• 検索結果がありません。

福島県相馬郡飯舘村の環境における福島第一原子力発電所事故由来放射性セシウムの土壌粒子への吸着の評価

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "福島県相馬郡飯舘村の環境における福島第一原子力発電所事故由来放射性セシウムの土壌粒子への吸着の評価"

Copied!
185
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

福島県相馬郡飯舘村の環境における福島第一原子力

発電所事故由来放射性セシウムの土壌粒子への吸着

の評価

著者

大沼 透

学位授与機関

Tohoku University

URL

http://hdl.handle.net/10097/00131202

(2)

東北大学 博士学位論文

福島県相馬郡飯舘村の環境における

福島第一原子力発電所事故由来

放射性セシウムの土壌粒子への吸着の評価

2020 年 7 月

大沼 透

(3)

目次

第 1 章 緒論 1-1 福島第一原子力発電所事故による汚染 1 1-2 Cs の土壌への吸着 2 1-2-1 Cs+選択性の低い負電荷による一時的な吸着 2 1-2-2 Cs+選択性の高い可逆的な吸着 3 1-2-3 Cs+を固定する吸着 3 1-3 FES に固定される前に脱着する Cs について 4 1-4 粗粒の土壌粒子における Cs 吸着 5 1-5 コロイド担体輸送による 137Cs 輸送 8 1-6 長期環境動態について 10 1-6-1 大気圏内核実験あるいはチェルノブイリ事故由来の放射性 Cs の動態 10 1-6-2 降雨による森林から河川、ため池への移動 10

1-6-3 放射性 Cs 含有微粒子(radio cesium-bearing micro particles : CsMP) 11

1-7 本研究の目的および論文の構成 11 1-7-1 目的 11 1-7-2 本論文の構成 14 第 2 章 土壌粒子内部の放射性 Cs 分布 2-1 緒言 15 2-2 サンプリング 16 2-3 実験方法 18 2-3-1 汚染された土壌粒子の分級 18 2-3-2 ARG 法を用いた汚染土壌粒子断面放射能分布の測定 18 2-3-3 放射能の測定 21 2-3-4 汚染土壌粒子断面の元素分布の測定 22 2-3-5 PIXE による汚染土壌粒子断面の元素分布の測定 22

(4)

2-4 結果および考察 23 2-4-1 汚染土壌の粒径分布および放射能 23 2-4-2 放射能分布と EDS による元素分布の関係 24 2-4-3 放射能分布と PIXE による元素分布の関係 33 2-5 結言 38 第 3 章 降雨により運搬された土壌堆積物における放射性 Cs の鉛直分布 3-1 緒言 39 3-2 実験 40 3-2-1 サンプリング 40 3-2-2 放射能測定 45 3-2-3 分級による分析 45 3-3 結果と考察 46 3-3-1 堆積層における高さ別の比放射能 46 3-3-2 堆積土と流出した土砂の比放射能の関係 51 3-3-3 分級による分析結果に対する考察 51 3-4 結言 59 第 4 章 震災後約 6 年経過した陸地土壌における放射性 Cs の浸透 4-1 緒言 61 4-2 実験 61 4-2-1 サンプリング 61 4-2-2 放射能測定 86 4-2-3 分級による分析 86 4-3 結果および考察 86 4-3-1 各土地の比放射能の鉛直分布について 86

(5)

第 5 章 震災後約 6 年経過した沼底堆積物における放射性 Cs の浸透 5-1 緒言 111 5-2 実験 112 5-2-1 サンプリング 112 5-2-2 放射能測定 129 5-2-3 分級による分析 130 5-3 結果 130 5-3-1 各沼の比放射能の鉛直分布について 130 5-3-2 流入口からの距離による堆積物の比放射能分布の変化について 141 5-3-3 深さによる粒度分布の違い 147 5-3-4 沼周辺の土壌について 148 5-4 考察 153 5-4-1 沼の特徴による比放射能の鉛直分布について 153 5-4-2 流入口からの距離による比放射能の鉛直分布について 155 5-4-3 沼の周囲の影響 156 5-5 結言 156 第 6 章 数理モデルを用いた放射性 Cs の移動の解析 6-1 緒言 158 6-2 モデリング 159 6-2-1 移流拡散方程式による Cs+の浸透 159 6-2-2 陸地土壌におけるモデルのパラメータ 161 6-2-3 沼底堆積物におけるモデルのパラメータ 162 6-3 結果及び考察 164 6-3-1 単純な移流拡散モデルによる検証 164 6-3-2 足し合わせモデルの提案と同モデルによる検証 164 6-3-2-1 陸地土壌の測定値に対するモデルのフィッティング 165 6-3-2-2 沼底堆積物の測定値に対するモデルのフィッティング 166

(6)

6-4 結言 167

使用記号リスト 168

第 7 章 結論 169

参考文献 172

(7)

第1章 緒論

1-1 福島第一原子力発電所事故による汚染

2011 年 3 月の大地震後の大津波により福島第一原子力発電所の原子炉のうち 1、3 およ び 4 号機が水素爆発を起こし、原子炉内の放射性同位元素が大気中に拡散した。放射性同 位元素は西風によってその約 80%が太平洋に流されたが、図 1-1 の汚染マップ(国土地理院、 放射線量等分布拡大サイト)が示すように残りの 20 %は主に発電所北西に流され(Groell et al. (2014), Kawamura et al. (2011), Kobayashi et al. (2013))、雨と共に降下して土壌を汚染 し、特に福島県の 11 市町村(田村市、南相馬市、川俣町、楢葉町、富岡町、川内村、大熊 町、双葉町、浪江町、葛尾村および飯舘村)の空間線量率が高い。 出典:国土地理院、放射線量等分布拡大サイト 図 1-1 汚染マップ 土壌を汚染した放射性同位元素は主にヨウ素 131(131I)、セシウム 134(134Cs)、セシウ ム 137(137Cs)である(Tagami et al. (2011))。このうち131I は半減期が 8 日、134Cs は 2 年 のため、2020 年現在これらの放射性同位元素による線量率は無視できるほどになっており、 137Cs は半減期が約 30 年のため線量率は減っておらず、土壌汚染の主な原因となっている (Takahashi et al. (2018))。 日本政府は除染関係ガイドラインを設け空間線量率が 0.23 μSv/h 以上の土地に対して除 染を実施した。137Cs は土壌に強力に吸着しそのほとんどは地表面に留まっていると報告

(8)

公園の土壌の場合は表土の削り取り、天地返しと地表面の被覆が採用され、田畑をはじめ とする農用地では表土の削り取り、反転耕、深耕が採用された。また校庭や園庭、公園の 土壌における土壌表面の削り取りでは、最大 5cm 程度の深度までで十分な除染効果が得ら れると考えられた(環境省 (2013))。 一方で Takahashi et al. (2018)による水田における137Cs 鉛直分布の経時変化観察では、 原発事故後数年経過した未除染地の土壌において、地表から深度方向に137Cs が浸透してい ることが確認された。したがって原発事故から時間が経過した場合には表土の剥ぎ取りだ けでは除染が完了しない可能性が生じているため、除染に対する方針を再検討する必要性 があり、放射性 Cs の土壌への吸着と固定、および土壌内での移動の機構を含めた考察が必 要であると考えられる。

1-2 Cs の土壌への吸着

一価の陽イオンである Cs+は土壌中の負電荷に吸着される。山口ら(2012)および山口 (2014)の報告によると土壌中の負電荷による Cs+の吸着形態には大別して下記の 3 種類 がある。  Cs+選択性の低い負電荷による一時的な吸着  Cs+選択性の高い可逆的な吸着  Cs+を固定する吸着

1-2-1 Cs

選択性の低い負電荷による一時的な吸着

Cs+選択性の低い負電荷は pH により電荷の発現量が異なる pH 依存性電荷もしくは変異 荷電と呼ばれ、腐植物質の解離したカルボキシ基あるいはカルボキシレート基、層状珪酸 塩鉱物の構造末端、アロフェン等に存在する表面水酸基に存在する(Cremers et al.(1988), Wauters et al. (1996), Lofts et al. (2002), Mon et al. (2005))。Cs+の水和力は弱いものの、

pH 依存性の負電荷と Cs+の間に働く相互作用は Cs+の水和水を排除するほど強くないため、

(9)

荷は変異荷電のため、アロフェンへの Cs+吸着は一時的である(Cremers et al. (1988), Lofts

et al. (2002), Wauters et al. (1996))。Cs+の吸着は上記のように弱い吸着であるため、Mon et

al.(2005)はアロフェンに吸着された Cs+は、Na+および K+によるイオン交換で 100% 回 収できることを示しており、アロフェンへの Cs+の吸着は可逆的である可能性を示している。

1-2-2 Cs

+

選択性の高い可逆的な吸着

2:1 型層状珪酸塩鉱物の層間において同形置換により負電荷が発現する(構造由来の永久 電荷)。層間に保持された陽イオンは常に土壌溶液中の陽イオンと入れ替わり、選択性の高 い陽イオンほど層間の負電荷に吸着する。また、陽イオンの濃度が高いほど層間の負電荷 を占有する。放射性 Cs+の場合、層間への負電荷への選択性は高いものの、その濃度は Ca2+ や K+などの土壌中陽イオンに比べ桁違いに低い(放射性 Cs の汚染程度が高い土壌であっ ても物質量としての Cs 存在量は微量であり、A=λN (A(Bq):放射能、λ(Bq/個):崩壊定 数、N(個):原子数)として 1×105 Bq の137Cs(λ=7.3×10-10 Bq/個)は 30 ng(原子数:1.3× 1014 個)である)。これらのことから構造由来の負電荷に保持された Cs+は他の多量陽イオン との交換が生じ易く、高濃度の塩溶液により抽出可能であり、吸脱着反応は可逆的である (山口 (2014), Anderson and Sposito (1991))。

1-2-3 Cs

+

を固定する吸着

2:1 型層状珪酸塩鉱物で層間に面した四面体シートには、四面体 6 個で構成される環状構 造の中央部に空孔(六員環)があり、四面体シート同士が密着すると上下の層の空孔が合 わさった空洞ができる。この空洞内には Cs+、K+、NH 4+、Rb+といったイオンが吸着でき る。これらのイオンは水和力(イオンと水和水の相互作用)が小さいため、イオンと吸着 媒間の相互作用によってその水和水を放出しやすいので内圏錯体として空洞内に吸着でき る。特に Cs+はイオン半径が大きく表面電荷密度が低いため水和水を放出しやすく空洞内に 侵入しやすい(山口ら (2012))。 層状珪酸塩鉱物の四面体シートで同形置換がおこり負電荷が層間に近い部位で発現して いると、空洞に吸着した Cs+や K+の正電荷が上下の層の負電荷と強く引き合い層間が収縮 する。このとき Cs+などの陽イオンは層間に閉じ込められ脱離が困難となり固定される。一

(10)

方、Na+や Ca2+のようなイオンは、イオンサイズそのものは小さくても水和力が強いため配 位した水和水が離れず全体としてのイオンサイズは大きくなり、空洞(六員環)には収ま らないので固定されない。 土壌中に存在する四面体シートで同形置換している 2:1 型層状珪酸塩鉱物(雲母、イライ ト、バーミキュライト、バイデライト、ノントロナイト等)において、空洞(六員環)が すでに K+などの陽イオンで占有されていると、後から添加された Cs+といった陽イオンは 空洞に収まることができない。しかし、風化が進むと端面付近の層間が膨潤し K+が除去さ れ、層間への吸着選択性の高い Cs+が入り込む余地ができる(イオンの交換力:Cs+>Rb+ >NH4+>K+、(白水晴雄著, 『粘土鉱物学』, (1988))。さらに、層の膨潤した領域と膨潤し ていない領域の境界にあたる部分に Cs+が到達すると Cs+がバインダーとなって軽く膨潤し た層間が再び閉じ、Cs+は強固に固定され容易に脱離できなくなる。このような層の膨潤し た領域と膨潤していない領域の境界にあたるくさび形に開いた部分は、フレイド・エッジ・ サイト(Frayed edge site:FES)と呼ばれる(Sawhney (1972))。

FES は Cs+、K+、NH4+、Rb+の選択性がきわめて高く、これらの水和力の弱いイオンの

中でも Cs+の選択性が最も高い。Brouwer et al. (1983)によるとその選択性は K+の 1000

倍、NH4+の 200 倍である。雲母の風化が進行するにつれ土壌の Cs/K 比が増大することが

報告されており、これは雲母の風化により増加した FES に K よりも Cs が蓄積するためで あり、FES への Cs+の選択性が K+よりも高いことの証明である(McKinley et al. (2004),

Nakao et al. (2008), Wampler et al. (2012))。

1-3 FES に固定される前に脱着する Cs について

Cs を固定する FES の容量は 0.013-4.9 mmol/kg(Delvaux et al.(2000))という試算や モンモリナイトの陽イオン交換容量(CEC)の 0.0002%程度といった報告(Maes et al., 1985) がある(土壌懸濁液中のイオン交換を想定し、懸濁液中の陽イオンのイオン交換は液相と 固相(土壌粒子表面)へ分配する反応とし、このイオン交換によって液相中の Cs イオンが

(11)

1 kg あたり 1×105 Bq とすると137Cs のモル濃度は 2.3×10-7 mmol/kg となり、FES の容量 を 0.013 mmol/kg としても十分に137Cs を吸着する容量がある。したがって、原発事故に伴 い降下し土壌内に侵入したほとんどの137Cs は FES に吸着されうると考えられる。 吸着媒が飽和に近づいた場合イオン濃度の増加にともない分配係数が減少、すなわち吸 着されずに液相に取り残されるイオンの割合が増加する。Cs+の吸着の場合土壌中に Cs+ 和性のきわめて高い吸着サイトが存在し、親和性の高いサイトが先に飽和に近づくと放射 性 Cs の固液分配の傾向が変化するため、土壌全体の吸着容量が飽和に近づくよりもさらに 低濃度で分配係数が減少する(Staunton and Roubaud (1997))。Comans et al. (1991)は、 Cs がアクセスしやすい粘土鉱物粒子平面部は比較的速いイオン交換に、FES サイトは遅い イオン交換に寄与していると報告している。また、Comans and Hockley (1992)は瞬時平衡、 速い反応、遅い反応と速さの異なる 3 つのイオン交換モデルを仮定し、粘土鉱物(イライ ト)を用いた水中での実験における Cs 吸着量に適用し、速い反応が時間単位、遅い反応が 100 日単位で進行することを報告している。このようなことから、西村(2014 および 2017) は土壌において FES の容量は小さく粘土粒子の端部近傍に偏在しているため、水の移動に ともなって粘土周辺に到達した Cs イオンの全てが瞬時に FES に保持されるとは考えにくい とし、FES による捕捉とは異なるイオン交換の寄与が大きい可能性を示唆し、その場合 Cs がアクセスしやすい粘土粒子平面部に生じるいわゆる通常のイオン交換のような速い交換 が Cs の移動の遅延を決めると考察している。西村の考察は Cs が粘土粒子平面部で一時的 に吸着しその後 FES にて 100 日単位で固定される可能性を示唆するが、同時に降雨等の影 響で粘土粒子平面部に吸着した Cs が脱着すると、Cs が FES に固定されるにはさらに時間 がかかると考えられる。また Cs の FES への固定反応が進むためには乾燥と湿潤のサイクル が必要であるとの報告もある(Vandenhove et al (2005), Wang and Staunton (2010))。この ようなことから汚染サイトでの土壌内の Cs の挙動を検討する際は FES に固定される前に粘 土鉱物表面から脱着し鉛直方向に移動してしまう Cs を考慮する必要があると考えられる。

1-4 粗粒の土壌粒子における Cs 吸着

土壌の構成鉱物は一次鉱物と二次鉱物(粘土鉱物)に分類される。一次鉱物は母岩の化 学組成や形態を保っている鉱物であり、主として風や雨による浸食、温度の変化による膨

(12)

張収縮の繰り返し、割れ目にしみ込んだ水の凍結などの物理的作用により細分化されたも のである。粘土鉱物は一次鉱物が化学的作用あるいは変成作用を受けて新たに生成、変質 した鉱物である(白水晴雄著,『粘土鉱物学』, (1988), 犬伏和之, 安西徹郎編, 『土壌学概 論』. (2001))。通常一次鉱物は無水物で形が大きく、砂~シルト画分(粒径 0.002~2 mm) に多くみられ、粘土鉱物は含水物で形が小さく、粘土画分(粒径 0.002 mm 以下)に多くみ られるが、Mukai et al. (2016)の報告にあるように 20-50 µm の土壌粒子内において風化黒 雲母、スメクタイトといった粘土鉱物が含まれており、さらに団粒を含め粒径の大きい土 壌の粒子においても、一次鉱物とともに多くの粘土鉱物が含まれている。 粗粒の土壌粒子における一次鉱物と粘土鉱物の存在形態に関しては以下に示すような状 態が考えられる(図 1-2) 。 (a) 岩石の物理的粉砕でできた粒子(一次鉱物の集合体) (b)(a)の一部が化学的に風化されたもの (風化されにくい石英や長石が残り、風化された鉱物は粘土鉱物に変化) (c) (a)や(b)の表面に粘土鉱物が付着(凝集)したもの (d) より細かい粒径の一次鉱物や粘土鉱物の凝集体(団粒) 図 1-2 粗粒土壌粒子の内部構造 日本は年間を通じて多雨・高湿のモンスーン型の気候で、地質的にも多様であり、多く の火山があり、特に狭い国土に急峻な地形のため、高山から海岸までの距離が短く、急峻

(a)

(a)の一部が風化し 粘土鉱物に変化

(b)

(c)

(a)や(b)の表面に 粘土鉱物が付着

(d)

凝集体(団粒) 一次鉱物の集合体 石英、長石

(13)

のある粘土鉱物に富む多様な土壌が分布している。例えば図 1-3 に示す農研機構による日本 土壌インベントリー土壌図(農研機構,日本土壌インベントリー土壌図: https://soil-inventory.dc.affrc.go.jp/figure.html)によると、本研究の対象地である飯館村の 土壌は褐色森林土、赤黄色土、黒ボク土、低地土に分類される土壌が分布しており、いず れも粘土鉱物が多く含まれている。 上述したように粗粒の土壌粒子にはさまざまな存在形態(図 1-2)が考えられるが、この ような土壌粒子における放射性 Cs の分布状態についてはこれまでほとんど検討がなされて いない。Mukai et al. (2016)は放射能分布を測定するのに一般的である Autoradiograph(ARG)法によって粒径 20-50 µm の粒子内部の放射性 Cs 分布を調べており、 概して放射性 Cs は粒子内部に均一に分布していると報告している。彼らが解析した土壌粒 子は団粒構造を持つものであり、粒子内部に風化黒雲母、スメクタイトといった粘土鉱物 が存在することを元素組成のデータから示している。しかしながら ARG 法の最大分解能が 出典:農研機構 日本土壌インベントリー 図 1-3 福島県の土壌分類 25 µm 程度であり、粒子径の小さい粘土鉱物粒子は識別することが困難であるため、より 分解能の高い測定による解析が必要と考えられる。また、粘土鉱物をその内部に含むよう 福島第一原子力発電所 飯舘村 土壌分類名 普通褐色森林土 普通風化変質赤黄色土 普通アロフェン質黒ボク土 腐植質グライ低地土 多湿黒ボク土 普通陸成未熟土 普通酸性暗赤色土

(14)

な粗粒の土壌粒子における放射性 Cs の粒子内部での局所的な分布や、あるいは粒子内部の 粘土鉱物が保有する FES への放射性 Cs の吸着に関しては、調べた限りにおいてこれまで検 討されていない。

1-5 コロイド担体輸送による

137

Cs 輸送

粘土鉱物はコロイド的な性質を持ち、土壌コロイド(粘土鉱物微粒子)に強く吸着する 物質が、土壌コロイドと共に土壌・地下水中を輸送されるコロイド担体輸送と呼ばれる現 象がある(Kretzschmar et al.(1999)、末継ら(2003)、山口ら(2012))(図 1-4)。 図 1-4 コロイド担体輸送 概略図 室内カラム実験やライシメータ実験による研究にて土壌コロイドに吸着した137Cs がコロ イド担体輸送されることが示されている。Torok et al.(1990)はライシメータ実験により 土壌コロイドに吸着した 137Cs が土壌コロイドを担体として輸送されることを示した。

Saiers and Hornberger(1996)は石英砂カラムにカオリナイト溶液を侵入させる実験を行

い、カオリナイト溶液の濃度が高くなると137Cs 輸送速度が増大し最大で 2 倍になり、カオ

リナイトがあることによって137Cs は低濃度ながらも流出(コロイド担体輸送)することを

示した。Faure et al.(1996)は充填砂+5%粘土(ベントナイト)と NaCl によるカラム実

(15)

るガラスビーズを充填したカラム中の137Cs 輸送では、コロイドが無いときは小粒径ビーズ

カラムほど遅延が大きく、コロイド存在下では遅延が最大約半分に減少することを示した。 また同じビーズ径のカラムで比較した場合、ビーズ径が小さくなるほどコロイドの存在に よって137Cs 輸送の遅延がおこりにくくなっていることを示した。Tang and Weisbrod et al.

(2010)は、亀裂を有する石灰岩のカラム実験により、モンモリロナイト共存下での Cs 輸 送が溶存態 Cs 主体であること、腐植酸とモンモリロナイトの共存により Cs のコロイド担 体輸送がやや促進されることを示した。 自然条件下の土壌・地下水における137Cs のコロイド担体輸送については、Eguchi et al. (2010)、山口ら(2012)による水田転換畑からの表面排水・暗渠排水を通じた137Cs 流出を 直接モニタリングした事例を参考にする。水田転換畑は、土性は重埴土(粘土鉱物はスメ クタイト主体、イライトおよびカオリナイトを含む)であり、深さ 18-30 cm 地点に耕盤層 (耕起や機械踏圧によりできる堅密な層)があり、暗渠排水溝は深さ 65 cm 付近に施工さ れている。土壌中の放射性 Cs はグローバルフォールアウト由来の137Cs であり、深さ 40 cm までにそのほとんどが分布し(137Cs 濃度はほぼ一定の範囲内)、深さ 50 cm 以下の137Cs 濃 度は検出限界以下である。モニタリングの結果、表面排水および暗渠排水中の懸濁液(> 0.025 µm)から、バルク土壌の137Cs 濃度よりも高い濃度の137Cs が検出され、排水試料の 濾液を 20 L 以上濃縮乾固した試料からは 137Cs を検出することができなかったことから 137Cs は溶存態ではなく懸濁粒子に吸着した形態で表面排水および暗渠排水を通じて外に流 出していたことを示す。この土壌は亀裂、割れ目状孔隙などの粗孔隙が発達しており、こ れらの粗孔隙が懸濁粒子の輸送経路として機能したと考えられる。また、深さ 50 cm 以下 の水試料の上澄水中では137Cs 濃度が検出限界以下であったのにも関わらず深さ 65 cm 地点 に施工された暗渠排水の水試料の懸濁物質中に 137Cs が検出されたことから、137Cs が土壌 粒子に吸着した形で土壌中を鉛直下方へ移動し暗渠排水から流れていること、バルク土壌 よりも137Cs 濃度の高い画分の土壌粒子(粘土微粒子)が選択的に土壌中を輸送されやすい ことがわかる。さらにこれらの結果は、バルク土壌の137Cs 濃度鉛直分布だけを見ていても 137Cs が鉛直下方へ移動しているかどうかを必ずしも判断することはできないことを示して いる。

(16)

1-6 長期環境動態について

1-6-1 大気圏内核実験あるいはチェルノブイリ事故由来の放射性 Cs の動態

これまでの大気圏内核実験あるいはチェルノブイリ事故由来の放射性 Cs に関する報告に おいて、土壌に吸着した放射性 Cs の大部分は水食もしくは風食によって溶脱せず土壌粒子 とともに輸送され、土壌との接触時間が短い場合や土壌の吸着能力が低い場合は溶存態と して輸送されると述べられている(山口ら、(2012))。Almgren and Isaksson (2006)は137Cs

の土壌鉛直方向への浸透速度は極めて遅いことから表層付近にとどまっていると報告して いる。Kirchner et al.(2009)は土壌に降下した137Cs が月~年単位の時間をかけて徐々に土

壌に固定化されることを示唆し、137Cs が時間と共に輸送されにくくなることから原発事故

などに由来する137Cs は相対的に古い大気圏内核実験起源の137Cs よりも輸送されやすいと

しており、Bossew and Kirchner (2004)によるオーストリアにおける 28 土壌断面の移流拡

散方程式を用いた解析ではチェルノブイリ原発事故由来の134Cs の見かけの移流速度は 0.3

cm/y、大気圏内核実験由来の137Cs は 0.1 cm/y と報告している。また Bossew et al. (2004)

がチェルノブイリ原発事故の 14.4 年後に発電所から約 8 km 離れた草地の 3 地点での放射 性 Cs 濃度の鉛直分布を調べたところ放射性 Cs の見かけの移流速度は 0.14~0.23 cm/y お よび見かけの分散係数は 0.035~0.074 cm2/y(134Cs と137Cs についてほぼ同じ値)であっ たのに対し、Ivanov et al. (1997)によるチェルノブイリ原発事故翌年の137Cs 濃度の鉛直分 布を調べた報告において見かけの移流速度は 0.155 cm/y および見かけの分散係数は 0.202 cm2/y を示し、見かけの分散係数がずっと大きな値を示すことから山口ら(2012)は放射性 Cs の輸送速度は一定ではなく時間依存性があるとしている。

1-6-2 降雨による森林から河川、ため池への移動

日本原子力研究開発機構(JAEA)は森林から河川への移動については土砂の組成により 移動挙動・Cs 濃度に違いがあるとし、増水時に土砂が堆積、Cs を含む土砂粒子の流入・沈 着があると報告している。ため池に関しては、大熊町・双葉町の福島第一原子力発電所近 傍のため池では底質中の Cs 濃度は数万~数十万 Bq/kg と非常に高く、池水は 0.45μm フ

(17)

(JAEA、(2014))。この報告以外に沼に関する調査報告、特に沼底堆積物の比放射能の深さ 依存性といった詳細なデータはほとんどない。Cs が吸着した土壌粒子が流れ込む沼におい ては、Cs が土壌に速やかに固定されるならば沼底堆積物表面だけが比放射能が高くなり、 固定に時間がかかるならば沼底堆積物深部に浸透していると考えられ、また沼には周囲環 境からの土壌粒子が流れ込むことから周囲環境の違いによって流入する土壌粒子の質が異 なり浸透具合も異なると予想でき、Cs が FES に固定される前に粘土鉱物表面から脱着し鉛 直方向に移動する Cs について検討できると考える。

1-6-3 放射性 Cs 含有微粒子(radio cesium-bearing micro particles : CsMP)

福島第一原子力発電所事故後、エアロゾルフィルタより放射性 Cs 含有微粒子(radio cesium-bearing micro particles : CsMP、水不溶性の直径数 µm~数百 µm の高い比放射能を 持つ球状粒子。当初 Cs-ball と呼ばれていた。)が発見された(Adachi et al.(2013)。

CsMP はチェルノブイリ原子力発電所事故で放出された二酸化ウラン粒子(Smith and Beresford, (2005))とは明らかに異なり、基本的に一度溶けたガラス状の粒子で、高濃度の 放射性 Cs(数 Bq /粒子、または最大 1011 Bq / g)を含み、Si、O、Fe、Zn などで構成され

る(Adachi et al.(2013), Satou et al.,(2018))。CsMP を調べることで原子炉事故詳細の解明 や溶融燃料の回収、原子炉内除染のための残留燃料デブリのマイクロスケールサンプルと して役立つことが期待されている(Takahashi et al. (2019))。 CsMP は単体高濃度で存在するが、CsMP 自体の土壌中の存在量は少なく、土壌汚染の 観点では圧倒的に従来の放射性 Cs が問題となる。また長期的な環境プロセスでの風化によ り消失する(半径 1 µm の場合、純水では 70 年、海水では 10 年程度で微粒子が完全に溶解、 Okumura et al.,(2019))ことがわかったため本論文では取り扱わない。

1-7 本研究の目的および論文の構成

1-7-1 目的

これまで述べてきたように、従来放射性 Cs は土壌中の粘土鉱物粒子に強力に吸着すると されてきたものの、最近になって福島第一原発事故後の土壌において放射性 Cs の深度方向 への移動が報告されており、放射性 Cs の土壌への吸着と固定、および土壌内での移動の機

(18)

構を含めた考察が必要となっている。。 土壌に侵入した放射性 Cs は、土壌間隙水中を Cs+が水とともに移動する過程で、粘土鉱 物への吸脱着、粘土鉱物の FES による固定が生じるとともに、放射性 Cs が吸着ないし固定 された微細粘土鉱物粒子の移動によるコロイド担体輸送も考慮する必要がある。本論文で はそれらの現象を盛り込んだ土壌粒子層中の放射性 Cs の移動と吸着、固定化に関して、以 下に示す仮説を立てた(図 1-5)。 ① 地表に降下した放射性 Cs は雨水に溶けて Cs+として土壌粒子層内に移動 ② Cs+は土壌粒子中の粘土鉱物粒子表面に吸着(速い過程)(1-2-1、1-2-2 項に記述) ③ ②の一部は FES に固定(遅い過程)(1-2-3 項に記述) ④ ②の一部は脱着され Cs+として雨水とともに土壌下部に向かって移動(1-3 節に記述) ⑤ ③のうち Cs が固定された細粒の粘土鉱物粒子はコロイドとして土壌下部に向かって 移動(1-5 節に記述) ⑥ 粗粒の土壌粒子中の粘土鉱物に Cs は固定されその場所に留まる (1-4 節に記述) この仮説を検証するために、 原発事故後に福島県飯館村で採取した土壌試料中の放射性 Cs の存在形態や状態を評価分析するとともに、 放射性 Cs の深部への浸透が生じている耕 作地土壌や沼地堆積物中の放射性 Cs の鉛直分布を調査・解析し、 放射性 Cs の鉛直方向へ の移動が Cs+と Cs が固定された微細コロイド粒子の種類の状態で生じるという仮定のもと で構築した数理モデルの妥当性を検証することを目的とする。

(19)

図 1-5 Cs 吸着に対する仮説図

震災当初考えられたCsの吸着

土壌粒子層

①雨水に溶けた

Csイオン

②粘土鉱物表面に吸着

③FESに固定

Cs吸着に対する本論文の仮説

土壌粒子層

①雨水に溶けた

Csイオン

表面に吸着後

FESに固定

FESに固定される

前に脱着

Cs

+

粒子に取り

込まれて固定

コロイド

担体輸送

コロイド粒子イメージ (FESを持つ粘土鉱物の微粒子) 粗粒土壌粒子イメージ (一次鉱物と粘土鉱物で構成)

(20)

1-7-2 本論文の構成

第 1 章は緒論であり、研究の背景と既往の研究を述べるとともに、本論文で検証する仮 説を提示する。 第 2 章では、土壌粗粒子内部の放射性 Cs 分布について調べる。図 1-4 に示したような土 壌粒子において Cs がどのような分布を示すか調べられておらず、線量率が高い福島県飯舘 村より土壌を採取し、粒径 2-4 mm の粒径区分を対象とし ARG や PIXE でその内部放射能 分布を調べることで、Cs が粗粒土壌内部へどのようにとりこまれるか検証する。 第 3 章では、第 2 章の結果を踏まえ、第 2 章のサンプリング地点近くを流れる川におけ る川沿いの堆積物、特に山より流れる川の支流が本流と合流する地点の堆積物を調査し、 降雨により運搬された土壌堆積物における放射性 Cs の鉛直分布より Cs の粗粒土壌粒子中 に含まれる粘土鉱物への固定を検証する。 第 4 章では第 2 章、第 3 章の結果を踏まえ、放射性 Cs の一部は土壌粒子中の FES に固 定される前に深度方向へ移動しているものがあると考え、震災後 6 年経過した飯舘村の土 壌にて放射性 Cs がどの程度深度方向に移動しているか検討する。 第 5 章では震災後約 6、7年経過した飯舘村の沼底堆積物における放射性 Cs の浸透につ いて調べる。前述したように、沼底堆積物中の放射性 Cs についての報告は少なく特に沼底 堆積物の比放射能の深さ依存性といった知見はほとんどない。 第 6 章では第 4 章および第 5 章の結果を踏まえて、得られた堆積層中の放射性 Cs の鉛直 分布について統一的に説明できるモデルを作る。第 4 章の陸地土壌および第 5 章の沼底堆 積物で得た比放射能の深さ依存性の測定値に対して、Cs の土壌中の移動を説明するのによ く用いられている移流拡散方程式によりフィッティングを行い、数理モデルより放射性 Cs の移動について検討する 第 7 章では本論文全体の結論について述べる。

(21)

第2章

土壌粒子内部の放射性 Cs 分布

2-1 緒言

土壌を構成する粒子は国際土壌学会による分類法によれば、粒子径別に 2 mm 以上の礫、 2~0.02 mm の砂(2~0.2 mm の粗砂、0.2~0.02 mm の細砂)、0.02~0.002 mm のシルト、 0.002 mm 以下の粘土に区分される。構成鉱物で見ると、石英をはじめとする一次鉱物と一 次鉱物が風化されて形成された粘土鉱物(二次鉱物)に分かれ、その他に生物由来の有機 物を含んでいる。第 1 章で述べたように、土壌の粗粒の粒子は単純な一次鉱物の塊ではな く(a) 岩石の物理的粉砕でできた一次鉱物の集合体、(b) (a)の一部が化学的に風化されたも の(風化されにくい石英や長石が残り、風化された鉱物は粘土鉱物に変化)、(c) (a)や(b) の表面に粘土鉱物が付着(凝集)したもの、(d) より細かい粒径の一次鉱物や粘土鉱物の凝 集体(団粒)のパターンが考えられる。しかしながら、土壌粒子内部において放射性 Cs が どのような分布を示すかを調べた文献はわずかしか見当たらない。

Mukai et al (2016)は粒径 20-50 µm 程度の比較的粒径の細かい土壌粒子を Focused Ion Beam (FIB)にてカットし Micro-manipulator にて Imaging plate (IP) にセットし、Auto radio graph(ARG)法により放射性 Cs の分布を調べている。彼らの報告では、土壌粒子内 の元素組成や放射能分布より、土壌粒子の構成や様々な粘土鉱物の凝集体の存在によって 放射能分布に濃淡があることが述べられている。しかしながら、ARG 法の最大分解能は 25 µm のため、土壌粒子内の放射能分布の詳細は不明である。またこれより粒子径の大きい土 壌粒子に関する検討例はこれまで報告されていない。 第 1 章で概念を示したように、著者は土壌中の粗粒の粒子中に放射性 Cs が浸透した場合、 粒子内の粘土鉱物表面に放射性 Cs が吸着し、徐々に FES 内に移動して固定されるという仮 説を立てている。その仮説に従えば、粘土鉱物表面から FES 内部への移動は遅い過程のた め、地表への降下から間もない時点では FES に固定される放射性 Cs 量は少ないが、ある程 度の時間が経過した後には、土壌中の粗粒の粒子内部においても相当量の放射性 Cs が固定 されているはずである。 そこで本章においては、原発事故から 5 年経過した時点で線量率が高い福島県飯舘村よ り土壌試料を採取し、既往の研究例のある ARG 法と高感度かつ高分解能で元素分布を調べ られる micro-PIXE(Powder Induced X-ray Emission)法を用いて粒径 2-4 mm の粒径区分

(22)

の土壌粒子を解析する。試料粒子をスライスしその内部放射能分布や元素組成を観察する ことで、土壌粒子内部への放射能 Cs の浸透状態、特に粒子内の一次鉱物が風化され粘土鉱 物に変質したと考えられる部分における放射性 Cs の分布を調べ、放射性 Cs が粗粒の土壌 粒子内部へどのようにとりこまれているか検証する。

2-2 サンプリング

第 1 章の図 1-3 の(a),(b),(c)および(d)に示した粗粒土壌粒子内部の放射性 Cs 分布を調 べるためには土壌粒子の比放射能が高い必要があるため、土壌の線量が高い福島県飯舘村 に注目し、該当する粗粒土壌粒子がある可能性が高い山間部の土地をサンプリング場所と して選定した(図 2-1)。線量が高いスポットを探し、ホットスポットを見つけ高濃度に汚 染された土壌を 2016 年 7 月に採取した(図 2-2)。このホットスポットはアスファルト道路 のくぼみに汚染土壌の粒子が集積することによって形成されたと考えられ、水田といった 粘土鉱物が豊富と考えられる特殊な場所ではなく、目的とする粗粒の土壌粒子が含まれて いると考えられる場所である。このホットスポットにおいて採取した試料から上述のよう に ARG 法や PIXE 法で評価しやすい粒径 2-4 mm の粒径区分を得た。 帰還困難区域

福島県飯舘村

サンプリング地点 (37º36‘16"N140º46'40"E) 2016年7月採取 福島第一原子力発電所 福島県

Copy right:Geospatial Information Authority of Japan

(23)

図 2-2 サンプリング地点詳細 飯舘村山間部の土壌は風化の影響を強く受けた多種多様な土壌粒子が存在していると考 えられるため、比較的均一で一次鉱物に近い土壌粒子が集まっていると考えられるグラウ ンドの土壌もサンプルとした(Ishii et al. (2012), 読売新聞, (2011))。この土壌は 2011 年 4

空間線量率

15 μSv/h

(高さ地上 1 ㎝)

高汚染度

窪地

放射性物質

放射性物質

(24)

月下旬に福島市内のグラウンドの表面より採取され保存された土壌であり比放射能が高い。

2-3 実験方法

2-3-1 汚染された土壌粒子の分級

採取した汚染土壌粒子を目開き 8 mm、4 mm、2 mm、1 mm および 0.5 mm の 5 つのス テンレスフルイ(SANPO)を用いて、土壌粒子の凝集体を崩さないように湿式分級を行い、 その後 60℃で 24 時間風乾した。

2-3-2 ARG 法を用いた汚染土壌粒子断面放射能分布の測定

2~4 mm の画分の土壌粒子をランダムに選び、図 2-3 のように樹脂(53 type, Sankei Co., Ltd.)で包埋し、土壌粒子が固定されるまで十分に固めた。研磨紙(FUJISTAR waterproof abrasive paper, Sankyo Rikagaku Co., Ltd.)を用いて土壌粒子を固定した樹脂の固化体の上 部と下部を研磨し、厚さを約 100 µm とした。

研磨した汚染土壌粒子を含む樹脂を保管箱に並べ、その上に IP(Type BAS-III, Fuji Corporation)をかぶせ、鉛箱の中で 72 時間露光した。放射能分布の全体的な傾向を調べる ために解像度 50×50 µm の BAS-1800II (Fuji Corporation、図 2-4)で測定した。

(25)

BAS-1800Ⅱ,Fuji corporation Resolving power : 50×50 µm 図 2-4 IP 読み取り装置(BAS-1800II) 土壌粒子表面の放射能分布を調べることを目的としグラウンドの土壌粒子を用いた。図 2-5 のように粒径約 2 mm の土壌粒子を樹脂で包埋し、土壌粒子が固定されるまで十分に固 めた。研磨紙を用いて土壌粒子の上部と下部を徐々に研磨し、研磨した汚染土壌粒子を保 管箱に並べ、その上に IP(BAS IP SR 2025 E, Fuji Corporation)をかぶせ、鉛箱の中で 48 時 間露光した。放射線は土壌粒子内の詳細な放射能分布獲得のため解像度 25×25 µm の BAS-5000 (Fuji Corporation、図 2-6)で測定した。土壌粒子の研磨および放射線の測定を繰 り返し、一様に分布していた放射能が中心部で確認できなくなった時点で研磨をやめ、こ のときの厚さは約 0.8 mm であった。

(26)

図 2-5 汚染土壌粒子の研磨

(27)

2-3-3 放射能の測定

U8 容器に入れた粒径別に分級した各土壌粒子および樹脂包埋し研磨した土壌粒子の放射 能をゲルマニウム半導体検出器(GX2018 型、CANBERRA、図 2-7)で 662 keV のγ線を 測定して求めた。

(28)

2-3-4 汚染土壌粒子断面の元素分布の測定

汚染土壌粒子断面の元素分布を Scanning Electron Microscopy (SEM; JSM-6510, JEOL Ltd.) と Energy-Dispersive X-ray Spectroscopy (EDS; X-Max20,Oxford Instruments, Inc.) で測定した(図 2-8)。

図 2-8 SEM/EDS 外観

2-3-5 PIXE による汚染土壌粒子断面の元素分布の測定

汚染土壌粒子断面を Scanning Electron Microscopy (SEM; JSM-6510, JEOL Ltd.)により 観察し、その元素分布を micro-PIXE(東北大学)で測定した。

micro-PIXE の技術的な詳細は、松山らによって報告されている(Matsuyama et al. (2004))。 高エネルギー分解能(Mn K X 線の場合 129 eV)および 7.5 µm の薄い Be 窓を 有する Si(Li)X 線検出器を、真空中でビーム軸に対して 115°に設定した。 樹脂に埋め 込んだ土壌サンプルを、バッキングフォイルのないサンプルホルダーに取り付けた。スポ ットサイズ、走査面積、およびビーム電流がそれぞれ 1 µm✕1 µm、1000 µm✕1000 µm、 および 40-50 pA の 3 MeV 陽子ビームを用いて、14.3155 msr の立体角において 3 時間の測

(29)

2-4 結果および考察

2-4-1 汚染土壌の粒径分布および放射能

汚染土壌約 660 g(乾燥重量)を湿式分級した。分級後の各土壌画分の写真を図 2-9 に示 す。また粒径ごとの重量分布を図 2-10 に示す。この結果と測定した放射能より土壌粒子の 比放射能を計算した(図 2-11)。測定対象とする粒径 2-4 mm の試料は礫の画分であり、図 2-10 よりこの粒径区分の質量は全体の約 16 %を占めている。この土壌試料全体では原発 事故後 5 年以上経過した 2016 年 7 月の時点において、1.3×104 Bq/kg の比放射能を示した。 また図 2-11 に示すように、粒径区分が大きくなるにつれ比放射能の値は小さくなるものの、 粒径 2-4 mm の画分で 1.2×103 Bq/kg、粒径 4-8 mm の画分で 7.6×102 Bq/kg の比放射能 を示し、粗粒の粒子においても放射性 Cs が相当量存在していた。 図 2-9 分級後の土壌サンプル 直径 0.5 ㎜以下 直径 0.5-1 ㎜ 直径 1-2 ㎜ 直径 2-4 ㎜ 直径 4-8 ㎜

(30)

図2-10 試料土壌の粒径ごとの質量

図 2-11 試料土壌の粒径ごとの比放射能

2-4-2 放射能分布と EDS による元素分布の関係

(31)

たような構造をしていても放射能分布は異なる。また、測定に用いた粒径約 0.5-2 mm の粒 子では放射能内部分布を見ると基本的に均一に分布している画像となっており、ARG の測 定では放射性 Cs の分布が周囲だけなのか内部全体に広がっているのか詳細は不明であった。 土壌粒子断面研磨後の写真 断面研磨した土壌粒子の ARG 図 2-12 土壌粒子の断面研磨後の写真とその ARG

(32)

予備実験を踏まえ飯舘村より採取した粒径約 2-4 mm の土壌粒子をランダムに選び、ARG 法で得られた放射能の分布を図 2-13 に示す。図が示すように、放射能の分布には二つのパ ターンがあり、相対的に強いシグナルが得られる粒子(試料番号 2、4、5、7、8、9、12、 14、15、16、19、および 20)と相対的に弱いシグナルの粒子(試料番号 1、3、6、11、17、 および 18)があることがわかった。試料番号 10 と 13 は放射能が認められなかった。 図 2-13 直径 2-4 mm の土壌粒子の ARG イメージ 放射性 Cs のシグナルが相対的に強い粒子の中で試料番号 8 の土壌粒子に注目し、その 137Cs の 662 keV の γ 線をゲルマニウム半導体検出器により測定し、γ線カウントから放 射能を計算した(図 2-14)。仮に試料番号 8 を直径 4 mm、密度 2.6 g/cm3の粒と考えると、 試料番号8の土壌粒子 1 粒あたりの比放射能は 5.2×102 Bq/kg となる。直径 2-4 mm の土 壌粒子が入った U8 容器内サンプルの嵩密度を 1.2 g/cm3とし、U8 容器内の粒が全て試料 番号 8 の粒だとするとその比放射能は 1.1×103 Bq/kg となる。直径 2-4 mm 画分全体の比 放射能は上述のように 1.2×103 Bq/kg なので、試料番号8の粒子はこの画分に存在する粒 子を代表するものと考えることができる。 番号11 番号12 番号13 番号14 番号15 番号16 番号17 番号1 番号2 番号3 番号4 番号5 番号6 番号7 番号8 番号9 番号10 番号18 番号19 番号20 放射能 濃度 低 高 カ ウント

(33)

図 2-15 に試料番号 8 断面の ARG と光学顕微鏡写真を示す。光学顕微鏡写真よりこの土 壌粒子は岩石の物理的粉砕でできた一次鉱物の集合体の一部が化学的に風化されたもの (風化されにくい石英や長石が残り(図中赤矢印部)、風化された鉱物は粘土鉱物に変化(図 中黒矢印部))であり、図 1-3 に示す土壌粒子の形態(a)から(d)の内(b)ないし(c)の形態の土 壌粒子であることが想定される。試料番号 8 の ARG の放射線全強度をゲルマニウム半導体 検出器で測定した放射能で規格化することによって、ARG 画像の各ピクセルの放射能を得 た(図 2-15 左側の右カラム)。この図の全ピクセルを通して、ARG 画像のピクセルにおけ る最も高い放射能は 100 µBq/(50 × 50 µm)だった。試料の厚さが 100 µm であり密度を 2.6 g/cm3(2.6×10-12 g/µm3)とすると質量は 6.5×10-7 g(6.5×10-10 kg)となりこの部分の比 放射能は 1.5×105 Bq/kg となる。一方、分級した 0.5 mm 以下の画分をさらに目開き 45 µm のステンレスフルイ(SANPO)を使い分級し、篩下産物の放射能を測定してサンプル質量 から比放射能を計算したところ 1.5×105 Bq/kg となった。この細粒画分は粘土鉱物が主成 分と考えられるが、その比放射能と試料番号 8 の粒子(50×50×100 µm)の最も比放射能 の高い部分の値がほぼ一致したことから、両者は同程度の放射性 Cs が固定された FES を有 する粘土鉱物粒子であることが推測される。したがって試料番号 8 の粒子では、原発事故 後 5 年間の間に粒子内部の粘土鉱物が存在する領域まで放射性 Cs が浸透し、その FES に粘 土鉱物の凝集体と考えられる部分に放射性 Cs が固定されたものと想定することができる。

(34)

図2-15 試料番号8の土壌粒子断面の放射能イメージ(左側)および光学顕微鏡写真(右側)

試料番号 8 の試料の SEM-EDS による元素分布と SEM 画像を ARG 画像と共に図 2-16 に示す。図 2-16 の下側には SEM 画像の A 点と B 点における X 線スペクトルを示す(点分 析:スポットサイズ直径約 120 nm)。B 点の X 線スペクトルは O と Si のみ示しており、こ の部分は図 2-15 の光学顕微鏡写真で想定したように石英であると考えられる。ARG の画像 から、B 点には放射性 Cs がほとんど認められない。一方、A 点の X 線スペクトルは Si と Al および O が主成分で K、Ca、Fe および Na が含まれている。また A 点の周辺は粒径の 小さい粒子が集合体を形成しているように見ることができる。図 2-15 の光学顕微鏡写真も 合わせて考えると、この部分は一次鉱物が風化作用を受け粘土鉱物に変化した、あるいは 粘土鉱物が凝集した部分と考えられる。ARG 画像よりこの A 点とその周辺には放射性 Cs が多く存在している。このように ARG の画像から、試料番号 8 の試料において一次鉱物の 石英の部分には放射性 Cs が存在しないこと、また粗粒粒子の内部に存在する粘土鉱物の部 分にも放射性 Cs が存在することが示された。 0e+00 2e-06 4e-06 6e-06 8e-06 1e-05 0 1 2 3 4 5 6 0 1 2 3 4 5 (×10-5Bq/ピクセル) 1ピクセル = 50 μm ✕ 50 μm 10 8 6 4 2 0 (mm) (m m ) 0 1 2 3 4 5 6 0 5 4 3 2 1 1mm

(35)

図2-16 土壌粒子No.8断面の元素分布とX線スペクトル 放射性 Cs のシグナルが相対的に弱い粒子の代表例として、試料番号 1 の試料の断面の放 射性 Cs の分布と顕微鏡写真を図 2-17 に示し、SEM-EDS による元素分布と SEM 画像を ARG 画像と共に図 2-18 に示す。図 2-17 より試料番号 8 の試料とくらべて放射能の値は全 体的に低く、また顕微鏡写真からこの粒子がいくつかの種類の鉱物で構成されているよう に見えるが、図 2-18 の SEM-EDS 分析から鉱物を同定することはできない。図 2-18 の C 点と D 点における X 線スペクトル分析では主構成元素は O と Al、Si で微量成分として Mg、 O Na Al Si K Ca Fe SEM イメージ ARG

A

B

C P S C P S

(36)

Na、Fe などが含まれることが分かる。 図2-17 土壌粒子No.1断面の放射能イメージ(左側)および光学顕微鏡写真(右側) 0e+00 2e-06 4e-06 6e-06 8e-06 1e-05 0 1 2 3 4 5 0 1 2 3 4 5 (×10-5Bq/ピクセル) 1ピクセル = 50 μm ✕ 50 μm 10 8 6 4 2 0 (m m ) 0 1 2 3 4 5 0 5 4 3 2 1 (mm)

(37)

図2-18 土壌粒子No.1断面の元素分布とX線スペクトル O Na Al Si Mg Ti Fe ARG SEM イメージ

C

D

C P S C P S

(38)

図 2-19 に試料番号 13 の試料の断面の放射性 Cs の分布と顕微鏡写真を示し、図 2-20 に SEM-EDS による元素分布と SEM 画像を ARG 画像と共に示す。図 2-19 に示すように、顕 微鏡観察では粒径の細かい粘土鉱物らしき鉱物は認められず、また放射能は非常に弱く一 様に広がっていた。図 2-20 の E 点における X 線スペクトルを見ると Si および O のみが検 出されており、また SEM-EDS 解析では、2 ヶ所ほど曹長石(NaAlSi3O8)と考えられる鉱 物が共存しているものの、大部分が石英(SiO2)で構成されていることがわかった。 図2-19 土壌粒子No.13断面の放射能イメージ(左側)および光学顕微鏡写真(右側) 0e+00 2e-06 4e-06 6e-06 8e-06 1e-05 0 1 2 3 4 5 6 7 0 1 2 3 4 5 (×10-5Bq/ピクセル) 1ピクセル= 50 μm ✕ 50 μm 10 8 6 4 2 0 (mm) (m m ) 0 1 2 3 4 5 6 0 5 4 3 2 1 7

(39)

図 2-20 土壌粒子 No.13 断面の元素分布と X 線スペクトル

2-4-3 放射能分布と micro-PIXE による元素分布の関係

一次鉱物の結晶の大きなグラウンドの土壌粒子を用い、micro-PIXE て土壌粒子表面に存 在すると考えられる粘土鉱物の解析を試みた。樹脂包埋し研磨した土壌粒子の光学顕微鏡 写真を図 2-21 左側に示し、この土壌粒子の ARG 法で得た放射能の分布を図 2-21 右側に示 す。図 2-21 左側が示すように、この土壌粒子を含む樹脂の切断面の中央部は研磨によって 土壌粒子の内部が露出しており、外周部は土壌粒子が樹脂に覆われた状態になっているこ とがわかる。この写真の土壌粒子と樹脂の境界面のところは、この土壌粒子の表面に相当 する部分となる。図 2-21 右側の放射能分布が示すように、中央部の矢印で示した研磨によ って内部が露出した部分には放射能がなく、外周部の樹脂で覆われた部分に放射性物質が 存在していることがわかる。 SEM イメージ O Na Al Si ARG C P S

E

(40)

図 2-21 土壌粒子断面の光学顕微鏡写真とその ARG イメージ

図 2-22 上部に土壌粒子断面の SEM 画像を ARG 画像と共に示し、図 2-22 下部には SEM 画像 A 点と B 点における X 線スペクトルを示す。A 点と B 点の X 線スペクトルからいずれ も Si と Al および O が主成分で K、Ca および Na を含んでおり、化学組成からは長石など の一次鉱物あるいは粘土鉱物のいずれかであると推測される。一方で、ARG 画像よりこの 土壌粒子の表面部にあたる B 点の近傍は放射性物質を含み、土壌粒子の中心部である A 点 の近傍には放射性物質が存在しないことから、この粒子の表面部に吸着した放射性 Cs は粒 子の内部まで浸透していないことが分かる。 0.5mm 低 高 0.5mm 放射能 濃度

(41)

図 2-22 土壌粒子断面の SEM 画像と X 線スペクトル

図 2-23 に micro-PIXE 法と EDS により分析した元素分布を光学顕微鏡写真および ARG 画像とともに示す。micro-PIXE 法による分析範囲は光学顕微鏡写真および ARG 画像中の 四角い赤い線で示した。micro-PIXE 分析の結果が示すように、Si、Al、および Na といっ た元素は中央部と表面部で元素分布に変わりはないが、EDS では検出できないほど微量(数 百 ppm 以下)の Ca、K、Fe、Ti、および Mg は中央部よりも表面部に局在していることが 明らかである。Ca、Mg、K、Fe といった元素は 2:1 型の層状ケイ酸塩粘土鉱物の構成成分 であり、これらの元素が粒子表面部のそれぞれ別の場所に局在していることから、これら の元素を構成成分に持つ微細な粘土鉱物が表面部に多数分布しているものと推定される。 したがって測定した土壌粒子の場合、中心部には曹長石(NaAlSi3O8)が主成分の一次鉱物 が存在し、粒子表面には一次鉱物の風化で形成される多種の粘土鉱物が存在していること

SEM 画像

(土壌粒子断面図)

0.5 mm

O

Al

Si

O

Si

Al

Na

Ca

Na

K

A

B

low high

(42)

が考えられる。粒子表面の粘土鉱物には放射性 Cs が吸着しやすく、また放射性 Cs を固定 する FES も存在するため、図 2-21 から図 2-23 に示すような研磨片を作成すると粒子の周 辺部からは放射能が検出されるが、中心部は放射性 Cs の吸着サイトを持たない一次鉱物の 大きな結晶が存在するため、放射性 Cs は粒子内部まで浸透できずに表面部にだけ存在する ものと考えられる。

(43)

図 2-23 土壌粒子とその PIXE および EDS によるによる元素分布(上段:顕微鏡写真およ び ARG、中段:PIXE 元素分布、下段:EDS 元素分布)

Si

Al

K

Fe

Ti

Mg

Ca

Na

元素

濃度

PIXE元素分布(走査面積:1000 µm✕1000 µm)

Si

Al

Na

Ca

K

Fe

Ti

EDS元素分布

Mgは

検出できず

(44)

2-5 結言

原発事故から 5 年経過後に福島県飯舘村より採取した土壌試料から 2-4 mm の粒径区分の 土壌粒子を分画し、その内部の放射能分布と元素組成を ARG、SEM-EDS および micro-PIXE によって解析した。 解析した 20 粒子のうち 18 粒子で放射性 Cs の存在が認められ、放射性 Cs が存在する粒 子の多くでは放射性 Cs が一次鉱物が占有する以外の場所においてほぼ均一に分布していた。 また放射性 Cs の存在しない粒子は一次鉱物のみで構成されていた。原発事故から 5 年程度 経過した場合、粗粒の土壌粒子においても団粒のような粘土鉱物の凝集体を含んでいるも のでは粒子表面だけでなく粒子の内部まで放射性 Cs が浸透し、吸着ないし固定されている ことが示された。 表面部と中心部ともに同じような元素組成でありながら中心部では放射能を示さない土 壌粒子があり、micro-PIXE 法による解析により表面部と中心部の鉱物組成の違いが示され、 粘土鉱物で構成されている表面部に放射性 Cs が吸着・固定されていることが明らかになっ た。

(45)

第3章

降雨により運搬された土壌堆積物における放射性 Cs の鉛直分布

3-1 緒言

降雨によって土壌が侵食されるとこの浸食プロセス中の土壌粒子の物理的流動化によっ て放射性 Cs が吸着した土壌の移動が発生し(Yoshimura et al. (2015))、侵食された土壌は 水とともに例えば山野から川へ流される。川へ流された土壌粒子の内、微粒子はそのまま 川によって下流まで流され、最終的には河口付近や海の底に堆積する。一方、第2章で検 討したような粗粒の土壌粒子はその大きさから川沿いに堆積しやすいので、粗粒の土壌粒 子の堆積物が形成される場所として川沿いの地点に着目する。降雨によって山野から川へ 流入した土砂については主に河川中の懸濁体(粘土鉱物)が注目されており( 新里ら、 (2019))、粗粒の土壌粒子は注目されておらず、川沿いに堆積した土壌粒子についてはこ れまで調べられていない。 第 2 章において放射性 Cs が土壌粒子内部に浸透し、土壌粒子中の粘土鉱物に固定される 可能性を示した。土壌粒子中に存在する放射性 Cs の状態は、第 1 章に記載した仮説に示す ように粘土鉱物粒子表面に吸着し脱着可能なものと粘土鉱物中の FES に固定されたものが あると考えられる。本章においては、このうち粘土鉱物中の FES に固定されるものについ て検証するため、第2章で用いたような粗粒の土壌粒子が堆積した土壌堆積物における放 射性 Cs の鉛直分布に着目する。このような原発事故発生以降に形成された土壌堆積物にお いて放射性 Cs がその堆積物層より下方へ浸透していなければ、堆積層の土壌粒子からの放 射性 Cs の脱着による流出が起きていないことになる。したがって、その堆積物を構成する 土壌粒子は原発事故に伴って地表に降下した放射性 Cs が土壌粒子内の粘土鉱物の FES に固 定された後に河川水によって運搬され、その過程で土壌粒子に吸着していた放射性 Cs は河 川水に流失したものと考えることができる。 第2章で土壌を採取した近くに比曽川とその支流が流れている。この比曽川の支流には 降雨によって第2章で採取した土壌と同様の土壌粒子が流入している。本章ではこの支流 が比曽川本流と合流する地点に着目し、大雨時に山野から支流に流された放射性 Cs を含む 土壌粒子が沈降して形成された堆積層の土壌を原発事故から 7 年後に採取し、その放射性 Cs の鉛直分布を調べることで放射性 Cs の土壌粒子内の固定がどのような過程を経て生じ たかについて検証する。

(46)

3-2 実験

3-2-1 サンプリング

飯舘村南部を流れる比曽川を調査地とし、第 2 章のサンプル採取場所に近い、図 3-1 に 示す福島県相馬郡飯舘村長泥地区の比曽川の 2 つの支流を選定した(第 2 章のサンプル採 取場所:図 3-1 A 点)。図 3-1 の緑の破線は、2 つの支流を囲む山の稜線であるため、降雨 によって流出した山の土砂はこの 2 本の支流に注がれる。この支流の地域は除染が全く行 われていない場所である。一方、比曽川本流の上流では試料採取の時点より前に除染が行 われている。 図 3-1 サンプリング地域

浪江町

比曽川

Sampling point

(37º36‘16"N140º46'40"E)

上流

下流

支流

Copy right:Geospatial Information Authority of Japan

飯舘村

帰還困難区域

200 m

比曽川上流:

除染された土地

(47)

2 つの支流が合流し、次に本流に合流する場所 A 点、降雨によって土砂を供給する場所 の代表点 B 点で試料採取を行った。A 点では降雨のたびに図 3-1 の破線の領域から流され てきた土砂の堆積層を見つけることができた(図 3-2)。図 3-3 は降雨量 63.5 mm/日の雨が 降った後 5 日後に撮影した支流と本流が合流する場所の様子であるが、支流と本流が合流 する地点に土砂が流れてきていることを示す。また、図 3-4 は図 3-4 左側に示すように木片 を支流の出口付近に約一年間(2018 年 7 月 26 日から 2019 年 7 月 9 日)設置し、土砂の堆 積具合を調べた様子である。図が示すように降雨(期間中 50 mm/日を超える降雨は 4 回(内、 最大 73.5 mm/日))によって土砂が支流と本流の合流する地点に堆積することがわかり、 図 3-2 の堆積土の形成を裏付ける。

図3-2 Sampling point Aの堆積層

堆積土

40cm

(48)

図 3-3 Sampling point A の支流から流出した土砂

支流

山から流出した土砂

堆積土

比曽川

本流

(49)

設置期間中 50 mm/日を超える降雨は 4 回(内、最大 73.5 mm/日) 出典:気象庁(過去の気象データ検索) 図 3-4 Sampling point A における支流から流出した土砂の堆積の様子 この堆積層において、図 3-5 に示す道具を用いて土壌を採取した。図 3-5 に示すサンプル 採取用パイプは長さ 20 cm、外径 1.9 cm、内径 1.7 cm の鉄パイプである。パイプガイドは 長さ 120 cm、幅 10 cm、奥行き 5 cm の木材に直径 20 mm の穴をピッチ 25 mm で空けた ものである。30 cm 離れた 2 箇所で土壌を採取した。図 3-6 に示すように 25 mm 間隔で約 50 cm の堆積層の試料を採取できた。 A 点から 2 m 下流で、2016 年 8 月 22 日の降雨によって図 3-1 の破線で示した山地から 運搬されてきたと考えられる土壌を採取した。また、A 点から 5 m 上流で、比曽川上流か ら流されてきたと考えられる土壌を採取した。 降雨によって運搬される土砂を調べるために、降雨 24 時間後の比曽川の濁り水を採取し た。

堆積

2018年7月26日設置 2019年7月9日撮影 設置期間中50mm/日を超える降雨は4回(内、最大73.5mm/日) 出所:気象庁

木片

(50)
(51)

3-2-2 放射能測定

土壌の137Cs の比放射能(Bq/kg)は、土壌を U8容器に納め重量を測定した後、第2章 と同様にゲルマニウム半導体検出器(GX2018 型、CANBERRA)で 662keV のγ線を測定 して求めた。

3-2-3 分級による分析

A 点の堆積層の土壌、比曽川支流上流の山野の B 点の土壌、2016 年 8 月 22 日に山野か ら流出した土砂および上流から運搬された土砂を篩目のサイズが 45 µm、210 µm および 2 mm の 3 つステンレスフルイ(SANPO)を用いて分級した。このとき、微粒子が大きな粒 子の表面に付着しているのでそれらを分離するため分級は水中で団粒を崩さないように行 った。45 µm 以下の粒子は図 3-7 に示す粒度分布計(Morphologi G3、Malvern、検出限界 0.2 µm、Morphologi G3 は光学顕微鏡画像を用いた静止画像分析技術によって粒子の大き さや形状を測定)を用いて装置の仕様である 0.2-100 µm の範囲で粒径の関数として土壌粒 子をカウントした。 図 3-7 粒度分布計

(52)

3-3 結果と考察

3-3-1 堆積層における高さ別の比放射能

Sampling position (1)および Sampling position (2)より採取した各高さの堆積土壌を図 3-8 および図 3-9 に示す。図 3-8 の Sampling position (1)では高さ 100 mm から 175 mm の 土壌が他の高さの土壌と比べ色が黒く、植物片があり、砂利が比較的少ないことが目視に より観察された。高さ 175 mm 以上の土壌は大きな砂利が多く、高さ 100 mm 以下の土壌 では比較的小さい砂利が多く見える。また図 3-9 の Sampling position (2)では、Sampling position (1)の土壌とほぼ同様に、高さ 125 mm から 200 mm の土壌が他の高さの土壌と比 べ色が黒く、植物片があり、砂利が比較的少ない。高さ 200 mm 以上の土壌は大きな砂利 が多く、高さ 125 mm 以下の土壌では比較的小さい砂利が多く見える。これらのことより、 高さ約 200 mm 以上の土壌は図 3-1 において支流沿いの土地 B 点の土壌が降雨で浸食され たとき、支流に土壌が流れ、本流の水位が高い時に、この土壌(図 3-3 に示すような土砂) は A 点上に堆積したと考えられる。また、高さ約 100-200 mm の土壌は土質が異なり、植 物片等があることから震災時の大地震によって土手に土砂崩れが起きてある程度の層がで きた可能性を示す。高さ約 100 mm 以下の土壌は降雨によって川面が上昇することで浸水 し、細かな土壌は流されたと考えられる。

(53)

図 3-8 Sampling position (1) より採取した各高さの堆積土壌 0 mm 25 mm 50 mm 75 mm 100 mm 125 mm 150 mm 175 mm 200 mm 225 mm 250 mm 275 mm 300 mm 325 mm 350 mm 375 mm 400 mm 425 mm 450 mm 475 mm 500 mm 水面下のサンプル

(54)

図 3-9 Sampling position (2) より採取した各高さの堆積土壌 75 mm 100 mm 125 mm 150 mm 175 mm 200 mm 225 mm 250 mm 275 mm 300 mm 325 mm 350 mm 375 mm 400 mm 425 mm 450 mm 475 mm 500 mm 525 mm 水面下の サンプル 0 mm 25 mm 50 mm

図 2-5  汚染土壌粒子の研磨
図 2-7  ゲルマニウム半導体検出器
図 2-11  試料土壌の粒径ごとの比放射能
図 2-20  土壌粒子 No.13 断面の元素分布と X 線スペクトル  2-4-3  放射能分布と micro-PIXE による元素分布の関係  一次鉱物の結晶の大きなグラウンドの土壌粒子を用い、micro-PIXE て土壌粒子表面に存 在すると考えられる粘土鉱物の解析を試みた。樹脂包埋し研磨した土壌粒子の光学顕微鏡 写真を図 2-21 左側に示し、この土壌粒子の ARG 法で得た放射能の分布を図 2-21 右側に示 す。図 2-21 左側が示すように、この土壌粒子を含む樹脂の切断面の中央部は研磨によっ
+7

参照

関連したドキュメント

福島第一原子力発電所 b.放射性液体廃棄物の放出量(第2四半期) (単位:Bq)

機排水口の放出管理目標値を示す。 画においては1号機排水口~4号機排水口の放出管理目標値を設定していない。.. 福島第二原子力発電所 )

福島第一原子力発電所 性液体廃棄物の放出量(第1四半期) (単位:Bq)

・ 11 日 17:30 , FP ポンプ室にある FP 制御盤の故障表示灯が点灯しているこ とを確認した。 FP 制御盤で故障復帰ボタンを押したところ, DDFP

[r]

荷台へは養生がされて おり、扱いも慎重であっ た為、積込み時のポリ エチレン容器及びビ ニール袋の破損の可能

2020 年度柏崎刈羽原子力発電所及び 2021

当社は福島第一原子力発電所の設置の許可を得るために、 1966 年 7