博 士 ( 農 学 ) 姜 太 煥
学 位 論 文 題 名
多次元空間情報を利用した草地基盤整備に関する研究 学位論文内容の要旨
本 研 究 は 牧 草 地 の 地 形 情 報 , 牧 草 収 穫 時 の 振 動 加 速 度 情 報 , 牧 草 生 育情 報 など を取 得・ 分 析 し , こ れ ら 多次 元 空間 情報 に基 づい て牧 草地 の基 盤整 備を 合理 的に 実施 で きる 新し い工 事 基 準 ・ 工 法 を 開 発 す る こ と を 目 標 と し た 。
1.牧 草 地に 対す る地 形情 報の 取得 と解 析
RTK−GPSと レ ー ザ ス キ ャ ナ を 用 い て 改 良 工 事 前 後 の 地 形 を 測 量 し , 地 理 情 報 シ ス テ ム (GIS)を 利用 して 正確 な地 形マ ップ を作 成す る地 形測 量シ ステ ム の開 発を 行っ た。 レー ザス キ ヤ ナの スキ ャン幅を4,8,12mと変化させて測位精度 を評価した。平均誤差は4.3,5.6,5.Ocm, 誤 差の 標準 偏差 は5.4,5.7,6.3 cmを示 し, レー ザス キャ ナの 測定誤差(土5cm)を考慮すると 農 地の 地形 測量 に十 分な 測位 精度 と 判定 され た。 地形 測量 時の 作業 時間 はほ 場面 積1.2haで , RTK一GPSを 搭載したロボ ット卜ラクタによる測量の場合,74分を要したが,レー ザスキャナを併 用 した シス テム の場 合, スキ ャン 幅4,8,12mで 各々25,15,11分ま で測 量に 要す る時 間を 大 幅 に肖lJ減 でき た。 以上 の結 果か ら 測量 精度 を考 慮す ると スキ ャン 幅12mまで 十分 に地 形測 量 に 使用 でき ると 判定 され た。 さら に ,改 良工 事前 後の 地形 マッ プの比較から工 事に伴う地形の 変 化 を 把 握 し , 工 事 に よ る 移 動 土 量 の 計 算 も 精 度 良 く 行 う こ と が で き た 。
2.牧草収穫作業 振動と地形の傾斜が作業性に及ぼす影響
牧草 収穫 の作 業特 性と して 姿勢 角 計測 装置(IMU)を 用い て収 穫 作業 中の トラ クタ の姿勢(ロー ル角,ピッチ角,ヨー角),加速度(進行方 向加速度,横方向加速度,鉛直方向加速度)を計測し た 。 こ れ ら の 物 理量 は作 業者 が受 ける 振動 や姿 勢 変化 を意 味し ,作 業性 に影 響を 及ぼ す空 間 情報 である。ロボット卜ラクタとRTK一GPSを利用して2m幅で 自律走行を行うことで,正確な標高 と位 置情 報を 取得 し, 高精 度な 地 形図 を作 成し た。 さらに ,改良工事の施工基準を求めるため に収 穫作 業時 の加 速度 の合 成ベ ク トル とロ ボッ 卜で 取得し た地形図から算出された傾斜角度を 用 い て 判 別 分 析 を 行 な っ た 。 そ の 結 果 , 正 答率 が95.3%で 作業 性に 問題 があ る領 域を 自動 抽 出す ることに成功した。開発したシステムを利用することで 単純な地形の不陸や傾斜のみによる 整 備 の 必 要 性 の 評価 でな <, 作業 中の 振動 加速 度 をも 考慮 した 新し い整 備基 準策 定の 可能 性 が示唆された。
3. ISO振 動基 準に よる 牧草 収穫 作 業時 の振 動特 性の 解析
実 際 に 農 家 で 使 用 し て い る 卜 ラ ク タ にRTK―GPSとIMUを 搭載 して ,牧 草収 穫作 業時 の振 動加 速度 と 位置 情報 を同 時取 得で きる シス テム を試 作し ,位置情報の属性としてフーリエ 変換した
振動強度を取得・解析した。トラクタ作業時の人間に悪影響を与える1‑‑‑‑10Hzの周波数に対す るGISマップを作成した。また,各周波数の振動強度がISO基準を超えて作業性に影響を与え るかを検討し,牧草地の機械作業性に対する評価を行った。
進行方向,横方向,鉛直方向の振動加速度をフーリエ変換し,位置情報と組み合わせること で,ほ場全面の振動強度を示すGISマップを作成した。また,1/3オクターブバンド中心周波数 毎の3軸の振動加速度とIS0 2631に規定している疲労・作業能率低下の振動強度レベルを比 較することで,ほ場全体の作業時間限界に関するGISマップも作成した。その結果,供試牧草 地に お いて 振 動 加速 度 によ る 機 械作 業 性は , 進 行方 向,横方 向の振動 加速度の場 合,
2.OHz以下で作業時間6分を超えると疲労や作業能率が低下することが判明した。一方,鉛直 方向の振動 加速度の 場合は5.O〜10Hzで1時間以上の作業を行うと作業性が著しく悪化する 結果を示した。さらに,1/3オクターブバンドにっいて3軸振動加速度から計算した合成振動加 速度に基づいて作業快適性に関するGISマップを作成した。以上の結果から,本研究で実現し た振動加速 度の取得 法及ぴ空間情報としての振動加速度の周波数分析法は牧草地における 機械作業性の把握と評価に極めて有効と判断された。
4.地形情報と分光反射情報による牧草の生育診断
分光反射測定器( FieldSpec3)を使用して牧草生育のセンシングを行った。生育情報としては 牧草の収量,乾物率,イネ科牧草割合,雑草割合を採用し,生育推定のグランド卜ウルースとし た。分光反射測定器から得られた反射率を用いてノゆ聡GND啗ノゆレVJ1640,…、を算出し,重回 帰分析による牧草生育推定の説明変数とした。その結果,推定モデルの決定係数は牧草収量 が0.701,牧草乾物率が0.882,イネ科牧草割合が0.853,雑草割合が0.870で,それぞれの状 態量を高い精度で推定できた。また,地形の傾斜変化率である曲率と牧草収量及び雑草生育 の相関性を調べることで地形と牧草生育の関係についても検討した。曲率計算を2 X2mグリッ ドで行った場合,雑草割合との相関はr=―0.902を示し,雑草割合が地形曲率と高い相関が あった。そこで,2 X2mグリッド曲率を説明変数として決定係数0.814の雑草割合推定モデルを 作成し,雑草割合に関するGISマップを作成した。以上の結果から,機械振動に加え雑草割合 の 観 点 か ら も 草 地 を 評 価 し ,基 盤 整 備の 必 要 性の 有 無を 判 定 でき る と考 え ら れた 。
5.牧草地の地形情報を利用した基盤整備法の提案
改 良工事前 後の数値 標高モデ ル(DEM)をフーリ エ変換することによって,地形の空間周波 数特性を調べ,改良工事基準の策定を試みた。DEMを2次元離散フーリエ変換(DFT)すること により,地形をしゆう曲成分と大地形成分に分離できる。ただし,2次元DFTを行う際には圃場 面積による制約があり,抽出したぃ波長の2倍の区画を用意する必要がある。さらにその形は 正方形や長方形でなければならない。また,区画の端にはしゅう曲の抽出が不安定な領域が 発生し,波長に比例してその領域は広がるので,解析したい地表面より充分に広い標高データ を用意する必要がある。北海道の耕地はー区画が広く,矩形であることが多いので,DFTによ る解析は適していると考えられるが,作業性の悪い領域が区画の端にある場合や圃場が不定 形の場合は対策を施す必要がある。本研究では改良工事前の地形から0.02〜0.05[1/m]の卒 間波長成分を除去することによって,慣行の改良工事後の地形と高い相関(決定係数0.7)が 得られたことから,0.02〜0.05[1/m]のしゅう曲を除去できるディジタルフイルターを設計ツール に採用した。開発した周波数解析を行うことで,改良工事前の地形を測定することだけで改良 工 事を行う べき領域 の抽出や 工事後の地 形予測す なわち基 盤整備設 計が可能 となった。
学 位論文審査の要旨 主査
副査 副査 副査
教授 教授 准教授 准教授
野口 長谷川 近江谷 海津
学 位 論 文 題 名
伸 周一 和彦 裕
多 次元 空間 情報を利用した草地基盤整備に関する研究
本論文は, 全7章からなる総頁数130ぺージの和文論文である。論文 には図74,表21, 引用文献39が含まれ,別に参考論文3編が添えられている。
牧草地の地形情報,牧草収穫時の振動加速度情報,牧草生育情報などを取得・解析し,こ の多次元空間 情報に基づいて牧草地の基盤整備を合理的に実施できる新しい工事基準・工 法 を 確 立 す る こ と を 目 標 と し た 。 以 下 に , 論 文 内 容 と 審 査 結 果 に つ い て 述べ る。
1.牧草地に対する地形情報の取得と解析
RTK―GPSとレーザスキャナを用いて改良工事前後の 地形を測量し,GISを利用して正確 な地形マッブを作成する地形測量システムの開発を行った。レーザスキャナのスキャン幅 を4,8,12mと変えて測位精度を評価した。平均誤差は4.3,5.6,5.Ocm,誤差の標準偏差 は5,4,5.7,6.3 cmを示し,草地の地形測量としては十分な測位精度と判定された。地形 測量時の作業時間は圃場面積1. 2haで,ロボットトラクタによる測量の場合,74分を要し たが,レーザスキャナを併用したシステムの場合,ス キャン幅4,8,12mでそれぞれ25, 15,11分まで測量時間を短縮できた。したがって,測量時間と測量精度を考慮するとスキ ヤン幅12mまでは地形測量に使用できると判断した。
2.牧草収穫作業振動と地形の傾斜が作業性に及ばす影響
牧草収穫の作業特性として姿勢角計測装置(IMU)を用いて,収穫作業中のトラクタの姿勢
(ロール角,ピッチ角,ヨー角)と加速度(進行方向,横方向,鉛直方向)を計測した。これ らの物理量は作業者が受 ける振動や姿勢変化を意味し,作業性に影響を及ぼす空間情報で ある。ロボットトラクタ とRTK−GPSを利用して,2m幅で自律走行を行うことで高精度な地 形図を作成した。さらに ,改良工事の施工基準を求めるために,収穫作業時の振動加速度 の合成ベクトルとロボッ トで取得した地形図から算出された傾斜角度を用いて判別分析を 行なった。その結果,作業者が作業性に問題があると指摘した領域を正答率95.3%で自動抽 出することに成功した。
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3. ISO振動基準に よる牧草収穫作業時の振動特性の解析
実際に農家が使用しているトラクタにRTK―GPSとIMUを搭載して,牧草収穫作業時の振 動加速度が取得できるシステムを試作した。フーリエ変換によって振動加速度を周波数毎 の振動強度に変換し,トラクタ作業時の人体に 悪影響を与える1〜10Hzの周波数に対して GISマップを作成し た。また,各周波数の振動強度がISO基準を超えて作業性に影響を与え るかどうかを評価・検討した。車両の振動加速度をフーリエ変換することで圃場全面の振 動強度,作業時間限界,作業快適性の分布をGISマップで表現し,人体への影響面から圃 場空間を評価できる方法論を確立した。すなわち,本研究で実現した振動加速度の取得法 及 び 周 波 数 分 析 法 は 牧 草 地 に お け る 作 業 性 の 把 握 と 評 価 に 有 効 と 判 断 し た 。
4.地形情報と分光反射情報による牧草の生育診断
分光反射測定器を使用して牧草生育のセンシングを行った。生育情報としては牧草の収 量 ,乾物率,雑草割合などを採用し,生育推定のグランドトゥルースとした。分光反射測 定 器から得られた反射率を用いてNDVI, GNDVIなどを算出し,重回帰分析により牧草生育 推定を行った。その結果,推定モデルの決定係数は牧草収量がo. 701,牧草乾物率が0.882, 雑 草割合がO. 87であった。また,地形の曲率計算を2X2mグリッドで行った場合,曲率と 雑草割合間で高い相関を示したニとから,地形曲率を説明変数とした決定係数が0. 82の雑 草 割合推定モデルを作成した。以上の結果から,雑草割合といった牧草の質の観点からも 牧草地を評価し,整備の必要性の有無を評価できると判断した。
5.牧草地の地形情報を利用した基盤整備法の提案
改良工事前後のDEMをフーリエ変換することで,地形の空間周波数特性を調ぺることで 改良工事法の開発を試みた。改良工事前の地形から0. 02〜0.05[l/m]の空間波長成分を除去 することによって,慣行の改良工事後地形と高い相関(決定係数0.7)が得られたことから、
0. 02〜0.05[l/m]のしゅう曲を除去できるディジタルフィルターを設計した。開発した設計 法を用いた場合,改良工事前の地形を測定するだけで改良工事を行うべき領域の抽出や工 事後の地形予測すなわち基盤整備設計が可能となる。
以上のように本論文は牧草地の空間情報を取得・解析して,これら多次元空間情報に基 づぃて牧草地の基盤整備を合理的に実施できる新しい工事基準・エ法を開発したものであ り,高い学術的価値とオリジナリティがある。今後,行政機関は本手法に基づぃた新しい 基盤整備基ヰ1を策定する 予定である。よって審査員一同は,姜太煥が博士(農学)の学 位を受けるに十分な資格を有するものと認めた。
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