中で他者をからかったり、制止されるようなことをあえてしたりし からかい ますか。. の連関が明らかになり、項目によって発達的なプロセス. 項目は指さし理解、指さし産出、他者苦痛の理解・向社. の共通性が示唆された。以下因子ごとに考察する。. 会的行動という 3 つのグループに分かれることを示唆し. 共同注意因子の項目通過時期に関しては、おおむね先 行研究の知見を支持した。偏相関分析より、これらの 5. た。応答の指さし、他者苦痛の理解、向社会的行動は、 自他意識因子とも相関を示した。.

(3) 自他意識因子の項目通過時期に関しては、先行研究と. することは難しかったが、偏相関分析において「仮定文. ほぼ同じ通過時期を示した。この因子の中では自己の発. でのやりとり」や「他者意図の読み取り」 、「話し合いへ. 達を 3 つの段階に分けられることが示唆された。一つ目. の積極的参加」などにおいて関係調整因子との関連が示. は 1 歳半までの、他者の注意を操作することへの気づき. 唆された。. (Tomasello, 1995)が生じ、それと同時に、自己へ向けら. さらに、ひらがなや曜日の知識が他の項目とほとんど. れた注意の知覚の中で自己への気づきが促される段階. 関連を示さなかった。これはひらがななどの記号的知識. (恥・照れなどの自己意識情動の出現)、二つ目は 2 歳. は有するものの、他者との関係の取り方が上手く取れな. 近辺における、言語世界への入りや自己意識、時間的拡. いというアスペルガー障害や高機能自閉症、PDD などの. 張自己が萌芽をみせる段階(有意味語の獲得・自己概念. 臨床像と結びつく可能性を示唆した。つまり、記号の理. の発達などの出現)、 そして三つ目は 2 歳半頃における、. 解は関係調整や対人的スキルとは違うプロセスを辿る可. 時間的拡張自己を示す段階(因果関係の理解・時間軸の. 能性を実証的に示しうる。 第 2 研究. 形成の出現)である。 偏相関分析の結果、語彙や概念と自己意識、語彙や概. 目的. 第 1 研究の調査対象児が小学校就学後 1 年目では、. 念と社会的情動には相関がみられなかった。これより概. どのような発達の様相を示すのかを探る(後述する発達. 念形成と時間的拡張自己は別の発達プロセスを辿りうる. 障害児の統制群としての意味をもつ)。. ことが示唆された。. 方法. 関係調整因子においては、50%通過月齢の算出により. M市の公立小学校に通う小学 1 年生の保護者(回. 答数 1167、有効回答数 1092)を対象に、48 項目を 3 件. 項目の発達時期を明らかにできた。この因子の中では関. 法にて実施した。. 係調整能力を 3 つの段階に分けられることが示唆された。. 結果. 一つ目は友達への関心や、自己主張を行い始め、文脈. 7 因子が抽出された。それぞれ「体制化」 「周辺参加」 「語. における指示対象やメタメッセージについての理解. 用」「共同注意」「自己抑制」「社会性」 「語彙・概念」と. を示し始める 2 歳の段階(友達への関心、自己主張、. 命名した。. 48 項質問項目を用いて因子分析を行ったところ、. 語用の出現)であり、二つ目は他者との関係調整のス. 項目の通過率を算出したところ、ほぼ全ての項目に天. キルに言語が大きな役割を持ち始めたり、自己抑制が. 井効果がみられたが、コミュニケーションの遅れた事例. 可能になってくる 3 歳の段階である(他者への自分の. においては、6 つの項目においてつまづくことが示唆さ. 経験の説明、問題解決のツールとしての言語の使用、. れた(「因果関係の理解」「問題解決のツールとしての言. 会話のターンテイキングなどの出現)。そして三つ目. 語の使用」「やや曖昧な指示語の使用」 「他者への自分の. は、周囲の状況を理解し、主体的な選択としての抑制が. 経験の説明」「道順の説明」「話し合いへの積極的参加」. 可能になってくる 4 歳の段階である(自己抑制、周囲の. において識別力が高く示された) 。. 状況理解、相手の立場に立った表現の出現)。. 考察. 因子分析の結果から、小学 1 年生のコミュニケー. 加えて偏相関分析の結果より、自他意識と相関をもつ. ション能力は 7 つの因子に分かれることが分かった。こ. 項目と表象と相関をもつ項目とに分かれたことから、関. れらは、小学 1 年生において対人関係、学習面で必要と. 係調整能力は、自他意識と表象を媒介しうることが示唆. されるコミュニケーション・スキルであることが示唆さ. された。. れる。また、小学 1 年生において識別力を持つ 6 項目が. 表象因子においても、通過率の算出により、発達の時 期を明らかにした。この因子において、発達段階を想定. 示唆されたものの、小学 1 年生を対象にしたスクリーニ ング・テストとしては改訂の必要性を示した。.

(4) 第 3 研究 目的. コミュニケーション障害児(小学 1 年生)が示す. 発達的特徴を探る 方法. 対象児(n=7)は F 県 M 市の 1 歳半健診、3 歳健. 診におけるスクリーニングの対象となったコミュニケー ション障害児(7 歳)であり、健診の場面において心理 士や保健士の協議のもと、共同注意項目や行動面におい て「気になる子」としてピックアップされたケースであ る。これらの子どもたちは早期療育の対象となり、集団 場面での療育や個別療育を経験し、自閉症や高機能自閉 症、アスペルガー障害、知的障害の診断が下り、現在も 個別療育を継続している。療育の効果が共同注意、ひい ては言語などの認知面、社会的認知能力の伸びに与える 影響は多くの先行研究によって示されているが(井上・大 神, 2007; 大神・実藤, 2007)、これらの子どもたちが小. Table 2 コミュニケーション障害児の不得意項目 通過率 項目番号 項目内容 通過率 69% S14 自分の気持ちの言語化 57% ∼40% S17 「 どこ」 「 誰」の発達 57% S21 他者依存的な方法 57% S22 自己抑制 57% S27 指示語の理解 57% S29 やや曖昧な指示語の使用 57% S47 曜日の理解 57% S15 時間軸の形成 43% S25 周囲の状況理解 43% S28 指示語の使い分け 43% S38 語用( 分与) 43% 40% S18 因果関係の理解 29% 未満 S24 問題解決のツールとしての言語の使用 29% S26 ルールの理解 29% S32 会話のターンテイキング 29% S37 社会的遊び( 筋書きのあるごっこ遊び) 29% S39 語用( 援助) 29% S42 仮定文でのやりとり 29% S43 道順の説明 29% S45 話し合いへの積極的参加 29% S31 相手の立場に立った表現 14% S34 故意性の理解 14% S41 他者への自分の経験の説明 14% S48 助詞の使い分け 14% S11 状況を考慮しない自己中心的な解決法 0% S33 からかい 0% S35 他者意図の読み取り 0% S44 状況に合わせた言葉づかい 0%. 学校に上がってなお抱える難しさとはなんであろうか。 就学前、学童期を通じて行った質問項目によってこれら の子どもたちの発達を見てみたいと思う。 質問紙への回答は、母親または個別療育の担当心理士 に行ってもらった。分析に耐えうるサンプル数ではない ため、彼らのもつデータからの検討のみとする。 結果. この障害児群において通過率を算出したところ、. 項目によって通過率に大きくばらつきがみられた。これ らの項目を通過率によって大きく 3 群に分け、障害児群 が不得意と考えられる項目について考察を行うことにす る(Table 2)。 考察. 障害群において中程度の難しさを示すと考えら. れるものは、自他概念の理解や自己抑制に関する項目や、 文脈の参照を必要とするコミュニケーション・スキルで. 総合考察 本論文から、共同注意に端を発するコミュニケーショ ン能力は、複数の潜在因子に裏付けられて段階的な構造 を持って発達することが示された。特に、共同注意や自 他意識に関する因子内では、先行研究において個々の知 見が積み重ねられてきたものが、その発達的連関を示し つつあるように思われる。定型発達児における関係調整 や表象に関する因子は今後も改訂・検討が必要だと考え られる。また、小学 1 年生においても本論文で用いた質 問紙はその臨床有用性を高く示すことができなかったた め、今後の課題として大きく残るところではあるが、本 論文で用いた質問紙は、発達障害児が抱えるコミュニケ ーション上の問題を端緒に示した。彼らにとっての今後 の課題、療育の方針などの一助になれば幸いである。. あると考えられる。特に難しいと考えられるものは、時 間的・空間的な表象の操作、対人関係におけるコミュニ ケーションであった。第 2 研究において識別力の高い項 目が通過率の低い項目に多くあることが明らかになり、 就学期、もしくは就学前における発達障害のスクリーニ. 主要参考文献 柏木惠子 (1988) 幼児期における「自己」の発達, 東京 大学出版会 Lewis, M. (1992). Shame: The Exposed Self. 高橋惠子 (監訳)1997 恥の心理学 ミネルヴァ書房. ング項目としての有用可能性を示唆した。今後はサンプ. 大神英裕・実藤和佳子 (2006). 共同注意――その発達と. ル数を増やしながら、障害の特有の難しさ・個人差を考. 障害をめぐる諸問題――. 教育心理学年報, 45,. 慮に入れながら検討を進めていく必要がある。. 145-154..

(5)

参照

関連したドキュメント

ところが,ろう教育の大きな目標は,聴覚口話

スライダは、Microchip アプリケーション ライブラリ で入手できる mTouch のフレームワークとライブラリ を使って実装できます。 また

この項目の内容と「4環境の把 握」、「6コミュニケーション」等 の区分に示されている項目の

(採択) 」と「先生が励ましの声をかけてくれなかった(削除) 」 )と判断した項目を削除すること で計 83

口腔の持つ,種々の働き ( 機能)が障害された場 合,これらの働きがより健全に機能するよう手当

点から見たときに、 債務者に、 複数債権者の有する債権額を考慮することなく弁済することを可能にしているものとしては、

Q-Flash Plus では、システムの電源が切れているとき(S5シャットダウン状態)に BIOS を更新する ことができます。最新の BIOS を USB

最愛の隣人・中国と、相互理解を深める友愛のこころ