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Vol. 49, No. 1, Chrysanthemum seticuspe f. boreale 2. FLOWERING LOCUS T FT / Heading date 3a Hd3a Corbesier et al ; Tamaki et al F

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Academic year: 2021

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(1)

花成ホルモンと花成抑制ホルモンが決定するキクの花成

小田  篤

独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 花き研究所

Florigen and anti

florigen determine the flowering in chrysanthemum

Atsushi Oda

NARO Institute of Floricultural Science (NIFS), National Agriculture and Food Research Organization (NARO)

要旨 : Chrysanthemum is a typical short-day plant and responds to shortening of daylength in the transition from vegetative to reproductive phase. The manipulation of daylength is widely used in the commercial production of chrysanthemum. In chrysanthemum, daylength and growth temperature affect the development of floral organs after the floral transition. Recent advances in molecular genetics have identified a florigen in model plants. Recently, an antiflorigen which inhibits flowering antagonizing with florigen has been found in chrysanthemum. This review summarizes the flowering regulated by daylength and temperature through the balance of florigen and antiflorigen production in chrysan-themum.

はじめに

キ ク(Chrysanthemum morifolium RAMAT.) は 東 ア ジア原産の植物であるが,現在では欧米でも広く営利栽培 が行われている.キクの自然開花期は秋であるが,街の花 屋の軒先にはいつでも花が咲いたキクを目にすることがで きる.我が国におけるキクの需要は墓参りなどの習慣から 春と秋の彼岸,夏の盆に高まる.春や夏の需要期はキクの 自然開花期とは異なる時期にあたり,キクの生産者は需要 期に出荷するために人為的に開花を調節している. Garnerと Allard(1920)によって植物の光周性花成が 1920年に報告され,長日植物と短日植物に分類された. キクは短日植物に分類され,1936 年にはキクを使って, 葉で生産される花成ホルモン(フロリゲン)が花成を誘導 することが実験的に証明された(Chailakhyan and Krikorian 1975).短日植物であるキクの性質を利用してアメリカで は 1930 年代後半にはすでにキクの周年需要に対応するた め,日長調節による周年開花技術が開発された.キクの営 利生産には生育の初期には草丈を確保するために長日条件 下または暗期中断条件下で栽培した後,短日処理によって 開花させる.この技術はその後,日本やヨーロッパにも導 入され,定着した.我が国ではキクに暗期中断を人工光源 によって与えることを電照と呼び,この技術によって開花 を抑制して栽培したキクは電照菊と呼ばれ広く普及してい る.このようにキクは光周性花成の性質を利用して最も広 く営利生産されている植物であると言える. 近年の長日植物のシロイヌナズナと短日植物のイネをモ デルとした分子遺伝学的解析から,花成ホルモンの実体と その生産制御システムが急速に明らかになった.キクはイ ネと同じ短日植物であるが,イネは長日条件でも花成が進 行する相対的短日植物であるのに対し,キクには長日条件 で開花しない絶対的短日植物の反応を示す品種が存在す る.また,キクは花序分裂組織分化後の花器官の発達に日 長と温度が影響を与えるなど,シロイヌナズナやイネには みられない現象がみられる.最近,キクから花成ホルモン と拮抗して花成を抑制する花成抑制ホルモンが発見され た.本稿ではキク特有の開花に関わる要因を整理しながら, 花成ホルモンと花成抑制ホルモンによるキクの開花の制御 機構について概説する. 1.キクの日長反応の多様性 キクは多年生草本であり,秋の短日条件によって開 花した後,休眠状態が誘導され越冬する.休眠状態のキク は短日条件下でも花成は誘導されないが,冬期の低温に よって休眠状態が打破され,春以降の短日条件下で花成誘 導が可能になる.この性質からキクは自然界では夏以降に 開花する.キクの品種の中には,開花反応について明瞭な 限界日長をもたず相対的短日植物に分類されるものから, 限界日長をもつ品種まで存在し,自然日長下で夏から秋に かけて開花する品種が存在する.川田と船越(1988)はキ クの自然開花期と日長反応性に基づき,キクは明瞭な限界 日長をもたない夏ギクと限界日長をもつ夏秋ギクと秋ギク に分類することを提案した.夏秋ギクは秋ギクよりも長い 限界日長をもつ.夏ギク型品種はイネと同じく長日条件で も花成が進行する相対的短日植物であるが,秋ギクは限界 日長以上の長日条件では花成が極端に遅延する絶対的短日 植物である.筆者らは秋ギクに注目して,キクの開花に関 わる分子基盤を明らかにすることを考えた.しかし,キク

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の栽培品種のほとんどが六倍体の染色体構成をもつことか ら遺伝学的な解析には不適切であった.そこで著者らは自 然開花期が秋で,秋ギクと同じく絶対的短日植物の性質を もちながら,染色体構成が二倍体の野生ギク,キクタニギ ク(Chrysanthemum seticuspe f. boreale)を材料として研究 を行うこととした.

2. キクの花成ホルモンと花成抑制ホルモン

近年になって,シロイヌナズナとイネにおいて FLOWERING LOCUS T(FT)/ Heading date 3a (Hd3a) タ ンパク質が花成ホルモンの本体であることが明らかになっ た(Corbesier et al. 2007 ; Tamaki et al. 2007).葉で生産さ

れる FT/Hd3a は師管を介して茎頂部に輸送され,b-ZIP

転写因子 FD/OsFD1 と結合し,下流の APETALA1 (AP1)/

OsMADS15や FRUITFULL(FUL)を誘導することで花芽

分化を引き起こす(Abe et al. 2005 ; Taoka et al. 2011 ; Wig-ge et al. 2005).イネは相対的短日植物の性質から短日条件 に比べ遅れるものの長日条件でも出穂する.イネでは同一 の染色体上に並んで位置するパラログ,Hd3a と RICE FLOWERING LOCUS T 1(RFT1)が存在し,短日条件にお いては Hd3a が誘導され,長日条件においては RFT1 が誘 導されることによって出穂する(Komiya et al. 2009). これに対してキクタニギクは長日条件では長期間栄養生 長を続け,開花しない.キクタニギクには FT/Hd3a と相 同性を示す遺伝子が 3 種類(CsFTL1, CsFTL2 および Cs-FTL3)存在する.CsFTL1, CsFTL2 および CsFTL3 はキク 属で分岐したパラログであるが,CsFTL3 のみが限界日長 付近で日長の短縮に伴って段階的に葉での発現が上昇する (図 1).キクタニギクでは短日条件の葉で生産される Cs-FTL3が師管を介して茎頂部に輸送され,花成ホルモンと して機能している(Oda et al. 2012).一方で,キクの花成 が抑制される長日条件および,暗期中断条件でも CsFTL3 の発現が検出される.また,CsFTL3 のパラログである CsFTL1は弱い花成促進機能をもち,短日条件に比べ,長 日条件において発現が高い(Higuchi et al. 2013).これら のことからではキクの花成が非誘導条件で抑制されること が説明できない. 以前から,光周性の異なるタバコを接ぎ木した実験に よって葉で作られる花成抑制ホルモン(アンチフロリゲン) の存在が提唱されていた(Lang et al. 1977).キクタニギク では下位節に短日条件を与えても,上位節に暗期中断条件 を与えると花成が抑制される.この実験で,上位節の葉を 取り除くと花成は抑制されないことから,短日条件の下位 節で合成される CsFTL3 の機能を拮抗的に抑制する因子が 暗期中断条件の上位節の葉で合成されていることが考えら れた.最近,葉で合成され,師管を介して茎頂部に輸送さ れる Anti-florigenic FT/TFL1 family protein (CsAFT)がキク の花成を抑制する花成抑制ホルモンとして機能しているこ

とが明らかになった(Higuchi et al. 2013).CsAFT はシロ イヌナズナの BROTHER OF FT AND TFL1(BFT)と最も 相同性が高い.シロイヌナズナでは茎頂部で恒常的に発現 する TERMINAL FLOWER 1(TFL1)が FT と拮抗して花成 を 抑 制 し て い る(Ratcliffe et al. 1998 ; Hanano and Goto 2011).BFT は構造的に TFL1 よりも FT に近いが,TFL1 と冗長的に花成を抑制する機能をもつ(Yoo et al. 2010). キクタニギクの TFL1 のオルソログ CsTFL1 は日長によっ て発現量が変化しないことから,光周性花成を律速してい る因子ではないと考えられる(Higuchi et al. 2013).一方 で CsAFT は長日条件下および暗期中断条件の葉で発現が 誘導され,限界日長付近で日長が短くなるに従って段階的 に低下し,短日条件では発現が極めて低く抑えられている. CsAFTと CsFTL3 は変化する日長に対してほぼ正反対の発 現パターンを示す(図 1). キクタニギクには CsFDL1 と CsFDL2 の 2 種類の FD 様 遺伝子が存在する.茎頂部に輸送された CsFTL3 は主に CsFDL1との結合を介して,下流の AP1/FUL 様遺伝子の

CsAFL1および,CsAFL2 の発現を誘導する(Higuchi et al.

2013).CsAFT は CsFTL3 と競合して CsFDL1 と結合し, CsAFL1および,CsAFL2 の発現を抑制している.このこ とから,キクタニギクは花成ホルモン CsFTL3 と花成抑制 ホルモン CsAFT の二重の花成制御機構をもっており, CsAFTは長日条件と暗期中断条件における花成の抑制に 不可欠な機能を果たしている. イネでは 13.5 時間から 13 時間にわずか 30 分日長を短 図 1 日長による CsFTL3 および,CsAFT の発現制御 限界日長が約 12 時間のキクタニギクでは日長を 13 時間か ら 11 時間に短縮することで段階的に CsFTL3 の発現が誘 導され,CsAFT の発現は抑制される.13 時間以上の日長 条件では栄養成長が維持され,11 時間以下の日長条件で は開花が誘導される.12 時間日長条件では花序分裂組織 の分化は誘導されるが,花器官の発達は遅延する.

8

12

16

日長(時間)

発 現 量

開花

栄養生長

CsFTL3

CsAFT

花器官の発達遅延

(3)

縮することで Hd3a の発現を 10 倍増加させる機構が存在 する(Itoh et al. 2010).一方,キクタニギクでは 13 時間 から 11 時間に日長を短縮することで CsFTL3 の発現は段 階的に増加し,逆に CsAFT の発現は段階的に減少する(図 1).イネがHd3aの発現をオンオフで切り替えられるスイッ チをもっているのに対し,キクタニギクは自動車のアクセ ルとして機能する CsFTL3 とブレーキとして機能する CsAFTの 2 つをもっていると例えることができる.キク タニギクは限界日長付近で日長が段階的に短くなるとアク セル(CsFTL3)を踏み込みながらブレーキ(CsAFT)を 緩めるように花成を制御している.また,長日条件では自 動車のアイドリング状態のように CsFTL3 は低いレベルで 発現しており,ブレーキの CsAFT をしっかり踏んでいな いとオートマチック車であれば緩やかに発進(花成が進行) してしまう状態だと考えられる. 3. キクの花器官の発達に対する短日要求性 キクタニギクでは 12 時間日長条件で誘導される CsFTL3と CsAFT の発現量は長日条件と短日条件で誘導さ れる発現量の中間を示す(図 1).キクタニギクにとって, 12時間日長は花成のアクセルとブレーキを両方軽く踏ん でいる様な状態となる.12 時間日長条件では 11 時間以下 の短日条件に比べて花序分裂組織の分化は遅延しないが, 花器官の発達が抑制され開花が遅延する現象がみられる. また,CsFTL3 過剰発現体は長日条件下で開花し,CsAFT 過剰発現体は短日条件下で花序分裂組織の分化が抑制され る(Oda et al. 2012 ; Higuchi et al. 2013).CsFTL3 過剰発現 体を台木として,野生型の穂木を接ぎ木すると穂木の茎頂 部に花序分裂組織が形成されるが開花には至らない場合が 多い.接ぎ木面で維管束組織がすべて完全に癒合するとは 考えにくいので CsFTL3 過剰発現体の台木から茎頂部に輸 送される CsFTL3 は制限されていることが予想される.こ れらのことから,CsFTL3 と CsAFT の量のバランスで Cs-FTL3がやや優位となると花序分裂組織の分化が誘導され, CsFTL3が完全に優位となると花器官の発達が進行する 2 つの段階があると考えられる. シロイヌナズナやアサガオなどの植物では誘導条件に よって花成が誘導されると,非誘導条件においても花器官 の発達は抑制されないが,キクの花器官の発達には継続し て短日処理をする必要がある.キクタニギクは 4 回の短日 処理で花序分裂組織の分化が誘導されるが,暗期中断(花 芽非誘導)条件下では開花しない(図 2).短日処理の回 数を増やすことによって暗期中断条件での小花の分化と花 器官の発達がみられるようになるが,開花は抑制される(図 2).キクタニギクに 4 回の短日処理を行った後に暗期中断 条件に移すと,上昇していた CsFTL3 の発現は速やかに低 下する(Oda et al. 2012).このことから,キクタニギクの 花器官の発達には CsFTL3 が CsAFT に対して優位な状態 が維持されることが必要である. キクは花序分裂組織の分化に数回の短日処理を必要とす るが,アサガオでは 1 回の短日処理によって花成が誘導さ れる.アサガオでは PnFT1 の発現が 1 回の短日処理で数 十倍以上に上昇する(Hayama et al. 2007).一方で,キク タニギクの CsFTL3 の発現は 1 回目の短日処理によって発 現が上昇するが,長日条件との差は約 2 倍でしかない(Oda et al. 2012).CsFTL3 の発現は短日処理の回数に依存して 発現が増幅され,長日条件との差が大きくなる(図 3). CsFTL3と CsFDL1 の複合体は CsFTL3 の発現を誘導する ことから,CsFTL3 の発現は正のフィードバック制御機構 が存在する(Higuchi et al. 2013).短日処理を繰り返すこ とで CsFTL3 の発現は自身の翻訳産物によって増幅され る.キクタニギクでは CsFTL3 の増幅機構によって花序分 裂組織の分化および,その後の花器官の発達に十分な Cs-FTL3の発現量が誘導され,開花まで至る(図 3). 4. キクの高温下における開花遅延 高温下でキクを栽培すると短日条件においても著し く開花が遅延し,花径が小さくなることことに加えて,花 弁が展開しない問題が生じる.この問題から,日本の夏の キク生産では高温下でも開花遅延しにくい品種が用いられ ている.キクタニギクでも高温下において開花遅延する形 質がみられる.キクタニギクは短日条件の高温(30°C)で 栽培することによって,適温(20°C)で栽培した場合に 比べて花芽分化節位はわずかにしか上昇しないが,花器官 の発達が抑制され,開花しなくなる(Nakano et al. 2013). 高温の生育環境では適温に比べて葉における CsFTL3 の発 現が低くなる(Nakano et al. 2013).一方,高温で開花遅 延しにくい栽培ギクの品種では CmFTL3 の葉における発 現への高温の影響は小さい.接ぎ木を用いた実験から,高 温条件下において花成遅延しにくい品種を台木とすれば, 花成遅延する品種の穂木の開花遅延は起こらない.これら のことから,高温は葉における FTL3 の発現を低下させる 要因になっており,茎頂部に輸送される FTL3 の量が低下 することによって花器官の発達が抑制されることが考えら れた.また,栽培ギクでみられる高温開花遅延の品種間差 は CmFTL3 を誘導する機構にあると考えられる.長日条 件や暗期中断条件はキクタニギクの花序分裂組織の分化を 抑制するが,高温条件は花序分裂組織の分化に大きな影響 を与えることはないことから,CsFTL3 と CsAFT の発現制 御には日長が最も大きな要因となっており,温度は主に CsFTL3を介して開花に付加的に関与していると考えられ る. 5. キクの暗期中断による花成抑制 現在,キクの営利生産では暗期中断の光源として白 熱球および蛍光灯が用いられている.白熱球と蛍光灯は幅 広い範囲の波長の光を含むが,キクの花成抑制に効果のあ

(4)

る光は赤色光である(Sumitomo et al. 2012).キクタニギ クでは赤色光暗期中断を行うことで CsFTL3 の発現が抑制 され,CsAFT の発現が誘導される(Higuchi et al. 2013). 赤色光の受容体としてはフィトクロム B が知られており, キ ク タ ニ ギ ク の フ ィ ト ク ロ ム B 遺 伝 子(CsPHYB) を RNAiによって発現抑制した形質転換体は暗期中断よって CsFTL3が低下しないことに加えて,CsAFT の発現が上昇 せず,花成が抑制されない(Higuchi et al. 2013).赤色光 はフィトクロム B を介して花成ホルモン CsFTL3 と花成抑 制ホルモン CsAFT の制御を行うことでキクの花成を制御 している. イネの暗期中断による花成抑制は赤色光のシグナルが フィトクロム B を介して Hd3a の発現を抑制することに よって引き起こされる(Ishikawa et al. 2005).暗期中断に よる赤色光のシグナルは CCT ドメインをもつタンパク質 をコードする Grain number, plant height and heading date 7

(Ghd7), B-typeレスポンスレグレーターをコードする

Early heading date 1 (Ehd1),Hd3a の順に伝達される(Itoh et al. 2010).Hd3a を誘導する Ehd1 は Ghd7 によって抑制 される.イネの暗期中断による花成抑制には Ghd7 が赤色 光によって誘導されることが律速となっている(Itoh et al. 2010).赤色光によって誘導される Ghd7 の光誘導感受性 は 1 日の中で一様ではなく,概日時計からの位相によって 光刺激に対する反応性が制限される機構が存在する.この 機構はゲートと呼ばれており,このゲート(門)を設定す ることで,1 日の中の特定の時間にだけ赤色光シグナルに 反応することができる.短日条件では Ghd7 の発現を誘導 するゲートは暗期開始から約 4 時間後に開き,長日条件に おいては暗期開始から約 10 時間後に開く(図 4A).キク において CsAFT の発現は赤色光によって誘導され,この 光 誘 導 性 に も ゲ ー ト が 存 在 す る(Higuchi et al. 2013). CsAFTの発現を誘導するゲートは短日条件,長日条件に 関わらず暗期開始から約 8 時間後に開く(図 4B).Ghd7 と CsAFT の発現を誘導するゲートは短日条件で暗期に開 き,長日条件では明期に開くことで,長日条件の朝の赤色 光が Ghd7 および CsAFT の発現を誘導し,花成を抑制する. また,Ghd7 および CsAFT を誘導するゲートが開いている 時間帯に暗期中断の光(赤色光)が与えられることによっ て Ghd7 および CsAFT 遺伝子の発現が誘導され,花成が 抑制される.キクにおいてもイネにおいても暗期の中心付 近の暗期中断が花成の抑制に効果的であるが,キクは暗期 の中心よりも後の時間帯に暗期中断を行っても花成の抑制 に効果がある(Ishikawa et al. 2005 ; 白山・郡山 2013 ; Hi-guchi et al. 2013).キクとイネで暗期中断に効果的な時間 帯が異なることは,短日条件においてキクタニギクの CsAFTのゲートがイネの Ghd7 のゲートがよりも遅い時間 に開くことが要因になっていると考えられる.このように, キクタニギクでは暗期継続時間に依存して CsAFT のゲー トが開くことが暗期中断による花成抑制を律速している. 6. キクの暗期継続時間に依存した花成制御 短日植物の花成は 24 時間周期の短日条件で誘導さ れるが,24 時間以外の周期の明暗周期を与えた場合には 花成は抑制されることから,花成には暗期の長さに加えて, 概日リズムの周期と一致することが必要であるとされる. イネは 24 時間周期以外の明暗条件下と恒明条件下におい て 24 時間周期の長日条件よりも花成が抑制される(Izawa et al. 2002).一方で,キクタニギクでは暗期を 14 時間に 固定し,明期を延長して 30 時間,36 時間の明暗周期を与 えても 24 時間の明暗周期下と比べ花成に大きな変化がみ られない.16 時間明期 14 時間時間暗期の 30 時間周期の 明暗条件では 24 時間周期の長日条件に比べ,CsFTL3 の発 現は上昇し,CsAFT の発現は低下している(Higuchi et al. 2013).また,CsFTL3 の発現は長日条件でも,暗期にわず かに上昇する.CsFTL3 の発現は連続暗の条件下で上昇し 続けないが,暗期継続時間が発現誘導の大きな要因になっ ている(Oda et al. 2012).キクタニギクの CsAFT を誘導す るゲートは日長に関わらず暗期開始後,8 時間後に開くこ とから,暗期継続時間が CsAFT の発現制御にも重要であ る.このように,キクタニギクはイネとは異なり暗期継続 時間に依存して CsFTL3 と CsAFT の発現を調節すること によって花成を制御していると考えられる.キクタニギク のように暗期継続時間依存的に花成が制御される例はアサ ガオでも報告されている.アサガオに連続暗期を与えた実 験では,PnFT1 の発現は連続暗期前の明期の長さに関わら ず,暗期開始後約 14 時間後に誘導される(Hayama et al. 2007).これらのことから,キクとアサガオには共通した 暗期継続時間の計測機構が存在する可能性がある. 7. キクからみた植物の花成制御の多様性 シロイヌナズナでは概日リズムによって制御される GIGANTEA(GI) が FLAVIN-BINDING KELCH REPEAT,

F-BOX (FKF1)とコンプレックスを形成し,転写因子を

コードする CYCLING DOF FACTOR 1(CDF1)の発現に影 響を与え,CONSTANS(CO)の転写制御を行うことでそ の下流の FT の発現が長日条件において誘導される(Sawa et al. 2007).イネでは GI と CO のオルソログ,OsGI と Heading date 1 (Hd1)がシロイヌナズナと同じカスケード で Hd3a を制御する経路に加えて,前述の Ghd7,Ehd1, Hd3aのカスケードによって短日条件において Hd3a が誘

導される(Hayama et al. 2003 ; Itoh et al. 2010).シロイヌ ナズナとイネではそれぞれの花成を誘導する日長の情報は

FT/Hd3aの 1 つに集約されるが,キクタニギクでは日長の

情報は CsFTL3 と CsAFT の 2 つに分岐して伝達される. 日長は CsFTL3 と CsAFT の発現にほぼ正反対の影響を与 えることから,CsFTL3 と CsAFT の発現を正と負に制御す

(5)

る要因が存在すると考えられる.キクタニギクには GI/ OsGIおよび,CO/Hd1 と相同性を示す遺伝子が存在するが, Ghd7と Ehd1 は単子葉植物に特異的であり,キクタニギ クからは相同性を示す遺伝子は見出せない.また,イネと は異なりキクタニギクは暗期継続時間に依存して花成が誘 導されることからも,キクタニギクの CsFTL3 と CsAFT の発現制御機構には GI と CO の相同遺伝子以外の因子が 関わっている可能性がある. シロイヌナズナとイネのモデル植物を用いた研究から, 葉における花成ホルモンの産生が花成を律速していること が報告されてきた.一方で,テンサイでは FT 様遺伝子 BvFT1と BvFT2 が葉で発現し,花成に促進的な BvFT2 の 発現を BvFT1 が抑制する機構が報告されている(Pin et al. 2010).BvFT1 の発現は春化によって抑制され,発現が上 昇する BvFT2 によって花成が進行する.また,短日性の イチゴでは TFL1 様の FvTFL1 の茎頂部における発現が短 日条件によって低下することが花成を律速していると考え られている(Koskela et al. 2012 ; Mouhu et al. 2013).キク タニギクでは日長と温度が CsFTL3 と CsAFT の葉におけ る発現を制御し,花成を律速している.このように植物は 種によって FT/TFL1 様遺伝子の促進と抑制の両方の機能 を利用して,適切な日長と温度を感受したときに花成を進 行させる形質を独立に獲得してきたと考えられる.接ぎ木 実験から花成抑制ホルモンの存在が示唆されているタバコ などの植物では CsAFT の相同遺伝子が花成抑制ホルモン をコードしているか,または,別の因子が花成抑制ホルモ ンとして機能している可能性がある.今後,キク以外の植 物からも花成抑制ホルモンの実体が明らかにされるととも に,短日性のイチゴでみられるような茎頂部において恒常 的に発現していない TFL1 様遺伝子の機能が明らかになる ことで,個々の植物において花成を律速する要因が明らか にされることを期待したい. 8. おわりに 長年,未知とされてきた花成抑制ホルモンの実体が キクタニギクから発見された.キクタニギクでは葉から茎 頂部に輸送される花成ホルモン CsFTL3 と花成抑制ホルモ ン CsAFT の量のバランスが栄養生殖から生殖成長への転 換に加えて,花器官の発達を律速していることが明らかに なったが,その産生を制御する機構については未知である.

CsFTL3

CsAFT

開花

栄養生長

花序分裂組織の分化

短日処理の回数

長日条件

→短日条件

図 3 短日処理による CsFTL3 の発現誘導と CsAFT の発現 抑制 長日条件においては CsFTL3 が低レベルで,CsAFT が高い レベルで発現している.短日処理の回数に依存して Cs-FTL3の発現は段階的に上昇するが,CsAFT の発現は 1 回 の短日処理によってほぼ完全に抑制される.CsFTL3 の発 現量の増加に伴って花芽分化とその後の開花が誘導され る. 図 2 短日処理後の暗期中断によるキクタニギクの花器官の発達抑制 短日処理を継続して行うことで開花するが(左 : SD),暗期中断条件では栄養生長状態が維持される(右 : NB).4 回の短日処理後に暗期中断条件で生育させると花序分裂組織の分化はみられるものの小花の分化がみられない(4SD -NB).短日処理の回数を 8 回,12 回,16 回(8SD-NB,12SD-NB,16SD-NB)と増やすと小花の分化がみられ,蕾 の大きさが大きくなるが暗期中断条件では開花まで至らない.

SD

16 SD

NB

12 SD

NB

8 SD

NB

4 SD

NB

NB

(6)

暗期

明期

CsAFT

花成

長日条件

暗期

明期

花成

CsFTL3

短日条件

暗期

明期

Ghd7

Ehd1

長日条件

暗期

明期

Ehd1

Hd3a

花成

短日条件

A

B

図 4 ゲート機構によるイネとキクの花成制御機構 A : イネにおける Ghd7 の発現誘導機構 Ghd7に対する光誘導性のゲートは長日条件では暗期開始から約 10 時間後に,短日条件では暗期開始から約 4 時間後 に開く(点線).長日条件においてはゲートが開いている時間に明期になることで Ghd7 が誘導され,Hd3a を誘導す る Ehd1 の発現を抑制することで花成が抑制される(実線).短日条件ではゲートが暗期に位置するために Ghd7 は誘 導されず,発現抑制を受けない Ehd1 は Hd3a を誘導し,花成が誘導される(実線). B : キクにおける CsAFT の発現の誘導機構 CsAFTに対する光誘導性のゲートは長日条件,短日条件に関わらず暗期開始から約 8 時間後に開く(点線).長日条 件ではゲートが開いている時間に明期になることで CsAFT が誘導され,花成が抑制される(実線).短日条件ではゲー トが暗期に位置するために CsAFT は誘導されず,CsFTL3 によって花成が誘導される(実線). 今後,CsFTL3 および CsAFT の発現を制御する機構を解明 していきたいと考えている.CsFTL3 および CsAFT の発現 制御の鍵的な因子は品種間差が存在するキクの日長反応性 と高温によって開花が遅延する形質を支配する遺伝的要因 となっている可能性がある.今後に得られる知見から,理 想の形質をもつたキクの品種が育種され,省エネ型で生産 者の利益につながる栽培技術の開発を目指したい. 謝辞 本稿の作成にあたり適切な助言をいただいた,独立 行政法人農業・食品産業技術総合研究機構花き研究所の久 松完博士,住友克彦博士,中野善公博士,樋口洋平博士に 感謝の意を表する. 文   献 川田穣一・船越圭市 (1988) キクの生態特性による分類.農業およ び園芸 63 : 985-990. 白山竜次・郡山啓作(2013) キクの電照栽培における暗期中断電照 時間帯が花芽分化抑制に及ぼす影響.園芸学研究 12 : 427-432.

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連絡先 : 〒 305-8519 茨城県つくば市藤本 2-1 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 花 き研究所 小田  篤 TEL : 029-838-6819 FAX : 029-838-6842 E-mail : atsushio@affrc.go.jp

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三七七明治法典論争期における延期派の軌跡(中川)    セサル所以ナリ   

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