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現代本格ミステりの研究

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Academic year: 2021

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博 士 ( 文 学 ) 諸 岡 卓 真

学 位 論 文 題 名

現代本格ミステりの研究

―「後期クイーン的問題」を軸に

学位論文内容の要旨

  本論文は、これまでアカデミズムの世界では研究対象とはならなかった1990年代以降 の現代日本のミステりを、「後期クイーン的問題」を軸として、初めて多元的・総合的に 論じたものである。この問題は、「本格ミステりにおけるゲーデル問題」とも呼ばれるよ うに、柄谷行人の理論を援用した法月綸太郎によって本格ミステりの形式化の問題として 提起され、それを笠井潔が「後期クイーン的問題」と命名し、90年代以降の本格ミステ りに多大な影響を与えた問題系である。後期のエラリイ・クイーンが、探偵の推理の誤謬 性の問題に直面したことから命名されたものである。本論文は、この問題の論理機制とそ の問題点を明らかにすると同時に、実作における応答関係の受容史を整理し、ミステリ研 究の可能性を追究したものである。

  以下、章毎に論旨を要約する。

  序章「現代の文学と本格ミステリ」では、現代の文化的状況のなかで、ミステりが質量 ともに見逃せない勢カになっていることを確認するとともに、それがアカデミズムにおい てはほとんど黙殺されている状況に疑義を呈した。次いで、法月綸太郎によって提起され た 「後 期 クイー ン的問題 」の基 本的な枠 組を提 示し、本 論の狙い を明ら かにした 。   第一章「多層化する境界線ー一氷川透『人魚とミノタウロス』論」では、表題作がどの ように後期クイーン的問題に対処しているのかを分析した。この作品は現代ミステりのな かでも特に緻密な推理を構築しているが、詳しく分析していくと、それでもやはり探偵の 推理には検討されていない可能性が存在することが指摘できる。この推理の隙間を、本作 は記述レベルの情報を消極的に提示することによって埋めていることを論じた。さらに、

手がかりの真偽をめぐる境界線の確定の問題が、作品の生者と死者や英雄と悪漠などとい っ た作 品 の テ ーマ と 連 結さ れ た 形で 作 品 が構 築 さ れて い る 様相 を明ら かにした 。   第二章「本格ミステリ殺人事件←一麻耶雄嵩『翼ある闇』論」では、多重解決の構造を 持つ麻耶雄嵩のデビュー作を取り上げる。この作品では、語り手が最終的に探偵役を務め る。本章では、作中に残された語り手の矛盾点を新たな手がかりとして捉え返し、それら を基礎として再推理を行った。その後、新たな解釈を踏まえて作品の構造を抽出し、本作 が 本 格 ミ ス テ り の 不 可 能 性 を 一 作 の う ちに 体 現 した 作 品 であ る と 位置 づ け た。

  第三章「九○年代本格ミステりの延命策」では、現代本格ミステりでは、探偵が超能力     一48―

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(者)によってもたらされた情報を元にして推理を行うものが非常に多くなっている点に 着目し、この超能カと探偵の協カの構図について分析を行った。後期クイーン的問題(偽 の手がかり問題)と名探偵システムの問題(銘探偵のアポリア)を同時に回避できる手段 とし て、 探偵 十超 能力 (者 ) シス テム が存 在し てい るこ とと その 限界を指摘した。

  第四章「置き去りの推理―ー『逆転裁判』論」では、ゲームにおける本格ミステリ作品 を取り上げた。ゲームというメディアの特徴は、プレイヤーがゲーム内に働きかけられる 点にあるが、『逆転裁判』ではプレイヤーとゲーム内に存在するキャラクターとの問で情 報をフィードバックし合うことにより、謎が解かれていくというシステムが存在している。

このような推理のあり方はゲームならではのものであり、そこからゲームにおける推理と は何かという問題について、原理的に考察した。

  第五章「並立の推理―ー『逆転裁判2』論」では続編の『逆転裁判2』の探偵パートに 導入された「サイコ.ロック」という新システム(超常的なカによって探偵に正しい情報 を提示する機能)がありながら、それでも真実が決定しなぃパターンを描いていることを 指摘した。その際、最終的な真実の決定は、論理が正しいか正しくないかというレベルで は な く 、 解 決 が 適 切 か 不 適 切 か と い う レ ベ ル で 行 わ れ て い る こ と を 論 じ た 。   第六章「操りという幻想一―西澤保彦『 神のロジック人間のマジック』論」では、現 代ミステりにおいて頻繁に見られる(操り)トリックの問題点を明らかにした。現代本格 ミステりは、このトリックによって探偵から特権性を剥奪しつっも、その裏側で犯人を特 権化することによって、「謎―論理的解明」の軸を維持してきた。それが、現代本格ミス テりの延命策となっていた。西澤の作品は、(操り)を徹底化することによって、逆説的 に(操り)の限界を描いており、現代ミステりに対する鋭い批評が込められた作品として 評価した。

  第七章「現代本格ミステりのアポリア」では、現代ミステリ評論の具体例をいくっか取 り上げ、後期クイーン的問題を操り問題と同一視する理解の偏向性を指摘しつつ、他の探 偵の推理が決定不可能状態に陥るパターンの存在を提示した。その実例としてエラリイ・

クイーン『シャム双生児の秘密』を俎上に挙げた。この作品では、予想外の出来事が発生 し、探偵も犯人も事件の全貌を見通すことができず、探偵の推理はほとんど当てずっぼう でしかなくなっている。このことから、アクシデントの発生が全面化した世界では探偵の 推理が不可能になり、事件の解決は「奇跡」によってしかもたらされないことを指摘した。

本章では1930年代の英米で発表された作品 を分析しているが、それによって現代の本格 ミステりが抱えた問題を照射することを目論んでいる。

  第ハ章「本格のなかの本格について」で は、2000年から2002年頃の本格ミステりのジ ヤンル論を取り上げ、その言説分析を試みた。この時期の「本格」を巡るジャンル論は、

基本的に定義の個人主義あるいは相対主義を前提にしているため、「本格とは○○といっ た性質を持っものである」といったポジティブな形での定義による共同性の確立ができな くなっていた。そのため、「本格とは非本格ではなぃものである」という二重否定を経た 形で、ジャンルの共同性が発揮されるようになり、それが暴力的な排除の構造を成立させ ていた。このような構造を把握した上で、「本格」のジャンル論は展開されるべきである

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とい うのが結論である。

終章 「論理を巡って」において、本論文の成果と課題を確認し、総括した。

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学 位 論 文 審 査 の 要 旨 主査    准 教授    押 野武 志 副 査    教 授    佐 藤 淳 二 副査   准教授   水溜真由美

学 位 論 文 題 名

現 代 本 格 ミ ス テ り の 研 究

― 「 後 期 ク イ ー ン 的 問 題 」 を 軸 に

  平 成191214日 開 催 の 文 学 研 究科 諺 授 会 に お いて 、 審 査 委 員会 の 発 足 が 認め ら れ た 。 平成19 1218日 に 第1回 審 査 委 員 会 を 開 き 、 申 請 論 文 の 配 布 と 審 査 日 程 の 調 整 を 行 っ た。 平 成20年1 17日 に 第2回 審 査 委 員 会 を 開 き 、 申 請 論 文 の 内 容 の 検 討 と 質 問 事 頃 の 整 理 を 行 っ た平 成201 22日 に 第3回 審 査 委 員会 を 開 き 、 口述 試 験 を 実 施 した 。 口述 試験終 了後、 ただち に学位 授与 可否の 判 定 を 行 っ た 以 下 の よ う な 理 由 に より 本 審 査 委 員会 は 、 全 員 一 致し て 本 申 請 論文 が 博 士 ( 文鞘 の 学 位を 授与さ れるに ふさわ しい もので あると 認定しt

  本 論 文 は、 こ れ ま で アカ デ ミ ズ ムの 世界で は研究 対象と はな らなか った1990年代以 降の現 代日本 の ミ ステ りを、 「後期 クイー ン的 問題」 を軸と して、 初めて 多元 的・総 合的に 論じた もの である。この問 題 は、 「本格 ミステ りにお ける ゲーデ ンレ問 題」と も呼ばれるように、柄谷行人の理論を援用した法月綸 太 郎 に よ っ て 本格 ミ ス テ り の形 式 化の 問題 として 提起さ れ、そ れを笠 井潔 が「後 期クイ ーン的 問題 」 と 命 名 し 、90年 代 以 降 の本 洛 ミ ス テり に多大 な影響 を与え た問 題系で ある。 後期の エラリ イ・ クイー ン が 、 探 偵 の 推理 の 誤 謬 陸 の問 題 に直 面し たこと から命 名され たもの であ る。本 論文は 、この 問題 の 論 理 機 制 と その 問f9gjaを明 らかに すると 同時に 、実作 にお ける応 答関係 の受容 史を 整理し 、ミス テリ 研 究の 可能陸 を追究 したも ので ある。

  主 と し て、 現 代 日 本 の本 洛 ミ ス テり の理論 化と受 容の両 面か ら分析 を試み た本論 文の研 究成 果は、

以 下 の ニ 点 に 要約 す る こ と がで き る。 第一 に現代 日本の 本洛ミ ステり とい う未開 の領域 を対象 にし た 文 学 研 究 で あ り、 「 後 期 ク イー ン 的問 題」 という 、とも すれば ミステ りと いう狭 いジャ ンルで 議論 さ れ て き た 問 題 を、 文 学 研 究 の場 に 引き 出し 、文学 の形式 化の問 題にま で敷 衍した 点に求 められ る。 た と え ば 、 偽 の 手が か り に ま っわ る 問題 は、 語られ た内容 に起因 する決 定不 可艝陸 の問題 系に、 語り 手

= 犯 人 型 の ト リッ ク に ま っ わる 問 題は 、語 りに起 因する 決定不 可能陸 の問 題系に っなげ ること で、 解 釈 の 多 義 陸 の 問題 を 理 論 化 し、 文 学 研 究 の対 象 鋲 曦 を 広げ るこ とに成 功しt‑o第二 の成果 とし ては、

第 四 章 、 第 五 章に 顕 著 な よ うに 、 ミス テり の外部 との接 硫をメ ディア 論的 覡最か ら試み た点に 求め ら れ る 。 こ れ に より 、 ミ ス テ リノ 純 文学 とい った二 項対立 の枠細 みから 自由 になる だけで はなく 、電 子 メ デ ィ ア 社 会 にお け る 、 文 学お よ び 文 学 受容 の 問 題 に まで 踏 み 込 ん だ 議論 を 展 開する ことが できt‑

マ ル チ ス ト ー リー 、 マ ル チ エン デ ィン グ形 式を採 用して いるゲ ームや ハイ パーテ クスト 分析の 可能 性 を 開い た成果 は大き い。

  た だ し 、問 題 が な い わけ で は な い。 ジャン ル論の 土台に 関す る議論 を深め るには 、対象 とす る年代 が 狭 く 、 作 品 数も 限 定 さ れ てい る とい う問 題があ る。戦 前から 単嗷ま で、 本格ミ ステり をめぐ って 行

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われた議論を俯瞰して論じるメタ掛評的な視点が今後求められる。しかし上のニっの成果にあるよう に、文学研究の対象を広げ、かっメディア論的な分析手法を駆使した本研究には多くの新しい視点が 提示されており、高い水準に達しているものと評価することができる。よって、本審査委員会は、全 員一致 して本 申請論文 が博士(文学)の学位を授与されるにふさわしいものであると認定した。

  以上のような審査結果を踏まえ、平成20年2月5日に第4回審査委員会を開き、審査結果報告書を 検討し 作成し た。平成20年2月12日に審 査結果 報告書 を提出し 、!b 20年2月22日開催の研究糾 教授会において審査報告を行った。平成20年3月4日開催の研究科教授会において審査についての可 否投票が行われ、諸岡卓真氏に対する学位授与が承認される。

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参照

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